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第578号 2006(H18).09発行

PDF版はこちら 第578号 2006(H18).09発行

農業と科学 平成18年9月

本号の内容

 

 

北海道における施肥(5)
昭和後期-多肥の時代

(財)北農会
会長 関矢 信一郎

耕地の拡大・作目の変化

 北海道は昭和33年(1958),総合開発第2次5ヶ年計画を開始した。農地開発はこの重点の一つで,全耕地は昭和32年の93万haから40年100万ha,60年には120万haとなった(表1)。

 この中で水田は32年の20万haから45年に29万haとなったが,これがピークで減反政策もあって60年では26万haに漸減した。普通畑は32年の60万haから60年には43万haと激減した。一方,牧草地は急増し36年の6.7万haから41年には10万haを超え,60年には50万haとなった。この増加分は普通畑の減少と新規開発地にほぼ見合っている。

 作目も大きく変った(表2)。水稲は休耕もあったが,大豆・甜菜などの畑作物や牧草,更にはタマネギなどの野菜への転換が目立つ。畑作物では小麦が一時期3万ha台になったが10万haに回復した。甜菜は漸増し,一方で燕麦などの雑穀や亜麻が激減した。野菜ではタマネギの1.5千haから1万haとなり,にんじん・はくさいが増え,大根・キャベツが減少した。

 どの作目も単位面積当りの収量は増加しており,特に甜菜は2.5t/10aから5.4t/10aと倍増している。
 これらの収量増は多収品種の開発・普及、栽培技術の向上による。後者では,甜菜の紙筒移植,水稲の育苗法(稚苗から中苗)などがその典型である。
 これに伴なって施肥量も増加したが,後述する様に生産費における肥料費の比率は低下している。

 昭和30年~60年代を通じての肥料に関する統計資料は少ないので,以下そのいくつかをつなぐ形で施肥の動向を追うことにする。

施肥量の動向

 昭和30年頃迄,北海道の施肥量は低く,全国平均を下まわるとされていたが,その後急速に増加している。

 表3は昭和30~40年の動向である。成分としては三要素共ほぼ倍増しており,特に加里の増加が目立つ。消費量の増加は耕地面積の拡大や作目の変化にもよるが,10a当りの施用量も窒素が3.7kgから6.3kgに,燐酸が5.3kgから8.9kg,加里は3.0kgから6.2kgとなった。要素間の比率を見ると,窒素に対し燐酸は140程度であるが加里は81から100となっている。加里については開墾後の年数による土壌からの供給量の低下と推定されている。

 昭和40~50年については,総量で40年の67万tから50年の76万tと増加している。内訳をみると単肥部分が低下し,複合肥料が29万tから60万tとなっていて,単肥から化成への転換が急速に起きていることを示す。

 昭和50年代になると総量では微増で59年に100万tになったが,40年代ほどの勢いはない。これは高度化成の割合の増加や減反の影響もあろうか。いずれにせよ成分の増加は続いていることを示す。

施肥標準

 北海道農政部は昭和32年(1957)に施肥標準を設定し,以降36,42,46,53,58,平成元,7,14の各年に改訂版を出している。これは地域区分の変更,作目・品種の変遷、技術の進展などによるが,具体的には前述した収量水準の向上に伴なう施肥量の増加に合せたものである。更に一般的には標準を上まわる施肥の実態に合せた面も否めない。

 表5に,空知中北部の水稲と十勝南部の馬鈴薯の例をあげる。いずれも沖積地である。昭和32年(1957)に比べ58年では水稲の目標収量水準,施肥量ともに増加している。水稲は収量は1.35倍となったのに対し窒素施肥量は1.5倍となり,馬鈴薯ではそれぞれ2.0倍,1.25倍となっている。

 堆肥の施用量は水稲で0.75~1.0t ,馬鈴薯で2tを前提としているが,いずれも肥料成は考慮していない。

水稲

 北海道の水稲生産量は昭和45年(1970年)には新潟県を抜き全国一となった。以降は50%に近い減反が実施されているため生産量は大幅に低下している。収量水準も向上し,40年代には400kg/10aとなり,全国平均を上まわり40年代後半には500kg/10aに達した。

 これに伴い施肥量も増加した。農水省の米生産費調査によれば表6に示す様に窒素でみると40年9.33kg/10a,60年には10.9kg/10aに達した。これは全国平均とほぼ同水準である。この間の45年から減反が実施されているが,このことが施肥量に直接関係していない様である。

 この施肥量は表5の施肥標準に比べ窒素で1~3kg多い。表5の数値は施肥の最も多い地帯のものであり,表6のものは全道の平均値である。従って更に大きな差が推定される。燐酸についてもやはり1~2kg/10a程度高くなっている。

 堆肥については,施肥標準では0.74~1t/10aの施用を前提としているが,生産費調査では45年の0.5t,50からは0.2t/10aを割る様にになっている。一方で50年代後半からのコンバインによる収穫が一般化し,稲わらが圃場に残され,ほぼ全量鋤きこまれる様になった。これには堆肥の施用基準程度の窒素が含まれており,種々な障害を伴なうものの,堆肥の代替となった。標準施肥では,稲わら施用が10年以上続く圃場については,窒素の減肥を指導している。

 側条施肥は50年代後半から広く普及する様になり,特に初期生育の不振な地帯で奨励された。側条施肥では肥料の利用率が高まるので平成元年(1989)から減肥が指導されている。また,側条施肥法には全量側条,全層と側条の組合せ,側条と分施(追肥)組合せなどいくつかのタイプがあり,側条分が多いほど減肥が多くなっており,全量側条では0.5kg/10a程度の減肥量となっている。

畑作物

 畑作物の施肥実態に関するこの時期の資料は,極めて限られている。その中の昭和52年(1977)に十勝農試が実施した調査報告により当時の施肥実態を紹介する。

 この調査は十勝支庁管内から標本抽出した生産者から直接聴取りを行なったものである。主な点を表7にまとめた。この施肥量を施肥標準(46年改訂版 十勝内陸地帯)表8と比較すると,実態が標準を上まわるものが多く,全体にかなりの多肥になっている。

 この調査報告はおよそ以下の取りまとめをしている。

①過去5年間で著しく増加した(80%)。
②標準を大きく上まわるのは甜菜,豆類で,小麦,デントコーンはほぼ適正である。
③増肥しているのは窒素で,燐酸・加里はさほどではない。
④増肥の効果は甜菜,豆類で大きく,とうもろこしにも認められる。
⑤半数以上の生産者が,「化学肥料の多用は土壌に悪影響を与えている」としている。
⑥施肥法は条施で基肥主体,追肥は甜菜,スィートコーンでは75%,菜豆で53%,他の作目では30%以下で,回数は1回である。
⑦堆肥の施用は甜菜の作付時とするものが半分以上で,他の作目では25%程度である。
⑧肥料は化成が過半で,銘柄数は200を越える。中でも甜菜と馬鈴薯に多くそれぞれ50を越えている。
⑨これらは窒素成分比に差があっても,燐酸・加里の比率には大差がない。また,作目による差はあっても土壌による差はない。

 この様に,畑作物,特に甜菜・豆類での多肥が認められる。

施肥量の増加-多肥の時代

 今号で述べた昭和30年から60年(1955~85)にかけては,多肥の時代とみることができょう。全国的には,稲作の後期追肥,野菜作における多作化などにより,各都道府県の施肥標準を大幅に超える施肥が慣行化した時期である。その結果,50年代後半からは環境への負荷や作物の品質などが問題となって来た。

 北海道の施肥量の増加は,収量水準の向上に伴う増肥,化成肥料の普及による施肥のマニアル化などと共に生産費に占める肥料費の比率が低くなったことが推定される。

 化成肥料は,40年代後半から施肥量の過半を占める様になり,60年には75%に達した。これに伴ない銘柄数も増え,ホクレンの扱うものも30年代の15から60年には50に達している。

 また,生産費に占める割合は,表9に示す様に50年からの10年間に,米では14.7%から6.7%に,甜菜でも34%から25%に低下している。この間,肥料費全体としては10~70%上昇している。このことは肥料費の相対的な低下が多肥の一因と考えることができよう。

 

 

ダイコンの1粒播種栽培技術の検討

石川県砂丘地農業試験場
専門研究員 福岡 信之

はじめに

 1粒播種栽培は,間引き作業が不要なため省力効果が高いが,欠株が生じやすく,圃場で生育のバラツキが大きい等の問題があり,現段階では普及には至っていない。一方,近年では高性能種子の普及によって発芽不良に起因する欠株の発生リスクも軽減されてきており,キャベツ,ブロッコリー,レタス等では大きな種子は発芽やその後の生育が良いことが報告されている。また,1粒播種栽培はいわゆる共育ちがないため初期生育の確保が難しいと考えられるが,ホウレンソウでは種子への被覆尿素の近接施肥により生育が促進されることが知られている。さらに,野菜種子の発芽の良否や生育は,播種深度,土壌水分等も密接に関係していることが知られているので,これら既存の知見を総合することによってダイコンの一粒播種栽培技術の確立の可能性はあると考えられる。

 ここでは,ダイコンの一粒播種栽培技術の開発を目的に,種子選別,土壌水分,播種深度,肥効調節型肥料の種子近接施肥等を検討し,一定の成果が得られたのでその概要を報告する。

材料及び方法

実験Ⅰ 種子の粒径の品種間差と発芽との関係

 材料は,夏つかさ,耐病総太り,YRてんぐ,秋いち,T-392 ,快進2号,快調総太の7品種の種子を用いた。2002年8月14日に,各品種の種子1dlをそれぞれアルミ製縦目篩(不二金属工業製)を用いて粒径2mm未満,2mm以上2.5mm未満,2.5mm以上3mm未満,3mm以上の4階級に分類した。各階級の種子について粒径の構成比率と発芽率を調査した。

実験Ⅱ 種子の粒径が欠株の発生や生育に及ぼす影響

 材料は,夏つかさを用いた。処理区として,粒径2mm未満,2mm以上2.5mm未満,2.5mm以上3mm未満,3mm以上の4階級に分類した種子をそれぞれ30cm間隔で1粒づつ露地圃場に播種する4区と無選別種子を各播種地点に3粒づつ播種する対照区の計5区を設けた。調査は,欠株の発生様相,子葉の大きさ,播種後60日目の葉数,葉重,根重について行った。

実験Ⅲ 播種深度が欠株の発生や生育に及ぼす影響

 材料は,夏つかさを用いた。処理区として,30cm間隔で1粒づつ種子封入したテープシーダーを雨よけハウスに深度2,3,4cmで播種する3区を設けた。播種は通常の播種機(日本プラントシーダー株製TSA-7)を用いて行い,播種深度の設定は播種機の深度ゲージを調節して行った。欠株の発生様相,播種後20,40日目の葉重,根重について調査した。

実験Ⅳ 播種機の相違が播種精度に及ぼす影響

 材料は,夏つかさを用いた。処理区として,通常の播種機とソリ付き播種機(日本プラントシーダー株製TSA-8ST)を用いて深度2cmと4cmで播種する計4区を設けた。調査は,実際に播種された60~65粒の種子について,播種深度を測定して行った。

実験Ⅴ 被覆尿素肥料の種子近接施肥が生育に及ぼす影響

 材料は,夏つかさを用いた。処理区として,種子を30cm間隔で1粒づつテープ封入,さらに種子の両側2cmの位置に被覆尿素肥料(LP30)を各1粒(計2粒)あるいは2粒(計4粒)封入したテープシーダーとLP30を封入しないテープシーダーを通常の播種機を用いて深度2cmで播種する3区を設けた。播種後20,40,56日目に各区20個体採取し,葉重,根重を測定した。

実験Ⅵ 個々の技術を組合せた総合技術の実用性の検証

 材料は,夏つかさと快進2号を用いた。粒径2mm以上3mm未満の選別種子を33cm間隔で1粒づつテープ封入,さらに種子の両側2cmの位置に被覆尿素肥料(LP30)を各2粒(計4粒)封入したテープシーダーをソリ付き播種機で深度2cmに播種する総合1粒区を設けた。対照区は無選別種子を33cm間隔で3粒づつ封入したテープシーダーを通常の播種機を用いて深度2cmに播種した。調査は,各区の欠株の発生様相,播種後60日目の葉重,根重について行った。

結果

実験Ⅰ 種子の粒径分布の品種間差と発芽との関係

 種子の粒径分布には品種間差があり,耐病総太り,YRてんぐ,T-392は粒径2.5mm以上の大きな種子が多かった(図1)。これに対し,夏つかさ,秋いち,快進2号,快調総太は2mm以上2.5mm未満の種子の構成割合が高く,前者に比べてやや粒径が小さかった。発芽率は夏つかさが他の品種に比べて良く,特に粒径2mm以上の種子の発芽率は100%であった。

実験Ⅱ 種子の粒径が欠株の発生や生育に及ぼす影響

 欠株率は粒径で異なり,粒径2.5mm以上では欠株はなかったが,2mm未満の種子では6%と高かった(表1)。播種後10日目の子葉幅は粒径が小さいほど小さかった。また,播種後60日目の葉重・根重も粒径が小さいほど小さかった。

実験Ⅲ 播種深度が欠株の発生や生育に及ぼす影響

 欠株の発生は,播種深度が深い区ほど多かった(表2)。特に,深度4cm区の欠株率は8%以上と顕著に高かった。葉部の生育は播種後40日目以降は処理区間で差は認められなかった。一方,播種後60日目の根部の生育は播種深度3cm以上で劣る傾向であった。

実験Ⅳ 播種機の相違が播種精度に及ぼす影響

 ソリ付き播種機は慣行播種機と比べて,2cm,4cmいずれの設定深度でも平均播種深度が設定深度に近い値となり,特に2cmの設定深度では個体が発生した。実際に播種された深度の標準偏差値も小さかった(図2)。

実験Ⅴ 被覆尿素肥料の種子近接施肥が生育に及ぼす影響

 被覆尿素肥料を種子の両側2cmの位置に計4粒テープ封入することにより,生育全般にわたって葉根部の生育が促進される傾向であった(表3)。しかし,この効果は,種子の両側に被覆尿素肥料を計2粒封入した場合は明確ではなかった。

実験Ⅵ 個々の技術を組合せた総合技術の実用性の検証

 総合1粒区の欠株率は,夏つかさが2.9%であったのに対し,快進2号では20.5%と顕著に高かった(表4)。収穫期の根重は,夏つかさ,快進2号ともに総合1粒区で対照区より大きかった。一方,根重のバラツキは,夏つかさでは総合1粒区と対照区との間で大差なく,快進2号では総合1粒区が対照区に比べて極端に大きな個体や小さな個体が発生した。

考察

 一般に,高等植物の種子の発芽力には同一作物でも品種間差があることが知られており,キャべツ,ブロッコリーでは同一品種間では種子サイズが大きいほど発芽後の生育が良い。本研究のダイコンでは,種子の粒径分布の品種間差と発芽の良否との間には一定の関係はなく,発芽が最も安定していたのは夏つかさであった。また,夏つかさを粒径別に区分して圃場に播種したところ,粒径が大きい種子ほど生育が良く,特に粒径2mm未満の小さな種子では欠株の発生が多く,子葉が小さく初期生育も極めて悪かった。したがって,ダイコンの1粒播種栽培では,種子の大きさより発芽力を重視した品種選定が必要で,夏つかさのような発芽力の高い品種を種子選別して粒径の小さな種子を除去すると,圃場での発芽や生育が向上すると考えられた。

 本研究では播種深度を2,3,4cmの3段階に変えて欠株の発生状況を調査したが,深度を4cmとすると欠株率が顕著に増大した。小原らはダイコンは播種深度1.5cmで最も発芽率が高く,これ以上に深く播種すると発芽率が低下することを,富岡はダイコンのテープシーダー栽培の好適播種深度は2cm程度であることを指摘している。

 一般に,種子の発芽の良否は地温や土壌水分等の環境要因の影響を受け,ダイコンでは20~35℃の温度域であれば発芽率や発芽までの日数に差がないことが知られている。また,ダイコン種子の発芽限界土壌水分値は砂土では永久萎凋点よりもやや高いところにあることが報告されている。本研究では,各播種深度における地温を調査したが,いずれも20~35℃の範囲で日変動しており(データ省略),発芽が不良となる温度域ではなかった。

 また,土壌水分値は欠株が多かった4cm区と少なかった3cm区はともに7~8%と大差なく,さらに,欠株が少なかった2cm区ではかん水7時間後には6.5%にまで低下していて,むしろ他の区より乾燥ぎみとなった。

 一方,キャベツでは,播種深度が深いと胚軸への乾物分配率が増加して子葉が小さくなり,苗の相対生長率が減少することが報告されている。したがって,本研究において播種深度4cmで欠株率が増大したのは,土壌水分や地温の差によるのではなく,子葉が小さく出芽後の生育が劣るなどの幼苗の外的環境に対する抵抗力の低下が関与しているものと推察された。

 上記したようにダイコン種子の発芽や生育は播種深度の影響を強く受けるが,実際の圃場ではうね表面の凹凸は避けられず,一定深度で播種することは困難である。そこで,本研究では2種の異なる播種機を用いて播種精度の検討を行ったが,ソリ付き播種機は慣行の播種機に比べて設定深度での播種精度が高かった。したがって,一定深度への播種が求められる1粒播種栽培では,ソリ付き播種機の利用が効果的であると考えられた。

 一般に,高等植物は生育の初期段階は密植とした方が共育ちで生育が促進されることが知られている。1粒播種栽培は共育ちによる共同現象がなく,また,播種精度を高めたとしても播種深度の多少の変動はいなめなく,このことにより初期生育が緩慢となることが懸念される。五十嵐らはダイコンの複数播種による初期生育の抑制は,本葉の展開が始まる早い時期から現れ,1粒播種は複数播種に比べて生育促進効果が高い栽培法であることを指摘しているが,著者らの研究では1粒播種が複数播種に比べて初期生育が促進されることはなかった(データ省略)。

 一方,ホウレンソウでは被覆尿素肥料を種子から2cm程度離して土中に埋設すれば,濃度障害による発芽低下もなく,生育が確保されることが報告されている。本研究においても,テープ封入したダイコン種子の両サイド2cmの位置に被覆尿素を2粒ずつ封入することにより,発芽率が低下することなく初期生育が旺盛となり,この効果は生育後半まで持続することが認められた。1粒播種栽培では安定的な発芽とともに外的環境の変化に耐え得る幼苗期の生育確保が重要となることから,初期生育を確保する被覆尿素肥料の種子への近接施肥は1粒播種栽培にとって有効な1技術となると考えられる。

 ダイコンの1粒播種栽培では,発芽力の高い品種の選定とその種子の粒径選別,深度2cmでの播種と播種精度の高いソリ付き播種機の利用,初期生育を確保するための肥効調節型肥料の種子への近接施肥が重要であることが明らかとなったことから,これらを組み合わせて総合化した技術の実用性を検証した。

 その結果,夏つかさでは欠株率が3%以内に抑えられ,初期生育が確保されて根部の肥大成長が早く,また,収穫物(根重)のバラツキも対照の間引き栽培と比べて大差ないことが認められた。これに対し、快進2号では,根部の生育は促進されたが,欠株が20%程度発生し,収穫物のバラツキも顕著に大きかった。これらのことは,発芽力の高い品種を用いて上記技術の総合化を図れば1粒播種栽培は実用可能な技術となりうるが,品種選定を誤れば大幅な減収につながる危険性があることを示唆している。

 本研究では耕種的側面から1粒播種栽培の実用性の向上を図ったが,1粒播種栽培では特に立ち枯れ病やネキリムシ等の病害虫の発生も考慮する必要があり,今後は効果的な病害虫防除法の検討も必要と考えられる。

 

 

のり面緑化工の変遷について[2]
-のり面緑化工の目的・目標と組み立て-

エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司

1.はじめに

 植物を用いる技術という点では共通ですが,生産・収量を重視する農業と建設・土木工事において侵食防止を主目的として実施するのり面緑化の異なる点については,前号に大雑把にしめしました。今回は,のり面緑化の基本的な流れについて述べることとし,次回以降,植物材料,工法などについて具体的に述べて行くものとします。

 建設・土木関連分野において,植物を用いる技術はのり面緑化と造園がありますが,造園では緑化・緑化工という呼び方を用いることは少なく,緑化工と称する場合は,のり面緑化工を指すことが一般的です。これは,のり面緑化工が,治山緑化技術の延長上に生まれた技術のためと考えられます。また,造園,特に庭園などの比較的面積が小さく管理を含む集約的な取扱い方に対し,面積が広く粗放的な取扱いを行うものを緑化と称している感があります。大規模な面積に緑を導入することを緑化・緑化工と称しているように思えます。

 また,緑化という場合,植物の導入方法は,播種によることが主であり,近年に入り苗木を用いることも多くなってきました。農業や造園に比較すると,種子をまきっぱなし,植えっぱなしであり,かなり乱暴な取扱いをしております。造園の分野でも,工場など大規模な敷地に対しては大量に苗木植栽を行うことが多く,このような場合は工場緑化と称しております。

2.緑化工の対象地

 緑化工と称する場合は,治山・砂防緑化とのり面緑化を包含して使用しており,はげ山の緑化,煙害地,火山噴火による荒廃地,豪雨・地震などによって発生する山崩れ,海岸砂防地など自然斜面を対象とする治山・砂防緑化の分野と,道路(一般道・高速道路・林道など),ダム,工場,宅地,農地造成などにより発生する人工斜面であるのり面緑化の分野を総称するものとなります。治山・砂防の場合は,天災人為にかかわらず,何らかの外力により衰退した植生の回復をさせることにより,緑の機能の回復・向上を図るもので,のり面緑化は,人為によりはぎ取られた緑化の回復・復元を行うものということになります。このように考え,周辺を見回すとのり面緑化を行った箇所は多く,身近なものと感じられるかもしれません。

3.のり面緑化の目的・目標

(1)のり面緑化の目的

 のり面緑化は,建設・土木工事により傷つけられ裸地化した地山の傷口を応急的に緑の絆創膏を貼り付け,傷口が広がることを防ぎ自然治癒にゆだねる事を基本とすることは前号で述べました。

 傷口が広がるとはどのような事を指すのでしょうか。第一番目にあげられるのは軟質な地山の場合です。柔らかな地山だと,降雨により表面が洗われるシートエロージョンが始まり,集中流下水により雨裂へと発達し,そのまま放置するならばやがては地山が崩壊するに至ります。また,冬期には凍結・融解,凍上による地山の膨軟化が進み,強い季節風による風食も進むこととなります。二番目にあげることができるのは,硬質な地山の場合です。硬質な地山の場合,降雨による侵食は発生しにくいのですが,乾湿繰り返しや,昼夜の温度変化による地山の劣化(風化)が進行します。

 のり面の緑化の直接的な目的は,のり面に植物を導入することにより,風化・侵食というのり面表層の物理的な損傷を軽減し風化・侵食を抑制することにあります。このような目的を達成するためには,早急にのり面を緑化し被覆を完成させることが重要となります。

 実は,牧草を用いた侵食防止は農業分野で始められたもので,戦後,外地からの引き揚げ者による人口増大に対応する食糧増産のために斜面にたいする農地造成が行われ,侵食防止のために牧草が用いられました。

 治山緑化の場合,侵食防止機能,崩壊防止機能に加え,森林の回復と土壌の形成による保水力の増加を洪水調節機能・水源涵養機能としてあげ,水土保全機能と総称しております。

 のり面に対し風化・侵食の防止という物理的な目的を達成する最も確実な手段としては,モルタル・コンクリート吹付工をあげることができます。しかし,軟質な地山に対しては植物を用いることが安価であったために緑化工による侵食防止が行なわれることになりました。これを私は,「緑のモルタル・コンクリート吹付工」と称しております。

 環境重視の現在では,のり面を緑にすることが当たり前のように考えられておりますが,のり面保護という目的のもとではのり面を緑化することが必ずしも求められていたわけではありません。このため,昭和50年代中頃までは,簡便な方法で安価に植生の成立が可能な軟質な地山に対しては緑化を行い,硬質土・軟岩など植物根系の侵入ができず植生の成立が困難な地山に対しては,モルタル・コンクリート吹付工を適用するという使い分けが行われておりました。

 近年は,風化・侵食防止に加え,植生がはぎ取られたことにより悪化した景観の修復や修景,また,生態系・自然の回復までものり面緑化に求められてきております。これらは,植物が生育することにより得られる間接的な機能と言えるものでしたが,次第に,景観・自然の回復がのり面緑化に要求される直接的な目的となされるようになり,従来はモルタル・コンクリート吹付工により風化・侵食を防止してきた箇所まで緑化がなされるようになりました。これにより,次第にのり面緑化による植生回復の目標を明確にすることが求められるようになりました。

(2)のり面緑化の目標

 のり面緑化の目標とは,造成する群落の形態,及び組成を指しますが,森林状の植物社会の復元には長期間を要するために,施工後見通しをつけることが可能な10年程度の短期の緑化目標と,その後自然の推移に任せながら回復を図る長期の緑化目標にわけて考えております。長期の緑化目標を想定したうえで,短期の緑化目標を定めることとなります。

 のり面緑化を行う箇所の大部分は,自然斜面を切り開いた箇所の復旧となりますから,特殊な場合を除き長期の緑化目標は周辺の森林・二次林と同様の組成をもつ植物社会の回復を目指すこととなります。したがって,元ののり面ヘ回復させるためのワンステッフが短期の緑化目標であり,その後は自然の推移に任せながら,その経過を見守ってゆくということとなります。

 短期の緑化目標といっても,5~10年後という期間となりますが,草原タイプ,低木叢林タイプ,中高木林タイプが主な緑化目標です。もう一つ,特殊タイプがありますが,これは修景を目的とする草花類の群落などを指します。

 導入植物は,のり面緑化の目的・目標に即して選定され,工法の検討がなされることとなります。

4.のり面緑化工の組み立て

 のり面緑化工の組み立ては次のように示されます。

 緑化基礎工は,植物を導入するための基盤整備の部分で,地山の土壌改良,及び造成土層(植物生育基盤)を安定させるための柵工,枠工,ネット張工などの補助工を指します。導入する植物の生育空間(ハビタット=生息空間)を造成するものといえます。

 植生工は,目標とする植物社会・群落に到達可能な植物の選定と導入するための方法を指し,種子から導入する播種工,苗木を用いる植栽工・置苗工,及び植生誘導工に区分されますが,主として播種工が用いられます。

 維持管理工は,緑化の目的・目標に沿った植生の推移がなされているか否かを確認するためのモニタリング,及び管理工に大別されます。管理工は,短期の緑化目標に誘導するための育成(誘導)管理工,長期の緑化目標に対して推移しているかを見守る監視的(適応的・順応的)管理工があげられますが現状では管理工がなされることは極まれで,自然の推移に任せる場合が大部分です。

5.のり面緑化工の流れ

 のり面緑化工の組み立てを,実際にのり面緑化を行う流れより見るならば次のように示すことができます。

 大規模な建設事業の場合,計画段階で,植生や鳥類・動物・昆虫などに関する調査が実施され,その結果を基に環境アセスメントが行われ,地域住民の同意を得た後に立地条件を勘案した実施設計がなされ,施工を行うという流れとなります。

 景観修復,自然回復に重きを置く場合は,計画段階の調査結果や地域住民の意見を反映し,緑化目標が設定され,その緑化目標を実現するための設計・施工がなされます。また,緑化目標の達成には長期間を要するために,モニタリングと必要に応じ育成(誘導)管理を行うことが必要となります。

 これに対し,災害復旧などのり面の防災面を重視する場合は,土工計画が先行するため,すでに勾配などが計画・決定されたのり面に対して侵食防止を主とした計画・施工がおこなわれることとなります。

 のり面緑化には,このような二つのスタンスがありますが,一般には,土工計画がなされた後,土工計画に合わせた形に計画・施工がなされることが多いのが実情です。この場合,敷地取得経費など経済性の観点から地山の安定する範囲内でできる限り急勾配のり面とすることが多く,単にのり面の侵食を防ぐことができればよいという要求に応えるための緑化となり,緑化の質に関する配慮は困難となります。これに対し景観修復や自然回復に重きをおいた場合は,最初から,高度の緑化目標が設定され,緑化の質の確保を求められます。

 土工計画に従い急勾配のり面に対する侵食防止を行うことを目的とする場合,発芽が斉一で生長の速い牧草を用い,急速に緑化・被覆を図り,その後は,自然の推移に任せると言うことになります。自然の推移に任せるというと格好良いのですが,管理無しで放置しておくと言うことに他なりません。自然の治癒力である植生還移の力は大きく,放置したままでものり面の安定さえ保たれているならば,20年程度で周辺植生から侵入・定着した植物が生長し,相応の自然植生の回復が始まってゆきます。このことが,「緑の絆創膏」と称るゆえんですが,牧草により急速に緑化・被覆し傷口の拡大を防ぐならば自律的に植生の回復が行われます。

 高度の緑化目標を設定するのは,数十年という時間をかけた自然回復を持つことができない場合に実施されるものと考えて良く,緑化目標をより植生遷移の後期,すなわち草本タイプ→低木叢林タイプ→中高木林タイプと高度にするにつれ,導入植物の選定と,緑化基礎工の高度な組み合わせが必要となり,施工費の増大と維持管理工の必要性が増すものとなります。

 のり面緑化は,「時間を金で買う」ものと称するゆえんです。時間をかけ自然の回復力にゆだねるならばより安価に自然回復がなされますが,短期間でもとの植生に近い状態の植生の回復を行おうとするならば,相応の経費を要することは否めません。

 近頃は,公共予算の経費縮減の流れの中で,安く,速く,自然の回復を図るという時間の推移を無視した課題が示されることが多く,その対応に苦慮しております。

参考文献

1)日本緑化工協会:21世紀の環境を造る「緑化工技術」21選(創立40周年記念出版),2006

2)日本緑化工学会編:環境緑化の事典,朝倉書店,2005