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第416号 1992(H4).06発行

PDF版はこちら 第416号 1992(H4).06発行

 

 

熱帯におけるインド型水稲におよぼす
LP肥料の効果(その1)

(株)日本工営(前・国際稲研究所)
和田 源七

 稲は一般的に玄米100kgを生産するためには約2kgの窒素の吸収が必要とされ,収量増大のためにはそれに応じた窒素吸収が必要となる。窒素の吸収量が多くなるにつれて,収量構成要素間のバランスをくずしたり,倒伏等のため逆に減収する場合もみられる。窒素施肥により多収を得ようとすれば,より高度の技術を必要としたのが今までの稲作である。

 稲の窒素吸収過程をみると,生育初期には急速(指数函数的)に増加する。中・後期はほぼ一定の速度で窒素を吸収し,吸収速度は生育初期に比しかなり低いのが一般的である。また,窒素の吸収源も生育の初期と中・後期では異る。

 生育の初期では窒素吸収パターンは栽培法(栽植密度および基肥量等)によって容易に変化するのに対し,中・後期では単純な栽培法によって窒素吸収速度を変えることは非常に難しい。中・後期の窒素吸収速度は主に土壌からのアンモニア態窒素(NH4-N)の供給量(土壌の肥沃度)に支配されている。

 したがって,生育中・後期の窒素吸収量を増大させるには,1)地力の増強,2)深層施肥等により基肥窒素の吸収期間を長くするか,3)追肥によるかである。

 これらのうち,地力の増強は非常に困難であり,深層施肥は作業が困難で,しかも多量の労働力を必要とするため現実的には非常に難しい。追肥は作業は容易であるが,吸収量の増加は一時的なものであり,量や時期の微妙な差により減収を招くため,高度の知識と技術が必要である。

 そこで,肥効の持続期間が長く,しかも窒素吸収の不均衡を生じない緩効性肥料が望まれ,CDU,IB等の緩効性肥料が開発されてきたが,それらの肥料のNH4-N放出パターンは多くの要因に影響をうけるため,使用法の点に問題があった。

 この点を克服するため,窒素の放出が温度のみの函数であるコーティング肥料LPコート(LP)が開発され,窒素の放出速度の異なる各種の型が製造された。これらのLPの水稲に対する効果は,日本各地で試験され実用に供され,特別の施肥法によらなくも増収に役立ってきている。

 熱帯は温帯と異なり,高温のため地力の消耗が激しく,地力の培養は一層困難であり,さらに炎天下の農作業もより困難で,その上農民の知識が先進国の農民に比して劣ること等のため,高度な稲作で増収を図ることは難しく,より単純な稲作での増収が望まれている。

 現在,熱帯の灌漑稲作地帯で栽培されている稲の品種は,改良indica種で日長に対する反応は低く,窒素に対する反応も温帯のjaponica型に匹敵し,栽培法によってはかなりの多収も期待できる。

 このような条件下では,LPの使用は増収に役立つものと思われた。しかも,生育期間の範囲が日本の栽培品種より広いので,各種のLPに対する水稲品種の反応も,日本の場合に較べて巾が広いとみられ,LPに対する反応も日本の場合に比し多様であると考えられた。

 そこで,熱帯におけるindica型のLPに対する反応を調べ,生育期間の異なる水稲品種について溶出速度の異なるLPに対する反応を検討して,熱帯でのLPの効果的利用法を明らかにするとともに,日本でのLPの効果的利用法開発への参考資料も得ようとした。

材料と方法

 試験はマニラ郊外の国際稲研究所の圃場で1986より1989年の間に行った。硫安あるいは尿素を対照として,日本で基肥用として一般に使用されているLP100およびLP70の施用下における窒素吸収,生育,収量および収量構成要素の変化を,また溶出速度の異なる数種のLP施用下における生育期間の異なる品種の窒素吸収,収量および収量構成要素の変化を検討した。試験方法の概略は表1に示した。

結果と考察

 LP100と硫安施用下の稲の窒素吸収経過を図1に示した。硫安(AS),LP両肥料区ともに生育初期には稲の窒素量は移植後日数の指数函数(y=a・bx)で示され,中・後期は移植後日数の1次函数(y=a+bx)で示される。

 二つの式の交点はほぼ最高分げつ期にあたる。直線式で示される期間では土壌中のNH4-N量は極端に低くほぼ一定である。すなわち,直線部分では土壌より供給されるNH4-Nと消失するNH4-Nとが非常に低いレベルで平衡状態になっている。

 指数式で示される期間は栽植密度が高いほど短く,LP区はAS区に比して長いが,基肥量の多少によりその期間は変らない。また同じ日の稲の窒素量はAS区がLP区より高い。

 これはこの期間,とくに初期ほど作土中のNH4-N量がAS区で多いためで,LP区では基肥由来NH4-Nの作土中に存在する期間が長いことを示している。指数式部分では栽植密度の高いほど,基肥量の多いほど窒素吸収量は多い。

 直線式部分ではLP区の方がAS区より吸収速度が高い。これはLP区では後述するように最高分げつ期以後でも基肥由来窒素を引続いて吸収するためである。単肥施用の場合,基肥量の多少および栽植密度の高低によって窒素吸収速度は変化しない。LP施用量の異る区についての実験結果はないが,LPのNH4-Nの供給状況からみて,中後期の窒素吸収速度はLPの施肥量の増大とともに増加するものとみられる。

 これらの点から,AS施用の場合は施肥量が増加すると,生育初期の窒素吸収量の全生育期間の吸収量に対する比率が低下するのに対し,LP区ではそのようなことは少く,その比率はほぼ一定であると推定される。

 また,LPが生育中・後期にNH4-Nをほぼ一定の速度で供給していることは,土壌からのNH4-N供給の効果と同じであり,地力の向上と同じ結果をもたらしている。これは基肥窒素の回収経過を示した表2により裏付けられる。

 AS区は移植5週間後に密植区では基肥窒素の吸収は終了し,慣行密度区でも85%に達している。それ以後の吸収は非常に少く,出穂期における回収率は25~27%である。

 一方,LP区は移植5週間後の回収率はAS区に劣るが,その後も吸収は進み出穂期の回収率は密植区で43%,慣行区で38%となり,それ以後も吸収が続くことから成熟期の回収率はAS区の2倍に近いと思われる。

 地力の異なる4圃場の生育時期別の窒素吸収量の平均値を図2に示した。生育の極初期では,LP区の窒素吸収量はAS区に比し非常に少なく,とくに栽植密度の低い区はこの傾向が目立つ。

 移植5週間後では,LP区の窒素量はAS区のそれに近づく。出穂期ではLP区の窒素量はAS区のそれを凌駕し,硫安倍量区(2AS)のそれに近づき,成熟期にはLP区と2AS区の窒素量にはほとんど差はなくなる。栽植密度の差が窒素吸収におよぼす影響は,AS区に比しLP区は大きい。

 窒素溶出速度の異るLP肥料の下で栽培された稲の生育時期別の窒素吸収量を図3に示す。移植5週間後の窒素量は窒素溶出速度の順となる。それ以後は肥料の溶出速度の差を反映して,移植後日数の経過とともに溶出速度のより低い区の窒素量の増加が大きく,より溶出速度の高い区の窒素量に近づき,場合によってはそれを凌駕することもある。

 同一栽培条件の下では窒素量は,生育段階に関係なく移植後の日数に支配される。移植5週間後では窒素量に品種間差はほとんどなく,移植後日数の等しいIR58の成熟期の窒素量とIR36892-163-1-2-2-1の出穂、期のそれとはほぼ等しい。

 したがって,頴花分化期までの期間の短い短期種では,溶出速度の高低が直接その期間の窒素吸収量に与える影響が大きく,溶出速度の低いLPの下では窒素吸収量が極端に少くなり,これが穂の容量に大きく影響する。これに対し,生長期間の長い品種ほどこの期間の窒素吸収量に対する窒素溶出速度の影響が少く,LP肥料選択の巾が大きくなる。

 肥料の草丈,葉令の進度および出穂に対する影響はほとんどみられないが,茎数の推移には大きな影響を与える。茎数の推移は窒素吸収経過を反映し,LP区はAS区に比し初期の分げつ速度が低く,最高分げつ期もおくれ,その時の茎数も少い。(図4)

 しかし,最高分げつ期以後の茎数の減少速度は低く穂数は多くなる。LP区の穂数は
2AS区のそれにほぼ等しい。したがって,LP区は有効茎歩合が高く,穂数確保には最高分げつ期以後の窒素吸収の重要なことを示唆している。
(つづく)

 

 

肥料の来た道,帰る道
7.工業化社会の幕あけと鉱物肥料の登場(続)

京都大学
名誉教授 高橋 英一

 リン酸含量の高い鉱物としては,さきにあげたグアノから窒素分が溶脱しリン酸分が基盤中の石灰分と結合して残留したリン酸質グアノ,爬虫類や哺乳類の排泄物が遺体とともに化石になった糞化石(coprolite)があるが,量的に最も多いのは堆積リン鉱石(sedimentary phosphorite)あるいは海成リン鉱石(marine phosphorite)と呼ばれるものである。

 これらは何らかの生物の作用が働いてできたものである。生物には食物からリン酸分を濃縮する作用があり,これは遺体の分解によって放出され,環境中に石灰,鉄,アルミニウムなどがあるとこれらと結合して沈澱堆積する。とくに脊椎動物(鮫,鯨,海牛など)は体の中で微量のフッ素を含んだ固いリン酸カルシウム即ちアパタイトをつくり骨や歯などの成分にするのでその寄与は大きい。

 このように海底で堆積化石化したリン酸塩が地殻の変動で隆起し,地層中に埋没して存在していたものが,19世紀の後半になって各地で発見され,採掘利用されるようになった。すなわち1873年にはアフリカ北西海岸のチュニスで,1888年にはアメリカのフロリダ,1893年にはアルゼリア,1912年のモロッコと相次いで鉱床が発見された。

 リン鉱石にはいま一つ,マグマに起源をもつ火成リン鉱石がある。これはリン灰石(igneous apatite)とも呼ばれ,火成岩形成末期にできるアパタイト結晶である。アパタイト結品の中にはいろいろな元素がとりこまれるが,その中でフッ素は結品の安定性を高める作用があるので風化に耐えて残りやすい。

 これは動物の歯についてもみとめられ腐蝕に対する抵抗性に寄与しているが(その応用としてフッ素入り歯みがきがある),リン灰石を粉砕して肥料にする上で難点となる(そのため熱処理や酸処理して脱フッ素が行なわれる)。リン灰石の大鉱床は1880年ごろロシアのバレンツ海に面したコラ(Kola)半島で発見されたが,その後ブラジルやアフリカにも産出することがわかった。

 リン鉱石の採掘利用は1840年ごろからはじまったと思われるが(糞化石の発見。ただしそれ以前から骨粉やリン酸質グアノがリン酸肥料として使われていた),記録にある最初は1847年イギリスのサフォーク州で採掘された500トンである。

 その後,あとで述べる過リン酸石灰製造工業の発展とともに,採掘量は第3表にみられるように加速度的に増加し,1974年には1億トンを越え,今世紀末には3億トンに達するのではないかと推定されている(Hignett Fertiliser Manual IFDCによる)。

 産業革命は土地不足が工業原料の供給を制約したことから生じ,これから脱却するためにいろいろな代替資材が登場したが,従来の有機物にかわる新しい肥料として登場したのは地下から発見された肥料鉱物資源であった。これはまずヨーロッパでひろまったが,19世紀後半には開国した日本にも伝わった。作物の養分が鉱物界から供給されるようになったことの意義は大きい。それはその後の加速度的な人口増加を可能にした。

 第4表にみられるように,いち早く産業革命をむかえたイギリスの人口増加率は他にくらべて明らかに高い。別の記録によると1789年から1815年(フランス革命からナポレオンの没落まで)の26年間のフランスの人口増加率は9パーセントであるのに対しイギリスのそれは23パーセントと2.5倍であった(山崎耕一訳 ルネ・セディヨ著 フランス革命の代償 による)。

 このようなイギリスの人口増をもたらした原因はいろいろあろうが,その一つに鉱物肥料があったことは19世紀後半の統計の上に現われたN,P2O5,K2O消費量の著しい伸びが示している(第5表)。

 これに対し日本は江戸時代後半の人口はほぼ横ばいであったが,明治に入って人口増加率は急増している。ここにも西洋から新しくとり入れた化学肥料の影響が感じられるのである。

 肥料鉱物資源の登場は食糧生産や人口問題に光明をもたらしたが,新しい問題もかかえていた。それは有機物肥料とことなり分布が局在していること,また有限であり再生産が不可能でやがては枯渇する運命にあることであった。

一口メモ
アパタイトの語源

 アパタイト=apatiteはギリシャ語のapát(e)+iteに由来している。apátはtrickery,deceitすなわちあざむくを意味している。iteは鉱石を示す語尾である。その色や形がエメラルドなどにまちがわれることが多かったからだといわれる。

リン鉱石からウランをとる話

 海成リン鉱石にはいろいろな不純物が含まれているが,その中で注目すべきはウランである。これはアパタイトが海水中の微量のウラン(8ppb)を長年月をかけてとりこんだもので(アパタイトのCaと4価のUの同形置換によるといわれる),その含量は50~200ppmにのぼり,海水の1万倍以上の濃縮が行なわれている。

 リン鉱石の埋蔵量は750~1500億トンと推定されるので,その中のウランは数百万トンに上る計算になる。これはOECDが1976年に発表した世界のウラン資源の推定量200万トンを上まわる。リン鉱石からウランの回収はアメリカその他で試みられているが,経済的に採算がとれるかどうかはウランの市況如何にかかっている(小田部広男氏 リン鉱石と天然放射性物質 より抄録)。

 

 

土壌中の窒素濃度診断に基づく施肥技術(Ⅲ)

鹿児島県経済連 茶事業部
技術主管 藤嶋 哲男

はじめに

 茶は茶樹の茎葉を利用する嗜好性の高い飲料であり,茎葉中のアミノ酸,カフェインなどの含窒素化合物の多いものほど高品質とされている。そこでこの含窒素化合物の蓄積を図るための多量施肥を行うことは,決して“過剰施肥”とはいえない。しかし茶樹による吸収量の数倍もの施肥がなされることはやはり異常な多量施肥と言わざるを得ない。

 茶園に対する多量施肥は,土壌の強酸性化や微生物環境の劣悪化,茶根の活力低下や根量の減少を招き,施肥効率を著しく低下させているものと思われる。

 さらに最近では茶園からの肥料の溶脱などによる地下水や河川水への影響も懸念されており,茶園に対する多量施肥は改めて検討すべきであろう。

 茶園に対する施肥は本来,茶樹による肥料の吸収状況と利用率などから定められている。しかし,茶樹はかなり特異な栄養生理や栽培特性があるため,これらも十分に勘案した施肥技術を構築する必要がある。

(1)茶園における窒素の収支

 茶園に施用した窒素は茶樹による吸収のほか,降水による溶脱,一部は大気中への揮散などによって失なわれる。(但し,大気中への揮散についてはここではデータがないので省略する)

 鹿児島茶試で3.6㎡のライシメータ槽に黒ボク土を1mの厚さに充填し,50gとその倍量の100g/㎡*1の窒素をそれぞれ無機質肥料(硫安)と有機質肥料(なたね油粕7:硫安3)で施用し,5年生茶樹による窒素の収奪量と降水による溶脱量を調査した結果を図1に示した。

 年間の窒素施用量が無機質肥料50gのとき,摘採,整枝による収奪量は22.9g,同倍量のときは24.9gであった。一方降水による溶脱量は前者16.2g,後者63.0gであり,倍量施用により吸収量は僅かに増大するにすぎないが溶脱量は63.0gと約3.9倍に増加し,倍量施用による増施分の大部分が溶脱することを示した。

 有機質肥料のときは無機質肥料に比べて吸収量はやや増大し,溶脱量は約1割減少するが,増施分の約82%は溶脱することを示した。

 供試土壌は火山灰土壌であるため保肥力が弱く,一方,本県では年間2400mm程度の降水量があるため,窒素の溶脱量はきわめて多く,とくに多量の施肥による土壌の強酸性化は溶脱を助長しているものと推定される。茶園に対する施肥はこの溶脱を常に念頭において行うべきである。

(2)最適窒素濃度の解明

 茶樹は木本性の常緑樹でかつ需葉作物であるため,ある程度恒常的な窒素の供給が必要であり,さらに主要根群がうね間に集中していることから,うね間土壌中の窒素濃度と茶樹の生育・収量との間には関連性が高いと推定されていた。

 いま,うね間土壌(うね間の幅50cm,深さ20cmの土壌)中の無機態窒素(NH4-N+NO3-N)濃度を5段階に維持しながら*2茶樹を栽培し,茶の収量・品質を検討した結果を図2に示した。

 収量では一~三番茶とも維持濃度が高いほどすぐれたが,品質では三番茶を除き24mg*3にほぼピークがみられた。

 つぎに一番茶について維持濃度を秋(9月上旬~11月中旬)は3段階,春(2月上旬~4月下旬)は2段階として,茶の収量・品質を検討した結果を図3に示した。

 収量では各処理区とも大差なかったが,品質では明らかに春24mgのほうがまさり,春の維持濃度を高めたほうが品質の向上には有効であることを示した。

 そこで施肥量の節減を目的として,時期別の最適窒素濃度組立試験を行った結果を図4に示した。

 年間を通して24,36,48mgに維持した区に対し,秋12,春24,夏(5月上旬~7月上旬)36mgと時期別に濃度を変えて維持した場合,茶の収量,品質では各処理区とも大差なかった。

 しかし施肥量では,時期別に濃度を変えて維持した区は年間を通し36mgに維持した区の約2/3,同48mgに維持した区の約1/2になった。つまり,茶の収量・品質を下げることなく,施肥量を大幅に節減できることが示唆された。

(3)窒素濃度診断技術の確立

 以上の結果はデータの乱れを少なくするため,無機質窒素肥料の硫安を用い,堆肥などの有機物をほとんど施用せずに行ったものである。しかし通常の濃度では堆肥などを施用し,有機質と無機質の肥料を併用していることが多い。

 そこでうね間土壌中の窒素濃度を診断(採土して分析する)しながら維持濃度への補正を①無機質肥料で行う区,②主として有機40%配合で行う区,③主として有機80%配合で行う区,を設け,これらの診断区と診断をしない緩効性肥料区(硫安を併用),農家慣行区と比較した結果を表1に示した。このとき維持濃度はほかに行った試験結果も加味して秋12,春22,夏30mgとした。

 診断区の窒素施用量は農家慣行区に比べ各年次を通じいずれも50%内外であり,緩効性肥料区では約70%であった。

 ここで農家慣行区は窒素108kg/10aを9月上旬~3月上旬に有機配合区と同一肥料で4回,3月下旬に硫安で5回,いずれも窒素として12kg/10aずつ施用したものである。

 そこで生葉収量を比較すると表2のとおりであり,昭和62年にやや低い値を示すほかは診断区が上まわっており,3か年平均では有機40,同80%配合区がややまさる結果を示した。

 さらに煎茶品質をみると表3のとおりであり,年次によりやや乱れたが,各茶期を通じ各処理区間に一定の傾向はないといえよう。

 なお,表示しなかったが,新芽中の全窒素,タンニン含量でも各処理区間に大差なく,さらに昭和62年一番茶についてアミノ酸含量を調べた結果でも各処理区間差は少なかった。

(4)窒素濃度診断に基づく施肥技術の体系化

 まず診断値(最適窒素濃度)は鹿児島茶試における数多くの試験結果から帰納的に,黒ボク土の場合,秋12,春22,夏35mg程度であり,採土位置はうね間の幅50cm,深さ20cmが妥当と推定された。

 診断時期は茶樹の生育ステージや摘採時期を勘案して一~三番茶摘採の場合,秋は9月上旬,10月上旬の2回,春は2月中旬,3月中旬の2回,夏は各茶期の萌芽期と摘採直後(但し三番茶摘採直後を除く)の5回,計9回を原則とする。

 分析項目は窒素の主な吸収形態と考えられる無機態窒素(NH4-N+NO3-N)を主体とするが,堆肥などの有機物施用量の多い茶園では土壌の可給態窒素含量をあらかじめ測定しておき,この値を夏の診断値より差引く*4

 なお,有機物施用量の多い茶園では容積重を測定し診断値を補正する必要がある(詳細は省略)

(5)現地実証試験

 本県薩摩半島南部の4市町で行った前項の施肥技術の実証試験の結果を表4に示した。

 ここで施肥時期や肥料の種類は各農家の慣行に合わせ,診断区は施肥前日に採土,分析し,残存する窒素含量を前述の診断値から差引いた値から補正量を算出して施肥したものである。

 その結果,各調査地点とも診断区では農家慣行区の60~80%の施肥量となったが,収量,品質では大差なく,さらに市場価格でも(データは省略)ほとんど差はなかった。

おわりに

 本施肥技術の導入に当っては,採土,分析をすみやかに行い,分析結果から施肥量の決定までを迅速に行う必要があり,分析法の簡便化やデータ処理のシステム化が望ましい。

 一方,有機物施用などにより土壌窒素を富化したり,施用肥料の種類とその特徴を駆使することなどにより窒素濃度維持期間の延長ができれば,診断回数の削減も可能であろう。緩効性肥料区が診断を行わずに診断区に準ずる成果を得たことはその可能性を示唆するものといえよう。(おわり)

*1 g/㎡はkg/10aに相当する,以下単にgで表わす。

*2 ほぼ2週間ごとに採土,分析し維持濃度を下まわったときは施肥を行い補正する。

*3 乾土100gあたり無機態窒素含量を表わす。以下のmgも同じ。

*4 通常の黒ボク土では可給態窒素含量は5mg程度であり,主として気温の高い夏期に無機化する。