§セルリーの土壌溶液診断による効率的施肥法
静岡県農業試験場 土壌肥料部
研究主幹 鈴木 則夫
§稲刈りの秋・株下に見える肥料を調べる
-水稲育苗箱内三要素全量施肥・農薬施用技術-
農林水産省 北陸農業試験場
水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
静岡県農業試験場 土壌肥料部
研究主幹 鈴木 則夫
環境保全型農業の推進が叫ばれ,現在多くの農作物で施肥効率の向上による施肥量削減の取り組みが行われている。
一般に施設野菜は普通作物に比べて,養分吸収量も多いことから施肥量は多い。セルリーもその例にもれず,窒素吸収量は従来の調査から10a当たり23kg前後であるにもかかわらず,施肥窒素基準量は数年前は冬作で10a当たり80kgとなっていた。その後,セルリ一作は堆きゅう肥を5~10トン施用することから,これからの持込窒素成分の換算や緩効性肥料の併用等により,現在の施肥窒素基準量は50kgとなっている。
この過程で,生育収量を保ちつつ投入施肥窒素量を減じるために,試験場ではいくつかの取り組みを行ってきたので紹介する。

通常の化成肥料は土壌中に肥料成分が速く溶け出すため,作物への初期養分吸収は優れているが,一度に多量施用すると濃度障害が発生しやすく,また溶脱も多くなる。これらの欠点を補うために多くの新しい緩効性肥料が開発され,各種の作物で施肥量削減や追肥の作業省力に利用されている。従来の緩効性肥料よりも緩効度が高い肥料も開発されてきているので,これらを利用してセルリーへの活用を試みた。
セルリーは本ぽでの生育期間が約100日であることから,この期間中肥効が持続する肥料を用いて試験をした結果が表1である。試験Ⅰでは追肥を省いた試験であるが,追肥を施用しなくても収量は慣行の配合肥料主体の区と有意な差はなかった。最大葉長や第一節間長にも差はなく,施肥窒素合計が25%の減肥でも実用性が実証された。同様な肥効の持続性を持つ二種類の肥料を利用して現地の栽培農家で行った結果が試験Ⅱである。肥料の種類が異なっても追肥の省略が可能であるし,元肥を約15%減らしても慣行レべルの収量が得られることが実証された。

生産現場で栽培期間中の土壌養分を簡易にかつ迅速に把握する方法の一つとして,土壌溶液を採取し,溶液に含まれる硝酸イオン濃度を測定し,施肥管理に生かす方法が幾つかの作目で実用化されている。現在,この技術をセルリーに応用する試験を実施しており,暫定的な基準が出来上がりつつあるので紹介する。
なお,いずれも土壌溶液採取装置は畝中央の深さ20cmに埋設し,潅水した翌日の夕方から翌朝まで吸引し,採取した溶液はRQフレックスを用いて硝酸イオン濃度を測定した。
セルリー栽培期間中における硝酸イオン濃度の推移実態を知るために,施肥量を変えたり,栽培様式を変えて場内や現地で試験区を設けた。
場内試験における栽培期間中の施肥量と収量調査結果を表2に,土壌溶液中の硝酸イオン濃度の推移を図1に示した。この結果,養液土耕区は施肥室素量が39kgと慣行施肥区の約50%減でも収量は最も良い。3割減肥区,診断施肥区(施肥量は慣行施肥区の15%減)でも,慣行施肥区と収量に大きな違いはなかった。この時の土壌溶液中の硝酸イオン濃度の推移は,最も生育の良い養液土耕区では生育前半が約300~400ppm,中期で約400~500ppm,後期で約600ppmであった。これに対して,ほかの区では生育前半は1,000ppmを越す高い濃度で,逆に後半は追肥をしても養液土耕区より低い濃度で推移した。


現地試験における栽培期間中の施肥量と収量調査結果を表3に,土壌溶液中の硝酸イオン濃度の推移を図2に示した。この結果緩効性肥料を用いて追肥を省いても,緩効性肥料施用で約4割減肥しても,収量は農家慣行と同様であった。また,追肥をしなくても硝酸イオン濃度の推移から緩効性肥料区は収穫直前まで肥効が持続していること,減肥により明らかに低い濃度で推移することがわかった。しかし,栽培様式が異なる養液土耕での推移(約500ppm)と比べると,いずれの区も生育前半から中期まではかなり高い濃度であった。


このため,元肥を減らして生育前半の硝酸イオン濃度を低くするための試験を実施した。方法としては,元肥施用直前に土壌溶液中の硝酸イオン濃度を測定して,100ppm毎に1割の元肥減肥とした。場内試験2において,元肥施用前の硝酸イオン濃度は217ppmであったので,元肥減肥区と診断施肥区は慣行施肥区の元肥の2割減とした。最終的な栽培期間中の施肥量と収量調査結果を表4に,土壌溶液中の硝酸イオン濃度の推移を図3に示した。


収量は診断施肥区がやや低い傾向にあり,他の区では差はほとんどなかった。土壌溶液中硝酸イオン濃度の推移は,慣行施肥区では定植後1ヶ月位は1,000ppm以上あり,以後の1ヶ月も500ppm以上あり,以降は順次下がり収穫期は200ppmを下回った。元肥減肥区と診断施肥区は濃度的には常に慣行施肥区を下回っていた。養液土耕区は生育初期には一時的に1,000ppmを上回ったが,概ね生育期間を通じて800ppm位であった。このことから,元肥減肥については更なる検討が必要であろう。
現地試験2における施肥量と収量調査結果を表5に,硝酸イオン濃度の推移を図4に示した。元肥施用前の硝酸イオン濃度が約1,000ppmと高かったので,思い切った減肥区(農家慣行減肥区と緩効性肥料減肥区)を設けた。しかし,施肥直前になって大雨で試験圃場が約40cm位冠水して数日水が引かなく,水が引いてから直ぐに施肥と定植を実施した経過がある。


収量調査の結果,農家慣行施肥区と緩効性肥料区が明らかに減肥した農家慣行と緩効性肥料区を上回った。生育期間中の土壌溶液中硝酸イオン濃度の推移は,農家慣行施肥区で生育初期は約600ppm,中期で約400ppm,収穫期で約300ppmであった。これに対して,他区は初期から500ppmを下回り,特に農家慣行減肥区は約300ppmと低かった。また,本試験に使用した緩効性肥料は,定植後60~80日後にかけて,大きく土壌溶液中硝酸イオン濃度が低下することからこの頃に肥効の持続性が切れることが推測された。
この結果から,定植時の冠水状況がいわゆる「湛水除塩効果」で土壌中に残存していた肥料成分の多くが流亡したことが考えられた。このため,定植前に硝酸イオン濃度が約1,000ppmほどあったにもかかわらず,施肥後の生育前半での濃度が低くなった。
2年間における4栽培試験の結果から,一定の収量を得る場合の土壌溶液中硝酸イオン濃度は生育中期頃までは約400ppm,後期は約200ppmを維持すれば良いと仮定して,現在確認試験を実施中である。
さらに,生育前半での硝酸イオン濃度が高い原因は前作の残存成分,堆肥からの持ち込み,元肥が多いことが考えられるので,元肥施用前に硝酸イオン濃度を測定して,その濃度によって減肥(どの位減らすかは今年も試験中である)して,生育前半での濃度を下げる。追肥も定植何日後ではなく,一定レベルを下回ったら施用する。さらに,緩効性肥料の施用で減肥が可能の試験が多々あるが,これを裏付けるデータとして土壌溶液診断が意味あることと思う。
全国一の生産を誇る静岡県のセルリー栽培も施肥量は多い。今後は早急に施肥効率を向上させる栽培体系を確立する必要があろう。
農林水産省 北陸農業試験場
水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
本田に施肥する肥料三要素全量を育苗箱内に施肥し水槽育苗を行う。本田移植時にやはり育苗箱内に長期持続型の殺虫殺菌混合粒剤を施用する。そして,田植機により苗の根に抱き合わせて株元施用する。この手法は慣行農法と比較して,①中間管理作業が超省力的となる②収量や品質も一定水準以上のものが得られる③系外への各種成分の流亡を抑制することが可能である等の特長を持ち,いわゆる日本の環境保全型的農業の技術として非常に有効であると前回報告した。1)
ところで,本手法にて栽培をすると,稲刈り鎌で刈り取り作業をする時,株元に被覆肥料や熔成燐肥が散乱していることが,強グライ土水田土壌であるとその色彩から観察できる。実際に本手法を行っている一般農家より,これらの肥料は稲刈りの秋を過ぎた後にも,残っているような気がするがどうなっているのかという素朴な疑問がよせられた。5)そこで,育苗箱内に施用し本田に持ち込まれた肥料(被覆肥料および熔成燐肥)が作付け期間を終了した後は,どのようになっているのか調査を行ったので報告する。
ペーパーポット(角15×高30mm,684個)を水稲育苗箱内に敷き,下から床土(培土)2.0kg,被覆NK化成肥料(苗箱まかせ®NK301-100,チッソ旭肥料(株)製)1.0kg,出芽籾120g,覆土(培土)0.5kg,熔成燐肥1.0kgを層状に施用し,水槽育面を行った。本田移植時に長期持続型育苗箱施用殺虫殺菌混合粒剤50gを施用し,中苗を強グライ土壌の水田約0.5aに移植した。ただし,熔成燐肥の調査用水稲育苗ポットは,熔成燐肥7.0kgを施用2)し,培土および被覆NK化成肥料は無施用で育苗し,移植後に被覆NK化成肥料を株元に局所施用(1.0g/株)した。
水稲栽培期間中の水管理作業等は慣行栽培と同等に行い,収穫作業を行った。玄米収量は500kg/10aであった。

収穫作業終了後,水田内のなるべく乾いた箇所から,稲株下根圏土壌を移植ゴテで静かに堀り出し,薬匙を用いてバット内に約100gを採取した。(写真1)これをガラス室にて風乾し,ピンセットを用いて被覆窒素肥料,被覆窒素加里化成肥料および熔成燐肥を一粒一粒確認しながらシャーレに各々約20g採取した。水田より採取したこれらの試料は水洗や粉砕をしないで原体を供試した。これら一連の作業手順を図1に示した。

日立製走査型電子顕微鏡S800を用いて観察した。この手順を図2に示した。

被覆肥料は,三角フラスコに採り,過塩素酸・硫酸分解3)をホットプレート(焼肉用)上で行い,純水で希釈し上澄液をフローインジェクション分析(FIA)および発光誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)にて各種元素濃度を定量分析した。
熔成燐肥は,肥料分析法4)に準じて行い,上澄液を試料液とし,ICPで各種元素濃度を定量分析した。抽出操作は,水溶性燐酸と同様に純水の代わりに1M塩酸を用いて行った。微量元素濃度を求めるに際し,肥料分析法よりも希釈倍率を軽減することにより定量感度向上を企て,試料と抽出液の比率を1:50にして分析試料液を調製した。
倍率1000倍(写真2)で観察すると,施肥前の肥料の表面は,あたかも塗料や糊状物質のような塗り物が敷き詰められているかのようであった。施肥・収穫後の肥料の表面は,その塗り物が剥がれ,しかも罅割れが起きているかのように観察された。倍率5000倍(写真3)で観察すると,施肥前の肥料の表面は,塗り物が実に隙間無く敷き詰められており,施肥・収穫後の表面は,完全に亀裂が生じて数多くの隙間があるようであった。


倍率40倍(写真4)で観察すると,施肥前の肥料の表面は,塗り物が一様に球状に張り付いているようであった。しかし,施肥・収穫後の肥料の表面は,ピンホールの様な穴が開いているようであった。倍率220倍(写真5)で観察すると,施肥前の肥料の表面は実にきれいでピンホールや亀裂等がなく,被覆窒素肥料の施肥前の表面と類似していた。しかしながら施肥・収穫後肥料表面のピンホール状部分を拡大して観察すると,あたかも系内の肥料成分が吸水し,膨脹し,表皮の弱い部分が破裂して,一気に溶出したという物語が展開されているようであった。


倍率64倍(写真6)で観察すると,施肥前では透明な輝きを持っているが,施肥・収穫後では鈍色の光沢に変化していた。倍率5000倍(写真7)で観察すると,施肥前の表面は一枚岩の上に何かの付着物が点在しているようであった。施肥・収穫後の表面は甲羅状の亀裂がいくつも見られ,岩石の風化作用に類似していた。


被覆窒素肥料の残存無機元素で水田土壌よりも高濃度であったものは,チッソおよびマグネシウムであった。逆に低濃度であったものは,カリウム,燐酸,鉄,アルミニウムおよびマンガンであった。
また,被覆窒素加里化成肥料で水田土壌よりも高濃度であったのは,カルシウム,ナトリウム,カリウムおよび燐酸であった。逆に低濃度であったのは,アルミニウム,鉄およびマンガンであった。

被覆窒素肥料の残存無機元素で水田土壌よりも高濃度であったものは,チッソおよびマグネシウムであった。逆に低濃度であったものは,カリウム,燐酸,鉄,アルミニウムおよびマンガンであった。
また,被覆窒素加里化成肥料で水田土壌よりも高濃度であったのは,カルシウム,ナトリウム,カリウムおよび燐酸であった。逆に低濃度であったのは,アルミニウム,鉄およびマンガンであった。
表2に熔成燐肥に含まれる比較的高濃度の元素,表3には低濃度の元素を示した。高濃度元素(表2)においては,酸加熱分解,1M塩酸および2%クエン酸抽出による定量分析は,施肥前と施肥・収穫後とでは濃度差異が実験誤差の範囲であった。また,水抽出においても同様の傾向であった。

低濃度元素(表3)においては,施肥前と施肥・収穫後を比較すると,施肥・収穫後のほうが明らかに低濃度である元素は,ホウ素,クロム,スカンジウム,バナジウムおよびタングステンであった。逆に高濃度であったのは,ヒ素,コバルト,リチウム,モリブデン,ニッケル,チタンおよびジルコニウムであった。

今回の試験に用いた熔成燐肥中の微量元素濃度は,イオウおよびクロムが比較的高濃度で,次にホウ素,バリウム,ニッケル,ストロンチウムおよび亜鉛と続いた。
1)被覆窒素肥料は,埋没した肥料粒の表皮に亀裂状の罅割れが生じて,窒素成分が肥料粒内から溶出してくると推察された。
2)被覆窒素加里化成肥料は,水田土壌に埋没させると,時間と共に肥料粒内の成分が吸水により膨脹し,表皮の一番弱いところにピンホールのような穴が開き,一気に溶出してくると推察された。
3)熔成燐肥は,岩石が風化作用で砕けるように,土壌や作物体の根などの接触溶解6)で燐酸成分が溶出してくると推察された。
4)今回の分析結果から,施肥・収穫後の各被覆肥料の成分元素の中には,土壌中の成分濃度よりも高いものも存在した。
5)本手法に用いることのできる肥料は,育苗期にはほとんど水中に溶出せずに,本田ヘ移植してから稲株下で,水稲の生育状況にあった溶出パターンを示すものが望ましい。電子顕微鏡観察からその溶出形態を推定すると,被覆窒素肥料はS型,被覆窒素加里化成肥料はアイスボンボン型,熔成燐肥はアメ玉型であった。これらが適度にブレンドされ,各々の溶出形態を持った肥料が,水稲栽培において各々の役割を果たすことによって,本手法が成り立っていると推察された。
1)中島秀治:水田における各種成分濃度の変動 農業と科学No505 P.5-12(2000.3)
2)長谷川秀穂 古野昭一郎:稚苗培地としての熔燐利用の可能性について 日本土壌肥料学会講演要旨第23集 P.101(1997)
3)中島秀治 柳原良一:フローインジェクション分析法による耕地土壌作物体及び有機質肥料の過塩素酸・硫酸分解液中窒素及び燐酸の迅速定量
J. Flow Injection Anal. Vol. 10 No2 P224-235(1993.12)
4)農林水産省農業技術研究所:肥料分析法(1982年版)(1982.12)
5)中島秀治:高齢営農者でも可能な省力的稲作の確立をめざして 農業および園芸 第74巻12号(1999)
6)三井進午,中川正男,馬場昂,天正清,熊沢喜久雄:作物の養分吸収に関する研究 日本土壌肥料学雑誌26巻 P.497-501(1956)