§水稲での重窒素LPコート試験
岩手県農業試験場
環境部施設改善科長 小野 剛志
§肥料の来た道,帰る道
3.江戸文化の生んだ商品肥料(1)
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§東北地方でのロング施用による水稲無追肥育苗法の普及状況
(育苗肥料とロングの併用による追肥省略での健苗技術)
その2使用実態の調査結果と応用的な使用方法及び新技術の開発展望
チッソ旭肥料(株)東北支店
岩手県農業試験場
環境部施設改善科長 小野 剛志
樹脂被覆尿素(LP100)を用いた水稲基肥一回施肥法は昭和61年度岩手県の普及指導上の参考事項とし,BB方式で速効性窒素(N成分で3割)及び燐酸,加里を配合して販売された。その後この肥料は全層施肥でも側条施肥でも販売実績が年々増加傾向にあり,農家の必要を満足したものであることが実証されている。
この理由として,基肥に入れるだけで追肥がいっさい省略できること,しかも平成3年度のような通常の栄養診断では追肥の判定が困難な年でも効果を発揮すること,そして地力が低い水田での効果が特に大きいこと等の特徴が,今後求められる省力や規模拡大稲作にも対応できる内容となっているためであろう。
一方,農業においても近年環境問題が重要なテーマとなり,LISA(Low lnput Sustainable Agriculture)の推進が叫ばれている中で,本施肥法も今後環境との関係が重要となりつつある。
かつて側条施肥が,根の近くに肥料を集中させるため利用率が高く,環境汚染を少なくできるとの知見をもとに湖沼の汚染対策として普及された。LPコートについても重窒素入りLPが開発されたことにより,施肥窒素の利用率解析が可能となった。
今回は重窒素ラベルのLP100と硫安を用い,岩手県江刺市の褐色低地土と滝沢の黒ボク土で全層施肥で3か年検討した結果を紹介する。
昭和62年度は高温,多照の気象条件で作況指数107の良好年であった。試験は岩手県江刺市にある岩手農試県南分場で実施した。土壌型は褐色低地土で,イナワラは搬出し,牛厩肥が毎年1.2t施用されている水田である。
重窒素(3.04atom%)でラベルしたLP100と硫安単体をそれぞれ5月13日基肥にN5kg/10a施肥し,稚苗ササニシキを5月14日に移植した。燐酸と加里は慣行量全面全層基肥施用とし,窒素のみ鉄枠内(0.27及び1㎡)全層施肥で,枠外は無窒素とした。硫安区のみ重窒素硫安(5.16atom%)の幼穂形成期N2kg/10a追肥区を設けた。
生育時期別に稲体を採取し,稲体乾物を硫酸一過酸化水素水分解後,ケルダール法により窒素濃度を定量した。窒素定量液を加熱濃縮し,昭光通商のマススペクトル法で重窒素濃度を依頼分析し,施肥窒素と土壌窒素の割合を求めた。
窒素利用率は施肥量に対する水稲の吸収施肥窒素量割合を求めたが,LP肥料は徐々に溶出するため,移植直後にLP単体を圃場埋設し,時期別に取り出してLP粒内の残存窒素分析値から溶出割合を計算し,溶出成分量に対する利用率も計算した。
硫安による窒素吸収パターンを図1に示した。

基肥硫安は幼形期までに1.19kg吸収され,利用率は24%であった。一方追肥はN2kg/10aのうち最大1.35kgが吸収され,利用率は68%であった。施肥窒素全体では2.27kg/10a吸収され,利用率は32%であった。水稲吸収全窒素11.2kg/10aから,土壌窒素は8.9kg/10a吸収され,水稲の全吸収窒素に対する割合は80%であった。
一方,LP100による窒素吸収パターンを図2に示した。

同一施肥量のためLP区が硫安区よりも窒素濃度が高く推移し,吸収量も硫安区に優った。最終的に水稲が吸収した窒素は12.8kg/10aで,そのうち4.1kg/10aが施肥窒素に由来した。利用率は81%であったが,LP100の溶出は収穫期に92%であったため,溶出窒素に対する利用率は88.2%であった。土壌窒素の吸収は8.7kg/10aで,水稲の全吸収窒素に対する割合は68%であった。
昭和63年度は作況指数85の著しい不良年であった。試験圃場及び品種は前年度と同様であるが,牛厩肥無施用とした。
県内で市販されている基肥一回施肥用LP配合肥料に合わせ,LP100態の窒素割合を70%とし,N6kg/10a基肥施用とした。従ってLP100はN4.2kg/10a,硫安はN1.8kg/10aの配合となる。重窒素ラベルLP100と無ラベル硫安区,無ラベルLP100とラベル硫安の2処理区を設け,区の合成でLP配合肥料の吸収を検討した。
図3にLP100と硫安による窒素吸収パターン合成図を示した。基肥窒素は硫安で0.4kg,LP100で2.6kg吸収され,利用率は各々23%と63%であった。ただしLP100の溶出に対する利用率は68%である。前年(昭和62年)よりLPの利用率が下がった原因は,冷害気象により生育及び吸肥力の低下が影響したものと思われる。

配合窒素肥料全体では3.1kg/10aが吸収され,利用率は51%であり,前年度の硫安とLP100単体の中間的な値であった。土壌窒素は7.7kg/10a吸収された計算となり,水稲の全吸収窒素10.8kg/10aに対する割合は71.6%でこれも前年度の硫安とLP100単体の中間的な値であった。
平成2年度は昭和62年度と同様な高温,多照の気象条件で作況指数106の良好年であった。試験は岩手県滝沢村の岩手農試本場で実施した。土壌は岩手山に由来するアロフェン質黒ボク土で,イナワラは搬出し,牛厩肥が毎年1.5t施用されている水田である。
重窒素ラベルLP100(3.00atom%)と硫安(3.02atom%)単体を基肥に滝沢地区の標準であるN10kg/10a各々施肥し,いずれも無追肥とした。なお基肥量が江刺の2倍以上高いのは,この黒ボク土の地力窒素発現がきわめて低いためである。品種は中苗あきたこまちを用い,5月17日に移植した。
結果を図4と5に示した。LP区の窒素吸収は旺盛であり,水稲吸収全窒素が同じ施肥量の硫安区より1.5倍も上回った。LP区の施肥窒素利用率も66%で昭和63年度と類似した値となり,硫安区の25%に優った。


土壌窒素はいずれも8kg/10a前後で大差がなかったが,全窒素吸収に占める土壌窒素の割合はLP区が約54%,硫安区が約81%で,LP区が低かった。
3年間の試験結果をまとめて表に示した。水稲が吸収する窒素のうち施肥窒素がしめる分は2~4割で,いずれの試験でも土壌窒素の割合が高い。しかし速効性の硫安とLPを比較すると以下の事が言える。

第一点としてLP100の利用率が速効性の硫安に比べ極めて高いことである。これは施肥窒素の多くが作物に吸収利用されるため,脱窒や流亡による環境汚染が極めて低いことを意味する。
第二点として水稲吸収全窒素に対する施肥窒素割合は硫安よりもLPの方が高いことである。これは逆にLP肥料で栽培すると土壌窒素への依存度が相対的に低くなるといえる。
第三点として同一基肥量では水稲の吸収する全窒素量が速効性窒素よりもLP肥料で大きいことである。この傾向は通常栽培では地力窒素発現が少ない黒ボク土で著しく,通常の施肥管理では出てこない地力窒素を引き出しているとも考えられる。またこのことは慣行基肥量が多い滝沢の黒ボク土のような土で基肥1回施肥の増収効果が大きいというこれまでの結果とも符合する。
本試験においては同一基肥量でLP100と硫安を比較したが,昭和62,平成2両年度ともLP100区の水稲窒素吸収量が多かったため,土壌窒素吸収量そのものはLP100と硫安で差が小さかった。しかし今後減肥によりLP区の窒素吸収を速効性窒素並に抑えた場合には,逆に地力窒素からの吸収が低く抑えられる可能性がある。
本試験の結果より見て基肥1回施肥法は減肥が可能であり,また今後の食味や環境問題とのからみで減肥が更に重要になる。現在岩手県では本方式で慣行窒素量の10~30%減肥を行っているが,土壌によっては更に減肥の可能性があると考えられる。
LP100を用いた水稲基肥一回施肥法の窒素利用率を重窒素ラベルのLP100と硫安を用い,江刺市の褐色低地土と滝沢の黒ボク土で検討した。その結果,本方式は施肥窒素の利用率が高く,相対的に水稲が吸収する土壌窒素の割合が低くなること,また同一施肥量では水稲吸収窒素が速効性窒素よりも増えることより,減肥の重要性が明らかになった。
本稿内容は初出が東北農業研究44巻(1991)である。試験の一部を担当頂いた高橋政夫岩手農試専門研究員,重窒素LPを提供頂いたチッソ旭肥料に感謝申し上げます。
京都大学
名誉教授 高橋 英一
地球が一つの有限な宇宙船として認識されるようになった昨今,欧米では日本の江戸時代に興味がもたれているという。たしかに小さい島に3000万人もの人口を擁し,完全自給の下で高度な文化を開花させた260年の泰平の時代は,研究の対象として興味深いものがあろう。
大陸から離れた島国は外国からの侵攻をうけにくいので平和を維持し易いという利点がある。しかし同じ島国であるイギリスは,江戸時代の前半にあたる17世紀から18世紀はじめにかけて,ピューリタン革命,3度にわたる対オランダ戦争やイスパニア継承戦争と多端であった。
これに対し日本では1600年の関ケ原の戦いを最後に,長期にわたる平和がいち早く訪れた。そして江戸時代は農業生産に基礎をおいた有機経済社会の絶頂期を迎えた。このような中で肥料が商品として登場するにいたったのである。
肥料が商品になる,つまりそれまで自給されていた肥料が購入されるようになったのは,自給肥料の不足をきたしたこととともに,農村に購買力が生じたためであるが,それは商業的農業の発達によってもたらされたものであった。
第1表にみられるように,日本の耕地面積は室町時代までは大きな変化はなかったが,戦国時代ごろから開田ブームがおこり,江戸時代初頭の面積は室町中期の2倍,江戸中期には3倍近くに増加している。この急速な開田はそれまでの主要な自給肥料の一つであった刈敷の給源となっていた山野をつぶす結果になった。

一方1580年から1610年にかけて城下町の建設が著しく進み,日本の城下町の大部分はこの時期にできあがった。それは築城や都市建設のための土木技術が発達していたことを示しているが,そのような技術は河川沖積地帯の大規模な開発を可能にし,大量の耕地を造出したのであった。
この各地に発達した城下町には非農業人口が集中したが,これは周辺農村に対して農産物の強いシンク(需要者)となる一方で,集中的に発生する下肥は農村への肥料のソース(供給者)として機能するようになった。
とくに数十万の人口を擁する江戸や京・大坂の町は最大の下肥の生産地であった。これらの経済力に富んだ大都市周辺には,経済性の高い蔬菜類を生産する都市近郊農業が発達したが,そのための肥料として,集中的に産出し,しかも速効性の下肥は恰好の存在であった。
下肥ははじめの中は農家に汲取ってもらって始末するということであったであろうが,刈敷の不足は急速にそれを商品化し,取引も組織化されるようになった。江戸では武家方には一定の代価を支払って汲取りをする特定の百姓(下掃除権をもった百姓)があり,町方では家主が借家人のものも含めて下肥の処分権をもっていた。
また大坂では明暦,万治のころ(17世紀中頃),下肥の汲取りのために町方下肥仲間(下肥仲買人組合)ができており,下肥にも仲買,問屋を通して農民の手元にわたるという主要商品なみの流通経路があった。
近郊農村における商業的農業の発展は,都市の下肥に対する需要を高め,その結果下肥価格が高騰し,しばしば紛争をひきおこした。江戸における最初の大規模な下肥値下げ運動は,寛政元年から2年(1789~90年)にかけておこっている。
このときは武蔵,下総両国の1,016ケ村が連合し,近来下肥代は延享,寛延のころ(1744~50年)にくらべて3倍余にもなっているのでこれを引下げてほしいと幕府に陳情しており,もし武家方,町方が値下げに応じないなら20~30日間汲取りをしないとの申合せをしている。そのため幕府は行政指導にのりだし,当時の1ヶ年の汲取り代金総額が25,398両であったのを1割4分5厘値引きして,21,715両として結着している。
ついでおこったのは天保14年(1843年)で,天保の改革にともなう諸物価値下げ令,とくに米穀の値下げに対して農民側から下肥の値下げ要求が出された。このときは幕府は天保12年の下掃除代金35,490両の1割引下げを命じている。これらの記録から,江戸市民は1両を5万円として計算すると,年間13~18億円相当の肥料商品を製造していたことになる。
同時代のヨーロッパでは都市の下肥が肥料として利用されることは少なく,ましてや日本のように大々的な売買の対象になることはなかった。イエズス会の宣教師であったルイス・フロイスは,その著「日欧文化比較」の中で「われわれは糞尿を取り去る人に金を払うが,日本はそれを買い米や金を支払っている」と驚きを示している。
中世ヨーロッパの諸都市では,糞尿類は街路に投棄されるままであるのが常で,それは地中にしみ込んで井戸を汚染し,疫病流行の原因となっていた。それで,その対策として大都市では下水道がつくられ,発達していったが,今度は放流した下水による河川,湖沼の汚染が問題となった。
中でも有名なのは1858年ロンドンで発生した「黄害」で,テームズ川畔に位置する議事堂はアンモニアの臭気のため議会の開催に支障をきたすほどであったという。これに対して日本では,江戸のような百万もの人口を擁する世界屈指の大都市でありながら下水道はなく,しかも糞尿公害に悩まされたという記録もない。これは江戸と周辺の農村地帯との間には,ヨーロッパにはみられない下肥の一大循環パイプが存在していたからである。
江戸時代,人口の集中した都市から排出される人糞尿はヨーロッパのように環境を汚染せず,経済ルートに乗って農村に運ばれ,都市と農村の経済の活性化に貢献した。このようなちがいをもたらしたのは何だったのだろうか。
一つはヨーロッパにくらべて日本は耕地がせまく,人口密度が高く,家畜が少なかったこと,いま一つは気温と降水にめぐまれていたことではなかろうか。前者は農業生産におけるきめのこまかい工夫とその実行を促し,後者は旺盛な植物の生育と生態系における物質のスムースなフローを可能にした。日本と同時代のイギリスとを比べるとき,このようなちがいが感じられるのである。
江戸の大名屋敷では排出する糞尿を特定の農民に下掃除権と称して売り,収入の足しにしていた。これは町方でも同じで,店子の下肥の汲取り代は大家の収入になったが,このような風習は落語の中にも語られている。
「何をいいやがるんだ,この糞ったれ大家め。(中略)それでもこの長屋に古く住んでいると思えばこそ,外で食いすぎても帰ってきて糞をたれてるんだ。」(三方一両損)
「どうせ家賃なんてとれそうもないよって,糞取りで飼うといたれ。」(貧乏花見)
大家はこの収入は祭りとか花見を催したりして店子に還元した。(入江雄吉「落語で読む経済学」による)
チッソ旭肥料(株) 東北支店
前回は東北地方の4県(宮城県,山形県,岩手県,青森県)で県の普及技術となっている育苗肥料とロングの併用による追肥省略(育苗基肥一回施肥)の施肥条件の内容を紹介した。
各県の施肥条件の基本的内容はほぼ同じといえ,苗箱当たりの慣行の育苗肥料(化成肥料)とロング424-M100の組み合わせ条件をまとめると,表-1のようになる(前回報告の各県の普及技術,指導規準の内容参照)。

宮城,山形,岩手の3県では,育苗肥料のN量は1.0gと同じであるが,青森県では,1.3g~1.6gと前者の3県より多少多い施用量となっており,これは育苗初期での温度等に差異があるためと考えられる。
育苗肥料とロングの組み合わせでの肥料の働きの区分は,次のようになることは当然と言えるかもしれない。
*育苗肥料:生育初期のスターター的な役割と肥料分を均一に効かせる効果。
*ロング424-M100:育苗の初期より肥効があり,特に,中期以降の苗の養分吸収に見合った肥料分の供給ができる。そのため,追肥を省略できる。
この2つの肥料の組み合わせにより,育苗の初期から後半迄,苗の養分吸収に見合った量の肥料分を安定して適量供給でき,その結果,追肥の省略と養分濃度が高く,生育のバランスがとれた健苗育成がなし得るといえる。
今回の報告では宮城県でのロング施用水稲育苗の普及状況と,その実態を把握するために行ったアンケート調査結果及び水稲育苗でのロングの応用的使用方法を述べ,更に将来を展望した更なる省力を考えた使用方法の提案をする。
前回の報告で各県の試験結果に基づいた普及技術,指導規準の内容を紹介したが,それらの結果に準じた施用の効果とメリットをわかり易く表現すると次の様になる。
育苗床土にロングを混合施用することにより,育苗期間中,苗の養分吸収に合った肥料分の供給が可能となり,追肥不要の省力的な育苗ができる。
育苗期間中ロングより肥料分が徐徐に安定して溶出するため,苗は必要とする養分を必要なだけ無理なく吸収でき,それによって苗の養分含有量が安定し且つ,高めに保持できる。
上記(2)の苗の養分含有量が高いことに加えて,苗体の硝酸態窒素含有量が高くなることが相まって,苗の発根力が強くなり,その結果として田植え後の活着が良くなる。
(ロング424-M100のN14%の半量の7%が硝酸態窒素)
育苗期間中のロング424-M100の肥料分の溶出率は約30~35%程度であり,残りの約65~70%は本田に持ち込まれ且つ,苗の根元に施用された状態となる。それ故,局所的な施肥となり,弁当肥としての効果によって,上記(3)の効果と相まって初期の生育を良くする。
慣行の追肥を行う育苗の場合,追肥時期の判断の不適切,追肥量の間違い,追肥むら,肥料焼け等の問題を起こすことがある。これらは,農家の判断の誤り,作業上の間違い,作業精度の違い等に起因するものであるが,ロングの床土混合施用によってこれらの問題を解決できる。
追肥作業は農家の育苗管理の中でも特に神経を使う作業であり,その適,不適が苗のでき上がりの良し悪しに関係し,上手な苗作りでは適切な温度,水管理と合わせて大変重要な作業部分といえる。この農家が神経を使う作業の部分を省略できることは正に,コーティング肥料の技術の進歩の力と言える。
上記1.2の内容に準じた内容で普及している現場での使用の実態と評価を把握する目的で,ロングを使用した農家,農協の方を対象としたアンケート調査を東北の各県で実施した。ここでは,普及開始初年度の平成2年に宮城県で実施した内容を代表例として紹介する。
宮城県で経済連,農協でロングが取り扱われるようになったのは,昭和56年頃からであり,販売開始当初は畑作,花卉関係に力を入れていた。その当時はコーティング肥料(溶出調節型肥料)という言葉が世の中に初めて使われ始めたこと,肥料の溶出メカニズム(温度依存性,溶出日数タイプ等)を理解してもらうことに弊社の販売担当者や関係者は苦労したと聞いている。
宮城県のロング販売量の推移を昭和61年以降について,溶出日数タイプ別にまとめたものが表2である。

昭和62年より一部の農協で水稲育苗に424-100が使用され始めたことと,いちごの育苗と本圃の基肥に424-100,140が普及したことが相まって販売量が伸びている。NKロングが平成元年より伸びているのは,宮城県経済連のいちごの基肥一回施用専用肥料(いちごエース)の販売が始まり,その原料となっている為である。
水稲育苗にロングが使用され始めたのは昭和62年からであるが,それ以降のロング424-100とM100(平成元年度の後半より)の使用量とロング50g/箱の施用量での苗箱数は表3のような推移をしている。

平成元年度に「指導に移す技術」,平成2年度に「稲作指導指針」が県より発表されたことにより,使用量が伸びている。
宮城県の「普及に移す技術」「稲作指導指針」での水稲育苗関係の施肥基準は稚苗,中苗についてみると次のようである。
a 稚苗 育苗肥料N2g 追肥1回(N1g) 育苗日数25日
b 中苗 育苗肥料N1.5g 追肥2回(N1g×2回) 育苗日数35日
〔宮城県で流通している水稲育苗肥料は成分(N,P,K)10-10-10の1種類である〕
この内容については,平成2年に「普及に移す技術」,平成3年に「稲作指導指針」にそれぞれ取り上げられており,その内容は前回の報告で紹介している。

宮城県農業センターで追肥省略を目的として,昭和60年より施肥条件の詳細な試験が開始された関係もあり,昭和62年頃より一部の農協でも現地確認試験が行われるようになった。
平成2年に県の「普及に移す技術」の発表と弊社の粒径の中粒化及び経済連の販売方針等が相まって,ロングの水稲育苗への本格的な普及が始まった。実際の普及になると農協農家の判断も加味されて,県の指導基準(中苗,ハウス育苗)よりも相当幅の広い使われ方がされた。
使えば,苗でみると稚苗,成苗ポット,育苗様式でみると折衷苗代などであるが,これらの場合,農協で独自に現地確認試験を実施して農協の指導体系の中で普及している。
ちなみに,本格的普及開始初年度に当たる平成2年のロング424-M100の販売状況はつぎのようであった。
a 販売を行った農協数:35農協(宮城県全体の約35%)
b 販売量:23トン(50g/箱の施用条件で46万箱分)内 1トン以上販売した農協数は8農協
上記(1)の普及経緯の中で慣行の水稲育苗の内容(施肥量,育苗日数,種籾の播種量,床土の種類等)と,ロング施用での育苗内容及び評価を把握する目的で農協,農家の方を対象としたアンケート調査を平成2年春季に実施した。
アンケートの内容の詳細は紙面の関係で省略するが,次の項目について調査を行った。
a 育苗方式:苗の種類(稚苗,中苗,成苗),育苗日数,ハウス,折衷苗代
b 播種関係:品種,催芽処理方法,播種月日,播種量
c 肥料関係:慣行の施肥内容(追肥回数,量),ロング施用の施肥内容
d 床土:床士の種類,pHの調整の有無
e 使用薬剤:種籾処理,床土処理,予防防除処理
f 箱の置床の状態:シート数の有無,施肥の有無
g 苗の評価(育苗の期間別及び田植え後)
*育苗の期間別:出芽時,緑化期,中後半期,田植え直前
*田植え後:田植えの1~2週間後
h 使用者の意見
ロング育苗の使用年数,今後の使用,意見及び提案等
平成2年春季に実施したアンケート調査は33農協に依頼し,22農協より50名の回答があった。その中より,主たる項目についてまとめたものを以下に紹介する。
回答者50名の育苗様式の内容とそれらの比率をまとめると表4のようになり,ロング施用の育苗が幅広く活用されていることを示している。

回答者50名中,慣行の育苗法とロング施用を同一環境条件で比較した方が30名,ロング施用のみの育苗の方が20名である。
全体の育苗様式を区分してみると,ハウス中苗が全体の58%,ついでハウス稚苗が2.2%であり,この2様式を合わせると全体の80%を占めている。折衷苗代が16%であるが,これはアンケート対象者の関係でこのような数値になったものであり,宮城県全体では10%以下といわれている。
慣行育苗とロング育苗の育苗日数と播種量の内容をまとめたものが,表5である。表中の数値は各項目別ごとにその条件の比率(%)であり,項目の中で最も比率が高い値を○で示してある。

a 育苗日数
〔稚苗〕県の基準は25日であるが,30日と35日がそれぞれ36%と基準よりも長い日数となっている。
〔中苗〕県の基準は35日であるが,約半数の46%が基準どうりである。33日から37日の範囲でみると,75%となっており,基準をほぼ満たしている比率が高い。
〔折衷,中苗〕88%が県の基準の35日を満たしている。
b 播種量
乾籾量でみると次のようである。
〔稚苗〕基準(160~180g)よりも少なく,この量であるため育苗日数も長くなっているといえる。
〔中苗〕100gが48%であり,90~110gの範囲では71%となっている。
〔折衷,中苗〕ハウス中苗に比較しやや少ない量であり,80~100gの範囲の合計が88%となっている。
c 慣行育苗の施肥量の内容
慣行の育苗肥料は成分(10-10-10)のものである。
〔稚苗〕県の基準(20g)どおりが60%である。50g施用のものはアズミン入り肥料でありこれも基準どおりである。全体として,80%が規準をみたしている。
〔中苗〕県の基準(15g N1.5g)より5g多い20g(N2g)が78%である。基準より多くなっているのは農家が追肥基準の2回を1回にするためである。
〔折衷,中苗〕ハウス中苗と同じような内容である。
育苗肥料とロングや424-M100の組み合わせ内容の結果は表6のとおりである。
a 育苗日数
上記2)a.の育苗日数と同じ。
b 播種量
上記2)b.の播種量と同じ。
c 育苗肥料とロング424-M100の組み合わせ内容
ハウス育苗の稚苗,中苗,成苗,折衷中苗にそれぞれ使用させており,県の指導基準のハウス中苗以外にも幅広く用いられている。
育苗肥料とロングの組み合わせでは,基準の「育苗肥料10g+ロング424-M100 50~70g」と比較すると,育苗肥料は半数以上が基準どおりであるが,基準より多少多めにしているのも約20%程度ある。ロングの施用量は中苗,折衷中苗では75%以上が基準どおりであるが,稚苗では50gが約半数の55%,基準量よりやや少ない40gの施用が36%である。
使用されている床土の内容をまとめたものを表6に示した。

山土,水田土,市販人工培土,畑土が使用されており,ほとんどが山土と水田土で市販人工培土は少ない。この結果はアンケート回答者50名のほとんどが専業農家または規模の大きい農家であるためと考えられる。
育苗期間と田植え後の活着状態の評価内容をまとめたものが図1である。育苗期間は各時期に区分し,田植え後は7~14日後の状態を評価している。評価は農家の観察とし,評価のランクを「良」「普通」「不良」の3段階とした。


50名のアンケート回答者のうち,30名が始めてロングを使用し,慣行育苗とロング施用育苗の両方を同じ環境管理条件で比較している。残り20名がロング施用育苗のみであり,平成2年以前よりロングを使用しているのが約半数である。
評価結果をみると,慣行育苗に比較してロング施用育苗は,中後期以降及び田植え後7~14日の「良」の評価比率が明らかに高い。この評価結果は慣行育苗で追肥する時期に,ロングが苗の養分吸収に見合った肥料分を適正に供給できていることを示している。
その結果,苗の養分含有量が指導基準の目標値を充足する健苗となり,田植え後の活着も良くなる。田植え後の活着が良いことは,苗の発根力が強いことの証でもある。
以上の結果は,無追肥のロング育苗の方が追肥を行う慣行育苗に比較して良い苗質であることを示しており,農家の評価がそれを立証している。
上記2.3.で述べたロング施用水稲育苗は無肥料の床土を使用する場合であるが,農家では育苗肥料が入っている市販の人工床土も使用されている。
ここでは,市販の人工床土にロングを使用する場合の施用量の条件と,省力を考えた応用的な使用方法を説明する。
市販の人工床土には育苗肥料が入っているので,そのN量との関係でロングの施用量を変える必要があり,その施用量は表7のようにまとめられる。

使用上の注意点としては,床土に均一に混ざるよう十分混合することである。ロングの施用により,追肥の省略と健苗育成ができることは前記2で説明したとおりである。
市販の人工床土の場合,肥料分が入っているため,ロング施用に当たっては,当然のことながら床土との混合作業を必要とする。市販人工床土を使用する場合は育苗肥料の混合を省ける利点を生かしたいわけであり,ロング施用に当たり,混合作業が生じることは,使用する上での抵抗感になると思われる。
ここでは,上記の問題を解決する方法として,現地農家で実施した種籾とロングを混合し,現行の播種機械で作業を行える方法を説明する。
a 本方法はコーティング肥料の特長を最大に生かしたものといえる。
b その理由は肥料の溶け出しが徐徐で且つ,安定しているため,種と接触した状態でも芽,根などに障害を発生させないことである。この点は肥料に敏感な作物で,既に立証され,幅広く活用されている。例えば,いちごのポット育苗で根との接触的な施用等がその代表的な使用方法といえる。
c ロング424-M100は粒の大きさが種籾とほぼ同じであるため,種籾との混合が均一になり,且つ播種作業工程で分離することがない。
d 現行の播種作業工程を大幅に変えることなくできる。
本方法の場合,次のような作業工程となる。
a 催芽処理し,機械での播種ができる状態の種籾を準備する。
b 播種作業の直前に種籾とロング424-M100の所定量を混合する。
(ロングの施用量は前記4-1の内容に準じて決める)
種籾との混合はプラスチック容器を使用し,手混ぜで行うとよい(写真-1参照)。

c 播種量とロング施用量の合計量が播種機械から落下するように調整する。
例えば,種籾量100g+ロング50g=150g
d 播種作業を行う(写真-2参照)
播種後の状態は写真-3のように均一に播かれる。


上記以外の作業は通常の作業方法に準じる。
今後の農業情勢を考慮すると,上述の施肥技術を発展的に改善,改良し,更に省力化が図れるような技術開発が必要である。
この問題を解決するには,これから資材と施肥技術の両面からの開発が必要であると考えられるが,ここでは,肥料の面より現在検討されている方法を提案する。
この方法は本田で必要とする肥料分の全量を苗箱に施用することにより,本田の施肥を不要にするものである。
この方法はコーティング肥料で可能と考えられるが,肥料に求められる条件があり,その点を上げると次のようになる。
本田で必要とする肥料分を苗箱に施用するので,慣行の苗箱への施用肥料分に比較して相当多い量となる。育苗期間に必要とする肥料分は少ない量であるため,施用した肥料の少量だけが溶け出すことが求められる。つまり,育苗期間は肥料の溶け出しが極少量になるように溶出抑制が必要となる。
本田では,苗の移植後生育に見合った肥料分の供給ができること。つまり,稲の養分吸収のパターンと肥料の溶出が適合することが求められる。この条件への適合性は既に販売されているLPコート70号,100号の普及により立証されているともいえる。
上記(1)の条件を満たす肥料の溶出パターンを想定すると図2のようになる。このような溶出パターンはシグモイドタイプまたはSタイプと弊社では名付けている。

図2の溶出パターンは,育苗期間と本田の想定地温に基づいた肥料の溶出を想定したものであるが,苗,稲の養分吸収パターンとほぼ適合しているといえる。このパターンの肥料を苗箱に施用した予備的試験では,育苗,本田でも正常な生育となり,本方法が基本的に可能であることが確認できている。
コーティングの特性を生かす方法の1つとして,今後,省力栽培として検討されるであろう直播栽培の利用が上げられる。この点については,上記4.(2)の種籾との混合施用と同様な考え方である。
以上,ロング施用の水稲育苗を中心に説明したが,今後更に省力化が求められる農業情勢と環境問題が議論されている社会情勢を考慮すると,その対応として,コーティング肥料の果たすべき役割は大きいといえる。
弊社は今回紹介したロングの他にLPコートも販売しており,それらの肥料の溶出パターンも,一般的なものから特殊なものまで幅広い製品スペックを揃えている。また,今後,弊社は社会の要望に添える製品の開発を行いたく,読者の皆様の積極的なご意見,ご提案を期待致します。
(佐藤 健)