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第453号 1995(H7).08発行

PDF版はこちら 第453号 1995(H7).08発行

 

 

三浦ダイコン産地では何故
ダイコン萎黄病が見られないのか?(その2)

国際農林水産業研究センター
国際研究情報官 小林 紀彦
(前野菜・茶業試験場 久留米支場病害研究室長)

 神奈川県三浦半島のダイコン萎黄病発病抑止土壌について1992年1月号に(その1)を寄稿してから既に3年半が過ぎた。(その2)については,その後長い間皆様にご迷惑をかけたことになり,お許し戴きたい。

 第1報では三浦地域の発病抑止土壌の探索とその発病抑止機構について述べた。今回は過去のデータを主として,多少旧聞に属する事項もあるかと思うが書かせて戴くこととする。

1.三浦地域の全域の土壌がダイコン萎黄病に対して本当に発病抑止土壌なのか?

 三浦のほぼ全域から25点の土壌を採取し(表1),前報と同様な方法で厚膜胞子発芽阻害率及び発病抑止性について検討した。その結果,胞子発芽抑制については,表2に示すように,供試土壌25点のうち,対照の発病抑止土壌でみられる胞子の発芽率17.3%を下回る土壌は耕地土壌の3点(No.1,7,22)で,発病非抑止の対照土壌での発芽率77.1%を越える土壌は未耕地の1点(No.24)のみであった。

 一方,これらの土壌の発病抑止性については1土壌当たり3ポットを用い,1ポット,10本植えとして1年間に3連作し(1983年1/18~2/26,4/11~5/13,5/28~7/16),各時期の発病推移を調査した。

 その結果,初作で発病株率30%以下の発病抑止土壌は4耕地土壌(No.7,13,17,22)であったが,2作目では発病株率50%以上の土壌がほとんどとなり,1土壌(No.13)が,37.9%を示すのみであった。3作目においてはさらに発病が激しくなり,50%以下の発病株率を示す土壌は全くなくなり,過酷な短期連作に耐えられる発病抑止土壌はないという結果となった。

2.三浦土壌は,何故ダイコン萎黄病に対して発病抑止性を示すようになったのか

 上述したように,三浦土壌の発病抑止性が完璧な土壌固有の性質に由来するとは考えにくい。そこで三浦地域で昔から指導されてきた数々の事柄を実験的に検証していくこととした。その事柄の1つは長年施されていた土壌改良資材(Ca資材)と完熟牛糞堆肥の施用効果で,他の1つは栽培時期と圃場衛生であり,それらに焦点を当てて述べる。

1)土壌改良資材(Ca資材)の発病抑止効果

 表2,3に示すように,三浦地域で初年目の発病株率の低い土壌(No.7,13,22)はCa含量と土壌pHともに高いが,厚膜胞子発芽率は低い。一方,発病株率の高い土壌(No.5,19,K)はCa含量と土壌pHはともに低いが,胞子発芽率は高いという傾向を示し,供試土壌では発病抑止性とCa含量および土壌pHとは正の相関関係にあり,厚膜胞子発芽率とは負の相関関係となった。

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2)完熟牛糞堆肥

 発病抑止土壌(M)及び発病非抑止土壌(C)に,実際農家が使用している完熟牛糞堆肥を10a当たり1.0,2.5,5.0tの割合で混合して発病抑止性との関係について検討した。その結果,図1に示すように,一時的に投与した限りでは両土壌ともに直接的な発病抑止効果は認められず,かえって助長するようにも思われた。しかし,前報でも述べたように,長年の施用効果は三浦土壌の土壌微生物相(細菌,放線菌)を豊富にしており(前報,表1),これらの微生物は病原菌との栄養の搾取の場面において競合する。

 すなわち小さなこれらの微生物は速やかに栄養を利用して,図体の大きな病原菌を栄養飢餓状態に追い込む一般的拮抗作用の発病抑止性を三浦土壌に発現させるものと思われる。また,その裏付けとなるデーターとしては,表4に示すように,細菌,放線菌等が発病非抑止土壌(C)よりも発病抑止土壌(M)で増殖がよく,本土壌は有用微生物の増殖に極めて好適な環境を有している土壌と判断される。

3)病原密度と発病抑止性

 発病抑止土壌(M)及び発病非抑止土壌(C)に病原菌密度が1g生土当たり104,105,106となるように調整して,各土壌の発病株率を調査した。図2に示したように,病原菌密度と発病株率は正の相関関係を示した。病原菌密度10,10レベルでは両土壌間に顕著な発病差が認められるが,10になると両土壌間における発病差が小さくなり,発病抑止土壌といえども病原菌が高いときにはその発病抑止性が十分発揮できないことを示している。

4)栽培時期

 三浦地域でのダイコンの播種は9月中旬頃に行われ,その後の栽培期間中は日毎に温度が下がっていく。ダイコン萎黄病は地温が高いと発病しやすく,低くなれば発病が少なくなる傾向にある。

 そこで,地温をコントロールした条件下で両土壌の発病を比較した。試験結果は図3に示したように,温度が10℃では両土壌とも発病が認められず,19℃では発病非抑止土壌の発病が高いのに対し,発病抑止土壌では発病が低かった。28℃の発病非抑止土壌ではさらに発病が助長されると思われたが,この試験の結果では,接種の両土壌間において発病差が認められ,発病株率は19℃よりやや劣った。

 以上の2つの試験の結果は想定した通りではなかったが,個々の結果に考察を加えてみる。

(1)土壌改良資材としてCa資材の長期施用は,病原菌側に病原菌発芽抑制効果があり,作物側には細胞壁のCa-pectate化による防御反応を構築させて病原菌の行動と侵入を抑制する効果を与えるものと推察された。これらが発病抑止性に関与している大きな要因と思われる。

(2)完熟牛糞堆肥の施用は,直接的な発病抑止効果は認められなかったが,長年の連用により土壌微生物相が豊富になり,それらの微生物の活性化に伴って一般拮抗作用が誘起され,発病抑止性が発現する機構となっているようである。また,三浦土壌は細菌や放線菌が増殖しやすい好適な土壌環境を有しており,有用微生物の棲家としては極めて優れた環境をもっているといえよう。

(3)栽培時期の温度試験結果では,温度が低くなる時期に播種する栽培体系は,病害を回避する上で有利となる大きな技術体系と思われる。しかし,三浦の発病抑止土壌といえども,土壌中の病原菌密度が高いとその発病抑止性が十分発揮できないことから,土壌と環境要因の関係を充分把握して,作物の選択,栽培体系を考える必要がある。

5)圃場衛生

 つぎに,三浦土壌の発病抑止性に重要な要因と思われる三浦野菜産地の圃場衛生について述べる。昭和50年頃三浦地域にキャベツ根こぶ病が初発生した。その時,農協は病原菌の拡大防止対策として,まず,現地調査を行い,図4,5に示した調査結果に基づき,図6のような警告を農家に流した。

 具体的な対応として,(1)発病圃場を見つけるやすぐにその圃場の作物をその場で鋤込み,農薬処理等を処理して病原菌の拡散を封じ込める作戦をとり,また,(2)その畑には当分寄主作物の作付けをさせず,さらに,(3)下流にある畑も同様の作物栽培を禁止した。このような防除対策はダイコン萎黄病が初発生したときにもとられている。これらの圃場衛生の徹底が産地全体の病原菌密度を上げさせない状況を維持し,病害発生を回避している大きな要因であると考えられる。 

6)発病抑止土壌の組成を分画してみると?

 上述の諸結果を用いて農業生態系内での発病抑止土壌についての意義付けを試みてきたが,さらに視点を変えて検討を加えてみる。すなわち,発病抑止土壌(M)と発病非抑止土壌(C)を篩別法や遠心分離法で各土壌組成に分画して,各分画が厚膜胞子発芽に及ぼす影響について検討した結果を表5と図7に示した。

 表と図から分画方法が異なっても,発病抑止土壌の砂,シルト,粘土の分画はいずれも厚膜胞子の発芽を抑制し,とくに,粘土分画で顕著であった。そこで,これらの分画中の微生物密度を調査したところ,表6に示したように,発病抑止土壌,発病非抑止土壌ともに粘土分画において細菌,放線菌が多く,それらの微生物密度はとくに発病抑止土壌で顕著に高かった。このことは,これらの微生物が発病抑止性に関与している可能性が高いことを示しているものと思われる。

おわりに

 このような結果をみると,三浦地域のダイコン萎黄病に対する発病抑止土壌には土壌固有の発病抑止性が存在するように感じられる。しかし,未耕地土壌であるNo.24とNo.25土壌をみると,厚膜胞子発芽に対して,前者は抑制能力がないが,後者の土壌は抑制している。一方,発病抑止性は未耕地の両土壌ともに有せず,耕地化されるにつれて発現してきている。

 このように,発病抑止土壌は固定的な性質ではなく,環境要因によって大きく左右される。これらのことから考察すると,発病抑止性は後天的な要因によって構築されたものと思われる。今後,農業生態系の中で詳細に検討することが重要と考えられる。

 いずれにしても,土壌くん蒸剤の使用が制限されつつある今日,これらの現象を解明することが,生物防除技術の開発や省農薬の病害防除体系の確立に大きく貢献するものと思われる。環境に優しい病害防除技術の確立が1日も早くくることを祈念しながら文責を終らせていただきたい。

 

 

砂丘地チューリップ球根養成栽培での
被覆肥料「ロング」の肥効

新潟大学 農学部
教授 五十嵐 太郎

1.はじめに

 チューリップは冬多湿低温・夏乾燥高温のステップ気候型の地域が原生地であると推定されており,休眠覚醒に高温後低温を必要とし,又,順調な生育に冬期の多湿が不可欠の秋植え春萌芽型球根植物である。新潟・富山両県を中心とした日本海沿岸地帯の気候はステップ気候型に類似し,チューリップの生育に比較的適合している。

 従って,これらの地帯では球根養成栽培(球根栽培)が広く行われている。なかでも,砂丘地産球根は花芽分化が早く,促成切り花用球根としての需要が多いので,新潟県では砂丘地畑が球根栽培面積の過半を占めている。

 砂丘地土壌は一般に肥沃度が劣るので,球根栽培では,地中生育期間(定植~萌芽)から摘花まで,N・PO4・Kなど養分の十分な供給が,球根の収量・品質の向上に欠かせない。しかし,砂丘畑で長年に亘り慣行的に行われている肥料三要素多量基肥を主体とした施肥法では,晩秋からの多量の降水で,施肥養分,特に窒素の溶脱が顕著なので,その肥効は必ずしも高くない。

 そこで,球根栽培砂丘地では,肥効が安定して高く,しかも省力・省資源で環境にやさしい合理的施肥法の確立が要望されている。

 これに答える優れた窒素施肥法として,馬場は,
a)チューリップ球根が地中約10cmの深さに定植される,
b)透水性が大きく,しかも弱いながら或る程度NH4-Nを保持できる砂丘地土壌の性質,
c)気温(地温)が5℃以下になると活動が激減する硝化菌の性質,
d)冬期低温時でもNなどの養分を多量に吸収し,一時的に貯蔵できるチューリップ根の性質と,その貯蔵養分の持つ大きな球根生産能率,
e)冬期降水量の著しく多い日本海沿岸地帯の気候条件などを組合せ活用した「NH4-N肥料全量12月表面施肥法」
 を確立している。しかし,肥料全養分の基肥施用のみで,砂丘地チューリップに優れた肥効を発揮する施肥法の確立は,省力的見知から重要である。

 そこで,基肥のみで優れた肥効の発揮が期待される被覆肥料ロングの砂丘地チューリップに対する肥効について検討した。

2.試験方法及び試験地の気象

1)供試球根

 マルタ種8cm内仔球で,その性質を表1に示した。

2)供試圃場

 新潟大学農学部の細砂の多い砂丘地畑で,その性質を表2・3に示した。

3)供試被覆肥料

 ロング424(14-12-14)70・100両タイプ(ロング70・ロング100),ロングトータル花き1号(13-16-10-2-微量要素)70・100両タイプ(ロング花卉1号70・ロング花卉1号100),ロングトータル花き2号*(10-13-18-0.5-微量要素)100 タイプ(ロング花卉2号100)を用いた。なお,供試ロングの肥料成分溶出タイプは,チューリップの生育期間,養分必要時期,冬期の低温などを考慮して,上述のように70及び100両タイプとした。
 * 仮称,試験銘柄

4)試験区の設計

 表4に示した。

5)栽培管理方法

 球根を10月28日に定植し,以後常法により栽培管理した。なお,摘花は各区とも5月6日に,又,収穫は地上部の枯れ上り状況から判断して,No.8区では6月6日,他の各区では6月13日にそれぞれ行った。

6)ロングの肥料成分溶出率測定法

 笠原らの方法(農業と科学,1993年8号)に従った。

7)収量調査及び植物体のN・PO4・K各濃度定量法

 常法により行った。

8)試験地の気象

 試験期間の気温と降水量を表5に示した。

3.結果及び考察

1)ロング肥料成分の溶出状況

 施肥時の10月28日~11月30日,冬期低温期間の12月1日~3月14日,萌芽時の3月15日~4月18日,出蕾時の4月19日~摘花時の5月6日各期間(各期間の平均気温は表5を参照)でのロング70・100両タイプの肥料成分溶出率(%)は,それぞれ15.9・13.5,18.4・9.7,30.7・31.9,12.1・14.7であった(図1)。

 従って,70・100両タイプの各基肥区は,タイプにより成分の溶出経過は多少異なり,この傾向は,特に冬期低温期間で明瞭であったが,全般的にみれば球根の収量・品質の向上に重要な養分供給時期である地中生育期間(定植~萌芽)から摘花時まで,チューリップに継続して比較的十分量の養分を供給できたと推察された。

2)被覆肥料ロングの肥効

 先ず各区球根の収量・品質について述べる(表6・7)。ロング各区(No.1~5区)の球根収量は,砂丘地球根栽培で安定して高い窒素の肥効が確認されているNH4-N肥料全量12月表面施肥(N12月施肥)法を用いたNo.6区の収量とほぼ同等であった。又,No.1~6各区主球の花芽分化は7月21日で,すでにP~Gに達していたので早く,そのN・PO4・K濃度(%,乾物当り)も,それぞれ1.0~1.2・0.6~0.8・0.9~1.2で,適正な濃度範囲内にあった。

 従って,砂丘地栽培球根の収量・品質は,窒素25kg相当量(10a当り)の70又は100タイプ3種のロング肥料の基肥施用で良好になること,及びこのロングの基肥効果は,その含有する燐酸・加里量が多少違っても,変りないことが判った。

 他方,No.7~10各区の球根は,収量・主球の花芽分化状況とN・PO4・K濃度などからみて,No.6区より劣っており,この傾向は窒素無施用のNo.8区で特に顕著に認められた。

 なお,No.7~10各区の収量はNo.10区>No.9区>No.7区>No.8区の順で,燐酸や加里を施用しなくても,N12月施肥法を用いれば,慣行施肥区より高くなる傾向が認められた。従って砂丘地栽培球根の収量・品質は主に窒素施肥法の相違に大きく支配されると判断される。

 次に,No.1~7各区の施肥養分吸収率について述べる(表7)。

 球根の収量・品質と最も関連深い窒素の吸収率(%)は,No.1・3区:33~34,No.2・4・5区:39~41,No.6区:37,No.7区:19で,100タイプロング基肥各区が最も高く,ついでN12月施肥区,70タイプロング基肥両区の順になり,慣行施肥区では,すでに指摘されている様に,前3者より著しく低くなった。

 砂丘地球根栽培での,NO3-N12月表面施肥では,NH4-Nの表面施肥とは異なり,窒素吸収率は冬季の多量の降水により,施肥窒素がチューリップ主要根圏上層を急速に通過して下層へ溶脱するため極めて低い。このことは,ロング(含有窒素の約38%がNO3-N)基肥各区の早春までの溶出NO3-Nがチューリップに余り吸収利用されないことを考えさせる。

 従って,上述の70タイプと100タイプ基肥区での窒素吸収率の差は,70・100両タイプロングの冬期間での窒素溶出率の既述のような違いが主に影響して生じたと考えられる。

 燐酸の吸収率(%)は,No.1~5ロング各区ではその施肥量(21.4~32.5kg/10a)やロングの溶出タイプの影響を受けず8~9で,No.6・7両区の吸収率5~6より高くなった。なお,燐酸の吸収率が余り高くないことは既に知られている。

 加里の吸収率(%)は,ロング各区では17~23で,その施肥量(19.2~45.0kg/10a)が少ない区ほど高く,又,70タイプに較べ100タイプが多少高くなった。他方,No.7・8両区の吸収率はそれぞれ14・7であった。なお,加里吸収率は全般的にみて余り高くなかった。砂丘地土壌のPO4・K,特にK供給力が比較的大きいことは,すでに指摘されているが,本試験でも同様の結果が得られた(図2)。

 本試験で,燐酸と加里の吸収率が余り高くなく,又,燐酸或は加里無施用区球根収量が顕著に低下しなかったのは,上述の砂丘土壌のPO4とKの比較的高い供給力が関与していたと推察される。

 上述の結果,各種ロングの70・100両タイプ,特に100タイプを用いれば,基肥のみで,砂丘地球根栽培で優れた肥効を挙げることが可能があると判断された。