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第482号 1998(H10).03発行

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「苗箱全量基肥施肥栽培」

山形県寒河江農業改良普及センター
技術普及課
専門改良普及員 工藤 篤

はじめに

 山形県の内陸部に位置する寒河江市を中心とした西村山地域は,全国一の生産を誇る「おうとう」をはじめ,「リンゴ」,「洋なし(ラ.フランス)」等の果樹園芸複合経営地帯である。さらに,転作作物として野菜,花き等の導入もあり農家の労働時間は過剰傾向にある。このような状況のなかでできる限り稲作部門の労力を軽減し,その結果生じた余剰労力を他作物部門で活用できるような省力稲作技術の体系化が望まれていた。稲作の究極の省力化方策として直播栽培があるものの収量の面で移植並の量を確保するのは難しい。そこで,緩効性肥料の「苗箱まかせNK-301」を活用した省力栽培に取り組んだ。

1.苗箱全量基肥施肥栽培とは何か

 苗箱全量基肥施肥栽培は,育苗時の追肥及び本田で使用する肥料(基肥・追肥)を全量初めから育苗箱に入れて育苗し,移植時に,本田に苗と共に肥料を持ち込むことにより基肥散布労力,追肥散布労力を省略できる省力技術である。施肥に当たっては,ミキサ一等による床土混和でもよいが,この場合は,苗箱まかせの被覆膜を傷つけないように注意する(肥料の被覆膜に傷がつくと生育前半での肥料の溶出が多くなる)。

 なお,今回苗箱施肥にあたっては,S社の「苗箱施肥土入れ機」による層状施肥とした(写真1,図1)。作業の流れを慣行栽培と比較してみると,図2のような体系となる。

2.育苗箱施用における育苗のポイント

 苗箱に入る被覆肥料の量は,1箱当たり現物重で860g(1箱当たり窒素成分で258g,10a当たり24箱使用し,窒素成分で6.2kg投入)と容量が多い。このため,箱周辺が乾燥気味に経過するため水管理に注意する。なお,保水力を確保するため,市販のV床土(ピートモス+バーミキュライト)等保水力の高い資材を育苗箱容量の30%程度混合することによって,改善することができる。また,この肥料成分であるLPSは,理論上施肥後30日間は溶出が極少であり,育苗期間中の溶出は2~3%で,育苗の追肥も省略できる。

3.苗箱全量基肥施肥栽培における生育の安定化

1)初期分げつ安定確保のための適正な補完施肥法の検討

 「苗箱まかせNK301」は,シグモイドタイプの肥効特性を示すことから,育苗期間や活着期から分げつ期間の肥料溶出が少ない。このため慣行栽培(全層施肥+追肥)に比較し,地力の低い地帯等では6月の生育量が不足する。当地のような寒冷地稲作地帯では,初期生育の安定確保が稲作の前提であるため,育苗箱施用+速効性肥料(窒素成分で2kg/10a)を本田で全層する体系とした方が良い。そこで現地(寒河江市平坦部細粒灰色低地土)において,省力性を損なわずに生育の安定確保を図るため,側条施肥との組合わせ体系を検討した。

 その施肥設計内容は,「苗箱まかせNK301」による本田への窒素投入量を10アール当たり一律6.2kgとし,スーパー液肥を使用した側条施肥を3段階で検討した。その内容は,多肥区3.6kg,標肥区2.4kg,少肥区1.2kgとし検討した(表1区の構成)。

 5月22日に移植を実施したが,苗は,慣行栽培並の充実した苗に仕上がった(写真2,表2)。

2)生育経過の特徴

 本田での生育経過は,分げつ中期(6月20日調査)では,慣行区に比較し,多肥区・標準区で草丈が長く,茎数もやや多めで,葉色はほぼ慣行同程度で推移した。少肥区は葉色がやや淡く,生育量がやや少な目であった。最高分げつ期(7月10日)では,多肥区の生育量が大きく,葉色も濃かった。一方,標準区・少肥区は生育量,葉色ともに慣行と同程度となった。本年の一般圃の生育は,草丈が長く,茎数が少ない「長草少けつ型」であったが,展示各区とも成熟期の穂数は栽培指針の480本以上を確保し,また,全区とも分げつ後期から幼穂形成期の葉色の極端な低下等見られず,十分な生育量を確保することができた。

4.収量・品質・食味の結果

 この結果については,表4に示したように,精玄米重は,3区とも大きな差異はなく,10アール当たり560~570kgとなった。しかし,質的な面をみると,多肥区では,精玄米粒数歩合(1.9mm以上の粒数割合)が低下し,良質粒歩合も低い。更に,精米タンパク質含有率も高くなった。一方,標準区・少肥区は精玄米粒数歩合,良質粒歩合共に多肥区より高く,また,精米タンパク質含有率も0.3~0.4%低かった。

 これらのことから,苗箱まかせと側条施肥との体系では,側条施肥で窒素成分で10アール当たり2kg程度施用することにより,品質・食味を確保しながら,より安定的に省力栽培ができることが実証された。

5.省力稲作技術体系の組立て

 この技術の特徴は,①基肥散布の必要がないので,春作業の計画が組みやすい。②基肥・追肥散布労力の省力化が図れ,余剰労力を他作物の栽培管理等で活用できる。③窒素の利用効率が高く(利用率72%,山形農試),環境に対する負荷が少ない等がある。

 しかし,省力性の点については,実際のところ稲作労働時間に占める基肥・追肥散布の労力は6%程度にすぎない(表5)。稲作全体としての労力軽減を図るためには,「苗箱まかせ」による省力施肥法を中心としつつ,これまでに開発された稲作作業個別の省力技術(無加温育苗,高速田植機の活用,フロアブル剤・ジャンボ剤等による省力雑草防除,自動潅水装置による水管理等)を集積した省力技術集積体系を組立てることにより,一層の省力化を図ることが可能となる。

 

 

あおもりながいもの新品種
「ガンクミジカ太正」

JA青森経済連農産指導部園芸課
技術主管 八木橋 洋二

1.はじめに

 青森県におけるながいも栽培の歴史は必らずしも明らかでないが,藩政時代の古くから県南三戸地域の中心部馬渕川流域,現在の南部町,名川町界隈がそもそもの元祖,発祥の地とされている。

 また,津軽地方では南津軽郡の岩木川,浅瀬川,平川の三大河川合流地帯と何れも沖積砂壌土の耕土の深い肥沃な地域に良質のながいもが生産されていた。

 なかでも,南部藩においては藩主南部公が特別な保護奨励を行い,「いも庄屋」なるものを置き幕府に御用いもとして献納されてきたと伝えられている。

 また,有名な佐藤信淵の草木六部耕種法には,「南部領の畑は,イモを作るに最上応合の地なり,ここに出来るイモは天下第1位上品である。南部28ケ村は皆イモを以って豊饒を致し千金の家少なからず……」とあり。南部駒とともに南部領を代表する2大産物であったものと思われる。

 このことは真に適地適作の然らしむるところであり,現在全国第1位のながいも産地として発展し続けているゆえんであろうと考えを深くしている。

2.あおもりながいもの全国的な位置づけ

 あおもりながいもの生産は昭和35年以降県南地方のひえ,むぎ,だいず等の畑作物の衰退とともに野菜作への切り替えが進む中でトレンチャーの開発,導入によって植溝と収穫の掘り取りが実用化され作業能率の向上が図られ作付面積が拡大できたことにより急速に栽培面積が増加し始め,昭和37年当時は全国第10位の生産量であったものが,その後さらに伸びを示して参り昭和49年には栽培面積914ha,生産量22,000トンと長野県を抜いて全国一の産地となり,それ以降も「表1」にみるとおり面積及び数量とも他県を大きく引き離し青森県の特産野菜として伸展し耕種部門の中では米,りんごに次ぐ重要な作目に位置づけられている(表2)。

 しかし,これまでのながいも栽培・生産面において,長年連作を続けてきたことにより昭和50年半ば頃から腐敗を伴う土壌病害が発生し始め,それまで,いもの肌の白さ,形状の良さが高く評価されていたあおもりながいもが年を重ねるにつれて,いもの形状が全体に長めとなりボリューム感に欠けてきた,また,表3にみるように,昭和55年以降最近になって上物のA品率が全体の50%を下回っている状況にあり形状及び品質等が落ち込んできている。

 また,一方販売面では市場・消費者のニーズは昭和60年代までは消費地によって多少の違いはあるが3~4L(1,200~1,500g)の大きいいもの切売りが販売の主体となっていたものが,近年スーパ一等,売り手側の切売りに伴う労力と経費が嵩むほか核家族化及び少子化とが相俟って,量販店及び消費者ニーズは手間がかからず買いやすい小・中サイズの600~1,000gの大きさへと移行,変化してきている。

3.ガンクミジカ太正の発掘

 本県産ながいもは,米作ほどではないにしても天候による作柄の変動がみられるほか連作障害等による単収及び品質低下が問題視されてきた。

 このため,その対策の一環として県及び経済連等関係機関・団体が一体となり,ながいも栽培優良事例調査や優良系統種苗の発掘など生産対策の検討を進めながら平成3年以降,ながいもの良品多収栽培技術の改善,研究に取組みを実してきた過程の中で,十和田市のながいも栽培篤農家であるY氏が育成増殖している優良形状のながいもに着目し関係者が現行の在来種に代替えし得る優良種苗として判断し,育成者及びJA十和田市,JA青森経済連の三者間で「優良種苗取扱いに関する契約」を締結してJA青森経済連の系統独自銘柄品種として採用したものである。

 本種苗は育成者のもとで種苗登録申請を行い,平成7年6月に品種登録証の交付を得てJA青森経済連が主体となって本種苗の供給と良品多収技術の確立を図るため平成5年度から県下主要JA管内に試験ほを設置して栽培技術の向上に取り組んでいるところである。

4.ガンクミジカ太正の特性

 本品種の生れについては,十和田市のY氏が在来七戸系統の中からさらにガンクが短かく形状の優れた突然変異を発見し,それを切片繁殖により増殖を繰り返し16年余をかけて作り上げた品種である。

 このながいもの主なる特性を簡単に申し上げると
(1)いもの形状は従来の在来種に比べると,太くて短かい……ボリューム感がある。

(2)食味は,在来種に比べ多少粘りが少なめであるが甘味がやや優り歯ざわりがよく喉ごしが良い。
(3)芋の肌色及び肉色は在来種と変りない。
(4)品質及び収量性は在来額に比べて曲がりいもや平いもの発生が少ないのでA品率が高い,また肥大性が良いので収量が安定している。
(5)地上部の茎葉の繁茂及び耐病性等は在来種と変りないが,地下部のいもの太り始めはやや晩めであるが9月中旬以降の肥大は急激に進み肥大盛期の窒素吸収量が多い。
(6)芋長が全体に短いため,掘り取り作業が楽である。また高速機械洗浄の場合でも作業適応性が高い。
(7)やせ地及び粘質土壌,ゴロタ層の畑では在来種より奇形いも(芋尻部のリング,座り芋等)の発生が多く出る傾向がみられる。

5.これまで取り組んできた試験課題とその成果

 本品種は先きに述べたように長所もあるが多少の欠点もあり従来の在来種に馴れてきた栽培技術と画ーに出来ない面もでてきたため,主要な課題の試験結果について概要を簡単に紹介する。

(1)良質安定生産の栽培密度(株間)に関する試験

①ねらい

 現行の21~24cmの株間だと3L(1,200g)以上といもが大きくなり売れづらくなるため,消費者ニーズに合った買い易い大きさのL~2Lのいもを生産するための適正な株間を検討した結果,慣行の21~24cmを密植することが必要となった。

②得られた成果と栽培基準

(2)良質安定生産の施肥試験

①ねらい

 収量の安定と品質向上を図るため基肥窒素量の検討を行い施肥基準を確立する。

② 得られた成果と栽培基準

 在来種の現行施肥基準量を施用して検討してきた結果特に窒素施用量が少ない場合収量,品質においてふれが多く不安定であったため,試験を続けて検討してきた結果,次のように基準を定めた。

(3)肥効調節型の専用銘柄肥料の開発と施肥の省力化について

①ねらい

 良品多収生産に向けた有機入り肥効調節型肥料の専用銘柄の開発と併せて追肥の省力化を検討した。

②得られた成果と施肥基準

 平成5年度以降,チッソ旭肥料(株)ロングM-70とC社のM-80日夕イプの有機入り緩効性肥料の2銘柄を主体に基肥量並びに追肥量,時期等について継続し検討した結果,全量基肥一発の場合は収量,品質面において成績が劣り実用性が低いと考えられた。

 また,年次の天候によって茎部繁茂,生育量のちがいと肥料の溶出及び吸収量にも相異がみられるが,本ながいもの肥大曲線と窒素の吸収パターンからみて前年及び本年の試験成績(表4)にみるとおり基準施肥区と比較して1本当たり重量及び単収,A品率,L-2L規格の生産割合等が総合的に上回っていること,また1回追肥で省力的であること等を踏まえて本ながいもの専用銘柄肥料として試験の設計基準をもとに今後積極的に普及推進を図っていく必要がある。

設計基準

①供試品種 ガンクミジカ太正
②種いも  1年子80~120g(頂芽切除して植付け)
③栽植距離 畦幅 110~120cm(設置場所の慣行),株間 15cm
④施肥量(kg/10a)
 ア 土壌改良資材 pH6.0~6.5・有効態燐酸30~50mg・堆肥2~3t・ナチュラルパワー300kg
 イ 基肥
   基準区 N:P:K=15:30:15 萌芽期にNNトリオやさいS020を施用
   タイショウ区 N:P:K=25:35:25 萌芽期にタイショウを施用
 ウ 追肥
   基準区 N:P:K=18:4.8:18
   タイショウ区 N:P:K=6:1.6:6

試験区の構成

6.おわりに

 本ながいもは,これまでの在来種に比べて,平いもができにくい,多収性でA品率の生産が多い,また掘り取りや高速機械洗浄作業の適応性が高いなどの利点を生かしながら,消費者ニーズに合った2L・L規格の生産を主体において,単収4t,A品率50%以上を目標とし,栽培共販面積の拡大を図るとともに,消費面においては,栄養的には,ながいもの粘質物はミウシンといわれるたん白質と糖との結合物で,人間の発育期には不可欠なアルギニン等も含まれている。植物性のたん白が摂取できる点では,他の野菜では遠く及ばない,また,ながいもは滋養強壮,強精剤,いわゆるスタミナ野菜である。

 これまで,ながいもの一般的なたべ方として,すりいもやトロロ,山かけ等の料理が多い傾向がみられてきたが,最近は若者向きに好まれるものとして,サラダ風にしたり,にぎり寿しのネタや揚げ物等々幅広い料理が沢山開発されておりますので,これらを含めての消費宣伝も力を入れながら今後とも日本ーを誇るながいも産地を維持発展させていきたいと考えている。