§温暖化に伴う水稲向け全量基肥専用肥料の早効きについて(後編)
-肥料の効果を低下させる様々な要因-
ジェイカムアグリ株式会社 技術管理本部
技術顧問 加藤 直人
§LPコートを使用したナガイモにおける全量基肥栽培の省力効果および施肥方法
地方独立行政法人 青森県産業技術センター
野菜研究所 栽培部
齋藤 生
ジェイカムアグリ株式会社 技術管理本部
技術顧問 加藤 直人
夏の高温化に伴う被覆肥料の溶出促進と水稲生育ステージの前進化との関係については前編1)で述べたが,水田作の生産現場で進められている作業の省力化や水田の汎用利用の継続なども水稲の窒素栄養や生育に様々な影響を及ぼしている。
具体的には,全量基肥専用肥料を全面全層施肥する場合にしばしば見られるようになった施肥作業の早期化による肥効低下や被覆肥料の溶出の前倒し,乾田化や田畑輪換に伴う土壌乾燥による地力窒素の低下,春の高温化による地力窒素発現の早期化などによって,水稲への窒素供給が不安定になり,収量・品質に悪影響を及ぼしている。こうした様々な要因による影響は,高温化による全量基肥専用肥料の早効きの影響と誤認され,対応を見誤る可能性があるので留意する必要がある。
水稲作の施肥では硝酸性窒素を含まない肥料を使用するとともに,施用後は速やかに入水・代かきを行って湛水状態にしてアンモニア性窒素の硝酸化成(以降,硝化と略記)を抑制し,その後の流亡や脱窒による肥料損失を回避することが基本である。しかし,兼業農家における休日への農作業の集中や経営規模の拡大に伴う作業性重視の稲作が主流となり,必ずしも適期に施肥作業が行われていない。
熊本県で実施された水稲担当のJA営農指導員を対象としたアンケート調査によると,基肥施肥日は加重平均で田植え前7日であったが,地域で最も早い農家の施肥日は移植日の14日以上前という回答が有効回答32件中23件あり,そのうち7件は20日前と著しく早かった2)。
このような基肥施肥の前倒しは施肥窒素の損失を招き,水稲の収量が低下することが昔から知られている。安藤らは重窒素標識硫安を入水の10日前,5日前,0日前(施肥後直ちに入水)に施用したところ,施肥後入水までの日数が長いほど施肥窒素の土壌中残存量は減少したと報告している(図1)3)。

また施肥窒素の損失量が多かった年は水稲による施肥窒素利用率や収量が施肥後入水までの日数が長いほど低下することが認められた(図2,図3の1987年)3)。


なお1990年は施肥窒素残存量の減少が少なく利用率・収量の低下が顕著ではなかったが,この年は施肥後入水までの期間の降雨が多く,土壌水分が圃場容水量を超えて湛水状態であったため,硝化が進まず入水後の脱窒が少なかったためと考察されている3)。つまり,施肥日の前倒しによる施肥窒素の損失量は入水までの日数とその間の気象や圃場条件の影響を受けるので,正確に予測することは難しい。全量基肥専用肥料に含まれる速効性窒素も同様に施肥~入水・代かきまでの期間が長いと一部が硝化され,流亡や脱窒によって失われる。
また,全量基肥専用肥料には速効性窒素のほかに被覆尿素が含まれているが,施肥日の前倒しによって被覆尿素の溶出が早まることが報告されている(図4)2)。同様の結果は他県からも報告されている4)。これは被覆尿素を畑状態の湿った土壌に施用すると,水蒸気が肥料の外側から被膜を通して徐々に内部に侵入して溶出のメカニズムが動き出すためであり,施肥から移植までの期間が長いほど被覆尿素の溶出はあらかじめ設計された速度よりも早くなることを示している。

被覆尿素の施用時期を変えた「ヒノヒカリ」と「にこまる」の栽培試験では,移植20日前の早期施用では移植2日前施用に比べて,登熟歩合や玄米千粒重が劣り収量が低下する傾向があり,また検査等級も劣る傾向があったと報告されている(北川,2011年)5)。また,梅雨明けが極端に早かった年は遅かった年よりも移植期~最高分げつ期頃までの地温が1.5℃高く,被覆肥料の50%溶出到達日が7日早くなると予測されたが,両年の出穂期の違いはわずか1日であったので生育とのずれは6日と推察された。
しかし,両年とも同様の設計で被覆肥料を含む全量基肥肥料を田植え直前に施用した場合は収量・品質に殆ど差がなく,6日程度のずれは大きな影響を及ぼさなかった。これらの結果から「現地の全量基肥栽培圃場で品質が劣った理由は,被覆尿素入り肥料の施用時期が田植えの2~3週間前と早かったことが直接影響したものと考えられる」と考察されている5)。
寒地・寒冷地では,有機質肥料の使用量が多い特別栽培などで,施用時期を入水よりも少し前にして畑水分状態で有機質肥料の無機化を促進することにより,水稲の初期生育が改善する場合がある。ただし,この場合でも施肥が早すぎると無機化した施肥窒素の硝化により損失が起きる。
新潟県では,有機入り肥料でも湛水1週間前や2週間前に施用すると施肥窒素の一部が損失するので,施肥を湛水開始日に近づけることにより,「コシヒカリ」の初期生育が改善したと報告されている6)。有機入りの全量基肥肥料の場合は施肥が湛水開始日より早すぎると,穂肥分の肥料の溶出が早まり,生育後期の窒素供給が少なくなるので収量が低下する(図5)6)。

北海道の「ななつぼし」の場合,大豆油粕や魚粕は入水7日前を目安に全層施用すると良いとされている7)。ただし,併用する化学肥料は硝化を避けるため,入水直前または移植同時側条施肥することとされている。このように有機質肥料の場合は,地域(地温)や肥料の種類・無機化特性によって適切な施肥時期が少し異なる可能性がある。有機質肥料を含まない,あるいはその配合割合が少ない全量基肥専用肥料では,硝化後の流亡・脱窒による肥料損失を防ぐために,可能な限り入水・代かきの直前に施用するか,あるいは移植同時側条施肥が推奨される。
以上のように,施肥作業の前倒しによって全量基肥専用肥料に含まれる速効性窒素の損失と被覆尿素の溶出開始が早まると,窒素肥効の低下や生育後半の肥効不足に繋がる。これは移植後の高温による肥効発現の前倒しと見誤る可能性がある。
良食味米生産を行うには,土壌から無機化する窒素(地力窒素)に応じた施肥窒素量の加減が重要であるが,水田の地力窒素の発現には,年次変動があることが昔から知られている。地力窒素の発現は乾土効果によるものと地温上昇効果によるものに大別される8)。
乾土効果とは湛水前に土壌が乾燥することにより土壌から無機化する窒素が増える現象のことである。この乾土効果の大小は土壌ごとに異なるが土壌の乾燥程度によっても影響を受け,春先に土壌乾燥が進むほど大きくなる。特に積雪地帯や寒冷地では,春先の地温が低く,乾土効果で無機化した窒素がその後の硝化・脱窒等によって損失する割合が少ないので,良食味米生産のためには乾土効果を考慮した窒素施肥の加減による籾数制御が重要となる9)。
宮城県では宮城県では籾数を適正化するために3月・4月の合計降水量に応じた基肥窒素の減肥量を提示している10)。しかし,近年は気象の極端現象が頻発するようになり,春の高温化による融雪や圃場乾燥の早期化や,反対に連続降雨による圃場乾燥の遅延などにより,乾土効果の発現量や無機化した窒素の水稲による吸収割合の年次変動が大きくなって,水稲生育の不安定化につながっている可能性がある。
土壌有機物の分解に伴う地力窒素の発現は温度が高いほど促進されるので,これを地温上昇効果と呼ぶ8)。一般的には春から盛夏にかけて地温が上昇するので,それに応じて地力窒素の発現も大きくなるが,近年は以前に比べて移植時期から地温が高く推移することが目立つようになり,そのような場合は生育前半に土壌から供給される窒素が以前よりも多くなる。
例えば新潟県の令和元年では,移植~6月5日と7月20日~8月16日の地温が平年よりも非常に高くなったため,この期間の地力窒素の発現量が平年よりも多く,生育前半の窒素吸収量が高く推移したと報告されている11)。また,多雪地帯の北陸で融雪の早期化と地温上昇効果により地力窒素の発現が水稲生育の初期段階で多くなり,過剰生育と籾数過多となって白未熟粒増加の一因になると指摘されている12)。
以上のように,春先の土壌乾燥や生育前半の地温上昇によって地力窒素の発現が早期化すると,まるで施肥窒素の肥効が前倒しになったように感じられてしまう可能性がある。
コメの生産調整を背景に1980年頃から田畑輪換が本格的に行われるようになったが,大豆作付回数の増加により連年水稲作に比べて土壌有機物が減少し,可給態窒素(風乾土湛水培養法で無機化する窒素,地力窒素の指標)(図6)13-15)や乾土効果(図7)16)が低下することが明らかにされている。


また実際の圃場状態での窒素発現量を反映すると言われている湿潤土湛水培養法で窒素無機化の推移を調べると,大豆の作付け履歴が多い土壌ほど培養前半の窒素無機化量が多く,一方,培養後半(7週~10週の間)の無機化量は少なくなる(図8)17)。

このことから,田畑輪換履歴が長い水田では,土壌からの窒素供給が前倒しとなり,水稲の生育後半の窒素が不足しやすくなると推察される。
玄米タンパク含有率を低下させ食味を向上させるために施肥窒素の削減が行われるようになり,コメの品質低下の一因になっていると指摘されている12,18)。水稲に吸収されなかった施肥窒素の一部は流亡や脱窒によって失われるが,一部は土壌微生物による有機化により,土壌に残ることが15N標識速効性窒素を用いた試験により確認されている19,20)。また,翌年以降もわずかながら水稲に吸収され,全量全層施肥の場合は施肥後3年目でも施肥窒素の約20%が土壌に残存したと報告されている21)。
このように速効性窒素肥料であっても一部は土壌に残り,翌年以降の水稲栽培において地力窒素の一部として貢献する。したがって,施肥窒素の過度の削減は地力窒素低下の一因になり得る。なお,玄米タンパク含有率(水分15%換算)が7%以上ではタンパク含有率の増加により食味の低下が見られるが,6.5%以下では食味総合評価値のばらつきが大きくタンパク含有率と明瞭な関係が見られないとの調査例18)もあるので,収量確保や外観品質の面からも過度の施肥窒素削減は避けたほうが良いと思われる。
全量基肥専用施肥に含まれる窒素があらかじめ設計されたとおりに土壌中で溶出したとしても,何らかの原因により水稲根の生育や養水分吸収能が阻害されれば,効率よく施肥窒素を吸収できず施肥効果が低下してしまう。前報1)で述べたように近年は夏の高温化が顕著であるが,春(3~5月)も100年あたり1.67℃の割合で上昇し,特に2015年以降は11年連続で基準値(1991~2020年の30年平均値)を上回っている22)。
このような春の高温化によって,生育初期から土壌還元が進み,硫化水素等の生育阻害物質によって根がダメージを受け,分げつが抑制されて総籾数が減少し,収量低下につながることが問題になっている23)。銀メッキシートが開発され,水田土壌からの硫化水素発生の実態を手軽に確認できるようになったが,それにより作土の下部ではなく土壌表面近くからの硫化水素発生が多いことが示された24)。このように土壌表面から硫化水素が発生すると,特に中干後に土壌表面に伸長する ’うわ根’ による養分吸収が阻害される可能性がある。
登熟期間の高温による収量・品質への影響に注目が集まっているが,出穂前の高温の重要性も指摘されている25)。出穂前30日間の気温が高い道府県は収量が低いという傾向は50年以上前の頃に比べて近年で強まっており,これは総籾数が出穂前気温が高いほど少ないためとされている。もちろん,地域ごとに主力品種や土壌養分供給能が異なり,コメの販売戦略を反映した施肥量の違いなど様々な要因が影響を及ぼしていると考えられるので,この結果を気温だけで説明するのは難しい。
しかし,茨城県での年次間差を比較した事例では,出穂前30日間の平均気温が26℃以下では気温が高いほど増収するが,26℃以上では気温が高いほど減収する傾向がみられており(図9)25),出穂前の温度が著しく高くなることが減収の一因になる可能性がある。令和5年の水稲栽培期間は全国的に平年よりも高温で推移したが,地域によっては生育前半の日照不足により籾数が減少したとされている26)。このような出穂前の高温や日照不足により水稲の施肥窒素利用率が低下する可能性がある。

重窒素標識硫安を用いて7年間の栽培試験で求めた施肥窒素の利用率は,基肥窒素(全層施用)で17.3~39.9%(平均26.1%),移植1週間後に表面施用した早期追肥窒素で3~18.5%(平均7.4%)と大きな年次変動があったが,前者は平均気温と負の相関関係(図10)27),後者は平均日照時間と正の相関関係(図11)27)が認められた。また,施肥窒素量から水稲による吸収量と土壌への残存量を差し引いた値を脱窒や流亡による損失とすると,基肥窒素の利用率は脱窒・流亡による損失率と負の相関関係(r=-0.92)があることが示されている。


これらの結果から,生育前半の気温が高いと脱窒等による肥料損失が増えて施肥窒素の利用率が低下しやすく,日照が少ないと生育が遅延して窒素吸収が少なくなり利用率が低下すると推察される。気温と日射量との間には正の相関が認められることが多いが,高温でも日照不足となる場合があり,そのような場合には施肥窒素利用率が低下しやすいと考えられる。
昔から生育温度の変化による出穂期の変動は早生種で大きく,晩生種で小さいことが知られている。九州では極早生品種となる「コシヒカリ」は感温性が強いので,温度のみを変数とするDVR関数式で出穂期などの生育予測が可能であるが,中生品種の「ヒノヒカリ」や「にこまる」は感光性が強いので,温度と日長時間を変数とする予測式を用いる必要があるとされている28)。1989年から2009年の間に九州各県で実施された「ヒノヒカリ」の作期試験を基に解析した例によると,高温年は低温年に比べて稲作期間の平均気温は2.6℃高く,出穂期は4日早くなった29)。
一方,前報1)で紹介した千葉県の「コシヒカリ」における出穂期の変動データ30)から1989年~2009年のデータを読み取り,前述の九州「ヒノヒカリ」の報告例と同様に,稲作期間の平均気温が全年次の平均気温の±0.5℃の範囲(20℃~21℃)に収まる年を平温年とし,20℃未満を低温年,21℃以上を高温年に区分し,それぞれの平均気温と出穂期を求めたところ,高温年は低温年よりも稲作期間の平均気温は1.9℃高く,「コシヒカリ」の出穂期は5日早かった。
したがって,「ヒノヒカリ」は「コシヒカリ」に比べて温度上昇による出穂期の早期化が少し小さいようである。高温化が顕著になった2010年以降の出穂期データがあれば,出穂期変動の品種間差がもっと明瞭になるのではないかと考えている。
前編で述べたように,高温化によって被覆肥料の溶出速度と水稲の生育速度の間にずれが生じる可能性は否定できないが,現状では収量・品質に及ぼす影響は限定的であり,各地で指導されているように葉色診断による穂肥の追加などで補正いただくのが現実的な対応策と考えられる。しかし,高温化傾向がさらに強まると,各地域のコメの販売戦略に照らして高温耐性品種の導入が進められ,それに応じた全量基肥専用肥料の策定が必要になる。
また,後編で述べたように,ⅰ)施肥時期の早期化による肥効低下,ⅱ)春の高温による地力窒素発現の早期化や不安定化,ⅲ)田畑輪換の長期継続による地力窒素低下,ⅳ)土壌還元障害や生育前半の高温・寡照による施肥窒素吸収の低下,などが生じていないかを確認する必要がある。
ⅰ)については,施肥から代かきまでの期間が短くなるように作業スケジュールを見直すか,施肥田植え機による側条施肥あるいは育苗箱全量施肥などの肥料損失の少ない施肥法への転換が推奨される。
ⅱ)については,春の圃場準備段階での圃場の乾燥程度から乾土効果発現の大小を見極めるとともに,生育状況に応じた水管理が必要になると思われる。ⅱ)やⅲ)の影響が大きい場合には,溶出速度の遅い被覆肥料の配合割合を増やすなど,後半の肥効に重点を置いた全量基肥専用肥料への変更が有効となる可能性がある。
また,ⅲ)により地力窒素が大きく低下している圃場では,土壌有機物も減少しているので透水性や保水性などの土壌物理性が悪くなる。以前に比べて土が硬くなったと感じたら堆肥や緑肥など有機物の積極的な施用が推奨される。
ⅳ)の土壌還元障害は,ワラ腐熟の遅延,浅耕化,耕盤の圧密や過度の代かきなどによる減水深の著しい低下などにより助長されるので,可能な限りワラのすき込み時期を早めるとともに腐熟促進効果のある資材の施用,作土深の確保,耕起法の見直しなどを検討する。
以上,述べたようにⅰ)~ⅳ)が原因で生育・収量が悪い場合には,それぞれ改善対策が異なる。
エルニーニョ現象の発生時は全球の海水面温度が高く大気の熱が海洋に吸収されにくいので気温が高くなりやすい。1998年頃から暫くはラニーニャモードによる気温停滞期が続いていたが,2015年前後に発生した大規模エルニーニョと2023年のエルニーニョによって世界の海面水温と平均気温はともに急上昇した31)。気象庁のエルニーニョ監視速報(No.404)によると今年も夏までにエルニーニョ現象が発生する確率は90%とかなり高く32),もし発生すれば世界の平均気温はさらに上昇する可能性がある。
極端な気象変動により畑作では干ばつと湿害の発生リスクがともに高くなり,水稲作でも高温化や日照の多寡,春先の土壌乾燥や湛水後の還元化の程度などにより生育が影響を受け,収量・品質が不安定になりやすい。このような気象の極端現象に対応するためには,施肥法の改善だけではなく,生育状況の観察とそれに応じた栽培管理,土づくりによる土壌物理性改善など,総合的な対策が必要になる。
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15.新良力也,転作田における地力維持と大規模水田農家の課題,農業農村工学会誌,84(3),p.189-192(2016)
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地方独立行政法人 青森県産業技術センター
野菜研究所 栽培部
齋藤 生
青森県のナガイモは国内有数の産地であり,作付面積は2,000haを超え,県産野菜の基幹品目となっている。しかし近年は高齢化などの影響により生産者数が減少傾向にある。その中で,産地を維持するために1戸当たりの栽培面積は拡大傾向にあり,管理作業の省力化が求められている。
青森県のナガイモ栽培では,主に5月に植付けを行い,11月または雪解け後の4月に収穫を行っている。施肥体系は,萌芽期に1回と,7月から8月にかけ約3回の追肥を行うことが慣行となっている。しかし,施肥回数が多いことに加え,追肥時期である夏期は他作物との作業競合が起きやすく,労働負担の軽減が課題となっている。
そのため近年では,植付け時の基肥として緩効性肥料を利用し,7,8月の施肥回数を1,2回に減らす生産者も増加している。ナガイモ栽培では,施肥が適切に行われないと形状不良が発生し問題となる。形状不良はさまざまなタイプがあるが,主なものとして,いもの先端に向かって扁平になる“平”,いもの途中や先端部に発生するコブや溝,そして,いもの曲がりがあげられる(図1)。

また,慣行の追肥体系では,施肥時期の少雨または多雨による肥効の不安定さや,施肥判断の難しさ故に適正な施肥時期を逸したことによる品質低下も問題になっている。そこで,夏期の施肥管理作業を省略化するため,LPコートを利用した全量基肥栽培を検討し,ナガイモの生育,収量および品質,施肥作業の省力効果について調査したので紹介する。
試験は,(地独)青森県産業技術センター野菜研究所内圃場(青森県六戸町,黒ボク土)において,2019年~2023年に,LPコートのシグモイド型60日タイプ(以下,LPコート)を供試して実施した。
試験区は,①LPコート25kg区(全量基肥体系,無マルチ栽培,LPコート窒素25kg/10aを植付け時に全量施用),②LPコート30kg区(全量基肥体系,無マルチ栽培,LPコート窒素30kg/10aを植付け時に全量施用),③マルチ・LPコート区(全量基肥体系,マルチ栽培,LPコート窒素25kg/10aを植付け時に全量施用),④慣行区(追肥体系,無マルチ栽培,萌芽期にナガイモ用複合肥料で窒素10kg/10a,7~8月に化成肥料で窒素5kg/10aを3回施用)とした。詳細は表1に示すとおりである。

供試系統は園試系6で,種いもはウイルスフリーの1年子を供試した。植付けは5月24~27日に行った。栽植様式は,畝幅120cm,株間24cmの1条植えとし,区制は3反復とした。
全量基肥区はLPコートを植付け時に窒素成分で25kg/10aまたは30kg/10aと,リン酸,カリの施肥に鶏糞燃焼灰(N:P:K=0:21.5:18.4もしくは0:20:17)を全量覆土内に施用した。
慣行区は萌芽期である6月18~25日に窒素成分で10kg/10aのナガイモ用複合肥料(N:P:K=12:18:12))と過リン酸石灰を,7月10日から8月13日に窒素5kg/10a(硝酸入り化成(N:P:K=16:4:16)もしくはNK化成(N:P:K=16:0:16))を3回,畝に表層施用した。なお,リン酸,カリの施肥総量は全区ともそれぞれ成分で30kg/10a,25kg/10aとなるように施用した。
全量基肥の無マルチ区では,基肥施用から覆土までの作業を,施肥機,培土機,畝成形機を装着したトラクタで行った。全量基肥のマルチ区は,基肥施用,覆土,マルチ張りの作業を,施肥機,覆土畝成形機,マルチャーを装着したトラクタで行う想定とし,本試験ではマルチ張りは手作業で行った。マルチの種類はダークグリーンのスリットマルチを用いた。慣行区は管理機で覆土し,その後人力で追肥を行った。

積算窒素溶出率の推移は,植付け日にLPコートを畝内の地表下10cmに埋設し,約10日おきに採取して,重量の減少から推定した。いもの生育は,8月から収穫期の11月まで,いもの長さ,長径,重さ,形状,乾物率などについて調査した。
また,全量基肥体系と慣行の追肥体系の省力効果を比較するため,施肥,植付けなどの作業時間を調査した。全量基肥体系の基肥,覆土,マルチ張り作業は,施肥機,覆土畝成形機,マルチャーを装着したトラクタによる作業時間を計測した。
無マルチ栽培におけるLPコートの推定積算窒素溶出率を図3に示す。LPコートは,6月下旬頃から溶出し始め,7月上旬までは緩慢で,7月中旬から8月中旬にかけて溶出が速く,8月下旬までに約80%が溶出していると推定された。

無マルチ栽培におけるナガイモの窒素吸収量の推移を図4に示す。LPコート30kg区は慣行区に比べ茎葉部の窒素吸収量が少なく推移したが,いも部の窒素吸収量は同等に推移した。

慣行の追肥体系では,萌芽期にあたる6月中下旬に窒素10kg/10a,生育期の7月中下旬から8月上中旬に窒素15kg/10aを3回に分けて施用する。萌芽期の施肥は茎葉部の生育量への影響が大きく,7月中下旬から8月上中旬の施肥は品質への影響が大きい。LPコートは,萌芽期の窒素溶出量が慣行の施肥量より少ないため,茎葉部の窒素吸収量が少なかったと考えられた。一方,7~8月の窒素溶出量は十分であったため,いもの窒素吸収量は同等になったと考えられた。
無マルチ栽培のLPコート25kg区では,いも重の増加が慣行区より劣ったが,窒素量を2割増肥したLPコート30kg区の茎葉重は慣行区より少ないものの,いも重は慣行区と同等となった(図5左,中央)。一方,マルチ栽培のマルチ・LPコート区では,無マルチ栽培の慣行区と比べ,LPコート窒素25kg/10aで,茎葉,いも共に同等の生育となった。

収穫時のいもの生育を表2に示す。LPコート25kg区では慣行区に比べ,いも長,いも径がやや小さく,調製重が91%となった。これに対して,LPコート30kg区では慣行区に比べ,いも長,いも径は同等になり,調製重も1380g/株で同等であった。

いもの充実度の指標となる乾物率は,施肥窒素量に関わらず慣行区並みとなった。マルチ栽培では,マルチ・LPコート区が慣行区に比べ,いも長,いも径が同等,調製重も1333g/株と同等であった。乾物率はやや低い年があり,3か年平均で13.1%であった。
LPコート25kg区は慣行区に比べて総収量が10%下回った(図6左図)。A品収量は慣行区を14%上回ったものの,AB品収量は14%下回った。一方,LPコート30kg区では,総収量は慣行区の96%であり,A品収量は7%上回り,AB品収量は同等であった(図6中央図)。マルチ・LPコート区では,慣行区と比較して総収量は103%と同等であった(図6右図)が,A品収量は慣行区比128%と大きく上回り,AB品収量も9%上回った。

このことから,無マルチ栽培では窒素を2割増肥することにより慣行と同等の収量および品質となること,マルチ栽培では慣行と同等の施肥窒素量で収量は慣行並み,品質は慣行を上回ることが明らかになった。また,7~8月に極端な少雨となった2019年のように,LPコートの窒素溶出が遅れ,慣行よりもコブや溝の障害発生率が高い年もあったが,LPコート25kg区,マルチ・LPコート区は,年次間の品質のばらつきは慣行よりも小さく,平均して高品質であった。
全量基肥体系の省力効果を確認するため,全量基肥体系の無マルチ・マルチ栽培と慣行体系の基肥施用,植付け時の覆土,マルチ張り,萌芽期の中耕・培土,6~8月の追肥,収穫前のマルチ除去に要する作業時間を調査した(表3)。

無マルチ栽培において,全量基肥体系を慣行の追肥体系と比較すると,合計で2.8h/10aの作業時間が削減された。全量基肥体系では,施肥機を利用することで基肥施用と植付け時の覆土を一工程で行うことができ,施肥作業時間の短縮につながった。
また,マルチ栽培の全量基肥体系を慣行の無マルチ栽培の追肥体系と比較した。マルチ栽培では,基肥施用時に覆土,マルチ張りを同時に行うため作業速度が低下し,基肥施用の作業時間が0.7h/10a,さらに収穫前のマルチ除去に要する時間が1.5h/10a増加したが,追肥作業が不要となるため,合計の作業時間は0.6h/10a短縮された。
施肥回数は,マルチの有無にかかわらず,追肥体系の4回から1回へと削減することができた。
以上のことから,LPコートを利用した全量基肥体系は,無マルチ栽培・マルチ栽培のいずれにも活用できることが明らかとなった。無マルチ栽培では,窒素施用量を慣行より2割増やすことで慣行栽培と同等の総収量・A品収量・品質が得られた。一方,マルチ栽培では,慣行と同量の窒素施用量で慣行栽培と同等の総収量となり,A品収量は慣行を上回った。また,作業時間は短縮もしくは同等となり,施肥回数も削減された。
これらの結果から,LPコートを用いた全量基肥体系は,収量や品質を維持しつつ追肥の省略が可能であり,ナガイモ栽培における施肥作業の負担軽減につながる省力施肥技術であると考えられた。
●宮崎県総合農業試験場.水稲栽培における被覆尿素肥料の重量減少率による窒素溶出率の推定.2001.農研機構九州沖縄農業センター研究成果情報.
●今智穂美・齋藤生.2022.ナガイモマルチ栽培における肥効調節型肥料の利用.東北農業研究.75.71-72.
●(地独)青森県産業技術センター野菜研究所.2024.ながいもにおける全量基肥栽培の省力効果及び施肥方法.青森県令和6年度参考となる研究成果.