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第430号 1993(H5).08発行

PDF版はこちら 第430号 1993(H5).08発行

 

 

球根養成スカシユリに対するロングの施用効果
-窒素溶出状況を中心として-

新潟県農業試験場(前 新潟県園芸試験場)
専門研究員 笠原 敏夫
新潟県園芸試験場

1 はじめに

 五つの大陸の東部海岸温帯地帯の気候は,大陸東岸型気候と称され,この地域にはユリの自生地が多い。日本はこの地域に含まれており,多くのユリが自生している。なかでもスカシユリは,徳川時代の初期よりエゾスカシユリとイワユリ・イワトユリなどの雑種の育成により多くの品種が作出され,世界的に有名である。日本におけるスカシユリの主要な産地は現在新潟県であり,全作付け面積の約50%を占めている。

 しかし,ユリの栄養生理や施肥法に関する研究は国の内外共に乏しいため,球根養成スカシユリ(以下養成ユリと略称)栽培(10月に定植,翌年10月末~11月始めに収穫)での施肥法は,主に農家の経験により行われており,極めて多量の基肥が主体である。

 その一例として,新潟県最大のスカシユリの産地であり,優れた栽培技術を持つと言われている北魚沼郡堀之内町(日本有数の豪雪地帯で,耕地の土壌は表層腐植質黒ボク土壌と洪積層土壌)で行われてきた施肥の実態を図1に示した。

 著者らは,養成ユリ栽培の合理的施肥法を確立するため,堀之内町の圃場及び水耕法を用いて,調査・試験・研究を行い,次の結果を得て来た。

①堀之内町の圃場土壌のりん酸・加里などの養分は豊富になっているので,養成ユリの生育と収量を支配する施肥成分は主に窒素である。

②多量に施用された基肥窒素は,施肥法(石灰窒素の適期施用)によっては,萠芽時までアンモニア態窒素の形で作土層土壌中に多量に残存していたが,その後地温の上昇に伴って硝酸態窒素になり,作土層土壌からその下層へ溶脱し,萠芽2か月後では作土層土壌にはほとんど残存していない。

③養成ユリの生育と収量の良化に効果的な窒素供給時期は萠芽からその約100日後までの期間であり,この時期に十分窒素を吸収させ,葉面積の増大を計る必要がある。

④多量施用基肥窒素の肥効は低い。従って,養成ユリの良好な生育と収量を得るためには,萠芽時(基肥窒素が作土層土壌中に多量に存在し,その乾土当りの無機態窒素濃度が5mg%程度又はそれ以上の場合には不用),梅雨直前(6月上旬),梅雨半ば(7月中旬)の3回に,それぞれ10a当り窒素10kg程度の追肥が必要である。なお,8月上旬以降で窒素追肥の効果はあまりない。

 上述の結果より,省力で肥効が高く,しかも環境にやさしい合理的な窒素施肥法として被覆肥料の利用が考えられる。しかし,この様な条件下での被覆肥料の肥効は明らかでない。

 そこで堀之内町の養成ユリ圃場で肥料成分の溶出タイプが異なる3種類の被覆りん硝安加里肥料(以下ロングと略称)を基肥として施用し,タイプによる窒素溶出状況の特徴と養成ユリの生育・収量に及ぼす施肥窒素の効果を検討した。ここではロングよりの窒素溶出状況の特徴を中心にして述べる。

2 試験方法と試験区の気象

1)供試圃場

 新潟県北魚沼郡堀之内町の表層腐植質黒ボク土壌の圃場で,土壌の性質を表1に示した。

2)試験区

 140,180,270の3タイプのロングをそれぞれ全量基肥(50kg/10a)で施用した区及び基肥・窒素追肥区,基肥区,窒素無施用区の6区を設けた。その詳細を表2に示した。

3)供試品種

 堀之内町の代表的スカシユリである「紅の舞」の珠芽を用いた。なお,ユリの栽培管理は堀之内町の慣行に従って行った。

4)ロング窒素溶出量の測定法

 透水性は十分であるが植物根は通さないポリエステル製の布(商品名ラブシート)を用いて約5cm角の袋を作り,これにロング5gを混入した供試土壌13gを詰めて,圃場作土中に埋設した(図2)。

 この埋設した袋を経時的に掘り出して(図3),袋中の残存アンモニア態窒素量を測定し,埋設時に測定した量との差から溶出量を求めた。なお,測定はこれまでの試験で重要であると判断された①10月5日(基肥時),②11月28日(降雪前),③4月27日(萠芽時),④6月9日(梅雨直前),⑤8月7日(梅雨後),⑥9月1日,⑦10月2日,⑧10月23日(収穫)の8時期に行った。

5)試験区の気象

 堀之内町の養成ユリ圃場地帯の気象は不明であったので,この地帯と隣接している小出町の旬別の平均気温と降水量を参考値として図4に示した。

3 ロング窒素の溶出経過

 140,180,270各タイプロングの窒素溶出経過を,その窒素溶出率(図5)と窒素溶出速度(図6)に基づいて述べる。

140タイプ

 10月5日(基肥時)~11月28日(降雪前)の気温がまだあまり低下しない秋期間での窒素の溶出は比較的順調であり,この期間の窒素溶出速度(g/日・10a)は169であった。また,冬~早春で気温が低く(旬別平均気温が0~8℃程度)降水量の多い11月29日~4月27日(萠芽時)の期間での窒素溶出は予想に反してかなり高く,溶出速度125であった。

 その後気温が上昇すると溶出速度はさらに高くなり,再び174になったが,6月10日(梅雨入り)から10月23日(収穫)の期間での溶出速度は低下し,89程度になった。従って,140タイプの窒素は水分が十分にある土壌中では0~8℃程度の気温下でもかなり溶出することが判った。なお,溶出率が80%に達したのは施肥約310日後の8月7日であった。

180タイプ

 秋期間での窒素の溶出速度は146で,140タイプよりわずかに低下した程度であったが,冬~早春の期間での溶出速度は140タイプとは異なり著しく低く,34になった。しかし4月28日以降では溶出速度は急増して174になり,この値は10月23日迄あまり変化しなかった。また,溶出率が80%に達したのは施肥約360日後の10月2日であった。

270タイプ

 秋期間での窒素の溶出は,180タイプより多少低下したが,比較的順調であった。しかし,冬~早春での溶出は極めて少なく,その速度は10であった。また,4月28日~8月7日(梅雨後)での溶出速度も73で高い値にはならなかった。これに対して,8月8日以降での溶出速度は著しく高くなり275になった。なお,溶出率は施肥約380日後の10月23日でも70%程度であった。

4 ロング窒素溶出量の推移

 これまでの窒素追肥時期圃場試験結果から,試験期間をⅠ期:10月5日(基肥時)~11月28日(降雪前),Ⅱ期:11月29日~4月27日(萠芽時),Ⅲ期:4月28日~6月9日(梅雨直前),Ⅳ期:6月10日~8月7日(梅雨後),Ⅴ期:8月8日~10月23日(収穫)の5時期に大別し,期間内での溶出窒素量(10a当り)を算出した結果から,養成ユリ栽培で肥効の高いロングのタイプを推察した。

Ⅰ期

 3タイプロングの溶出窒素量は,図示した様に比較的多量であった。しかし,珠芽養成ユリの萠芽迄の窒素吸収量,供試した圃場土壌の硝化力,及びこの期間の気象条件などからみて,溶出窒素の大部分は萠芽時迄に作土層からその下層へ溶脱したと考えられた。

Ⅱ期

 140,180,270各タイプロングの溶出窒素量はそれぞれ18.7,5.1,1.5kgであった。この期間ではユリの窒素吸収量は著しく小さいので,(a)溶出硝酸態窒素は多量の降水により作土層からその下層へ溶脱する,(b)溶出アンモニア態窒素(全溶出窒素の半量)は気温が低いので硝化作用を受けずに作土層土壌中にすべて止まっていると仮定して,萠芽時における作土層土壌中のロング由来窒素濃度(乾土当り)を算出すると,140,180,270各タイプの濃度はそれぞれ5.9,1.6,0.5mg%であった。

 養成ユリの初期生育の良化には,萠芽時の作土層土壌の無機態窒素濃度が5mg%程度必要である。従って,この条件を満足させ得る可能性があるのは,140タイプであった。

Ⅲ期

 140,180両タイプロングの窒素溶出量は共に7.5kgで比較的多量であったが,270タイプロングのそれは3.1kgで少量であった。

Ⅳ期

 140,180,270各タイプロングの窒素溶出量はそれぞれ5.3,10.3,4.3kgであり,180タイプの溶出量が最も高くなった。

 Ⅲ・Ⅳ両期での十分な窒素の供給は,ユリの生育・収量の良化に極めて効果的である。上述のⅡ~Ⅳ期における窒素溶出結果からみると,140タイプはⅢ期,180タイプはⅣ期に比較的多量に窒素を供給し得るタイプであると考えられた。

Ⅴ期

 各タイプロングの溶出窒素量は図示した通りであり,この期間での特徴は,270タイプロングの溶出量が21.2kgで著しく多量になったことであった。しかし,この時期では,ユリ球根収量に及ぼす窒素供給効果は高くない。

 これらの結果から,140タイプは主にⅢ期で,180タイプは主にⅣ期に比較的十分な窒素の供給が可能であり,これによりユリの生育・収量の良化に貢献するが,270タイプは窒素溶出速度が遅すぎるため,養成ユリ栽培の肥料としては適合しないと推察された。なお,各区ユリの生育状況は,上述のロング各タイプの窒素溶出状況と良く対応していたが,これについては紙面の都合で省略する。

 今後は140,180両タイプの混合施用や,冬~早春での溶出硝酸態窒素の溶脱などを考え,被覆尿素肥料の利用などについて検討する必要があろう。

むすび

 今回の試験により,適当な窒素溶出タイプの被覆肥料を用いれば1年に及ぶ養成ユリ栽培でも,基肥のみで十分な効果を挙げることが可能であると判断された。

 

 

平成5年度農業観測の概要について

農林水産省大臣官房調査課
河本 幸子

はじめに

 農林水産省は昭和27年から農産物及び農業生産資材等にかかわる需給,価格等の動向の分析及び見通し等を内容とする農業観測を作成し,公表しています。

 「平成5年度農業観測」は,農林水産統計観測審議会の審議を経て,6月11日公表されましたので,その概要を紹介します。

 なお,農業観測の作成に当たっては,作柄は平年作を前提としており,また,見通しは幅を持った表現としています。説明中に用いられている変動幅は表1のとおりで,いずれも前年度に対するもので,変動の幅が区分をまたがる場合は「わずかないしやや」等の表現を用いています。(表1)

1.農業経済

(1)国内経済

 4年度の我が国経済は,個人消費が低い伸びとなっており,設備投資は製造業を中心に減少しているなど,調整過程にあり,引き続き低迷していますが,住宅建設で回復の兆しを示す動きがみられます。また,労働力需給の動きをみると,有効求人倍率は低下傾向にあり,完全失業率も上昇傾向にあるなど,緩和の動きが続いています。

 5年度は,政府における総合経済対策の効果浸透もあり,年度下期にかけて緩やかな回復が期待されます。なお,政府経済見通し(平成5年1月22日閣議決定)によると5年度の実質経済成長率は,3.3%程度と見込まれています。

2)食料消費

 食料消費の動向を経済企画庁「国民経済計算」でみると4年度の実質飲食費支出は,外食の伸び悩み等から0.5%程度の増加にとどまったとみられます。

 また家計における動きを総務庁「家計調査」の1人当たり実質食料費支出でみると,し好食品,外食が減少しましたが,副食品が野菜,乳卵類等の増加により増加したことから,食料費全体では,0.1%増となりました。

 5年度の実質飲食費支出は,実質民間最終消費支出がわずかに増加すると見込まれていること,食料品消費者価格がわずかな上昇にとどまるとみられること等から,前年度に比べ伸び率が高まりますが,わずかな増加にとどまると見込まれます。

(3)農業就業人口

 農業就業人口は,引き続き減少傾向にあり,4年度は65歳以上層の増加がみられなかったことに加え,55~64歳層が9.4%減と減少率が高まったことから全体では6.1%減の357万人となりました。5年度は,引き続き減少するとみられ,わずかないしやや減少すると見込まれます。

(4)農業生産資材価格

 4年度の農業資材の農家購入価格についてみると,畜産用動物は,牛肉の輸入自由化による肉用牛子牛の価格低下により6.6%と下回り,飼料も配合飼料価格が円高等により引き下げられたことから1.4%下回りました。一方,肥料,農薬,農機具等は価格改定の影響等により上昇したため,農業資材総合では,0.2%の上昇となりました。(表2)

 5年度の農業資材の農家購入価格は,飼料,肥料,及び光熱動力はわずかに下回りますが,農機具及び農薬はわずかに上回るとみられ,農業資材総合では,ほぼ前年度並みと見込まれます。

2.農産物供給

(1)農業生産

 4年度の農業生産は,米は,転作等目標面積の緩和等により増加,前年の気象被害を被った野菜,果実も比較的天候に恵まれ増加したことから,耕種生産は,5~6%程度の増加が見込まれます。畜産生産は,豚が減少しましたが,肉用牛,鶏卵,生乳が増加したことから,1%程度増加したとみられます。この結果,農業生産総合では4%程度増加したとみられます。

 5年度は,野菜が秋冬野菜の減少,果実がみかん,りんごの減少からそれぞれ減少しますが,米が転作等目標面積の緩和による作付面積の増加により増加すること等から耕種は前年度並みないしわずかに増加すると見込まれます。

 畜産物は,鶏卵がひなえ付け羽数の減少から減少しますが,肉用牛が子牛生産頭数の増加から増加すること等から全体では前年度並みないしわずかに増加すると見込まれます。この結果,農業生産総合では,前年度並みないしわずかに増加すると見込まれます。(図1)

(2)農産物輸入

 4年度の農産物の輸入数量は,円高等の影響により輸入価格が低下しているなかで,2.6%増となりました。
 5年度の農産物の輸入数量は,見込まれます。

 主な農産物についてみますと,小麦がわずかに増加,とうもろこしがほぼ前年度並み,大豆がやや減少すると見込まれます。果実は,生鮮オレンジがわずかに増加,オレンジ果汁は増加すると見込まれます。肉類は,牛肉がわずかないしやや増加,豚肉がほぼ前年度並み,家きん肉がわずかに減少すると見込まれます。

3.農産物生産者価格

 4年度の農産物生産者価格(概算)は,生産の増加,景気低迷に伴う需要の停滞等により,野菜,果実,畜産物等多くの品目で下回ったことから,5.9%下回りました。

 5年度は,野菜が出荷量の減少からわずかに上回り,果実は,みかん,りんごの収穫量の減少等からわずかないしやや上回ると見込まれます。畜産物は,鶏卵が前年度並みないしわずかに上回りますが,肉畜,子畜が引き続き下回ること等から,全体ではわずかに下回ると見込まれます。この結果,農産物総合では前年度並みないしわずかに上回ると見込まれます。

4.農業生産額

 4年度の農業生産額は,農業生産が台風等の気象被害からの回復により4%程度増加し,農産物生産者価格が6%程度低下したとみられることから,2%程度減の12.8兆円程度となったとみられます。

 5年度の農業生産額は,農業生産が前年度並みないしわずかに増加し,農産物生産者価格が前年度並みないしわずかに上回ることから,わずかに増加すると見込まれます。

5.肥料

(1)需要

 化学肥料の国内需要量は,作付延べ面積が減少していること,単位面積当たりの施肥量が減少していること等から,減少傾向で推移しています。(図2)

 3肥料年度(3年7月~4年6月)は,このような傾向に加え,夏期の低温,日照不足に伴う水稲の追肥の省略等を反映して,4.1%減となりました。しかし,4肥料年度は,全国的に好天に恵まれたことによる追肥の増加等により7~2月間で4.7%の増加となっています。

 なお,有機質肥料の供給量をみると消費者の有機農産物への志向の高まり等を背景に大幅に増加し,55~元年の間で約2倍の増加となりました。しかし,施肥労力がかかること等から2年以降横ばいで推移し,3年は0.2%減の479万トンとなった。

 5肥料年度の化学肥料の国内需要量は,水稲作付面積が増加するとみられること,肥料投入が比較的少ない良質米生産への過度の傾斜を是正し,多様な米需要に応じた米づくりが図られることなどの増加要因はありますが,野菜,果樹等の単位面積当たり施肥量が比較的多い作物の作付延べ面積が減少するとみられること,高機能肥料の投入や減肥料の動きにより施肥量が減少傾向にあること等から,前年度並みないしわずかに減少すると見込まれます。

(2)価格

 化学肥料の全農購入価格は,原材料の国際市況,為替相場,海上運賃等の動向を反映して推移しています。

 3肥料年度は3.3%引き上げられ,4肥料年度は,原材料価格が弱含みで推移していることに加え,海上運賃が安定的に推移していること,為替相場が円高傾向にあること等から,平均1.38%引き下げられました。また,このうち尿素の全農購入価格については,4肥料年度から年2回価格決定されることとなり,4肥料年度下半期には0.92%の引き下げとなりました。

 このような化学肥料の価格動向により,4年度の農家購入価格は年度を通じてみると1.2%の上昇となりました。

 5年度の肥料の農家購入価格は,4肥料年度の化学肥料の全農購入価格が引き下げられたこと,原材料価格が安定的に推移すると見込まれること等から,為替レートが4年度末の水準で推移すれば,わずかに下回ると見込まれます。

おわりに

 以上平成5年度の農業観測の概要を紹介しました。農業観測の冊子では,個別農産物ごとにも生産,価格の見通しに関する詳しい分析を行っています。また,農業生産資材についても,肥料だけでなく農機具,農薬等個別資材ごとに需要と価格の見通しに関する詳しい分析を行っています。さらに,本編をコンパクトにまとめたカラー印刷の概要版も公表していますので是非御一読頂き参考にしていただければ幸いです。