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第517号 2001(H13).04発行

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被覆肥料を育苗培養土に混合した
セル成型苗利用によるキャベツ栽培(前編)

千葉県農業試験場 北総営農技術指導所
東総野菜研究室
上席研究員 福地 信彦

1.はじめに

 セル成型苗による育苗法は,アメリカの花きの苗生産を中心に発達してきたものである(西・崎山,1993)。日本の野菜栽培では,長野県が最も早く技術開発を行い,1988年4月にレタスの育苗システムを普及に移した(塚田ら,1989)。これを契機に,葉菜類を中心としたセル成型苗の実用化試験が,国公立の試験場や,民間企業において盛んに行われるようになった。

 千葉県では海上町農協が最も早く,長野県の事例にみならいセル成型苗生産方式による育苗センターを建設し,1990年からキャベツ,レタスなどの苗生産を開始した。当研究室ではその生産技術の向上並びに機械化,省力化につながる新しい育苗法として,セル成型苗に関する試験を実施し,キャベツ,レタス,パセリーの育苗法(福地・青柳,1996),キャベツセル成型苗の低温貯蔵法(福地ら,1997),キャベツセル成型苗の生育制御法(福地ら,2000)などに関して研究成果を挙げてきた。

 本稿では,セル成型苗に関する試験のなかで,特に被覆肥料の利用の経緯とその試験結果について,続編では窒素無施用の圃場でキャベツを栽培することを目的に,シグモイド溶出タイプの被覆肥料を育苗培養土に混合した,セル成型苗利用によるキャベツ栽培について紹介したい。

2.セル成型苗の生産における被覆肥料の利用

 長野県で開発されたセル成型苗の育苗システムでは,育苗培養土に含まれる養分は必要最小限とし,育苗中期から液肥を補給する方式が採用されていた(塚田ら,1989)。しかし,この方法では播種日が異なるセルトレイが同一ハウスで育苗されている場合,一部は無肥料の水をかん水し,他方は液肥をかん水するなど,かん水方法を変えなければならず,省力的ではなかった。

 筆者は,被覆肥料であれば,苗の生育に併せて徐々に窒素等が溶出し,かん水のみでセル成型苗の生産ができるのではないかと考え,1990年にリーフレタスを用い予備試験を行った。発泡スチロ一ル製のセル卜レイに市販の育苗培養土(添加窒素成分量30mg/ℓ )を充填し,ロング424-100(14-12-14)を1セルにそれぞれ1粒,2粒,3粒,4粒理め込んだ区と無施用区の計5区で検討した。5月23日に播種し,黒ポリマルチをした圃場に6月15日定植した。定植圃場の窒素施用量は,いずれも24kg/10aとした。

 その結果,定植時の苗の生育は,3粒区までは埋め込み粒数が多いほど地上部,地下部の生体重が重くなり,4粒ではやや生育が抑制される傾向にあった(図1)。収穫時の生育は埋め込み粒数が多いほど調整重が重く,草丈が高くなった。4粒では無施用区の約2.2倍の調製重となった(図2,写真1)。

 以上のように,育苗培養土に被覆肥料を混合すると,育苗期間中かん水のみで管理ができ,かつ定植後の生育が優れるなどの利点があった。しかし,市販のロング肥料を1セルごとに数粒ずつ入れるのは,実用化技術になり得ないと思われた。

3.マイクロロングトータルの評価

 セル成型苗の生産において,被覆肥料の利用は新しい技術になると思われ,ロング肥料を生産しているチッソ旭肥料(株)に,セル成型苗に使用できる肥料の評価の働きかけを行った。

 セル成型苗は育苗培養土の量が20~30mlと少ないため,被覆肥料を利用する場合は,いかに均一に混合するかが大問題となる。育苗培養土と均一に混ぜるためには,肥料の粒径を大きくして各セルに確実に1粒ずつ入れる方法と,粒径をできるだけ小さくし,育苗培養土と混合する方法の二つが考えられる。

 そこで,粒径を小さくしたマイクロサイズを入手して試験を開発した。

4.キャベツセル成型苗の育苗培養土への被覆肥料の混合利用に関する試験

 1991年にレタスで,1992年にキャベツとパセリーで育苗培養土へのマイクロロングトータルの混合量と各作物の苗の生育,収穫時の生育について検討した。本稿ではキャベツの試験結果について紹介する。

 市販の育苗培養土(添加窒素成分量30mg/ℓ )1ℓ 当たりに被覆肥料を1g混合する1g/ℓ 混合区,同様にして3g/ℓ 混合区,5g/ℓ 混合区,と播種後10日目より液肥をかん水した無施用区の4水準を設けた。被覆肥料はマイクロロングトータル201-100(12-10-11)を用いた。8月13日に播種し,9月7日に定植を行った。

 その結果,定植時の苗の地上部重,地下部重,草丈,葉数とも5g/ℓ 混合区が最も優り,次いで3g/ℓ 混合区,無施用区,1g/ℓ 混合区の順となった。5g/ℓ 混合区は草丈が14.6cmと高く,葉数が4.2枚と多かったため,葉が絡み合い,苗の引き抜き易さの程度が他の区に比べ悪かった。定植後の10月5日の地上部重は5g/ℓ 混合区が最も重く,次いで3g/ℓ 混合区,無施用区,1g/ℓ 混合区の順となった(表1)。

 収穫時の地上部重,球重も,定植後の生育と同様の傾向を示したが,区間差は小さかった。いずれの処理区も球重1,200g以上となり商品性に問題はなかった(図3)。

 以上のように,育苗培養土へのマイクロロングトータルの混合は,育苗期間中のかん水を液肥に頼らず,無肥料の水のみで管理ができ省力的であるとともに,定植後の初期生育も優れるなどの利用効果があった。

5.おわりに

 上記の試験を実施した時から次のようなことを考え始めた。すなわち,セル成型苗において育苗期間中は肥料成分の溶出がほとんどなく,定植後に生育に合わせて溶出する被覆肥料があれば,定植圃場の施肥量を大幅に削減できるのではないか?これを現実のものとするためには,初期溶出を極力抑えたシグモイド溶出タイプの被覆肥料が必要であった。これ以降の試験結果等については続編で紹介したい。

引用文献

●福地信彦・青柳森一(1996)キャベツ,レタス,パセリーのセル成型苗の育苗法-育苗日数,育苗培養土,被覆肥料の利用が生育に及ぼす影響-.千葉農試研報.37:73-84

●福地信彦・吉岡宏・市村一雄・清水恵美子・藤原隆弘・青柳森一(1997)キャベツセル成型苗の低温貯蔵が苗質および定植後の生育に及ぼす影響.千葉農試研報.38:27-33

●福地信彦・吉田俊郎・青柳森一・宇田川雄二(2000)キャベツセル成型苗の生育調節剤による伸長抑制および苗の形質と全自動移植機による植え付け精度の関係.千葉農試研報.41:11-17

●西貞夫・崎山亮三(1993)育苗方式を異にする苗の一般名称について.農業および園芸.68:579-583

●塚田元尚・下條周・藤森基弘・大谷英夫(1989)野菜大量育苗のシステム化に関する研究 レタスの簡易大量育苗法.長野野菜花き試報.5:25-38

 

 

肥効調節型肥料を利用したセルリー施肥事例

静岡県西部農業改良普及センター
技術支援課
副主任 山来 実木夫

1 はじめに

 近年,社会の環境問題にたいする意識向上に伴い農業分野においても環境負荷を軽減する取組みが迫られている。一般に施設野菜は普通作物に比べ施肥量が多い。セルリーにおいても古くから肥料と水で作る野菜といわれるように吸収量以上の施肥が行われている。現地の慣行施肥体系での窒素投入量は,1期作で10aあたり63kg,2期作では42kgとなっているが1期作のN吸収量は23kgであり,施肥した半量以上は利用されず土壌中に蓄積し次作で利用されるか流亡することが考えられ環境負荷軽減の取組みとしての施肥量削減の必要がある。

2 肥効調節型肥料利用による施肥量削減事例

 セルリーの生育期間は100日前後と長期にわたるため慣行栽培においては元肥と追肥を3回に分けて施用する栽培方式が慣行の基本となっている。

 これは,慣行の施肥体系では速効性の肥料を中心に施されているため全量元肥では長期間肥効が保てないことや,速効性肥料成分が早く溶け出すため濃度障害が懸念されるためである。過去の試験結果からは単純に施肥量を削減させることは収量の低下を招くことが確認されている。環境負荷軽減のみに主眼をおき施肥量の削減を行うことは収量を無視するように受け取られ普及性に欠ける。無駄な施肥を無くして収量を維持する方策が求められる。

 この2つの欠点を補うための肥効調節型肥料利用による全量元肥による省力施肥と投入窒素量削減効果について検討した。

3 試験結果

 耕種概要
 試験場所 静岡県浜松市
 定植 平成11年9月10日
 収穫 平成12年1月11日
 栽植密度 畝幅1.2m 2条植え 株間38cm 4,200株/10aハウス白黒ダブルマルチ
 使用資材 スーパーロング424 100日タイプ

4 結果及び考察

(1)試験実施時期のセルリーの生育は,育苗時期には高温の影響で徒長気味の生育となったが,定植以降は病害虫の発生も少なく順調な生育となった。

(2)生育調査結果からは,草丈・葉数に明確な差は認められなかったが,スーパーロングを利用した区で揃いが良好であった。(表2)

(3)収穫調査からは,草丈・全重・調整重ともに明確な差は見られなかった。(表3)

(4)肥料費については,減肥を行うことで慣行と同程度に抑えられた。(表4)

(5)以上の結果から,スーパーロングを利用することにより投入窒素量を減じても慣行と同程度の生育・収量であることが確認され,環境保全型施肥技術の確立を図るうえで実用化が高いと考えられた。また,全量元肥による追肥省力化も可能と考えられた。

 

 

肥料の形態を活用した砂栽培トマトの
尻腐れ果発生聡戚対策

静岡県農業試験場 土壌肥料部
部長 金田 雄二

1 はじめに

 トマトの尻腐れ果(写真1)は,果頂部のカルシウム欠乏によって発生することが古くから知られています。トマトの果実中のカルシウム含有率は,もともと非常に低く,葉中の含有率が1~5%程度であるのに対し,その10分の1以下に過ぎません。カルシウムは根の先端の数センチメートルの部位から吸収され,その吸収は,土壌や大気の過乾・過湿,多肥,弱光線など,吸水を抑制する条件で抑えられることが分っています。

 静岡県の遠州灘や駿河湾の沿岸に広く分布する砂土は,表1,2に見られるようにカルシウムなどの交換性塩基含量,およびその主要供給源としての鉱物質が少なく,かつ粗粒なため,施肥やかん水管理の不備などから,尻腐れ果の発生を余儀なくされています。

 そこで,その発生防止対策として,窒素・石灰の形態や点滴間隔の相違および発生を軽減させると推察される肥料の効果について検討を試みました。

2 苦土石灰の施用では尻腐れ果の発生を抑制できない

 図1に示した幅60cm,深さ7cmの金網ベット製の隔離床砂栽培システムを用い,品種’ハウス桃太郎’を株間40cm,2条植で,秋冬期(定植9月18日)に3段摘心栽培(10月29日に第3果房上2葉残し摘心)を行い,11月15日から12月26日間に果実を収獲しました。試験区は粒状苦土石灰0,40,80,120g/㎡を設け,施肥はFTE1.5g/㎡,住友液肥2号を80mgN/日・株施用し,かん水量は300~700ml/日・株で点滴間隔を20cmに設定し管理しました。

 この結果は,表3に見られるように,生育・収量,および尻腐れ果の発生程度と石灰施用量との関連性は明らかではありませんでした。

3 尻腐れ果の発生は硝酸態窒素で抑制可能

 図1に示した隔離床砂栽士音システムを用い,品種’桃太郎’を株間30cm・1条植で,秋冬期(定植9月30日)に3段摘心栽培(11月9日に第3果房上2葉を残し摘心)を行い,12月8日から2月26日間に各々の果実を収獲しました。

 施肥は粒状苦土石灰40g/㎡,FTE1.5g/㎡施用し,試験区は液肥で窒素形態を尿素態主体(尿素態:アンモニウム態=8.3:1.7)と硝酸態主体(尿素態:硝酸態=3.6:6.4)を設け,20~30mgN/日・株を施用し,リン酸と加里は各々第一燐酸加里と塩化加里で補正しました。また,かん水は200~270ml/日・株を15cmと20cmの点滴間隔で2処理を設け,土壌水分を3~5%の低水分で管理しました。

 この結果,窒素の形態の相違で,初期生育に差が認められませんでしたが,尿素態主体では,生育中期から葉に鉄欠乏に類似した症状が発生しました。尻腐れ果の発生率は,表4に見られるように硝酸態主体で著しく抑制でき,収量・品質も硝酸態主体で優る傾向にあることが分りました。なお,点滴間隔の相違では差は認められませんでした。

 茎葉中の無機成分は,表5に示しましたが,硝酸態主体の方がカルシウムの含有率が高く,加里含有率は低く,加里/石灰バランスが低いことが確認されました。

4 被覆硝酸石灰の施用で尻腐れ果の発生は軽減できる

 2千分の1aワグネルポットに品種’桃太郎’(台木 ’興津BF101’)を夏期に定植(5月6日)し,4段摘心栽培(6月26日に第4果房上2葉を残し摘心)を行いました。収獲は7月4日から8月2日の間で実施しました。

 試験区として100日タイプの被覆硝酸石灰(硝酸態窒素21%,石灰23%)と被覆燐硝安加里(硝酸態窒素:アンモニウム態窒素=1:1)を設け,前者は重焼燐,硫酸加里,炭酸苦土,後者は苦土石灰で成分の調整を行いました。施肥量は元肥で窒素,リン酸,加里,石灰,苦土を5.0,4.3,5.0,9.6,14.2g/株施用し,かん水は葉のしおれを目安に行いました。

 この結果を表6に示しました。尻腐れ果の発生率は,被覆燐硝安加里が4果房平均73%に対し,被覆硝酸石灰は水ストレスの過酷な条件下においても,各果房段位とも発生率が少なく,平均10%と少ないことが分りました。

 カルシウムの吸収は,表7,8に見られるように第4果房開化22日後の直下葉および幼果の果頂部とも被覆硝酸石灰で多く,加里/石灰バランスが一定な傾向がうかがわれ,尻腐れ果の発生と密接な関係が認められました。なお,幼果のカルシウム含有率は,果実基部より果頂部の方が尻腐れ果の発生をよく反映することが分りました。

5 ケイ酸カリウムの施用で秋冬期の尻腐れ果の軽減できる

 図1に示した隔離床砂栽培システムに品種’桃太郎’(台木 ’興津BF101’)を秋冬期に定植(9月10日)し,4段摘心栽培(10月5日に第4果房上2葉残し摘心)を行い,11月8日から12月18日まで収獲を行いました。

 施肥量は,元肥時に加里で2,6,10g/㎡を施用し,その後住友液肥2号を窒素32mg/日・株を供給し,点滴間隔20cmで,400~480ml/日・株のかん水を行いました。また,苦土石灰40g/㎡,FTE15g/㎡を施用しました。

 この結果を表9に示しました。尻腐れ果の発生率は,各果房ともケイ酸カリウムの施用量が増すほど減少し,無施用が平均15.1%に対し,10gの施用では2.3%に低下することが分りました。また,健全果の収量も高まることが分りました。

 これらのことから,ケイ酸カリウムは水に溶けにくい形態の緩効性加里肥料で,尻腐れ果の発生に対し,秋冬期において施用効果が著しいことが分りました。なお,夏期栽培では施用により,直下葉や果実中のカルシウム含有率はほとんど高まらず(データ省略),尻腐れ果の発生軽減効果は余り期待できないものと思われました。

 この原因として,夏期高温時にはケイ酸カリウムの緩効性機能が低下し,土壌中に加里が著しく溶出する結果,加里/石灰などの吸収バランスが乱れ,尻腐れ果の発生を軽減できなくなるものと推察されました。

6 おわりに

 トマトの果実内へのカルシウム移動は,篩管経由でわずかな水と共に,葉から流入したものであり,このことが果実内のカルシウム含有率が低い理由の一つと考えられています。また,果実への水の移動は根圧流(溢液の多少で判断可能)が関与する夜間に多いことが分っています。従って,尻腐れ果の発生防止対策としては,果実の直下葉のカルシウム濃度を適切な石灰資材の施用により高めておくこと,果実の急激な肥大と光合成産物の流入で果実内のカルシウム濃度を低下させないこと,多肥や尿素態,アンモニウム態窒素は避けること,根圧流を低下させるような土壌や室内の過乾を避けることなど心掛ける必要があるものと思われます。