§作物病害の生物的防除・現状と将来方向(1)
島根大学農学部
教授 駒田 且
§岩手県における被覆肥料実用化試験(4)
2.ロング利用による省力的水稲中成苗育苗法
その2,ロング入り中成苗肥料(B.B)の開発と普及
岩手県農政部農村振興課
専門技術員 千葉 満男
島根大学農学部
教授 駒田 且
第2次世界大戦後,我国の農業は,それまでの労働集約型から,資材多投による資本集約型へと急速に転換して目ざましい発展を遂げてきた。なかでも野菜・花き・果樹栽培では,本来の「旬」を忘れるほど,鮮度の高い生産物の周年供給が可能になり,今日の「一億総グルメ時代」を支える重要な要因となることができた。
ところが,このような集約農業のもとにおいては,土壌の理・化学性の悪化と地力低下,過剰に施用された肥料の流亡による水系汚染,連作による土壌病害の多発生,資材および防除コストの高騰による経営の圧迫など,その歪みともいえる問題が続々と発生している。
さらに近年,地球規模の環境保全,自然生態系の維持などの重要性が大きくクローズアップされて,農業生産が環境に及ぼす負の側面を減らす努力も求められるようになった。
作物の病虫害,雑草防除は,第2次世界大戦後から今日まで,殺菌剤,殺虫剤,除草剤等の農薬に大きく依存してきた。合成農薬の開発,利用は世界中で農作業の省力化,農作物の生産性の飛躍的向上に大きく貢献してきた。我国においても,農薬が米の安定生産,野菜・花き・果物の安定生産と品質の向上・保持に,大きな役割を果してきたことは,今更いうまでもない。
ところが,合成農薬の使用増加に伴い,その残留・蓄積による河川・湖沼・地下水の汚染,生態系の攪乱,正しい使用法を守る限り問題はないはずの,人や家畜への悪影響に対する危惧などの問題が生じ農薬への依存度を軽減する必要があるとの動きもある。
上記のような諸事情から,将来の病害防除は,好むと好まざるとにかかわらず,合成農薬の使用量を減らし,生態系との調和を保って,未来へ向けて農業の永続を図り得るような技術,すなわち生物機能を有効に利用した防除技術―生物的防除(Biological Control)へと,防除の重点が移行すると予想される。
しかし,病害の生物的防除にはもっと大きな目的があるのである。それは,ウイルス病や細菌病,土壌病害のように薬剤防除の極めて困難な病害を,生物機能を利用して防除しようというねらいである。これこそ生物的防除の真の目的であり,合成農薬を排除するために生物的防除があると考えるのは誤りである。
1988年に,京都で第5回国際植物病理学会議が開催された。その際,植物病害の生物的防除と題するシンポジウムが催された。また土壌病害のセクションでは,第1回土壌病害国際シンポジウムから数えて25周年に当たるということから,本会議を記念大会と位置づけたほか,他のセクションでも生物的防除は重要なテーマとして扱われた。
さらに昨年(1990年)9月,つくばで,生研機構主催の国際フォーラム「作物病害ならびに凍霜害の生物防除,とくにバイオテクノロジーの寄与」,農林水産技術会議主催の国際ワークショップ「微生物間拮抗―作物病害の生物的防除をめざして」,農研センターとFFTC共催の国際セミナー「作物病害とウイルス媒介虫の生物的防除」という3つの小国際集会が,斯界の専門家を各国から招へいして開かれた。
筆者は,これら会議をコーディネートする責にあったので,これら会議でとり上げられた話題をもとに,作物病害の生物的防除の現状を紹介するとともに,その将来方向について述べる。
植物がウイルスに感染すると,そのウイルスと同種あるいは近縁のウイルスの感染が起こりにくくなる。この近縁ウイルス間の干渉作用を利用して,作物に前以て極めて毒性の弱いウイルスを感染させておき,毒性の強いウイルスの自然感染を防ぐ方法は,最初タバコモザイグウイルス(TMV)トマト系で成功し,各地のハウス栽培トマトで実用化され,優れた防除効果を収めている。
弱毒ウイルスは,自然界の無病徴株あるいは軽症株からの分離,熱処理,亜硝酸処理,サテライトRNA導入等の方法により,探索あるいは作出されて得られるが,その困難さの故に,TMVトマト系のほか,TMV-トウガラシ系,キュウリ緑斑モザイウイルス,カンキツトリステザウイルス等,一部の作物の一部のウイルス病で、利用されているに過ぎない(表1)が,わが国が生物的防除の分野で欧米よりも確実に優位に立っている分野ということができ,将来のウイルス病防除技術として大いに期待される。

しかしながら,弱毒ウイルスが強毒株に復帰しないか?他のウイルスとの重複感染によってどのような反応(被害)を現すか?弱毒ウイルスは他の作物上でも弱毒か?弱毒ウイルスは他のウイルスの発生にどんな影響を現すか?弱毒ウイルスの保存,増殖,配布,品質の保証・検定システムなど,技術的にも制度的にも解決すべき問題は少なくない。
その上,弱毒ウイルスの増殖や接種にはかなりの労力を要するので,わが国の様な集約農業のもとでのみ利用できる技術といえるかも知れない。粗放農業のもとでの利用を考えれば,TMVの外被タンパク遺伝子を導入したTMV抵抗性トマトの事例にみられる様に,将来は弱毒ウイルス遺伝子の作物への導入の方向へと進むと予想される。
作物の地上部(葉,茎,果実など)の表面(葉圏)や地下部の表面(根面),さらにその近傍の土壌中(根圏)やその他の土壌中には,多種多様な微生物が生息して,一種の社会を形成している。それらはたがいに協調あるいは敵対関係にあって,影響し合いながら平衡状態を保っていると考えられている。
これらの微生物のなかには,病原菌に対して有害な抗生物質を産生し(抗生)たり,病原菌体に寄生や捕食をしたり,住みかや栄養の奪い合い(競争)などをする結果,病原菌の生存や活動に悪影響を与えるものが存在することが知られている。多くの場合,これら拮抗微生物の作用は単一でなく,いくつかの機能が組合わさって病原菌の死滅や生育抑制が起こると考えられている。
糸状菌の利用の代表例はTrichoderma菌の場合である。わが国ではT. viride(=T. Lignorum)の乾燥胞子製剤に農薬登録があり,白絹病やRhizoctonia solaniによる苗立枯病防除に有効である。外国でも,T. harzianum,T. hamatum等種々のTrichoderma属菌が様々な土壌病害を対象に試験され(表2),一部は農薬登録を受けて実用化されつつある。

また複数の土壌病害防除のために殺菌剤との作用を想定して,農薬耐性菌株の探索や変異誘発による作出の研究もさかんである。Trichoderma属菌の防除効果は,本菌が産出する抗生物質によるとみられていたが,最近では,本菌の寄生により細胞壁がキチナーゼやグルカナーゼの作用で浴解され,せん孔が起こることによるとされている。
その他の糸状菌としては,Chaetomium,Acremonium,Gliocladium,Humicola,Myrothecium,Penicillium,Phialophora等について,土壌病害に対する抑制効果が報告されている。また,Coniothrium minitansとSporidesmium sclerotivorumはともに菌核病菌(Sclerotium属の数種)の菌核に寄生してこれを破壊する性質をもち,その土壌施用はこれらの菌による菌核病に対して高い抑制効果が報告されている。
糸状菌の拮抗作用は,寄生,競合,抗生の機能の単独または複合したものとみられている。今後は,Trichoderma属菌で行われたように使用条件に合うような菌株の改良,拮抗機能と他の微生物との競争にうち勝って土壌に定着する能力の向上のために,バイオテクノロジーを利用した菌株の改良,大量増殖と製剤化の技術開発の方向に研究が進むことが予想される。
(つづく)
岩手県農政部農村振興課
専門技術員 千葉 満男
昔からコメづくりは「苗半作」と言われるように,苗質の良否が作柄を左右する大きなポイントである。とくに現在の機械化稲作ほど苗の良い悪いが生育収量に直接影響する。
農家の人達が苗づくりは「毎年同じやりかたで苗を育てているのにうまく育つ時とダメな時がある……」とよく言う。これは本県の育苗期間である4月上旬から5月中旬にかけて気象の変動が大きいことを意味している。高温と低温のくり返しや日中が高温で夜間急に冷えこんだり,育苗中に降雪や降霜にみまわれることがしばしばある。
本県の4月から5月までの気象変動と苗の生育や障害発生は図1に示すように4月中旬の播種直後から5月上旬の緑化期1.5葉期まで連続した低温(一時的に0~3℃),その後,晴天続きでビニールハウス内の異常高温状態が続き,このあと再び低温となり日照が少なく移植直前に再び高温多照で経過するパターンが強く関係する。

この気象変化パターンは,育苗中に低温→高温→低温→高温に変化する。前期の低温下では苗立枯れ病と根の伸長抑制,長期の低温後急に天候が回復すると「ムレ苗」等が発生する。したがって寒冷地稲作の健苗育成は,気象変動に負けないきめ細かな温度,水分,施肥管理が重要なポイントになる。
本県の育苗様式は,昭和55,56年の大冷害を契機として冷害抵抗性の強い中,成苗育苗が増加し現在全体の50%以上になっている。また育苗床土別面積をみると,自然土の育苗が54%を占めている。
本県の中成苗育苗は開孔率10~20%程度の箱を使用して置床に従来の畑育苗の1/2程度施肥を行い箱内に窒素1~2g,燐酸1~3g,加里1~2gを施肥するのが慣行体系である。
さらに中成苗は,育苗期間が長くなるため1~2回の追肥を必要とする。そこで前報で報告したように,昭和30年度に燐硝安加里コーティング肥料(溶出タイプ70日)を従来の箱内施肥に60~100g併用することで置床施肥に依存しない中苗の育苗施肥法として現場に普及した。
その後,育苗専用燐硝安コーティング肥料(ロング)が細粒化と溶出速度の改良がおこなわれたため,新肥料の肥効について,昭和63年度に試験を行った。
試験方法は,従来のロング肥料(昭60)と新しいタイプのロング肥料を同一成分量として,火山灰土と第三紀の山土で育苗試験を実施した。その結果細粒化によって出芽直後の生育ムラが少く,育苗中期以降の溶出が改善され,過大生育とならず障害の発生もみられなかった。
寒冷地育苗におけるロング施用は,これまでの試験結果から,育苗初期の養分吸収促進と生育ムラを解消するため速効性チッ素1g前後が必要とされていた。ロングの細粒化と溶出パターンの改良に伴い肥効がやや異なることから速効性肥料との組み合せ試験を実施した。
試験方法は,表1に示すように,速効性チッ素肥料:0.5~2.0gの4水準,土の種類:火山灰土,第三紀の山土,ロング肥料:現物量で60,100gの2水準とした。

1)供試品種:あきたこまち
2)供試肥料

3)試験規模:1区3箱(cont.4箱)
4)育苗条件
(1)種子消毒:ベンレートT,0.5%湿粉衣<4/5>
(2)浸種:4月6日
(3)播種:4月17日<乾物110g>
(4)防除:タチガレエース6g/箱,ダコニール1000倍1ℓ/箱
(5)置床施肥:20-30-20(N-P2O5-K2O s/m)
(6)遮断資材:ラブシート<白>
(7)温度管理:加温出芽32度<24時間>
緑化硬化 ハウス内トンネル寒冷沙<夜間シルバーシートのみ>
平成元年の育苗期間の気象経過は全般に低温で日照が少なめに推移したため平年に比較して短苗となった。育苗初期の観察調査と苗の中間調査結果を表2に示した。

苗の生育は腐植質火山灰土の滝沢土壌が出芽,苗立良好で緑化,硬化期の生育進度も早い。火山灰土におけるロングと速効性肥料の組合せは,速効性チッ素少肥(0.5g)ではロング肥料の多少による生育ムラがみられ,速効性チッ素多肥(2.0g)+ロング100gの組合せでは生育ムラのほかに根の阻害がみられる。
また,腐植が少い第三紀の山土は土壌の緩衝能が弱いため,箱内の速効性チッ素量が多く,ロング肥料を多肥にすると発根が阻害され生育のバラツキが大きく生育,養分吸収も明らかに抑制されている。
移植時(播種後35)の苗調査結果では,ロング100g施用区で苗丈が伸び,乾物重も増加する。また速効性チッ素施肥量との関係でみると,速効性0.5~1.0g水準の場合にロング肥料60g施用は後期の葉色がやや低下し,ロング肥料100g施用のほうが明らかに良苗となる。

しかし速効性チッ素1.5~2.0g水準になるとロング肥料100gの施用によって過大生育となる。とくに,第2葉鞘高,第2第3葉身長が伸びやすい。したがって速効性チッ素多水準の場合はロング肥料60g前後の組合せが最適である。
ロング肥料と速効性チッ素の組合せは,土壌条件によって異なるが,初期の生育ムラや発根抑制さらに生育後期の伸長防止などから速効性チッ素1g程度にロング肥料60g前後の組合せが最適であることから,本県の経済連B,B工場(Balk Bland)に依頼して「ロング入育苗専用肥料」を試作した。
試作肥料の配合割合は,表4に示すようにロング68%,速効性32%である。肥料成分量は11-11-11であり,チッ素,リン酸,加里の各成分の中で「ロング:速効性」の比はチッ素と加里が「9.5:1.5」リン酸が「8:3」となっている。

この試作肥料の肥効について平成元年に農業試験場本場(滝沢),県北分場(軽米),県南分場(江刺)において連絡試験を行った。専用肥料を箱当り80,100,120,140gの同一施肥量で連絡試験を実施した結果,箱当りの施肥適量は,県北,県南分場で80g,農試本場で80~100gであった。
一方,同一肥料について現地における実証試験を行った。その結果は表5に示したとおり,苗床専用肥料の効果は箱当り80~100gの施用で中成苗の播種量が少し育苗日数が長い場合,葉色が濃く,乾物生産が勝り苗の養分含有率の高い苗が得られた。

しかし,速効性チッ素量が多いためか県南部ほど苗の草丈が伸び易いことと箱当り100g程度の施肥基準量で現場に普及指導したいという理由から,ロング肥料と速効性肥料のブレンド割合を表6に示すようにオール10-10-10に変更し,平成2年度に再び農業試験場本場,県北,県南分場での連絡試験と現地実証試験を行った。

平成2年は4月中旬以降低温で経過したがその後は高温多照に経過し,苗の草丈が長くやや徒長ぎみとなったが乾物重が大きい良苗が得られた。農業試験場の本分場における肥効試験や現地実証結果を表7,8に示した。試験の結果はロング入育苗専用肥料を箱当り80~100g施用することによって,葉色の生き生きとした健苗が得られた。


とくに前回試作した肥料成分より速効性チッ素0.5g,リン酸1gを減肥することによって,育苗初期の生育ムラや根系の障害が回避され,生育後期の徒長も少ない。また現地の育苗センターにおける大量育苗や個人育苗においても生育が安定し,健苗が得られ実際使用した人の評価も高い。
寒冷地における中成苗育苗は,育苗期間が長く育苗の後期から高温条件になるため過繁茂(光飽和)による同化能の低下と養分供給不足から葉齢増加がストップしてしまい,徒長,軟弱苗となり,活着不良になることが問題である。
そこで,茎が太く,根ばりが良く,葉色の濃い生き生きとした苗に育て,低温下でも活着できる健康な苗づくりをするためには基本的には中,成苗の播種基準量(80~120g)を厳守するとともに,1.5葉期~2.5葉期頃までの生育をセーブして,後期の生育良化に努め,葉齢増加を図ることが重要である。
具体的な育苗技術としては
①加温出芽の場合に芽長を0.1~1cm以内でハウスに移動すること,
②第1葉鞘高は3cm以内にとどめる,この第1葉鞘高と芽長は密接に関係することから覆土を厚くしたり,加温日数を長くして芽長が長くならないようにする。
③1.5葉期頃までの過灌水や高温をさけ,草丈の伸長をセーブすることである。
次に育苗後期(播種後20日頃)からは,養分が十分供給され葉色が最後まで生き生きと保たれていなければならない。そのためこれまでは硫安や液肥による追肥対応が主であった。しかし苗の追肥はやり方をまちがえると苗を焼いて枯死させたりする危険性がある。
ロング入り中成苗肥料は苗の追肥省略が可能となり,箱内一回施肥法としてこれからの新しい施肥法である。本県の施肥基準は以下のとおりとした。しかし,ロング肥料は温度で溶出してくるタイプの肥料なので温度管理については十分留意する必要がある。

なお,本肥料中のロング肥料は1箱当り100g施用すると約2560粒であり,中苗1箱当りの田植機かきとり数が約800回程度なので1株当り約3粒程度保有して本田に移植される。また,ロング肥料は育苗期間35日での溶出率が約35%(岩手農試平均)になっており,溶出しない残りは移植した苗の根圏に位置することから,本田の初期生育にも効果があるのではないかと期待されている。
最後に「ロング入中成苗肥料」のブレンド試作等に協力いただいた経済連B,B工場の関係各位や肥効試験に積極的に取り組んでいただいた農業試験場の担当の方々,現地実証に取り組んだ農協や農家の方々に深く感謝します。