§トルコギキョウの冷房育苗栽培における適正な育苗用土
鹿児島県農業試験場 花き部
主任研究員 野添 博昭
§流入施肥による穂肥施用の省力化
新潟県経営普及課
専門技術員 中野 富夫
鹿児島県農業試験場 花き部
主任研究員 野添 博昭
トルコギキョウは花色が豊富なうえに,単色に加え,覆輪や刷毛目絞りがあり,花型も一重,八重とバラエティーに富む花である。また,柔らかな風合いと比較的花持ちがよい等の理由で,生産や消費が急激に伸びてきている品目であるが,冬から春にかけて出荷する促成栽培は育苗期間が夏の戸温期にあたるため,苗が高温の影響でロゼット化してしまい,暖地での栽培は極めて困難な状況であった。しかし,近年冷房育苗や苗冷蔵による,ロゼット化回避技術が開発され,作期の拡大が進められ,一層の需要の拡大が期待されている。
本稿では,トルコギキョウの冷房育苗による,11~12月出し栽培を行う場合の,適正な育苗用土及び含有される窒素成分の影響について検討した結果を紹介する。
平成4年度トルコギキョウのセルトレイを利用した冷房育苗において,育苗期間中に追肥を行わず健全な苗が育成できる用土について検討した。
供試品種は紫系はあずまの朝を,桃系はあずまの桜を用い,7月20日に市販の8種(1種試作品を含む,表1参照)の用土には種し,9月8日にガラス温室内に定植し,開花期及び切花品質について調査した。

は種容器は128穴のセルトレイ(30×30×50mm)を使用し,育苗中は全期間昼(6:00~18:00)は28℃,夜(18:00~6:00)は18℃に冷房したハウス内で管理した。かん水は噴霧ノズルによる手かん水とし,育苗中の追肥は全く行わなかった。
また,本ぽの施肥量は基肥を1000㎡当たりN:P2O5:K2O=20:25:20kg施し,追肥は10月15日に各成分2.5kgを施した。栽植様式は畦間150cm,株間12cm,条間12cmの6条植えとした。
温度管理は日中の換気目標温度は30℃とし,10月20日から夜間最低温度を15℃で加温した。
肥料成分の多い用土は濃度障害が懸念されたが,苗の生育は順調で,特に障害の発生が認められる用土は無かった。また,無追肥でも大小の差はあったが,全ての用土で試験に使用可能な苗が得られた。
苗の株径については両品種とも与作N-500が最も大きく,次いで与作V1号,培土Bの順で,肥料成分が多い区ほど大きかった。
商の葉数については両品種とも株径とも同様の傾向で,肥料成分の多い区ほど多かった。
ロゼット率についてはあずまの朝は全区で0%であった。あずまの桜は肥料成分の少ない与作N-100,与作N-150,培土C,培土Dで高率に発生した。最もロゼット率の高かったのは,培土Cの52%であった。

開花日については,あずまの朝では最も早かったのは11月17日の与作N-500,与作V1号,あずまの桜においても与作N-500,与作V1号がそれぞれ11月20日11月26日と早かった。
切花長についてはあずまの朝では与作N-500と与作V1号が80cmを超えた。与作N-100と与作N-150は60cm以下で,その他の区は70cm前後であった。あずまの桜では同じく与作N-500と与作V1号が70cmを超え,次いで培土Bが65cmであった。その他の区は60cm以下であった。
切花重についてはあずまの朝では最も重かったのは与作N-500,次いで与作V1号,培土Aの順であった。あずまの桜では与作N-500,培土B,与作V1号の順であった。花数については切花重とほぼ同様の傾向であった。

以上の結果から,11~12月出荷の作型における,セルトレイ利用の冷房育苗に適する用土は,今回使用した用土の中では育苗中に追肥の必要がなく,切花品質も優れる与作N-500(仮称)用土が最も優れた。

平成4年度の試験において,11~12月出荷の作型における,セルトレイ利用の冷房育苗には,追肥の必要がなく,切花品質の優れる与作N-500が適することが判明したが,5年度は同用土の冷房育苗時の窒素肥料の違いが,開花期及び切花品質に及ぼす影響について検討した。
品種は紫系はあずまの朝を,桃系はあずまの桜を用い,7月19日に窒素成分をそれぞれ100,200,300,400,500mg/ℓ含む育苗用土(リン酸は500mg/ℓ,カリは400mg/ℓに統一)には種し,9月21日にガラス温室内に定植し,開花期及び切花品質について調査した。
は種容器は128穴のセルトレイ(30×30×50mm)を使用した。育苗中は全期間昼(6:00~18:00)は28℃,夜(18:00~6:00)は15℃に冷房したハウス内で管理した。
かん水はタイマーを利用したミストかん水とし,育苗中の追肥は全く行わなかった。
また,本ぽの施肥量は基肥を1000㎡当たりN:P2O5:K2O=20:13:13kg施し,追肥は10月14日に各成分2.5kgを施した。
栽植様式は畦間150cm,株間12cm,条間12cmの6条植えとした。
温度管理は日中の換気目標温度は30℃とし,また,10月22日から夜間最低温度を16℃で加温した。
当初,育苗期間は50日の予定であったが, 日照不足による苗の生育遅れのため,育苗期間を延長し64日苗を定植した。
定植時の苗の株径及び葉数は窒素濃度が高くなるにつれ,株径は大きく,枚数は多くなる傾向にあった。また,ロゼット化については,あずまの朝は100mg区で約3%発生したが,他の区は全く発生しなかった。
あずまの桜は100mg区で48%,200mg区で18%,300mg区で3%発生し,窒素濃度の低い区ほど発生が多くなる傾向にあった。これは, 窒素濃度の低い区は苗の生育が悪く,ロゼット化を回避できる苗齢(本葉4枚前後)まで,生育が進んでいなかったためと考えられる。

開花日については,両品種とも窒素濃度の高い区ほど早く開花し,到花日数が短くなる傾向にあった。
切花長についてはあずまの朝は100mg区,200mg区が70cm以下と短く,400mg区以上は80cm以上であった。また,あずまの桜は100mg区,200mg区は60cm以下で,その他の区は70~72cmの範囲であった。

切花重については,両品種とも100mg区が最も軽く,窒素濃度が高くなるにつれ重くなった。
花数については両品種とも100mg区,200mg区は4花以下で極めて少なかったが,その他の区は6花前後であった。
節数については,あずまの朝は全区10~11節の範囲であった。あずまの桜は100mg区,200mg区が9節とやや少なく,その他の区は11節前後であった。

以上の結果から,トルコギキョウの冷房育苗においては育苗用土の窒素濃度が高いほど,苗の大きさが大きくなり,また,ロゼット化も軽減され定植後の切花品質も優れることが判明した。
11月~12月出荷の促成栽培を行った後の据置き株を利用した,二度切り栽培を行った場合の開花期及び切花品質について検討した。
供試材料は前述の用土中の窒素含有量試験を行った据置き株を用い,一番花の収穫が終わった12月24日に1株1本仕立てに整枝を行った。この際,収穫が早かった株は側枝が20cm以上伸びている株もあったが,生育を揃えるために,5cm前後の側枝を1本残した。肥料は1000㎡当たりN:P2O5:K2O=16:12:12kgの追肥を施した。
温度管理は換気目標温度を30℃に,10月22日から最低夜温16℃に加温,4月1日からは最低夜温13℃に設定し,二番花の開花期及び切花品質について調査した。
開花日については両品種とも,4月22~30日の範囲にあり,区間の顕著な差は認められなかった。
切花長については両品種とも窒素濃度の高い区ほどわずかながら長くなる傾向にあったが,その差は小さく,ほぼ90~100cmの範囲であった。
切花重については両品種とも窒素濃度の高い区ほど重くなる傾向にあったが,その程度はあずまの朝において著しく,あずまの桜では低かった。
花数についても両品種とも窒素濃度の高い区ほど多くなる傾向にあったが,切花重同様その程度はあずまの朝において著しく,あずまの桜では低かった。
節数については両品種とも15~17節の範囲にあり,区間の顕著な差は認められなかった。

以上の結果から,促成栽培を行い年内に一番花の収穫を終えた残株は,二番花が4月の中旬を中心に開花することが判明した。
また,当二度切り栽培試験から判断すると,苗の素質が一番花のみならず,二番花の品質まで影響することが判明した。
平成5年度の窒素含有量試験において,育苗用土中の窒素濃度が高いほど,苗が大きくなり,一番花及び二番花の品質は優れることが判明したが,さらに,窒素濃度の高い用土が,苗の生育に及ぼす影響について検討した。
供試品種は白色系のあずまの雪を用い,3月25日に窒素成分をそれぞれ1000,750,500,250mg/ℓ含む育苗用土(リン酸は500mg/ℓ,カリは400mg/ℓに統一)には種し,60日間育苗を行い苗の品質について調査した。
は種容器は128穴のセルトレイ(25×25×50mm)を使用した。かん水はは種後20日間はミストかん水,その後は噴霧ノズルによる手かん水とし,育苗中の追肥は行わなかった。温度は解放ガラス温室の自然温度とした。
1000mg区及び750mg区は発芽不良が多く,また,発芽した種子も生育途中で枯死するものが見られ,健苗率が50%以下と低かった。500mg区及び250mg区はほぼ正常に生育した。
苗の葉長,葉幅については1000mg区,750mg区は小さく,最も大きかったのは500mg区であった。葉数については窒素成分の少ない区ほど,僅かながら多かった。

根長,根重,地上部重についても1000mg区,750mg区が小さく,500mg区が最も大きかった。

以上の結果から,トルコギキョウの育苗時における,窒素成分は500mg/ℓ程度が上限と考えられ,それ以上になると生育を阻害することが判明した。
2か年の試験結果から,トルコギキョウの冷房育苗による,11~12月出し栽培においては,育苗用土は与作N-500が適し,用土中の窒素成分は500mg程度までなら,多いほど苗の大きさが大きくなり,定植後の切花品質が優れること,また,苗の素質は一番花のみならず,二番花の品質まで影響することが判明した。
新潟県経営普及課
専門技術員 中野 富夫
稲作経営にとって今一番大切な課題は,品質・食味の向上とコスト低減である。穂肥施用は適期・適量・均一散布が品質・食味の向上につながる重要な作業で,しかも夏の暑い時期に背負動散で散布するというように労働強度も極めて大きく,良食味・低コストという重要課題の解決に,穂肥の省力・均一施肥法は欠かせない技術である。特に,大規模経営にとって穂肥の適期施用を確保するためにもこの技術は重要である。
穂肥の省力・均一施肥法は,中間管理作業機の利用や基肥一発施肥法からも検討されているが,最近,水によく溶ける肥料が開発され,水口流入施肥法が注目されるようになった。新潟県においてもこれを省力・均一施肥法のひとつと位置づけ農試や農業改良普及センタ一等で検討している。
ここでは,そのなかから,「あさひマイクロポーラス」の試験結果を紹介する。
平成5年に新潟農試が,現地のコシヒカリ栽培の30a圃場で流入施用を実施した結果を要約すると次のとおりである。
(1)流入直後は肥料濃度のむらが大きいが,流入後2~3日でほぼ均ーとなる。(図1)

(2)流入施用後の葉色のむらは少なく,慣行穂肥との差は認められない。(図2)

(3)成熟期の稈長や倒伏のばらつきは少ない。(図3,4)


(4)収量は慣行穂肥に比べ劣らない。(表1)

(5)玄米の品質・食味は良質粒歩合や玄米窒素濃度からみて問題はない。(表1)
この結果とN社の顆粒状肥料の結果をあわせて「水口流入による穂肥施用技術」としてまとめられ,平成6年度の普及の参考に供する技術として発表された。そこでは流入施肥の方法及び留意点を次のようにまとめている。
①顆粒状の専用肥料を用い,施用時期及び施用量は慣行穂肥に準じる。
②施肥前に水口で1cm程度のひたひた水とする。(落水状態では濃厚肥料溶液が土壌中に侵入し施肥むらを起こす。)
③3~4時間で5cm以上の水深にできる流量で灌水し,1袋を1~2分で投入する。
④投入後水深5~6cmになるまで灌水し,その後止水する。
⑤流入後最低5日間は落水しない。(肥料が均一になるのに2~3日かかる。)
①適応できる圃場条件は次のとおり
ア 圃場面積が30a以下であること。
イ 均平℃が±3cm以内で漏水や地力むらが少ないこと。
ウ 3~4時間で5cm以上の水深にできる灌漑水流量が確保できること。
②流入施用前は溝切り・中干しを徹底し,収穫時の地耐力の確保に努める。
平成6年度に県内3か所の普及展示圃において「あさひマイクロポーラス」の現地適応性が検討された。試験条件は表2のとおりである。

中東蒲原農業改良普及センターの展示圃で用水量が少な目で,灌水に長時間を要した。しかし,肥料分布のむらは3展示圃とも許容範囲と思われた。つまり,流入2日後の肥料の分布をEC値で示すと図5のとおりで(数値は見やすくするため100倍してある),中頸城以外は部分的に濃い所があるが,施肥直前と施肥後の葉色の推移を慣行区と展示区で比べると表3のとおり,展示区の変動係数は慣行区とほぼ同様に減少し,特に生育むらを大きくしているとは思えないからである。


また,施肥直前の草丈と成熟期の稈長を示すと表4のとおりで,葉色の場合と同様の傾向とみてよい。収量も表5のとおり展示区は慣行区とほぼ同等となった。


以上から,「あさひマイクロポーラス」は30a以下の圃場であれば流入施用が可能であることが明らかとなった。条件がよければ50aでも可能との結果も得られたが,後で述べるようにまだ解決すべき点があり,現段階での適用は30a以下としたい。
平成6年は,少雨の影響で流入施肥の際に用水が不足して苦労したところがかなりあった。流入施肥には一定以上の灌水能力が必要なので,通常の気象条件の年でも広面積で施用する場合は,関係者の協議による計画的な実施が必要となろう。
穂肥流入施用技術は,経済性等を考慮すると今のところ大規模経営向きである。また,この技術が大区画水田に適用できれば,一層のコスト低減が可能となる。今回の農業大学校の展示圃では50a規模で検討し,適用可能との判断が得られたが,流入施用前の水位調節が困難であることや,投入時間を長くした方がよいなどの問題点があげられた。その他,地力むら対策などこの技術を大区画水田に適用するにはもうー工夫必要である。
また,農業の環境への負荷が厳しい目で見られているおり,漏水により肥料成分が圃場外へ流出することがないよう十分注意することがこの技術の普及にとって重要である。