§農業の方向と肥料の役割
チッソ旭肥料株式会社
社長 柴田 勝
§肥効調節型肥料の新展開と肥効向上の可能性
東北大学大学院
農学研究科附属農場
農場長 三枝 正彦
§肥効調節型肥料による施肥法研究の現状と今後
秋田県立大学生物資源科学部
助教授 金田 吉弘
§鹿児島県熊毛地域における肥効調節型肥料を利用したジャガイモの全量基肥栽培
鹿児島県農業試験場 熊毛支場
支場長 江口 洋
§肥料と切手よもやま話(4)
越野 正義
チッソ旭肥料株式会社
社長 柴田 勝

新年明けましておめでとうございます。
年頭にあたりご愛読の皆様方のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
昨年は食の安全性が厳しく問われた一年でした。BSEに起因する骨粉の使用停止により,これを原料とする有機質肥料の生産に支障が起こり,農産物の安全生産に影響を及ぼしております。また,中国産輸入冷凍野菜に含まれる農薬が基準値を超えていたことは消費者の不安感をつのらせましたし,無登録農薬の販売・使用があったことも大きな問題になりました。
消費者の食べ物に対する「安全・安心」への関心は一層高まり,農産物・畜産物の生産から消費までの「トレーサビリティー」という言葉が今後の重要なキーワードになりました。「顔の見える農業」が日本農業の進むべき方向であると強く感じております。
農業生産の場面に目を向けますと,昨年来,持続的な農業生産に転換しようと,肥料・農薬の適正利用,環境負荷低減に役立つ技術の開発・普及や有機性資源の循環使用の諸施策が推進されております。高度化成など肥料需要は減少基調にありますが,適時・適所に加えて「適切な肥料」を使用する取り組みが一層発展していくものと考えております。
被覆肥料の先駆けとして発売してまいりました当社「LPコート®」「ロング®」は,諸先生方のご研究の成果に基づき,水稲や多くの果菜類で「全量基肥・基肥重点施肥体系」に適した肥料としてご愛用いただいております。これまでの「基肥-追肥施肥体系」に比べて,安心して追肥作業が省力化できるとともに養分利用率が高いことから施肥量も削減できることが明らかになり,肥料の適正使用に沿った肥料としてもご評価いただいております。被覆肥料の役割は益々重要になると考え,私どもは今後とも被覆肥料の改良に努めてまいります。
また,当社は緩効性窒素肥料「CDU®」,硝酸系高度化成「燐硝安加里®」,泡状高度化成肥料「あさひポーラス®」,打ち込み肥料「グリーンパイル®」,育苗資材「与作®」など特徴ある肥料・農業資材もお届けしておりますが,これら商品の特徴や使用法を改めてご説明申し上げ,被覆肥料とともに日本農業に貢献したいものと願っております。
本誌「農業と科学」は毎年,多くの先生方にご執筆をいただき,今では参考文献としてもご紹介いただけるようになりました。ご愛読の皆様方の書架に「農業と科学」のファイルを拝見して無上の喜びを感じております。
本年も編集部一同努力してまいりますので,本年もご愛読賜りますようお願い申し上げて,新年のご挨拶とさせていただきます。
東北大学大学院
農学研究科附属農場
農場長 三枝 正彦
従来の速効性化学肥料に比べて近年開発された被覆肥料を中心とする肥効調節型肥料には次のような特長と問題点がある。
①肥効が長時間持続する。
②溶出が植物生育とマッチし高い施肥利用効率である。
③溶脱や揮散が起こらず環境負荷が少ない。
④一度にイオン強度を上げることなく低毒性である。
⑤追肥省略で施用コストが軽減できる。
⑥肥効が調節可能で作物による吸収過程のモデル化ができる。
⑦土壌の酸性化が軽減できる
⑧成分当たりの肥料価格が高い
などである1,2)。
これらの特長を活かし,従来考えられなかった種子あるいは作物根と肥料を同時に同一位置に施用する接触施肥栽培(Co-situs application)や追肥を省略できる全量基肥栽培,水稲全量苗箱施肥不耕起移植栽培,畑作物の接触施肥不耕起直播栽培,多作一回施肥栽培などの新農法が展開されている1-3)。表1にはその一例として各種水稲苗の全量苗箱施肥栽培を示した4)。

このように肥効調節型肥料の種類と播種量,栽培法を工夫することによって本田での施肥を省略できる各種水稲苗の全量苗箱施肥栽培が可能である。この水稲の全量苗箱施肥栽培については秋田県農業試験場が開発したという多くの間違った報告があるが東北大学農学部附属農場で1991年に開発したものである5)(1995年度日本作物学会東北支部学術賞を受賞)。
またこの方法で基肥施用したシグモイド型の被覆尿素肥料の利用効率は約80%と従来の速効性硫安の基肥利用率(約30%)に比べて著しく高い値である。これまで肥料の利用効率の向上を中心に研究しながら,追肥の省略や環境負荷の軽減,減肥の可能性などが検討され,多くの成果が報告された。特に肥料の高い利用効率については全ての研究者が認めるところであり,環境に優しい肥料として推奨されている。ここでは緊急の課題である環境と調和した多収,高品質食糧生産を考慮し,肥効調節型肥料の新展開と更なる肥効向上の可能性について述べることにする。
肥効調節型肥料はこれまで溶出を植物の成長に合わせて制御し肥効を向上させることに主眼が置かれてきた。その結果,前述の如く被覆尿素は水田で80~90%程度,畑で60~70%程度の利用率が得られている。しかしながら,この肥料の持つ最大の長所はこのような肥料成分の利用率の向上に加えて,目的とした肥料形態をそのまま植物に吸収利用させ農作物の質的向上が図れることである。それはこの肥料成分の溶出が植物の生育にマッチし緩効的で肥料焼けを起こさずノンストレスの接触施肥栽培が可能であることによる。
図1に示されるように従来の速効性肥料は肥料焼けを回避するために,必ず間土を行う必要があり,この間土を経過する過程でアンモニア化成,硝酸化成,脱窒作用,不可給化(固定や不溶化など)が働き水稲では硝酸態窒素の供給が,逆に畑作物ではアンモニウム態窒素の供給が殆ど不可能であった。すなわち土壌が目的とする窒素形態の供給に大きな障壁となっている。

従って,肥効調節型肥料を用いて種子あるいは作物根と肥料を同位置に施用する接触施肥栽培を行えば,土壌を介することなく目的とした肥料成分を直接的に肥料粒子から植物根に供給することができ,農作物の質的向上が期待できる。またこれまで水耕栽培で明らかにし,蓄積されてきた作物生育や収量,品質に対する異なる窒素形態の効果を実際の圃場で再現,活用できる。
例えばホウレンソウの水耕栽培ではアンモニウム栄養で蓚酸(腎臓結石の1原因物質),硝酸態窒素(ブルーベビー症や発がん性とも関係)を低減し,逆にアスコルビン酸(ビタミンCで抗酸化作用)や糖類(旨み成分)が増大することが知られている。しかしながら酸化的な畑状態では尿素や硫安を施用しても容易に硝酸化成しアンモニウム態窒素を供給することは極めて難しかった。ここで硫安や第二燐酸アンモニウムを被覆した肥効調節型肥料を条施すれば,表2に示されるように圃場で栽培されたホウレンソウも蓚酸と硝酸態窒素の蓄積を軽減し,逆にアスコルビン酸を増加させることが可能となつた6-8)。

これに対して水田土壌中では還元状態で水稲が生育するので酸素を含有する硝酸態窒素の供給が水稲の生育収量に有効とする報告があるが実際の水田では脱窒が起こり難しい。そこで硝酸カルシウムを被覆した肥効調節型肥料(被覆硝カル)を作成し,速効性の硝カル,硫安および被覆尿素と肥効を検討した結果が図2である。硝カルの元肥施用では脱窒により2%以下の利用率であるのに対して,被覆硝カルでは速効性硫安とほぼ同程度の25%程度と著しく利用率が向上した。しかしながら,被覆尿素の60%前後の利用率と較べるとまだ半分以下の利用率であり,生育初期から根と肥料の接触面積を更に増大させる工夫が必要である。

このように肥効調節型肥料を用いて種子や作物根との接触施肥を行えば,酸化的畑土壌でアンモニウム態窒素を,還元的水田での硝酸態窒素の供給が可能となり,農作物の収量,品質を大きく改善することが期待される。また脱窒や流亡,不溶化が起きやすい土壌では接触施肥で著しく基肥窒素利用率も向上するものと思われる。
土壌の介在を少なくすることによって改善される栄養状態としては,この他にも土壌中で不可給化し易い元素の直接供給である。例えば,アルカリ土壌では鉄が不可給化しやすく,鉄があるにも拘わらず,多くの作物が鉄欠乏で生育が阻害されている。このようなアルカリ水田土壌で,微量要素を含む被覆肥料「ロングトータル」や「マイクロロング」を水稲根に接触施用すると水稲生育が著しく改善される事を最近明らかにした。また東北大学農学研究科の和田暢子・南條正巳氏は昨年の新農法研究会で細根の多いアブラナ科作物へのリンの接触施肥はイネ科のトウモロコシより著しく利用率を高める事を報告している。
接触施肥の成否は肥料粒子と作物根の接触面積をできる限り大きくして土壌の介在を最小限にすることである。肥料と作物根の接触面積を増やす方法としては,根毛や細根の多い作目(例えば,アブラナ科作物)や根量の多い品種の選択(水稲では穂重型より穂数型),根毛増大遺伝子(rol-a,b,c)を導入した形質転換植物の作出,根毛増大ホルモン入り肥料粒子の作成,根成長に対するストレス要因の除去などが考えられる。
前述の如く,接触施肥は施肥養分の利用率を向上させると共に,土壌を介さず目的とした施肥養分,施肥形態を肥料粒子から直接作物根に供給できるという画期的な施肥方法である。しかしながら,現在普及している肥効調節型肥料はアニオンを含まない被覆尿素であり,局所に大量施用するとアンモニア障害,アンモニアの揮散ロスが生じるという大きな問題点がある。
例えば,表3は異なる施肥法における施肥部のEC,各作物の出芽率および生育を示したものである9)。耐肥性の高いデントコーンではECの極めて大きい速効性肥料の接触施肥を除いては被覆尿素の接触施肥でもほぼ速効性の全層施肥区と同様な出芽率と生育を示した。これに対してスイートコーンは肥料塩濃度に対する耐性が低く速効性の全層施肥区でも約60%の出芽率である。これに対して,被覆尿素の全層区の出芽率はこれとほぼ同等であるが,被覆尿素の接触施用区では33%,速効性接触区では7%と著しく低い値である。速効性肥料区のEC値に比較して被覆尿素区の出芽率が相対的に低いのは被覆尿素では対抗アニオンが無いため塩類障害の他にアンモニア障害が発生したものと思われる。

このような問題を解決するには,耐肥性(イオンストレス耐性)の強い作物,品種の選抜(例えばスイートコーンよりデントコーン),肥料資材としてアンモニウム塩(リン酸アンモニウム,硫酸アンモニウム,塩化アンモニウム)の利用,ウレアーゼ活性(アンモニア化)の抑制,根との接触面積を増やし肥料尿素を直接吸収させるなどが考えられる。
温度下降期に栽培される作物(白菜,キャベツなどの秋野菜,麦類)は温度が低下するに従い,N要求量が大きくなる。また蒸発散量が少なく,養分溶脱に対する降雨の影響が極めて大きいという問題がある。養分溶脱を防ぐには肥効調節型肥料の導入が有効であるが,市販の被覆尿素を中心とする肥効調節型肥料は肥料成分の溶出が温度レスポンス型であり温度下降期の作物栽培には不適切である。
この問題を解決するには数種の溶出抑制期間が長く,逆に溶出期間が著しく短いシグモイド型肥料の組み合わせ10)や温度反応性の無い緩効性肥料(例えばpH反応’性や難溶解性肥料)の開発などが重要である。このことは一定温度下で生育期間の長いトマトやイチゴ,ナスなどの栽培にも共通する問題といえる。
放牧地での速効性肥料の利用は施肥直後の牧草生産量を著しく高めるが,その後の生産量が減少するので必要以上の放牧面積の確保,あるいは逆に放牧頭数の削減が必要となる。すなわち放牧草地では家畜は毎日一定量の餌を必要とするため,放牧期間を通してできるだけ等量溶出あるいは家畜が成長する放牧後半で溶出が増大する施肥法で,単位時間当たり草生産量を平均化あるいは尻上がりとすることが重要である。このためには溶出が直線型あるいはシグモイド型の肥効調節型肥料の導入が極めて有効である11)。
また東北地方に多く見られる急傾斜草地では危険な施肥回数の削減あるいは,肥料成分による環境負荷の軽減,ラジコンヘリーでの空中散布などの観点からも,軽量で肥効が持続する被覆肥料の施用が有効である。また肥効調節型肥料の導入は従来問題であった施肥直後の牧草の硝酸集積を抑制し,家畜の硝酸中毒を回避できることが明らかになっている。
これまでの肥料の開発は主として作物の吸収利用という側面を重視し開発されてきた。しかしながら最近では生産物の収量のみならず,生産物の供給時期や品質の問題も重要な課題となっている。例えば,数年前に行われた米国農学会におけるシンポジウムのトピックスの1つに「消費者である人や動物の栄養を考えた農作物の栽培と施肥設計」というのがあった。植物と動物では必須元素が異なるのをはじめ,同一必須元素でも要求量が著しく異なる。そこで植物にとっては生育,収量に多少マイナスに働く施用量でも農作物に蓄積させ,人や家畜が自然にこれら食物から養分を摂取できるようにする施肥設計の重要性である。
例えば,I,Co,Si,Na,Seなどは動物や人間に必須であっても高等植物には必須ではないので,家畜に対してこれまでは不足する地域では鉱塩や経口投与が必要であった。しかしこれらの元素は摂りすぎると有害になるものもあり植物を介して自然に摂取することが重要である。なかでもIは大陸内部で不足しており,Coは根粒菌に必須,Se,Coは家畜に不可欠で放牧地において特に重要視されている。これら成分は微量であり単体施肥が難しいので他の成分と混和し施肥する事が重要である。微量要素の肥効調節型肥料は極めて効率的に環境負荷を軽減(Cu)することが12),また前述の如く接触施用でアルカリ土壌におけるFeの不溶化防止に有効である。
開発当初の樹脂被覆肥料は土壌中での分解が極めて遅く,残存樹脂殻を環境問題とする声が大きく,現在では多くの被覆肥料が光崩壊性,あるいは光崩壊牲と生分解性併用型に移行している。肥効調節型肥料の基肥1回施用は省力,低コストで極めて有効でありこれら肥料は成分の利用効率,残存殻の処理という点からも極めて環境に優しい肥料である。しかしながら,収量,品質を考慮し細かい施肥管理を行うためには追肥としての表面施用が,また牧草や果樹,アスパラガスなどの永年作物では必然的に表面施用とならざるを得ない。
したがって現在の光崩壊性を主体とする被覆肥料はこのような表面施用には不向きの場合がある。土壌表面では光崩壊性ではなく生分解性の被覆肥料の開発が不可欠である。また土壌表面は乾湿や寒暖の差が大きくそれらを考慮した肥料の開発が重要である。肥料溶出には基本的には土壌水分と温度が関係しており,乾燥しやすくまた高温になりやすい土壌表面環境を考慮した肥料の開発が特に重要と思われる。
多くの試験研究で肥効調節型肥料の高い利用率が明らかになり,従来の速効性肥料の施肥設計に対して減肥の可能性が各地域農業試験場の重要課題として考えられてきた。しかしながらこれは果たして賢明な技術であっただろうか?確かに環境負荷,肥料代の一部軽減としては有効であったといえるが肥効調節型肥料の本来の利点を活用した新農法の可能性をつぶしてこなかったであろう
か?
被覆肥料を主体とする肥効調節型肥料の最大の長所は肥料焼けを起こさず,土壌を介さず,肥料粒子から直接に目的とする成分を作物の要求量に応じて供給できることである。これらの利点を活用すればもっと高収量,高品質の農作物の生産が可能であると思われる。また米の生産過剰に伴う生産調整に関心が集まり,減肥による環境負荷の軽減や低窒素高品質米生産に固執したとも言える。肥効調節型肥料の適正施用は倒伏や発病限界を引き上げ,多収,高品質栽培を可能にする。肥効調節型被覆肥料には堆肥的養分供給効果が期待され,適正な施肥管理を行えば多収,高品質水稲栽培が期待できる。
生育ステージや作目によっては代謝に必要量以上の窒素が必要な場合がある。例えば一般に生育初期のスタータとしての窒素施用量は作物の吸収量をはるかに超えている。分ゲツや栄養成長,麦や牧草のスプリングフラッシュの維持には吸収量以上の栄養分が必要,野菜の栄養診断は汁液の硝酸態窒素含量で行われるが硝酸態窒素は液胞の浸透庄維持にも関係しているであろうか?野菜の葉色などの品質保持には幾分過剰な窒素が必要などこれらの生理現象維持に速効性肥料と肥効調節型肥料の組み合わせ(相乗効果)が有効な場面が考えられる。
この一例として多収穫日本一の米作技術が上げられる。この栽培技術は表4に示されるように土づくりを基本としており,主な土壌改良資材の1つとして堆厩肥の大量施用(1.3-3.0t/10a)が共通している。またいずれの篤農家も水稲の初期生育確保に基肥重点施肥(6.7-11.3kgN/10a)を行っており,追肥は現在よりはるかに少なく(0-1.7kgN/10a),水稲の後期窒素栄養は大量施用の堆肥由来窒素に期待している。その結果多収穫にも拘わらず,玄米の窒素生産効率が60-80kg/kgNと極めて高く,結果的に超多収,高品質(低窒素米)水稲栽培を行っている。ここで堆肥の窒素供給様式は肥効調節型肥料で代替可能であり,化学肥料と肥効調節型被覆肥料の併用で水稲の超多収,高品質栽培が再現できるものと思われる。

速効性肥料と短期溶出肥効調節型肥料は基本的に異なる。速効性肥料は過剰になると容易に肥料焼けを起こすが短期溶出型肥効調節型肥料は肥料焼けや養分ストレスを起こさず,化学肥料と併用すれば両者の問題点を相互補完する安全な追肥技術の開発が期待できる。
耕地生態系は人聞が食料を効率よく生産するために造った人為生態系であり,人間が生活する上での必要不可欠な生態系である。人口調節が難しい現在,この農耕地生態系を古典的な農法に戻すことは生産効率を低下させ,結果的に自然生態系をさらに農地に転換することが必要となる。それゆえ,耕地生態系の生産効率を上げることは自然生態系を守ることでもある。したがって低投入持続型農業でなく,多収・高品質を目指した最大効率最少汚染農法(MEMPA:Maximum, Efficiency, Minimum Pollution Agriculture)こそが,今最も必要とされている農法と思われる。この意味では肥効調節型肥料を用いた多収,高品質栽培が重要である。持続型農業は環境負荷の軽減のみが強調される場合が多いが,その前に農家経営の持続がなければ農地が荒廃し,地球環境は守れない。
生物性廃棄物に由来する年間窒素排出量は日本全体の窒素施用量の3倍程度(このうち畜産排泄物は1.4倍程度)にも及ぶといわれる。この意味ではこれら生物性廃棄物をコンポスト化しても農地に全て還元すると養分過多となり循環型農業は成立しない。循環型農業は基本的には地域循環であり日本のように自給率40%程度では輸入生産物によるN,Pの過多で極めて難しい。すなわち我が国の農作物の自給率を飛躍的に向上させ,輸入量を削減しなければこの問題は解決しない。
循環型農業,有機農業の美名の下に,堆厩肥を必要量以上に農地に還元することは慎むべきである。耕種農家にとっては畜産業も他産業であり,農地をゴミ捨て場とするような生物性有機物の農地還元は厳に慎むべきである。もちろん有機性廃棄物をコンポスト化し有効利用できる場面では積極的に農地還元すべきであり,前述の米作日本一の栽培技術のように化学肥料との併用を考えるべきである。
我が国農業者の約9割,生産量の約8割は兼業農業者に由来する。これまでの栽培技術はこの1割の専業農業者をターゲットにして主として開発されてきた。専業農業者のみならず兼業農業者の立場や実態を考慮した栽培技術や肥料の開発が重要である。たとえば,肥効調節型肥料を用いた全量苗箱施肥不耕起栽培,元肥全量施肥栽培,肥効調節型肥料による追肥体系の確立など筒便かつ容易な技術の開発が必要である。さらに,主婦や老人,子供達にとって「安全」で環境に「優しい」肥料とそれを用いた平易な栽培管理技術の確立も重要であり,そのためには肥効調節型肥料の果たす役割は極めて大きい。
肥料は作物の生育に不足する養分を効率的に補給するものである。なかでも肥効調節型肥料は極めて環境に,優しく先端的かつ効率的な生産手段である。それゆえ,肥効調節型肥料は近未来に予想される世界の食糧不足に対処するための最も有効かつ実用的な生産手段の1つと言える。肥効調節型肥料を積極的に活用し,最大効率最少汚染農業を行い多収,高品質栽培を行うことが今後の食糧確保に特に重要である。
1)Saigusa M.,:1999 Nitrogen Nutrition and Plant Growth. pp305-335. Oxford & IBH Publishing Co. PVf. LTD New Delhi.
2)Tian X., and Saigusa M.:2002, Tohoku J. Agric. Res. 52,39-55.
3)三枝正彦:2002,肥料時報,406号,30-35
4)三枝正彦:2001,日作紀,70,別1,274-275
5)佐藤徳雄・渋谷暁一:1991,日作東北支部報,34,15-16
6)Ombodi, A., Miyoshi S. and Saigusa M.:1999, Tohoku J. Agric. Res. 49, 101-109.
7)Ombodi A., Kosuge S. and Saigusa M.,:2000 J. Plant Nutr. 23, 1495-1504.
8)建部雅子ら:1996,土肥誌67,147-154
9)二瓶直登・伊藤豊彰・三枝正彦,1998,川渡農場報告,14号,11-18.
10)小菅佐代子・渋谷暁ー・三枝正彦,2000,川渡農場報告,16号,9 -11.
11)三枝正彦・瀧典明・渋谷暁一:2001,日本草地学会誌,47,151-156,184-190.
12)Saigusa M., Tosaki A., Ito T., and Shibuya K.:1997, Plant Nutrition for Sustainable Food Production and Environment, pp655-656. Kluwer Academic Publisher, Japan
秋田県立大学生物資源科学部
助教授 金田 吉弘
肥料は,作物の生育に必要な栄養分の天然供給を補給する役目を持ち,人類の食料安全確保の上で極めて重要な役割を担っている。しかし,近年,化学肥料に偏重した施肥管理が環境面に問題を生じさせていることが明らかになり,生産性と調和がとれた環境保全的な施肥法の開発が期待されている。周知のように施肥法の開発にとって,高機能な肥料は欠かせないものとなっている。特に,1976年,1980年,1989年に登録されたロング,LPコート,シグモイド型LPコートに代表される肥効調節型肥料は,新しい施肥法の開発に大きな貢献を果たしてきた。肥効調節型肥料を利用した新施肥法は,水稲,畑作物,野菜,花き,茶など多種類の作物で実用化され,現在では,その内容も作物の作型や栽培方式,品種の増加に対応して多様化している。
そこで,各地域の普及センターや農家の要望にすばやく応えるためには,個々の研究成果をデータベース化し,情報の相互利用が可能になれば合理的である。その試みの第一歩として,平成5年から平成12年までに全国の国公立農業試験場から公表された肥効調節型肥料に関する研究成果情報を整理した結果を報告する。
情報整理のために利用したのは,平成5年から平成12年までに北海道,東北,北陸,関東東海,近畿中国,四国,九州の各地域から公表された研究成果情報のうち,肥効調節型肥料を利用した施肥法に関するものである。これらの内容を,作物,場所(土壌),栽培様式,施肥位置,施肥量,収量などの項目で整理した(表1)。この期間に公表された研究成果情報数は107件で,そのうち最も多かったのは,野菜の51件,次いで水稲の39件,畑作物の8件,花きの4件,茶の3件,果樹の2件であった(図1)。


地域別にみると関東東海で最も多かったが,東北,北陸では水稲,野菜に関する成果が多いのに対して,中国,四国,九州では花き,果樹など作物の種類が多かった(図2)。また,年次別にみると野菜は平成8年以降,水稲は平成9年以降に急増している。平成10年以降になると茶,花きなどの成果も見られるようになり,作物全般において施肥法開発の必要性が高まっていることが伺われる(図3)。


特に,野菜についてはトマトなど全国的に取り組まれているものから,やまのいもなどいわゆるマイナ一品目と呼ばれているものまで23種の品目に及んでいる。さらに,ネギなどでは秋冬どりや夏どりのように異なる作型に対応した施肥法が研究されており,肥効調節型肥料が多種類の作物や作型に適応できることを示している。
表2には,各作物ごとの施肥法を示した。いずれも対照区は速効性窒素肥料による追肥体系である。追肥回数が多いのは野菜(1回~5回),茶(4回)で水稲,畑作物,果樹では2~3回が平均的である。これに対して,肥効調節型肥料を用いた試験区では全量基肥施肥が基本となる。また野菜,畑作物では2作分の施肥を一回で行う多作1回施肥法も開発されている。北陸地域のホウレンソウではシーダテープと種子,LPコートとの組み合わせにより精度の高い播種施肥を可能にする独創的な施肥法が報告されており,高機能な資材と肥料との組み合わせによる新施肥法の開発も今後重要になると考えられた。

表3に,各作物ごとの施肥位置をまとめた。対照区における基肥は,速効性肥料を耕起前に施用して作土全体に混和する全層施肥である。一方,肥効調節型肥料を使用した試験区では全層施肥の他,茶と果樹を除いては局所施肥が行われている。局所施肥での施肥位置についてみると,肥効調節型肥料を種子や苗と一体で施用する接触施肥についての成果がある。これは,水稲移植栽培での育苗箱全量施肥や直播栽培での播種同時施肥,野菜の植え穴施肥,花きのポット内施肥として実用化されている。野菜では,この他,畝立てする直前に施肥して畝部に混和する方式や苗の直下にスジ状に施肥する作条施肥が行われている。また,畑作物では作条施肥が報告されており,いずれも従来の全層施肥に比べて施肥窒素利用率が向上し,追肥の省略と減肥が可能であることが実証されている。

表4から表7には,それぞれ水稲,野菜,畑作物,茶・果樹の10a当たりの施肥窒素量と肥効調節型肥料を用いた場合の減肥率を示した。水稲の場合の施肥量は,全国平均で対照区8.9kg,肥効調節型肥料による試験区7.4kgで減肥率は17%であった。減肥率は,0から50%までの幅があるが,東北地域,北陸地域での育苗箱全量施肥や関東東海地域の直播栽培での接触施肥で減肥率が高まっている。

野菜での施肥窒素量の平均は,対照区29.4kg,試験区21.8kgで減肥率は26%であった。施肥位置との関係では,作条施肥によるキャベツ(北海道),ネギ(北陸),溝施肥によるネギ(関東)において,それぞれ45%,50%,60%と局所施肥の効果により減肥率が高くなっている。また,北陸で開発されたシードテープ方式による局所施肥の減肥率は70%と極めて高く,播種と施肥精度が向上すれば施肥効率が高まり減肥率が増大することを示している。

畑作物では,対照区14.9kg,試験区13.5kgであり,減肥率も9%と低い。試験された施肥位置も全層施肥が中心であり,今後局所施肥に関する研究が望まれる。

茶の場合,対照区が73.3kg,試験区52kgで減肥率の平均も29.1%と大きいが,施肥窒素量は他作物に比較して際だって多い。試験区における施肥位置は全層施肥であるが,畑作物と同様に局所施肥が可能になれば施肥効率が向上し,さらなる減肥が可能になると思われる。果樹については,報告が2件と少なく,試験区は対照区と同等の施肥量で行われ,減肥よりも追肥の省略による省力効果が期待されている。

図4には,各作物ごとの減肥率と対照区に対する試験区の増収率の平均を示した。いずれの作物においても肥効調節型肥料により減肥が実現され,対照区に比べて同等かそれ以上の収量を確保できることがわかる。特に増収効果が高いのは,野菜(8%),水稲(6%),畑作物(5%)であった。

次に,肥料費について調査を試みた。使用した肥料の銘柄が必ずしも特定できなかったため,正確とはいえないが,肥料コストは対照区に比べると水稲以外は肥効調節型肥料を用いた試験区の方が高かった。この肥料費の増加分は増収効果によって解消される場合が多い。しかし,肥料のコスト問題は収量との関係だけで論ずるのではなく,今後は,施肥効率向上に伴う環境負荷低減効果についての社会学的な評価や労力軽減に対する農家の体験的評価など総合的な視点での検討が必要になると思われる。さらに,それらの情報もデータベースに組み込むことができれば,農業現場では大変有益な情報になろう。
以上のように,平成5年から平成12年までに公表された肥効調節型肥料を利用した施肥法に関する研究成果情報の整理を試みたが,今後の施肥法研究については,次のような視点も重要になると思われた。
①作物の品質・安全性への影響評価
例えば,水稲の外観品質や野菜の硝酸態窒素などの内部品質への影響を解析する。
②環境保全機能評価
新施肥法を導入した場合の養分収支や水質などの環境負荷低減効果を解析する。
③農業機械分野との協同研究
肥効調整型肥料の特性を生かした施肥位置を実現するための施肥機の開発
これらを踏まえた革新的な施肥技術の開発には,図5に示すような産学官の協力が不可欠で、あることは言うまでもない。また,今現在,効率的で環境への負荷が少ない施肥法が様々な作物で実現していることを消費者にもわかりやくす伝え,肥料を正しく理解してもらうことも緊急の課題である。

鹿児島県農業試験場 熊毛支場
支場長 江口 洋
鹿児島県におけるジャガイモの生産は,冬季の温暖な気象条件を活かして奄美地域→熊毛地域(種子島・屋久島)→県本土へと移り,それらは名古屋,北九州,大阪等ヘ順次出荷される体系で行われている。2001年度の栽培面積は4,430haで,このうち熊毛地域は425haである。
熊毛地域における早堀ジャガイモの栽培は,10月中旬から11月下旬植付けで,2~3月の収穫・出荷を中心に行われている(表1)。

施肥は,2001年から肥効調節型肥料を含有したジャガイモ専用肥料に変わりつつあるものの,これまで,速効性肥料(燐硝安加里S226号・苦土重焼燐・NK化成等)を用いた基肥重点で,追肥を組み合わせていた。窒素施用量は1.52kg/aが基準となっていたが,農家によってはこれを上回る施肥もみられた。また,追肥は0.32kg/aを1~2回に分けて施用されていた。
ところで,近年肥効調節型窒素肥料の開発・普及により追肥を省略した全量基肥栽培の研究が実施され,鹿児島県農業試験場でもダイコン等主要露地野菜栽培に対して減肥及び追肥を省略した施肥技術が確立している。ここでは,熊毛地域において,早堀りジャガイモに対する追肥を省略した肥効調節型窒素肥料と速効性窒素肥料の配合による全量基肥栽培と,環境負荷軽減を目的とした減肥栽培の可能性について検討された結果を紹介したい。
試験は2000年~2001年の2か年,鹿児島県農業試験場熊毛支場(西之表市)で実施した。供試土壌は淡色黒ボク土である。
供試品種は「ニシユタカ」で,栽植様式は畦幅80cm,株間15cmとした。植付けは2か年とも10月25日に行い,収穫は2000年が1月23日, 2001年が1月24日に行った。
供試肥料と施肥量は地域の慣行施肥を対照(N:1.52,P2O5:1.90,K2O:1.92kg/a)に,2000年は窒素量の50%を肥効調節型窒素肥料(LP30)で施用した標準量と2割減肥,4割減肥を設けた。2001年は窒素量の50%を肥効調節塑窒素肥料で施用した標準量と2割減肥,4割減肥,肥効調節型窒素肥料を30%施用した2割減肥,肥効調節型肥料を70%施用した2割減肥を設けた。基肥は植付け位置に条施用した。追肥は対照のみ施用し,2000年は11月22日,2001年は11月15日と12月7日に行った。また,全試験区に牛ふん堆肥150kg/aを基肥施用時に条施用した。
肥効調節型窒素肥料の溶出率調査は,10月25日植付けの他に1月中旬植付けを想定した栽培についても行った。調査は30日タイプ2gを化学合成繊維(市販の茶パック)に包み,深さ10cm位置に埋設し,経時的に残存している窒素量を測定した。
2000年,2001年の栽培期間中の半旬別平均気温は,11月1半旬~12月1半旬に14~19℃とほぼジャガイモの生育適温(15~20℃)の範囲で推移したが,その後は徐々に低下し,12月上旬以降(塊茎肥大期)は概ね9~17℃と生育適温を下回った。一方,2000年,2001年の半旬別平均地温もほぼ気温の推移と近似の値で推移し,11月2半旬以降収穫期(地上部伸長期から塊茎肥大期)までは概ね9~17℃の比較的低温で推移した(図1・図2)。


また,2000年の定植から収穫までの積算地温は10月25日植付けが1,204℃,1月15日施肥では5月6日収穫予測の場合1,642℃であった(図3)。

ほ場埋設により測定した肥効調節型肥料30日タイプの埋設後30日目(塊茎肥大開始期)までの累積溶出率は,10月25日植付けが42%,1月15日施肥で17%であり,収穫期にはそれぞれ75%,85%であった。このように,生育初期の窒素溶出が順調であった10月25日植付けでも気温が低下した1月以降の窒素溶出は緩慢になり,収穫期までの溶出率が80%に達しないものの,地上部伸長期は順調な溶出を示すことから,10~11月植え,2~3月収穫を中心とした熊毛地域での栽培では,30日タイプの肥効調節型肥料の利用が適当と考えられた。
一方,1月中旬植付け,5月上旬収穫(加工用ジャガイモ)を想定した調査では,予想した収穫期までに85%の窒素溶出率を示したものの,植付け時から低温に遭遇するために地上部伸長期の溶出が鈍く,1月中旬~2月上旬に植付ける栽培では,初期の溶出を高めるため,速効性窒素肥料の配合割合を高めることと,適正施肥量の検討が必要である(図3・図4・図5)。


2000年に肥効調節型窒素肥料を利用し,全量基肥施用した合計収量(25g以上)は,標準量が対照(328kg/a)を10%下回ったものの,2割減肥,4割減肥では対照と同等で,目標収量(300~400kg/a)が得られた。
一方,2001年度に肥効調節型窒素肥料を利用し,全量基肥栽培した合計収量は,肥効調節型窒素肥料70%・2割減肥,肥効調節型窒素肥料50%・4割減肥が対照(312kg/a)をやや下回る傾向を示した。窒素施用量が対照と同等の肥効調節型窒素肥料・標準量の収量は,対照を上回る傾向にあった。また,肥効調節型窒素肥料を利用し,2割減肥した区における,速効性窒素肥料と肥効調節型窒素肥料の配合割合では,肥効調節型窒素肥料30%・2割減肥でやや多い傾向であった(表2)。

このように,肥効調節型窒素肥料を利用し,2~4割減肥した全量基肥栽培の収量は,対照とほぼ同等であることから,全量基肥施用による施肥の省力化と減肥が可能と考える。そして,その場合の速効性窒素肥料と肥効調節型窒素肥料の成分割合は速効性窒素肥料7割,肥効調節型窒素肥料3割が適当で,速効性窒素肥料が高まることで,肥料のコスト低減にもつながるものと考える。
早堀りジャガイモの窒素吸収は,葉の展開と同時に始まり,地上部における合有率は生育の盛んな塊茎肥大開始頃が最大とされ,この時期の吸収が重要とされる。本試験の茎葉中窒素合有率もほぼ同様な傾向を示し,2か年とも地上部伸長期の順調な窒素吸収がうかがえた。また,肥効調節型窒素肥料を利用した区では,4割減肥の窒素含有率が他より低い傾向で推移し,2001年は窒素吸収量でも他を下回った。しかし肥効調節型窒素肥料を30%,50%含有し,2割減肥した区では対照とほぼ同等の窒素吸収量を示すことから,早堀りジャガイモの栽培においては,速効性窒素肥料と肥効調節型窒素肥料を配合した全量基肥施用による施肥の省力化と減肥が可能であると考える(表3)。

2000年の試験で,差し引き法により求めたみかけの窒素利用率は,肥効調節型窒素肥料の標準量で対照を下回ったものの,肥効調節型窒素肥料を利用した2割減肥,4割減肥では対照より高まった。このことは,肥効調節型窒素肥料のうち,ジャガイモの窒素吸収パターンにほぼ合致すると考えられる30日タイプを速効性窒素肥料と配合施用することで,施肥窒素利用率が向上し,減肥が可能になると考える(表4)。

熊毛地域のジャガイモ栽培において,肥効調節型窒素肥料(30日夕イプ)と速効性窒素肥料を配合した全量基肥栽培における最適施肥量,及び速効性窒素肥料と肥効調節型窒素肥料との最適配合割合について検討した結果,肥効調節型窒素肥料を利用し,2割減肥した全量基肥栽培の生育,収量は,速効性窒素肥料による慣行施肥(328・312kg/a)と同等で,全量基肥施用による施肥の省力化と2割減肥が可能と考えられた。また,この場合の速効性窒素肥料と肥効調節型窒素肥料の成分配合割合は,速効性窒素7割,肥効調節型窒素3割が適当ではないかと考える。
熊毛地域においては,2001年のジャガイモ栽培から,種子島ジャガイモ専用肥料(窒素の約20%を30日タイプで配合)を作成し,普及センターを中心に普及・拡大中である。新施肥基準は追肥を省略した全量基肥栽培のために,これまで追肥施用後みられていた濃度障害と,施肥労力の軽減につながることが期待される。
熊毛地域は,年平均気温19℃の極暖地であるが,12~2月には低温による肥料の溶出の遅れがみられた。今後,これまで以上に初期の溶出が早いタイプの肥効調節型窒素肥料等が開発されることによって,ジャガイモの窒素吸収パターンにより適合した窒素の供給が可能になると考える。また,施肥位置を詳細に検討することで,利用率が更に向上することが期待され,省力で,かつ環境に配慮、したジャガイモ栽培の拡大や安定生産に貢献できるものと考える。
越野 正義
19世紀の初頭まで有機化合物は生物の力でしか合成できないものと考えられていた。これを覆したのが1828年ドイツのウェーラーによる尿素の合成である。尿素は人間や動物の尿中に発見された有機化合物であるが,ウェーラーはシアン酸アンモニウムを加熱して実験室的に尿素ができることを発見した。ウェーラーの死後100年に発行された西ドイツの切手には,尿素の立体模型とともに合成の反応式が書かれている。

尿素の工業的合成は1916年にDu Pont社がカナダで始めたのが世界で最初である。日本では東洋高圧が1936年に彦島工場で工業化に成功したが,肥料用尿素として大規模に生産を始めたのは1948年東洋高圧砂川工場においてであった。
アンモニア合成の時に発生する二酸化炭素の有効利用になること,窒素が高成分であり輸送・貯蔵コストが低いこと,また肥料としては無硫酸根肥料であり秋落ち水田に向くことなどの理由で窒素肥料の主力となった。
尿素には欠点もあり特に吸湿性が問題だったが,そのもっとも有効な対策は結果的にコーティングであった。被覆尿素はその特性を生かして水田での施用が増えているが,物理性の改善も水田での利用を容易にしたといえる。尿素は被覆肥料の原料としても最適である。コーティングの効果はその膜の厚さに支配されるから,粒当たりの被覆資材の量は肥料の種類によらず同じになる。したがって成分の含量が高いほど相対的に被覆資材の量は少なくて済みコストが安くなるのである。
(財 日本肥糧検定協会 参与)