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第476号 1997(H9).09発行

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環境にやさしい水稲施肥法の確立

宮城県農業センター 土壌肥料部
総括研究員 中鉢 富夫

Ⅰ はじめに

 米を巡る情勢は市場原理の導入など,各種規制緩和の方向にあり,生産過程では環境にやさしく,生産物は安全で高品質,良食味,低コスト生産が課題となっている。そこで,被覆肥料を用いて,収量品質向上のための生育相改善,成分利用率向上,溶出時期調整による環境負荷軽減効果等を検討した。

Ⅱ 材料と試験研究方法

 農業センター内,細粒グライ土の圃場に表1の構成によりひとめぼれを作付けした。移植日は1994年は5月10日,1995と1996年は全層施肥区が5月9日,側条施肥区は5月11日である。また,対照肥料は塩加燐安284号基肥,NK化成C68号を追肥に用いた。燐酸,加里は1994,1996年はそれぞれ7.5,5.8kg/10a,1995年は全層施肥区,9.0,6.0kg,側条施肥区は7.5,5.8kgをPK化成で施用した。対照区の追肥時期は1994年は7月25日の減数分裂期に窒素成分で2kg,1995と1996年は7月19日と31日に窒素成分各1kgの2回追肥である。

Ⅲ 結果と考察

a 生育・収量

 1)生育経過及び成熟期生育量,収量等を表2,3に示した。

 成熟期稈長は施肥量や配合割合による傾向が明らかで,平均値ではLP区が対照区よりやや短めであるが,LPの増量区では年によって稈伸長が大きくなる傾向が見られた。

 50:50の配合は1996年のみであるが稈長は対照より短く,穂数はほぼ対照並み,籾数,収量は対照より優った。ただし,1996年は低温による初期生育抑制が大きかった年であり,平年気象では穂数,籾数過剰の懸念が残る。全体的にはLP区の穂数は対照区の約80%程度であった。

 2)LP区の収量は窒素6kg/10a施用でほぼ対照並み,それ以上では増収傾向となっている。しかし,増肥は後期稈伸長も大きくなる傾向なので,基肥窒素量は6kg程度として,LP40+LPS100を3:7に配合するのが良いと考えられた。籾数は全層施肥で㎡当たり2.5万粒,側条施肥では2.6万粒程度で,登熟歩合は92%程度を示した。

b 生育相

 図1はLP窒素6kg/10a施用区における,ひとめぼれ全層施肥区の茎数の推移である。初期の茎数増加は緩慢であるが,無効茎が著しく少なく,葉色は濃いめに経過し,稲体活力は成熟期まで維持されたと推定された。

 LP施用区の生育相は,慣行施肥法の場合と大きく異なる。その特徴は生育初期の草丈・茎数の増加が緩慢で中期の生育が旺盛になることである。成分溶出が温度の高低によって増減することから当然のことと言えるが,このことが収量構成要素や品質にどのような影響を及ぼすかを検討した。

 過去の結果からLP施用の場合は成熟期はやや遅れるが,籾数が取りやすいこと,籾数増加に対する登熟歩合の低下度合いが慣行施肥法に比べて小さいこと,等がわかっている。成熟期は窒素が遅効きする場合に遅れが大きくなりやすい。特にシグモイド型で100日型を多施用した場合は遅れが大きくなる傾向にある。

 したがって,溶出の長短を組み合わせて,後期の窒素量を少なくすると遅れは防止出来る。宮城の場合は,100日型は年によっては遅れが大きくなるが,量が少ない場合や60日型の場合は慣行施肥法の成熟期と殆ど変わらない。

 次に,籾数が取りやすいことと,籾数に対して登熟歩合が低下し難いこと等の要因として,①幼穂形成期から登熟中期まで稲体窒素濃度が高めに経過することが挙げられる。溶出特性を反映し,幼穂形成期頃までの窒素吸収はかなり緩慢であるが,以降は慣行施肥法より明らかに多いため,籾数が増加するものと思われる。また,登熟期の葉身窒素濃度も高く,活性(光合成能力)も高まるため登熟にも好影響を及ぼすと考えられる。

 第②点は登熟期の上位葉身の葉面積が増加することである。図2は9月上旬における上位3葉の各葉位別葉面積と3葉合計葉面積に対する各葉の割合である。LP区の止め葉と次葉は対照区に比べて明らかに葉面積が増加し,割合も高まっている。しかし,第3葉身は面積,割合とも対照より小さかった。従来は上位葉程小さく,ピラミット型が光の透過率が高く,理想とされているが,被覆尿素肥料,特にシグモイド型肥料の場合はこの理想型がくずれる傾向がある。

 第③点として,この葉面積と登熟の関係を検討した。図3は止め葉の葉面積と玄米千粒重の関係である。登熟の良否は登熟歩合の高低と玄米千粒重の大きさで判定できるが,止め葉又は第2葉の葉面積は玄米千粒重又は登熟歩合と正の相関を示した。ただし,葉面積と登熟歩合の関係は,千粒重との関係よりバラツキが大きく,千粒重も年次によってはバラツキがみられた。

 登熟歩合は全籾数に対する一定粒厚以上の粒数歩合なので,葉面積は登熟歩合より粒重(玄米千粒重)との相関が出やすいものと思われる。相関のバラツキは籾数や登熟期の気象に対する相対的葉身活性(窒素濃度など)等が影響しているものと考えられる。

図4は上位3葉身の合計葉面積に対する第3葉の葉面積割合と千籾当たり収量との関係である。年次により葉面積割合は差が大きいが,両年とも負の相関であった。従来,登熟期の下位葉は根に養分を供給し,登熟に好影響を与えるとしているが,どの程度の葉面積又は上位葉に対する割合が適当かは曖昧である。ピラミット型の葉身構成であれば下位葉の葉面積も大きくなるし,上位葉に対する葉面積割合も当然高くなる。

 しかし,そのような場合は,本試験の結果では登熟低下の傾向になった。登熟(千籾当たり収量)は籾数に対する葉位毎の葉面積や葉身活性等の総合的結果であり,品種,施肥法等が多様化している現在,窒素吸収時期や生育相も従来とは大きく変わってきており,それに伴う登熟向上理論も新たな構築が必要と考えられる。

c 窒素吸収と利用率

 LP区の窒素吸収量は対照に比べて,幼穂形成期頃までの吸収量が少なく,以降の吸収量は1.5倍程度に多かった。また,差し引き法による施肥窒素吸収量は多少バラツキはあるが,対照区で約40%,LPの6kg区で70%程度,8kgでは50%程度であった。

d 環境負荷軽減

 (1)田面水の窒素濃度の経過を表5に示した。

 被覆尿素区特にシグモイド型溶出肥料区の田面水の窒素濃度は代掻き3日後に僅かに高まる傾向にあるが,対照肥料に比べれば大幅に低く,殆ど無窒素並みの経過であった。

 (2)田植後20日,40日後頃の土壌溶液中窒素も対照肥料の1/3以下(表6)であり,窒素成分の系外流亡による環境負荷は明らかに少ない傾向が見られた。

Ⅳ おわりに

 環境にやさしい施肥法を確立するため,被覆尿素を用いた水稲栽培を試みた。

 シグモイド型溶出肥料区の生育は後期旺盛型となり,穂数は少なかったが,一穂籾数が確保され,慣行体系並みの収量が得られた。その要因は幼穂形成期以降窒素濃度が高く,登熟期の上位葉の葉面積が増加すると共に,葉身活性が成熟期まで高めに経過した結果,千籾当たり収量が向上したことによると考えられた。施肥窒素の利用率も著しく高く,慣行施肥体系に比べて15%程度の減肥が可能であった。また,代掻き後の田面水や田植40日後頃の土壌溶液中窒素濃度は無窒素並みであり,栽培系外に対する環境負荷は明らかに少なく,収量,品質を維持しながら,生産コストの低減と環境負荷軽減施肥体系が確立できた。

 今後は登熟期の葉面積や葉質と登熟の関係をさらに検討しながら,収量,食味品質向上の試験に取り組む。

 

 

生命にとって塩とは何か
-生物と塩との関係史-8

京都大学名誉教授
近畿大学農学部教授
高橋 英一

6 塩と農業

 人間の一次生産活動の中で,農業と水産業は環境中の塩分に対する見方は全く対照的である。陸上植物を対象に行われる農業では,環境中の塩分濃度の高いことは負要因としてみられる。塩類ストレスとか耐塩性という言葉はそれを物語っている。

 一方,目を海に転じると状況はすっかり変わる。海の中の動物性バイオマス(生物存在量)は約300億トンと推定されるが,これを年間延べ3000億トン以上の植物性バイオマスが養っている。海は地表の3分の2を占めているが,ここでは微小な植物プランクトンから巨大な海藻にいたるまで,莫大な量の植物が3パーセントの塩化ナトリウムを含んだ海水に適応して生活している。ところが今から4億年余り前に陸上へ進出してからの植物は,海にくらべれば大変脱塩的な環境に適応し,海水の10分の1程度の塩分にも耐えられぬものが多くなった。農業をはじめた人間が,栽培するようになった植物の大部分は,このような塩分に弱い植物であった。

塩類の集積と農業の衰退

 人間が農耕をはじめたのは1万年ほど前,西南アジアにおいてであろうといわれている。この地域には大河が流れ,日照にも恵まれ,農耕が容易であったためと思われる。やがて農耕は余剰の食糧をもたらすようになり,文明発達の基礎ができた。最初の文明は三つの地域,すなわちナイル川流域,チグリス・ユーフラテス川流域,インダス川流域に発達した。エジプト文明,メソポタミア文明およびインダス文明がそれである。

 紀元前3500年頃,シュメール人はユーフラテス川から分岐する大規模な灌がい水路工事をはじめた。バビロニア王国治下になると流域はさらに大規模に灌がいされた。この灌がい農業はその後2000年近くこの地域の文明を支えてきたが,ついに衰退するときがきた。それは民族間の闘争による荒廃という人為的な側面のほかに,灌がいがもたらした塩類集積による地力の荒廃という,自然的側面があった。

 チグリス,ユーフラテス川流域は雨は少ないが水資源に恵まれていたため,人間の力で灌がい水路をつくり,人為的に作物に水を供給することによって,当時としては高い生産性をあげることができた。灌がい農業は,文明の初期に現れた最もすぐれた技術の一つであったろう。

 しかし半乾燥地域の灌がい農業では,灌がい水路による水の供給とともに,排水路によって浸透水を取り除いてやることが必要である。灌がい水に含まれていた塩分とともに,表層土から溶出した塩分は地下水中にたまり,それは下降水より毛管上昇水が優越する場合,土壌表層へ集積するからである。しかし,このメソポタミアの教訓は必ずしも十分に生かされておらず,現在でもイラン,トルコ,インドのほか,北米のカナダ,アメリカにまたがる大平原,オーストラリア西部さらにはヨーロッパにおいても耕地の塩類化が進んでいる。今日,世界の総灌がい面積の10分の1に当たる約2100万ヘクタールは塩害によって生産性を低下させているといわれる。

 このように世界の各地で不適切な灌がいによって耕地の塩類化がおこり,それが農業の基盤をそこない農業を衰退にみちびく結果になっていることは昔も今も変わりがない。このことは雨に恵まれ,水田農業の伝統に育まれてきたわれわれは見過ごしがちであるが,世界的には深刻な問題である。

塩性環境の農業利用

 現在われわれは,増大する世界人口と土壌の塩類化や侵食の進行による既耕地の喪失との板挟みになっている。これを切り抜ける方法の一つは塩性環境の農業利用であろうが,それは大きくわけると二つの方向があると思われる。一つは在来の主要作物の耐塩性の強化であり,いま一つは塩生植物の作物化である。

耐塩性の強い作物の利用と育種

 既存の作物の中にも種類によって,また同じ種類でも品種によって,耐塩性にかなりのちがいがある。耐塩性の比較的強いものとしては穀類ではオオムギ,砂糖作物ではサトウダイコン,マメ科牧草ではアルファルファ,油糧作物ではベニバナ,維繊作物ではワタなどがあり,塩類化がそれほど進んでいない場合には,耐塩性の比較的強いこれらの作物をえらんで栽培するという方法がある。

 また品種間でもかなり耐塩性のちがいがみられるので,どうしてもつくりたい作物があるとき耐塩性の強い品種を選抜育種する努力がされる。たとえばフィリッピンの国際イネ研究所では耐塩性のイネの選抜が行われてきたし,シリアのアレッポにある国際乾燥地農業研究所でも耐塩性ムギの選抜が行われ,いずれも有望な品種の作出に成功している。しかし耐塩性は高くても,倒伏しやすかったり,病害虫に弱かったりして,実用普及の段階ではいろいろ問題があった。

塩生植物の利用

 これに対して現地の塩性環境にもともと適応している塩生植物の利用に関しては,つぎのような試験研究が行われている。

飼料としての利用

 塩生植物にはタンパク質含量などの栄養価,消化率や家畜の嗜好性からみて,飼料として適しているものは結構多い。アカザ科のホウキギ属の植物は,エジプトなど地中海沿岸諸国の塩性沼沢地に繁茂しているが,その飼料価値が注目されている。ただそのままでは食塩含量が高すぎるので,他の飼料とまぜて使用する必要がある。

食糧としての利用

 塩生植物の茎葉は塩分が高すぎることがしばしばあるが,そのような場合でも種子の塩分はかなり低い。イネ科の塩生植物のDistichlisという植物の種子を粉末にしたものは,コムギ粉に匹敵する品質であるという。ただ種子が小さく収量も少ないので,改良の必要がある。

製紙原料などへの利用

 エジプトには耐塩性のあるイグサが広く分布しており,その繊維は製紙原料やマット,ゴザなどの製造に利用されている。

医薬品原料としての利用

 塩生植物には特殊な成分を含んだものがある。紅樹林とも呼ばれているマングローブは,その色のもとになっているタンニンの採取に利用されている。またオカヒジキの一種はいろいろなアルカロイド,サポニン,タンニン,配糖体を含んでおり,虫下しや鎮痙剤などの原料として利用の可能性があるという。

燃料としての利用

 マングローブはまた薪あるいは炭の製造に利用される。

好塩性藻類の培養による有用物質の生産

 海産の緑藻の仲間にドナリエラという種類があるが,これは死海などの塩分濃度の非常に高い環境に生息している。ドナリエラの耐塩性の仕組みの特徴は,培地の塩類の浸透圧に対抗するために,体内に大量のグリセリンを蓄積することである。グリセリン含量は培地の食塩濃度に比例して上昇し,海水の10倍濃度の培地でグリセリン含量は乾物当たりで50パ一セントにまで達するので,採算のとれるグリセリン生産が可能である。条件として高い塩類濃度が必要であるが,それには今までかえりみられなかった塩湖が活用できる。

 なお,塩類土壌や海水を農業に利用しようとするとき,栽培対象になり得る植物の耐塩性としては,海水相当濃度の塩分に耐え得ることが一つの目安となる。何故ならこの場合,灌がい水として海水の利用が可能であるだけでなく,海水よりも塩分濃度の高い土壌でも,その塩分を海水で洗い去って栽培することができるからである。

 

 

施設栽培下の果菜類連作における
肥料の成分形態,随伴イオンが土壌,作物体ヘ及ぼす影響(2)

JA全農営農・技術センター
肥料研究部
部長 羽生 友治

3 考察

 野菜の窒素吸収と養分の蓄積との関係は,以下のように考えられる。植物体は窒素栄養源として主として根からアンモニア態窒素または硝酸態窒素を吸収する。一般に野菜は好硝酸性植物が多く42),硝酸態窒素を根から吸収し,硝酸還元酵素によってアンモニウムイオンに還元され,アミノ酸や核酸の構成物質となる。土壌中と逆の反応が起きていることになる。野菜類では硝酸態窒素が葉柄などの緑葉部に多く認められ,窒素分の蓄積形態といわれる16,17)。逆に,水稲はアンモニウムイオンを吸収し,アスパラギン酸として蓄積することはよく知られていることである。

 施設栽培下での連作による障害性はしばしば報告されているが,本試験は無機肥料の種類に焦点を当て,その特性の違いと問題点を明確にし,今後の解決方向を提案するつもりで取り組んだものである。以下,実施した試験項目に沿って考察をしてみる。

 熟畑化がすすむと土壌中に施用されたアンモニア態窒素は硝酸化成菌の作用によって速やかに硝酸態窒素へと変わる。しかし,前述したように硝酸化成菌は外的な環境に弱いため,アンモニア態窒素の形態のままで集積することがある。本試験で行った肥料塩の集積によるECの上昇やpHの低下,さらには土壌消毒による殺菌も条件の一つと思われる。

 また,土壌中に溶解する塩類の濃度が高すぎると浸透圧が上昇して作物根からの水分や養分の吸収を阻害し,植物体の萎凋や枯死を招くことも知られている33)。肥料塩の種類とEC,pHとの関係は藤沼ら9),米沢44)が詳細な実験をしており,小野ら28),R. E. Lucasら31)の栽培試験例がある。藤沼らの試験では,pHが硫安,塩安で大きく低下し,硝安で抑制される。ECは塩安や硝酸カリで高まり,硫安,硝安で低くなっている。小野は実際に抑制キュウリを用いて3作連用し,無硫酸根系列(本試験では硝安区に当る)は最も高収であったと述べている。

 本試験でもこれらの試験結果と同様に,随伴イオンを含む硫酸塩区,塩酸塩区ではpHの低下とECの上昇がみられている。藤沼らの試験とECの傾向がやや異なるのは作物の栽培による窒素の吸収が関与していることによる。pHは苦土石灰を施用しないと3作栽培後には1以上減少し,苦土石灰の施用で2作目以降上昇した。炭酸塩・硝石区,硝安区は苦土石灰無施用でもあまり低下しない。アンモニウム塩で施用した硫酸塩区,塩酸塩区の硫酸イオン,塩素イオンは酸根であり,アンモニア態窒素の硝酸化成と相乗的に作用して大きく低下したものと考えられる。

 米沢は有機質肥料によるpHの低下が小さいことを指摘しているが,有機質肥料には酸根となる肥料塩がないことや骨粉などのアルカリ性の肥料も含まれるためと考えられる。ECも同様に硫酸塩区,塩酸塩区で高まる傾向があり,肥料養分以外の余分な成分が施用されたことによる。2作目トマトで塩酸塩区が比較的低いのは生育不良のため相対的に潅水量が多くなり,土壌中に溶解した成分の下層への移動があったためと推定される。

 また,施設栽培で塩素イオンに比べ硫酸イオンを含む肥料が使用されるのは,前者は塩素イオン自体の有害性のほかに形成する塩の溶解度が一般的に高くなるが,硫酸イオンは土壌中で石膏など溶解度の低い塩を形成し,土壌溶液濃度が上昇せず障害が回避しやすいことによると考えられる。逆に,硫酸イオンの沈殿はEC測定による硝酸態窒素簡易測定の妨害要因になったり8),除塩し難くなるなどの性質を有する。また,土壌を固めたり,粒子間の孔隙を塞いで物理性を悪化させることも考えられる11)

 土壌溶液との関係でみれば池田ら13)や但野ら40)は塩化ナトリウムを添加し,その濃度と生育との関係をみている。金田20)はいちごの生育阻害と土壌溶液の浸透圧との関係を調べ,根の水分吸引圧は5.8bar,土壌溶液では2.8barが限界点であるとしている。また,嶋田35,36)は多肥施設土壌においては土嬢溶液濃度を上昇させ,石灰の吸収を阻害するとしている。同様に,加藤ら21)は土壌溶液中のアンモニア態窒素濃度が100ppmを超えると硝酸化成を抑制することを指摘し,このことがKやCaの吸収を阻害することになると指摘している。

 陽イオンと陰イオンとのバランスは岡島27)が指摘するように1:1の電気的中性を維持するための交換平衡の関係であり,本試験でも主要成分の分析結果であるが,総体的に見れば対応関係にあった。土壌溶液に関する研究は多く,その重要性は誰もが認めることである。しかし,作物の栄養分として成分構成を考えると硫酸イオンや塩素イオンは必ずしも多量に必要がない。その上,これらの対イオンとして存在するカルシウムイオンやマグネシウムイオンが養分として有効に働くとは考えられない。つまり作物体に吸収されたとしても,塩素イオンや硫酸イオンが同化されず,そのまま酸根として存在する限り,常に随伴陽イオンの中和のためだけに必要となるからである。

 また,2作目トマトでは塩酸塩区,3作目メロンでは硫酸塩区,塩酸塩区のpHの低下は著しく,石灰施用によって上昇した。この傾向は跡地土壌の分析結果と同様である。pHの上昇によって硝酸化成が促進されることも石灰施用の効果といえる。

 ECと無機の総イオン量との関係では総イオン量が2作目トマトで全処理区とも多かったが,とくに塩酸塩区を除き生育阻害は認められなかった。土壌溶液中の成分濃度は養液栽培での適性濃度に比べるとはるかに高い値となるが, 嶋田34)が指摘するように土壌中の分布状態は必ずしも均一ではなく,孔隙中にはかなり塩類濃度の薄い部分も含まれており,根は好適な場所を選んで伸びていくため濃度障害を起こさなかったと考えられる。

 本試験における作物の生育・収量との関係とこれらの土壌の化学的変化を関連付けてみる。メロン,トマト,メロン3作での生育状況では総じて塩酸塩区が劣り,硫酸塩区,炭酸塩・硝石区が続き,硝安区が最もよかった。塩酸塩区の生育抑制は1作目メロンでは硫酸塩区との差はないが,栽培回数が増えると目立った。

 2作目トマトでは土壌溶液濃度でみると総イオン量で10000ppm,塩素イオン濃度で5000ppmを超えており(第9図),逆に硝酸イオン濃度が他の区に比べ少なかった。土壌溶液から見ると高い塩素イオン濃度と硝酸化成が十分に進んでいないことが生育遅延の原因と考えられる。総イオン量(EC値に読み代えることができる)についても塩酸塩区は高く,生育に影響したと考えられる。

 3作目メロンでは基肥を控えたために全体的に土壌溶液濃度は低いが,塩酸塩区は硝酸イオンに対して塩素イオンの割合が大きく,トマトと同様の生育状況になった。平均交配日の違いはこの生育状況を表している。

 これらの生育状況が収量性にも現れている。1作目メロンの炭酸塩・硝石区は炭酸塩の施用で,土壌表面のpHが上昇し,とくに追肥時の窒素揮散が多かったため,窒素供給量が不足し1果重がやや劣ったものと推定される。また,2作目トマトの収量への影響は著しく,やや乾燥した土壌水分条件で栽培したため,肥料塩の違いが顕著に現れたと考えられる。

 トマトの尻腐れ果の発生要因を処理区ごとにみると,アンモニウムイオンとの関係が高かった。(15図)トマトの尻腐れ果の発生は石灰欠乏が原因であり,他の野菜類でも発生しやすいことが知られている22,23)。石灰欠乏は土壌中に多量に含まれて発生いてもしばしば発生する15)。石灰は植物体内を移動しにくいため,生育の盛んなところで発生しやすい。欠乏によって組織が壊死状態になるため商品性を台無しにする。水耕でおこなったトマトの石灰欠乏試験の例は多く,石灰欠乏区のほかに高塩類1,18)やアンモニア態窒素の施用で発生する10,12)。また,アンモニア態窒素を添加せず硝酸態窒素のみで試験すると改善される例もある29)

 本試験の場合にもアンモニアとの相関が高い結果となった。石灰欠乏要因の一つとして以下のことが考えられる。石塚ら14)や尾形26)ヘチマの発根と窒素の形態の関係の中でアンモニア態窒素は根がリグニン組成,硝酸態窒素はセルロース組成となるとしている。また,嶋田37)は根端より遠くなるとカルシウムの吸収が著しく減少し,理由としてズベリン化の進行と関係が深いとしている。また,P. Adamesら30)は高塩類下の水耕では根端部でも吸収減が著しいとしている。カルシウムはアポプラスチィックな吸収をするため,アンモニア態窒素を施用すると通路にコルク層が沈着し,通りにくくなる32)

 第2表1,2,3に2作目トマトの栽培終了時葉中および3作目メロンの葉,果実中の各成分の含有率を示したが,アンモニア態窒素で施用した処理区でカルシウム含有率が低いことがわかる。カリウム等の陽イオン間の拮抗作用の影響が考えられるが,このような吸収抑制作用が生じているかもしれない。

 このように土壌溶液で養分状態を診断する場合には,pH,ECや養分濃度だけでなく,アンモニア態窒素や随伴イオン量にも注目することも重要と考える。

 つぎに施用した肥料塩の違いと植物体内の水溶性無機イオンバランスについて検討する。作物体内の汁液は,常に陽イオンと陰イオンがバランスし,電気的な中性を維持していると考えられる。しかし,その構成イオンは主として根から吸収された無機イオンであるが,pHをバランスさせるためには有機酸が大きく関与していることが知られている2,6,19)。吸収された硝酸態窒素がアンモニアに還元される時にOHイオンを放出するため,その中和物質として有機酸が生成するものと考えられる24)

 本試験でも2作目トマト,3作目メロンで水溶性の主要無機イオンのイオンバランスを示したが,硝酸塩で施用した炭酸塩・硝石区及び硝安区で陽イオンの比率が大きくなっており,有機酸が多く含まれることを示唆している。塩酸塩区で陽イオン比率が相対的に小さいのは,同化量が少ないため植物体汁液中に多く残存し,有機酸が生成しにくい状況にあると考えられる。Kirkbyら7)が述べているように有機酸がカリウム等の陽イオンの代謝に関与しているとすると,このような状況はあまり好ましいことではない。塩素イオンを伴う塩類は溶解度が高く,イオン自体の有害性から植物体内の正常な代謝を阻害するので,土壌中だけでなく吸収後にも問題があると考えられる。

 また,3作目メロンの果実中のバランスでは相対的に塩素イオンが多いため,陰イオンの比率が高くなっている。このバランスを取るためポリアミド等の有機性の陽イオンの存在が考えられるが明確でない19)。硫酸塩区もやや陽イオン比率が高い傾向を示したが,硫酸イオンはアミノ酸の構成物である硫黄を含み,硝酸イオンと同様に還元,同化される。本試験では,硫酸塩無施用区でも一定量以上の硫酸イオンが植物体に含有されていた。

 このように,通常必要としない陰イオンが過剰に植物体内に多く存在することは,対応するカルシウム,マグネシウム,カリウムなどの陽イオンが有効に作用できなくなる可能性があり,その意味でも余分な随伴イオンを施用することは避けることが望ましい。

 次に,肥料塩の種類と微生物性へ与える影響をみる。試験区の微生物相にややバラツキがあったが,炭酸塩・硝石区,石灰施用により糸状菌が減少し,放線菌,細菌が増加した。この傾向はそのままA/F値,B/F値に影響した。石灰を施用でも同様の傾向であった。pHが硫酸塩区,塩酸塩区で低下し,石灰施用で上昇したことが相対的に細菌,放線菌数を増加させたためと考えられる41)。また,横山ら43)は塩化ナトリウムの添加で糸状菌が増え,放線菌,細菌数が減少するとしている。

 このように連用する肥料の種類の違いによって微生物相に変化が生じる。とくにpHの影響が大きく,中性付近に維持されることによって硝酸化成を促進し,好硝酸性作物の生育を健全にする。また,硝酸態窒素施肥によってハクサイやダイコンの萎黄病,ホウレンソウの根腐病が減少することが報告されている3,4,39)。2作目トマトではJ3が硝酸石灰のみを与えた炭酸塩・硝石区でのみ発生しなかった。放線菌,細菌相が相対的に増加した微生物相になることや硝酸態窒素が根を健全な状態に維持することもその理由の一つとも考えられる。

4 おわりに

 このように同じ無機質肥料とはいっても種類によっては土壌中の環境や植物体の代謝生理にも影響を与え得ることがわかった。さらに,これらの肥料が連用されることによって生理障害や土壌病害の発生にまで影響する可能性が示唆された。今後,さらにこの分野での研究が進展されることを望むものである。

 今回の試験は必ずしも厳密に精査された内容とは言い切れない。本稿で提起したいくつかの結論は十分な試験データを添えて,今後整理したい。最後に本試験での微生物性のデータは野口勝憲氏(片倉チッカリン筑波総合研究所)の協力により実施したもので,謝意を表します。

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