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第394号 1990(H2).06発行

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低地力田における“ハツシモ”のLP-140号による地力補完施肥

現:大垣市農業協同組合 農業技術主管
 前:岐阜県農業総合研究センター 開発研究部長
野原 定夫

1.ぎふ銘柄米“ハツシモ”とは

 全国の銘柄米の殆どがコシヒカリ・ササニシキで占められるなかで,ハツシモは唯一の例外品種といってもよい品種である。

 それでは“ハツシモ”とはどのような品種なのか,県の奨励品種特性表からその主な性質を拾ってみよう。

 来歴は母が東山24号,父が近畿15号でいづれもおいしい米の旭の血を引いており,昭和25年に奨励品種に採用されたかなり古い品種である。

 6月中旬に田植えを行う,いわゆる普通期植えでは,9月上旬に出穂し,10月下旬から11月上旬にかけて成熟する晩生種である。

 草丈は120cmにもなり,長稈で倒伏しやすいが稈が太いのでコシヒカリ程倒伏しない。

 千粒重は25g前後の大粒で,食味は極めて良好すし米に適するといわれている。

 栽培適地は,県南西部の木曽三川によって堆積された土壌の深い平坦地帯である。

2.“ハツシモ”の窒素吸収特性

 岐阜県農業総合研究センターで行った6月10日植えの“ハツシモ”の窒素の吸収状況は図-1に示すとおりである。(図-1)

 すなわち,収量550kgをあげるのに必要とした窒素の量は13.6kgで,このうち地力窒素に由来するものが約2/3の8.7kg,基肥4.0kg,穂肥4.5kgの施肥窒素8.5kgから来たものが約1/3の4.9kgであった。

 なお,幼穂形成期までの窒素吸収量は5.6kg,このうち地力窒素由来のものが3.5kgで,それ以降成熟期までの窒素吸収量は8.0kg,このうち5.2kgが地力窒素で,生育後期の地力窒素のウエイトが高いのが注目される。

 一方,“ハツシモ”の適地は前述のように土壌の深い平坦地帯で,比較的粘土が多く地下水位の高い湿田であったが,土地基盤整備の進展にともなって次第に乾田化されつつあるが,今なお地下水位は30~60cm程度の半湿田(グライ土)が大部分を占めている。

 この地帯の代表的な土壌の湛水培養法で測定した地力窒素発現パターンは図-2に示すとおりで,生育の中期から後期にかけて比較的多く,幼穂形成期までの生育前半の発現量は5.5kg,それ以降に3.2kg,併せて8.7kgとかなり多いことが明らかになった。(図-2)

 このように“ハツシモ”の適地といわれる土壌の地力窒素の発現は前述の“ハツシモ”の地力窒素吸収量と比較的よく一致していることが認められる。

3.銘柄米づくりの推進と“ハツシモ”の生産安定技術

 ぎふ銘柄米として“ハツシモ”は前述のように美濃平坦南部に約10,000ha作付けされているが,その栽培法は6月上~中旬に田植えを行う,いわゆる普通期植えであるため,出穂期が9月上旬となり,登熟盛期は9月中旬から10月上旬となり,秋雨や台風のシーズンと重なるため,この時期の天候により,収量の変動も大きく品質も不安定であった。

 こうしたなかで,“ハツシモ”,“コシヒカリ”を中心とした売れる“ぎふ銘柄米づくり”が県や経済連を中心に強力に推進され,安定栽培と品質向上技術の開発が緊急の課題となってきた。

 そこで,これらの問題を解決するため,田植え時期を従来の6月から1カ月以上早めて,4月下旬から5月上旬にしたところ,出穂期は8月20日前後となり,成熟期も10月上旬にまで繰り上った。これにとって,“ハツシモ”の登熟盛期は天候も比較的安定し,日射量も多い8月下旬から9月中旬となって,収量も20%以上も増加することが明らかとなった。

 一方,このような早植えによって“ハツシモ”の収穫が10月上旬に可能となったことから,従来秋落ち的生育で,“ハツシモ”のような晩生種の栽培が不適とされていたが,良食味のため自家用に細々と作付けされていた木曽三川の一つである揖斐川上流の美濃平坦北部には浅耕土で県下でも代表的な秋落ち地帯が3,000haも広がり,この地帯でも“ハツシモ”の作付希望が急増し,この浅耕土乾田での安定栽培技術の確立も必要となってきた。

 また,この地帯は洩水もはげしいため灌がい用水路が発達し,用水のかけ引も容易であることから,前述の早植え技術もスムースに導入することが可能であるが,問題は低地力による秋落ち対策であった。

 そこで,この地帯の代表的な乾田土壌で下層に礫層を有する灰色低地土の地力窒素の発現パターンを前掲の湿田土壌で行った湛水培養法で測定した結果は図に示すとおりである。(図-3)

 これによれば,地力窒素の発現量は5kgと湿田に比べるとはるかに少なく,その発現パターンも田植え後1カ月程度で大部分が発現してしまうことが明らかとなった。

 これを解決するため,稲作のほぼ全期間に亘って窒素が溶出する被覆尿素140号(LP-140号)に着目し,これを地力窒素の補完に利用することを考えた。

 この原理は図-4に示すとおりで,乾田の地力窒素の累積発現量(ーーー)にLP140号(………)の溶出量を上乗せする(ー・-・-)ことにより,“ハツシモ”の適地である湿田の地力窒素の累積発現量(――)に近い窒素発現量にすることが可能である。(図4)

4.現地試験と地力窒素の補完量

 前述のような原理に基づいて,LP-140号の地力補完効果を確認するため,美濃平坦北部の揖斐川町の灰色低地士において現地試験を行った。

 この地帯は揖斐川及びその支流の氾濫源で,作土直下から礫層となっている所も多く,作土そのものも粗粒質で,保肥力を示す塩基置換容量(CEC)も10程度と小さく,地力窒素の発現量も前述のように少なくかった。田植直後1カ月程で大部分が発現しまうため極端な秋落ち地帯である。

 しかし,当地帯は古来より,おいしい米の産地として知られているが,上述のような土壌条件のため単収は400 kgそこそこで,とくに“ハツシモ”のような晩生種では単収のあがらない地帯であった。昭和62年には試験の方法として次の3つの試験区を設定した。

①6月の普通植え区
②4月下旬の早植え区
③LP-140号による地力補完区(②区に窒素3kgをLP-140号で上乗せ)

注)N施肥量は元肥3.0kg,追肥0.8kg,穂肥4.0kg

 この結果は表-1に示すとおりで,収量は①区の400kgに対し②区,③区は600kg以上となる好結果を得た。(表-1)

 さらに, 昭和63年には地力補完量の適量を明らかにするため,LP-140号による窒素量を3kgと6kgとして試験を行った。

 この結果,収量はいづれも600kgに近い収量となったが,地力補完量6kgでは倒伏がやや多かった。

 こうした結果から,地力窒素発現量が5kg程度の土壌である本地帯では“ハツシモ”の地力窒素補完量は3~4kgが適当と判断された。

 なお,実用化のためには市販されている被覆尿素が10kg入りで,窒素として4kgに相当することから,10a当たりの施用量としては,10a当たり1袋10kgの施用が適当であるとし,現在本地帯での地力補完量はLP-140号1袋を基準としている。

 この試験と平行して,地元揖斐郡農協では昭和62年の試験結果を踏まえて,昭和63年には300haに及ぶ水田で“ハツシモ”の早植えを行うとともに,LP-140号による地力補完施肥を実施した。

 これによって,収量水準は従来より100kg以上向上するという画期的な成果をあげている。

 なお,LP-140号の施用は代かき前の施用よりも春起し前に散粒機を用いて,圃場全面に均一に散布後,耕起し十分土に混入することが必要である。この場合,春先きのかなり早い時期でも低温のため,窒素の溶出が少なく殆んどロスのないことが実験室的にも確かめられている。

5.おわりに

 以上,“ハツシモ”の適地と地力窒素について述べ,地力窒素不足土壌でのLP-140号による地力補完施肥について述べたが,他の品種,例えば“コシヒカリ”では地力窒素発現量は6~8kgが適地と推定され,これ以下の低地力であればLP-140号又はLP-100号で地力窒素の補完をすれば,かなりの好結果をうることを同地帯の土壌で確認している。

 

 

LPコートと超多収米作

鹿児島県農業試験場大隅支場
土壌改良研究室長 脇本 賢三

はじめに

 米の生産過剰を解消するために,これまで強力に転作がおし進められてきているが,水田に畑作物を導入した場合,湿害,雑草害,連作障害等幾つかの間題が発生し,頭で考えた程転作の容易でないことが解かる。

 このような情勢の下で,休閑田を利用して稲を栽培するという考え方が提出された。この稲は従来のものと異なり,原料米や飼料米生産を目的として栽培されるものである。これらの米は飯米に比べ価格が格段に安いため,あまり手間をかけず,経費も節減し,しかも多収を挙げることがねらいとなる。

 これらの要件を満たすため,いわゆる「超多収水稲」の研究開発が推進されてきた。「アケノホシ」はこの研究開発の中で育成された第1号の超多収品種である。

 ここでは超多収水稲としてアケノホシをとりあげ,施肥回数の節減や肥料の吸収効率の向上等を目的としたLPコートの施用効果について紹介する。

1.アケノホシの収量水準と品種特性

 アケノホシの収量水準がどの程度のものなのかを示す例として,収量水準の高い外国稲である水原258号と比べてみると(第1表),通常の水稲品種に適用されているレベルの窒素施用量(N14kg/10a前後)の段階では,それ程両品種間で差が大きくないこと,窒素施用量の多い段階では明らかに水原258号が優ること,また,窒素の施用法では,アケノホシの場合,分げつ期や穂首分化期における追肥よりも基肥+穂肥方式で収量が高く,一方,水原258号では穂首分化期追肥方式の方が優ること等が解かる。

 このように,アケノホシは超多収品種の仲間ではあるが,その中ではやや収量水準の低いグループに属する。しかし,従来の日本稲(中生新千本等)と比べてみると(第2表),15%以上の高い収量水準を示し,その多収性が確認された。

 以上のように,アケノホシは従来の日本稲に比べると明らかに収量水準の高い品種であるが,しかし,穂首分化期における窒素追肥では高収とならないことは注意を要するところである。これは本品種の特性に関係している。

 すなわち,アケノホシは,通常1穂籾数が130粒前後のいわゆる穂重型品種であるが,これまでの穂重型品種と異なるのは,穂首分化期における窒素追肥で1穂籾数が容易に増加するという点である。

 これは総籾数の大幅確保の際には大変好都合な特性であるが,登熟歩合の低下が大きく,増収に結びつき難い。従って適切な窒素の施用量,施用法を守ることが本品種の栽培では肝要である。

2.直播栽培におけるアケノホシの収量性

 第3表は乾田耕起直播栽培におけるアケノホシの収量水準と有機物連用による地力増強が収量に与える影響について示したものである。これによると,有機物無施用の場合では,アケノホシの収量が中生新千本より15%以上高くなることが解かる。また,稲わらや堆肥を連用して地力を高めた土壌条件では,両品種とも有機物無施用の場合に比べて収量が高まってくるが,増収割合は品種間で明らかに異なっている。

 すなわち,アケノホシでは有機物連用下での増収割合が非常に大きく,堆肥5t連用で比べてみると,中生新千本の27%増となっている。このことは,本品種が単に従来品種と比べ収量水準が高い多収品種であるということだけにとどまらず,好適な土壌条件を設定すればさらに高位の収量性を発揮する潜在能力を有していることがうかがわれる。

3.乾田直播栽培における窒素の施肥法

 一般に乾田直播においては,移植栽培に比べ施肥した肥料成分の吸収利用効率が劣るため,分施の回数を多くする方が収量が高くなる。その施用時期は,播種時,入水期,穂首分化期,幼穂形成期,減数分裂期等に行われ,吸収効率を高める一方で,各々の時期における栄養状態を良好にし,稲体活力の維持が図られる。

 移植でもこれらの時期に分施すると収量が高まるが,移植と直播とでは収量に対して穂首分化期の追肥効果が大きく異なる。第4表は各施用量毎に穂首分化期窒素追肥の有無の効果をみたものである。これによると,穂首分化期追肥により1穂籾数が増加し,その結果総籾数は大幅に増加する。

 このような影響は,移植も直播も同様に認められるが,しかし,移植の場合は登熟歩合の低下が著しく,一方直播の場合は登熟歩合のレベルが高く維持され,結局,1穂籾数増をねらった総籾数の大幅確保が増収につながった。

4.LPコートの施用効果とその意義

 これまで説明してきたように,アケノホシは乾田直播に向いた品種であることから,省力栽培の行い易い品種と言える。ただし,乾田直播においては,従来のように分施回数を多くすることは労力がかかり過ぎることから,施肥回数節減および肥料の利用効率向上をねらいとして,緩効性肥料の利用法が検討されてきた。

 そこで,ここではLP肥料を乾田直播に供試した場合のアケノホシの収量性の検討結果を紹介し,緩効性肥料の利用の意義について述べることにする。

 第5表は肥料形態および窒素施用量の相違と収量との関係についてみたものである。同一室素施用量で比べると,速効性窒素肥料の分施に比べ,LP-140E・80号の全量基肥方式で明らかに収量が優ることが解かる。収量構成要素をみると,速効性肥料区に比べLP区では穂数が増加している。

 茎数の推移(第6表)をみると,速効性肥料区では施用量の多い場合に茎数の増加が大きかったが,反面,有効茎歩合は大幅に低下した。LP区では窒素施用量間で初期の茎数に大きな差はなく,また,有効茎歩合も同等であり,いずれも高かった。

 これらの結果から,LP区では速効性肥料区に比べ窒素の吸収が緩慢であるが,持続的であるため茎数の減少が少く,その結果,穂数の増加につながったものと推察される。

 第7表は成熟期稲体の窒素の含有率,吸収量等をみたものである。窒素吸収量はLP区で明らかに優り(17%増),吸収効率の高まったことが認められた。

 第8表は5a圃場における多収穫実証試験の結果である。いずれの区も土壌改良剤200kg/10a,牛ふん堆肥2t/10aを施用し,18cmの深度で深耕処理した。移植の場合は,基肥としてN5.6kgをLP-140E・80号,活着期N3.2kgを高度化成,穂肥3.4kgをNK化成で施用した。

 一方,直播の場合はLP-140E・80号を全量基肥として全層施用した。直播の収量は全刈では移植に劣ったものの,4㎡刈収量の6連平均では同等であり,しかも10a当たり粗玄米重745kgが達成され,大区画圃場レベルでも多収が実証された。

 これらの結果を総合すると,乾田直播においてLPのような緩効性肥料の全量基肥方式(一部速効性肥料をスターターとして含む)では,施肥回数の大幅節減が可能であり,また,有機物連用による地力増強に依存しなくても高位水準の収量確保の可能性も高く,超多収米生産には威力を発揮する肥料の一つと言えよう。

おわりに

 アケノホシは1穂籾数の多い穂重型品種である。葉身は直立型で受光態勢が良く,また縞葉枯病に抵抗性であること,直播でも移植とほぼ同等の収量が確保されること等からみて,直播栽培に向いた品種特性を有している。

 本品種の乾田直播栽培における施肥法ではLP肥料の全量基肥方式で好結果が得られた。米質をあまり問題にしない他用途米栽培等ではこのような緩効型の肥料は今後大いに期待が持てるものと思われる。

 また,有機物の多量投入が行われなくなった今日の水稲栽培において,緩効性肥料の利用意義は大きい。今後は収量面ばかりでなく品質等の向上を目ざした施用技術の検討が望まれる。