§稲作を中心とする土地利用型農業の構造と経営の展望について
農林水産省大臣官房企画室
室長補佐 矢野 哲男
§肥料の来た道,帰る道
10.昭和元禄と肥料の多様化
京都大学
名誉教授 高橋 英一
§大豆に対するLPコートの下層施肥技術
新潟県農業試験場
主任研究員 高橋 能彦
農林水産省大臣官房企画室
室長補佐 矢野 哲男
現在,我が国では世界的にみても栄養バランスのとれた健康的で豊かな「日本型食生活」ともいうべき食生活のパターンが形成されている。これは,経済の国際化に伴って農産物の輸入自由化が進められた結果でもあるが,同時に食料自給率の大幅な低下を招くこととなった。
一方,農業,農村においては農業就業人口の減少,高齢化,耕地利用率の低下等が進行しており,国内の食料供給力の低下のみならず,地域社会の維持が困難なところもでてきている。このように,我が国の農業や農村を取り巻く状況には極めて厳しいものがある。
先般,農林水産省が公表した「新しい食料・農業・農村政策の方向」(以下,新政策という)は,このような状況に対して,今後展開すべき政策の論点整理と方向付けを示したものである。ここでは,そのなかで示された10年程度後の稲作を中心とする農業構造と望ましい経営の展望,さらにそれを実現するための農業政策の展開方向について紹介することとしたい。
現在,我が国の稲作等の土地利用型農業は,他分野に比べて規模拡大が立ち遅れており,国内における供給力の低下が懸念されている。このような状況の下での最優先の課題は,農業経営に意欲と能力のある者を確保し,効率的・安定的な農業経営を広範に形成することである。
このためには,農業経営を行う者が,その能力を十分に発揮することによって所得と同時に経営の面白さや心の充足感を享受できる条件を早急に整備することが必要である。
このようなことから,新政策においてはまず,職業として選択し得る魅力とやりがいのある将来の経営体像を,農業構造の展望と技術・経営の視点を踏まえて提示することを農業政策推進の基本として位置づけているのである。
新政策で示した農業構造の展望は,農林水産省が開発した農業構造モデルによるシミュレーションを基礎としており,具体的には,農業センサスの動態調査結果(昭和60年から平成2年の間に農家の規模等がどのように変化したかを調査したもの)における農家の異動状況を基礎に,将来の農業構造を試算したものである。
なお,この試算は,単純な予測ではなく,労働力の充実している農家の規模拡大を促進するという観点から,このような農家の規模拡大のテンポをセンサスの水準以上に促進するなど,政策努力を意欲的に織り込んだものとなっている。
試算の結果,10年程度後の農業構造については,
①農業労働力が約3分の2程度に減少(基幹的農業従事者数:310万人→210万人程度)するとともに高齢化が進行(65歳以上の比率が5割程度)することから,農家戸数は現状の380万戸から250~300万戸程度に減少する。
②他方,農地を所有するものの土地利用を他の経営体に委ねるいわゆる土地持ち非農家が大幅に増加(78万戸→140~190万戸)する。
③経営感覚に優れ,効率的,安定的な経営体として「個別経営体」が35~40万,組織経営体が4~5万形成される。
とみられる。(表1,2)


また稲作についてみると,
①稲作を主とする「個別経営体」は15万程度で,うち,稲作単一経営は5万程度,野菜などの集約作物との複合経営は10万程度
②さらに,現在稲作を主とする生産組織(1.7万組織)は受託組織,共同利用組織等多様な形態で展開しており,これらを母体に形成される組織経営体は2万程度
③これらの経営体による稲作生産のシェアは8割程度
と見込まれる。
なお,このような農業構造を実現するためには,今後の10年程度の間に過去の実績の2倍以上の農地を流動化し,その大半を望ましい経営体に集積することが必要と考えられる。(図1)

望ましい稲作経営の展望に当たっては,農業を職業として選択し得る魅力あるものとするため,主たる従事者の年間労働時間及び生涯所得のいずれもが地域の他産業従事者と均衡する水準とするとともに,現在の技術水準のもとで,集団化された圃場と機械化体系による生産性の高い営農が行われることを想定して試算している。
経営の類型は,需給,コスト,労働力等の問題を考慮して,米,麦,大豆等による作付体系とし,個別経営体と組織経営体の2類型を想定した。また,地域区分は,北海道,北東北の1年1作地帯,南東北・北陸の2年3作地帯及び関東以西の1年2作地帯(九州は早期水稲栽培を導入した3年5作)として検討している。
注:1)現状の他産業従事者の生涯所得を諸統計から推計(生涯賃金,退職金,年金を現行の支給額水準で試算)すると,地域による差はあるものの,主要農業地域では概ね2.0~2.5億円程度と見込まれる。
2)年間労働時間は,労働省の毎月勤労統計調査によれば平成3年の調査産業計で2000時間強(事業所規模30人以上)であり,本年6月に閣議決定された「生活大国5か年計画」では,今後5年間に年間総労働時間を1800時間とすることを目標としている。
経営展望の試算結果によれば,
①経営規模は,地域による差はあるものの,個別経営体で10~20ha程度,組織経営体では一集落ないし数集落に相当する程度
②稲作の生産性は大きく向上し,平成2年産の米生産費(労働時間で45.6hr費用合計144千円/10a:都府県)と比載すると,個別経営体では
1)10a当たり労働時間(23~25hr)及びコスト水準(費用合計:78~83千円)は,ともに平均の5~6割程度
2)現状の大規模層(10ha以上の層:労働時間25.5hr,費用合計97千円)と比べても労働時間はこれを下回り,コストでは8割程度の水準
③直播栽培等の新技術の導入・普及や大区画圃場の集団化などが実現した段階では,生産コスト(62~66千円)は全国平均の4~5割,10ha以上の大規模層の6~7割程度に低下する
と見込まれる。(表3,4,5,6)




このような経営を実現するためには基幹的な作物についての研究開発を効果的に進めることが必要である。
水稲については,良質化とともに省力・低コスト化のための品種育成と栽培・作業技術の開発,小麦については,良質化とともに安定・多収栽培技術の開発と品種育成,大豆については,省力・低コスト化を図るための機械化管理・収穫技術や栽培技術の開発・改良,安定多収品種の育成,病害虫防除技術の開発が重要課題となっている。
今後は,これらの研究開発について,目標とスケジュールをいわば研究戦略として明確にしながら実施することとしている。
稲作以外の土地利用型農業経営においても,
①酪農及び肉用牛生産では,生産性向上・経営体質強化と併せて,ゆとりある酪農経営の実現と肉用牛資源の拡大,さらには環境問題への適切な対応
②野菜では,供給事情の変化を踏まえた政策運営の転換と供給力の確保
③果樹では,国産果実の特性等を生かした足腰の強い果樹産地の育成
④畑作物では,需要サイドのニーズに対応しつつ,生産の安定と経営の体質強化を図る
ことが必要であり,このようなそれぞれの課題を踏まえて望ましい経営の展望を示しつつ,所要の政策を講じていくこととしている。
経営感覚に優れた効率的・安定的な経営体が生産の大宗を担う農業構造を実現するため,農地制度,土地改良制度などの見直しを含めて以下の政策を推進することとしている。
・集落段階を基礎として育成すべき経営体及び土地利用のあり方を明確化し,段階的に進める仕組みの整備,及びこれと一体となった生産基盤整備等の集中化・重点化
・土地の面的管理を適切に行う仕組みの整備(農用地区域の中で育成すべき経営体が生産を行う区域や,農用地区域外で住宅などの土地利用を行うための区域を設ける)
・経営管理能力の向上,給料制,休日制の導入などに重点を置いた普及指導体制の整備
・普及所,農協,農業委員会などの関係機能を集積した,総合的な技術経営指導・情報提供の仕組みの整備
・家族農業経営,生産組織を含む法人化の推進
・労働力の周年消化,財務基盤の強化,幅広い人材活用に向けた農業生産法人制度の整備(株式会社については一般農地取得を認めることは適当でないが,農業生産法人の一形態として更に検討)
・OJT(日常業務を通じた実地訓練)の活用を含む研修教育,低利資金の融通,情報のネットワーク化による相談・斡旋などの体制の整備
・女性の役割を明確化と,農業生産・農村活性化の担い手としての能力発揮のための条件整備
・望ましい経営体への農地利用の集積に向けた農地保有合理化促進事業の改善とその積極的な活用(農地の当面の引受け手がいない地域における農協,市町村の公益法人が行う農地の適切な利用・管理を推進)
・農作業受委託の推進
・関係農業者の合意形成の円滑化と農地利用の集積を図るための土地改良事業の推進手法の整備
・地域の農業構造の再編と利用形態の変化を踏まえた農業用水の確保・再編と農業水利施設の管理体制の強化
本年6月に閣議決定された「生活大国五か年計画」にみられるように,我が国は現在,豊かさとゆとりを実感できる新たな経済社会の枠組みを模索している状況にある。
農林水産行政においても,このような時代の要請に応え,「新しい食料・農業・農村政策の方向」で示した方向に沿って,広く国民の理解を得ながら所要の制度,施策を見直し,将来の明るい農業.農村の実現に向けて新たな政策を展開しようとしているのである。
京都大学
名誉教授 高橋 英一
半世紀近く前,日本の社会は敗戦によってどん底の状態にあった。窒素肥料の生産量も工場の戦災等によって往時の5分の1まで低下し,冷害の追いうちもあって1千万人餓死説がでるほどの深刻な食糧危機に直面した。
しかし復興は予想外に早くすすみ,5年後には戦前の最高レベルを回復し,以後相つぐ技術革新によって大量のアンモニアが安価に供給されるようになった。第7表にみられるように,生産量が最大に達した昭和48年には,窒素換算で戦前の最高であった昭和16年の7倍にのぼり,生産量の3分の2は輸出されていた。

アンモニア合成工業は典型的な装置産業であり技術革新の中で製造装置の大型化が進められたが,その経済的メリットを発揮するためには大量に生産されるアンモニアの消費をはかる努力が同時に必要であった。そしてそれはつぎの2つの方向で進められた。
一つは肥料の形態の多様化による国内需要の開拓とコスト低減による輸出の拡大であり,いま一つはカプロラクタムやアクリロニトリルなどの原料としてのアンモニアの新しい工業用途の開発であった。
この中後者は,衣料,住居などの生活の面に革命をもたらすとともに,大量に生産されるアンモニアのシンクとしての役割を果した。因みに昭和38年におけるアンモニアの工業用消費は48万トン,総生産量の27%であったが,50年には158万トン,53%と肥料用消費を凌駕するにいたり,オイルショックにより肥料の輸出力が急速に落ちこむにおよんで,昭和63年には78%と消費の大半をカバーするようになった。
肥料の多様化は窒素だけでなく化学肥料全般に及んだが,それは昭和元禄と呼ばれた経済的繁栄と太平謳歌の時代の到来と無関係ではなかった。国土のせまい日本では古来農業は土地生産性を上げることに専念してきた。そのため農民は労力を惜しまない勤勉さが何よりも要求されたが,昭和元禄の到来とともに労働生産性の向上がうたわれるようになり,農業の省力化がはじまった。
省力化の影響は一つには有機物投与量の減少となってあらわれた。有機物には化学肥料が供給する三要素以外にもケイ酸,マグネシウムなどの特殊成分や微量要素が含まれている。有機物投与の減少はこれらの養分の不足をひきおこす結果となり,それを化学肥料が補うようになった。ケイカル肥料やマグネシウムを含んだ熔成りん肥,ホウ素,マンガンを添加したBM熔りんなどの登場がそれである。
省力は田植作業にもむけられた。一つは田植の機械化であり,いま一つは直播によって田植を省略する方法がとられるようになった。後者の場合は基肥として施したアンモニア態窒素が乾田期間中に硝化して,湛水によって流亡,脱窒するのを防ぐ必要があった。
そこで硝酸化成抑制剤が開発され,硝抑剤入り肥料が現われた。硝抑剤はハウスの亜硝酸ガス障害を防止するのにも用いられるようになった。この障害はハウス内の土壌表層に肥料塩が集積し,亜硝酸の酸化を阻害するため,蓄積した亜硝酸がガスとなって作物に被害をあたえるものである。硝抑剤はアンモニアが亜硝酸に酸化されるところを抑制するので,被害防止に効果がある。
硝酸化成が抑制されることは,戦前においては作物に対して好ましくないこととされていた。石灰窒素には硝抑作用があるが,それはマイナスのイメージを与えていた。硝化抑制に対する評価の変化は,乾田直播やハウス栽培の普及,肥料のやり過ぎといった戦前にはなかった状況の出現によるものであり,これまでとはちがった目的すなわち省力と安全性のための手段としてであった。
有機物肥料とくらべた場合の化学肥料の特徴は成分が単純濃厚であることとともに,水溶性すなわち速効性であることであった。ところが水溶性でない化学肥料が登場するようになった。
それらは熔成りん肥,緩効性カリ肥料,縮合尿素肥料などのように肥料自身の溶解度によるものと,従来の水溶性肥料を適当な資材で被覆して溶解度を調節するものとの2つのタイプにわかれる。従来化学肥料の施用法は水溶性である点を生かして研究されてきたが,この溶解性における変化もまた省力と安全性という時代の要求を反映したものであった。
省力は施肥の回数をへらすことによっても可能であり,そのため基肥として与えた化学肥料が作物の生育にしたがい徐々に可給化してゆく工夫が凝されたのである。いま一つの安全性は水溶性の化学肥料の溶脱や過剰が作物にマイナスに働くのを回避するための処置から,環境の富栄養化防止の方に重点が移っていった。いわゆる環境にやさしい肥料というニーズにこたえるものであった。
ところで肥料の多様化は社会状勢の変化による新しい要望にこたえるためにおこっただけでなく,供給源の問題も関係している。たとえば戦後隆盛の一途をたどった製鉄工業は大量に排出する鉱滓の一部をケイ酸肥料に供給したし,新しくおこった石油化学工業も縮合尿素肥料の原料としてアルデヒド類を提供した。
また塩安はソーダ工業の技術革新の産物であったし,アンモニアの工業利用(たとえばナイロンの原料のカプロラクタムの製造)の副産物として回収硫安が,製鉄工業やガス工業に必要なコークス生産の際に発生するアンモニアは,副生硫安として目的生産される合成硫安にとってかわっていった。
こうして工業の内部で発生した廃物の一部は肥料という形で農業の中にとりこまれるようになった。このソース・シンクの関係は江戸時代に農業の多角化の中で発生したソース・シンクによる物質の流れが循環的であったのに対し,一方的な流れであるところが異なっている。
昭和元禄と呼ばれた時代が施肥農業にもたらしたのは,これまでに経験したことのない「省力」と「過剰」の問題であった。これに対処するかたちでおこった肥料の多様化は,それ故に戦前までに歩んできた肥料の道からは予測できない現象であった。
環境中の窒素過多のために牧草中に多量の硝酸が蓄積し,これを食べた家畜が中毒をおこすという過去にはなかった事故がおこるようになった。これは反すう動物である家畜の第一胃で硝酸が微生物によって亜硝酸にかえられ,これが血液中に入ってヘモグロビンと反応し,その酸素運搬能を失わせるためにおこる一種のチアノーゼ症である。
一般に硝酸中毒と呼ばれているが正しくは亜硝酸による中毒である。馬などの単胃動物の胃は酸性であるので,硝酸の還元はおこりにくく被害は少ない。ヒトも単胃であるが,生後3ヶ月未満の乳児は胃酸の分泌が少ないのでごくまれに亜硝酸中毒にかかることがある。いわゆるブルーベィビーである。
牧草中への硝酸の蓄積を防ぐには,土壌中の多量の含窒素有機物(家畜排泄物の投入などによる)から分解生成したアンモニアが,硝化菌によって硝酸に酸化されるのを阻止することが有効であり,ここにも硝化抑制の利用の途がある。
新潟県農業試験場
主任研究員 高橋 能彦
新潟県における水田転換作物は麦・大豆が中心であり,それぞれの安定的な増収技術が求められている。県内平野部の水田は沖積粘土質土壌が主であり,過湿な条件とともに硬い耕盤層で転換作物の根圏が制限され,大豆の平均収量は10a当たり200kgに満たないのが現状である。
「地域水田農業技術確立」という国補課題の研究の中で当農試では転作大豆の増収のためにLPコートの下層施肥について検討してきた。
大豆の窒素栄養は根粒が固定する空中窒素でその多くがまかなわれている。特に本県の沖積転換畑では大豆が生育中に同化吸収する窒素のうち実に70%以上が固定窒素でまかなわれている。大豆根粒は主に地表下5~10cm部位の根に着生するが,その近辺に多量の肥料窒素(主に硝酸態窒素)が存在すると根粒の着生や活性が著しく阻害される。
したがって,単純に作土に施肥するだけでは安定的に施肥窒素分の増収を得ることは難しい。しかし,作土の下,根粒の着生部位の下方に緩効性の肥料を局所施用すれば根粒の活性を阻害せずに効率よく肥料室素が吸収できるという考えがある。旺盛な窒素固定能と効率よい肥料窒素の吸収を調和させて安定した増収を得ることが本試験の目的である。
新潟農試圃場(長岡市)
1988~1991年
田畑輪換,灰色低地土(灰色系)CL,東和統
エンレイ
播種5月30日~6月6日,1株1本立て播種密度8.9株/㎡

基肥硫安は全処理とも作土全層に混和。下層施肥は写真の下層施肥機で耕起前に地表下20cmに施肥。追肥は培土直前に株元に条施。

開花期,最頂葉展開期及び黄葉期に地上部を採取して,乾物重と窒素吸収量を分析した。収穫期に生育中庸な20株を抜取り,子実水分15%に換算して収量を求めた。
施肥窒素の吸収利用率を追跡するためにそれぞれの処理区の中に75cm×2mの木枠を埋設して15Nラベルの硫安,LP70,LP100を施用し,最頂葉展開期と黄葉期に大豆地上部を採取,吸収15N量から利用率を算出した。
根粒の窒素固定活性を推定するために相対ウレイド法を適用した。これは,大豆根粒で固定された空中窒素は全量ウレイド態(アラントイン,アラントイン酸)で導管内を上昇すると仮定して,導管液中の窒素におけるウレイド態窒素の割合をその時点の固定窒素割合とする方法である。
根の養水分吸収活性を追跡するためにRb(ルビジウム)トレーサ一法を適用し,併せて掘り取り根量も調査した。Rbトレーサーは塩化Rb液(Rb5%)を株元(注入深10,25cmの2処理)に注入して,3週後に地上部を採取・分析,Rb吸収量を根活性の指標とした。
表1に3ヶ年に渡る試験での乾物生産量,窒素吸収量を示す。下層施肥区は乾物生産量が20~40%慣行区より増加したが,追肥区は2~8%の増加であった。窒素吸収量も下層施肥区が22~34%増加したが追肥区は5~11%の増加に留まった。

表2に同じく処理間の収量及び品質を示した。大豆の子実収量は窒素吸収量と高い相関が認められており,子実100kg得るには7~9kgの窒素が必要とされている。下層施肥区は表1の窒素吸収量の増加を反映して,有志に増収した。その上,品質の低下も認められなかった。

このようにLP100の下層施肥は子実が安定して増収することが認められた。一方,LP70の培土期追肥は年次間で効果に差があった。
表3に肥料の吸収利用率を示した。スターター的な硫安窒素は作土全層施用ということもあって,利用率は10%程度とかなり低い。施用窒素全量を基にして計算した下層施肥LP100の利用率は最頂葉展開期ではまだ12%と低いが黄葉期では62%と高い利用率となった。
追肥されたLP70は最頂葉展開期で2%,黄葉期でも33%と比較的低い利用率だった。これは,前年の試験,黄葉期で下層施肥48%,追肥26%という結果と比べて,年次間差はあるものの,下層施肥は追肥の約2倍利用率が高いという同様の結果となった。

また,最頂葉展開期以降の子実肥大期に下層施肥されたLPコートの利用率が高くなるということは,大豆側の窒素要求パターン,子実肥大期(新潟県でのエンレイは8月中旬以降)に多くの窒素吸収を要する,と一致する肥効状況と考えられる。
相対ウレイド法で求めた根粒活性を図1に示した。ウレイド態窒素は慣行区で開花期及び最頂葉展開期ともに約80%を占めており,本圃場の極めて高い固定窒素寄与率を伺わせる。下層施肥区も両ステージともに約70%のウレイド態窒素があり,このデータからは根粒活性の著しい抑制は認められなかった。一方,培土期追肥区は最頂葉展開期でウレイド態窒素が60%程度に減少して根粒活性の抑制が伺われた。

翌1990年の試験では相対ウレイド法を更に発展させて各ステージ間の窒素同化量にその期間の平均相対ウレイド態窒素割合を乗じた値をその期間の固定窒素量とする「単純相対ウレイド法」を適用して固定窒素と化合態窒素の吸収活性を測定した(表4)。

これから,結実期間での窒素同化量の著しい増加が認められた。特に,LPコートを施用した区は肥料窒素の上乗せで化合態窒素(地力+肥料)の吸収量が慣行区より多くなった。慣行区の化合態窒素は大半が土壌由来の地力窒素と考えられる。
培土期の追肥は前年の試験結果と同様,緩効性のLPコートといえども根粒着生部位に肥料が存在したことで,多少の活性阻害が認められ窒素固定量が減少した。下層施肥区では,表3にも示されているように高い肥料利用率とともに根粒活性の阻害がなく,固定窒素に化合態窒素の上乗せで生育後半も高い窒素吸収活性を示した。
地上部の生育状況の調査は圃場試験でも割合やりやすいが,地下部(根圏)の調査は圃場レベルの試験では多大な労力を要する。特に,本圃場のような粘土質の圃場では更に困難である。1989年にRbトレーサ一法と掘り取り根量で各施肥処理の根活性を調査した。この結果を図2と3に示した。


上層根のRb吸収量は追肥区が一番多く,下層根では下層施肥区のRb吸収が多くなり,LPコートを施用した部位で根の養水分吸収活性が高くなる傾向が伺われた。適度な溶出窒素が根の肥料焼けを起こすことなくむしろ活性を高めたことが伺える。掘り取り根量の結果からも下層施肥によって根量が増加する傾向が認められた。
以上,当初の目的のとおり「下層施肥は根粒の活性を阻害せず,肥料からの窒素を効率よく生育後半まで吸収させることができる。その結果,窒素吸収量及び乾物生産量が増大して多収に効果がある。」という結論が得られた。
施用LPコートを追肥するより下層施肥した方がその利用率が高いという理由は施肥部位の硝酸化活性が低く,溶出窒素の硝化溶脱が少ないことが主因と推定される。いうなれば粘土質転換畑の性質を逆手に取ったような形であるが,このLP100の下層施肥技術は大豆に限らず転換畑麦作等においても検討していく必要がある。
本県のような積雪地域での麦栽培では施肥窒素の流亡損失の度合がかなり高いと推定されている。環境への負荷軽減技術としても今後,更にこのような施肥法の検討が望まれる。より安定した溶出パターンの被覆肥料の開発とより低価格での供給が望まれる。