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第496号 1999(H11).06発行

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春ハクサイ+スイートコーンにおけるワンショット施肥

鹿児島県農業試験場大隈支場 園芸研究室
研究員 池澤 和広

1.はじめに

 本県の冬季温暖な気候を利用しての春ハクサイの栽培は,秋冬ハクサイの終盤となる3月中旬頃から収穫が始まり,品質もよく価格も安定している。

 また,同時期にスイートコーンの栽培も可能で,トンネル,ハウス栽培が2月中旬,露地栽培が3月下旬から播種され,収穫が5月下旬頃始まる早出しも行われている。

 そこで,この春ハクサイとスイートコーンを組み合わせた栽培技術を確立した。コスト削減と環境負荷低減を念頭に,これまで本誌でも紹介された長野県中信農試のレタス+ハクサイ,秋田県農試のソラマメ+ブロッコリーの2作1回施肥を参考に,春ハクサイとスイートコーンの肥料を1作目春ハクサイ施肥時に全量施用することで収量にどのような影響を及ぼすか検討したので紹介する。

2.試験方法

1)試験場所

 鹿児島県農業試験場大隅支場圃場(厚層多腐植質黒ボク土)

2)供試作物

 1作目:ハクサイ(鮮黄:協和)
 2作目:スイートコーン(カクテル90L:タキイ)

3)耕種概要

 ハクサイは13℃以下の低温に一定期間遭遇すると花芽分化し,やがて抽台する生態特性をもっている。本作型はその最も危険な時期にあたり,花芽分化,抽台を避けるために電熱温床育苗する必要がある。そこで,1作目ハクサイの播種は,1998年1月16日(50穴セルトレイ)に行い,最低夜温14℃設定の電熱温床育苗で行った。定植は苗齢7枚前後になった1998年2月16日に行い,収穫は1998年4月16日に行った。

 2作目スイートコーンの播種は,1998年4月17日,収穫は1998年7月2~9日に行った。

 ハクサイの栽植様式は,畦幅130cm,株間40cm,条間40cmの2条千鳥植え(385株/a)とし,スイートコーンはハクサイ株間の中間部分に播種した。

4)作業手順

 この時期のトンネル栽培では,定植の1週間程度前にマルチング,トンネル被覆を行い,地温を高めて定植後の活着を促進させるのがポイントである。そこで,1998年2月5日に,⑥ハクサイ1作施肥区はCDU化成をa当たり窒素成分で2.5kg,牛ふん堆肥を1.9kgの合計4.4kgを全面施用した。

 2作1回施肥区は,LP70およびLPS80をa当たり窒素成分で2.1kg,CDU化成1.5kgの合計3.6kgを全面施用した2つの区(①LP70,②LPS80),LP70およびLPS80をa当たり窒素成分で1.3kg,CDU化成1.4kgの計2.7kgと牛ふん堆肥1.8kgの合計4.5kgを全面施用した2つの区(③LP70+牛ふん堆肥,④LPS80+牛ふん堆肥)のあわせて4区とした。

 2作1回施肥栽培のリン酸とカリウムについて,①LP70区,②LPS80区は過燐酸石灰,塩化加里で,窒素成分にあわせ施用した。また,③LP70+牛ふん堆肥区,④LPS80+牛ふん堆肥区は牛ふん堆肥中に含まれるリン酸,カリウムを考慮して,施用しなかった。

 施肥後直ちに耕転,作畦,マルチング,トンネル被覆した。

 ハクサイ収穫後,対照区(⑤2回施肥)はハクサイ外葉を持ち出し,マルチを除去して,スイートコーン栽培用肥料CDU化成をa当たり窒素成分で2.0kg全面施用し,耕転,作畦,マルチングした(表1,図1)。また,2作1回施肥区は,外葉を持ち出しただけで特に何も行わず,対照区と同時にハクサイ株間の中間部分にスイートコーンを播種した。

5)調査方法

(1)生育,収量および品質

 ハクサイは一斉収穫により1試験区当たり20株の2反復,計40株を供試し,全重と外葉を取り除いた結球を調査した。

 スイートコーンはハクサイ同様の供試数で,時期別の雄穂長の推移と,雌穂については,収穫適期に達したものから順に間引き収穫で調査した。

(2)養分含有率,吸収量

 ハクサイは一斉収穫時に,スイートコーンの雌穂は収穫最盛期に,茎葉は収穫終了時に行った。

3.結果および考察

1)生育,収量

 ハクサイの収量をみると,2作1回施肥した区の全重,結球重は,対照区より重く,十分な収量性が認められた。このことから,今回供試した肥効調節型肥料,牛ふん堆肥の併用およびこれらの施肥量,堆肥の施用量で十分であることを認めた。

 まず,2作1回施肥したなかでは,LP70の全重,結球重が最も重かった。さらに,LP70の施肥量を少なくし,牛ふん堆肥を併用した場合には,やや収量が減少する傾向が認められた。これらのことから,初期溶出型肥料の施用量が多いほどハクサイの収量は増加することがうかがえた(図2)。

 一方,スイートコーンの生育を雄穂長でみると,対照区とLPS80+堆肥区が常に長く推移し,LP70区は逆の傾向を認めた(図3)。このLP70は1作目のハクサイ栽培期間中に窒素が多く溶出したため,2作目のスイートコーンにはやや不足したのではないかと考えられた。また,LPS80のように後期溶出タイプのものや,牛ふん堆肥のように溶出期間が長いものについては,このスイートコーン栽培期間中でも連続的に窒素が放出され,それがスイートコーンの生育に反映したものと推察される。

 また,スイートコーンで最も収量に影響する裸雌穂重量は,2作1回施肥のどの区も対照区を上回ることはできなかった。2作1回施肥した区のなかでは,LPS80+堆肥区が最も重く,雄穂長と同様の傾向が認められた(表2)。このことから,溶出パターンのより遅いものの施肥,あるいは牛ふん堆肥を併用することによって,収量が増加することがうかがえた。

 以上,ハクサイ,スイートコーンの収量からみて,LPS80のような後期溶出型肥料と牛ふん堆肥を併用し,今回よりやや施用量を多くすることによって,対照区並の収量を維持する可能性が示唆された。

2)養分含有率および吸収量

 ハクサイ収穫時の全窒素含有率をみると,外葉では,LP70+堆肥区が最も高かったものの,結球では,大きな差は認められなかった(図4)。

 スイートコーンの茎葉においては,2作1回施肥区の全窒素含有率は対照区より低かった。また,茎葉,裸雌穂ともに,LP70区よりLPS80区,LP70+堆肥区よりLPS80+堆肥区が全窒素含有率は高かった(図5)。これはLPS80や牛ふん堆肥からの養分が連続的に溶出し,それがスイートコーンの養分吸収特性と合致したものと考えられる。

 次に全窒素吸収量をみると,ハクサイでは2作1回施肥区のなかでLPS80区が最も多かった(図6)。スイートコーンでは,2作1回施肥区が対照区を全て下回ったものの,LPS80,牛ふん堆肥と施用することで吸収量が増加した(図7)。

 さらに,ハクサイ,スイートコーンの全窒素合計吸収量は,2作1回施肥区のなかでみると,溶出が遅くなるほど多くなる傾向がうかがえた(図8)。

3)跡地土壌の無機態窒素および全窒素含量

 土壌中の硝酸態窒素含量は,ハクサイ,スイートコーンともに溶出の遅い肥料ほど多くなる傾向が認められた。また,牛ふん堆肥を施用することで,ハクサイ跡では多くなり,スイートコーン跡では,逆の傾向を認めた(表3)。

 つまり,ハクサイでは溶出の速いものほど多く吸収され,スイートコーンでは,これとは全く逆の傾向がうかがえた。

4.おわりに

 春どりハクサイ+スイートコーンの栽培体系確立のため,2作1回施肥が生育,収量に及ぼす影響について検討した結果,シグモイドタイプのLPS80程度の肥効調節型肥料を牛ふん堆肥と併用することで,2回施肥と同等の収量を得る可能性を見いだせた。

 今回の栽培技術が確立すると,施肥労力とマルチ資材使用量が半分で済み,さらに減肥することで環境保全型農業にもつながると考える。

 

 

ケイ素の生物学-6-

京都大学名誉教授
高橋 英一

藻類とケイ素
ケイ素を濃縮するケイ藻

 動物には無機の骨格成分としてシリカを用いるものとカルシウム塩を用いるものの二つの系統があることを前に紹介しました。その中でシリカを骨格成分にしているのは,海棲の原生動物と海綿動物のあるものに限られていました。それでは藻類ではどうでしょうか。

 藻類は緑藻,褐藻,黄金藻,紅藻など色で大別されることが多いですが,この色は光合成に関連する色素の組成の特徴を反映しています。これらの中,黄金藻に近緑のケイ藻はケイ酸を集積することで有名です。一方カルシウムを集積するものとしては,紅藻の仲間のサンゴ藻があります。サンゴ藻は腔腸(刺胞)動物のサンゴ虫とともに,南海の珊瑚礁の形成に一役かっています。またケイ藻と同様黄金藻近緑のハプト藻は,ケイ酸ではなくカルシウムを集積します。このように藻類にもケイ酸を集積するものとカルシウムを集積するものとの二つのタイプがあります。

ケイ藻の形態の特徴34)35)

 ケイ藻は細胞一個からなる顕微鏡的な単細胞藻類ですが,蓋をした弁当箱のようなユニークな形態をしています。図10にみられるように細胞はケイ酸質(SiO2・nH2O)の外蓋(上殻)と内蓋(下殻)に包まれ,内部には大きな液胞とそれと細胞壁に挟まれて,細胞質,核,葉緑体,ミトコンドリア,ゴルジ一体などが存在しています。

image-32

 殻の上面と下面のケイ酸質は厚く,沢山の細孔があいていて複雑な模様を呈しています。この模様は種によってきまっているので,分類に使われます(写真2)。殻の重なり合っているところ(環帯)はケイ酸質が薄く,模様も少なくなっています。

 ケイ藻は分裂によって増殖します。ケイ藻の英名のDiatomには「二つに分裂する」という意味があります。すなわちまず環帯付近から細胞質の中心へ向かって細胞膜が陥入し,これと平行して核の分裂が起こり,それが終わる頃細胞膜による仕切が完了します。こうしてできた娘細胞の新しい細胞膜の内側にシリカの集積が起こり,新しい下殻ができます。つまり娘細胞の上殻は常に親細胞のもの,下殻は新しくつくられたものということになります。

 ケイ藻は外形と殻の模様から,大きく中心型ケイ藻と羽状型ケイ藻に分けられます。中心型は殻がほぼ円形で,中心から放射状に派生する模様があり,羽状型は楕円形で殻の長軸に対してほぼ直角に線状に伸びる模様があります。またケイ藻の外側は透明なゼリー状の物質で包まれており,これが厚いものは細胞が分裂しても分離せず,群体をつくります。

 たとえば羽状型のイカダケイソウは数十個の細長い細胞が平行に並んで群体をつくっていますが,細胞が互いに周期的な滑り運動するので,群体は伸びたり縮んだりします。こうして水底を滑走運動しますが,その様がイカダに似ているので,この名があります。

ケイ藻のシリ力被殻の形成34)35)36)

 海水のケイ素(Si)濃度は1~3ppmです。ー方海棲のケイ藻のケイ素濃度(乾物当たり)は10~30パーセントにのぼります。つまりケイ藻は海水中にとけているケイ素を十万倍に濃縮しているわけです。しかもそれで種によって特徴のある模様をもったシリカ被殻をつくります。このことは被殻形成が遺伝的制御のもとに行われていることを示唆しています。これは生物学的に興味ある現象ですが,現在までに明らかにされている大要を紹介すると次のようです。

 海水に溶存しているケイ酸(H4SiO4)の吸収濃縮は,シリカレンマというケイ藻特有の膜組織中で行われます。このシリカレンマはつぎのようにしてつくられることが,電子顕微鏡によって観察されています。

 図11に示すように,細胞内のゴルジ一体周辺から小胞が遊離され,細胞分裂によって形成された娘細胞の細胞膜の方へ移動して平面に並び,互いに融合して偏平な袋をつくります。この袋の膜がシリカレンマで,これを通して内部にケイ酸の集積が起こります。この集積は均質に起こるのではなく,多くの孔があり,その配列によって写真2に例示したように,ケイ藻の種類によって特徴のある模様を形成します。このようなケイ酸集積を行わせる情報源がどこにあり,どのように伝えられるのかはまだよく分かっていません。そして新しい細胞膜が細胞質とシリカレンマの間に形成され,シリカ被殻は出来上がります。

 ケイ藻のケイ酸集積にはエネルギーが必要で,呼吸,解糖,酸化的リン酸化反応の阻害剤によってケイ酸の吸収は阻害されます。一方ケイ酸の供給を断って欠乏状態においた細胞にケイ酸を与えると,呼吸の増加が見られます。またある種のケイ藻からとりだされた膜系のATPaseが,ケイ酸で活性化されることが見いだされています。一方ミトコンドリアのATPaseにはこのような性質はないので,この見いだされたATPaseはケイ酸が膜を通って取り込まれる機構に関係していると思われます。

トレーサーによるケイ素集積機構の研究36)

 ケイ酸がシリカレンマを通って内部に集積されるしくみを詳しく調べるために,ケイ素の放射性同位元素 31Si がトレーサーとして用いられました。しかし 31Si の半減期はわずか三時間足らず(156分)で,利用に不便でした。ところがケイ素の同族元素であるゲルマニウム,かつてメンデレーフがエカケイ素(第二のケイ素の意)として存在を予言したケイ素に化学的性質のよく似た元素が,ケイ藻の吸収においてケイ素と全く同じ行動をとることが分かりました。しかもゲルマニウムには長寿命(半減期282日)の 68Ge があります。もっともゲルマニウムは多量に吸収されると,ケイ素と違って害作用を呈します。しかし微量ならケイ素の代替トレーサーとして十分利用できます。

 これらのトレーサーを利用した研究で次のような知見が得られています。

ⅰ)シリカレンマの表面にはケイ素結合部位がある。
ⅱ)シリカレンマにはNa⁺/K⁺ATPアーゼがあり,これによって形成されたナトリウムの勾配によって,ケイ素はナトリウムとともに膜を通って内部に共輸送される(Si-Na symport)。これは小腸内壁から糖やアミノ酸がナトリウムと共に取り込まれるしくみに似ている。
ⅲ)ケイ素が膜を通過するときの形態は明かではないが,担体(ionophore)の存在の可能性がある。
ⅳ)ケイ素の取り込み速度パターンにはピークがあり,細胞分裂の周期と同調している。これには特殊なタンパク合成が関係しているらしい。

 このようなしくみでシリカレンマ中のケイ酸濃度が高まると(3.5mM以上),重合(autopolycondensation)が起こり,無定形の加水シリカ(SiO2・nH2O)が生じ,シリカ被殻が形成されます。しかし重合は一様に起こるのではなく,種によって特徴のある模様を示すので,単なる化学的重合ではなく,何らかの鋳型が存在している可能性があります。

 生物によるケイ素の集積(biomineralization)の研究はケイ藻が最も進んでいますが,まだまだ解明されるべきことが残されています。

参考文献

34) 巖佐耕三:珪藻の生物学,6-27頁,東京大学出版会(1976)

35)R. M. Crawford:The siliceous components of the diatom cell wall and their morphological variation,文献6)のpp.129-156

36)C. W. Sullivan:Silicification by diatom,文献9)のpp.59-89

 

 

中山間地域における日射量分布推定とその活用

富山県林業技術センター 林業試験場
主任研究員 中井 正樹
(前 富山県農業技術センタ一 山村特産指導所)

1.はじめに

 中山間地域における農業においては,市場からの距離が遠いこと等による販売上の不利な点もさることながら,急傾斜,低日照条件等の生産環境上の不利な点が産地形成を抑制する要因となっている。このため,品目によっては,収量性が低くなるばかりでなく,圃場条件が急傾斜かつ小区画であるため,大型機械の搬入が困難で,規模拡大も容易ではない。

 しかし,複雑地形地であるために多様な気象環境が存在し,多様な日射量・温度分布を活かした品目の導入により有利な生産が展開されている産地もみられる。

 このように当該地域における多様な自然環境を活用し栽培に応用するため,日射量の分布をメッシュ毎に推定し,適する品目を選定することは,中山間地域の産地形成において重要な方法の1つである。そこで250mメッシュの日射量の分布推定を行うとともに,山菜類を中心とした栽培適地の判定を試みた。

2.250mメッシュ日射量推定モデル

1)本モデルの特徴

 国土数値情報等を活用した250mメッシュの日射量分布の推定方法の基礎は,黒瀬ら(1991)により確立されており,筆者も実測値との比較を行いその精度の高さを検証した(図1)。

 本モデルの特徴は,①国土数値情報を利用することから全国に適用できる,②メッシュサイズが250mであるため地形が複雑な地域に適している,③周囲の地形が直達日射を遮蔽する効果及び散乱日射が天空率に依存する現象を考慮して日射量を推定する点にある。

2)日射量推定手法の概要

 ある1地点から,太陽を観測する場合,観測日時,経度,緯度がわかれば,太陽の位置を算出することが可能である(図2)。

 また,観測地点から,その日時の太陽の方向に遮蔽物(山等)が存在するかどうかがわかれば,太陽から直射日光があるかどうかもわかる。

 このように,太陽の位置とそれを遮蔽する地形の効果を250mメッシュで囲まれたメッシュ面ごとに計算し,各メッシュの全天日射量を推定しようというのが,本手法の概要である。

(1)250mメッシュ日射量推定手法の概要
(ア)全天日射量の計算モデル

 全天日射量(Rs)は,次①式により3つの成分に分解できる。

 全天日射量(Rs)=直達日射量(Q)+散乱日射量(q)+反射日射…①
 ・直達日射量:太陽光線そのものの日射量(測定は難しい)*。
 ・散乱日射量:主に雲による直射日光の散乱によって地表面に入射する日射量。
 ・反射日射量:植物,地表面,雪などにより反射されるもの。通常,雪以外は無視できるほど小さい。
  * 遮蔽バンドを付けた日射計を用い,散乱日射量のみを測定し,全天日射計の測定値から散乱日射を引いて求める方法が一般的である。

 全天日射量の推定モデルでは,10分刻みの地形と太陽との相対的関係を基にして,地形の陰が生じているか否かを判定し,直達成分を求めた。また,天空面積(周辺地形によって遮蔽されない空の部分の面積)を関数とした経験式を用いて散乱成分を求めた。

 このように,地形による遮蔽により変動する直達成分(Q)と散乱成分(q)の各数値がわかれば,全天日射量が推定可能となる。

(イ)日射観測のための地形の3要素

 日射観測地点が,ある山により直達日射を遮蔽されている時は,観測地点から,山の稜線を見た際の仰角が,太陽との仰角よりも大きくなっている。稜線に対する仰角は,標高と距離により計算できる。また,観測地点が斜面の場合は,傾斜方位(傾斜角度が最大となる方位,北斜面や南斜面と表現する)と傾斜角度も斜面に入射する日射量の観測には必要である。そこで,この①標高,②傾斜方位,③傾斜角度の3つを地形の3要素と呼ぶ。

 250mメッシュの地形の標高に関する情報は,国土数値情報により得ることが可能であり,この国土数値情報はCD-ROMにより市販されているほか,インターネットによっても入手可能である。この国土数値情報から,標高データを必要なメッシュ分切り出して入手すれば,傾斜方位と傾斜角度は,計算で求めることができる。

 以上,(ア)と(イ)の情報が揃えば,前述したように全天日射量の広域分布が推定可能となる。

(2)全天日射量(Rs)の推定

 地形の影響のない地点における全天日射量(Rs)と直達日射量(Q)の間には地域の気象特性に依存した固有の関係がある。この関係を利用して,解析対象地域を代表する(地形の遮蔽効果が無い)RsをQとqに分離することが可能となる。これは,太陽の動きに合わせ毎年同じサイクルでRsの値とQの値がサインカーブを描くからである。このように繰り返される波形のパラメータの決定には,調和解析(フーリエ解析)が適している。

 富山県内では,全天日射量は観測されているが,各成分別に測定された記録がないため,「グリーンエナジ一計画(農林水産省が1978年以降10年計画で実施した大型別枠研究)」の際の新潟県上越市高田のデータを調和解析し,得られたパラメータを日射量推定手法に適用した。高田の調和解析後の各成分の値は,表1に示した。

 また,全てのメッシュ面について稜線の最大仰角が5°以内になるように十分広い範囲を日射遮蔽要因の計算対象領域として決定する必要がある。今回取り扱う地域について予備的な解析を行った結果,地形考慮半径を周囲20メッシュ(5km)とした。

 この手法により富山県の代表的な山間地である五箇山地域の季節別250mメッシュ日積算日射量分布推定図(1辺約50km)を作成した(図3~6)。

3.富山県五箇山地域の日射量分布の特徴

 図3~6に示した五箇山地域周辺は,最大標高差が約1,500mあり,南北方向に4つの大きな河川が流れているため,非常に起伏に富んだ複雑な地形を有する。

 この地域の日射量を推定した結果,次のような特徴が認められた。

①春季や秋季には,日射量格差が大きくなるが,夏季や冬季には,地域一帯が一様の日射分布を示す(図3~6)。
②斜面の傾斜方位により,平野部以上に日射量の多くなるメッシュ面や極端に少なくなるメッシュ面が現れる(図7)。

 このように,中山間地の複雑地形地では,非常に特徴的な日射量分布がある。日射量の多い斜面では,単位面積当りでみて平野部以上に日射エネルギー量が入射し,太陽光による十分な温度上昇が期待され促成栽培等が有利と考えられる。一方,日射量の少ない斜面では,山菜等の日射を嫌う品目の産地形成が有利となる。

 また,南北方向に谷が走る東西向き斜面では,中間的な日射量ではあるが,日の出が遅い,日の入りが早いという特徴があり,シェード栽培等日長調節が必要な作型に有利であるというメリットも考えられる。

 以下,この日射量分布推定法を活用する1つの例として山菜類の栽培への応用について述べたい。

4.山菜自生地の日射環境

 山菜類とひと口にいっても,必要な日射量は品目により千差万別である。ウドやタラノメといった大きく生長する品目は,日射を好む。一方,モミジガサやウワバミソウといった小型の日陰に自生する品目は,日射を嫌う。そこで,各山菜自生地の日射量を1994年から1998年までの5カ年観測し,その結果を表2に示した。

 日射を好む山菜の自生地では,日射を嫌う自生地の日射量よりも実測値で7~3MJ/㎡/day,推定値で6~5MJ/㎡/day多く推移し,実測値と推定値に大きな違いはみられない。また,林間地では,日射を好む山菜の約1/10の日射量しかないことが観測された。

 表2の実測値は,5カ年の最大極値を示しており,実際の平均的な日射量の格差はさらに大きいと考えられる。また,日射を嫌う山菜は,林間地のような自然の遮光状態にある所に自生しており,高日射量と推定された場所でも自生している場合も考えられる。

 しかし,本推定法のように地形要素で十分日射量が低い場合は,日射を嫌う山菜も問題なく栽培が可能である。このように,本推定法により日射を好む山菜と嫌う山菜の適地判定に活用が可能である。

5.山菜栽培適地の判定

 前記したように,夏季や冬季は平野部を含め,地域全体がほぼ一様な日射量分布となるため,適地判定は難しい。そこで,明確な日射量格差が現れる春季と秋季の推定結果を活用する。

 この際に,自生地の日射量調査の結果と合わせて,判断基準を以下のように設定した。

○図3または,図6の推定図で,
 ①日射を好む山菜の適地は,20MJ/㎡/日以上。
 ②日射を嫌う山菜の適地は,15MJ/㎡/日以下。

 ただし,日射を嫌う山菜の場合は,夏季の太陽高度が高くなる時期において,日射遮蔽要因が少ないため,裸地圃場では人為的な遮光が必要となる場合もある。

6.おわりに

 今回紹介した日射量分布推定法は,250mメッシュであり,集落単位の適地判定に活用できる。国土数値情報には,さらに細かい50mメッシュも公開されており,圃場単位の推定も可能性がある。しかし,本推定法は標高データを活用し日射遮蔽要因を考慮するため,5mの立木も10%の誤差を起こす要因となり,250mメッシュでは問題とならなかった植生や構造物の考慮が必要となる。このため,50mメッシュで日射量分布を推定するには,さらに検討が必要である。

 近年,地形に関与する複数のパラメータを考慮し,データベース化するGIS(地理情報システム)が注目され,新しいシステムが各地で開発,導入されている。将来,この日射量分布もGISの1パラメータとして活用できるようになればと期待している。GISにより,標高,日射量,植生,構造物が考慮された地図が作製できれば,前記した50mメッシュの問題も解決され,より活用しやすい日射量分布図が作成できるであろう。

 最後に,250mメッシュ日射量分布推定モデルの詳細な手法およびプログラムについて御指導,御提供いただいた農林水産省農業環境技術研究所の気候資源研究室林室長に感謝いたします。

引用文献

●黒瀬義孝,1991:複雑地形地域における250mメッシュ日射分布推定モデルについて,農業気象47:95~99

●自然エネルギーの分布に関する研究グループ,1980-1983:日射エネルギー観測資料No.1~4

●柴田和雄・内嶋善兵衛,1987:太陽エネルギーの分布と測定,学会出版センター

●黒瀬義孝・林陽生・真木太一,1991:複雑地形地域における日射環境の把握,四国農試報告第54号

●林陽生・黒瀬義孝・山内豊・河野靖,1996:250mメッシュ日射分布推定モデルの久万高原への適用,四国農試報告第60号

●岩田幸良・小田正人・喜多幸一,1998:構造化問い合わせ言語(SQL)を用いた地理情報システムアプリケーションの開発,農業情報研究会一般講演要旨