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第463号 1996(H8).07発行

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全量基肥施肥栽培によるコシヒカリ
のための生育診断基準

富山県農業技術センター
農業試験場
研究員 稲原 誠

1.はじめに

 富山県には急流河川が多く,その扇状地上に粗粒質乾田が広く分布している。このようなタイプの水田では,一般に窒素肥沃度が低く,保肥力も小さい。このため,コシヒカリ栽培の実際場面では,基肥施用後3~4回もの追肥が行われ,合計10kgN/10aを超える多量の窒素が施用されてきた。

 一方,水稲の生産構造面では,第二種兼業農家の比率が90%以上と高く,生産者が高齢化しているといった特徴があることから,きめ細かな施肥管理は次第に困難になりつつある。こうした変化に対応するために,省力的な施肥技術として肥効調節型肥料を利用した全量基肥施肥法が確立され,現在,普及段階に入っている。

 しかし,普及場面では,生産者が,気象の年次変動に対しても安定した効果を示す適正な窒素施用量を見極めるまでに2~3年の期間を要しているのが現状である。その理由として,全量基肥施肥法による場合,施肥窒素の肥効パターンが慣行施肥法と異なるため,水稲の生育様相(葉色の推移)が変化することがあげられる。また,生産目標が量から質へと転換するのにともない,生産現場の生育診断基準が混乱していることも原因となっている。以上のことから,収量と玄米品質の両立を目標とした生育診断指標の作成と施肥量が不適切と判断された場合の対応策が必要になってきている。

 そこで筆者は,粗粒質乾田において全量基肥施肥法により栽培されるコシヒカリのための生育診断技術の開発を試みている。ここでは,平成7年度の試験結果を紹介しながら,生育診断指標を作成するための考え方について述べることにする。

2.全量基肥施肥法による葉色の推移の特徴

 慣行施肥法で栽培されるコシヒカリの生育診断は,葉色や茎数を中心とした外部形態を指標としている。このうち葉色について全量基肥施肥法と慣行施肥法をともに適正な窒素施肥水準で比較した結果を第1図に示した。

 これより水稲の後半の生育を適正に誘導するための重要な診断時期である最高分げつ期から幼穂形成期頃にかけての葉色が,全量基肥施肥法で,慣行施肥法に比べかなり濃く推移する特徴が認められた。これは,籾数の安定確保を目標に,肥効調節型肥料(LP40,LPSS100)により少量の窒素を連続的に供給させているためである。

 このように,葉色の推移が大きく異なるため,従来の慣行施肥法を前提とした生育診断技術を全量基肥施肥法にあてはめることは困難であり,新しい診断基準が必要となる。

3.全量基肥施肥法のための葉色を中心とした診断基準の作成

 生育診断に基づき倒伏を回避し,収量と玄米品質を向上させるためには,これらの項目と生育途中の水稲形態の関係を明らかにし,予測精度の高い診断指標を作成する必要がある。ここでは,幼穂形成期におけるコシヒカリの葉色,茎数と倒伏程度,収量および玄米品質の関係について述べる。試験圃場での施肥は,速効性肥料とLP40およびLPSS100を窒素量で3:2:5の割合に配合し,総窒素施用量を6,8,10,12kgN/10aの4水準設定した。なお,試験圃場の適正窒素施用量は,10kgN/10aである。

1)倒伏程度の予測

 倒伏の回避は,収量,玄米品質の向上,さらには機械収穫作業の効率化を図る上でも重要である。そこで,幼穂形成期の葉色および茎数と倒伏程度の関係についてそれぞれ第2図と第3図に示した。これより,倒伏程度(0:なし~5:甚)は,葉色で39,茎数で590本/㎡までの範囲において,最大でも2程度であり問題になるレベルではなかった。なお,慣行分施法では,幼穂形成期の葉色の適正値が34程度であるが,全量基肥施肥法では,これよりかなり濃い水準で経過させても倒伏が問題になることはないと考えられた。

2)収量と玄米品質の予測

 収量と玄米品質は,互いに独立して変動することはなく,概して負の相関関係を保ちながら連動する場合が多い。そこで,収量と玄米品質を決定する主要因である面積当たりの籾数について適正な水準を設定し,実際の診断では籾数を対象に予測診断するシステムを構築しようとした。

(1)収量と玄米品質の向上を目的とした適正籾数の検討

 はじめに,籾数と収量および玄米品質の関係について検討した。玄米品質については外観品質とタンパク含量を取り上げ,それぞれ完全粒割合と窒素濃度を指標にして検討した。

 まず,籾数と収量については,第4図に示したとおり,両者の間には,強い正の相関関係が認められ,最高籾数の33,000粒/㎡までの範囲では,籾数が多いほど収量が増加した。したがって平成7年度の場合,収量に関する最適籾数は,33,000粒/㎡以上の水準であった。これらの結果は,平成7年度の登熟期間の気象が高温多日照で,登熟歩合が90%程度の極めて高い水準であったことに起因しているが,気象の年次変動を考慮すると,収量に関する平年的な最適籾数は,より低い水準になることも予想される。

 次に,籾数と完全粒割合の関係について第5図に示した。両者の関係は,2次曲線として回帰でき,籾数26,600粒/㎡付近で完全粒割合が最大となった。30,000粒/㎡以上と25,000粒/㎡以下の範囲で完全粒割合が低下したが,その原因として籾数過剰の場合は青未熟粒の発生が,籾数不足の場合は大粒化に伴う背白粒,腹白粒,心白粒などの白濁した粒の発生が関与していた。これらのことから,外観品質に関する最適籾数は,平成7年度の場合27,000粒/㎡程度であったと判断できた。

image

 籾数と玄米窒素濃度の間には,第6図に示した通り正の相関関係が認められた。米のタンパク含量については,食味向上のため一定水準以下に抑えることが求められており,本県でも精白米のンパク含量を6%以下に抑えることを目標にしている。この目標値は,玄米窒素濃度に置き換えると1.32%に相当する。この値に対応する籾数を第6図の回帰直線から求めると29,100粒/㎡となり,平成7年度ではこの籾数が,タンパク含量の目標を達成するための上限と判断できた。

 以上の結果より,平成7年度の収量と玄米品質に関する最大公約数的な適正籾数水準は,27,000~29,000粒/㎡程度と判断できた。

(2)籾数予測のための幼穂形成期における生育診断基準の作成

 籾数予測の診断基準を作成するため,有効分げつ期,最高分げつ期および幼穂形成期のコシヒカリの形態(葉色,草丈,茎数)と籾数の関係について検討した。その結果,幼穂形成期の葉色と茎数が籾数と高い相関を示した。これらの関係を第7図(葉色と籾数)と,第8図(茎数と籾数)に示した。

 葉色と茎数は,いずれも籾数と正の直線相関を示しており,27,000~29,000粒/㎡程度の籾数確保するには,平成7年度の場合,葉色(SPAD-502)では37~39程度,茎数では540~580本/㎡程度の水準が必要であった。

4.生育診断に基づく追肥対応例

 試験圃場の全量基肥施肥法による適正窒素施用量は,前述の通り10kgN/10aであるが,総窒素施用量を6kgN/10aとした試験区の幼穂形成期における葉色と茎数は,それぞれ34.0,463本/㎡であった。これらの値は,前述の適正水準と比較するとかなり低い水準であり,籾数の不足による収量の低下が容易に予測された。

 そこで,この試験区の一部にLP50で2kgN/10a相当の窒素を追肥(幼穂形成期)し,収量と玄米品質について検討した。LP50を用いたのは,追肥以後の肥効期間がLPSS100と同等であり,また,玄米品質を低下させることなく増収を図る場合に,低濃度かつ持続的な窒素供給が有利であると考えたためである。

 LP50による追肥の増収効果は第1表に示した通り9%で,増収の要因は,籾数と千粒重の増加であった。なお,2kgN/10a追肥区の収量を10kgN/10a施用した区(収量:552 kg/10a)と比較すると,5%の減収であった。

 追肥による玄米品質の変動を第2表に示した。まず粒厚分布に関して,粒厚2.1mm以上の大粒の割合が高くなる特徴が認められ,このことが,千粒重を増加させた要因と考えられた。また,玄米窒素濃度が0.1%程度高くなったが,精白米タンパク含量に換算すると5.6%で目標値である6.0%以下の水準であった。

 このように,LP50による窒素2kgN/10aの度追肥によって,玄米品質を極端に損ねることなく,9%程度の増収が得られることが明らかとなったが,さらに,窒素施用量が適正である場合の収量水準まで回復させるためには,籾数増加を重視した追肥対応が必要と考えられた。

5.今後の課題

(1)生育診断時期に関する検討

 ここでは,収量および玄米品質の予測診断の精度を高くすることを目的に,幼穂形成期における診断基準の作成を試みた。しかし,診断と予測が,より早い段階で可能となれば,技術対応の効果も高まることから,予測の精度を考慮しながら,早期診断の可能性について検討することも必要である。

2)施肥窒素過剰に対する技術対策の検討

 全量基肥施肥法の導入初期で適正な窒素施用量が不明な段階や,極端な低温寡照年では,施肥窒素量が過剰となる場合が想定される。このような場合の対策として,まずは,中干しなど水管理の徹底が考えられる。全量基肥施肥法では,被覆肥料を多用しているが,被覆樹脂膜が肥料成分の流亡を防ぐため,中干しの効果は,速効異性肥料を用いる分施法よりも劣ると考えられる。

 次の対応策として,過繁茂による草型の乱れを防ぎ,受光態勢を維持するために,ケイサン質肥料の追肥が考えられる。さらに,極端な倒伏が懸念される場合は,倒伏軽減剤の利用も考えられ,これらの肥料や資材の効果についての確認が必要となる。

3)気象の年次変動に対する検討

 診断基準作成に供するデータは,まだ平成7年度の試験結果しかないことから,気象変動にも耐え得る診断基準を作成するためには,さらなるデータの積み重ねが必要である。

 以上の,課題について検討しながら,予測精度の高い診断基準を作成し,効果的な技術対応策を明らかにして行きたいと考えている。

 

 

ユリ(オリエンタル・ハイブリッド,
アジアテック・ハイブリッド)に激発する葉焼け障害について

新潟大学農学部
教授 五十嵐 太郎

1.はじめに

 我が国ではオリエンタル・ハイブリッドやアジアテックハイブリッドの抑制・促成両切り花栽培で,葉焼け障害が激発し大問題になっている。この障害は展開上位葉の中央からその上にかけた部分が,水浸状・カスリ状白色・褐色に順次なり,著しい場合には生長点まで枯死するもので,通常は地上部の生育がかなり進展した段階で発生する(写真)。

 この障害は1970年代の中頃,オランダでマツバユリの交雑品種である「パイレーツ」で初めて認められ,その後,品種により発生の難易はあるが,オリエンタル・ハイブリッドやアジアテック・ハイブリッドの多くの品種に発生することが判った。なお,1950年代に促成切り花栽培のテッポウユリに大発生して問題になり,詳細な研究が行なわれた葉焼け障害は,下位落より発生して上位葉にまで及ぶもので,その症状は葉端にネクロシスの斑点が先ず生じ,ついで葉のふちに沿って半月状のネクロシスを呈するものなので,上述の障害とは明らかに異なっている。

 展開上位葉に発生する葉焼け障害は1970年代末から1980年代にオランダや日本で,かなり研究され,主にCa欠乏に起因するものと推察されているが,障害の発生原因はいまだに明確でなく,その防止方法も確立されていない。

 著者らは上述の葉焼け障害の発生原因を明確にし,障害の防止方法を確立するための基礎的知見を得るため,障害が極めて発生しやすい品種「スターゲザー」(オリエンタル・ハイブリッド)を用いて,水耕法で葉に発生するCa欠乏症状と葉のCa栄養状態を検討し,さらに圃場抑制切り花栽培で,土壌のpH矯正と可給態Ca富化が葉焼け障害の発生に及ぼす影響,及びユリの生育に伴うCa栄養状態の変化と障害発生との関連などについて調査検討した。本稿ではこれら試験結果の概要を紹介し,葉焼け障害の発生原因について著者の見解を述べる。

2.水耕ユリの生育とCa栄養状態に及ぼす培地Ca濃度の影響

 球根(生体重35g,乾物当たりCa濃度0.4‰*)の下根(球根下部より発根伸長する根)のみから養分を吸収させた露地作型の切り花水耕栽培で,定植(11月12日)から萌芽(3月14日)まで培地のCa濃度を20.0ppmとして,下根を十分に伸長させた後,培地のCa濃度を0.5,1.0,5.0,20.0各ppmにした区(1,2,3,4,5各区と略称)を設け,ユリの生育・Ca 栄養状態と培地Ca濃度の関連について検討し,次の結果を得た。なお,5区の培養液組成を表1に示した。
 * パーミルで1/1000を意味する,%の1/10

 4・5両区のユリは正常に生育して開花した。これに対して1~3区のユリは草丈が約50cm,展開葉数が約30枚になった5月中旬から下旬(外観的には蓄が認められない)に展開上位葉数枚の葉の中央からその上にかけた部分が,水浸状・カスリ状白色・褐色に順次なる欠乏症状が発生した。この症状は圃場ユリに発生する葉焼け障害の症状と酷似していた。

 又,欠乏症状発生数日から1週間後での葉の葉位別Ca濃度(乾物当たり)は,欠乏症状発生葉が0.5‰以下であったのに対して,症状未発生葉ではほぼ0.5‰以上であった(表2)。

 本試験により,葉焼け障害が極めて発生しやすい品種「スターゲザー」でも培地のCa濃度を5ppm以上にして水耕栽培すれば,ユリは正常に生育すること,及び培地のCa濃度を2.5ppm以下にすると圃場で発生する葉焼け障害と極めて酷似した欠乏症状が発生することが初めて明らかになった。

3.抑制栽培ユリの葉焼け障害の発生に及ぼす土壌pHの矯正とロングショウカル施肥の影響

 新潟県北魚沼郡堀之内町(新潟県の代表的ユリ産地)の表層腐植質黒ボク土壌の圃場で,土壌pH(H2O)4.0(石灰未施用)区(1区と略称),土壌pH4.0・ロングショウカル70施肥区(2区と略称),土壌pH6.0(石灰施用)・ロングショウカル70施用区(3区と略称)の各区を設け,球根(生体重65g,乾物当たりCa濃度0.35‰)を6月14日に定植して,葉焼け障害が最も発生し易いとされている高温・多湿の梅雨時期に抑制栽培試験を行い,葉焼け障害の発生と進展に及ぼす土壌pHの矯正とロングショウカル施用の影響,障害発生とユリのCa栄養状態の関連などを調査検討し次の結果を得た。なお,ロングショウカルの施肥量は10a当たりCaとして34kgとした。

 葉焼け障害は定植約1ヶ月後の7月11日頃から全区のユリ展開上位葉に発生し始め,以後急速に進展して7月16日には,各区とも定植全株の展開上位葉7~8枚にまで及んでいた。ユリ茎葉部の生育は各区とも定植後急速に進み7月16日には草丈約40cm,展開葉数33枚程度になっていた。しかしこの時での各区の根の状態を見ると,下根はほぼ定植時のままで,ほとんど生育・発達しておらず,上根(萌芽後ユリ茎の下位節より発根・伸長する根)の発達もあまり十分ではなかった。

 又,8月19日(開花前)での障害が生長点まで及び開花が不能になった株の発生率(%)は1区:63,2区:32,3区:13であった。なお,各区の上根は7月16日のそれと比較して著しく発達していたが,下根はほぼ定植時のままの状態であった。

 上述の結果より,6月中旬に定植したユリに障害が発生したのは,定植後約1ヶ月後で,茎葉部の急速な生育に根の発達が伴わないと観察された時期であり,又,石灰施用による土壌pHの矯正とロングショウカル施肥の併用は,障害発生の防止・軽減には効果がないが,障害の進展抑制には効果的であることが判った。

 障害発生6日後の7月16日でのユリのCa濃度は,各区とも障害葉が1.0‰以下であったのに対して,未障害葉では2.0‰以上で,両者の間には明瞭な違いが認められた。また,8月19日における開花可能株のCa濃度を見ると,各区とも葉は7月16日のものより著しく高く,障害葉でも1区が9.4‰,2区が11.4‰,3区が19.3‰になっていた(図1)。

図1ユリのCa濃度

 上述の結果より,葉焼け障害は既に推察されているように,Ca欠乏に起因している可能性が高いと考えられた。しかし,7月16日と8月19日でのユリ葉のCa濃度の急激な変化からみて葉焼け障害の発生と葉のCa栄養状態の関連を明確にするためには,球根定植から障害発生までの期間で,ユリの生育状態とそれに伴う葉,特に障害が発生する上位葉のCa栄養状態の変化を詳細に調査・検討する必要があると判断された。

4.圏場抑制ユリの生育に伴うCa栄養状態の変化と葉焼け障害発生の関連

 堀之内町の表層腐植質黒ボク土壌の圃場で,石灰を施用して土壌pHを矯正し,さらにロングショウカル40と70をそれぞれCaとして10a当り17kg施肥後,球根(生体重54g,乾物当たりのCa濃度0.35‰)を6月13日に定植して,ユリの茎葉と根の生育状況,及びユリの生育に伴う茎葉部のCa栄養状態を,定植から葉焼け障害が顕著に発生した7月14日まで,6回に亘り調査・検討し,次の結果を得た。

 ユリ茎葉部の生育は,定植約2週間後の6月26日以降急速になり,この傾向は7月7日後で一層顕著になった(表3)。上根は6月26日頃より球根内の茎節間から発根し始め,7月3日には茎の伸長に伴って,土壌中の茎節間から発根・伸長に伴って,土壌中の茎節間から発根・伸長し始めたが,上根の発根がほぼ完了したのは7月7日であり,根が比較的十分に伸長していたのは,7月14日であった(表3)。

 他方,下根は7月14日でも,球根々盤や旧根よりの新たな発根は,ほとんんど認められず,ほぼ定植時のままの状態であった。

 葉焼け障害は,7月11日に全定植株の約2%の展開上位葉の1~2枚にわずかに発生し始め,その後急速に進展して,7月14日には定植全株の約70%の展開上位葉2~4枚に顕著に発生していた。

 上述のユリの生育と葉焼障害発生状況からみて,この障害は,地上部の急速な生育に上根の発根・仲長が伴わないために発生したものと推察される。

 茎葉部を上位葉(下から21枚目以上の葉),下位葉(下から20枚目までの葉で,従来の試験結果から,この葉位の葉には障害発生の危険は全くない),茎の3部位に分け,それらのCa栄養状態の経時的変化をみると,定植時に4.78‰であった上位葉のCa濃度は,葉の生育に伴って減少し,7月7日に最低値の0.24‰になったが,その後急速に増加して7月11日・7月14日にはそれぞれ0.65%・1.49%になった。

 又,下位葉・茎の濃度は,定植後低下して,下位葉が7月3日に0.40‰,茎が6月26日に0.36‰になった後7月7日迄は緩徐に,それ以降は急速に増加し,7月14日にはそれぞれ1.87‰・0.84‰になった(図2)。

 上位葉・下位葉・茎の生育に伴うCa含量(mg/株)の増加状況をみると,定植から7月7日までは上位葉の含量は全く増加しておらず,下位葉・茎でも,多少増加が認められる程度で,茎葉部含量の明瞭な増加が認められたのは,7月7日以降であった(図3)。

 上述のことより,抑制栽培ユリに発生する葉焼け障害は,土壌の可給態養分が豊富でも,地上部の急速な生育に根の発達が伴わないため,定植球根りん片中の含量(5.6mg/株)が少なく,しかもりん片から新器官へ移行再分布しにくい元素であるとされているCaが欠乏したことにより発生した可能性が高いと推察される。

 なお,障害発生前(7月7日)で上位葉のCa濃度が,障害発生時より低い値を示したが,このような事例はイチゴの葉焼け障害(Ca欠乏)でも認められている。この理由としては,a)すでに葉に発生していた欠乏障害が,葉の生育につれて目立つようになった,b)葉が急速に展開生育し,それに伴って,一枚の葉の中で部分的にCa濃度が著しく低下する部位が生じ,そこに欠乏症状が発生した,などのことが考えられる。

 オランダのBerghoef(1985)は,葉焼け障害の発生が予測される1~2日前から花芽が認められるまで,塩化カルシウム溶液又は硝酸カルシウム溶液を毎日葉面散布すると,障害の発生を軽減できると述べている。上述の試験結果は,葉面散布の時期を早めればその障害軽減効果はさらに大きくなることを考えさせる。

むすび

 これまで述べて来た試験結果より,著者は抑制栽培ユリの展開上位葉に発生する葉焼け障害は,茎葉部の急速な生育に根の発達が伴わないために生じるCa欠乏障害であろうと判断している。現在,葉焼け陣害を回避する最良の方策は,発生し易い品種を用いないことであるとされている。葉焼け障害の発生原因とその防止対策が一日も早く確立され,多くの美しいユリ品種が安心して栽培されることを期待したい。