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第536号 2002(H14).12発行

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秋田県大潟村で展開されている新しい水田農法
-育苗箱全量施肥を用いた不耕起および無代かき移植水稲栽培-

秋田県農業試験場 大潟農場
主任専門研究員 太田 健
(現:中央農業総合研究センター 土壌肥料部)

1.はじめに

 かつて22,024haと,我が国第二の湖だった八郎潟は,昭和32年に始まった干拓事業により昭和41年に干陸され,17,203haの新たな農地となった。昭和43年から営農が始まり,現在,干拓地に誕生した大潟村では560戸の農家が一戸当たり1.25haの圃場を12枚,合計15haを耕作している。干拓地の土壌の8割は「ヘドロ」と呼ばれている低湿重粘土で,粘土含量が約50%と特異な土壌である1)

 干陸から35年以上たった現在も地耐力が弱く,農家は大型機械の走行と作物生産に支障がない基盤作りのため,暗渠や明渠の施工などに多大な労力を費やしている2)。物理性,排水性は不良だが,リン酸やカリが豊富で地力窒素の供給も多く,化学的な肥沃度は高い。

 筆者が秋田県農業試験場大潟農場の指定試験主任として,この大潟村に赴任したのは平成9年の4月であった。大潟村の農家や大潟農場が水稲の不耕起移植栽培に取り組んで約10年,基本的な技術は完成した時期であった。不耕起移植を実践している農家グループ,O-LISA研究会(大潟村低投入持続型農業研究会)所有の不耕起田植機で初めて田植えをした時は,正直言って,これで本当に苗が活着し,実りの秋を迎えられるのか心配だった。苗よりも前年の稲株が目立つ不耕起水田の活着は代かきに比べ遅く,分けつも遅れたが,素人目にも稲の姿が良く秋の実りは充実していた。

 「肥効調節型肥料」を用いた「育苗箱全量施肥」による「不耕起移植水稲栽培」および「無代かき移植水稲栽培」はO-LISA研究会を中心に,JA,農機具や肥料メーカ一,秋田県立大や農業試験場の研究者が一体となって開発・改良した技術である。この新しい水稲栽培法は省力・低コスト栽培法であり,また,環境調和,環境修復型の農法でもある。

 これらの農法・技術を一冊の本にまとめる編集をお手伝いすることになり,私は,この新しい農法の開発の経緯や八郎潟干拓の歴史,農家の営農の実態を知ることになった。当初,この本は自費出版として関係者だけに配布されたが,現在は農文協から庄子貞雄監修「大潟村の新しい水田農法-苗箱全量施肥・不耕起・無代かき・有機栽培-」として出版されている。最初に,この本の内容を簡単に紹介し,次に,新しい農法の特徴と,水・大気・生物環境に与える影響について述べてみたい。

2.「大潟村の新しい水田農法」の紹介

 この本は「Ⅰ.我が家の農法」,「Ⅱ.大潟村の農業と自然」,「Ⅲ.新農業技術の生い立ち」の3章から構成されており,全265ページ,農文協から出版されたのは2001年12月である。

 「Ⅰ.我が家の農法」は,育苗箱全量施肥や不耕起,無代かき栽培を実践しているO-LISA研究会のメンバー11人による執筆である。干拓当初の苦労話や想い出,昆虫少年だった農家が観察した不耕起水田の生物の豊かさ,「ヘドロ」土壌と格闘する営農の実態,不耕起栽培や育苗箱全量施肥などの新しい技術開発に挑戦する熱意と工夫,農家の生の迫力ある文章が続く。

 「Ⅱ.大潟村の農業と自然」の前半は,大潟村に昭和45年,4次入植農家として入村し,今は県立大の教官として活躍している著者が書いている。干拓の歴史から始まり,入植当時の手作業による田植えや入植農家の生活の様子,1.25haという大区画ヘドロ土壌での営農・技術の変遷,日本の農業を取り巻く情勢の変化と生産調整で揺れる大潟村の水田農業の実態が著者の経験として克明に描かれている。後半は,八郎潟干拓地の土壌,水,気象資源の特徴が簡潔にまとめられている。肥沃だが地耐力が劣り大型機械の走行を阻むヘドロ土壌の特徴,農業や生活用水用に残された4,500haの八郎湖(残存湖)の豊かな水量と近年の水質の悪化傾向,稲作に最適な気候条件が分かりやすく説明されている。

 「Ⅲ.新農業技術の生い立ち」では,水稲の育苗箱全量施肥技術と不耕起移植栽培技術開発の中心となった著者が,開発の経緯から,技術の特徴,実施するときの注意事項までを解説している。ほかに,不耕起や無代かきの継続効果,水稲の有機栽培の実態,また,畑作技術として不耕起ダイズ栽培や,不耕起および無代かき水稲栽培による土壌の物理性や排水性の改善効果が述べられている。また,肥料メーカーの著者によって,肥効調節型肥料(苗箱まかせ)による育苗箱全量施肥技術の開発秘話が語られていて興味深い。新しい技術の環境保全的な側面や経営的評価,普及の可能性についても言及されている。

 このように,農家とメーカーや研究機関の技術者,研究者が一緒に作成したユニークな本となっている。一読いただけたら幸いである。

3.育苗箱全量施肥を用いた不耕起および無代かき移植栽培

 不耕起移植栽培3)および無代かき移植栽培4)の体系を慣行代かき移植栽培と比較して図1に示した。不耕起移植では田植えの2週間から10日前に,非選択性除草剤を散布し,1週間ぐらい前に入水し田面を柔らかくして移植する。不耕起移植田植機の特徴は移植部分の前に駆動ツメが付いていることである。このツメで移植するところだけ,幅5cm,深さ5cmで耕起しながら移植していく。植え付けは慣行栽培より深めの3~4cm深が良く,浅いと根張りが悪かったり倒伏につながる。育苗箱全量施肥の併用によって追肥も省略できるため労働時間は慣行の63%に短縮でき,コストも約20%削減できる。

 無代かき移植栽培は,代かき作業を省略した栽培法である。近年では,レーザーレベラーを用いて均平作業を行った後に移植する栽培法が増えている。普通の田植機でも移植できるが,不耕起田植機を利用すると植え付け精度が良く,欠株が少なくなる。

 不耕起移植栽培を行うと,表層の酸化還元電位はワラの分解とともに低下するが,表層から3cm以下の低下は緩慢であり酸化的な状態を保つ。また,根の跡の孔隙や土壌構造はそのまま維持されるので,代かき田に比べ収穫後の水はけが良く,耕起した場合は砕土性も優る(図2)。初期の生育は慣行代かき栽培に比べ劣るが,根が健全で秋優り的な生育を示し,収量も慣行代かき栽培と同等かそれ以上になる5)

 無代かき移植栽培も代かきを行わないため,移植後も耕起された土塊がそのまま残り,還元的な部分と酸化的な部分が混在する状態が湛水期間中継続する。やはり根が健全に育ち,地耐力が増し排水性が良くなる。

 平成13年の普及率は不耕起移植が大潟村の水田の0.5%にあたる40ha,無代かき栽培が4%にあたる300haとなっている。育苗箱全量施肥は追肥が省略でき,生育が均一になるので代かき移植栽培でも普及しており,大潟村の水田の約40%,3,000haで利用されている。肥効率が70~80%と高く,窒素の投入量を減らした減化学肥料栽培が可能となる。

4.水質浄化

 干拓で残った八郎湖の水は主に農業用水として利用されており,19カ所の取水口から幹線用水路で干拓地の水田に供給される。排水は小排水路から幹線排水路を経て南北の排水機場から八郎湖ヘ排出され,一部は再び用水として循環利用される。このように閉鎖性水系である八郎湖の水は水稲かんがい期に9回程度循環して利用される計算になる。干拓地や周辺からの懸濁物質や窒素,リンなど汚濁物質の流入による八郎湖の水質悪化が問題となっている。

(1)代かき水の落水に伴う流出

 最初に,干拓地内の慣行代かき水田での水質汚濁物質の流入・流出がどうなっているか見てみよう。土性が異なる1.25haの水田,3カ所でかんがい期間に流入・流出する懸濁物質(SS),全窒素(T-N)を調査した。いずれも肥効調節型肥料を用いた育苗箱全量施肥を取り入れた代かき移植水田である。作土の土性はA水田が砂壌土(SL)と粗く,B水田が埴壌土(CL),C水田は重埴土(HC)で粘土含量は50%程度である。

 表1にSSとT-Nの流入負荷と流出負荷,その収支を示した。懸濁物質の収支は+900~4200kg/haと3カ所とも水環境に莫大な負荷を与えており,作土の土性が細かいほど多くなっていた。特に,移植前の落水による負荷が多く,代かき~移植時に全かんがい期間流出量の85%以上が排出されていた。懸濁物質の主体は粘土で,肥沃な作土が失われていることになり,作物生産の面からも問題である。全窒素の収支は+10~13kg/haと,やはり3カ所とも水環境に負荷を与えていた。代かき~移植時に全かんがい期間流出量の40~70%が排出されていた。

 このように,代かきを行い,移植直前にSSなどを多量に含んだ田面水を落水することが問題で,八郎湖,特に,西部承水路(南部排水機場からの排水が流入し,八郎湖でも水質の悪化が著しい)のSSやT-N濃度はこの代かき・移植時期に急上昇し,徐々に低下する。

(2)不耕起移植栽培による水質浄化6)

 次に,不耕起と慣行代かき栽培の水質汚濁物質の負荷を1993~1996年の4年間調査した事例を見てみよう。1993年は農家の1.25ha圃場,それ以外は,秋田農試大潟農場の10a圃場で調査している。

 不耕起移植栽培では田植え前に落水しても,代かきしていないので泥水にならず,田植え時期の流出は少ない。全かんがい期間の流出と流入の負荷の差である収支をみると,不耕起移植栽培では懸濁物質(SS),全リン(T-P)の環境負荷が軽減され,特に,SSではその効果が著しく高い(表2)。

 化学的酸素要求量(COD),全窒素(T-N),特に,CODは年によっては,不耕起栽培の方が収支が大きくなっている。これは,ワラが田面にあるので,有機物が田面水中に溶け出しやすかったのが原因であろう。

(3)無代かき移植栽培による水質浄化

 次に,無代かき移植栽培の水質汚濁物質の環境負荷を秋田農試大潟農場の10a圃場で慣行代かきと比較した結果を示す。

 用水量は慣行代かきに比べ,無代かき移植栽培で2倍以上と多くなった。これは畦畔からの漏水などによるものである。なお,慣行代かきは,なるべく汚れた水を出さないよう節水した水管理を行った。

 無代かき移植栽培の移植時の落水に伴うSSの負荷は27kg/ha,T-Nは0.7kg/ha,T-Pは0.1kg/haと,慣行代かきに比べ半分の量になった。

 通常,無代かきでは耕起後に水を入れて土塊を軟らかくし,自然落水後,移植は圃場表面に水がスジ状に見える程度で行う。このため,耕起から移植時の流出量が慣行代かきに比べ少なく,落水する場合でも不耕起栽培と同様,代かきをしないので水は泥水にならない。

 全かんがい期間の流入と流出量から汚濁物質の収支を計算すると,無代かき移植栽培ではCOD,SS,T-N,T-Pともにマイナスの{直になっており,水田で浄化されていた。特に,SSでは-630kg/ha,T-Nでは-6kg/haとその効果が高かった。これは,移植時の落水に伴う負荷が少ないことに加え,無代かきでは土塊が大きく,かんがい時の用水流入に伴う田面土壌の巻き上げが少ないこと,さらに,土塊に懸濁物質が吸着するなど,土壌表面での浄化効果が大きいためと推定される。慣行代かきでも節水した水管理を行ったので,流出負荷は少なくなっている(図3)。

 近藤ら7)によれば,現在,大潟村の水田から稲作期間に排出される懸濁物質は,排出される負荷量から取水で流入する負荷量を差し引いた差引排出負荷量で12,000tという莫大な量になる。近藤らのシミュレーションによれば,不耕起移植栽培が大潟村の水田の半分に普及すると,差引排出量は半分になる。

 一般に水田には水質浄化作用があり,窒素やリンを浄化できることが知られている。しかし,八郎潟干拓地では粘土が多くスメクタイトが主体であり懸濁しやすい。このため代かき水の落水に伴う流出などで,逆に,水田が水環境を悪化させている。不耕起,無代かき移植栽培は,このような土壌条件のところでも水環境を保全・修復できる農法である。

5.大気環境の改善

 先に述べたように,慣行代かきでは,耕起・代かき作業でワラが鋤き込まれ構造が破壊されるため,特に夏場には作土は酸素がない還元状態となる。強還元状態になると,ワラなど有機物の分解によって温室効果ガスのメタンが発生する。伊藤ら8)が秋田農試大潟農場の10a圃場でチャンパ一法を用いて行った慣行代かきと不耕起水田からのメタン発生量(フラックス)を測定した(図4)。

 6月上旬から8月上旬までの水田からのメタンブラックスをみると,慣行代かき水田では6月上旬に最高値を示し,それ以降次第に減少し,7月下旬には少量となった。これに対して,不耕起水田では,6月上旬から7月上旬までほぼ一定で,慣行代かき水田の1/3程度で推移した。6月上旬から8月上旬までの総発生量は,慣行代かき水田43g/㎡に対し,不耕起水田では16g/㎡となった。このように,作土が酸化的に推移する不耕起移植栽培は,地球温暖化ガスのメタンの発生量を抑える農法である。

6.生物環境の改善

 神宮字9)は,八郎潟干拓地内にある秋田県立大学短期大学部附属農場の1.25haの圃場で,慣行代かきと,不耕起,無代かき移植栽培水田における水生生物の種類を調査した。その結果,不耕起,無代かき水田では11種類の水生生物が確認されたが,慣行代かき水田では,そのうち,ガムシ4種類が確認できなかった。

 また,神宮字9)はトンボ(アカネ属)の羽化殻調査も行っている。それによると,1999年7月1日から8月2日までの羽化殻数は50㎡当たり,慣行代かきで110,無代かきで1699,不耕起で1293となった(図5)。2000年の6月から8月までの総羽化殻数は慣行代かきで202,無代かきで625,不耕起で1674となった。

 この理由として,神宮字は次のように推定している。慣行代かき水田ではアカネ属の卵の大部分は耕起,代かきという攪乱によって作土中に埋伏され,酸素欠乏と有害物質の発生によってふ化率の低下と幼虫の死亡率を高めた。一方,不耕起水田では卵は埋伏されることなく好気的条件下でふ化し,田面の稲わらも好気的に分解し水生生物に豊富な餌が供給され,発生に貢献した。無代かき水田では,慣行と同様に卵は作土中に埋伏されるが,無代かき水田の作土中には多量の孔隙があり,その孔隙が田面に通じ,比較的酸化的で有害物質の発生が少ないことが発生を増加させたという。

 また,ある農家は不耕起水田を「54,000匹の赤トンボのふる里」と呼び,7月の早朝,不耕起水田で多数の赤トンボが羽化する様子を観察している。また,ミミズや他の昆虫も多くなり,雨が降り出す前,ツバメが不耕起水田から隣接する慣行代かき水田に数m飛んだところで,昆虫を求めてまた不耕起水田に引き返す行動も観察している10)

 このように,不耕起,無代かき水田は慣行代かき水田に比べ,水田を住処とする生物にとって安定した生息環境となっている。

7.おわりに

 大潟村では,農家,役場,JA,秋田県立大や秋田農試の研究者が一緒になって「21世紀大潟村環境創造型農業宣言」を発表し,環境と調和した農業と暮らし方を村ぐるみで創り出そうという運動が展開中である。環境に対する意識が高まるなかで,農業に対しても環境保全と作物生産が調和した持続的な安定生産技術が求められている。ここで紹介した不耕起,無代かき移植栽培は,農業環境の保全・修復に大きく貢献する農法として,この宣言の中でも目玉の一つとして重要視されている。

 しかし,不耕起や無代かき移植の普及率はまだ低い。技術的に慣行代かきに比べ難しいこと,不耕起田植機の値段が普通の田植機より高いこと,環境保全に対する市場の評価がなく経済的メリットが少ないことなどが理由であろう。また,均平問題や用水量が増加することなど解決すべき課題もある。不耕起や無代かき移植栽培が環境調和型の省力・低コスト栽培法として大潟村ばかりでなく,他の水田地帯でも普及することを願っている。

引用文献

1)三浦昌司:秋田農試研報,26,85~190(1984)

2)金田吉弘:秋田農試研報,33,1~45(1993)

3)金田吉弘ら:土肥誌,65,385~391(1994)

4)鎌田易尾:機械化農業,17~20(1995)

5)金田吉弘:農業技術,47(5),23~27(1992)

6)土屋一成ら:平成8年度総合農業研究成果情報,93~94(1997)

7)近藤正ら:庄子貞雄監修「大潟村の新しい水田農法」,p219~225,農文協,東京(2001)

8)伊藤千春ら:東北農業研究,48,103~104(1995)

9)神宮字寛:庄子貞雄監修「大潟村の新しい水田農法」,p232~238,農文協,東京(2001)

10)池端哲夫:同上,p11~14

 

 

肥効調節型肥料を鉢上げ時に利用した
セルリーの施肥量削減

静岡県農業試験場 土壌肥料部
副主任 小杉 徹

1.はじめに

 静岡県におけるセルリーの粗生産額は21億円(平成12年度)であり,全国のシェアの3割を占めている1)。従って,セルリーは静岡県で生産される野菜のなかでも重要な品目として位置づけられている。静岡県では,ハウスでの冬取りと春取りが盛んである。しかしながらセルリー栽培は,育苗を含めた栽培期間が長く,施肥作業も煩雑かつ多肥であり,肥料成分の溶脱による環境への影響が懸念されている。

 肥効率を高めて減肥を達成するためには,局所施肥や肥効調節型肥料を用いた施肥が有効とされる。筆者らは肥効調節型肥料を用いた全量基肥施肥や条施肥により,セルリーの現行の施肥量を25%~38%削減できることを明らかにした2)。今回新たな試みとして,肥効調節型肥料としてスーパーロング424-100を用いた,育苗時に本圃生育に必要な全量を施肥する鉢上げ時施肥と,育苗期に半量を施肥し,定植時に残りの半量を条施肥する鉢上げ時施肥・条施肥併用法を検討したので紹介する。

2.試験方法

 表1に示したように,鉢上げ時施肥では,鉢上げ(2回目移植)時にポット(直径10cm,容量400cc)ヘ上記スーパーロングを施肥し,以後は肥料を施肥しなかった。

 鉢上げ時施肥の模式図を図1に示した。このとき,鉢上げ時施肥60kg区では,現物として約110gの肥料をポット中の培土ヘ混合することになる。鉢上げ時施肥・条施肥併用法は,窒素20kg/10a相当を鉢上げ時にスーパーロングで施肥し,定植時に図2に示すとおり,窒素20kg/10a相当をエコロング424-70(リニア型70日タイプ)で条施肥(千鳥2条植えの畝の中心部,深さ15cmの位置に施肥)した。慣行区は,鉢上げ時には施肥を行わず,元肥を窒素42kg/10a相当,1回目追肥を定植後27日後に窒素20kg/10a相当,2回目追肥を定植後60日後に窒素18kg/10a相当,それぞれ配合肥料で施肥した。また,元肥施肥時に各区ヘ炭酸苦土石灰100kg/10aを施用した。

 育苗は静岡県農業試験場内網室で行った。定植後の栽培は,静岡県農業試験場内ガラス温室で行った。供試土壌は洪積土(造成台地土細粒赤色土相)及び沖積土(同細粒灰色低地土相)である。供試品種は,セルリー”コーネル619”である。平成13年6月25日は種,7月19日1回目移植,8月22日鉢上げ(2回目移植),9月5日本圃施肥,9月7日定植及び育苗終了時調査,10月3日1回目追肥,11月5日2回目追肥,12月12日生育調査。なお,本圃栽培は1区3.9㎡,2連で行った。また畝は白黒マルチフィルムで被覆して,畝間120cm,畝幅80cm,条間45cm,株間38cmの2条・千鳥植えとした。

 また,供試肥料のスーパーロングを本圃に埋め込み,それを定期的に取り出し,窒素溶出率の算出を行うとともに,栽培期間中の地温及び気温も測定した。

3.結果及び考察

(1)栽培期間中の地温とスーパーロング窒素溶出率の推測

 図3に育苗期間中の地温を示した。地温が25℃を下回ったのは4日間のみで,その他の期間は25℃以上であった。育苗期間中の鉢内の平均地温は26℃,最高地温は38℃,最低地温は20℃であった。

 図4に本圃における地温を示した。10月下旬から地温が20℃を下回るようになったが,地温が15℃を下回ったのは2日間のみであった。

 図5にスーパーロングにおける窒素溶出の地温からの推測値と実測値を示した。地温から推測すると,定植時に約5%の窒素が溶出し,栽培終了時に70%の窒素が溶出すると推定された。実際には栽培終了時に約80%の窒素が溶出していた。推定値と実測値から判断して,今回用いたスーパーロング100日夕イプシグモイド型は,育苗期間には肥料の溶出が抑制され,定植終了時まで肥料の溶出が持続するため,冬作セルリー(9月定植)の栽培に適していると考えられた。

(2)育苗終了時の生育

 表2に,セルリー育苗終了時の生育を示した。地上部重は,鉢上げ時施肥・条施肥併用区を除き,慣行医と同様であった。草丈は慣行区より鉢上げ時に施肥した区の方が優れた。根重は,鉢上げ時に最も施肥量が多い鉢上げ時施肥60kg区で劣った。また,鉢上げ時の施肥量が減少するとともに,根量が増加し,根張りがよくなる傾向が認められた。

 表3に育苗終了時の作物体窒素含有率及び培土の電気伝導率を示した。鉢上げ時の施肥量が多い区ほど,作物体の窒素含有率や,培土の電気伝導率が高くなる傾向が認められた。これらの結果は,育苗終了時点で,ポット中のスーパーロングの溶出が始まっていることを示しているが,3週間の育苗期間では濃度障害は発生しなかった。

 前年度は育苗期聞を4週間としたが,その場合,育苗終了時の苗の生育は慣行区に比較して非常に優れていたが,ポット中の電気伝導率は慣行区の10倍以上もあり,定植後に窒素溶出による濃度障害が発生した3)。今回の育苗期間ならば肥料の溶出も少なく,慣行区との苗の生育もあまり変わらないので問題ないと判断した。

(3)本圃における生育

 表4に洪積土に定植した場合のセルリー収量調査結果を示した。全重,調整重,草丈,葉色ともに,慣行区との差は認められなかった。

 表5に沖積土に定植した場合のセルリー収量調査結果を示した。全重,調整重,草丈,葉色ともに,慣行区との差は認められなかった。

 以上の結果より,本圃における生育は,洪積土,沖積土ともに慣行施肥と同等であり,鉢上げ時施肥60kgで25%,鉢上げ時施肥40kgで50%の施肥窒素の削減が可能となった。また鉢上げ時施肥20kg・条施肥20kg併用医でも50%の施肥窒素の削減が可能となった。このことは,追肥も削減できるため,労働力の節減となり,低コスト生産に結びつく技術といえる。

4.本栽培を行うに当たっての留意点

 育苗期間を4週間とすると,窒素溶出による濃度障害が発生することがある3)ので,育苗期間を3週間とする。

 鉢上げ時施肥を行うことによって,本圃での施肥労力節減が可能となるが,育苗期間中の鉢内地温が高い場合は,鉢内の窒素溶出が少ない鉢上げ時施肥・条施肥併用法の利用が望ましいと考える。

 また,肥効調節型肥料の種類によっては,3週間の育苗でも障害が発生する場合もあり,注意が必要である4)

5.おわりに

 現在,環境問題と農業の関わりは今日的な問題であり,農産物の生産に適正な施肥が求められている。適正な施肥のためには,作物の窒素利用率などの養分吸収効率を向上させ,少ない肥料成分で作物生産を行うことが重要となる。本試験では,肥効調節型肥料を用いた鉢上げ時施肥や鉢上げ時施肥・条施肥併用法により,セルリーの現行施肥量の25~50%削減が可能であることを示した。このことは,環境負荷を低減させる効率的な施肥体系の確立に役立つものと考える。

 セルリーの適正な施肥実現のために土壌溶液診断による効率的な施肥法も開発されている5)。適正な施肥を行うために,いくつかある減肥方法のうち,取り組みやすい方法から,まず実践していくことが重要である。

1)静岡県の農林水産業ハンドブック 平成14年度版(2002)

2)小杉徹・堀田柏:静岡農試研報,41,53~62(1996)

3)平成13年度土壌肥料に関する試験成績書・資料 第2025号(2001)

4)平成13~14年度野菜,花肥料展示ほ成績設計検討会資料.静岡県肥料協会(2002)

5)鈴木則夫:農業と科学,第509号(2000)

 

 

肥料と切手よもやま話(3)

越野 正義

アンモニア合成とハーバー

 19世紀の末には,窒素肥料は南米チリ産の硝石のみであり,その枯渇が心配され増大する人口を養えなくなるのでないかと危惧された。一方,ダイナマイトなどの爆薬原料となる硝酸は,アンモニアを酸化して製造できることが20世紀初頭には確立していたから,空中窒素を固定し,アンモニアを合成することは,食糧増産とともに軍事目的のためにも国家的な関心事であった。

 窒素固定技術としては石灰窒素などの方法もあったが,決定的だったのはドイツのハーバーによるアンモニアの直接合成であり,1909年までに実験は成功していた。このハーバーの切手の背景にある建物は研究を行ったカールスルーエ工科大学であろう。

 彼の特許をBASF社のボッシュらが買取り工業的生産を開始したのは1913年である。触媒の開発,合成ガスの製造と精製法などにボッシュと彼の研究開発グループは大きく貢献した。

 アンモニア合成の成功はドイツが第一次世界大戦を開戦する引き金になったといわれている。ハーバーは1918年にノーベル賞を受けたが,当時連合国側には彼は戦犯ではないかと非難する声もあったという。ボッシュも1931年に高圧化学での貢献でノーベル賞を受賞している。

 わが国では野口 遵の日本窒素肥料が1922年に宮崎県東臼杵郡恒富村にアンモニア工場を建設し,翌23年に操業開始したのが最初である(現在の旭化成工業延岡工場)。その後,各地に続々とアンモニア工場が作られ化学工業発展の原動力となった。

 (財 日本肥糧検定協会 参与)

 

 

2002年本誌既刊総目次

<1月号>
§変革期を迎えた日本農業
 チッソ旭肥料株式会社
 常務取締役 知念 弘
§堆肥又は緩効性窒素肥料の施用が土壌からの亜酸化窒素ガス発生量に及ぼす影響
 静岡県静岡工業技術センター
 健康食品プロジェクトスタッフ
 技術参与 若澤 秀幸
§富山の治水に貢献した蘭人技師(ムルデルとデ・レイケ)
 (一)ムルデル
 富山県郷土史会常任理事
 デ・レイケ研究会員
 前田 英雄
§加賀能登の特産・伝統野菜(4)
 石川県農業情報センター
 主任農業専門技術員
 今井 周一
§我が国の農産物需給の実態
 チッソ旭肥料株式会社 技術部
 顧問 安田 環

<2・3月号>
§水田土壌の可給態ケイ酸評価法
 静岡県農業試験場 土壌肥料部
 技師 江本 勇治
§「米作日本一」以降の多収研究
 ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
 管理本部 役員室
 農学博士 関矢 信一郎
§変動する立山の雪
 立山カルデラ砂防博物館
 飯田 肇
§加賀能登の特産・伝統野菜(5)
 石川県農業情報センター
 主任農業専門技術員
 今井 周一

<4月号>
§水稲乳苗疎植栽培における育苗箱全量施肥法
 京都府農業総合研究所 作物部
 主任研究員 河瀬 弘一
§北海道の水稲施肥
 ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
 管理本部 役員室
 農学博士 関矢 信一郎
§富山の治水に貢献した蘭人技師(ムルデルとデ・レイケ)
 (二)ヨハネス・デ・レイケと常願寺川治水-その1-
 富山県郷土史会常任理事
 デ・レイケ研究会員
 前田 英雄

<5月号>
§スーパーロング施用による半促成トマトの長期穫り栽培について
 JAあすなろ トマト部会
 部会長 桑田 税
§北海道における冷害と施肥
 前 ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
 管理本部 役員室
 農学博士 関矢 信一郎
§富山の治水に貢献した蘭人技師(ムルデルとデ・レイケ)
 (二)ヨハネス・デ・レイケと常願寺川治水-その2-
 富山県郷土史会常任理事
 デ・レイケ研究会員
 前田 英雄

<6月号>
§トマト・ピーマンの”専用配合肥料”を用いた全量基肥施肥
 大分県農業技術センター 化学部
 主幹研究員 小野 忠
§砂地のニンジントンネル栽培における全量基肥施肥法
 静岡県農業試験場 海岸砂地分場
 副主任 渥美 和彦
§鹿児島県奄美地域の重粘土壌に適したジャガイモ施肥法
 鹿児島県農業試験場 徳之島支場
 土壌肥料研究室長 久米 隆志

<7月号>
§江戸時代中期の稲作と施肥
 前 ホクレン農業協同組合連合会(JAグループ)
 管理本部 役員室
 農学博士 関矢 信一郎
§葉たばこに対する肥効調節型肥料の適用
 福島県立農業短期大学校
 教務 野田 正浩
§水稲の打込み式代かき同時土中点播栽培における短期溶出型肥効調節肥料の基肥施用
 京都府丹後農業研究所
 主任研究員 岡井 仁志

<8月号>
§茶園への窒素多肥による環境問題
 野菜茶業研究所茶業研究部
 (現:野菜茶業研究所葉根菜研究部)
 徳田 進一
§毛管ポットの夏秋トマトの被覆肥料に対する利用技術
 新潟県農業総合研究所 基盤研究部
 主任研究員 本間 利光
§茶園への施肥形態と施肥時期が窒素の動向に及ぼす影響
 -被覆肥料を中心に-
 愛知県農業総合試験場
 豊橋農業技術センター茶業研究室
 木下 忠孝・辻 正樹

<9月号>
§シグモイド型被覆肥料を用いたキュウリの育苗ポット内全量基肥栽培
 長野県南信農業試験場 栽培部
 研究員 山口 秀和
 (現在:長野県農業総合試験場 企画調整部)
§山形県農業の概況と果樹生産の動向
 太平物産(株)
 技術参与 大竹 俊博
 (元:山形県農業総合試験場)

<10月号>
§浜の女たちと米騒動
 女性史研究家・富山大学非常勤講師
 浅生 幸子
§技術相談問答のよもやま話(3)
 独立行政法人 農業技術研究機構
 野菜茶業研究所 研究技術情報官
 農学博士 中島 武彦
§肥料と切手よもやま話(1)
 越野 正義

<11月号>
§技術相談問答のよもやま話(4)
 独立行政法人 農業技術研究機構
 野菜茶業研究所 研究技術情報官
 農学博士 中島 武彦
§ペットボトルで水稲栽培試験を試みる
 独立行政法人 農業技術研究機構
 中央農業総合研究センター
 北陸水田利用部 土壌管理研究室
 主任研究官 中島 秀治
§肥料と切手よもやま話(2)
 越野 正義

<12月号>
§秋田県大潟村で展開されている新しい水田農法
 -育苗箱全量施肥を用いた不耕起および無代かき移植水稲栽培-
 秋田県農業試験場 大潟農場
 主任専門研究員 太田 健
 (現:中央農業総合研究センター 土壌肥料部)
§肥効調節型肥料を鉢上げ時に利用したセルリーの施肥量削減
 静岡県農業試験場 土壌肥料部
 副主任 小杉 徹
§肥料と切手よもやま話(3)
 越野 正義
§2002年本誌既刊総目次