§ミミズは土の健康診断に有効か(1)
東北農業試験場 畑地利用部
上席研究官 中村 好男
§ケイ素の生物学-5-
京都大学名誉教授
高橋 英一
§和歌山県のウメ産地の現状と衰弱させない施肥のあり方を考える(1)
和歌山県立南部高等学校
教諭 谷口 充
東北農業試験場 畑地利用部
上席研究官 中村 好男
ミミズのいる土は良いか,ミミズがいると土は良くなるか。良いとは。ミミズは土の性質や肥沃度を判定する生物として有効か。どの種類が有効か。いずれも明確な回答はまだ先のことであろうが,これまでの資料から検討してみる。
ミミズなど土に棲む土壌動物は,土壌微生物とともに土壌生物として,土壌圏の固相(土)の有機物を構成する。多種多様な土壌動物は土壌圏の機能(生産・分解・調整)に対する寄与の内容にもとづき2大別される。
ミミズは古くから”自然の鍬”と称され,土壌環境形成動物群の代表であり,最近は生物調整としての大きな役割も解明されている。ミミズは土壌動物のなかで体が大きく,重量があり,さらに次の条件を具えることから,土の質の尺度として有望視されている。
1)多様な生態型(表1参照)をもち,厳しい環境とされる耕地でも生息すること。
2)土の3性質(化学・物理・生物性)改善への寄与が大きいこと。
3)計測(土からの分離や仕分けなど)が煩雑でないこと。
4)現場で計測あるいは推定が可能なこと。

なお土の質の善し悪しは,たんに短期的な収量の高低ではなく,土の健康度を表す。つまり健康な土とは,農業(経営)が短期的収益を追求するのではなく,永続的な食料生産という社会的要請に応えるものであるから,<無機有機成分が程良く,土壌圏の機能の正常な土>である。ミミズの存在は土の健康を保証する。
一般的に土壌動物の種類組成や密度は,林地→草地→耕地の順に組成が貧弱で,密度が低いとされるが,ミミズの密度は草地で高い。わが国のミミズ(小型類のヒメミミズ類を除く大型陸生類)は棲み場から4生態型(表1)に分かれる。ふつうツリミミズとフトミミズ類が混生し,草地はツリミミズ類が,畑地はフトミミズ類の密度が高いようである。
有機物分解は微生物が主体である,は言うまでもない。それにミミズを添加すると,ミミズは微生物の活動を高める働きもする。たとえば堆肥製造にミミズが関与すると分解速度が早まり,団粒率が増加したり,植物成長促進物質が添加されるなど,付加価値が増す。さらにリン酸・カルシウムなどの養分は,根に利用されやすい形態が多くなる(土に吸着し利用されにくいリン酸を,有効化するのに有望)。
またミミズ独自の活動として野外では,地上の枯葉や有機物を地下に持ち込む。そのさい開けた孔や,その孔に出したフン(団粒である)が,空気や水の流れを調整する。孔は微生物や小動物の住み家に,フンは餌となる。微生物を呑み込み,野菜などの根こぶ病や腐敗(病)を防ぐこともある。ときには体表<に微生物を付着しあるいはフンとして運び,根粒菌やVA菌などをばらまく。こうしてミミズが居ると土の物理・化学性が改善され,さらに豊かな生物性も形成され,土壌圏の機能の正常な土となる,すなわち土は良く<健康に>なる。
そのためポットにミミズを移入し作物を育てると,成長が良く(図1),収量が増加することもある。穀物・野菜・果樹・牧草類および樹木の苗などに効果があり,とくに牧草類の収量増加は著しい。

圃場でもミミズ数の増加は収量を増加させる。たとえばオーストラリアの大麦畑では麦茎重および穀物重が,また古くからミミズを人工的に移入しているニュージーランドの草地では年間草生産量が,それぞれミミズ重量増加とともに増加する。
わが国は優勢なミミズがこれらの国とは異なる。効果はあるか。酪農振興が叫ばれた1960年代に,北海道の草地で開発局が大規模なミミズ調査をした。その数値を検討したところ,草生時量とミミズの数や重量との間にほとんど相関がなかった(図2上)。

ところが表1にもとずいてミミズを,前述の2国で優勢な土壌(表層と下層)型のツリミミズ類のみとすると,草生産量とミミズの数や重量とも相関は正(r=0.50)であった(図2下)。ポット実験で,大豆(図1)や大麦に効果を示したわが国に優勢なフトミミズ類は,野外では効果が低いのであろうか。草に対して効果が低いのかもしれない。
図3は枠(10㎡,黒ボク土)にフトミミズを移入(100個体/10㎡)し,毎年大豆(夏作)と大麦(冬作)を栽培した5年後の生育状況である。ミミズ移入枠はミミズが棲息しやすいように作物残さで被覆し,無肥料とした。作物の生育はミミズ移入枠が良く,大麦の収量は耕起化成枠の160%,耕起稲藁堆肥枠の170%であった。

図4は三種類(褐色森林土,灰色低地土,黒ボク土)の土の枠(10㎡)に,耕起の有無と異なる肥料形態を5年間処理し,ミミズ数と団粒重量を計測した結果である。麦と大豆茎葉は完熟堆肥化して表面散布し,さらにその上に各材料で被覆した。

土壌の性質は,開始時に比べ,耕起区(化成肥料および稲藁堆肥)の三土壌ともpH値とP・K・Mg含量が低下し,Ca含量・気相率・EC値が上昇した。とくにMg含量低下が褐色森林土と黒ボク土で著しかった。無耕起区は三土壌間,作物間および土壌層位間で変化の様相が異なっていた。麦区で増加(上昇)したのは,pH値が黒ボク土,全窒素含量が3土壌の0~5cm層,K・Mg含量が褐色森林土と黒ボク土,Ca含量・液層・気相率・EC値が三土壌で,とくにCa含量が黒ボク土で増した。大豆区では麦区と似た変化であったが,変異幅が少なかった。
ミミズ数(とくにフトミミズ類)と団粒重量とも化成肥料,耕起区で少なく,無耕起条件で多い。とくに灰色低地土で耕起の有無の差異が著しかった。人工的に移入しなかったミミズが,土詰時から棲息していたのか,枠外から侵入したのか不明である。ミミズ(ツリミミズとフトミミズ類を含めた)数と団粒重量間には正の相関(r=0.83)が認められた(この団粒のすべてがミミズ由来とは考えにくいが)。ところが作物収量とは,夏作のスイートコーンがやや正(r=0.37),冬作のキャベツが負(r=0.39)であった。
図5は畑(黒ボク土)に,耕起の有無と異なる肥料形態を7年間処理し,ミミズ数と団粒重量を計測した結果である。ミミズ数は耕起の有無で大きく異なり,耕起では枯草単一区のみに少数のフトミミズ類が,無耕起では全区から採集された。とくに稲藁堆肥単一区は,堆肥とともに移入したと考えられるツリミミズ類のシマミミズが多く,桑条堆肥単一区はフトミミズ類が多かった。ミミズ数と団粒重量間の相関はわずかに正(r=0.48)であった。ところが大豆茎重とミミズ数間は高い正の相関(r=0..84)であった。

以上のごとく明確ではないが,ミミズ数増加→土壌性質変化(たとえば団粒量増加)→作物収量増加,という傾向はつかめた。やはりポットでの明確な効果を,野外で再現することは難しい。ミミズ効果は作物・土壌型あるいは移入種類で異なり,むしろ減収することもあるという。検討には栽培期間が短く,肥料成分への反応性の高い野菜を用いるなどの工夫も必要であろう。
(7月号へ続く)
京都大学名誉教授
高橋 英一
動物には骨格成分にシリカを利用するグループのあることを前回紹介しました。これらのグループの存在は原生動物と海綿動物に限られており,それ以上のより高等な動物には知られていません。それでは高等動物に対するケイ素の作用についてはどのような知見が得られているでしょうか。これには,固体のシリカ(SiO2)微粒子と水に溶けているケイ酸(H4SiO4)で作用が異なるので,二つに分けて紹介します。
シリカ微粒子には鉱物起源のものと生物起源のものとがあります。前者の作用としてはケイ肺症とアスベスト症が有名です。
石工や鉱夫のような鉱石を砕く仕事をする労働者の多くが,呼吸機能を害し,結核に感染し易いことは古くから知られていました。しかしこの職業病が,シリカの微粒子の吸入によることが指摘されたのは1915年でした。
一般に粉塵が肺に入ると組織に繊維増殖が起こりますが,石英のような結晶性シリカによって引き起こされる繊維増殖は,その量が多いだけでなく進行性であるという特徴があります。したがってケイ肺になって職場を辞めても病症が進み,戦前はもちろん戦後もしばらくの間,ケイ肺は労災病の大きな部分を占めていました。
ケイ肺症は次のようなフロセスで起こると考えられています。
肺胞注1)にある大食細胞がシリカ微粒子を取り込むと,細胞内のリソソームの膜が壊れ,分解酵素が漏れ出て大食細胞注2)は死にます。するとそれが刺激となって(おそらく何等かの因子が放出されて), 繊維芽細胞による膠原繊維の生成が起こり,繊維増殖が進行します。そしてそれは次第に太い膠原繊維になり,ついに結節(ケイ肺結節)を形成します。
この結節は肺胞内の血管の周りにできるため,血管は次第に圧迫され,しまいには血液が流れなくなります。また肺胞壁や小気管支も結節に圧迫されて肺気腫注3)を引き起こし,それらの結果肺機能に重大な障害をもたらします。
アスベスト(石綿)というのは加水ケイ酸塩の細い繊維状集合体に対する総称で,大きく分けて角閃石アスベストと蛇紋石アスベストの二つがあります。アスベストは屈曲性があり,また不燃性であるので,建築用や耐火,断熱材などとして広
く利用されていました注4)。
アスベスト症の最初の報告は,1907年にイギリスのアスベスト工場の労働者についてのものです。アスベスト粉塵も肺に繊維増殖を起こす作用があります。職業柄アスベストを吸入する機会の多い人は,肋膜の石灰沈着や気管支癌を引き起こし易いといわれていますが,その作用機作はよく分かっていません。最近アスベストは使用禁止になり,大気中の排出規制も強化されています。
以上の他にBiogenic Silicaすなわち生物起源のシリカについても,発癌牲が疑われています。後で述べるように,植物の中にはケイ素を集積するものがあり,とくにイネ科のものに多いですが,これらは広く集約的に栽培されるので問題になることがあります。
たとえばイランには食道癌が多発する地域がありますが,住民が食するパンに混じっているクサヨシ属(Phalaris)の植物のケイ酸質の毛(のぎ)が原因の一つではないかと疑われています。動物実験によると,それはハツカネズミに皮膚癌を引き起こします。ほかにも,穀物由来の繊維状シリカの食事への混入が原因と思われる食道癌の多発が,中国北部や南アフリカの地域で報告されています。またアメリカやインドのサトウキビ畑の労働者が,収穫時に大気中に飛散するシリカ繊維の吸入によって,アスベスト症類似の障害を受けるという報告もあります32)。
ヒ卜の血液には2ppm前後のケイ素が含まれています。この濃度はほぼ一定で,ケイ酸投与量を多くすると尿中のケイ酸濃度が高まります。飲料水や食物からのケイ酸は吸収されるが,それは腎臓によって尿中に排泄され,濃度が高まらないよう調節されているようです。
固体シリカは前述のように害作用のみであるのに対して,吸収されたケイ酸は脊椎動物の骨格の形成に必要であることが,Carlisleらによって1970年代に明らかにされました。そのためケイ素は動物の微量必須元素に加えられています。
シリカは微粉塵などとして環境中にどこにでも豊富に存在するので,無ケイ素で動物を飼育することは大変困難です。しかしCarlisleらはair filterをそなえた室内で,ケイ素をほとんど含まないプラスチック性の飼育器を使って,ケイ素含有量の極めてすくない食餌でヒヨコを育て,ケイ素欠乏症を発現させることに成功しました。
すなわち,食餌へのケイ酸(ケイ酸ナトリウム)添加の効果は1~2週間であらわれ,体重増にかなりの差(30~50%)が生じました(表3)。さらにケイ酸を与えられなかったグループは,写真1に見られるように骨格の発育が悪く,頭蓋骨は小さく奇形を呈しました33)。


軟骨はムコ多糖頭のグリコサミノグリカンに富んでいますが,ケイ酸はこの部分に多く,ケイ酸の欠如によって軟骨のグリコサミノグリカン含有量が減少することから,ケイ酸はグリコサミノグリカンの代謝に関係することが推察されました。またケイ酸欠如により膠原繊維のコラーゲン含有量が減少することを認め,これが頭蓋骨の奇形化の一因ではないかとしています。
骨化はビタミンDによって促進され,これが不足すると「くる病」になることが知られていますが,Carlisleはこれとは別個にケイ酸欠如によって骨化の妨げられることを,つぎのような実験結果から明らかにしました。
造骨細胞は骨生成の際,コラーゲンやグリコサミノグリカンなどの有機骨基質を合成しますが,骨化(有機骨基質へのリン酸カルシウムの沈積)がはじまる前の造骨細胞のミトコンドリアには,カルシウムとケイ酸が集積しています。骨組織中のこれらの含有量は骨化が進むにつれて増加しますが,ある時点を越えるとケイ酸の含有量は急激に低下し,カルシウムのみ高くなり,アパタイト(リン酸カルシウム)が出来上がるころには,ケイ酸は痕跡程度になっています。これらのことからケイ酸は骨生成の初期の段階で,重要な役割を果たしていることが分かります。
脊椎動物の骨の成分としてカルシウムとリンのほかにマグネシウムも含まれていることが見いだされ,さらに微量成分としてフッ素と亜鉛の関与も認められましたが,これに新たにケイ素が加わったわけです。
動物の体を構成している細胞は植物のような丈夫な細胞壁に囲まれておらずいわば裸であるので,接触したシリカの微粒子に反応しやすいと思われます。たとえばケイ肺症にみられるように,吸気とともに肺胞に入ったシリカ粉塵は,肺胞の隙間からリンパ管に入り,食細胞に取り込まれて繊維増殖を引き起こします。
一方溶存しているケイ酸は,ある種の原生動物や海綿動物に取り込まれ,体内でケイ酸質の骨格を形成します。この場合はエネルギーに依存したケイ酸の膜透過の仕組みが関係しており,つぎに述べるケイ藻のシリカ殻形成と似たところがあります。ニワトリのヒナの骨形成にみられるケイ素の役割も,造骨細胞に取り込まれたケイ酸が,有機性の骨基質であるコラーゲンやグリコサミノグリカンの合成を促進することによっています。
このように動物細胞は植物よりもシリカに対して敏感なところがありますが,この違いは一つには細胞壁の有無が関係しているように思われます。
29)佐野辰雄:珪肺と塵肺,労働の科学,VOL.10(1955)
30)日本化学会訳編:微量元素-栄養と毒性-409頁,丸善(1975)
31)Asbestos, National Academy of Science,USA(1971)
32)C. O’Neill et al:Silica and oesophageal cancer, in Silicon biochemistry p.214,John Wiley & Sons(1986)
33)E. M. Carlisle:Silicon in bone formation,文献6)のpp.69-94
注1)肺胞:気管支末端の膨らみで,ガス交換の行われるところ
注2)大食細胞:異物を捕食消化するアメーバー状の細胞,マクロファージともいう
注3)肺気腫:肺組織が弾力性を失って呼吸が十分にできず,肺が異常に膨らむ症状
注4)アスベスト:すでに石器時代に,焼き物をつくる際,粘土を強化するために使ったといわれている。ギリシャ・ローマ時代には,その燃えない性質のために,魔法の物質として衣服に縫いこまれたりして重宝された。近代になるとアスベストは産業にとって欠かせないものとなり,1970年代末には全世界で年間600万トンを越えるアスベストが生産された。(アン・ナダカブレン著,岡本悦司訳:地球環境と人間より)
和歌山県立南部高等学校
教諭 谷口 充
※「産地では収穫作業の省力化が進み,漬け梅主体型のネット収穫が主流になり,収穫期が遅れる上に自然環境の変化等も手伝って礼肥(元肥)のタイミングがずれてウメが衰弱傾向にある。これらの作業体系に対応出来る肥培管理など,ウメの生理を考えた合理的な施肥のあり方を探って見た。」
梅は果樹の中でもローカル品種として取り扱われ,近年全国的に栽培気運が高まり,全国総生産量は農林水産統計情報資料(平成9年産)によると136,200トンの生産があり,これまでの最高を記録している。
産地は全国津々浦々にある中で和歌山県の南部・田辺・西牟婁地方が集団産地として最も大きく,全国の50%余りのシェアを占める。平成9年は全国的に大豊作となり,和歌山県ではこれ迄にない史上最高の75,800トンの生産量が記録された。
梅は早春に花を咲かせ,早くも6月に収穫期を迎え,遅くても7月上旬には収穫を終える。
梅栽培では収穫労力に占める割合が最も高く,剪定等の管理作業を含め11月から収穫期の7月上旬までに労力が集中している。
農業は労働を資本とするが,特に梅栽培において労力が収穫期に集中するところが規模拡大を困難にしている。
一方,梅の需要も加工業者の製品開発が購買力を支え,消費面では健康食品ブームにも支えられ,梅干しの効用が消費者に認識されて需要が好調に推移している。
産地では収益率の高い果樹として受けとめられ,新規就農者数も割合多く,他の作目部門の産地よりも若い後継者が居ることは頼もしい。
ここに来て産地の梅栽培も,大気汚染や温暖化などを自然環境の中で,ウメの生育生理に影響をもたらし,ウメ樹を衰弱させ,ウメ枯れまで引き起こす事例が増え,経営が危うい状況に追い込まれている園地も少なくない。
ここでは現状の栽培管理作業の組立を点検すると共に,変貌する栽培環境を踏まえ,ウメの生理に合わせた肥培管理のあり方を中心に考えてみたい。ひいては大気汚染や環境の変化にも対応出来る栽培管理に繋がるポイントが見えて来れば幸いである。
青梅収穫では熟度88%~92%程度の若取りをするが,漬け梅の場合は樹上で黄熟を待って落果したものをネット上で毎日拾い集める収穫方法が定着し,完熟果の収穫に切り替える農家が多く,樹冠下に敷設するネット収穫が主流になって来ている。
このようにネット収穫は収穫期の延長と能率的に集荷出来る点で省力化がはかれる(写真1・2)。


この場合,樹上で完熟を待つことで熟度は一定になり,果皮も薄く減酸はやや進むが糖度も高くなり,果肉内容も充実して品質の向上や収量増える等,漬け梅加工面から見ればメリットは確かにある。
しかし,反面デメリットも大きく,肝心の樹勢の維持を考えると,収穫が遅れる上に,ウメにとことん働かせることで,当然,衰弱に繋がり樹体生理から見ると痛手は大きい。
このことから,収穫時期が延伸する上,ネットの撤収に時間がかかり,肝心の礼肥(元肥)の施用が遅れがちで,ウメ樹が要求する樹勢回復の時期を失している事に気付かねばならない。
ウメの気持ちでは収穫前の6月上・中旬に施肥して栄養補給を行い,収穫と平行しながら成熟中も肥効が現れて樹の負担を軽くする収穫方法と肥培管理が理想で,遅くても6月下旬迄に収穫を終らせ,収穫終期に肥効が高まり,梅雨明け迄に樹勢の回復をはかることが大切になる。
近年,気候が変化して梅雨期が旱魃であったり,降水量が極端に少ない年が続き(表1),こうした水分ストレスの累積と,さらに年間を通しての小雨傾向にあったことが,大気汚染による酸性雨等の影響を強く受け,衰弱を益々助長してきたものと言えよう。

産地の主品種「南高」は多収性品種であるだけに樹体には過酷な負担を強いられる。
結実が多くなれば樹体の消耗が激しい事は言う迄もない。永年性作物であるだけに,こうした樹体への負担は連年重ねて担う事になる。もともと産地の痩せた土壌基盤と近年の厳しい自然環境条件(大気汚染・旱魃傾向)から樹勢の低下は避けられず,生育不良を引き起こし,図1に示すように衰弱して枯れる樹も出て,産地では大きな問題になっている。

このような産地情勢の中で,一度衰弱すると回復しにくい品種特性を持つ梅だけに,樹体消耗の激しいネット収穫は省力化および増収には貢献しているものの樹勢回復の手だてが出来ず,これに対応出来る安定生産に繋がる対策に迫られている。
※「紀南地域の土壌基盤は痩せている上に,自然環境条件の変化や大気汚染に弱いウメ樹の実態に迫る。」
産地の土壌は四万十川累帯の第3期層に属し,しかも6,000万年前に出来た若い土層として知られ,主産地の大部分は音無川亜層群の瓜谷累層に属し,この他請川・牟婁亜層群,鉛山層群等の複雑な地層分布の地域から成り立ち,一部に地核の変動で海底の土壌と入れ代わった礫質の海成洪積層の地域も含まれ,いずれの土層も風化が進んでいない上に鉱物資源に乏しく,図2に示すように瓜谷累層(土壌成分がアンバランスに含まれる)の地域に主産地が形成されていることが衰弱に拍車をかけている。

江戸時代この地域は作物の育ちも悪く,篠竹や梅しか育たなかった土地柄,生産が上がらず百姓は生活にも困る状況にあった。
当時の田辺藩主安藤直次は,百姓の生活を守るために独自の「おふれ」を出し,梅を免祖として生活の糧に梅を植えることを奨励し,百姓の生活を保護する施策が講じられた。
このようにして今日ある梅産地の基盤が,その当時に出来たもので,劣悪な土壌基盤の上に梅栽培が行われていると言うことが歴史的背景からも伺えよう。
痩せ地は作物にとって栄養生長を抑制して生殖生長に傾きやすいで,当時の品種でも土地柄から結実性を促進していたもので,ウメを導入してきた時代背景は納得出来よう。
梅はバラ科の桜属に属し,産地の山野に自生する山桜と近縁である。梅産地に分布する山桜も,ここ10年前から早期(夏季の乾燥時期に入ると)に落葉する樹が現れ,大方の地域で山桜は衰弱傾向にある。海岸線より直線距離にして5~6km以内は,かろうじてその姿を確認出来るが,それより奥地の中山間地では,平成3~4年頃からその姿は見かけない。このように早い時期に姿を消している現状は環境汚染の侵こうを物語っている。
しかし,同じ日高郡でもそれより奥地の寒川や龍神・護摩壇山では,桜は元気に生育してる現状があり,気流の停滞等で大気汚染の影響を強く受けやすい地域(降雨の度に霧が立ち込める)と,受けにくい地域に別れるが,紀南の梅産地の大部分は,こうした大気汚染の影響を受けやすい地域に分布している。
(7月号へ続く)