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第583号 2007(H19).02発行

PDF版はこちら 第583号 2007(H19).02発行

農業と科学 平成19年2月

本号の内容

 

 

肥効調節型肥料(エコロング424-40,70タイプ)を
用いたチンゲンサイの硝酸イオン低減化技術

静岡県農業試験場 土壌肥料部
研究主幹 松本 昌直

はじめに

 静岡県の特産野菜であるチンゲンサイの生産量は全国シェア18%で21億円の生産額を上げている。導入以来20年以上,年6~8作の周年栽培がおこなわれている。生産の安定のために年間100t ha-1に及ぶ有機物を連用し,土づくりを行ってきた結果,窒素やリン酸,塩基類などの土壌への集積が進むとともに,作物体への硝酸イオンの過剰な蓄積がみられるようになった。

 硝酸イオンは土壌中で肥料や有機物の分解によって生成され,植物の根から吸収され,体内でアミノ酸などに代謝される。一方では,食品添加物としても認められており,通常の摂取程度ではヒトに害を及ぼすことはない。しかし,過剰な摂取は健康に悪影響を及ぼすことが懸念されており,WHO(世界保健機構)では,1,540mg/週の制限値を設け,EUでは野菜の硝酸イオン濃度の上限値を設定した。

 野菜は人の健康に対して,有用な機能性に富む食品であるが,硝酸イオンの主たる摂取源が野菜であることから,特に硝酸イオン濃度が高い葉菜類の値を低下させることは重要である。

 また,硝酸イオンの低減化は結果として,施肥量の削減や有機物施用の適正化となるため,環境負荷の少ない栽培となる。

 ここでは,連作産地におけるチンゲンサイの栽培環境の実態と硝酸イオン濃度の調査を行うとともに,肥効調節型肥料を用いた硝酸イオン低減化について検討したので報告する。

連作産地土壌は肥料成分が過剰蓄積

 夏期の土壌調査(栽培跡地)の結果,培養窒素(無機態+可給態窒素)は,平均値が146,最大値が486mgkg-1,可給態リン酸は平均値が2200,最大値が5220mgkg-1,交換性加里が平均値が300,最大値が470mgkg-1と施肥や堆肥の連用による集積がみられた(表1)。

 また,施用有機物の種類によってチンゲンサイの硝酸イオン濃度にも違いがみられ,稲わら,草系の有機物よりも,汚泥系の有機物の施用は硝酸イオン濃度を高める傾向があった(表2)。

チンゲンサイの硝酸イオンは冬低く,夏高い

 チンゲンサイの硝酸イオン濃度の年間変動は,冬期に低く,夏期に高い。また,冬期(2月)に105戸,夏期(9月)に75戸を調査したところ,夏期の平均値は5366ppmFW,冬期は2793ppmFWであったことから,高温期では低減化の目標の3000ppmFWを達成することが難しいと考えられた(表3,図1)。

窒素形態の異なる肥効調節型肥料の施用によるチンゲンサイの硝酸イオン低減化について

 現地農家ほ場において,窒素溶出期間が何れも70日タイプで,窒素形態の異なる被覆肥料(被覆硫安,被覆尿素,被覆燐硝安加里=エコロング424)を窒素200kgha-1相当量施用し,1回の施肥により2作連続でチンゲンサイを栽培することで硝酸イオンの低減化を検討した。このときの慣行区は有機配合肥料(N-P2O5-K2O=7-2-5)を毎作施用した。試験に供したほ場は,土壌中の無機態窒素量の異なる(低濃度窒素ほ場=約100mgkg-1,中濃度窒素ほ場=約200mgkg-1,高濃度窒素ほ場=約300mgkg-1)土壌において試験を実施した。

 表4に土壌の無機態窒素が約100mgkg-1のほ場での結果を示した。

 慣行区の株重を100とした相対値%は,被覆硫安区が1作目,2作目とも最も大きく,次いで、被覆尿素区,被覆燐硝安加里区の順であった。

 また,硝酸イオン濃度は,同様に慣行区を100とした相対値%は1作目では被覆尿素区が最も小さく,次いで,被覆燐硝安加里区=被覆硫安区であり,2作目では被覆燐硝安加里区,被覆硫安区,被覆尿素区の順に低下した。

 表5に土壌の無機態窒素が約200mgkg-1のほ場での結果を示した。

 株重の相対値%は1作目,2作目とも被覆燐硝安加里区が最も大きく,硝酸イオン濃度の相対値%も被覆燐硝安加里区が最も低下した。

 表6に土壌の無機態窒素が約300mgkg-1のほ場での結果を示した

 株重の相対値%は1作目の被覆硫安区を除き,何れも,高い値を示した。硝酸イオン濃度の相対値%は何れも慣行区より低い値を示したが,低下の程度は土壌中の無機態窒素量が100,200mgkg-1のほ場よりも少なかった。

苗時全量施肥栽培による硝酸イオン低減化

 農試温室内において,細粒黄色土を充填した全農型隔離ベッド(2.4m×0.9m)に肥効調節型肥料(エコロング424-40日タイプ)をは種時に市販育苗培土(N100mgL-1)に窒素20~80kgha-1相当量を混合し,チンゲンサイ”夏あおい”を128穴ペーパーポットで15日間育面したものを,本圃は無窒素で栽培した。また,慣行区は前述の市販培土のみで育苗し,本圃に窒素100kgha-1相当量の有機配合肥料(N-P2O5-K2O=7-2-5)を施用した。

 育苗時に施肥した苗の定植時の状態を表7に示した。苗重は育苗培土への施用窒素量が20及び40kgha-1では増加したが,それ以上に窒素量を増やすことにより減少した。定植可能な苗の割合は肥料の混合量を増加させるに従って低下し,40kgha-1が最高値となり,それ以上に窒素量を増加した場合は減少した。

 図2に育苗時に施肥した窒素量と収穫時の硝酸イオン濃度及び株重の関係を示した。

 硝酸イオンは育苗時施肥窒素80kgha-1区,慣行区(育苗期には施肥をしないで、本圃に窒素100kgha-1相当量を施肥),60kgha-1,40kgha-1,20kgha-1の順に高く,最も低い20kgha-1施用区では,慣行区に比較して60%の低減化がなされた。株重は慣行区が最も大きく,次いで40kgha-1,60kgha-1,20kgh-1,80kgha-1区の順で,10~20%の減少がみられた。

 図3に育苗開始から収穫までのエコロング424-40日タイプの窒素の溶出率を示した。予測値とほぼ同様な溶出を示し,収穫時には残存窒素は僅かであった。

 場内試験の結果を受けて現地農家で試験を行った。土壌は細粒黄色土で土壌中の窒素は開始前の測定で、無機態窒素が28mgkg-1,可給態窒素が50mgkg-1であった。育苗ポットの穴数を農家慣行の220穴として7月28日は種,8月9日定植,9月1日収穫で栽培した結果,育苗市販培士(N150mgL-1)にha換算で20kg窒素相当量のロング40日タイプを混合したものが農家の慣行に比較して,硝酸イオンは3割程度低下した。また,同時に128穴の育苗ポットについても試験を行った結果,220穴ポットと同様に硝酸イオンの低減化が可能であった。農試内の試験に比較して硝酸イオンの低減化の割合が少なかったことは,試験を行った農家が若採り傾向にあるために,混合した肥料成分が収穫期まで残っていたためと考えられた。

育苗時施肥による硝酸イオンの低減化における苗齢の影響について

 前記の農家試験で気になった若採りの影響について,同じ農家ほ場で試験を行った。農家慣行を14日間の育苗期間(育苗培土にロングの混合なし,本圃に100kgha-1窒素施用)とし,これより,プラス3,6日間ずつ苗齢を多くし,混合するエコロング424-40日タイプを窒素量20,40kgha-1とした。全区とも定植10月20日,収穫11月22日に統ーした。この結果,慣行区に比較して苗齢が高い区では株重は大きくなり,硝酸イオン濃度は低下する傾向が見られた(表8)。

過剰な施肥は品質が低下=硝酸値を下げると品質が上昇

 施肥量を50%,100%(慣行,窒素10kg10a-1),150%で栽培したチンゲンサイを食味試験したところ,50%では慣行とほぼ同じで,150%では苦みが増して,甘みが減り総合評価が下がる傾向が見られた(図4)。

 図5は硝酸イオン含量が少ないほど,ビタミンC含量が多いことを示している。つまり,施肥量を抑え,硝酸イオンが少ないチンゲンサイは,ビタミンCなどの栄養価にも富むことを示しており,栄養面からも野菜中の硝酸イオン濃度の低下が望ましいと考えられた。

まとめ

 肥効調節型肥料(エコロング424-40,70日タイプ)を用いてチンゲンサイの硝酸イオンの低減化を検討した。

 エコロング424-70日タイプを用いて,2作連続栽培をすることにより,チンゲンサイの硝酸イオンは低下した。しかし,土壌中の無機態窒素の蓄積が多いほ場では,低減化割合は小さかった。

 育苗培土にエコロング424-40日タイプを混合して,本圃は無窒素で栽培すると,硝酸イオンの大幅な低減化が可能であった。このときも,栽培土壌の窒素含量の多寡によって低減化割合に差が生じてくる。また,定植時の苗齢も硝酸イオン濃度や株重に影響を及ぼすことが推察された。

 硝酸イオンの低減には,肥効調節型肥料による窒素の緩やかな溶出(緩やかな吸収による順調な窒素代謝)と土壌に過剰な蓄積を起こさせない有機物施用などの土づくりの推進が重要と考えられた。

 

 

稲麦二毛作地帯における水稲育苗箱
全量基肥専用肥料「苗箱まかせ」による本田栽培

群馬県藤岡地区農業指導センター
高橋 行継

1.はじめに

 水稲育苗箱全量基肥(以下,箱全量)栽培は,本田生育に必要な肥料成分を育苗箱に播種時に全量投入し,本田施肥を省略する技術である。本技術では肥料にきわめて高い溶出精度が要求される。このため現在,チッソ旭肥料(株)から発売されている「苗箱まかせ」が唯一の専用肥料である。箱全量は東北地方ではすでに広く普及しているが,群馬県のような稲麦二毛作体系が中心で,6月中下旬移植の地域ではあまり普及していない。

 本技術は省力施肥が開発の第一目的であり,本研究でも基肥+追肥の標準施肥体系とほぼ同等の収量,品質を得ることを目標とした。前回はプール育苗方法に関して報告した。今回は苗箱まかせを供試した本田栽培を標準栽培と比較し,生育や収量,品質等の特性を中心に報告する。

2.試験方法

 試験は1999~2002年の4か年,群馬県農業技術センター東部地域研究センターで実施した。試験区の構成を表1に示した。箱全量各区には「苗箱まかせNK301-100」(以下,単に苗箱まかせ)を供試した。本肥料は被覆尿素LPS100と被覆NK化成,2002年以降は被覆NK化成に替えて被覆塩化加里を配合し,窒素-燐酸-加里の保証成分量(以下,3成分比)は30-0-10%である。標準区は当地域で普及している基肥+追肥(概ね出穂20日前に1回)の体系とし,基肥は稲麦専用複合化成486(14-18-16%),追肥はNK化成(17-0-16%)を供試した。

 箱全量各区の育苗箱内の施用位置は箱底面から肥料,培土の順に配置した下層区とその反対の配置にした上層区の2種類とした。この他に培土と肥料を混合施用する混合区についても検討を行い,1999年は下層区と混合区,2000年は上層区と下層区の比較を実施しているが,具体的なデータは省略する。

 施肥量は標準区の基肥と追肥の合計窒素量の35%減(北村・今井1995,庄子1999)として,10a当たりの使用箱数を30枚として計算した。なお,表1に示した施肥量,減肥率は移植作業後に残った苗の量から推定した数値である。

 本田移植後の生育調査を概ね移植後20日目と40日目(以下,それぞれ20日調査,40日調査)に実施した。また,成熟期に稈長,穂数,収穫後に籾数,玄米重,千粒重,玄米の粗蛋白質含有量等を測定した。葉色は移植後から成熟期まで適宜葉緑素計によって測定した。

3.試験結果

 箱全量各区の設計施肥量は窒素成分で標準区の基肥+追肥量の35%減としたが,実測から1999,2000年は38%および40%減,2001,2002年はそれぞれ0%,50%減であった(表1)。1999,2001年の20日調査の箱全量区の草丈は標準区を上回った。特に2001年の箱全量区は40.7cmとなり,標準区の35.2cmを有意に上回った。一方,2000年と2002年の草丈は標準区を下回る傾向にあった。20日調査の箱全量区の茎数は4か年ともに標準区を下回る傾向にあり,2000年は標準区に対して有意に減少した。また,40日調査の箱全量区の草丈,茎数は2001年を除いて標準区を下回った。特に2000年は箱全量区の草丈が標準区の82.7cmに対して77.4cm,茎数も標準区の535本/㎡に対し452本/㎡となり,いずれも有意に下回った(表2)。この他,各年ともに出穂期,成熟期の差はほとんど認められず,倒伏もほとんど発生しなかった(データ省略)。

 4か年中,2000年と減肥率がほぼ等しかった1999年を除く3か年の葉色推移を図1に示した。40%減肥の2000年では箱全量区と標準区の葉色はほぼ同様に推移した。0%減肥の2001 年は本田生育前半に箱全量区の葉色が高かった点が特徴的であった。50%減肥の2002年は生育期を通じて標準区に対して箱全量区の葉色が低い傾向が目立った。

 4か年ともに箱全量区の有効茎歩合は標準区と概ね同等以上になったが,穂数は2001年を除き下回った。全籾数は標準区とほぼ同等か上回った(表2,3) 。登熟歩合は2001,2002年に標準区に対して有意に下回ったが(図2),玄米重は2002年を除いて標準区とほぼ同等以上となった。外観品質はやや低下する傾向を示す年次もあったが,大きな低下は認められなかった。箱全量区の玄米粗蛋白質含有率は0%減肥の2001年は標準区より有意に高く,50%減肥の2002年は逆に有意に下回った(表3)。

 なお,1999年と2000年に実施した育苗箱内の施肥位置が本回生育や収量等に及ぼす影響については明らかな差は認められなかった(データ省略)。

4.考察とまとめ

 1999,2000年の減肥率はそれぞれ38,40%であった。移植後はこれまで場内で実施した本田全量基肥試験で用いた肥効調節型肥料と同様の生育特性を示した(高橋ら 2006)。すなわち,茎数は標準栽培より少ないが有効茎歩合が高まり,さらに1穂籾数の増加と登熟歩合の向上によって収量を確保するものである。減肥率が0,50%と当初の設定値を逸脱した2001,2002両年にはこの傾向は必ずしもあてはまらないが,1999,2000年の適正な減肥率の条件下で明らかになったように,本来無駄が少なく,効率のよい生育が特徴であり,箱全量はこの傾向がより鮮明であった。1999,2000年の検討の結果,収量・品質は目標とする標準体系並み以上を確保でき,問題はなかった。

 2000年までの2か年は,肥料の過剰溶出の影響と考えられる苗の徒長と本田移植後の強い生育抑制が発生しており、普及面での大きな課題と考えられた。本田での生育抑制は水深がごく浅かった部分を中心に発生しており,ポット試験の結果から湛水深を3cm以上確保することで被害を軽減できることが明らかになった(高橋ら 2007)。しかし,移植後の生育抑制は2001年以降は発生程度が軽くなり,2002年はほとんど認められなくなった。この要因には,苗箱まかせの加里成分をNK化成から塩化加里への変更に伴う溶出精度の向上が大きく関与していると考えられた。現在では二毛作地帯のように育苗および移植時期が高温になる気象条件下の箱全量栽培でも,苗箱まかせの過剰溶出に伴う苗の徒長や移植後の生育抑制問題はほぼ解決されている。

 2001年は減肥率が0%であったために生育初期から窒素過多の症状がみられ,葉色,茎数,穂数,籾数共に標準区を大きく上回った。一方で登熟歩合の低下,粗蛋白質含有率の上昇が目立ち,箱全量においては窒素成分の低減は必要条件であると考えられた。

 2002年は50%減肥の影響が葉色の推移からも明らかであった。収量も標準区に対して低く,50%の減肥率は高すぎることが明らかになった。

 このように試験年次によって供試品種や減肥率,さらに気象条件も様々であったが,当初目標とした減肥率35%にほぼ近い38~40%の減肥率であれば,目標とする基肥+追肥の標準体系とほぼ同等かそれ以上の収量,品質を得ることができた。

 以上の結果から,群馬県の普通期二毛作地帯においても水稲育苗箱全量基肥施肥法による水稲栽培が可能であることが明らかになった。

引用文献

●北村・今井:1995,
 肥効調節型肥料による施肥技術の新展開1-水稲の全量施肥技術-,土肥誌,66,71-79

●庄子:1999,
 環境保全型農業における新肥料の活用,農林水産研究ジャーナル,22,6-11

●高橋ら:2006,
 群馬県東毛地域における水稲全量基肥栽培専用肥料の開発,日作紀,75,82-89

●高橋ら:2007,
 群馬県の早植・普通期水稲栽培における育苗箱全量基肥栽培,日作紀,76(印刷中)