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第455号 1995(H7).10発行

PDF版はこちら 第455号 1995(H7).10発行

 

 

十和田市の長ねぎ(ぼけしらず)

十和田市農協本所 営農部
次長 紺野 留一

1.十和田市の長ねぎの歴史

 昭和56年に78a栽培されていたが,昭和61年から急激に面積拡大が図られた。

 その理由は長芋の褐色腐敗病対策として色々な作物を導入し栽培に取組んだが,効果面及び経済性又安定性がなく,他県で苗立枯病対策として導入されている資料からヒントを得,当管内長芋主力地域(大深内支所)で試作栽培した結果,輪作体系の中に組み込まれ,現在は70haまで面積拡大が図られた。

 十和田市農協野菜販売額の中で長芋,にんにくに次ぐ第3位の作物として定着,平成2年には秋冬ねぎの産地指定を受けているが,栽培の歴史は浅く,現在ハウス軟白ねぎの栽培を含め,周年栽培出荷を目標に面積拡大及び安定生産,定着化に努めている。

2.作型

3.栽培の留意点及び管理作業

 ①育苗
  ※ペーパーポット育苗(電熱線を使用)
  人口培土とマイクロロングトータルを1箱当り50g使用している。
   10a当り必要資材
    日肥良菜培土SP……15袋
    ペーパーポット……60冊
    マイクロロング……3kg
    コーティング種子…39,600粒

 ペーパーポットー穴に3粒は種,発芽温度は18℃~20℃(地温15℃~20℃)全体の80%位発芽したら新聞紙とポリフィルムを除去する。

 ②発芽後の管理
  生育適温15℃~25℃を目安に換気を行い,灌水は適宜行うが生育時の乾燥は生育を抑制し又かけすぎは苗立枯病の発生につながるので底面灌水とし多湿はさける。

 ※シーダーテープ育苗
  10a当り必要坪数(50坪)
  必要資材…完熟堆肥  900kg
       パワーリン 20kg
       苦土炭カル 40kg
       BS222号  10kg
       農産一番  40kg

 ①発芽揃い後(80%の発芽)にワラマルチ及びポリマルチを除去する。除去が遅れると徒長,軟弱苗になるので注意する。

 ②間引,ガッチリした苗を作るために重要な作業であり,2cm位になるように1~2回行う。(抜き取らずハサミ等で切断する)

 ③中耕,本葉2~3枚頃に殺虫剤(ジメトエート粒剤)を50坪当り1kg散布後中耕する。

 ④灌水,比較的乾燥に強いが,苗床での乾燥は生育を抑制するので適宜灌水する。

4.本畑の準備

 10a当り施肥基準
 ※基肥           追肥
   完熟堆肥……3000kg
   苦土炭カル……200kg
   パワーリン……100kg
   ASU486号……40kg
   BS222号…..60kg
   ロング(70)……70kg
   光45号         60kg
   S646号         40kg

 10a当り成分量N29kg,P45.4kg,K29.8kg
 ※施肥は定植7~10日前に行い,ポット育苗は全面散布,シーダーテープ育苗は改良資材は全面散布,ASU,BS,ロングは溝施用する。

5.定植

 作溝(植付け溝堀り)耕起後土が十分落ち着いてから,深さ15cm~20cm,溝幅15~25cm,畦幅100cm~110cmにし,植付け溝の深さ15cm以下の場合は最終培土が困難となり,軟白長の確保が難しくなるので畦幅を広げる。

 ※定植時の苗の姿
  ①ポット育苗は苗長20~25cm,葉数2~3枚,太さ2~3mm以上で定植する。
   栽植密度は7~8月収穫は1m当り33本定植

 ※ポット育苗の場合は株間9cmにし,10a当り30,000~33,333本。
  9月~10月収穫は10a当り33,750~33,500本定植とする。

6.ワラの施用

 活着,基肥散布後に稲ワラ(麦ワラ)を溝に施用後ワラがかくれる程度に軽く覆土する。

7.追肥

 葉色を落とすと病害虫発生の原因となる。
 第1回目植付け後……25日   植え元に
 第2  〃   ……40日 ⇒ 追肥し
 第3  〃   ……55日   覆土する。

8.培土

 第1回目の培土は本葉4~5枚確保してから実施する。
 追肥後7~10日目に行い,好天の日に行うが,生育初期の多すぎる培土はネギの太りを悪くするので注意する。

 第1回目収穫前55日……ねぎが倒れない
 第2回目 〃 40日……程度の培土。

 第3回目収穫前25日……本格的な
 第4回目 〃 15日……培土。

 ※培土のとき上位展開葉3枚は必ず地上部に出るようにする。
 ※最終培土はねぎの姿,茎径20mm前後,葉鞘長33cm以上,生葉数4~5枚が適期で茎径,葉鞘を見ながら実施時期を決める。

 ※軟白日数の目安
  最終培土が7月下旬~8月上旬軟白に要する日数10~15日,8月中旬15~20日,8月下旬25~30日を要する。
  ボケねぎ防止対策として最終培土終了後,手作業による仕上げを必ず行う。

9.収穫

 播種後180~210日を目安とする。収穫が遅れるとボケの発生につながるとともに葉長の確保が難しくなる。

10.ねぎの出荷規格

 長ネギ(露地物)

(1)品質基準

(2)重量基準

 5kg入れDB箱,入れ目5%(皆掛け:5.75kg以上)

(3)大小基準

11.ロング肥料を導入した理由

①健苗育生と省力
②葉色の安定
③病害虫の被害の軽減(農薬の散布回数減)
④肥効の持続性確保

 以上の理由でロング肥料を導入した。

12.十和田市の長ねぎの将来

 農業者の高齢化等から面積拡大が困難な状況から,共選施設を導入し,生産者,農協が分担し,150haまで伸ばして行きたい。又作型等を検討し,周年出荷体系の確立を図りつつ,全国にぼけしらずねぎの名声を高めたいと頑張っております。

13.

 最後に肥料メーカーさんの協力により,長ねぎ専用肥料(ねぎ畑)が出来,新年度よりスタート致します。ご紹介まで。

 

 

トラムライン潤土直播栽培

北陸農業試験場 総合研究チーム
チーム長 澤村 宣志
四国農業試験場 企画科
科長 中山 正義
(前北陸農試総合研究チーム長)

1.はじめに

 我が国の稲作は,昭和40年中頃から田植機・自脱コンバインの普及により大幅な省力化と安定性を達成した。しかし,今日の稲作は引き続き米の供給過多基調が予想される中,ガットウルグアイラウンド合意に基づく米の部分的解放,食糧管理制度の改革等によりかつてない厳しさに直面している。このため,大規模経営体による飛躍的なコスト低減が可能で,担い手にとっても魅力的な従来の稲作技術の枠組みにとらわれない革新的な技術開発が強く求められている。

 移植栽培と比較して,多労な育苗・移植作業が省略できる水稲の直播栽培は,施設費と労働費の大幅な節減と省力化が期待できること,大型化・高能率化が容易であること,また,同一品種であっても成熟期が移植栽培より遅れるため,収穫期間を延長できる等々の理由から,大規模経営向きの技術として関心が益々高まっている。

 しかし,我が国における普及面積は,全作付け面積の1%にも満たない。これは,初期生育が不安定になりやすく収量性も劣ること,作業期間や天候に対する制約も移植栽培に比較して大きいこと,省力・低コスト効果もそれほどでもないなどの理由による。直播栽培は,湛水直播と乾田直播に大別できるが,我が国で普及しているのは,大部分が畑状態で播種して苗立ち後湛水する乾田直播である。

 この方法は,湛水による保温効果が得られないので初期生育が劣ること,代かきをしないため,漏水の激しい水田では適用できないこと,さらには,播種時の土壌条件・天候により作業が左右される等の問題がある。湛水直播は,上記の問題は少ないが播種深度が浅いため,倒伏しやすいという欠点があり,これを克服するために種子に酸素発生剤をコーテイングして,種子を土壌中に播種する湛水土壌中直播も開発されたが,省力性とコスト低減が十分でないため,広く普及するには至っていない。

 北陸農業試験場で開発中の潤土直播技術システムは,これらの問題点を克服するため,
①大区画水田に対応した高能率・省力作業であること,
②天候に左右されない全天候対応型であること,
③出芽促進のために特別な資材を必要としないこと,
 の3点を満たすことを目標に作業技術,栽培技術の両面から直播技術を総合化したものであって,単なる播種技術や播種前後の管理法をいうものではない。

2.潤土直播研究の経過

 潤土直播とは,代かき後落水した田面に浸漬・膨化した種籾を10a当たり7~10kgの高密度に散播し,苗立ちまで2~3週間落水状態に保ち苗立ちの安定化を図り,播種や農薬・肥料散布を水田内に一定間隔で設けた走行路から,乗用作業で行うものである。このため,表面播種で問題となるたこ足苗や浮苗の発生を防ぐことができる。この場合水田全面の完全な落水が均一な出芽を得るための条件となるが,作業用の走行路は溝型になっているため,これが圃場内小明渠として機能し,大区画圃場での用排水を改善する。

 このように潤土直播技術システムの開発は,北陸地域の土擦や気象条件にあった新しい直播栽培技術だけではなく,大区画水田を利用した大規模稲作に対応した省力作業技術を総合化した新稲作技術システムの構築を目標に行われてきた。北陸農業試験場におけるこれまでの経過を簡単に述べる。

 1988年から栽培生理研究室では,高密度散播方式による水稲の湛水直播栽培研究を行っていた。1989年に機械施設研究室では,水稲生育期間中も水田内に走行路を設け,乗用トラクターを乗り入れて播種,農薬散布,施肥を行う新しい農作業方式による水稲の散播直播栽培の研究を開始した。その後両研究室の共同研究により1990年には,高密度散播と落水出芽方式による潤土直播栽培技術の基本的な枠組みが解明された。

 1991年には,総合研究チームによって当場内に200m×50mの大区画圃場が整備され,場内において大区画圃場を対象とした作業技術体系試験が可能となったので,1992年から総合研究チームと機械施設研究室が共同して潤土直播作業技術体系試験を開始した。

 1993年からは,全国的な農水省のプロジェクト研究「地域総合研究」(現在は,地域先導研究と改称)が開始され北陸農業試験場では,「平坦水田地帯における大規模米生産システムの確立」を担当することとなり,潤土直播技術を生産システムの基本技術として取り上げ,総合研究チームを中心に経営関係研究室を含む場内水稲関連9研究室からなるプロジェクトチームを編成し,5カ年計画で研究を実施することとなった。

 1994年度からは,場内水田に加えて,新潟県中頚城郡頸城村で最先端の圃場整備が実施された大区画圃場(142m×80m,農道旋回方式)において,「トラムライン潤土直播技術体系の確立」の現地試験を開始し,今日に至っている。

3.潤土直播の基本技術 

 潤土直播は繰り返し述べてきたように単なる栽培法だけでなく,新しい稲作生産システムの開発を目標に研究してきた。ここでは,まず基本となるいくつかの技術の解説をする。

(1)定幅散布機

 潤土直播作業技術の中心は,20馬力クラスのトラクターに直装する作業幅10mの定幅散布機である。この散布機1台で,播種,施肥,農薬散布作業の一切を行う。

 現在標準となっている水田区画の大きさは100m×30mの30a区画である。ここでの施肥や農薬散布は,背負い動力散布機による畦畔からの歩行作業が主である。作業の高能率化のために現在盛んに整備の進められている大区画圃場では,これらの畦畔からの作業が不可能となり,泥田中の歩行作業を強いられるが,著しく過酷な作業であり,大規模稲作で長時間実施することはできないであろう。そこで,水田内乗用作業機として,トラクターに直装する作業幅10mの水平多口噴頭式散布機(定幅散布機)を開発することにした。

 定幅散布機は,現在も機械施設研究室において開発改良中であるが,現在,潤土直播作業に使用している機械の概要を紹介する。定幅散布機は,図1に示したように背負い式動力散布機を送風源にし,長さ10mの両端をふさいだプラスチックパイプからなる多口噴頭,資材タンクおよび調量機構を3点リンクヒッチ付フレームに装備したものである。

 種籾や肥料・農薬は左右5mのパイプの中を空気輸送され,パイプに穿たれた噴口から下方へ散布される。資材の容量は60リットル2台で約120kgの肥料を積み込むことができる。散布量の調節はモーター駆動の横溝口ールの回転数を調節して行うが,散布対象に応じてha当たり100~200kgになる種籾,肥料の大量資材用と,30~40kgですむ農薬の少量資材用との2種類のロールを用意している。

 定幅散布機による播種や肥料農薬散布は,背負い式動力散布機による作業と同様,1人作業が可能であり,1ha当たり所要時間は30分から1時間である。現在,散布資材に関係なく約30分以内に行うことを目標に改良を続けている。

 定幅散布機の開発は,①快適で高能率なワンマンオペレーションが可能な機械であること。②精度の高い作業が可能であること,および③風に強い作業が可能なこと(天候依存性の軽減),を目標に行っている。

 ①に関しては,乗用化による水田内歩行作業の解消とともに作業者への農薬被爆に対する安全性を重視して農薬は粒剤使用を原則とし,散布機は後方装直の下方散布方式とした。粒剤は液剤と比較して混合散布する場合の難しさがあるが,最近では粒剤であっても殺菌剤と殺虫剤の混合剤が販売されているので,混合剤を利用した防除体系を指向している。

 ②および③に関しては,調量機構を精度の高い電動横溝ロール式にしたこと,および両端をふさいだ水平多口パイプ噴頭式にした。吹き流し方式の噴頭は,簡単な構造で広い作業幅を得ることができるが,散布精度は風による影響を強く受ける。また隣接した田への資材のドリフトも当然大なり小なり生じる。

 他方,両端をふさいだ多口パイプ噴頭の場合,散布は噴頭から直接下方に行われるので,風による影響を受け難く,散布幅もパイプの長さにほぼ等しくなるので隣接田への影響もほとんどないと考えられる。実際,開発した定幅散布機は,種もみ・除草剤とも風速約6m/sの条件下でも均一な散布が可能であることが実証されており,大規模稲作での計画作業に対応できる。一方,背負い動力散布機の使用に当たって,農薬では風速約1m/s以下,粒状肥料では約3m/s以下の条件で行うこととされている。

 定幅散布機は,トラクターのアタッチメントとして開発されているので,20馬力クラス以上のトラクターであれば機種を問わず使用可能である。しかし,圃場を必要以上に損なわないことや出穂期前後に作業することもあることから,トラクターが稲体を押し倒すことによる損傷を防ぐため最低地上高が50cm程度の20馬力クラスのハイクリアランストラクターを用いることとしている。これまでの試験結果では,トラクターの走行で稲体はなびくが,すぐに回復し,特に問題は生じていない。

(2)トラムラインの造成

 我が国の水田圃場整備は,水稲の生育期間中つまりは湛水期間中に大型機械が水田を走行・作業することを前提にしていない。このため,北陸地域に多い低湿重粘土水田はもちろんのこと,我が国の大部分の水田において,生育期間中に乗用機械が同一箇所を何度も走行することは困難であると考えられる。

 乗用機械が水稲の生育期間にわたって走行可能にするためには,水田整備基準を改め,水田全面の地耐力を向上させる,あるいは超低接地圧の特殊トラクターを開発する必要がある。しかし,いずれの方法も経済的のみならず技術的にも困難が多いと思われる。

 潤土直播作業技術体系では,湛水期間中の作業を全て定幅散布機で行うもので,水田内におけるトラクター走行経路は常に一定である。そこで,トラクターの走行経路のみを強化することを検討した。この際走行路は耕転・代かき作業や収穫作業に支障のない構造にするとともに,大区画水田での圃場内小水路としての機能を持つよう配慮した。

 開発したトラクターの圃場内走行路は図2にその断面形状を示したようにトラクターの轍に合わせた2条一対の地表面下20cmの溝型で,路面をセメント系地盤改良材で安定化処理してある。これはあたかも路面電車の線路のようであるので,この走行路をトラムラインと名付けた。定幅散布機を装着したトラクターは,このトラムライン上を走るが,作土より下方にあるので耕転・代かき作業は走行路に関係なく,通常どおりの作業が可能である。

 これまでに2枚の大区画水田で200m×5対および142m×8対のトラムラインを試験的に造成した。造成の手順は,①走行路の位置決め,②ロータリディッジャーによる溝掘り,③改造したライムソワーで溝内への地盤改良材の散布,④深耕ロータリによる資材と土嬢の攪拌・混合,⑤タンピングランマーによる鎮圧・成形,となる。また,圃場の用排水機能を向上させるため,トラムラインは圃場の両端で取水口,排水口にそれぞれ連結しておく。

 図3に仕上げ作業中の状況を示した。なお,地盤改良材による安定化処理層は,耐久性と経済性から幅30cm・厚さ20cmとした。地盤改良材の混合割合は原土乾物重量比で12%としたので,1ha水田では20tの地盤改良材を使用し,その材料費は約31万円であった。

 地盤改良材によって安定化されたトラムラインの地耐力増強効果は著しく,定幅散布機が8回走行した時の路面の沈下量(磨耗量)は2cm以下であり,引き続き耐久性を調査している。さらに,トラムラインを造成した圃場では入水に要する時間が短くなることが確認されている。重粘土水田地帯では,中干し時期に小排水溝を設け排水を促進する溝切り作業が必要であるが,トラムライン造成圃場では,この溝切り作業が不要になること等,用排水路としての機能も大きい。

 トラムラインの土性ごとの施工基準や耐久性の解明が今後の課題として残されている。また,造成は,耕起前または収穫後の圃場が乾燥している時期に行うことになるが,多雪や秋雨の多い北陸地域の気象条件下で営農作業として実施するには困難が伴う。将来的には,大区画水田圃場整備の一環としてトラムラインの造成が行われることを期待する。

 もちろん低い地耐力の水田においても走行可能で管理作業に使用可能な走行部を持つトラクターの開発も今後の重要なー課題である。

(3)農道旋回作業方式

 湛水期間中に乗用トラクターで作業を行い,水田内で何度も旋回すると枕地での稲体の損傷や圃場の損傷が大きくなる。旋回を農道上で行い,水田内では直進作業のみを行う農道旋回作業方式は,稲体や圃場の損傷がなく,また作業能率も向上する。

 北陸農試が現地試験を行っている新潟県頸城村の圃場は最先端方式の圃場整備がされていると述べたが,圃場の両端とも農道旋回が可能な構造になっている。すなわち,用水側は支線農道に面しているが農道は20~30cmと低く,田面との間に傾斜がつけてあり作業機の出入りが自由にできる。他方は排水路を挟み隣の圃場と接しているが,排水路は蓋がされているので,排水路上で機械の通行・旋回が可能であり,さらに,排水路を乗り越えて2筆の圃場を直進作業することも可能となっている。

 トラムラインと定幅散布機を組合せた作業法は,このような農道旋回方式の圃場において,その効果を発揮する。しかし,圃場整備が完了し,新たに農道旋回式圃場への改良を行えない場合も多いと考えられる。このような圃場への対策として,北陸農業試験場では,圃場内農道とでもいうべき考え方の導入を検討している。

 それは,圃場内の機械旋回部に暗渠施工をし,排水を促進するとともに圃場の表面10cm程度にセメント系地盤改良材を散布混合し,田面と同一標高のまま機械旋回部の地耐力を強化する。従って,この部分は,生育期間中は湛水状態におかれるが原則として水稲の作付けを行わず,この管理は,水田用除草剤の散布またはロータリハローによってごく浅い代かき等で行う。

 この圃場内農道方式は,農道旋回方式と比較して設置が簡単であるだけでなく,その維持管理もより簡易なものとなる可能性がある。圃場内農道は,水田の実作付け面積を減少させるが,農道旋回方式も農道と圃場の法面に約2cm程度必要であり,これらの管理経費や造成費等も含めた経済性の比較を今後の課として取り組む予定である。

(4)潤土散播技術

 潤土直播の特長は,①耕うん・代かき後落水状態で,②浸漬膨化した種籾を10a当たり7~10kg(乾籾換算)の高密度に,③定幅散布機で10m幅に散播し,④落水状態で出芽・苗立ちさせることにある。

 北陸地域に分布する重粘土水田では落水しても直ちに乾燥することは少なく湿潤な土壌状態が保たれる。潤土直播の命名はここに由来している。落水状態で出芽・苗立ちさせるので空気中の酸素が利用できるので,苗立ちの安定化が図れる。また,湛水状態では,浮力が働くこと,根の土壌中への伸長が劣ることから,浮苗・たこ足苗が発生しやすいが,落水状態ではそれが防止できる。

 潤土直播では,水の保温効果が期待できないので,寒冷地では低温害の懸念がある。北陸農業試験場のある上越市では,5月以降は平均気温が約15℃を越え,苗立ち率も高いが,低温年には苗立ち率が低下した。また,潤土直播は,湛水しないので鴨害にあう心配は少ないが,反面カラスやスズメ,鳩等の陸生の鳥による被害が懸念されるのでこれらの鳥の密度の多い地域では注意が必要である。

 我が国の湛水直播は,種籾に酸素発生剤をコーティングして播種する。しかし,酸素発生剤のコーティングは,手作業が多く長時間必要とする他,種子の貯蔵可能期間が2~3日と短いため,本田準備作業と競合する問題点がある。

 大規模稲作経営への適応をめざす潤土直播では,手作業の回避と作業競合の回避を重視して,コーティングしない種籾を用いることとした。また,潤土直播では,出芽時の圃場の排水確保が重要で特に大区画圃場では圃場の均平度が大きな問題となるが,代かきとトラムラインによってこれを解決することとした。

 潤土直播は,これまでの直播と比較して,2~3倍量の種籾を散播する。高密度に播種する利点として,穂数の確保が容易であること,散播で苗立ちしたいスポットを減少できること,雑草の発生を抑制できることの3点が挙げられる。

 播種量は7~10kgと述べたが,苗立ち数の目標を㎡当たり200本としている。条播ではなく散播にした理由は,条播では作業幅の拡大に伴い大型の機械が必要となり自ずと限界がある,さらに専用の機械を必要とする。これに対して,散播では,定幅散布機を用いることにより小型で高能率な作業が可能であるとともに,定幅散布機は,播種・施肥・農薬散布の一貫利用ができるので,経済的にも優れているからである。

(5)追肥重点施肥技術

 これまで直播栽培では,いかに移植の稲の姿に近づけるという努力がなされてきたように思われるが,高密度散播する潤土直播では,移植とは異なる生育パターンをとる。すなわち,播種量が多いので穂数は早期に確保されるので,適繁茂防止が重要である。このため,基肥量を少なくし,さらに生育中期の葉色を極端に落とし,その後の穂肥で収量の安定化を図る施肥方法が良い。

 追肥重点型の施肥法をとることで,第1表に示したように収穫期の稈長は移植より約10cm短縮し,倒伏の危険性が軽減されている。また,玄米チッソ含有量が低く,高品質米生産の可能性が示されている。

4.大区画水田・潤土直播作業技術体系

(1)体系試験

 1994年に北陸農業試験場大区画水田(200m×50m)で行った定幅散布機を用いたトラムラインと農道旋回方式による潤土直播栽培を紹介する。

 主要な作業についての所要時間を第2表に示した。雑草防除は,播種直後と入水後の2回実施する。播種直後の雑草防除は,落水状態での粒剤散布であり,圃場が高く乾燥しているところでは効果が落ちるので,除草剤散布後2日程度はごく浅水に保つ等の改善策を検討している。

 施肥は,入水後と出穂前17日および9日にチッソ量で10a当たり合計7.5kgを施用した。この年は,高温のため出穂が早まり,その結果穂肥時期はやや遅くなった。

 病害虫の防除は,6月中旬にドロオイムシ,イネミズゾウムシの防除剤といもち病防除剤を散布し,7月下旬にはいもち病と紋枯病を対象とした混合剤,8月上旬にウンカ,メイチュウ,ツトムシ防除剤の散布と,合計4回実施した。この病害虫防除体系の他に,畦畔から進入するケラやイナゴを対象とした額縁防除が必要であった。

 収穫は4条刈り自脱コンバインで行ったが,10a当たり収量580kgの1ha水田で約4時間30分であった。第2表で,5月の施肥作業時間が1時間余りであり,7月には40分弱になっているのは機械を改良した成果である。耕うん代かき作業時間を記載していないのは,大区画水田用機械を用いた耕うん代かき作業の実測値が得られていないためである。今後検討されよう。

 以上から,1ha大区画水田での圃場内作業時間は約20時間であり,潤土直播が水稲の高能率生産技術となりうることが明らかにされたと言えよう。なお,北陸農業試験場では,潤土直播栽培における種籾準備から収穫物の乾燥調製までの一切の作業時間の合計の目標を1ha当たり50時間としている。これが達成されると,3ha以上の作付け規模農家の移植栽培作業時間に比較して,5分の1以下のきわめて高能率な稲作技術となる。

(2)潤土直播営農モデル

 団地化された大区画水田で,作付け規模40ha,オペレータ2名を想定し,潤土直播を実践する営農モデルを策定した。そこでは,限られた機械装備で作期の拡大を図るために,水稲品種は早生20haと中生20haを組み合わせることとし,機械装備は,2台のトラクターを中心に定幅散布機および白脱コンバインのシンプルな構成とした。乾燥調製は,全面的にカントリーエレベーターへ委託することとした。機械の仕様を決定するに当たっては,各工程とも1区画の処理時間が最大でも4時間を超えないようにした。

 この体系では,施肥・播種・農薬散布のすべてをトラクターに直装する定幅散布機1台で行うので,ほとんどの作業でワンマンオペレーションが可能となっている。

 想定したモデルの所要作業時間は第3表に示したように,1ha当たり48時間とほぼ目標どおりの結果が得られた。これを基に米生産費を試算してみると,第4表に示したように,種苗費,農業薬剤費は,高密度散播と粒剤体系の農薬使用のため,新潟県3ha以上層の平成4年度産と比較してかなり高くなっている。

 しかし,カントリーエレベターを利用しているが,作業関連コスト(賃借料および料金,建物費,農機具費,労働費)の削減は決定的であり,「新潟3ha以上」の43.7%まで低下している。さらに,10a当たりの費用合計では33%に達する削減を実現しているが,想定したモデルは,収量が若干低いために,60kg当たりの費用合計の削減は約30%となっている。

5.おわりに

 潤土直播栽培システムは,将来型の稲作技術として大区画水田をベースにきわめて省力的でかつ高所得を実現する生産システムであることを示してきた。しかしこの技術は,現在開発を進行中の技術であり,決して完成されたものではない。

 例えば,鳥害や定幅散布機を効率的に運用するためのトラムラインを備えた大区画水田の整備法等々の残された課題も多い。さらに直播用品種の育成や,肥料・農薬等の資材も大区画水田作業に適応し易く改良されることも必要である。それぞれの分野の関係者と協力して一日も早い技術の確立に努めていきたい。

引用文献

(1)椛木信幸・金忠男:北陸農業試験場報告33(1991)

(2)澤村宜志:北陸農業の新技術,第4号,北陸農試(1991)

(3)澤村宜志:米麦改良,12月号,全国米麦改良協会(1991)

(4)澤村宣志・八巻正:農業技術,第49巻,第3号(1964)

(5)中山正義・澤村宜志:米麦改良,12月号,全国米麦改良協会(1994)