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第520号 2001(H13).07発行

PDF版はこちら 第520号 2001(H13).07発行

 

 

丘陵地ダイコンの施肥合理化

福井県農業試験場 生産環境部
地力保全研究グループ
坂東 義仁

1.はじめに

 福井県の北部,石川県境近くの高台(坂井北部丘陵地)に約1,000haの畑作地があり,その400haにダイコンが作付けされている。

 この丘陵地に囲まれる北潟湖は三つの湖が連なり,その南湖は30年位前から湖水の富栄養化が進んでいる(T-N1~2ppm)。

 このため平成10年度から北部丘陵地域の水質保全と生産安定のため現地試験を実施したので,その中から被覆肥料等によるダイコンの全量基肥栽培の試験結果をここに抜粋した。なお,丘陵地の秋ダイコンの施肥慣行は,表1の基準に準じている。

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2.試験区の構成

 初年目(H.10)には,ロング424-70(以下L70)のみを用いて全量基肥試験を行ったが,初期の肥効がやや劣ったので,翌H.11年からは,Dd入燐硝安加里S602とロング424-40(L40)を窒素成分で等量混合し基肥時に一括施用した。

 H.12年は,さらにエコロング424-40(EL40:被覆膜が光分解性と生分解性する)を加えて試験を実施した。また,播種時期をずらして,被覆肥料の晩播適応性の試験も行った。

 なお,3ヵ年とも被覆肥料を用いた区には,減肥区(窒素を慣行施肥の80~75%)を設け施肥量削減の可能性を探った(表2)。

3.試験結果について

 ロング各区は,慣行区より全般に葉色が淡く推移したが,葉部や根部のボリュームは慣行区並~以上となり,初年目を除き収量も慣行区より多くなった。また,減肥区(慣行窒素の75%)でも,慣行区並の収量がえられた(表3)。

 土壌溶液中の硝酸態窒素(ポーラスカップ法)を追跡した結果,慣行追施体系が初期(ダイコンの小さい間)に高濃度の窒素が溶出し,追肥を行っても中期の濃度が低く推移するのに対し,全量基肥区の初期の硝酸態窒素濃度は慣行の約50~60%に抑えられたが,生育中期の濃度はわずかに高めに推移した(図1)。

 この時期は比較的降雨の多い時期にあたるため,上記のことが全量基肥区での増収や,減肥しても慣行施肥体系並みの収量を示す要因と考えられ,被覆肥料の特性が肥料の利用率向上に役立つていることを示唆する。

 一方,ロング40区とエコロング40区の生育や収量を対比すると,両区は,ほぼ同等の生育を示し,肥料の埋め込み試験による窒素溶出率測定からも両肥料はよく似た溶出パターンを示した(図2)。

 この結果より,エコロング424-40はロング424-40と比べてダイコンに与える影響およびその溶出特性はほとんど同じであると考えられた。

4.おわりに

 自然環境に良いことは判っていても,コストや労力面で不利な栽培体系は現場に定着しにくい。丘陵地のダイコン栽培で被覆肥料を活用したこの全量基肥施用体系は,追肥作業が省けることと肥料費も慣行施肥体系と大差ないことから定着の可能性は大きい。また,窒素で20~25%の減肥を行っても慣行体系と同等の収量が得られることから,環境保全面でも有利になる。

 通常に生育したダイコンの窒素吸収量が施肥量の約1/3に過ぎないことを考慮すると,被覆肥料の種類や速効性窒素成分との比率を変えることで更に減肥できる可能性があり,その上,前作(スイカ等)の残効も基肥として活用すれば,環境負荷がより軽減される。

 さらに各種の被覆肥料殻が圃場に残存する問題も,この試験に用いたエコロングのような環境分解型被覆肥料の開発によって,解決の方向にある。

(以上は,土壌保全対策事業の一環として実施の現地試験結果から抜粋したもので,主に元グループ員石川武之甫氏が担当した)

 

 

技術相談問答のよもやま話(2)

独立行政法人 農業技術研究機構
野菜茶業研究所 研究技術情報官
農学博士 中島 武彦

3.電子メールで見る質問者気質

 これまでに約1600件のQ&Aが収集され,年々増加していること,電子メールの比率が急速に高まったことはすでに述べた。次に,質問の発信地は表1のごとく最初の2年は関東地方が5割,中でも東京は4割を超えたが,電子メール時代の到来とともに関東地方は減少し,北日本(北海道・東北)や西日本(三重県を除く近畿以西)など遠隔地が多くなっている。言い換えると,関東発の電子メールが少ないことを示し,これはマスコミが報じるように中央ほどIT化が遅れていることと関係があるかも知れない。

 また,質問者の職業を見ると農家,会社員,主婦などの個人と市場関連が増加し,新聞やテレビ番組は平成10年を境に減少した。個人の多くは非農業であり,いずれもインターネット検索(ネットサーフィン)によって情報官のWebに到達し,質問文を送信している。

 電子メールは個人情報を知らせずに発信できるが,住所や職業がわからないと回答が難しい。例えば,北海道と九州は作型が異なる,非農業の質問者には園芸用語がわからないなどを考慮しなければならないからである。メールが少ない頃はログイン名を記し,それ以外は発信先不詳として処理していた。しかし,11年度には全体の3割に相当する158件を数えたため,12年度からは『○△様,技術相談に送信していただきありがとうございます。専門家に転送する前に誠に申しわけありませんが,ご職業(会社員・主婦等)・住所(県名)等をご面倒でも返信メールでお知らせください』と言うテンプレートを付けて返信することにした。

 また,返信と同時並行で情報提供者や専門書を通じて回答情報の作成も行っている。メールをたしなむ人の気質なのか,当方の返信を無視するケースもある。そのような場合は断固として回答は知らせないことにしたが,有用な質問は出所不詳のままWebのQ&Aに登録している。ただし,Webには個人情報を掲載しないので,どれが礼儀知らず?のメールか情報官以外は知る由もないが。

 質問内容を見るといずれの年次も野菜類が7割を超えている(図1)。それは野菜が健康維持に重要な食材である,家庭菜園として身近にある,米や畜産を抜いて農業部門のトップとなった,韓国や中国からの攻勢に喘いでいる,貝割れダイコン騒動に巻き込まれたなど話題豊富であることが関与しているのであろう。野菜の他に茶部門や花部門も増加しているが,これらは必ず情報提供者に任せるようにしている。

4.Q&Aを支える情報提供者

 学生時代に果樹を専攻し,卒論は柿の蔕であった。大学院ではリンゴやメロンの貯蔵法を研究した。北海道の道立試験場ではリンゴの栽培や育種を,農林省野菜試験場(昭和61年から野菜・茶業試験場)では野菜類の施設生産,露地栽培,養液栽培を担当した。中国やブラジル,オランダなど数カ国の野菜産地も見ている,この数年は情報研究を担当してコンピュータと友達になった。他にも様々な経験を積んでいるが,個人レベルでは情報収集に限度があり,全ての質問に自信のある回答は無理なので,質問をすばやく解決するために情報提供者制度を採用することにした。

 情報提供は野菜・茶業試験場(4月から野菜茶業研究所)の研究員ほかに大学教官や公立研究機関の研究員,種苗会社の専門家など40名ほどにお願いしている。世に博識な人は多いが,情報提供者は博識で,情報を快く提供してくださる人でなければならない。生き字引のWalking dictionaryから情報提供者をAutomatic open dictionariesと勝手に名付けている。Q&Aコーナーは優秀な情報提供者をいかに集めるかであり,機能さえすれば多くの情報が自動的に蓄積するであろう。

 約1600件の中で情報提供をしていただいたケースは4件に3件であるが,延べ人数は複数にお願いすることから1800人を超えた。情報官の勤務地(津市の近く)では直接会って情報が入手でき,遠隔地もメールによって比較的簡単に集められるようになった。遠隔地は4割強もあり,このことは電子メールや電話で膨大な情報が伝達され,情報提供者制度がいかんなく発揮されたことを示すと自画自賛している。

5.有機野菜や輸入野菜は安全か?

 有機野菜に関する質問も多い。「化学合成の農薬,化学肥料及び化学合成の土壌改良資材や除草剤を使わずに3年が経過し,天然に得られる堆肥などで土づくりを行った圃場において収穫した農産物を有機農産物,その野菜を有機野菜」と称している。これまでの野菜生産(通常野菜)は大量の堆肥と化学肥料を投入することが推奨されているが,わずかな化学肥料を投入したばかりに堆肥を投入しない過去の栽培法と同じ分類枠に入れられてしまった。巷では通常野菜が有機野菜より品質や安全性が劣っているように思われがちである。しかし,有機野菜は土で分解された養分を根から吸収しており,通常野菜の吸収と何ら変わることはなく,安全性や品質が優れるとは思われない。

 無農薬の水耕野菜は有機野菜,無農薬野菜や通常野菜より堆肥を使用しない分,安全性が優れると情報官は信じている。それは堆肥には規格がなく,重金属,医薬品,病原性大腸菌,回虫やA型肝炎菌などが混入することが無いとは言えないからである。さらに言えば,春に新芽が萌え出る果樹や茶樹は幹や根に栄養分を蓄積しているため,生育制御しやすいが,野菜は生育期間が短く,かつ栄養分の蓄積も無いために有機物の分解速度に頼ると必須元素が欠乏したり,過剰になったりして良品生産はおぼつかないであろう。なお,有機野菜は有機物から得られない微量要素は化学肥料を,虫害防除においては農薬登録をした天敵生物を使用しても良いことになっている。

 中国滞在中の1988年1月から上海でA型肝炎が大流行した。原因は揚子江流域にいるマオハン(毛蚶)と言う貝と断定し,当局はただちに搬入を禁じたが,2,3カ月は発病者の減少は認められなかった。後半はマオハンを食べなかった市民,市街地から農村部ヘ広がって行った。最終的には市民の5%,噂では8%の百万人(インターネット検索では30万人)が発病した。当時は野菜を下肥で育てており,その感染源となりうることは「ビニルと農園芸」誌の169号に報告した。

 この経験が基盤になっているわけではないが,海外野菜が安全と言う概念は持ち合わせてはいない。数年前にキャベツが不作で緊急輸入された時は購入しても絶対に生では食べさせないで欲しいと家族に頼んだりした。しかし,これまでに被害が出たと言う報告は無く,この冬も大手企業はキャベツなどを緊急輸入して平穏に過ぎている。ただ,一つ気になっているのはQ&Aに「ある地域でA型肝炎が発生したと言う情報を得たが,野菜類は感染源になるか?」と言う質問が保健所から舞い込んでいるからである。

 輸入業者からの質問は栽培条件や輸送条件が不明な場合が多い。「加熱したら異臭がしたが,これは何か?」とか「食べたら苦かった。成分は?」と言うクイズのような質問が多く,当方の実力が試されているかも知れない。異臭や苦味を問う前にどこで生産されたか,どんな栽培法か,収穫後はどのように輸送されたかは把握しておいてもらいたい。情報が少ないと「AまたはBかも知れない,Cの可能性も否定できない」と答えるしかないが,品質や安全性の向上に繋がれば幸いである。輸入野菜は恐ろしい。それは多湿の国内より適温で乾燥する海外のほうが格段に栽培しやすく,有機野菜や無農薬野菜が流入することもあり得るからである。

6.チョウ苦いメロン

 安全性に関する質問も急増している。その中で「メロンを食べたら舌の先が曲がるほど苦かった」を紹介したい。これは昨夏に東京の百貨店から寄せられ,顧客から『苦くなった理由をキチンと証明せよ』と詰め寄られて困っていると言うものであった。経過を尋ねたところ,以下のような説明があった。顧客は「2日前に購入し,その日の夕刻に4つに切り,その内の3個を3人で食べた。どれもとても美味しかったので,残りの1個を主人が食べたところ,口の中が突然に苦くなって思わず吐き出した。遅れて帰宅した主婦も少しかじって吐き出した。主人の舌先は痺れて夕食は味がわからず,翌朝になって痺れが治まっていた」と言う内容であった。

 関連情報はまったく無く,メロンや病虫害の専門家に問い合わせることにした。1週間ほどは何の応答もなかったが,10日ほど経って千葉大学院の田中晶子さんから貴重な情報が送られてきた。それによると「日本園芸研究所と千葉大学の病理研究室は,バラ色カビ病という病原菌が果皮から侵入すると苦味成分のククルビタシンが急増して患部付近から苦くなる,果皮の薄い品種を這い作りすると発生しやすいなどを見つけた」と言う。

 インターネット検索をすると島根県農業試験場にも関連情報が示されていた。上述の情報を百貨店の責任者に伝えたところ,苦情は無事に解決したとの礼状が送られてきた。後になって,この病害はトマトやブドウも侵す,メロンは果皮の薄い系統に集中し,輸送中に進展するが,病班は小さくて外見での診断が難しい,病班は果皮に留まって果肉には認められないなどの情報も得られている。この被害に似た質問は全国各地からも寄せられたため,Webに掲載するとともに産地の指導者にもその都度伝えた。このチョウ苦いメロンは産地での識別が難しく,流通機関で見逃すとこの夏も発生するであろう。

7.おわりに

 Q&Aを苦情処理に利用しようとする企業もあるが,問い合わせ(保存方法や輸送方法の失敗)には丁寧に説明している。多くは説明内容を最初は理解できず,そんなに知っているなら被害者に説明してほしいと頼まれたりする。中には診断書が欲しいと言うケースもあるが,当方の過ちではないので,診断書は出していない。その代わりに,当方がこれまでに入手したQ&A集の中からよく似た事例やインターネット検索で入手した情報を知らせるようにしている。農業関連のQ&Aは次々と質問が生まれるため,電子機器関連のように完成することはない。情報が集積するたびに「どこかに書いておかねば」と焦っていたところ本誌からお誘いがあり,一部が紹介できた。

 平成12年11月までのQ&A(技術相談問答集)は
<http://www.nivot.affrc.go.jp/anou/kiren/johokan/joho96.html>
で,問い合わせは電話(059-268-1331)とメール(johokan@nivot.affrc.go.jp)で受付けます。

 

 

我国の稲作施肥の変遷(3)
-明治後期~大正年間-

ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
管理本部 役員室
農学博士 関矢 信一郎

明治中期以降の技術普及

 明治以降,我国では人口の増加,米食の一般化などによって米殻が不足するようになり,明治30年代には米の輸入国となった。国内の水田は300haで,当時の土木技術ではこれ以上の開田は困難であった。当然,国内での反収増が期待された。

 前回紹介したように政府は明治36年,稲作督励事項14項目を各県農会に通達し,この技術の指導普及に努めた。技術は前回に述べた明治農法の体系化されたものとみることができる。当時,技術普及には巡査が当ったこともあって,強権的な傾向があったようである。

 ともあれ,明治15年以降停滞気味であった水稲の反収がこの通達以降急増したのは,この指導の成果とみることができよう。

 一方,明治32年の「農会法」の制定により,各地の農会が全国的な組織として整備された。その結果,在村の地主層が技術指導の一線から手を引くようになった。

明治後期の稲作施肥

 明治末期,各県は県内の稲作慣行を調査している。黒川氏のまとめた資料によって明治44年の水稲施肥慣行を見ることにする。

 当時使用されていた肥料を地域別にまとめ,表1に整理した。

 自給肥料としては堆肥は全ての地域で施用され,緑肥も殆んどの地域で使用されている。ただ,緑肥は東北,北陸など積雪地では湿田の多いためもあって欠く所がある。一方,明治中期では殆んどの所で施用されていた人糞尿や草木灰も地域が限られ,草肥も一部に残るだけとなった。

 一方,販売肥料では,大豆粕が全ての地域で使われ,魚肥も明治中期ほどではないが広く使用されている。大豆粕は日露戦争後,中国東北部からの輸入が急増し,明治36年魚肥の消費量を越えた。

 化学肥料としては,過石の他,硫安も使われるようになった。過石は国産が定着しているが,硫安は未だ輸入であった。

 以下,いくつかの県の施肥慣行を紹介する。

宮城

 苗代-全国的に改良苗代が普及しているが,東北地方にはかなりの地帯で通し面代が残っている。通し苗代では秋に山草や柴を入れるか春に堆肥を入れる。普通苗代では特に堆肥などの有機物は入れていない。肥料は坪当り下肥500匁,草木灰200匁で,場合によっては過石,硫安も使われる。

 本田-反当り堆厩肥200貫と下肥(人糞尿)12~40貫程度が多く,販売肥料としては大豆粕,魚肥が使われている。

栃木

 苗代-坪当り堆肥300匁,過石30~50匁,鰛粕60~100匁,下肥3升,木灰5~10合。ほかに大豆粕などが使われるが,地帯間の差が大きい。

 本田-堆厩肥は反当り500~700貫,更にレンゲを鋤き込むものも2割程度ある。販売肥料としては,大豆粕,鰛粕,過石,トーマス燐肥,配合などである。50貫程度の石灰が施用される場合もある。硫安は元肥と追肥に用いられている。

新潟

 苗代-県北の一部に通し苗代が残るが,他は普通苗代である。坪当り下肥2貫,過石30匁,わら灰150匁がほぼ標準,一部に配合肥料や硫安も使われている。

 本田-ほぼ8割の水田で堆肥200貫,下肥10荷が使われ,販売肥料としては大豆粕も広く施用されている。また,菜種粕,硫安,鰛粕・鰊粕なども使われている。

愛知

 苗代-鰊粕,大豆粕,綿実粕,硫安。鰊粕は坪3~5合,わら灰2~3升,過石1升。

 本田-大豆粕20貫のほか鰊粕,綿実油,硫安,堆肥,一部では野草。大豆粕等は全量元肥,魚肥は二回分肥,硫安や配合肥料は数回の分施である。

広島

 苗代-堆肥(または山野草)5~600匁,下肥1貫,焼土または木灰100匁,魚肥又は配合肥料50~60匁。

 本田-堆肥200~300貫,レンゲ(約2割)400貫,山草,販売肥料としては,鰊粕,大豆粕,過石が多く,ほかに菜種粕,硫安,配合肥料等。

福岡

 苗代-堆肥1貫,下肥1貫,油粕30~50匁,過石10~20匁,木灰20~30匁。

 本田-青刈大豆150貫,堆肥100~300貫,大豆粕が多く,菜種粕,魚粕,米糠,過石等の人造肥料も使われていた。

大正期の施肥

 大正年間の稲作施肥慣行の全国的な資料が入手できなかったので,大正末期の各地農試の施肥標準を表2にまとめた。これは農家慣行の実態に近いものと考えられる。

 これを表1と対比し,第一次大戦を含む10余年の変化を見ることとする。

 まず,共通している点は,堆肥と大豆粕はほとんどの地域で依然施用されており,過石も広く使われている。

 次に変った点としては,
①緑肥が減っている。これは乾田が増加し,二毛作田が広がったことによると考えられる。
②人糞尿が減った。関東の一部で使われているのは,表1の場合に比べ調査地点が増えたためと思われる。
③草木灰の使用が四国を除き増えているのは,②と同じ理由と思われる。
④米糠と土肥が消えている。
⑤大豆粕が定着し,その他の油粕は菜種・綿実粕が中心となった。
⑥魚肥類が減った。これは大豆粕との交替で,明治の魚粕に対し,大正は大豆粕の時代とされている。
⑦硫安が増え,硫加も使われ始めた。双方共輸入で,成分当りでは粕類や木灰より高価である。硫安は追肥に使われている。
⑧配合肥料がないのは,試験場の標準のためと思われる。
⑨石灰も地域がずれているものの,未だ施用されている。

 表1では各要素の成分量が算出できなかったが,明治30年代の農試の施肥標準(前回 表5)に比べ,窒素で4~5割,燐酸で5~8割,加里で2~9割の増となっている。これは収量増を上まわるもので,この時代を通じても多肥化が進んでいることを示している。

肥料費

 我国農業の特徴の一つに多肥があげられている。これが明治農法の中に位置付けられているのはすでに述べた。その結果,生産費の中での肥料費の占める割合は高く,営農上の問題であり続けた。

 明治30年代から収量は増加したが,明治・大正を通じ米価は作柄や経済状況によって激しく変動した。一方,肥料の価格も漁況や原料の作柄,更には輸入先の事情に支配されて不安定であった。両者はそれぞれ別の動きをしたので農家経済における肥料代の割合は年によって異なる。

 以下いくつかの事例を紹介する。

 明治10年代の半頃では農家総支出中,肥料代と手間代は6~8割と推定され,この約半分が肥料代とすれば3~4割となる。

 明治中期の肥料費の例を黒川氏の収集した資料の中からいくつかを表3に示した。

 この時期は購売肥料として魚肥の使用が増えつつあり,肥料費もこれに伴なって高くなっている。また自給肥料の割合の多い所は肥料費も低い。全体としては生産費の2~5割で,相当高いとみるべきであろう。

 すでに述べた明治36年の通達の中では,上述の背景に加え日露戦争による大陸からの大豆粕の供給減を見越して自給肥料の増産と品質の向上が強調されている。

 明治44年の施肥慣行調査の資料からいくつかの県の購売肥料費を表4に示した。これは全肥料費のほぼ半分と推定される。

 明治中期に比べ著しく増加しているが,西南日本,特に近畿地域で高くなっている。一石あたりでみると,宮城で0.6~1.2円,栃木で1~2円,京都では高く2.0~2.3円となる。

 大正期は大豆粕の比率が高まり,肥料費は増加し,特に大戦中では販売肥料の価格は倍増した。

 昭和初年,肥料費は農家支出の12~19%,生産的支出の18~25%とされている。

乾田馬耕

 明治農法が多収→多肥→深耕(馬耕)→乾田の方向であったことは既に述べた。この乾田化と馬耕の進捗について表5にまとめた。ここでは,麦又は菜種の作付可能田を乾田とし,畜耕は乾田と半湿田で行なわれたとしたものである。

 これによると東北地方は殆んどが湿田のまま,3分の1程度が畜耕可能な半湿田と推定される。一方,東海,中国,四国地方では50%以上の乾田で,殆んどで畜耕が行なわれている。

 全国の平均は二毛作30%,畜耕は58%で,概して西高東低とみることができる。これは大まかには施肥量の増加と符合している。

 

 

栄養診断に基づいたトマト・メロンの養液土耕栽培

愛知県農業総合試験場
豊橋農業技術センター 畑地土壌研究室
室長 山田良三

1.はじめに

 養液土耕栽培は装置が比較的簡単で安価であることや施肥とかん水が自由に調節できることなどから施設果菜類や花きで導入されつつある。本県においてもトマト(メロン)及びキクを中心に約1,300a(平成12年2月現在)の導入面積1)があり,今後も増加傾向にある。しかし,現状は,装置の導入が先行して養液管理技術が伴わない農家が多い。そのため,各作物の栽培型や土壌養分に対応した管理指針の作成が緊急に求められている。

 養液土耕栽培は作物が生長する過程で必要な肥料成分や水を必要量だけ供給する栽培システムである。特徴として培地に土壌を利用するため,水耕やロックウール耕のように均質ではなく養分含量の多いもの,少ないもの,腐植含量の多少あるいは土性が粘質なものから砂まで等様々である。このようにベースになる土壌が栽培農家によってそれぞれ違っていることが,一定の養液管理ではうまくいかない大きな原因になっている。本来,養液土耕栽培の利点は土壌が持つ機能を最大限に利用して,必要成分のみを必要量だけ供給することにあると考えられるが,土壌からの養分を考慮しないため却って失敗する例も多い。

 ここでは,トマト,メロンについて生育段階ごとに作物の栄養状態に最も関係の深い葉柄汁液中の硝酸濃度をリアルタイムに測定し,その結果に基づいて養液管理を行い生育をコントロールする栽培事例を紹介する。

2.窒素の栄養診断

 作物体の栄養状態を知る方法としては葉色を観察することが一般的であるが,葉色は養分吸収と同化作用の結果であり,その時点での栄養状態を表わしてはいない。施設果菜類は収穫期間が長いものが多く,草勢の維持と果実の肥大を同時に進行させる必要がある。そして生育期間中における作物の栄養状態をリアルタイムに知ることができれば適切な養分管理に役立たせることができる。

 栄養状態を知る指標は窒素が最も適しており,畑作物では,施肥した窒素の大部分が硝酸イオンの形で根から吸収され茎を通って葉に移行するので,導管内の硝酸イオン濃度を測定すれば栄養状態を正確に把握できる。葉は光合成を行う場所で,吸収した硝酸を速やかに亜硝酸に還元したり,クロロフィル(硝酸試験紙の発色を妨害する)含量が多いことや汁液が少ないことなどから硝酸濃度の測定には葉柄を用いるのが適している。以下に葉柄汁液の採取部位,時間及び施肥した窒素成分の体内移行等,栄養診断のための診断法及び測定条件を記す。

(1)採取部位

 トマトでは果実がピンポン玉の大きさで肥大が旺盛な果実直下の葉で,かつ中位にある小葉の葉柄を用いる。各果房毎の硝酸イオン濃度は,下段の葉柄汁液ほど高濃度で,上段果房になるにしたがって低濃度になる。しかし,肥大期の果房(果実径2~4cm)直下の葉柄では,果房への硝酸イオン(同化産物)の移行が根茎からの吸収量より多くなるため低濃度になる(図1)。このことから,栄養診断にはこの部位の硝酸イオン濃度を基準濃度に維持することが重要と考えられる。

 メロンでは葉柄採取部位による汁液中の硝酸濃度は,果実肥大初期に果実直下の葉柄が最も高くなり,成熟期では上下位葉に比較して低くなることから,この部位が栄養診断に適していると判断した(図2)。なお,メロンは葉数が少ないため葉の代わりに,摘果枝を数本残しておき,その葉の葉柄を用いても硝酸はほぼ同濃度である。

(2)硝酸濃度の測定

 硝酸イオン濃度の測定はトマトでは6~8本の葉柄を採取して裁断し,1g相当を乳鉢に入れ,10mlの蒸留水を加えてよくすりつぶし,さらに10mlの蒸留水を加えた20倍希釈液を用いる。硝酸濃度が低ければ10倍希釈液を用いてもよい。また,メロンのように葉柄の柔らかいものではにんにく絞り器やペンチを用いても簡単に汁液が採取できる。

 RQフレックスシステムの測定方法は,10~20倍に希釈した汁液に硝酸試験紙を2秒間浸し,1分後に試験紙の発色を小型光度計で読み取るもので,測定結果は画面に表示され,その精度は簡易栄養診断に十分使用できる。

(3)栄養診断基準(土耕栽培)

 トマト,メロンの診断基準値2,3,4)を下記に示したが,地域により栽培方法や環境条件が異なるので,各産地に合った基準値を作成するための目安として活用していただきたい。

 メロンでは最も養分吸収が盛んになる果実肥大期に診断基準値(4,000~5,000ppm)を確保すること及び収穫時の硝酸濃度を1,000ppm前後に下げるのがポイントになるので,測定は開花期から各生育ステージ毎に行うことが望ましい。

3.養液土耕栽培事例

(1)トマト

(試験方法)

 表1に示すように所定量の硝酸アンモニウム及び硝酸加里を100Lタンクの水に溶かして窒素100~200ppm養液を作り,ドリップチューブで100~200ml/株/日を午前9時に1回施用する区と肥効調節型肥料(ロング40+70)を所定量100Lのタンクに入れて,同様に100~200ml/株/日施用する区を設けた。かん水は深さ15cmにセンサー付きポーラスカップを埋設して,pF2.2~2.4に設定し(午前10時,午後2時に1回)必要量を電磁弁,タイマー接続により自動かん水した(雨天等でかん水が必要なければキャンセルする)。別に標準区として土耕栽培にロング70を用いる区を設け,かん水のみ同様に行った。

 栽培は9月初旬に定植(品種:桃太郎ヨーク,86穴セルトレイを用いて1穴当たりマイクロロングトータル40日夕イプを100mg施用して25日間生育した稚苗)した。活着後,経時的に所定位置の葉柄を採取して汁液中の硝酸濃度を測定した。また,生育,収量には好適な受光体勢が重要な要素と考えられるので明,暗条件下での葉柄汁液中硝酸濃度と同化過程で作用する硝酸還元酵素の活性5)との関係を調査した。

(試験結果)
硝酸汁液濃度

 図3に示すように葉柄汁液中の硝酸濃度は養液土耕区では生育が旺盛になる10月中旬に入ると土耕区(標準)より急激な硝酸濃度の低下が起こり,3段目果房の開花期に最も低下した。稚苗定植のため初期生育を抑える必要から養液量を控えたことが原因であるが,ロング40と70を併用した養液土耕②では着果負担が少なくなる後半からは1,000ppm程度にまで回復した。しかし養液土耕①では窒素不足により生殖生長に傾いたため養液供給量を多くしても回復せず硝酸濃度は低いまま推移した。

 一方,土耕区①②では生育初期から3,000~4,000程の高濃度で推移し,収穫期に入ると急激に低下するものの着果負担が軽減する収穫中期からは1,000~3,000ppmの範囲で推移した。しかし,施肥量の多い土耕区③では収穫期に入ってもそれ程硝酸濃度の低下は起こらず(700ppm),後半は500~1,000ppmと比較的低濃度で推移した。生育前半の窒素吸収が多く,やや窒素過多の草勢になったのが原因と考えられる。

収量

 収量は土耕区では28.4~32.7kg/10株で施肥量が多いほど収量は多くなるが可販果率,秀品率はやや低くなる傾向が認められた。養液土耕区①の収量は29.9kg/10株で土耕区②程度であったが,養液土耕民②は35.9kg/10株と最も高収量で可販果率,秀品率とも高かった(表2)。このことから着果負担時に葉柄汁液の硝酸濃度を極端に低下させないことや,生育前半に窒素過多の草勢にしないことが重要と示唆された。

硝酸還元酵素活性

 表3に示すように葉の硝酸還元酵素活性6)は光条件下で着果部は23.3,肥大果部は110.2,収穫果部位は41.1μM/mini/gであった。各部位の硝酸濃度は2170,1820,3570ppmと活性の高い肥大果部が低くなる傾向が認められた。これに対して遮光条件下では部位による差は殆ど認められなかった。このことは草姿を良好な受光体勢に維持していくことが硝酸還元酵素活性を高め,硝酸同化をスムーズに進行させるものと判断された。

(2)メロン

 メロンではその品質(糖度,ネット等)が最も重要視され,かん水及び適正な施肥に栽培管理の重点がおかれている。施設栽培のように土壌養分が過剰なところでは施肥に対する反応が異なるため,養分に対応した施肥が必要になる。そこで,高品質・高収量を得るための最適な窒素レベル及び施肥方法並びに培地となる土壌養分の違いが収量に及ぼす影響を調査した。

栽培試験1

 窒素レベルを1株当たり無機質土壌では5~9g,有機質土壌では3~9gの範囲でメロン(F1アールス夏系15号)を栽培する区を設けた。

栽培試験2

 肥料の種類を有機質肥料及び緩効性肥料(ロング70)を用いる土耕区と養液窒素レベルを100ppmにして100~200ml/株/日施用する養液土耕区を設けた。

 苗は50穴セルトレイを用いて1穴当たりマイクロロングトータル(40日タイプ)を50mg施用して30日間育成したものを定植した。は種は3月中旬,定植は4月中旬,収穫は7月初旬である。

(試験結果)
硝酸汁液濃度

 生育期間中における葉柄汁液中の硝酸濃度は,施肥窒素レベルに対応した推移が認められる。無機質土壌での少肥区(N-5)を除いて,中,多肥区とも活着後から硝酸濃度はしだいに上昇し,果実肥大期に無機土壌区では3,000~4,500ppm,有機質土壌では4,000~6,000ppmにまで上昇する。その後ネット形成,成熟期と進むに従って低下するが,施肥窒素が少ないほどその傾向が顕著である(図4)。

収量

 施肥窒素レベルを変えた試験1の果実重量は無機質土壌では株当たり窒素施用7.0gが最も重く,5.0g,9.0gではやや減少した。一方,有機質土壌では株当たり窒素3.0~7.0g施用の範囲ではほぼ同重量であるが,施肥量が9.0gと多くなるとやや減少し,糖度も低くなる傾向であった(表4)。

 試験2では有機質肥料区(1.48kg/個)に対してロング70を用いた土耕区は1.41kg,養液土耕区は1.51kgであった。養液土耕区はネットに関してはやや有機質肥料区に劣るものの糖度,アスコルビン酸含量では同程であった。

 以上のように診断基準を指標にした施肥法では,生育コントロールが容易な養液土耕区は少ない施肥量で最も良い収量が得られたが,さらに最適な日毎の窒素施用量等の改善が必要である。

参考文献

1)環境負荷低減のための作物栽培技術-養液土耕栽培法の理論と実際-(2000),平成12年度関東東海農業土壌肥料研究会資料,農業研究センター,63-64

2)山田良三・加藤俊博ら(1995),リアルタイム土壌・栄養診断に基づくトマトの効率的肥培管理(第1報)葉柄汁液の硝酸濃度に基づく診断基準の作成,愛知農総試研報27,205-211

3)山田良三・加藤俊博ら(1996),リアルタイム土壌・栄養診断に基づくトマトの効率的肥培管理(第2報)持続的生産のための施肥管理技術,愛知農総試研報28,133-140

4)山田良三・深谷雅博(1999),葉柄汁液の硝酸濃度を用いた夏作メロンの栄養診断基準,平成11年度研究成果情報,関東東海農業(生産環境),380-381

5)植物栄養実験法編集委員会編(1990),植物栄養実験法,博友社,256-259

6)山田良三(2000),養液土耕栽培における施設トマトの葉柄汁液硝酸濃度及び硝酸酵素活性,日本土壌肥料学会中部支部講演要旨集,6-7