§被覆資材と緩効性肥料を利用した幼茶樹の省力栽培法
埼玉県農林総合研究センター特産支所
主任研究員 石川 巌
§「地力指数」のすすめ
=水稲の生育状況で地力窒素の発現量を知る=
富山県環境科学センタ一 生活環境課
副主幹研究員 岡山 清司
(前 富山県農業技術センター農業試験場 土壌肥料課)
§地力窒素を考慮した水稲コシヒカリの施肥診断法
静岡県西部農林事務所 湖西引佐分室
主任 神谷 径明
埼玉県農林総合研究センター特産支所
主任研究員 石川 巌
茶園は通常1.8mのうね間があり,幼木時はわずかなスペース以外は,土壌が露出した状態となる。このため,こまめに除草に努めないと雑草が繁茂して,チャの生育や栽培管理作業に影響する。
チャの定植時に緩効性肥料を基肥とし,うね間をマルチ資材で被覆することにより,幼茶樹の生育に対する影響並びに施肥と除草にかかる時間の削減を検討するために,以下の試験を行った。
供試品種として2年生苗の’むさしかおり’を用いた。試験区は2年分を基肥として施用し,苗木を定植後,うね間を被覆するマルチ基肥区と定植後に通常の施肥を行うマルチ区並びにマルチをしない対照区の3処理区を設けた。マルチ資材は透水性のあるポリプロピレン製被覆資材を用いた。
施肥条件として,マルチ基肥区は被覆複合肥料(窒素:リン酸:加里=16:5:10のハイコントロール700日タイプ,10a当たり窒素量13.5kg)を深さ35cmの位置に施用した後,3月中旬に均一な苗を定植した。マルチ区と対照区は有機配合肥料(窒素:リン酸:加里=12:6:6)を用い,定植当年は夏と秋に1:2の割合で年2回施用した。翌年は春,夏,秋に2:1:2の割合で,年3回施肥した。なお,窒素量で定植当年は4.5kg,翌年は9kg施用した。
土壌の物理性と化学性に及ぼす影響について,定植翌年の5月に調査した。pHと電気伝導度(EC)はうね間表土を採取した後,1:5の水抽出法により分析した。
幼茶樹の生育調査は,樹高と新梢の太さについて定植翌年の6月に行った。また,茶樹の葉と茎部の遊離アミノ酸含有量(ニンヒドリン呈色法による)と葉と茎及び根部の無機成分合有率(硝酸過塩素酸分解法による)を定植翌年の6月に測定した。
2年分の基肥とマルチ資材を併用することにより3月から10月まで,ほぼ毎月必要な除草の手間が省け,10a当たりに換算すると除草に必要な年間90時間余りが削減された。さらに,施肥回数も慣行では2年間に5回必要だが1回で済んだ。また,同処理区では次のことが明らかになった。
(1)マルチ基肥栽培が土壌の物理性と化学性に及ぼす影響については表1のとおり,うね間表土のpHが対照区と比べ,やや高くなる傾向が認められた。電気伝導度(EC)は対照区と比べ,やや低くなった。
一方,土壌含水率はマルチをすることにより,増加する傾向が認められた。土壌硬度はマルチをすることにより対照区より柔らかくなった。

(2)樹高は対照区と変わりなく,新梢の茎径は太くなる傾向が認められた(表2)。

(3)お茶の品質に関与する遊離アミノ酸含有量は,葉部は対照区と変わらなかったが,茎部が対照区に比べて増加する傾向を認めた(表3)。

(4)マルチ区とマルチ基肥区における茶樹の無機成分含有率は,対照区に比べてカリウム及び根部のマグネシウムが高く,カルシウムは葉と根部で約10%低くなった。
マルチ資材は化学素材で腐らず,耐久性が約5年ある。本試験では定植後の茶園をすべてマルチ資材で被覆したが,経費節減のため,株元近くの両側を60cm幅のマルチ資材で被覆するなど,使用法を検討する必要があるかもしれない。
富山県環境科学センタ一 生活環境課
副主幹研究員 岡山 清司
(前 富山県農業技術センター農業試験場 土壌肥料課)
「おいしい米を,たくさん安定的に収穫する。その上,倒伏もさせず,手軽で,生産コストがかからないようにする」これが,米づくり農家の夢かと思われる。
この夢の米づくりには,いろんな要因がからんでくる。栽培的な方面からは,栽植密度や天候,水の掛け引き等があり,また土壌肥料の面からは,施肥量や施肥時期の設定等が重要になってくる。
この施肥量や施肥時期の設定には,ほ場からどれだけ地力窒素が発現するかを把握することが重要である。この際,個々の土壌の単位重量当たりの発現量については,実験室的に多くの研究があり,方法もいくつか確立されている。
しかし,稲作において「水稲の地力窒素由来の窒素吸収量」は,土壌の単位重量当たりの窒素の発現量に土壌の仮比重と作土層の探さを乗じ,さらに,その年の地力窒素の水稲による利用率を乗じたものが必要である。
その上に,もっと現場対応的なもの,すなわち,ほ場からの地力窒素の吸収量が即断できて,それに対する対応が即決できるもの,作物関係の「葉色判断」のようなものが土壌肥料関係にも必要であると考えられる。
この総合的な水稲における地力窒素の吸収量の判断指標として「地力指数」を提案したい。
古来から,農家は稲作りにおいて「田のくせ」を読み,施肥量を決定してきた。これは,長年のほ場とのつきあいの中で経験的に把握されたものである。この「田のくせ」といったものを,数値的にあらわしたものが「地力指数」の概念である。
この「田のくせ」を示すものとしては,農業試験場等では,試験田を設定する際に,ほ場から発現する地力窒素とその水稲の生育反応を把握するために無窒素区を設定しているが,この無窒素区の窒素吸収量が「地力指数」に該当し,数値化できるのではないかと考えた。
すなわち,地力指数は,無窒素区の窒素吸収量そのものであり,この窒素吸収量を現場的に判断するものとして,現在,葉色×草丈×茎数(葉色はSPAD502の数値を使用,茎数は本/㎡,得られた数値に1/1000を乗じる:以下「葉色指数」と記述)の値との相関が高いことから,利用できるのではないかと考えた。
すなわち,その年における地力窒素由来の水稲の窒素吸収量→無窒素区の水稲の窒素吸収量→無窒素区の葉色指数→地力指数である。
この「地力指数」の検討にあたって,富山県農業技術センターに設置された人工ほ場における平成5年度~9年度の5カ年のデータをとりまとめた。これは,先に平成11年の「農業と科学」9月号で発表した「米の食味に対する土壌タイプ及び施肥窒素の影響」と同じほ場である。
この人工ほ場には,黄色土,粘質土,黒ボク土,砂質土があり,作土深を一定にして造成してある。また,気象条件も水管理条件もほぼ一定であり,「地力指数」を検討するにあたって,非常に便利なものであると考えられた。また,気象条件として,平成5年度の冷夏の年や9年度の比較的天候に恵まれた年が含まれており,気象の影響を検討するためにも適当であると考えられた。
ここでの「地力指数」は,無窒素区の水稲(品種:コシヒカリ)の幼穂形成期の葉色指数として設定した。これは,幼穂形成期では水稲栽培において基肥を施用してきて適正な生育に達しているかを判断するために重要な時であり,また,その後の穂肥施用量を決定するためにも重要な時であると考えられたからである。
最初に,現在,地力窒素量を現す指標である湛水30℃4週インキュベーション値(水田土壌を湛水状態にし,30℃で保温し,一定期間に発現する窒素量を測定)と水稲の窒素吸収量との関係について検討した(図1)。

地力窒素の発現量を表すとされる30℃湛水4週インキュベーション値と無窒素区の窒素吸収量との間には,相関がまったくみられなかった。インキュベーションによる地力窒素の発現量は,水稲の窒素吸収量の推定には不十分であるとみられ,作土深や仮比重といったものを入れた総合的な地力判断を行う必要があるとみられた。
さらに地力問題を考える時,現在,堆きゅう肥の施用や基盤整備,転作等のほ場来歴によって,ほ場毎に地力が異なると考えられ,土質や土壌タイプ毎より,ほ場一筆毎に地力窒素の現状を把握する必要がでできているとみられる。また,ほ場毎の分析は,労力的にいっても困難が多く,水稲の生育状況を表す「葉色」といった簡便な,現場対応的なものの確立がここでも望まれる。
地力指数は水稲が土壌から吸収する窒素吸収量を葉色指数から判断していこうという試みであるため,最初に,幼穂形成期における水稲の窒素吸収量と葉色指数との関係を検討した(図2)。

これによると,葉色指数と窒素吸収量は土壌タイプや年次にかかわらずほぼ同一直線上にあった。このことは,土壌タイプに関係なく,窒素吸収量に伴なって水稲の生育量(草丈×茎数×葉色)が決定されると考えられた。また,葉色指数と窒素吸収の関係式は一つで十分であるとみられた。
これまで,窒素吸収や水稲の生育は土壌タイプによって異なるのではないかと推定し,検討が進められてきた。しかし,土壌タイプにあまり関係がなく,同じように取り扱うことができるとみられたことは,現場において,葉色指数から窒素吸収量を推定する場合に,より便利なものになりうると考えられた。
関係式:{葉色指数からN吸収量}
Y(窒素吸収量)=0.00357×X(葉色指数)
+0.8893 …① r=0.816 n=124
{N吸収量から葉色指数}
Y(葉色指数)=186.65×X(窒素吸収量)
+265.668 …②
水田土壌からの地力窒素の発現量は,気温に影響を受ける。このため,施肥の影響を受けない無窒素区の葉色指数(地力窒素)が気温に対してどのような動きするかを検討し,図3に示した。

気温は,田植(5月)から幼穂形成期(7月中旬)までの積算気温をとった。
水稲の地力指数(無窒素区の葉色指数)は,積算気温が高まるとともに増加する傾向がみられた。
ここで,気温が地力指数に与える影響の割合をみるために各土壌タイプ別に地力指数(無窒素区窒素吸収量)の平均値を1として,年次による積算気温との関係をみた(図4)。

積算気温の中心値(平均)は295℃であり,上下に5割程度の地力指数の幅がみられた。積算気温の範囲は,275~315℃の範囲で40℃の差であり,小さな温度差によって地力指数に大きな差異がでてくる。ただし,黄色土では,その割合が若干小さいことがみられた。
全体の相関係数rは0.483(n=20)であり,高くなかった。
これらのことを要約すると以下のようになる。
水稲に吸収利用される地力窒素は,幼穂形成期までの積算気温が約290℃のところにおいて平均的な量が出てくる。また,積算気温の小さな変化でその量が変化し,訳20℃高まると,5割程度高まる可能性が大となり(黄色土では少ない),逆に積算気温が約20℃低下すると,5割程度地力窒素の吸収量が少なくなる可能性が高くなる。この大きな変化の原因は,土壌から発現する地力窒素量の差の他に水稲の窒素吸収量の差異が気温等気象条件の影響を受けるためではないかと考えられた。
積算気温から地力指数の推定には,誤差が多いことがみられたことから,もっと現実的に,すなわち実際に生育している水稲の生育状況からその年の地力指数を推定できないかを次に検討した。
すなわち,地力指数(幼穂形成期の無窒素区の葉色指数)=施肥ほ場の葉色指数-基肥施用による葉色指数増加量…③の式の可能性を検討した。
基肥施用による葉色指数増加量は,基肥×基肥の単位当たり葉色指数増加量(基肥の葉色割合として以下記述)であり,この基肥の葉色割合が明らかになっていることが必要であり,この割合について積算気温に対する変化を検討した(図5)。

早追を施用してある場合はその施用量の1/10を加えたものを基肥量とした。
これによると,砂質土,黒ボク土,粘質土では,基肥の葉色割合は,積算気温が高まるにつれて少しづつ低下する傾向がみられた。この原因については,はっきりしたことがわからないが,積算気温が高まった時,地力が多く発現してきており,施肥による水稲の見かけの窒素吸収量の増加効果が小さくなるのではないかと考えられた。
積算気温と基肥の葉色割合の関係式を求めると以下のようになった。
砂質土,黒ボク土,粘質土の基肥の葉色割合
=-2.0439×積算気温+681.37 …④
黄色土においては,基肥の葉色割合は積算気温に対してあまり変化が見られずほぼ100で一定であった。
砂質土,黒ボク土,粘質土においては④の式でもとめた基肥の葉色割合を,黄色土においては100の値を利用し,地力指数=幼穂形成期の葉色指数-(基肥の葉色割合×基肥量)…⑤によって計算した地力指数と実際の地力指数の関係をみたのが図6である。これによると相関係数rは0.85であり,高い相関関係があるとみられ,これらの方式(式⑤)によって現場対応的な地力指数が判断できるのではないかと考えられた。

また,砂質土,黒ボク土,粘質土における平均的な基肥の葉色割合は④の式に積算気温の中心値290℃を入れて計算し,88の値を得た。黄色土では変化無しとして100である。
地力指数の判断基準のためには,適正な水稲の生育の姿を明らかにし,その中から指標となる水準を明確にする必要がある。
このために,富山県では良食味米の生産のためには,良く登熟させることが大切であるとしており,登熟歩合と着粒数との関係を検討した(図7)。

これによると,平成7年度のように着粒数が比較的少なく,登熟歩合が全て90%付近にある年,また平成9年度のように着粒数が比較的多く,多く着いた部分で登熟歩合が低下する年,さらに,冷夏の平成5年度のように,25,000/㎡くらいから急激に登熟歩合が低下する年があった。しかし,土壌タイプに関係なく,ほぼ28,000/㎡以上着粒数が取れると登熟歩合が低下することがみられた。
この着粒数の値は富山県におけるコシヒカリの良食味米生産のための基準となっている。ただし,平成5年度のように,冷夏と考えられる年には,着粒数の目標を低く抑えるべきと考えられた。
次にこの基準とする着粒数を確保するための幼穂形成期における窒素吸収量を検討した(図8)。

幼穂形成期のN吸収量と着粒数とは相関が高いことがみられた。しかも,年度や土壌タイプ及び窒素施肥の有無にかかわらずほぼ一直線上にあり,コシヒカリの幼穂形成期の適正N吸収量は,土壌タイプや年次変化,施肥の有無にはほとんど関係なく,一つの適正値で決定されるとみられた。良食味を得るための着粒数28,000/㎡得るための幼穂形成期のN吸収量は,5~7g/㎡で中心値は6g/㎡であった。
6g/㎡は,式②から地力指数に換算すると約1400とみられた。
この1400は,これ以上の地力指数では基肥を施用しなくても良いとされる限界値になると考えられる。
また,基肥3kg/10a施用できるほ場を「地力が中程度のほ場」と設定すれば,砂質土,黒ボク土,粘質土では
1400-88×3=1136
黄色土では1400-100×3=1100
の数値がほ場の地力の判断基準となると考えられた。
また,基肥5kg/10a施用できるほ場を「地力が小」のほ場とすれば,砂質土,黒ボク土,粘質土では
1400-88×6=960
黄色土では1400-100×5=900
以上,地力指数の判断基準をまとめると表1のようになる。

また,基肥の適正施肥量の設定においては,(1400-地力指数)/基肥の葉色割合 …⑥
となる。
ここで判断された適正施肥量は,その年の積算気温から推定された地力指数及び基肥利用割合から求められたものであり,積算気温によって誤差が発生する可能性があり,基肥施肥量の堆定にあたってはこの点を留意する必要がある。
また,図3で検討したように,同じ土壌においても積算気温によって地力指数が大きく,変わる。例えば,5月から7月中旬の積算気温が310℃くらいになると,粘質土や砂質土の地力指数が1400にもなり,幼穂形成期時点で水稲の窒素吸収は土壌から発現するものだけで十分であるということになり,穂肥はほとんど無施用で良いという判断になる。
このように地力の発現と水稲生育の気温に対する反応は,非常に大きく,良質米生産においてこの動きを的確に把握しておくことは欠くことができないことと思われる。この時,現場即時対応的な地力指数の把握は,重要な手段となってくる。
また,積算気温の把握も欠かすことができないものとみられた。
次に基肥だけでなく,穂肥量設定のために,地力指数との関連を検討した。
穂肥量の決定のためには,水稲の幼穂形成期から収穫期までの地力窒素吸収量が重要になってくる(穂肥時地力として以下記述)。この地力窒素量を無施肥の窒素吸収量で求め,7月中旬~9月中旬までの積算気温との関係を検討した(図9)。

穂肥時地力は,土壌タイプにより発現量に差異があることがみられ,また,この傾向は7月中旬から9月中旬までの積算気温が増加するにつれて砂質土,黒ボク土では大きく,黄色土において小さく増加することがみられた。しかし,粘質土では変化がみられなかった。
砂質土及び黒ボク土では,積算気温の小さな動きで(約270℃から330℃までの変動,変動幅60℃,積算気温の中心値300℃)地力発現量に大きな変化がみられた。
また,穂肥時地力の発現量は,幼穂形成期までの地力の発現と同じように,T-Nやインキュベーションによる地力窒素の無機化量とには,関係が小さかった。
このように,穂肥時地力の発現量の推定は大変困難であるということがわかった。
しかし,次に田植から幼穂形成期までの無窒素施肥の窒素吸収量と幼穂形成期から収穫期までの無窒素施肥の窒素吸収量との関連をみるとある程度の関係があることがみられた(図10)。

一部,幼穂形成期までの窒素吸収量と幼穂形成期から収穫期までの窒素吸収量とに関係がみられない事例があったが,線で囲まれた部分において幼穂形成期までと幼穂形成期以降の無窒素施肥の窒素吸収量は,土壌タイプにかかわらず,ほぼ同じ量であった。
穂肥時(幼穂形成期から収穫期まで)の地力発現量は,実験的に精密に求められなければならないものである。
しかし,ほ場現場において,しかも,穂肥を施用しようとする時点において地力発現量を推定する時には,田植から幼穂形成期までの無窒素施肥の窒素吸収量からの推定は役立つものと思われた。
収穫期の窒素吸収量と収量との関係を実肥が施用されていない平成8,9年度のデータで検討した(図11)。

これによると600kg/10aの収量を確保するためには,11g/㎡の窒素吸収量が必要のようである。これについても土壌タイプや年次にかかわらず同じであった。
これから適正な穂肥量を決定するためには,
(11-幼穂形成期N吸収量-地力指数から求められる窒素吸収量)/穂肥利用率60% …⑦
この中で地力指数から求められる窒素吸収量としたのは,地力指数から推定できる田植から幼穂形成期までの窒素吸収量すなわち幼穂形成期から収穫期までの窒素吸収量のことである。これは,幼穂形成期までの土壌からのN吸収量と幼穂形成期から収穫期までの土壌からのN吸収量がほぼ同じであることから導いたものである。
穂肥利用率の60%は,重窒素を使用した別の分析結果から導き出された。
以上のことがらをとりまとめると次のようになる。
地力指数は,固定されたものではなく,その年における幼穂形成期までの水稲(ここではコシヒカリで検討した)が土壌中から吸収した窒素吸収量を示す。ただし,窒素吸収量は化学分析をしなければ求められないため,現場で直接対応できて,窒素吸収量に相関が高いとみられる草丈×茎数×葉色の数値で表される。
地力指数は,窒素肥料を施用していないほ場の水稲の窒素吸収量を示す指数であるため,基肥を施用したほ場では,幼穂形成期の草丈×茎数×葉色の値(葉色指数)を測定し,基肥(早追は,その施用量の1/10とする)量と幼穂形成期までの積算気温から基肥施用による増加した葉色指数量を差し引いて求められる。
すなわち,その年における基肥の葉色割合及び基肥からの水稲の窒素吸収量は,積算気温から求められ,この数値は,県下共通のものであり,試験場等で決定し,発表されると便利である。
地力指数=農家,現地ほ場での(茎数・草丈・葉色の判断)-(基肥量)×(試験場及び普及センタ一等による,積算気温から求められた基肥の葉色割合)
ここで,農家の茎数・草丈・葉色の判断は,現在もっと簡便的なものが研究されており,株周の計測や群落を光学的に計測する方法が開発されつつある。
地力指数は,その年の幼穂形成期までの積算気温が非常に関係しており,平年的な気温の地力指数は,幼穂形成期までの積算気温290℃のところであり,それに該当しない年の平年的な地力指数の推定には,第3図及び4図が役立つと思われる。
平年の積算気温における地力指数の基準は,表1のように計算された。また,この基準は,その年の基肥量が適当であったかの判断基準になると考えられた。すなわち,実際の水稲の現地ほ場対応において,目標とすべき窒素吸収量は,土壌タイプや気象にあまり関係なくほぼ一定と考えられるからである。
この地力指数をとりまとめるにあたってわかってきたのは,水稲の生育は,土壌タイプにあまり影響を受けなく,吸収した窒素量によって決定されるということであった。すなわち,適正な水稲の姿が設定されれば,土壌タイプにかかわらず適正な水稲窒素吸収量が決定される可能性があるということであった。また,基肥等の肥料からの水稲の窒素吸収量や土壌からの窒素吸収量があまりにも天候に影響を受けるということであった。
このため,窒素吸収量は,幼穂形成期までの水稲の生育量と積算気温で判断し,その後の穂肥で生育を調節する必要があるということであった。
このことは既往の技術として,すでに明確なことであるが,地力指数は,より正確な判断技術として手助けになりうると考えられた。
穂肥の施用量の設定にあたっては,穂肥施用時から収穫期までに土壌から水稲が吸収する窒素量を推定する必要がある。その量の推定にあたって,水稲が田植から幼穂形成期まで土壌から吸収してきた量とほぼ同じ量であり,穂肥量の設定にあたって役立つものと考えられた。
地力を利用した米作りは,無駄のない低コスト稲作,環境に優しい米作りの基礎である。この時,地力をどのように把握するかであるが,地力指数は,農家の現場即応的な技術として参考となりうると考えられた。
この「地力指数のすすめ」のとりまとめにあたって富山県農業技術センターの土壌肥料課をはじめ,多くの関係者のご協力とご指導をいただいた。このことに心から感謝する。
静岡県西部農林事務所 湖西引佐分室
主任 神谷 径明
古くから「稲は地力で作れ」と言われるように水稲が生育期間中に吸収する窒素の7割近くが土壌由来の窒素(地力窒素)で占められている。このため,地力窒素を簡易に定量することは水稲の施肥量を決定する上で重要な課題となっていた。
近年,水稲の栽培期間中に土壌の有機態窒素が微生物活動等によりアンモニアや硝酸などの無機態窒素となる過程を土壌微生物の酵素反応とする速度論的解析法を応用した窒素無機化モデルの研究が進み,地力窒素の無機化量の予測法2)が考案された。以後,この解析法に基づいた水稲の施肥診断の研究が行われている。
静岡農試でも県内の水田面積の70%を占める主要水田土壌であるグライ土,灰色低地土について速度論的解析法を利用した地力窒素の発現予測法と予測に基づいた施肥法の試験を実施してきたので紹介する。
速度論的解析法を用い窒素無機化予測モデルと予測式の特性値を明らかにするため県内の細粒グライ土9点,細粒灰色低地土9点,中粗粒灰色低地土5点の23点を供試し,気温を変えて長期間培養し,無機化するアンモニア態窒素量を2~3週間おきに定量した。これを反応速度論的プログラム1)によって解析した結果,窒素無機化モデルとして主に1種類の有機態窒素が無機化する単純型モデルを採用した。
反応式は以下の①,②式のとおり
反応速度式N=No(1-exp(-k・t))+C ……①
N:生成する無機態窒素量(mg/100g乾土)
No:反応前の可分解性有機態量(mg/100g乾土)
k:無機化速度定数(day-1),t:時間(day),C:定数
但し,k=Aexp(-Ea/RT) ……②
A:定数,Ea:みかけの活性化エネルギー(cal・mol-1)
R:気体定数(1.987cal・deg-1 ・mol-1),T:絶対温度(deg)
また,反応速度論的プログラムから計算された①,②式を構成する特性値(25℃)の内,kとEaについては土壌の種類で特徴がみられ,グライ土でk:0.017,Ea:22,000,灰色低地土でk:0.013,Ea:30,000を土壌の特性値とした。
土壌中に含まれる有機態窒素量の中で微生物によって容易に分解され,無機化する可分解性有機態窒素のNoは有機物の投入など圃場管理による差が大きいため別途,窒素分析法の検討を行った。
その結果,牛糞等を多投した水田を除いてNoと相関が高く簡易に窒素量を分析できるpH7.0りん酸緩衝液抽出420nm吸光度法が最も実用的な分析法と考えられ,分析によって得られた吸光度測定値とNoの関係を示す1次回帰式(図1)からNoを推定することとした。

これらの手法によって春先に水田土壌を採取し,簡易な分析を行うことで水稲生育期間中に水田土壌から無機化する地力窒素量を推定することが可能となった。
一方,地力窒素の無機化量に基づく水稲の施肥を考えた場合,水稲の窒素要求量に対し,土壌から供給される窒素量の不足分についてのみ施肥で補うのが基本である。前述の方法により水田土壌の地力窒素量は推定が可能となったが,一方で水稲の生育・収量が最も安定する生育ステージ別の窒素吸収量を明らかする必要があった。
そこで,県の主要品種であるコシヒカリと黄金晴について施肥法を変えて栽培試験を実施し,生育ステージ別の窒素吸収量と水稲の収量,収量構成要素の関係からコシヒカリでは570kg/10aを,黄金晴では600kg/10aを得るための生育ステージ別最適窒素吸収量を明らかにした(表1)。

2,3の結果に基づきコシヒカリを栽培している現地水田について図2に示す方法で土壌分析と施肥診断を行い,実際の現場での実用性を検討するため,診断に基づいた施肥と現地慣行施肥の比較試験を実施し,水稲の生育,収量等について調査を行った。

試験は同一地域内で地力の異なる2圃場(地力の高い水田A,地力の低い水田B)を選び,土壌分析結果から生育ステージ別に無機化する地力窒素量を推定し,目標とする水稲窒素吸収量から差し引く方法で施肥量を決定した(図2)。この時の施肥窒素利用率は分施体系では基肥30%,穂肥70%,全量基肥施肥では70%として計算した。
試験区の構成は表2のとおり,施用窒素総量は地力が高い水田Aでは分施区で5.8(kg/10a),全量基肥区で5.1(kg/10a),また地力が低い水田Bでは分施区が9.1(kg/10a),全量基肥区では7.4(kg/10a)となった。比較の慣行区はA,Bともこの地区の標準施肥量である7.5(kg/10a)とした。

無窒素区の水稲窒素吸収量と推定した窒素無機化量は幼穂形成期,成熟期いずれの生育ステージにおいてもほぼ一致していた(表3)。

移植後の生育は分施区では慣行区に比べ,水稲の窒素吸収量は生育前半に少ないため茎数がやや少なく推移し,穂数も若干少なくなったものの幼穂形成期以降の窒素吸収量ははむしろ多くなる傾向がみられ,成熟期の窒素吸収量では慣行区との差はなく,収量もほぼ同等となった。
全量基肥区では現地慣行区に比べ窒素成分で3割減肥したが,生育は旺盛で草丈,茎数ともに多く,穂数,籾数とも増加した。収量は登熟歩合が低下して屑米が増加したため少なくなった(表4,5)。


無窒素区の水稲窒素吸収量と推定した窒素無機化量を比較すると幼穂形成期までの水稲窒素吸収量が推定量を上回っていた。幼穂形成期から成熟期までの水稲窒素吸収量と窒素無機化推定量の差は小さかった。
このため慣行区に比べ窒素施用量が多い分施区では生育が旺盛で収量は増加したもののやや倒伏程度が大きくなるなど,過繁茂気味の生育となった。
全量基肥区の窒素施肥量は慣行区と同等であったが,分施区と同様過繁茂気味の生育となり倒伏,屑米の増加によって大きく減収した。
これらの結果,地力窒素の無機化推定に基づく施肥診断は水田Bで初期の水稲の窒素吸収量が地力窒素推定量を上回ったが,分施体系での施肥については生育,収量とも概ね良好で実用可能な技術と考えられた。
一方全量基肥施肥については両水田とも屑米が増加して収量が減少する結果となったが,水田Aでは慣行区の3割減でも生育量が確保される等,施肥量の決定に問題はなく,減収の原因は被覆肥料の種類,配合割合を生育後半の肥効に重点化したことが原因と考えられた。このため登熟期にも窒素肥効が続き,本来退化する籾が残り,屑米の増加などのマイナス要因となった。今後,被覆肥料の種類,配合割合を変え,コシヒカリではむしろ生育後半の肥効を少なくした銘柄での検討が必要である。
水田土壌は乾燥するとその後,窒素無機化量が増加することが乾土効果として知られているが,試験場内で栽培した早期~準早期栽培のコシヒカリの水稲窒素吸収量が栽培年によって大きく変動することがあり,この原因として乾土効果が考えられている。
そこで,無窒素栽培したコシヒカリの成熟期窒素吸収量を土壌からの窒素供給量と仮定し,地力窒素の推定法で得た窒素無機化量を差し引いた窒素量が乾土効果による増加分と考えた。この窒素増加量と土壌の乾燥程度の指標として1~4月の降水量を対象に両者の関係を調査した結果,3,4月の降水量の合計と窒素増加量の相関が高いことが確認された。窒素量の増加は一定の降水量以下で現れ,降水量が少ないほど大きくなる傾向がみられた。また,土壌の種類では粘質な細粒土壌より粗粒質土壌ほど影響が大きかった(図3)。

水田Bの場合,水田Aに比べ海岸部に近く,土壌の仮比重が重いことからもわかるように砂を多く含んでいる等,土壌が乾燥しやすい条件にある。このことから生育前半の窒素無機化量の増加は乾土効果の影響によるものと推察された。
地力窒素の無機化に基づく施肥診断の実用性は分施体系で確認されたが,生育途中で追肥による修正が難しい全量基肥施肥法での活用がより重要と思われる。全量基肥施肥については今後,この地力診断の手法を利用しながらコシヒカリ等の品種に適した被覆肥料の種類や配合割合などを明らかにする必要がある。
また,地力窒素の無機化量は乾土効果や有機物の投入,土壌条件によっても変動するため,現場でのデータの蓄積の中で推定精度をより高める必要がある。施肥診断の導入に当っては診断結果と既存の現地慣行施肥法を考慮しながら施肥量を決定するなど従来の施肥,生育診断法と併用することでより安定した技術となろう。
地力に応じた施肥診断は単に生産の安定を目指すだけでなく,環境にやさしい農業の推進や低コスト栽培技術として,さらに発展,活用されることが期待される。
1)杉原進・金野隆光・石井和夫(1998)農業および園芸,63:929~933
2)金野隆光(1987)土壌窒素無機化の特性評価と窒素供給プログラム(ENMS)農業研究センター編,Ⅳ:2~3