§根域を制限した循環式養液栽培装置による高糖度トマトの生産とコーティング肥料を用いた育苗管理
静岡県農業試験場 園芸部
研究主幹 石上 清
§レタス-ハクサイ二連作一回施肥
長野県中信農業試験場 畑作栽培部
技師 山田 和義
静岡県農業試験場 園芸部
研究主幹 石上 清
近年,果実類に対するわが国の一般的な嗜好としては糖度が高く甘いものを好む傾向にあり,この点についてはトマトも例外ではない。このため,当県内の2,3の産地においても糖度の高いトマト(以下高糖度トマト)を銘柄品として出荷しているが,生産は排水が良いなど高糖度トマトの生産に適した地域に限定されており,必ずしも安定した生産・出荷が行われているわけではない。
トマトの糖度はほかの多くの果実類と同様,水分ストレスを付与することで高まることが知られているため,当農試では水分ストレスの付与を基本とした高糖度トマト生産技術の確立を目的として試験を実施した。その結果,給液後の余剰水の迅速な排水と,適度な保水性により,安定した水分ストレスを付与することが可能な栽培装置として,ロックウール細粒綿培地を用いたワンポット・循環式養液栽培装置を考案し,これに養水分管理と環境管理を組み合わせることで高糖度トマトを比較的安定的に生産できることを明らかにしたので,以下にその概要を紹介することとしたい。
市販されている大玉トマトのBrix糖度は一般的に4~6度程度であり,ほかの果実類がほぼ10度以上であるのに比べるとかなり低いことになる。果実類の多くは収穫期になるとショ糖などの可溶性糖類を蓄積して糖度が高まる。図1には各種の果実類の収穫期における可溶性糖含量とその組成を示した。

ブドウやサクランボはショ糖をそれほど蓄積しないが,かわりに果糖を多く蓄積する。しかし,トマトはショ糖も果糖もほとんど蓄積しないことが図から明らかである。これは,トマトが収穫期になっても糖を細胞内に積極的に蓄積するタイプの果菜類ではないことを示しており,このことがトマトの高糖度化を困難にしている理由となっている。
1.で述べたように,トマトの高糖度化を考える場合,通常では果実が収穫期になっても可溶性糖類を蓄積しないので難しいことになる。このため,果実の肥大を抑制し,果実を小さくして糖を濃縮する方法が考えられる。当農試で調査したトマト“ハウス桃太郎”の果実の大きさと糖度との関係を示すと図2のようになった。図から,例えば目標糖度を10度とした場合の果実の大きさは, ほぼ70~80グラム程度の小玉にする必要があるということになる。(なお,この関係は,着果負担率や栽培条件等の違いで異なることもある。)

果実の肥大を抑制するためには,植物体に何ら分かのストレスを与えることが必要になるが,現在トマトの高糖度化で用いられている一般的な方法としては,かん水量を制限する,いわゆる“水分ストレスを付与する”方法である。水分ストレスを付与することによって草勢や果実の肥大を抑制することになるが,水分ストレスの付与は生育を不安定にすることが多く,安定生産を考えた場合には大きな問題となる。このため,ストレスを付与しながら安定した生育を維持することができる技術の確立がポイントになってくる。
当農試では,養液栽培装置の開発に先立ち,水分ストレスの付与や高糖度化の難易などについて土耕の隔離栽培と養液栽培とを比較した。その結果,土耕の隔離栽培では培地容量が大きく,水分ストレスを自在に付与することがかなり難しいため,高糖度トマト用の栽培には不適当であることを確認し,養液栽培装置の開発に取り組むこととした。
養液栽培装置を用いて繰り返し栽培試験を実施した結果,培地容量(根域)を約650ミリリットル(4号ポット)に制限し,給液後の余剰水を迅速に排水できる培地構造を考案した。なお,培地容量が大きすぎると水分ストレスを付与しにくくなるが,逆に生育の安定性は高くなるため,蒸散量が多く生育が不安定になりやすい高温期には培地容量を大きくしたほうがよい。
また,水分ストレスの付与で不安定となりやすい生育をより安定化させるため,培地には適度の保水性があり,かつ培地全体に根が分布できるような素材としてロックウール細粒綿を選んだ。
栽培装置の概要は図3に示した。ポットには不織布を成型したポット(商品名スマッシュポット)を用いた。このポットはビニルポットと比べてやや高価であるが,排水性が良く,また根を完全に遮断することができる特徴を有している。ポットの下に敷いて余剰水の排水を迅速に行わせる排水用不織布(品名スパンボンド:厚さ3mm)は,架台から15cmほど下に垂らすことが必要である。給液は点滴給液(商品名ネッターフィン)とした。根部の温度をできるだけ安定させるため培地部分を遮熱フィルムで覆うようにした。

なお,本栽培装置では,周年生産や作業性などを考慮して3段摘心栽培を基本とした。
は種箱には種し,本葉が2~3枚になったところで上述のロックウール細粒綿を詰めたポットに鉢上げする。10a当たりの育苗本数は約3,600本と多く,培養液を無駄なく一鉢ずつ給液する方法では給液に時間が掛かりすぎるため,鉢上げ後にコーティング肥料を鉢当たり約2gづつ施用してかん水する方法を用いた。この方法ならばかん水作業はかなり楽になり,かん水時間が短縮される。
安定した水分ストレスを付与するため,給液は草勢や蒸散量などを観察しながら調節することが必要である。迅速な排水機構が備わっているとはいえ,ストレスの付与を考えた場合には過剰の給液は避けるほうがより効果的である。
一日当たりの蒸散量は,収穫期には安定しているが,定植~初収日までは天候による蒸散の日変動が大きいため(図4),強いしおれを来さないような給液管理が必要である。しおれは尻腐れ果の発生を助長することになるので好ましくない。

なお,抑制~半促成栽培において,安定した水分ストレスを維持するための給液量は晴天日で約80~100ml×4回/株・日,曇雨天日では約80~100ml×1~2回/株・日であったが,前述のように温度,日射量などの外部環境や生育ステージ,ハウス環境などによって大きく異なるので,草勢や葉色等を観察しながら調節することが基本になる。
培養液は,大塚液肥A処方の1/2濃度を基本とし,これにCa,Mg及びKの塩化物または硫酸塩を等ミリ当量ずつ加えて浸透圧ストレスを高める方法をとった。水分ストレスだけでストレスを付与する給液管理法では生育ステージや環境などの変化に対応じて給液量を細かく調整しなければならず,管理が難しくなるためである。
水分ストレスの付与を軽くし,かわりに培養液濃度を高めて植物体に浸透圧ストレスを付与してやることにより,たとえ給液量が過剰であっても根からの吸水が抑制されるため,結果的に生育や果実肥大を安定的に抑制することができるためであり,この方法によれば給液管理にそれほど注意を払う必要がなくなる。
特に生育が不安定で尻腐れ果が多発しやすい高温期には水分ストレスを弱くし,浸透圧ストレスの比率を高めたほうが生育は安定する。
環境温度については細かな試験を実施していないが,最高温度を25℃程度で管理した場合と,30℃を越える条件で管理した場合とを比較したところ,25℃程度で管理したほうが果実糖度が高く,また,尻腐れ果の発生も抑制されたことから,環境温度は25℃程度を目標にハウス内の換気等に注意する必要がある。
一方,低温期の栽培では,環境温度が15℃以下となり根温が低下した場合に病害が多発した経験があることから,最低温度にも注意する必要がある。土耕栽培と異なり,養液栽培では根温が環境温度に影響されやすいため,根温を調節するヒーターやクーラーを装備していない栽培装置では環境温度に注意を払う必要がある。
ここで紹介した栽培装置による高糖度トマトの生産技術は完成したものではない。当農試では現在も高糖度トマトの周年生産を目標に,育苗方法や栽植密度,摘心段数,高温期の安定した栽培法の確立などを目指して,実用化に向けた試験を実施中である。
高糖度トマトは差別化商品としての価値が一部で認められていることから各地でさまざまな高糖度トマトが生産されているものの,市販トマトのほとんどは一般トマトであり,高糖度トマトの比率は微々たるものである。しかし,産地間競争の激しい昨今,各産地とも特徴をアピールするために多くの努力を払っていることも事実であり,その点では,ここに紹介した生産技術は一つの提案になるものと思われる。
長野県中信農業試験場 畑作栽培部
技師 山田 和義
長野県の高冷地黒ボク土畑におけるレタス及びハクサイ栽培は,マルチをうねの全面に敷き詰める,いわゆる全面マルチ栽培が主流であり,移植による年二作栽培が多い。果菜類などに比べ栽培期間が短いレタスやハクサイは,葉がみずみずしい栄養生長期に収穫する必要があるため,施肥は元肥に重点が置かれている。大規模栽培が多い高標高産地では,露地栽培可能期間が短く,毎作施肥する時間的,労力的ゆとりが少ないため,緩効性肥料を利用した二作分全量元肥一回施肥栽培が普及している。
レタス-ハクサイの連続栽培では,一作目に好スタートを切ることが二作通しての生産安定に直結する。それは,春先の気象条件により圃場が極端に乾燥あるいは湿潤であったり,残雪があったりすると,一作目の施肥-耕起-うね立て-マルチング-苗定植といった一連の作業が遅れ,収穫も遅れるからである。一作目の収穫遅延により,二作目作付までの期間が短くなり,労力の過度な集中を招いたり,二作目の栽培期間が後ろへずれ込むことによる収穫遅れ,小球や不結球の発生といった品質低下を引き起こす。
そこで,最も作業が集中する夏期の労力を軽減するとともに,気象条件の影響を受けやすい春先の作業分散をはかって苗の適期定植をも可能にするため,緩効性肥料として被覆複合肥料を利用して,作付前年秋に二作分の肥料を一回で施肥する方法(以下,前年二作一回施肥と略記)が実用可能かどうか,1988年から1994年まで6年間にわたり検討した。その結果,窒素溶出期間140日タイプの被覆NK化成肥料であるNKロング203-140を使用することにより,翌年一作目レタス-二作目ハクサイ連続栽培が可能となったのでレポートする。
当試験場内圃場(標高 740m)の表層腐植質黒ボク土。
1作目をレタス(ステディ,鶴田種苗),2作目をハクサイ(空海65,タキイ種苗)とし,いずれもペーパーポット育苗した。
この順序にした理由は,
①レタス収穫後の残存窒素をレタスより根域が広く窒素吸収量が多いハクサイに有効利用できること,
②ハクサイは春の早植えにより抽台の危険があること,
③レタスの春の定植期はハクサイより1ヶ月以上も早く,前年二作一回施肥による作期拡大が可能であること
による。栽植密度は,うね幅45cm,株間はレタス25cm,ハクサイ50cmとした。

前年二作一回施肥栽培は,作付前年秋に被覆複合肥料を使用して二作分の肥料を全量元肥で全面施用し,直ちにマルチングして越冬する。翌年春にマルチ上に植え穴を開けレタスを定植する。レタス収穫後マルチは除去せずに,マルチ上のレタス株間の中間部分に新たに植え穴を開けてハクサイを定植する。このとき,ハクサイは地上部がレタスより大きくなるので,レタス株跡2株おきに穴を開け定植する。
本栽培法の試験期間中の平均的耕種日は,レタス播種3月26日,定植4月21日,収穫6月17日,はくさい播種8月9日,定植8月19日,収穫10月16日であった。なお,レタスの作期前進のためには,マルチは地温が上昇しやすい透明あるいは黒や銀黒などの濃色マルチの効果が高いが,夏期の高温抑制とアブラムシの忌避をねらって白黒マルチ(表が白)を使用した。

被覆複合肥料は,被覆NK化成肥料であるNKロング203(20-0-13)の40,140,180,270日夕イプを供試した。肥料の緩効度については,既に普及している作付当年の二作一回施肥では,比較的溶出期間の短い緩効性肥料とスターター用速効性肥料とを組み合せて施用する場合が多い。
前年二作一回施肥では,施肥から作付までの期間が長いことを考慮し,溶出期間が中程度から長いものを供試した。二作分の施肥量は,窒素を基準とし,10a当り25,27,32.5kgで比較した。本県の高冷地におけるレタスとハクサイの標準的窒素施用量は,10a当りそれぞれ約10kg,約20kgであり,設定した窒素施用量はこれらの合計量に概ね相当する。
対照肥料には,速効性の化成肥料である燐硝安加里を用いた。なお,りん酸は過石または重焼りんで,カリは塩化カリで補正し,窒素と同量を施用した。このほか,10a当りおがくず鶏糞堆肥1t,炭酸苦土石灰100~200kg,土壌改良用りん酸は成分で10~20kg相当量を,施肥直前に全面施用した。
一斉調査により一試験区当り20株を供試し,外葉を取り除き出荷状態に調整したときの新鮮重の平均値を平均一球重とした。
マルチ下のうね山部分から,100ml容採土円筒により,深さ5cmでの土壌を一試験区当り5カ所採取,混合し,無機態窒素は,抽出-水蒸気蒸留法により測定した。
圃場埋設法により実施した。
試験期間中の年平均気温は10.4℃,レタス-ハクサイ作付期間(4~10月)では16.5℃であった。年間降水量は1,300mmであった。作付前年施肥・マルチングした後12~2月中旬までは,マルチ下地温は氷点下となり一日中ほぼ一定温度で推移し,土壌は凍結していた(図2)。

一作目の夏どりレタス収量(平均一球重)は,ロング40,140区ともに速効化成区を上回った。また,速効化成区は窒素施用量に応じて増収したが,ロング施用区では窒素25kg区と32.5kg区との差は小さかった。二作目秋どりハクサイ収量は,ロング140区が速効化成を上回ったが,ロング40区は下回った。また,いずれの試験区ともに,窒素25kg区と32.5kg区とで収量に大差なかった(表2)。

一方,ロング140より溶出期間が長いロング180と270との比較では,レタス,ハクサイともにロング140区の収量が最も高くなった(表3)。

ロング140,180,270区のアンモニア態窒素は,肥料間で大差なく乾土100g当り数mg程度で推移し,1~2月に最大に達したのち減少し,レタス作付前にはほとんど検出されなかった。また,ロング施用区の硝酸態窒素は,乾土100g当り10~20mgで推移し,3月中旬以降地温の上昇とともに増加した。
これに対し速効化成区では,アンモニア態及び硝酸態窒素のいずれも,ロング施用区よりかなり多い値で推移し,1月中旬に最大となった後急減した(図3)。

これらから,ロング施用区では,冬期間の窒素成分の溶出は抑制されているとみられ,窒素成分の損失は小さいと思われた。また,ロング140区では,レタス定植時の土壌中のアンモニア態と硝酸態窒素の合計量が,乾土100g当り20mg前後あるため,スターター窒素の不足によるレタス初期生育の遅延はないと考えられた。
他方,速効化成肥料区では窒素成分の多くがマルチ下土壌中の水の移動に伴って動いているとみられ,暖冬で冬に雨が多いような条件では,地下への浸透,溶脱が心配された。
圃場条件における供試ロングからの窒素溶出率は,その緩効度と対応していた。レタス,ハクサイともに良好な収量が得られたロング140区では,レタス定植時における窒素溶出率が約37%,ハクサイ定植時約80%,同収穫時90%以上であった(図4)。

なお,ロング140について窒素溶出率の年次変動を1988~1990年の3年間比較した結果,変動幅は大きくても約10%と概ね安定した溶出を示した。また,ロング140区のレタス-ハクサイ二作分の施肥窒素利用率は約75%であり,速効化成を使用した慣行二作二回施肥区の約71%より高かった(表4)。

前年二作一回施肥では,冬期無作付期間中の積雪によりマルチ下土壌が硬くなる心配があったため,その影響を調べた。積雪消失後,まず山中式土壌硬度計と大起式貫入土壌硬度計により測定を試みたが,土壌の硬度が小さ過ぎたため測定不能であった。そこで,マルチ下土壌の容積重の変化を調べた結果,積雪量が100cmまでは,容積重と積雪量との間に有意な差は認められなかった(表5)。

以上の結果から,ロング140を使用し,レタスとハクサイの窒素施用基準量の合計相当量を,りん酸質肥料とともに,作付前年秋に全量元肥施用した後マルチ被覆することにより,翌年一作目レタス-二作目ハクサイ連続栽培が可能であった。また,必然的に,マルチ資材使用量と施肥作業回数は,慣行二作二回施肥法の半分で済むため,労力の分散ができる。
本施肥法を実施するに当たっては,次の点に注意が必要である。
①レタス収穫作業中は,できるだけうねを踏まない。
②肥料成分の安定溶出のために,作付期間中,マルチ下土壌が乾燥しないよう管理する。
③レタス収穫後ハクサイ定植までの期間が長い場合は,除草が必要となる。
現在のところ,被覆肥料はその性質上価格が高いため,大規模露地栽培で全量被覆肥料を使用することは現実的に難しい。しかし,作物に対する施肥位置の見直しや,作物生育パターンに合った被覆肥料を選択することで,施肥効率を向上させ,収量を維持しながら施肥量を減らして,肥料経費を抑えることは可能であろう。
省力化ができることは,被覆肥料をはじめとする緩効性肥料の大きな特長の一つであり,それを活かすためにも今後は,肥料の開発だけでなく,その様々な使い方を工夫することも大切と思われる。