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第778号 2026(R8).02-03発行

PDF版はこちら 第778号 2026(R8).02-03発行

 

 

水稲育苗箱専用肥料「苗箱まかせ」を用いた省力施肥技術

(地独)北海道立総合研究機構 農業研究本部
中央農業試験場
水田農業部 水田農業グループ
齋藤 優介

1.はじめに

 北海道における水稲栽培は4月から5月にかけて播種・移植作業が集中する。北海道では中苗箱マットと成苗ポットが主な育苗様式で,水稲育苗は置床(苗代用地)の準備や播種作業に加え,育苗ハウス内の温度調節や追肥作業などの苗の生育管理に注意する必要がある。並行して圃場準備も行うが,近年の作付面積の増大も相まって生産者の労力・負担が大きくなっている。また,圃場における全層施肥(耕起→施肥→混和)は,気候や土壌水分によって制約がある作業である。

 東北地方などではジェイカムアグリ株式会社から発売されている育苗箱専用肥料「苗箱まかせ」を播種と同時に育苗箱に施用し,移植時に苗とともにかき取って肥料分を本田に持ち込む「水稲育苗箱全量施肥法」が普及している。「苗箱まかせ」は育苗期間中にわずかに肥料成分が溶出し,これにより育苗期間中の追肥が不要となり,加えて本田施肥が不要となる技術である。

 一方,寒地である北海道において,低温による初期生育不良が懸念される場合,全層施肥の一部を移植時に側条施肥する組み合わせ施肥が指導されている。過去に被覆尿素肥料「LPコートS60」を育苗箱施肥した試験が実施されており,育苗箱施肥と側条施肥を組み合わせると,全量全層施肥と比較して約20%の窒素減肥条件下でも水稲の生育は優る傾向にあった(笛木ら 2000)。北海道における「苗箱まかせ」の導入事例は少ないが,初期生育が重要となる北海道では,前出の「LPコート」と同様に,移植時の側条施肥と組み合わせることにより,育苗時の追肥作業と本田での全層施肥作業の省略が期待できる。

 本稿では,「苗箱まかせ」を育苗箱施肥することで,育苗期間中の追肥省略と全層施肥の代替が可能な省力施肥技術について紹介する。

2.育苗箱専用肥料「苗箱まかせ」の窒素溶出特性

  「苗箱まかせ」は,施肥直後の肥料成分溶出を極少に抑え,根との接触を可能とする育苗箱専用肥料である。育苗期間中に肥料成分が微量に溶出するが,これが育苗時の追肥に相当し,追肥作業を省略できる。「苗箱まかせ」は,気象条件や栽培時期により窒素溶出タイプを選択することが可能で,北海道以外では80%溶出期間が100日や120日の溶出タイプが使用されている。「苗箱まかせ」の北海道への導入にあたっては,寒地水田に対応できる溶出タイプが必要である。北海道の水稲栽培は,府県より寒冷でかつ栽培期間が短いため,100日や120日タイプでは必要な時期までに肥料成分が溶出されないと推測された。そこで,溶出の早い40日ならびに50日タイプについて北海道への導入が可能か試験を行った。

 まず「苗箱まかせ」の窒素溶出特性を調査した(北海道岩見沢市,2022年)。試験は,育苗期間相当期間中は育苗箱に,移植後に相当する期間は本田の深さ約5cmに埋設し,試料を定期的に回収し,尿素態窒素の残存量を測定することで肥料成分の溶出を分析した。その結果,育苗期間中において「苗箱まかせ」からの窒素溶出率は極めて少なく,積算地温633℃(播種後日数36日)では40日タイプは4.1%,50日タイプは0.7%であった。移植後に相当する期間中は窒素溶出率が増加し,40日タイプは幼穂形成期前には80%に達していたが,50日タイプではそれより少ない60%程度であった(図1)。

 両タイプとも全層施肥由来の窒素を水稲が吸収する時期に溶出しており,全層施肥の代替として遜色の無い溶出パターンを示したと考えられた。なお,同一タイプの被覆肥料の窒素溶出率と積算地温をプロットすると,年次にかかわらずほぼ一致した溶出パターンであることが示されている(金田ら 1997,北見農試 2022)。

3.育苗箱施肥が苗形質におよぼす影響

  「苗箱まかせ」は育苗期間中にわずかに肥料成分が溶出し,これにより育苗期間中の追肥が不要となることが期待される。そこで,「苗箱まかせ」を育苗箱施肥し,追肥を省略した場合の苗形質について調査した。本試験では中苗箱マットにおいて,「苗箱まかせ」の40日または50日タイプを床土上に層状施用した(表1)。

 いずれも4kgN/10a相当量,「苗箱まかせNK301」の場合は1枚当たり440gを,「苗箱まかせN400」の場合は1枚当たり330gを育苗箱に施用した。灌水,播種(100g乾籾/箱),覆土の工程を経て育苗ハウスに置床し,30日間育苗した。なお,供試品種は‘ななつぼし’である。また,北海道の中苗箱マット育苗において,育苗期間中に箱1枚当たり窒素1g相当を2回追肥することが慣行とされ,これを本試験における対照区とした。

 表2に「苗箱まかせ」を施用し追肥を省略した場合の水稲苗の形質を示した。育苗箱施肥したときの苗形質(移植時の草丈,第一鞘高,葉数,乾物重)は,追肥を実施した対照区とほぼ同等だった。しかし,苗の窒素含有率は対照区と40日タイプがほぼ同等だった一方で,50日タイプはやや低かった。

 北海道では,生育初期に窒素の肥効を高め初期生育を向上することが収量確保のみならず,良食味米(低タンパク)生産の観点からも重要とされる。40日タイプでは,苗の窒素含有率が対照である追肥2回の処理に近かったことから,追肥を省略しても相応の窒素が「苗箱まかせ」から溶出していたと考えられる。移植後の低温遭遇の可能性を考慮すると,窒素栄養状態として良好な40日タイプが北海道での使用により適していると考えられた。

 マットの強度は「苗箱まかせ」を施用した場合でも十分確保され(表2),最も強度が弱かった年次においても機械移植に支障がないとされるマット強度2.0kgf(高橋ら 2017)を超えていた。また,施肥量は1000g/箱までは実用上支障が無いとされており(吉田ら 2014),北海道で想定される育苗箱施用量の範囲では対応可能と考えられた。なお,中苗マット苗の育苗日数(30日間)では,苗の濃度障害は確認されなかった。

 以上から,「苗箱まかせ(特に40日タイプ)」による育苗箱施肥は,移植時の苗の形質や窒素含有率が慣行育苗と同等になり,育苗期間中の追肥省略が可能と判断した。

4.育苗箱施肥による本田全層施肥の代替について

 「苗箱まかせ」を育苗箱施用し,全層施肥(4kgN/10a相当)をこれに代替した場合の本田での生育や収量性を対照区(慣行栽培,全層+側条施肥)と比較した。供試品種は‘ななつぼし’で施肥概要は表1に示す。なお,全層および側条施肥とも供試肥料はBB水稲側条444(14-14-14,ホクレン肥料)である。

 結果を要約する(表3)と,幼穂形成期の生育は対照区とほぼ同等であり,側条施肥により水稲の生育初期に必要な窒素養分を供給できたと考えられた。さらに,幼穂形成期以降の生育や収量,品質もほぼ同等であったことから,生育後期に必要な窒素養分を「苗箱まかせ」から供給できたと考えられた。40日タイプおよび50日タイプを比較すると,幼穂形成期以降の生育や収量に差が認められず,本試験の条件ではほぼ同等の肥効であった。また,いずれのタイプとも収量性は対照区と有意差が認められず,タンパク質含有率も対照区と同等であった。

 以上から,「苗箱まかせ」の育苗箱施肥は,側条施肥と組み合わせることで本田における全層施肥を代替できることが示された。なお,詳細は割愛するが,「苗箱まかせ」を側条施肥に代替した結果,幼穂形成期の生育(草丈,茎数,乾物重)が劣る傾向であった。したがって,「苗箱まかせ」の育苗箱施肥は側条施肥の代替にはならないと考えられた。

 他方,本試験におけるリン酸とカリ施用については,表1に示すように,対照区と「苗箱まかせ」試験区の施肥量を一致させていない。普及指導上は土壌診断に基づいた施肥設計を推奨している。しかし,「苗箱まかせ」でリン酸やカリの施用量に満たない場合,別途全層施肥することになるが,これは実作業の省略化にはならない。そのため,3要素の全層施肥を省略するためには,複合肥料を用いて側条施肥を実施する必要がある。特にリン酸については水稲の初期生育に重要であるが,この時期は土壌の還元化が進んでおらず,土壌由来のリン酸供給が少ないと考えられる。したがって,苗の近傍に局所的に施肥する側条施肥は効果的と考えられ,土壌診断に基づきリン酸およびカリを充当できる肥料銘柄を選択することが望ましい。

5.育苗箱施肥による作業・物材コスト低減効果

 以上より,北海道において「苗箱まかせ」による育苗箱施肥が,育苗期間中の追肥と本田における全層施肥を代替・省略できることが示された。そこで,育苗箱施肥を行うことで,どの程度作業時間や物材費が変化するか試算した。なお,試算に当たり北海道農業生産技術体系(第6版)を参考とした。

 作業時間は,本田1ha当たり0.6時間の追肥作業,1.9時間の全層施肥作業(施肥並びに混和),あわせて2.5時間程度の作業時間が縮減できると試算された。次に,育苗箱施肥の導入に必要な物材費を算出したところ,本田3haに導入すると仮定した場合,「苗箱まかせ」と播種時に据え付ける施肥ホッパー購入費の合計は,追肥と全層施肥に必要な肥料代を下回ると試算された(表4)。北海道の水稲生産者のうち,おおよそ8割以上が3ha以上を作付けていることから,生産者の多くは育苗箱施肥導入により物材費を低減できると試算された。

6.終わりに

 プラスチックを使用した被覆肥料は,作物の生育に応じて肥料成分が溶出するため,地下水汚染の抑制や農作業の効率化に寄与してきた。しかし,近年では被覆肥料の被膜殻が,水系に流出することによる環境への影響が懸念されている。肥料関係団体らは,令和4年に「緩効性肥料におけるプラスチック被膜殻の海洋流出防止に向けた取組方針」を公表し,
①被覆肥料にプラスチックが含まれていることの周知,
②プラスチック被覆殻の農地からの流出抑制対策の実施,
③新技術の開発と普及によるプラスチック被膜に頼らない農業の実現
を取組方針とした。また,農林水産省も,使用済みプラスチックの適正処理,排出量の抑制,海洋への流出防止の取組の周知等を行っている。本技術に使用する「苗箱まかせ」もプラスチックを含む被覆肥料であるため,被膜殻の水田からの流出抑制対策(自然落水により水尻からの流出を抑制する「浅水代かき」や強制落水時の流出を抑制する「捕集ネットの使用」など)を講じた上で活用してほしい。

引用・参考文献

●笛木信彦・今野一男・田中英彦.
 育苗箱施肥を利用した水稲の減化学肥料栽培.北海道立農試集報,79,51-58(2000)

●金田吉弘・土屋一成.
 育苗箱全量施肥による不耕起移植水稲における窒素の利用率と気象変動の関係.土肥誌,68,112-115(1997)

●北見農試.
 移植たまねぎに対する肥効調節型肥料を用いた分施省略技術.令和4年指導参考事項(2022)

●高橋行継・栗田春奈・柴田一輝・戸塚悠介・矢口真幸.
 プール育苗条件での水稲育苗箱全量基肥栽培における育苗箱内施肥量の検討.日作紀,86,258-266(2017)

●吉田光二・上野正夫.
 図解「苗箱まかせ」を使いこなすためのハンドブック東北版.ジェイカムアグリ(2014)

●北海道農政部.北海道農業生産技術体系第6版(2024)

●北海道農政部.北海道施肥ガイド2020(2020)

 

 

「食」と「農」のこれから
食料問題4 お米の価値

株式会社ファーム・フロンティア
取締役会長 藤井 弘志

1.イネの一生(お米ができるまで)(図1)

 イネの一生は次の世代に最低限1粒の種子(いのち)をつなぐ営みです。春に播種された種籾が秋にはたわわに稔る稲穂になるように,農家の方は努力を重ねています。イネの生育過程は大きく分けて体をつくる栄養生長期と子孫を残す生殖生長期の2つに分けられます。

 まず種もみをスムーズに発芽させるために,塩水選,種子消毒,浸種,催芽などの作業を行います。田植え前の育苗期は稲作において「苗半作」といわれるほど重要な時期です。水管理や温度管理を適切に行わないと苗が枯れてしまったり,病気になったりすることもあります。田んぼに植えられた苗が新しい根を伸ばし(活着),茎が増える分げつ期になります。茎が一番多くなる最高分げつ期を境に生殖生長期に移ります。

 茎の下の方に穂のもとになる幼穂ができ始めます。幼穂は約ひと月かけて止葉の間から顔を出します。出穂すると開花し自家受粉を行います。イネの花は小さく,花が咲いている時間はごくわずかなので,一般の人にとってイネの花を見る機会は多くないと思います。この時期に低温になると受精できずに,籾が青いままになってしまうこともあります(障害型冷害による不稔)。また,35℃以上の高温でも不稔リスクが増します。受精したときは,籾の中は空っぽですが,徐々にでんぷんが蓄積されていき,成熟期を迎えます。籾の発達過程でも,気象条件や生育条件などが悪いと,発育停止,未熟粒になってしまうこともあります。美味しいお米ができるまでには長い道のりをたどっているのです。

2.食味の話

  お米を選ぶ際に,何を重視するでしょうか。産地や価格も大きな条件ですが,美味しいお米を食べたいという人が多いと思います。日本穀物検定協会が毎年発表する「食味ランキング」があり,産地や品種ごとに,試験官が食味試験を行います。「外観」「炊飯光沢」「香り」「味」「粘り」「硬さ」の6つの項目について,基準米と比べて格付けをします。特に良好とされる「特A」の評価を目指して,各県,各地域で取り組んでいます。有名なところでは「新潟県魚沼産のコシヒカリ」があり,平成29年に特AからA評価になったのを除いて,連続「特A」評価を受けています。

 近年の高温気象はお米の食味にも大きな影響を与えています。胚乳の肥大過程で高温になると白未熟粒や胴割れ粒の発生が増加します。白未熟粒はデンプンの蓄積不揃いで隙間があるため,お米を水に浸けたときの吸水が早く,炊きあがりがべちゃっとした食感になってしまいます。胴割れ粒は精米時に割れてしまい,外観が悪く,食味も劣ります。

 食味計によるお米の評価要素として,お米の中のタンパク質含有率が低いと良食味米という評価になります。タンパク質含有率を低くするために施肥窒素量を抑えるという方法がとられます。しかし,この方法は地力低下を招き,高温や強風などによって後期凋落し,「やせ米」となってしまいます。

 高温登熟条件下における食味向上戦略としては,イネの光合成能を向上させ,㎡籾数を適正範囲内にコントロールして,登熟(登熟歩合,千粒重)を向上させることが重要といえます。もう一度産米の粒張りを見てみましょう。お米は長さ→幅→厚みの順に大きさが決まります。「やせ米」になると炊飯したときのうまみ成分である保水膜が少なく食味も低下します。

 米のタンパク質濃度を抑える方法の一つとして,粒張りを良くすることがあります。米粒のタンパク質含有率と千粒重との関係を見ると,千粒重が大きいほどタンパク質含有率が低下する傾向です。一粒の大きさが増すと,米の中のデンプン割合が多くなるため相対的にタンパク質濃度が低くなるのです。米粒中のタンパク質のイメージを図2に示します。窒素(タンパク質)はピンクの丸で示されます。窒素吸収量も籾数も同じだとすると,よく実った米(千粒重が大きい米)は,千粒重の小さい米に比べて米粒中のタンパク質の割合が小さいことがわかります。すなわち,粒張りのよいずっしりとした米はタンパク質濃度が低く,美味しい米だといえます。

 また,分げつ期別のタンパク質含有率は,早期に現れる低位分げつでタンパク質含有率が低くなっています。さらに一枝枝梗より二次枝梗のお米の方がタンパク質含有率は高くなります。高次分げつのお米(後で発生する茎からできた穂に着生)はタンパク質濃度が高くなります。適正な籾数になるように管理することが大事で,後で出てくる籾を出さないようにすることが美味しい米につながります。

3.これからのお米

(1)多様化するお米

 主食であるお米を病気や体質が原因で十分に食べられない人のために,特定の成分を減らしたお米もあります。糖尿病の人のためには難消化性デンプン(レジスタントスターチ)の多いお米,腎臓病の人のためにはタンパク質を減らしたお米が開発されていて,疾病予防等に利用できます。グルテンを含まないので,小麦アレルギーの人に対しても米粉で対応できます。

 大手米菓メーカーが開発したお米由来の乳酸菌K-1が整腸作用や肌状態の改善に効果があるとして,サプリメントや食品などに利用されている例もあります。
 また災害時や備蓄用の食事としてアルファ米やレトルトご飯など,すぐに食べられる形で保存しておくと非常時に役立ちます。

 米粉の製粉技術が進み,粒子の細かい米粉が製粉できるようになり,団子や煎餅などの菓子だけでなくパン,ケーキなどへの利用もできるようになりました。米粉の特徴としては,粉同士がくっつきにくく,ダマになりにくい,水の吸収率が高くしっとり・もっちりした仕上がりになる,油の吸収率が低く揚げ物が低カロリーになる,などがあります。このような特徴を生かして米粉のおいしさを広め利用拡大につなげていきたいものです。

 食用以外での利用としてはライスエタノールやプラスチックなどに加工する技術も開発が進んでいます。

(2)「おにぎり」ブーム

 和食がユネスコ無形文化遺産に登録され,世界的にも和食が注目されています。和食そのものが健康的な栄養バランスに優れていることに加えて,自然の恵みや旬の食材を生かし,独特の調味や保存法があること,年中行事などとのかかわりが理由となっています。食を含む生活スタイルが急激に変化し,昔ながらの和食を中心とした食生活が少なくなっていますが,今後も日本人が日頃の生活の中でこの食文化を伝統として伝えていく必要があります。

 「おにぎり」は手軽な食事として馴染み深いものであり,お弁当の定番といえます。古くから親しまれてきたおにぎりですが,近年おにぎりブームが加速し,おにぎりの専門店が増えているということです。おにぎりは海外でもブームになっていて「ONIGIRI」として人気上昇中です。おにぎりは塩だけの味付けでも良いし,様々な具を入れることもできます。サンドイッチと同じような感覚でおにぎりを食べているのかもしれません。片手で食べられ,手を汚さない食事はスマホ世代にも最適です。また具材や作り方を選べば,多種多様な食生活や宗教を抱える海外でも受け入れられます。

(3)イネの声を聞く

 古くから稲作を中心としてきた日本には水田や稲に関する言葉が伝えられています。

・我田引水:他人の田んぼのことは考えずに自分の田んぼだけに水を引き入れることから,自分に都合が良いように考えたり物事を行ったりすること。
・稔るほど頭を垂れる稲穂かな:稲穂に実が入ると重くなり頭を下げることから,人間は学問や徳が深まるほど謙虚になるということ。

 これらの言葉のように稲作を引き合いにして,実は人間のことを表していることが多くあります。

 米という漢字の由来にもなっているようにお米ができるまでには八十八の手間がかかるといわれています。一般には「田植え」と「稲刈り」が稲作のイメージですが,その他にも生育ステージごとに,天候などを考慮した適切な管理を行います。農家の人はお米の収量を増やしたり品質向上させることを目指して,日々工夫や努力を重ねています。一年に一度しか栽培できず,さらに天候などの条件は毎年異なり,変化に対応した適切な作業が必要です。20歳から70歳まで稲作をしたとしても50回しかチャレンジできないものであり,今年経験したことが来年同じように起こるとは限りません。ベテラン農家の方でも「米作りは毎年が一年生」と語るのもうなずけます。

 一つ一つの作業にはそれぞれ意味や目的があります。新たに稲作を始めた人の中には「田植をすれば自然に大きくなると思っていた」とか,「田の水を見てこいといわれたが,その意味がわからない」という人もいます。イネにとって今何をするのが良いのか,イネが喜ぶことは何なのか,イネの声,田んぼの声が聞こえるようになれば素晴らしいことです。

参 考 資 料

●丸山清明 監修:ゼロから理解するコメの基本(2013年)株式会社誠文堂新光社

●稲垣栄洋:イネという不思議な植物(2019年)株式会社筑摩書房