§露地野菜と窒素の施肥位置
全農 農業技術センター肥料研究部
部長 森崎 鉄兵
§イチジクの根域制限栽培と被覆肥料
愛知県農業総合試験場
山間技術実験農場
農場長 井戸 豊
園芸研究所環境研究室
技師 池田 彰弘
全農 農業技術センター肥料研究部
部長 森崎 鉄兵
かつて露地野菜の施肥は基肥を節約し,野菜の生育とともに株際へ2~3回追肥していた。1960年代後半,小型耕運機が普及し,畑全面に基肥として化学肥料を散布し耕転する全面全層施肥法になった。最近は基肥量が増え,追肥は地表に少量施用しその多くが表面流去するため生育後期に肥え切れし,基肥量がさらに増えるという悪循環となっている(表-1)。

このように,我が国の野菜施肥は少肥・局所施肥から多肥・全面全層施肥へ移行したが肥料効率が低下し,余剰成分の集積や土壌の酸性化等の環境問題を惹起するに至った。今後,作業効率が高い機械施肥,それに追肥を省いた基肥重点施肥法,肥効が永く安全性の高い被覆肥料の利用が基本となることを踏まえ,ここでは効率的な施肥位置の在り方を検討してみた。
本報で取り上げる施肥法は全面全層施肥と局所施肥で,さらに局所施肥では肥料が高濃度になる条施肥に対し,肥料と土壌を混和して肥料濃度をやや低めた混層施肥がある(図-1)。

土壌に施用した硫安からの窒素の溶出をみるため,施用後3週間後の土壌溶液の窒素形態と濃度を測定した。土壌溶液の採取は金属円筒に充填した土壌に,底面から水分を吸収させ,一定時間後に遠心法により土壌溶液を分離した。窒素添加量20mg以下を全面全層施肥と想定すると,このときの土壌溶液には硝酸態窒素が多く溶出し,黒ボク土やその下層土でややその溶出濃度が低かった。
また,窒素添加量40~160mgを高濃度局所施肥と想定すると,砂丘未熟土でアンモニア態窒素が多量に溶出し,黒ボク土では硝酸態窒素で占められた。黒ボク下層土はアンモニア及び硝酸態窒素が比較的低濃度で,また赤黄色土と褐色低地土は硝酸態窒素が高濃度で溶出した。
これは,土壌のアンモニア吸収力の差に起因するもので吸収力の高い黒ボク土はアンモニア濃度が高まらず,吸収力の低い砂丘未熟土では高濃度に溶出することを示している。さらに,局所施肥条件では高塩類濃度となり硝化作用の抑制が起こり,アンモニア態窒素が多く溶出することが分かる(表-2)。

施肥位置の違いによって露地畑における窒素分布の特徴がどのように示されるか検討した。施肥後30日目のホウレンソウ根圏における窒素の分布を図-2に示した。全面全層施肥では作土全層に肥料が混合されて肥料濃度は薄く,アンモニア態窒素は速やかに硝酸態窒素へ変化し,降雨の浸透とともに下層に移動した。

一方,直下施肥のような局所施肥の場合は,溶出した肥料成分で土壌溶液が高濃度となるため硝化作用は抑制されて,施肥箇所(位置)にアンモニア態窒素として集積することが分かる。また,アンモニア態窒素の土中における拡散距離は小さいため局所施肥された窒素は左右に水平移動することが少なく,降雨とともに下層方向に移動するのが分かる。
このように,施肥窒素の土壌中での挙動は施肥方法および窒素の溶出形態,拡散,溶脱が関係することが理解できた。
施肥窒素の溶脱実験は屋外の深さ45cm,土壌容量200ℓの小型ライシメータにより行った。溶脱するのは殆ど硝酸態窒素であった(図-3)。

窒素施用量が5kgより20kg施用の方が溶脱量は多くなる。しかし,窒素の溶脱量に対する影響は施肥量よりも土壌の性質の方が大きく,砂丘未熟土で溶脱窒素量が多く,褐色低地土と赤黄色土がそれに次ぎ,黒ボク土およびその下層土の溶脱量は最も少なかった。
窒素は硝化作用によりアンモニアから硝酸に変化して土壌溶液へ溶出し,雨水と共に下層に移動する。したがって,硝化作用の高い土壌の溶脱量は多いが,土壌の性質の面からは砂丘未熟土のように透水性が高く,窒素吸収力の低い土壌は溶脱し易く,黒ボク土のように窒素吸収力の高い土壌は溶脱し難いことが分かった。
施肥位置と窒素,カリ,カルシュウム,マグネシュウムの溶脱の関係を示した(図-4)。

全面全層施肥は養分の溶脱が多く,局所施肥した直下施肥や側方施肥は溶脱量が少ないことが分かる。さらに同じ局所施肥でも条施肥より混層施肥の方がわずかに溶脱量が増える傾向にあった。このように,施肥位置の違いと養分溶脱量の関係は注目に値する。このとき,リンは溶脱水に殆ど認められず,カリは少なくて無施用区の溶脱量程度で,カルシュウム,マグネシュウムは硝酸態窒素の溶脱量に応じて溶出することが認められた。
このように,陽イオンであるカルシュウムは陰イオンである硝酸態窒素とともに溶脱するため,施肥位置の選択によって硝酸態窒素の溶脱量を抑制すれば,カルシュウム等の塩基類の溶脱防止,ひいては土壌の酸性化防止となることを示している。
側条施肥のような局所施肥の場合,肥料に含有される硝酸態窒素の比率が高いと野菜の初期生育は優るが,反面窒素成分の溶脱が多くなり,栽培後期の野菜生育が低下する懸念がある。このため,アンモニアと硝酸の比率を変えてキャベツライシメータ試験を行った。
無肥料区の窒素溶脱状況から試験の途中までは土壌に由来する窒素が多いためアンモニアと硝酸比率の影響は明確でなかった。しかし,硝酸の割合が50%にも達すると,生育後期には窒素の溶脱量が多くなることが認められた(図-5)。

このことから,溶脱による窒素のロスと他に行った栽培試験による野菜生育との関係を勘案すると側方条施肥など局所施肥に対しては肥料の硝酸態窒素の比率は全窒素の20~30%程度が適当と考えられた。
野菜の生育と施肥法についてさらに普遍的な関係を見いだすために肥料の窒素形態,施肥位置と野菜根群の発達について検討した。写真は圃場における根群調査例で,硫安では根が肥料を避けているが,硝安では根が肥料の中まで侵入するのが観察される。

播種後25日目のスィートコーン根箱試験の例を図-6に示した。一箱当たりの施肥量を同じとし,施肥する位置を変えた。全層施肥においては硫安区に比べ硝安区の方が濃度障害が軽減されているのがみられる。一方,片側施肥では地上部の生育はさほど変わらず,地下部の根群発達に大きな変化がみられた。800mg程度の高濃度施肥になると根群の発達は肥料濃度の低いところに限られる。

しかし,図-6のような根張りとなるために全層施肥にみられたような決定的な濃度障害は起こらなかったと考えられる。また,局所的に真下に肥料を施用すると肥料濃度が高いため根群の発達が阻止されるが,さらに施肥量を増すと根は初めから肥料濃度の薄いところへ伸張することとなり,地上部の生育が維持された。
このように,作物の地上部生育だけではみられない,肥料の窒素形態および施肥位置と野菜の地下部発達の関係が根箱試験によって分かった。全層施用は濃度障害が起きると生育障害が決定的となるが,局所施肥は高い施肥量となると肥料を避けて根が発達できるために濃度障害はある程度軽減されることが分かった。
施肥方法と根群の発達の関係が,実際の圃場でどのようになっているかについて夏キャベツの定植後25日目の施肥位置試験区について調査した。キャベツ根群の拡がりは窒素の分布と一致する形状となっていた(図-7)。

側方に条施肥したときは野菜の根が肥料に到達するのが遅れて初期生育が劣り,さらに施肥部に根が到達しても肥料濃度が極めて高濃度であるためにアンモニア障害によって根の発達と活性が阻害される。
このためこれまでの施肥位置と土壌,作物,肥料に関する知見から,硝酸系肥料を幅10cm,深さ10~15cmの施肥溝に混層施用(土壌と肥料を混和する)すると肥料濃度が低くなり,肥料の分布範囲が大きくなるため根が施肥箇所に到達し易く,到達してからも発達し易くなって条施肥の欠点が解消すると考えられた。
このような混層施肥法の実用性を検討するため,燐硝安系高度化成およびその樹脂被覆肥料(40日タイプ)を全量基肥として側条混層施用し,窒素施用量は慣行施肥量から20%減肥した。供試肥料の肥効を検討するため地力窒素の発現量が低い肥効試験用圃場で試験したため収量水準は低かったが,側方混層施肥は減肥したにも拘らず対照区の全面全層施肥と同等以上の結球重を示すことができた(表-3)。

愛知県農業総合試験場
山間技術実験農場
農場長 井戸 豊
園芸研究所環境研究室
技師 池田 彰弘
最近,ブドウ,モモ,カキ,サクランボなど多くの落葉果樹では高品質果実生産を狙った新しい栽培法“根域制限栽培”が注目されている。全国の試験研究機関では,その普及実用化に向けて研究が精力的に取り組まれており,その一部は既に実用化め段階に至っている。
愛知県農業総合試験場・園芸研究所においても,樹勢調節,イヤ地の回避,施設の高度利用等を目的に,イチジクのコンテナ栽培技術の開発に取り組んでいる。しかし,本栽培法では,根域が限られるため灌水回数が多くなり,施肥成分の溶脱が多くなることが予想される。この防止対策の一つとして近年開発がめざましい肥効調節型肥料の利用が考えられる。
本稿では,イチジクを対象とした被覆尿素(LPコート)肥料による施肥窒素の効率的利用技術について検討したので,その概要を紹介したい。
供試肥料の選定には,イチジクの生育と養分吸収特性を理解する必要があるので,その特徴について若干述べたい。
イチジクは,耐湿・耐干性ともに弱く,土壌の物理性,土壌水分によって生育,収量が大きく左右される。また,細根の多くが表層から10~15cmまでに分布し,生育に適した土壌pHは中性ないしは弱アルカリ性で,カルシウムの吸収が多いなど,他の落葉果樹と異なる特徴を持つ。
イチジクの根は4月上旬から動き出し,芽は4月中旬から生育を始める。しかし,5月中下旬の養分転換期までの生育に使われる養分は,前年の貯蔵養分が大きなウエイトを占め,基肥・追肥など施肥養分は,それ以降の結果枝の伸長,果実肥大に大きく係わる。
果実は,結果枝の伸長に従って下位節から上位節へと順次着果して,1本の結果枝にそれぞれ発育の段階が異なる果実が着生する。収穫は8月から10月末の長期にわたり,また9月下旬から11月中旬までは貯蔵養分を枝に蓄える。この間の肥効を維持し,果実肥大並びに樹勢維持を図るため,イチジク栽培では,最も労力を要する収穫期に幾度も追肥作業が行われる。
それではイチジク栽培に,被覆尿素肥料を導入する場合は,どのようなタイプがよいのであろうか。本試験では,基肥施用時期(2月上中旬)の地温(気温)が低いこと,貯蔵養分が少なくなる4月下旬頃までの窒素溶出はできるだけ抑えること,更に追肥労力削減の観点から全量を基肥施用することを前提に考え,溶出窒素のシミュレーション結果から30日溶出抑制型100日タイプのLPコート肥料(以下LPS100)を利用することにした。
イチジク(品種:桝井ドーフィン)
2年生樹(一文字整枝),1区7樹
中粗粒灰色低地土(土性SCL,CEC8.2me)
コンクリート性栽培槽(0.8×0.8×0.8m,深さ0.3mで遮根シート埋設)
表1のとおり

実際にほ場でどの程度の窒素が溶出するのかを確認するため,以下の方法により溶出試験を行った。不織布の袋に供試土壌と混和したLPS100(窒素成分1g量)を入れ,無植栽の栽培槽に並べた後,栽培試験と同様に覆土した。定期的に回収した肥料は土壌と篩別した後,全量を硫酸分解し,蒸留法により残存窒素量を測定した。
LPS100の窒素溶出量を図1に示した。基肥を施用した後の地温は,4月まで15℃以下と低く,この間の窒素溶出は施肥窒素の10%以下であった。地温の上昇と共に溶出量は増加し,7,8月には各々27%,40%の溶出量を示し,収穫が終わった11月時点では約4%程度の窒素が残存するにすぎなかった。

表2に生育及び収量調査の結果を示したが,主幹,主枝の肥大,結果枝の伸長及び収穫量は慣行施肥区に比較し,LPS100施肥区が優った。

時期別の収穫果数をみると図2に示したように,慣行施肥区に比較してLPS100区では9月以降も安定した収穫を示し,また,収穫果実の果重分布も図3にしめしたように大玉割合が高い傾向が認められた。


更に,表3,4に示した葉色・葉内窒素含量からみても,LPS100区では窒素の肥効が生育後半まで続き,この肥料の窒素供給パターンがイチジクの養分吸収特性にかなり近いことがうかがえた。


イチジクでは,基肥・追肥ともに表層施肥が行われ,また,水分の要求量が多い作物のため,生育の旺盛な夏季にはかなりの灌水量を必要とする。このため,特にコンテナ栽培等,根域を制限した栽培では施肥養分が灌水にともない,根域外へ溶脱する可能性が高くなることが予想される。
そこで,系外に放出される窒素の動態を調べたところ,図4に示したように慣行施肥では施肥窒素の約27%が溶脱により系外へ放出されたが,LPS100での溶脱量は約18%にとどまり,同肥料による利用率向上の可能性が示唆された。また,慣行施肥では基肥で施用した窒素が,かなり早くから溶脱している状況がうかがえたが,LPS100では溶脱量の時期による変動は小さかった。また,Ca,Mg,K,SO4-S等の溶脱量も慣行施肥区の1/2~1/3程度になった。

施肥された肥料からイチジクへの養分供給は土壌溶液を介しておこなわれる。果実の肥大に関係が深い追肥時期以降の土壌溶液中硝酸態窒素の動きをみると,図5に示したようになった。

LPS100施肥区では慣行肥料に比べ,硝酸態窒素濃度が高く推移し,果実の肥大,成熟期に当たる8月以降順次低下する傾向を示した。慣行施肥区での低下割合は被覆肥料区と比較的にかよっていたが,低下時期はLPS100施肥区に比べ,かなり早くから低下する傾向を示した。そして,このような結果がLPS100施肥区の生育・収量に好影響を及ぼしたものと判断した。
更に表5に示したように,施肥窒素の土壌残存も少なく,LPS100の全量基肥施用の可能性が示唆された。これらのことから判断すると,現地イチジク園の施肥事例で見られる追肥回数の多さは,土壌中の硝酸態窒素を高く維持することにより,良好な生育を維持し,更に収量性を向上させることを経験的知識として得たものと考えられるが,新肥料LPS100の利用により,追肥作業を省略あるいは削減した施肥体系が作り得れると思われる。

イチジクの根域制限栽培における被覆尿素肥料(LPS100)利用による窒素施肥について,一部を紹介してきたが,同肥料の利用にも5月から6月にかけての窒素供給が少ない等,まだまだ改善の余地がある。被覆尿素肥料の利用に当たっては,作物の生育期間を通じての地温(気温)を予測し,想定される窒素成分の供給量と作物の養分要求とがうまく合うように選択しなければならない。
しかし,被覆尿素肥料の一つのタイプだけで,生育期間の窒素成分が全てまかなわれるような溶出パターンは必ずしも期待できないのが普通である。そこで,他のタイプの被覆肥料(イチジクの場合LPコート50の様な短期溶出型肥料が妥当か?)あるいは速効性肥料を上手に配合し,目的とする作物に合った窒素の供給を考えていくととが必要となる。
養分吸収特性に合わせた改善が更に進み,イチジク栽培にあった被覆肥料利用による施肥技術が確立すれば,水稲で実用化されている全量基肥施用が可能となり,施肥労力の削減が可能となるであろう。更に作物の養分吸収特性にマッチした施肥は肥料利用率を向上させ,省資源的観点ばかりでなく,余剰養分の溶脱による環境負荷を軽減させ,環境にやさしい施肥技術としての展開が期待される。