§農業の変革期を迎えて思うこと
チッソ旭肥料株式会社
代表取締役社長 早水 清
§三浦ダイコン産地では何故ダイコン萎黄病が見られないのか?(その1)
野菜・茶業試験場久留米支場
病害研究室長 小林 紀彦
§茶園における芽出し肥「アサヒポーラス」の施用試験
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
§東北地方でのロング施用による水稲無追肥育苗法の普及状況
(育苗肥料とロングの併用による追肥省略での健苗技術)
その1各県(宮城・山形・岩手・青森)の普及技術内容
チッソ旭肥料(株)東北支店
チッソ旭肥料株式会社
代表取締役社長 早水 清
チッソ旭肥料株式会社
代表取締役社長 早水 清

新年明けましておめでとうございます。年頭にあたり, 読者の皆様方にとり,本年が実り多い年でありますよう,心よりお祈り申し上げます。
昨年は内外で大きな問題が起こり,一年がアッと言う間に過ぎ去ったような感があります。湾岸戦争は,アメリカが終始リードしたものの,国連が歴史上始めてその力を発揮して,比較的短期に終息したのは何よりでした。ソ連では市場経済体制への移行が成功せず,民族問題に発展し,多くの共和国が独立し,独立国家共同体への移行が確定しました。そして今,もっとも援助を必要とする国がロシア共和国やその他の共和国になるとは,時代の変化の早さに驚くばかりです。
又,国内経済は長年続いた好景気が「バブル」と消え,景気減退期に入ったと報道されています。本年は国内的にも,国際的にも日本の実力が問われる年になりそうです。
農業界では収穫期の日本列島を襲った台風17~19号が,各地に多大の被害を残しました。野菜の緊急輸入が行われ又,本年度は水田減反緩和などが行われますが,被害に遭われた方々の一日も早い再起を祈念申し上げます。
ウルグアイラウンドの行方は各国の農業情勢の違いを孕みつつ,関税化の方向に踏み出そうとしています。しかし,米の市場開放については,日本の立場を強く主張すべきものと思います。
現在,品種改良によるおいしい米作りや,栽培規模の拡大によるコストダウンなどの努力が実を結びつつあり,日本の米作りも新時代に入ったものと感じております。
また,肥料では“環境にやさしい肥料”といわれるように,農業の生活環境に及ぼす影響も議論されるようになりました。これらの農業の変化は新しい肥料,新しい施肥技術,栽培法を生み出す原動力になるものと予想されます。
ご承知のように,弊社は,長年の研究開発の中から,時代を先取りした機能性商品コーティング肥料(LPコート®,ロング®)を上市し,ご利用いただけるよう努力してきましたが,緩効性チッソ肥料「CDU®」と共に,施肥省力効果に加えて“環境にやさしい肥料”としても,ようやく多くの皆様の注目を集められるようになって参り
ました。
また,硝酸系化成肥料「燐硝安加里®」,泡状化成肥料「あさひポーラス®」,棒状打ち込み肥料「グリーンパイル®」,バーミキュライト床土用資材「与作®」,微生物資材「バイオマザー®」など特色ある商品を開発,販売して参りました。
私共は,変革期を迎えた農業に求められる技術改革の方向を見定めて,これら商品に一層の改良を加え,また新しい商品の開発を行い,ご期待に沿いたいものと念願しております。
発刊以来,皆様に親しまれて参りました本誌「農業と科学」も,内容の充実化をはかり,新しい農業技術や栽培事例の紹介を行い,農業の発展にいささかでもお役に立ちたいと思っております。
本年も,変わらずご愛読いただきますと共に,ご執筆等を通じ,積極的なご意見,ご批判を賜りますようお願い申し上げます。
皆様のご繁栄を心からお祈りして,新年のご挨拶とさせていただきます。
(12月20日記)
野菜・茶業試験場久留米支場
病害研究室長 小林 紀彦
神奈川県三浦半島に位置するダイコン産地は黒潮の影響を受け,しかも冬季が温暖な気候であるため,蔬菜栽培が露地ででき,京浜地域の重要な野菜供給産地である。この地域は江戸時代からダイコンを栽培しており,その形は練馬系の大型で,大正時代に“三浦ダイコン”として呼ばれたらしい。
このように,ダイコンを中心に早堀バレイショ-陸稲またはダイズの輪作体系が長い間とられていた。その後,ダイコン-春キャベツ-スイカの輪作体系となり,今日もこの輪作が続いている(図1)。

昭和55年度から青首系の品種が導入されるや急激に品種交代が行われ,昭和58年度には耐病総太りを中心とした宮重系の青首品種が9割以上占めるようになったという。しかし,宮重系に代わっても萎黄病が発生した話は聞かない。
外国ではFusarium萎ちょう病に対する発病抑止土壌が多く発見されており,日本でも駒田は三重県の鈴鹿市の黒ぼく土壌がダイコン萎黄病に対して発病抑止土壌であることを報告している。また,駒田と筆者は関東,東山地域におけるダイコン萎黄病に対する発病抑止土壌の探索を始めた。
その結果,三浦地域の土壌はダイコン萎黄病に対して発病抑止土壌であることを確認し,その機構について若干検討しているので紹介する。
土壌病害に対する発病抑止土壌とは,土壌病原菌に汚染された土壌に感受性品種を栽培しても発病が低い,あるいは発病程度が軽い土壌を言う。
種々の土壌病原菌に対する発病抑止土壌は世界で古くから,また,数多く知られている。しかし,すべての,または2,3種類の土壌病害に対し,共通して発病を抑制するオールマイティーな土壌は存在しない。そこで,一般的には病害名をつけた発病抑止土壌となる。
ダイコン萎黄病はFusarium oxysporum f. sp. raphaniという病原菌が作物根に侵入し,導管に住み着き,増殖する。やがて,導管は閉塞されて植物は根から水や肥料を吸収できないため,最終的に,植物体は萎ちょう,枯死する。
三浦地帯の代表的な土壌,黒ボク作土,下層土(諸磯統)ならびに褐色火山灰土の下層土(菊名統)および鴻巣土壌,亀山土壌(黄色土)を採取して,それらの原土ならびに各種の有機物を混和した各土壌で毎年1,2作して6年間ダイコン萎黄病の発病推移を比較した。
その結果,施用した有機物の効果よりも土壌そのものの性質が発病によく反映した。すなわち,三浦地域から採取した3種類の土壌,すなわち黒ボク作土(諸磯統),黒ボク下層土,ならびに褐色火山灰土の下層土(菊名統)は他の土壌に比べて毎年発病株率が低く,これらの土壌はダイコン萎黄病に対する発病抑止土壌であるとした(図2)。

ダイコン萎黄病は土壌病害であるため,われわれの目には見えない土壌中で種々の現象が営まれており,それらが集約されて地上部に病徴として現れ,発病として認識される。そのため,発病を誘起する土壌中での微生物と病原菌との相互関係を発病抑止土壌と他の土壌で差があるのか否かについて具象化する必要がある。
まず,三浦土壌と発病しやすい鴻巣土壌間での土壌の性質,すなわち物理的,化学的ならびに生物的性質の違いについて検討した。
表1に示すように,三浦土壌と鴻巣土壌間では物理的性質においてほとんど差が認められなかった。しかし,化学性においては三浦土壌でpHが高く,CEC,Ca,Mg,可溶性ALの含量も多かった。また,各土壌中の微生物を比較すると糸状菌を除く,細菌,放線菌の菌数が三浦土壌で高かった。

数々の作物に大きな被害をもたらし,防除の難しいフザリウム菌は一般に土壌中で厚膜胞子という耐久体を形成して土壌中で生存する。
では,この病原菌の活動が土壌の種類によって違うのか否かについて検討した。
土壌中に生存する厚膜胞子は作物根から分泌される糖やアミノ酸を利用して発芽する。そこで,土壌中での病原菌の活動を観察するため,この環境を人工的に作り出し,また,土壌中の行動を直接的に観察できるよう病原菌の厚膜胞子に蛍光を発するように染色して検討した。
その結果,発病抑止土壌中での厚膜胞子は充分な栄養があっても発芽率が低く,その値は30%以下であり,発芽管も一般に短い。一方,発病が激しい土壊では厚膜胞子は80~90%発芽し,しかも発芽管が長かった。人工土壌ではなく,実際にダイコン根が伸長した両土壌の根圏土壌をとり,同様の試験をおこなっても,上記と同様の傾向を示した(表2)。

さらに,三浦土壌は厚膜胞子の生存にはどんな影響を与えるのだろうか?
三浦土壌と鴻巣土壌に一定量の病原菌を接種し,野外に放置し,その後1週間毎に菌数の推移を測定した。その結果,三浦土壌では時間の経過とともに急激に菌密度が減少するのに対し,鴻巣土壌では菌密度の減少が緩慢で最終の病原菌密度も高い値で落ちついた(図3)。

では,何故三浦土壌では厚膜胞子の発芽が抑制されるのであろうか。
発病抑止土壌と発病しやすい土壌を色々な比率で混合し,厚膜胞子の発芽を比較検討してみた。その結果,抑止土壌の混合割合が多いほど厚膜胞子の発芽が抑制された(図4)。このことは発病抑止土壌中の特定の微生物が発病しやすい土壌に移行し,増殖する可能性は少ないことを示した。

土壌中の微生物と厚膜胞子の発芽抑制との関連を検討するため,三浦土壌をオートクレーブ(120℃)や電子レンジ等で高温処理し,土壌中の微生物を殺した土壌で厚膜胞子の発芽がどうなるか検討した。その結果,殺菌された土壌では,両土壌とも厚膜胞子の発芽を抑制することは出来ない。この結果は土壌中の微生物が厚膜胞子発芽の抑制に関与していることを示している(図5)。

また,このようにして土壌微生物を殺した三浦土壌や発病しやすい鴻巣土壌に新しい微生物を導入してやると三浦土壌では1週間で厚膜胞子発芽を抑制するようになるが,発病しやすい土壌の場合は発芽が正常である(図5)。この結果は三浦土壌は微生物の増殖に好適な土壌環境をもっていることを示しており,土壌中の微生物の密度が高いことが発病抑止と関係あるように思われた。
発病抑止土壌(6.6)のpHを酸性側に矯正(pH4.5位)すると発芽抑制能力がなくなった(図6)。

この現象は土壌微生物のうち,細菌,放線菌等が酸性側で活動しにくくなったためとも考えられるがさらに詳細な研究が必要である。
土壌の微生物が胞子発芽の抑制に関与していることが明らかになったので土壌の微生物のうちどのような微生物が関与しているのかを追究した。まず,土壌の細菌や放線菌の活動を抑止する抗生物質,ストレプトマイシンやローズベンガルを三浦土壌に混和して厚膜胞子の発芽を調査した。その結果,厚膜胞子の発芽抑止性は消失し,胞子の発芽がよくなることが明かとなった(図7)。

他方,土壌中の糸状菌の活動を抑制する化学物質,PCNBやキャプタンを混和した三浦土壌では厚膜胞子の発芽は抑止されたままであった。これらの結果は三浦土壌中の微生物のうち,特に細菌,放線菌が厚膜胞子の発芽抑制に深く関与している可能性を示した。
このように,土壌の微生物が病原菌の活動を制御し,発病の抑制に関与していることが明らかとなった。
次回は,では,この厚膜胞子の発芽抑制が発病抑制とどのように関連し,また,それのみで三浦地域でダイコン萎黄病がみられない原因といえるのか等について三浦地域の農業生態系等も考慮に入れて述べてみたい。
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
近年,生活水準の向上により良質茶の需要が高まり,これに答えるべく良質茶生産のために,多肥栽培が行なわれている。施肥の現状は施肥量が窒素成分で100~120kg/10aであり,施肥回数は春肥2~3回,芽出し肥,夏肥3~4回,秋肥3~4回と年間では9~12回となっている。
健全な茶樹の育成のための適正な施肥管理を行なうためには,茶樹に限らないが,必要な時期に必要な量の肥料を与えることが重要である。つまり,生育周期に応じた施肥管理が必要である。
しかし,現状では,施肥しようとする時期に土壌中にどの程度肥料成分が存在するのか,更に,茶樹の生育に必要な施肥量はどれくらいなのかが分からないため,従来通りの施肥暦に準じて定期的に施肥がなされている場合が多い。これまで茶樹の養分吸収を高めるため,土壌環境の改善,肥料成分の動態把握,施肥方法の改善,緩効性肥料施用試験などさまざまな研究がなされてきた。
一方,消費者のお茶に対する高級化志向にともない一番茶の需要が高まり,荒茶生産額に対する一番茶のしめる割合が静岡県において平成2年度で80.5%と一番茶重視の傾向がますます強くなっている。
茶樹は深根性であるため施肥した養分の肥効が遅い植物である。そこで一番茶に含まれる窒素の来歴を図1に示した。摘採当年に施用した窒素が当年の一番茶に寄与するのは約20%であり,後の約80%は前年またはそれ以前に施用した窒素に由来する。

静岡県においては芽出し肥は新芽が生育が伸長している3月下旬から4月上旬にかけて一番茶に対する硫安などの速効性肥料を窒素として10a当り8~12kg程度施用する。
芽出し肥の各茶期への寄与率を図2に示した。一番茶に対する芽出し肥の寄与率は4%程度である。さらに,芽出し肥として施用した窒素は,一番茶後,二番茶,三番茶,秋芽へと大部分新芽に送られる。

この寄与率4%という数字は一番茶の生産費のしめる割合が極めて大きい茶栽培にとって重要であるといえる。
従来より春肥や芽出し肥の施用時期は,地温が上昇中とはいえまだ低く,肥料の分解は遅いうえに,まとまった雨も少ないことから肥料成分の根系に達するのが遅れ一番茶にたいする養分吸収が十分でない茶園があるのではないかということが懸念されていた。
そこで速効性肥料である「アサヒポーラスS660」の芽出し肥としての施用が,茶樹の一番茶期新芽の生育,収量及び一番茶の品質に及ぼす効果について検討した。
静岡県榛原郡菊川町倉沢1706-11 静岡県茶業試験場茶園

1区14.4平方メートル(9m×1.6m) 2反復
品種:やぶきた40年生
土壌:牧の原赤黄色土壌
施肥:平成元年度の施肥(窒素80kg,リン酸27kg,加里40kg/10a)
春肥(窒素16kg,リン酸13kg,加里16kg/10a)を平成2年3月2日に施用済み
アサヒポーラス及び硫安施用による土壌溶液のECを測定するために土壌埋設型ECセンサーをうね間の中央20cmの深さに各区3本設置した。両処理区でのECの推移を図3に示した。

その結果,施用前のECは2.1ms/cmであったが硫安施用に伴うECの推移は,施用3日後では2.2,10日後で2.4,21日後で2.9,最終日の4月30日では3.1と,施用によるECの緩やかな上昇が認められた。一方,アサヒポーラス施用区では,施用3日後では3.6,10日後で4.4,21日後で5.6,最終日の4月30日では8.1と,施用によるECが硫安に比べて高く推移した。
この原因としては①アサヒポーラスが,従来から速効性といわれている硫安よりも溶解が速い,②それにともなって硝酸化成も速い,③降雨により移動する硝酸態窒素を含有(2.5%)しているなどが考えられる。
一番茶新芽の生育調査の結果を表1に示した。

一番茶芽の生葉収量はアサヒポーラス施用区で10a当り559kg,硫安施用区536kgとアサヒポーラス施用区が硫安施用区にくらべて多く,アサヒポーラス施用による増収効果が認められた。
また一番茶芽の生育を枠摘み(20×20cm枠,各区6枠)により調査した。一番茶収量構成要素についてみると,両処理区間で新芽数,新葉数,百芽重では大きな差は認められなかったが,アサヒポーラス施用区の摘芽長が46.1mmと硫安施用区の42.9mmに比べて大きい傾向が認められた。また,アサヒポーラス施用区の出開度(出開いた新芽の割合)が硫安施用区に比べて低い傾向も認められた。
茶の品質の良否は官能審査法によってなされる。荒茶(一番茶)品質の審査の結果を表2に示した。その結果,形状,色沢などの外観審査ではアサヒポーラス施用区28.7点,硫安施用区28.3点と差は認められなかった。また香気,滋味,水色などの内容審査においてもアサヒポーラス施用区43.9点,硫安施用区43.2点と差は認められなかった。

荒茶(一番茶)の成分分析結果を表3に示した。その結果,全窒素濃度はアサヒポーラス施用区の濃度が硫安施用区に比べ高かった。また遊離アミノ酸濃度も全窒素と同様に,アサヒポーラス施用区の濃度が硫安施用区に比べ高かった。

(1)「アサヒポーラスS660」の芽出し肥としての施用が,茶樹の一番茶期新芽の生育,収量及び一番茶の品質に及ぼす効果について検討した。
(2)ECセンサーによるECの推移はアサヒポーラス施用区が硫安施用区に比べて常に高く推移した。
(3)一番茶の収量及び生育調査の結果,生葉収量でアサヒポーラス施用による増収効果が認められた。アサヒポーラス施用区の一番茶芽の長さが硫安施用区に比べて長い傾向が認められた。
(4)荒茶審査結果では,外観審査及び内容審査において両処理間に差は認められなかった。
(5)荒茶の成分分析結果では,全窒素濃度,遊離アミノ酸濃度共に,アサヒポーラス施用区の方が硫安施用区に比べ高かった。
(6)以上の結果,アサヒポーラスの肥料成分は,硫安に比べて下層への移動が速いため,芽出し肥として有効であると考えられた。また速効性が高いため芽出し肥前に施用する春肥の配合肥料の素材として使用した場合の施用効果も期待される。
チッソ旭肥料(株) 東北支店
東北地方は農作物の中で米の占める割合が大きく,特に良質米が求められている今日では,東北地域の米作は全国の中でも益々重要な地位になっている。現在,農業情勢は生産性の向上化が益々求められており,その中で省力化は労働力不足の現状では特に重要である。
この様な状況下で水稲栽培での施肥の省力化技術は農村社会からの要望ともなっており,それらの需要に応えられる施肥法としての対応は追肥回数の軽減技術や全量基肥施用技術といえよう。
この様な省力的な施肥技術は現在コーティング肥料の開発により可能となっており,本田での追肥一回施用,全量基肥一回施用等に対応できる資材が流通し,年々普及拡大している。例えば,弊社のLPコート等がそれであり,追肥関係ではLPコート40号,70号1)2),基肥関係ではLPコート100号3~10)が代表的なものとして上げられる。
また,育苗について見ると,東北のような寒冷地では本田移植後の活着の良好性と初期茎数の確保は収量の安定の上で大事であり,昔から「苗半作」と言われている様に苗作りには特に力を入れてきた。その為,健苗育成を目指して,各県の指導機関,農協,農家の方々は毎年努力をされている。
健苗育成を目指す上で,肥培管理は最も重要なことであり,その中で肥料の効かせ方と温度,水分管理等が重要と言えよう。この目的に添いながら育苗の施肥関係で省力化を図りたいのは追肥作業の部分であるが,この点についてもコーティング肥料の利用によって追肥省略での健苗育成が可能となってきている。
この追肥省略での健苗育成について,東北の各試験場で被覆燐硝安加里のロングを対象として研究開発が行われ,慣行の育苗肥料との組み合わせについての詳細な試験が実施された。即ち,この検討は従来から数県で独自に検討されたものに加えて全農の連絡試験11)としても昭和63年と平成元年の2年間に亘って検討され実用化が図られた。
その結果,育苗肥料とロング424-M100の組み合わせで実用上十分使いこなせ,且つ,良質の苗が得られる事が確認され,県の稲作指導基準や普及技術となっている。本報告では,追肥省略(無追肥)での健苗育成技術の開発について,東北数県で検討された結果の概要を2報に分けて紹介する。
今回は,宮城・山形・岩手・青森各県で実施されている普及技術の内容と基礎的データを紹介し,次回は農協農家の使用実態のアンケート調査結果及び応用的な使用方法について述べたい。
平成2年5月「普及に移す技術」(第59号〉と平成3年度3月「稲作指導指針」に取り上げられているがその内容は次のようである。
平成3年度3月「稲作指導指針」の内容は次のようである。
「第2章 稲作安定生産のために(基本技術の徹底)
5.健苗の育成と適期田植えの励行
(4)省力育苗技術
ロ 中苗の無追肥育苗法
中苗育苗では,育苗期間に2回程度の追肥作業がある。大量に育苗する場合は,多くの作業を要する。このような場合,育苗基肥に慣行の速効性肥料と被覆肥料を併用し床土に混和することにより2回の追肥作業が省略できる。
(イ)使用する被覆肥料
水稲育苗用「ロングL-100」
(肥料成分:窒素-燐酸-加里 14-12-14)
(ロ)使用量及び使用方法
育苗1箱当たり,速効性肥料(育苗専用肥料10-10-10)を窒素成分1g(製品で10g)
水稲育苗用「ロングL100」を窒素成分で7~10g(製品で50~70g)を育苗床土に均一に混和する」
(注)ロングL100は平成3年7月から普通品より粒径の小さい中粒品への切り替わりにより名称が「ロング424-M100」と変更になっている。
育苗肥料とロングの組み合わせ条件での試験結果は表-1のとおりである。

(「普及に移す技術・平成2年」の試験データを引用)図-1は当方でまとめたものであり,苗箱当たりの育苗肥料N0.5,1.0,1.5gとロング424-M100のN5,7,10g(現物量35,50,70g)の組み合わせ条件の結果について,草丈,N含有率,充実度の関係を表している。

これらの結果から,対照区(慣行,追肥2回)と同等の草丈,N含有率,充実度となるのは,育苗肥料N1.0gとロング424-M100のN7~10g(現物量50~70g)の組み合わせであることがわかる。
育苗肥料がN1.5gの条件では草丈が伸び充実度が小さくなる。
平成2年3月「山形県稲作指針」に取り上げられてお吹,その内容は次のようである。
「第3章 高品位米の安定生産
4.健苗の育成と適期移植
(3)省力的な育苗技術
ウ 追肥の省略
中苗育苗では育苗期間に2回ほどの追肥作業がある。特に,トンネル育苗などでは作業労力を要する。
このような場合に緩効性肥料を併用することにより追肥作業を省略することが出来る。
施用方法は,幼苗ではN成分で速効性肥料1.0g+被覆燐硝安加里(ロング)7g,中肥で+10gを床土に混合する。この方法で追肥がはぶけ窒素濃度の高い良苗が得られる。
ただし慣行性肥料を多くすると育苗後半の苗丈が伸びやすいので,適量を守り温度管理にも注意するとともに使用床土pHは厳守する」
昭和63年と平成元年の2年間,育苗肥料とロングの組み合わせ条件について,稚苗と中苗で詳細な試験を行っている(農業試験場本場,庄内支場)。
結果は上記2-1の宮城県と同様であり,育苗肥料1.5gにすると草丈が長くなり,充実度が低くなることが確認されている。
昭和60年に参考事項として「置床施肥に依存しない中苗育苗法」が発表されている。この内容は育苗肥料とロング424-L70を組み合わせて施用するものである。それ以後,諸情勢を加味し,且つ岩手県,経済連,くみあい肥料(株)が十分な検討を加えて,農家の方が使い易いよう配合肥料(育苗肥料とロングの配合品)として,平成元年より販売を開始している。
平成2年度に「指導上の参考事項」として,再度発表されている内容は次のようである。
「置床施肥に依存しない中苗育苗法:(一部改定)
(農試環境部.県南分場.県北分場)
昭和60年度の参考事項「置床施肥に依存しない中苗育苗法」の一つとして燐硝安加里コーティング肥料(L70)を用いた方法を提出しているが,その後この肥料が大粒で土と混合しにくく,溶出も不安定であることが指摘され始めた。
そこで細粒及び溶出の安定化を目的として,新しい燐硝安加里コーティング肥料(L100)が開発された。同時にこの緩効性肥料をブレンドした育苗肥料が開発されたので,これを利用した箱内1回施肥による育苗法を検討した。その結果を,昭和60年度の参考事項の一部改定として指導上の参考事項に供する。
1)燐硝安加里コーティング肥料(緩効性肥料)を用いる方法
速効性肥料にL70単体60~100gを上乗せする従来の方法に変えて,L100入り中成苗専用肥料(コーティング肥料<細粒>14-12-14,100日タイプ入り中成苗専用肥料<複合10-10-10-苦土1>の箱内1回施用に訂正する。

1)県南地帯の沖積水田作土では徒長を助長する恐れがあるので用いない。
2)床土と中成苗肥料を均一に混和するため,ミキサ一等の利用が望ましい。
3)施用量を守るために,覆土への混和は避ける。
4)中成苗肥料は育苗全期間を通じて成分が溶出し,高温及び過湿状態では伸長し易くなるので育苗期間中は,特に高温過湿にならないよう注意する。
5)その他の育苗管理は,昭和60年度参考事項の留意点に準ずる。
1)場内成績(平成2年度,岩手農試本場,県南分場,県北分場)
供試肥料
慣行区:硫安,重過石,塩加を単肥で施用
専用肥料区:コーティング肥料<細粒>14-12-14,100日タイプ入り中成苗肥料(複合10-10-10-苦土1)」
2)試験データ(平成3年度「指導上の参考事項」の試験データを引用)
ロング入り中成苗肥料の配合内容は表-2のとおりである。

試験で専用肥料を箱当たり60g,80g,100g施用した場合の速効性成分とロング由来の成分量の内訳を表-3に,本場等3ケ所で実施した試験での苗の調査結果を表-4に示す。


昭和58年に指導奨励参考資料として発表され,ロング単体での使用と配合品で普及が始まった。平成2年に粒径の中粒への変更に伴い再度の試験を行い,平成3年より,中粒ロング入り育苗専用肥料の普及が始まっている。
主たる内容は次のようである。
「昭和58年度指導奨励参考資料(青森県農業試験場)
〔箱育苗における被覆複合燐硝安加里(単体および同単肥配合)の施用効果〕
本田初期成育を確保することが,本県稲作の課題となっている。そのため,尿素の移植直前箱施用などが有効であるが,天候不順により,施用後の移植日数が長びくと濃度障害が発生するなどの問題があった。
最近,さまざまな緩効性肥料が出現しているが,育苗に緩効性肥料の一種である被覆複合燐硝安加里を使って,育苗の苗質の向上と本田への肥料成分のもち込みによる本田初期活着の促進をはかれないものかについて検討して,次のような成績が得られたので,指導奨励に供した」
イ ロング100日の単体のみの使用
苗箱にロングのみを使用する方法である(速効性肥料分なし)。ロングやのN成分量で15~20gの施用量であり,育苗期間中の溶出(約30%)の残り(約70%)を本田にもち込み初期活着を促進する。
ロ 中苗専用複合肥料(成分10-4-10)
育苗肥料とロング100日を配合したものである。苗箱当たりの施用量はN成分量で10~15gである。
上記,イ.ロ.のいずれの場合も本田の基肥量は減ずる必要はないという指導参考内容となっている。
上記(1)の普及内容のロングが成分の違う14-12-14に変更されたことと,粒径のより小さい中粒品への変更に伴い,平成2年度に再度の試験が実施された。
〔箱育苗における被覆肥料とその配合肥料の肥効試験〕として報告された。
イ ロング424-M100(14-12-14)単体での施用。
ロ 新ロング入り苗箱専用肥料(配合品11-11-11)の施用。
ロング単体ではN施用量で10~30g/箱,新ロング入り苗箱専用肥料ではN5~15g/箱で試験を行い,昭和58年の発表内容との整合性を確認している。
平成3年より,新ロング入り苗箱専用肥料(11-11-11)が経済連取扱品となり普及し始め,苗箱当たりの施用量は80~100gとなっている。
上記2の各県の普及技術に記載されているロングは424-L100となっているが,平成2年より,水稲育苗の本格的普及への対応として,ロングの粒径を従来品より小さい中粒品とし,名称も中粒品を意味する「ロング424-M100」に変更している。
中粒品「ロング424-M100」の肥料分の溶出は従来の製品(ロング424-L100)と同じであり,現在,東北の各県で販売されているものはこの製品である。
上記2の各県の普及技術に準じた内容で農家がより使い易く,また使用時に間違いのないようにする目的で,各県の経済連で配合品(育苗肥料とロング424-M100の配合品)を検討し,岩手県では,平成2年より,宮城県と青森県では,平成3年よりそれぞれ販売を開始している。また,山形県でも平成4年よりの販売開始を目指して準備を行っている。
現在,販売されている各県のロング入り水稲育苗専用肥料の主な内容は表5のとおりである。

平成3年からの本格的な普及を行った宮城県,山形県,岩手県での使用実績は販売量から推定すると約350万箱となり,農家や農協の評価も良好であった。現在,農協では,平成4年の肥料注文のとりまとめが行われているが,平成3年の好評さを裏付けるような情勢とのことである。
(佐藤健)
1)水稲に対する被覆肥料を利用した省力的追肥法:田中信幸
山形農試研報20:31-48(1985)
2)山形県における水稲の成育収量に対する地力窒素の意義と溶出調節型肥料による省力的追肥技術の確立:田中信幸
3)寒冷地における緩効性窒素肥料の利用に関する研究
第1報 被覆尿素入り肥料利用による水稲省力栽培の可能性
・千葉泰弘,君成田陛,遠藤征彦,高橋和吉「東北農業研究」37号53~54(1985)
4)同上
第2報 県南部沖積土でのササニシキに対する被覆尿素の肥効
・小野剛志,清原悦郎,伊藤公成「同上」37号55~56(1985)
5)同上
第4報 多湿黒ボク土における全量基肥稲作の生育と養分吸収
・千葉泰弘,新毛晴夫,島津了司,遠藤征彦,小管裕明「同上」39号57~58(1986)
6)同上
第5報 被覆尿素を利用した全量基施一回施肥稲作の収量
・新毛晴夫,島津了司,宮下慶一郎,小管裕明,遠藤征彦「同上」40号73~74(1987)
7)同上
第6報 被覆尿素を利用した側条施肥の水稲の生育・収量
・島津了司,千葉泰弘,新毛晴夫,小野剛志「同上」40号75~76(1987)
8)同上
第7報 水稲ササニシキの追肥省略稲作における緩効性窒素配合割合
・小野剛志「同上」40号77~78(1987)
9)水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP-S100)を利用した全量基肥施肥技術
・上野正夫
その1.理想的窒素吸収パターンとシュミレーションについて 農業と科学 11月号P6~8 1990
10)水稲に対する緩効性被覆肥料(LP100,LP-S100)を利用した全量基肥施肥技術
・上野正夫
その2.窒素吸収シュミレーションに及ぼす土壌窒素並びに施肥窒素の利用率について 農業と科学 12月号P1~4 1990
11)(硝酸系被覆複合肥料)ロングの育苗箱施用による健苗育成試験成績書
(第1集:東北地域)平成2年7月 全農 肥料農薬部 肥料技術普及課