§被覆肥料とドリップ潅水を組み合わせた新しい水耕法
農業環境技術研究所 環境資源部 水質管理科
科長 今井 秀夫
§ケイ素の生物学-11-
京都大学名誉教授
高橋 英一
§被覆肥料を使用した砂丘地ダイコン栽培における施肥改善対策
新潟県農業総合研究所 基盤研究部
主任研究員 本間 利光
農業環境技術研究所 環境資源部 水質管理科
科長 今井 秀夫
熱帯開発途上国の大都市及びその周辺地域では,安全で栄養価の高い野菜に対する需要が急増している。しかしながら,土地や水,さらに労働力等に対する他産業との競合や資金の面から,簡単,省力,安価を基本とした環境にやさしい周年野菜栽培技術が求められている。大都市で野菜の周年栽培を可能にするには,まず土地の確保と連作に伴う土壌病害の多発に対処する必要がある。ソイルレスカルチャー,特に水耕栽培が有望であるが,コストや簡便性の点で,熱帯開発途上国での成功例は殆どない。
最近,様々な緩効性肥料が入手可能になってきた。緩効性肥料は,その緩効性のために作物根のすぐ近くに与えても,いわゆる肥焼けを起こさない。この特徴をいかして緩効性多量及び微量要素肥料を用いた,全く新しい水耕法を開発した1,2)。被覆肥料とドリップ潅漑を組み合わせた節水,省力,さらに水耕に関する知識も要しない水耕法を紹介する。
ポリスチレンフォームの板を組み合わせ,内容量が120リットル(幅30cm,長さ200cm,高さ20cm)の水耕栽培容器を作成した(図1)。内部は,中央で仕切られ二つに分けられている。ナイロン網の両側を袋状に閉じ,そこにアルミニュームのパイプを挿入し培地の支持体とした。両側のアルミニュームパイプを容器上部の切込み口に挿入し固定した。支持網にピートモスを満たし,1植物当たり400ccのピートモス培地になるよう調節した。スポンジ(縦15cm,横90cm,厚さ4cm)を防根シートと包み,栽培容器の底に置いた。

多量要素は,被覆複合肥料(N:P2O5:K2O=14:12:14,チッソ旭KK)とドロマイト粉末(Ca 30%,Mg 22%,Fe 1.1%,B 0.2%)で,微量要素は,緩効性肥料で(Mn 10.6%,B 4.0%,Zn 4.1%,Cu 2.7%,MINERASS E Frit,日本フェローKK)施用した。基肥はピートモス培地を支持体に充填する時,その中央部に,また,追肥は培地の上から施用した(表1)。

潅水は,ドリップ方式で行った。主潅水パイプは,フィルターと電磁弁を経て水道水蛇口か,地下水汲み上げポンプに直結した。電磁弁の開閉は,マルチチャンネルタイマーで行い,一日最大6回潅水時間と潅水量を制御できるようにした。主潅水パイプの他端は,それぞれのドリップ穴にかかる水圧が出来る限り均一になるように,栽培容器を取り囲む長方形に組み立て,水が循環できるシステムにした。長方形の長軸側に20cm間隔で小さな穴を開けた。その穴に小パイプ(直径1mm,長さ30cm)をねじ込み,その先端に矢じり型の潅水頭を取り付けた(図2)。

潅水時間と潅水量の調節は,タイマーにより行った。予備テストで,それぞれの潅水頭より平均して,1分間に35ml流出することを確かめた。移植後2週間は,タイマーを1回当たり2分間,1日3回(7:30,10:30,14:30)作動する様にセットし,1日当たり210mlの潅水を各作物個体に行った。潅水に関して2つの処理区,すなわち通常潅水区と制限潅水区を設け,それぞれ5週間後迄は300mlと240ml,7週間後まで340mlと300ml,その後は,410mlと340mlを試験終了まで潅水した。
発芽後3週間のトマト苗(2品種,CL5915-206とミニトマトCHT154)を前述のピートモス培地に1997年7月21日に移植した。本試験は,アジア野菜研究開発センター内のガラス室で行われた。ガラス室内及び水耕容器内の最高温度は,それぞれ摂氏41度と32度であった。ピートモス培地内の最高温度は,午後4時30分に観測され,31度まで上がった。また,水耕容器の底に溜まった水の温度は,午後2時で40度迄上昇した。
ミニトマトCHT154は,移植後70日で第一回の収穫を行った(表2a,2b)。基肥のみに比べて基肥+追肥区で約20%収量が高かった。制限潅水下では,全量70gの内,基肥に30g,残り40gを2回に分け1ヶ月間隔で分施した区が70g全量を基肥に施用した区に比べて収量が1.5倍も高かった。一方,潅水制限が行われなかった区では,施肥による収量差は見られなかった。


本試験で用いたミニトマトCHT154は,最近台湾でASVEG#6の名前で品種登録された。この品種は,その味の良さや病気に対する抵抗性などから消費者だけでなく,生産者にも極めて人気が高い。しかし,夏季作では,高温と高土壌水分のためにヘクタール当たり20トンを越えることは,ごく稀である。ー方,本水耕システムでは,容易に高温と高水分状態を克服し,70日間で圃場の最高収量の1.5倍に相当する30トン以上を収穫できた。移植後,120日で全収穫量は60から70トンに上ることが予想された。
耐暑性トマトもミニトマトと同様に移植後70日で第一回目の収穫を行った。結果を表3に纏めている。しかし,耐暑性トマトではミニトマトとは逆に,潅水処理区間で収量に差がついたのに,施肥処理では差が生じなかった。正常潅水の基肥のみ区で収量が最大になる一方で,基肥のみの潅水制限区で収量が,最低であった。また,潅水処理と施肥処理間の相互作用は,1%レベルで有意になった。

ミニトマトの品質に対する潅水処理と施肥処理の影響をみるため,3つの品質指標,酸度,ブリックス,色を処理区間で比較した。施肥処理区間でブリックスにだけ差が生じ,分施した区で高くなった。また,同表で注目すべき事実は,全ての処理区でブリックス値が8.5を超えていることである。AVRDCで1996年に行われたCHT154を含む優良ミニトマト系統選抜試験で,テストした優良系統9種の平均糖度は5.9(CV8.3%)であった。
本水耕システムで栽培したトマトのブリックス値は,通常に栽培されたトマトに比べて,1.5から2程度高く高品質であった。本水耕法の潅水量は,市販の水耕システムの1/3から1/4に過ぎない。この節水栽培が,トマトに高い糖度をもたらしたものと思われる。
耐暑性トマトでは,通常潅水区で程度は低いものの(3.2%)尻ぐされ症状が現れた。しかし,このような高温下では,通常の水耕法で栽培した場合,少なくとも20%程度の尻ぐされが避けられないので,無視できる数値であった。
試験に用いた両系統ともに,施肥処理と潅水処理間の相互作用が有意になった。これは,潅水量が被覆肥料の流出速度,よって,トマト収量に影響を及ぼしたと解釈できる。トマトの吸水量は,生育ステージが進むにつれて増加する。
本システムでは,肥料を含む培地と作物は宙吊りの形になっており,水が上部から与えられるために過剰な水及び肥料は,培地支持体であるネットを通過し容器の底に敷かれた防根シートを濡らしつつ,過剰水は底の最低部に溜まる。また,作物の根もこのネットを通過できるため,通過した根は,まず湿度の高い空間中に伸長し,次いでスポンジを包んだ防根シートに到達しそこに根を広げていく。さらに,潅水量が,培地内で吸収される水の量を大幅に上回る迄増えると,低部に水が溜まり始め,作物根はその溜まった水を直接吸い上げるようになってくる。
生育ステージが進むにつれて潅水量が増大し,4週間後から急激に被覆肥料成分の溶出が促進されている様子が伺われた。特に,この傾向は,全量を基肥として,しかも70日タイプで施用した基肥のみの区で顕著であった。ピートモス内で急速に溶出した成分は,作物に吸収されず過剰な水と一緒に落下し,容器の底に蓄積する結果,ECを上昇させた。4週間を過ぎると作物の根は底まで到達し,溜まった水分と養分を吸収し始める。その際,底に溜まった溶液のECが,急速に高まると,根は高い浸透圧のために水分も養分も吸えなくなる。その結果,さらに多くの水分と養分が,培地から添加され溶液のECを高めるという悪循環を繰り返す。作物は,まず日中に萎凋する様になり,数日この状態で放置しておくと,やがて枯死する。
しかし,この障害は簡単に克服できる。溶液のECが8mS/cmを越えたら,その液を捨て,代わりに潅漑水を1cm程度(12個体に対して6ℓ程度)の深さになるよう添加してやれば,1日で回復する。この方法で,夏季栽培の場合も容易に健全な作物を生育出来るばかりでなく,尻ぐされを防ぐ有効な対策法である。しかし,この方法は次善の策で,被覆肥料の種類(溶出タイプ),施肥法,それに潅水量を適切に組み合わせることにより,ECの上昇を防ぐことが可能である。
被覆複合肥料は,生育に必要な全量を基肥として施用するのではなく,基肥+追肥として施用し,肥料の流出量が移植後4から5週間目に過度にならないよう注意する。よって,必要量の半量程度を溶出速度の遅い140日又は,180日タイプで基肥として施用し,残りの半分を2回程度に分けて移植後40日から50日後,さらにその1ヶ月後に溶出の比較的速い70日タイプで施用する。
上記施肥法により,水耕容器底部に溜まる溶液のECが急激に上昇するのを防げるが,果菜類の生育が旺盛になり,収量に大きな影響を及ぼす移植後4週間から7週間の期間を中心にECのモニタリングを行い,8mS/cmを越える場合は,直ちに溜まった溶液を捨て,潅漑水を1cm程度の深さまで加える等の対策をとることが大切である。
本研究で新しく開発された水耕法は,様々な点で従来の水耕法より優れている。例えば,高収量,高品質,節水,省力,低コスト,取り扱いの簡単さ,それに環境にやさしいシステムであること等が強調できる。ヨーロッパや北米を中心とした従来型の大規模循環式水耕システムでは,培地として殆どの場合ロックウールが使われているが,使用済みのロックウールの処理が大問題になっている。また,従来型のシステムでは,閉鎖循環式で水耕廃液を系外に出さないことを強調しているが,現実には病原菌等の拡散を防止するため循環式を採用せず,高濃度の培養廃液を系外に排出している場合が多い。
わが国では,本年2月に中央環境審議会が,硝酸性及び亜硝酸性窒素の要監視項目から健康基準項目への格上げを答申し,同月22日に環境庁から項目の追加が告示された。今後,益々排出規制が厳しくなり,高濃度の硝酸性窒素を含む培養廃液を系外に放出するようなシステムは,使用が不可能になるであろう。これに対して,本水耕システムは,使用済みのロックウールも高濃度の廃液も生み出さないので,環境にやさしいシステムである。
(1)今井秀夫 1990 非通気,非循環水耕法の開発.土壌の物理性 61巻 19-29.
(2)Imai, H. and Takasu E. 1997. AVRDC watersaving hydroponics. In Proc. First Non-Circulating Hydroponic Workshop. University of Hawaii,29-42.
京都大学名誉教授
高橋 英一
ケイ素はいろいろなケイ酸鉱物として土壌中に豊富に存在しています。このような土の上に営まれる農業に対して,ケイ素は「肥料」としてどの程度の施用効果をもっているでしょうか。これには栽培される土壌と作物の特性および利用可能なケイ酸質資材の有無が関係します。
わが国では,水耕で「ケイ酸」をケイ酸ナトリウムなどで水稲に施用すると増収することが戦前から認められていました。戦後米の生産力増強が図られる中で,当時問題になっていた秋落ち水田の改良に「ケイ酸」の効果が高いことが注目され,一方折から急成長をしていた製鉄工業から大量に排出される鉱滓に,ケイ酸質素材として利用可能なものがあることから,鉱滓の肥料化についての試験研究が各地で行われました。
また土壌調査の結果,わが国水田の三分の一近くにケイ酸欠乏の可能性が認められたため(表12参照),農林省は昭和30年にケイ酸を新たに肥料成分に加えるとともに,鉱滓の中からケイ酸の肥効が確認され且つ有害成分のないものを「ケイ酸質肥料」に指定しました。鉱滓は欧米でも肥料として利用されていましたがそれは石灰質肥料としてであって,これをケイ酸分の給源として利用しようとしたのは当時はわが国だけでした。ここにわが国農業の特徴がみられます。

土壌には多量のケイ酸が存在するのにケイ酸施用の効果が認められるのは,イネのケイ酸吸収量(健全な生育に対する要求量)が非常に多いこととともに(表13),土壌のケイ酸供給力が母材や気候条件によって低い場合のあることによっています。表14にみられるように,火山灰や頁岩を母材とする土壌のケイ酸供給力は高いが,火山灰も年代が古くなるにつれて脱ケイ酸が進み供給力は低下してゆきます。また花崗岩を母材とする土壌や泥炭土壌のケイ酸供給力は著しく低くなっています。ケイ酸施用の効果の認められるのはこのようなところです。


表15は世界の水田土壌の有効態ケイ酸の一例ですが,わが国の有効態ケイ酸含量は中位よりかなり下になっており,このことは水稲の多肥集約栽培とあいまって,ケイ酸肥料導入の一因となったと思われます。水稲栽培には多量の潅がい水が用いられるので,潅がい水からのケイ酸供給の影響も無視できません。

表16に見られるように河川水のケイ酸濃度は流域の地質の影響をうけており,またイナワラのケイ酸含有率と潅がい水のケイ酸濃度の間には高い相関があることも知らされています。このことは河川水によって供給されるケイ酸の意義を示すとともに,天水依存の稲作はケイ酸供給の点からも不利であることを示唆しています。

湿潤な熱帯,亜熱帯地域に分布するオキシゾル(Oxisol)やアルテイゾル(Ultisol)と呼ばれる土壌のケイ酸含量は,脱ケイ酸作用の進行によって温帯土壌の1/5~1/10と著しく低くなっています。西アフリカおよび中央アフリカでは,このような土壌にしばしば陸稲が栽培されていますが,これらに対するケイ酸塩施用効果には大きいものがあります。たとえばナイジェリアで行われた陸稲の栽培試験(イネ8品種,アルテイゾルに粒状ケイ酸ナトリウムをSiとして18.7g/m施用)では,ケイ酸施用によって平均で止葉のケイ酸濃度は2.20%から4.00%にまた収量は48%増加し,罹病も大幅に軽減されました58)。
有機質土壌(ヒストゾル)も可吸態ケイ酸に乏しいですが,このような土壌に栽培されるイネにケイ酸施用効果が大きいことも知られています。フロリダ南部(エバグレイド)の黒泥土地域で行われた水稲の栽培試験(試験地2箇所,イネ10品種,ケイ酸スラッグSiとして2t/ha施用)では,ケイ酸施用によって茎葉のケイ酸濃度は平均で4.72%から8.81%に増加し,罹病度は半減し,20%近い増収となりました59)。
世界には可吸態ケイ酸に乏しい土壌が少なくない一方で,毎年土壌から多量のケイ酸がイネによって収奪されています。これを1993年の世界のコメ生産量から推算すると,籾収量5億1900万t,藁/籾比1.2,籾殻/籾比0.2,ケイ酸含有率を藁8%,籾殻16%として,6600万tに上ります60)(日本は192万t)。これらがどの程度土壌に還元されるかが「ケイ酸地力」に大きく関わります。表17は長期にわたる堆肥の連用が作物のケイ酸含有率と土壌の可溶性ケイ酸濃度に及ぼす影響を調べたものですが,堆肥連用は明らかにケイ酸地力を高めています61)。しかしいろいろな事情で,ケイ酸に富んだ作物残渣が土壌に返されない場合が多いのは問題です。

わが国ではこれをケイ酸質肥料(ケイカル等)で補ってきました。昭和の初めの堆厩肥の生産量は約2000万トン,肥料不足で自給肥料の生産奨励が行われた昭和20年前後は6000万トンにも上り,昔は堆厩肥を通じて大量にケイ酸が水田に供給されていました。ケイカル施用が始まった昭和30年の水田に対する堆厩肥施用量は年間約1800万トンで,これは堆厩肥のケイ酸含有率を5パーセントとすると,ケイカル換算360万トンに相当する供給量でした。
図30は堆厩肥(生ワラを含む)とケイカル施用量の経年変化ですが,ケイカル施用量は堆厩肥施用量の減少によるケイ酸供給量の低下を,ある期間肩代わりするかたちで増加してきたことが分かります。イネに対する堆厩肥施用量は全国平均で,昭和30年の10アール当たり650キロから昭和45年には550キロに低下していますが,これは年間総投与量にして1800万トンから1500万トンへと300万トンの減少です。これによって堆厩肥から供給されるケイ酸は15万トン減少したことになりますが,ケイカルに換算すると60万トンに相当し,昭和43年のケイカル消費量110万トンの半分近い値です。

しかしその後もケイ酸の供給量は減少の一途をたどり,平成8年では堆厩肥の投与量は昭和45年の5分の1,ケイカル消費量も30万トンと最盛期の4分の1近くになっています。このことからわが国水田土壌のケイ酸地力が現在かなり低下しているのではないかと危惧されます。
事実たとえば山形県では,最近土壌中の可吸態ケイ酸含有量および穂揃期以降の稲体ケイ酸含量が低下している傾向が認められており,また県内の主要な農業用水のケイ酸濃度が,この40年間に半分以下に激減していることが報告されています(1956年の農業用水の平均ケイ酸濃度23.9ppmに対して1996年は10.2ppm)62)。
麦類については前回紹介したローザムステッドの長期圃場試験など,欧米でも効果は認められています。麦類のケイ酸吸収性はイネにくらべてかなり低く,ケイ酸に対する生育反応も一般に弱いが,稔性はイネと同様かなり影響をうけるようです。またウドンコ病などに対する抵抗性を増す効果もあります。
サトウキビは麦類よりケイ酸含有率が高いですが,ハワイのサトウキビは葉に斑点を生じ,生育や砂糖収量が悪い場合があり,このようなサトウキビの葉のケイ酸含有率が著しく低いことから,ケイ酸塩施用の効果が試験されました。栽培土壌のケイ酸含有率は5.1パーセントと著しく低かったが,これにケイカルを4.5t/ha施用したところ生育量で約30パーセント,砂糖収量で約35パーセント増収し,葉の異常斑点も生じませんでした。このような試験の結果から,ハワイではサトウキビに対するケイ酸塩施用基準として,土壌の酢酸塩緩衝液可溶ケイ素20ppm以下,葉のケイ素含有率0.5パーセント以下が提案されました63)。
イネ科以外の畑作物ではキウリがあります。前に述べたようにキウリのケイ酸含有率は外液のケイ酸濃度によってはかなり高くなります。そしてウドンコ病に対する抵抗性が強くなることが認められています。養液栽培の盛んなオランダでは,キウリの培養液にはケイ酸(ケイ酸カリウム)が処方されています。またケイ酸をあまり吸収しないブドウなどには,ウドンコ病防止にケイ酸溶液の葉面散布が有効であるといわれています64)。
ケイ素の給源として使用されるケイ酸塩には,ケイ酸ナトリウム(水ガラス),ケイ酸カルシウム(鉱滓),ケイ酸カリウム,ケイ酸マグネシウム(溶りん)などがあります。これらの無機塩のケイ酸はイナワラ堆肥にくらべて速効性ですが,随伴塩基はケイ酸よりも強い化学性,生理作用をもっていることに注意する必要があります。
たとえば鉱滓は多量に施用されると,アルカリ効果によって土壌中の有機態窒素の無機化を促進し,これが状況によっていろいろな影響をもたらします。随伴塩基の生理作用も土壌の性質や作物の栄養特性(要求性)によっては,ケイ酸以上の影響を及ぼす可能性があります。カルシウムは鉱滓の中にケイ素の倍以上も含まれていますが,イネの吸収するカルシウムはケイ素の十分の一以下です。鉱滓の施用量は一般に多いので,このアンバランスは留意しておくべきでしょう。
これに関して,最近ケイ酸肥料としての利用が注目されているシリカゲルは,純粋なケイ酸の効果のみの見られる肥料として面白いと思います。一方ケイ酸塩を用いる場合は,随伴塩基の性質を活用する工夫が必要です。
58)Mark D. Winslow:Silicon, Disease Resistance, and Yield of Rice Genotypes under Upland Cultural Conditions, Crop Sci. 32,1208-1213(1992)
59)C. W. Deren, L. E. Datnoff, G. H, Snyder, and F. G. Martin:Silicon Concentration. Disease Response, and Yield Components of Rice Genotypes Grown on Flooded Organic Histosol, Crop Sci. 34,733-737(1994)
60)文献4)の161頁
61)高橋英一:ケイ酸植物と石灰植物,112-115頁 農文協(1987)
62)熊谷勝巳,今野陽一,黒田潤,上野正夫:山形県における農業用水のケイ酸濃度,日土肥誌 69(6),636-637(1998)
63)Fox, R. L. et al:Soil and Plant Silicon and Silicate Response by Sugar Cane, Soil Sci. Soc. Amer. Proc. 31(6),775-779(1969)
64)Pat Bowen et al:Soluble Silicon Sprays Inhibit Powdery Mildew Development on Grape Leaves, J. Amer. Soc. Hort. Sci. 117(6),906-912(1992)
新潟県農業総合研究所 基盤研究部
主任研究員 本間 利光
近年,地下水の硝酸態窒素濃度が飲料水の水質基準(10mg/ℓ)を超えている場所が報告され全国的に問題となっている。農林水産省の調査(1991)では調査地点の約15%で飲料水の水質基準を超えており,その多くは砂丘地や高位段丘であった1)。硝酸態および亜硝酸態窒素については平成11年2月に中央環境審議会から環境基準化の答申が行われた。環境基準に移行された場合,水質汚濁防止法に基づき,各都道府県知事により常時監視及び結果の公表が行われ,汚染地帯における営農活動への影響が心配される。
地下水系への硝酸態窒素負荷の原因には化学肥料の過剰な施用,家畜糞尿の不適切な処理等が考えられるが,汚染源の特定が難しい農耕地では今後特定地域において総量規制を行うことが考えられる。そのため,収量・品質レベルを従来程度に保持しながら,施肥量全体を軽減する技術の確立が求められる。
そこで新潟県では土壌保全対策事業の中で「砂丘未熟土における地下水硝酸態窒素軽減のための野菜類施肥改善対策」として平成9年より現地試験を実施し,施肥改善による地下水系への窒素負荷軽減技術を検討してきた。ここで得られた若干の知見を述べたいと思う。
新潟県では砂丘地の約36%,3000haが農耕地として利用されており,良好な排水性・作業性や早い消雪のため,園芸生産が盛んに行われている。作目では従来からのスイカ,ダイコン,タバコ等に加え,近年では潅水施設の充実や栽培技術の確立によりキャベツ,ブロッコリー等の葉菜類,チューリップ等の球根・切花類,ニンジン,ゴボウ,ヤマイモ等の根菜類と多様化の傾向が見られ,それに応じて施肥量の増加傾向が続いている。
一方,砂丘地では保水性・保肥力が乏しく,有機物の消耗も激しいため,普通畑と比較し多肥傾向となっており,肥料の利用率も低い。そのため地下水系への施肥窒素の溶脱により水質基準を超えた硝酸態窒素の汚染が懸念されており,早急な対策が必要とされている。
試験に供した圃場は新潟県内の日本海に近いA町の砂丘畑で,陽イオン交換容量は約6m.e.と低く典型的な砂丘地である。ここでは主にスイカ-ダイコンの年2作の作付けが行われている。今回は夏ダイコン栽培に絞って施肥改善試験を実施した。
現地慣行のダイコン施肥量は基肥が高度化成肥料で80kg,追肥は硫安で30kg,成分では17.5-6.4-4.8kg/10aである。栽培品種は「夏のみの早生」,収量レベルは約6t/10a。そこで収量を落とさずに1/3の窒素減肥を目標に表1の試験区を設けた。

ダイコン栽培では普通全面全層施肥をした後に播種,その後約2週間(本葉2枚程度)後に間引き,追肥といった作業体系となる。施肥から追肥までの期間は根域の発達が不十分であり,この期間中の降雨により条間の施肥窒素の大半は下層ヘ容易に溶脱すると考えられる。そのため,図1に示すように基肥を播種床のみに条施し耕転後に播種することとした。また,追肥作業の省力と利用率の向上を目的に被覆肥料の利用を検討した。なお,被覆肥料を全面全層処理したのは地力窒素を広範囲に吸収させることを目的としたためである。

施肥は1998年8月6日,播種は8月10日。間引きは8月27日,追肥は9月1日,収穫は10月7日に実施した。栽植密度は5556本/10a(株間30cm・条間60cm)。
本試験の栽培期間中の降雨は図2の通りで,平年と比較し大変雨の多い年であった。このことはCECが小さく透水性が良好な砂丘地においては施肥窒素が溶脱しやすい条件となった。

基肥の条施により全面施肥と比較し条間窒素レベルを抑えたまま畦内窒素レべルのみを効率的に高めることが可能であった(表2)。ダイコンの窒素吸収量は条施することにより初期吸収量が増加し,収穫時には慣行区と比較し条施減肥区で22%窒素吸収量が増加した(図3)。これらにより,条施により,基肥量を慣行の約半分に抑制しても窒素吸収量を高め,施肥窒素の溶脱を抑制することが可能となった。


また,硫安追肥の代替として被覆肥料の利用を検討した結果,LP40で硫安と同等,LPS40で硫安を上回る窒素吸収量となった(図3)。これは図4に見られるようにLP40が施肥から8月27日(慣行区の間引き時)までに約67%,その後収穫までに約11%が溶出しているのに対し,LPS40では同約16%,収穫時までは約61%の溶出となりダイコンの生育後半の窒素吸収量増加につながったものと考えられた。

以上により,未利用施肥窒素がすべて下層ヘ溶脱したと仮定すると慣行区では13.8g/㎡,条施LPS区では3.9g/㎡溶脱したこととなり,条施LPS区での施肥窒素の溶脱が大幅に抑制された。
なお,本試験において収穫されたダイコンには岐根・裂根等の障害は一切認められなかった。
今回は条施と被覆肥料の組み合わせによる施肥窒素溶脱抑制について検討し,一定の成果が得られたが,この施肥法はダイコン以外にも他の根菜類にも応用可能と考えている。その場合,発芽障害・根部障害等を起こさないレベルの作物別最適土中無機態窒素濃度の検討が必要と思われる。
また,地下水汚染の抑制には施肥法の改善にとどまらず収穫残さの放置や堆肥の野積み等も大きな問題である。さらには,地下水系への負荷機構の詳細な解明も必要である。
冒頭に述べたように,地下水汚染に限らず環境保全的農業技術の確立が求められているが,農家が実際に取り組める生産技術の確立が今後ますます必要とされるであろう。
1)農林水産省北陸農政局計画部資源課:農業用地下水の水質状況,P.1~14(1992)