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第590号 2007(H19).10発行

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農業と科学 平成19年10月

本号の内容

 

 

肥効調節型肥料を用いた乾田直播水稲の安定生産

北海道農業研究センター 研究支援センター
業務第2科長 安田 道夫

1.はじめに

 北海道で行われている乾田播種早期湛水直播栽培では,4月下旬から5月上旬に播種された後,平均気温が11-12℃を超える頃に入水を開始するため,2週間ほど乾田期間がある。また,代かきを行わないので、土壌の透水性が良く,乾田期間に生成した硝酸や施肥窒素などが,湛水直後に土壌から流亡しやすい条件にある。このため,直播水稲の初期生育を確保し施肥窒素を有効に利用するには,肥効調節型肥料を用いる施肥管理が効率的であると判断される。しかし,直播水稲に対する肥効調節型肥料の施肥効率が明確になっていないことなどから,積極的利用にまで至っていない現状にある。

 そこで,7月始頃までに窒素成分が大部分溶出し,その後は土壌からの窒素供給に頼るということで,肥効調節型肥料としてLP40タイプの被覆肥料を選択し,加工用途米である水稲品種「大地の星」を用いた直播栽培による10アール当たり収量600kgを目標とした安定生産について,復元田や北海道の水田地帯に広く分布する泥炭土壌を中心に検討した。

2.試験方法

 北海道農業研究センターの札幌と美唄の5箇所の圃場において,水稲品種「大地の星」(一部「はなえまき」)による直播栽培施肥管理試験を行った。「大地の星」は粘りが少ない米として冷凍ピラフなどの加工用途米として利用され,タンパク質含量はそれほど問題にしなくて良いという品種である。

 札幌圃場は火山性土であり,美唄は表層に無機質土を客土した泥炭土である。試験は,LP40の配合割合を0,30,70,100%の4段階とし,これと窒素施肥量5~11gm-2の範囲で組み合わせ,側条施肥によって行った。

 施肥試験とは別に,春先の播種前に0~20cmの深さで土壌を採取し,30℃,28日間湛水培養して出てくる窒素量(土壌窒素量)を求めた。そして,施肥窒素量と土壌窒素量(mgkg-1をgm-2に換算)の合計と収量との関係について調べた。

3.安定生産のための施肥管理方法

 LP40の施肥効率を評価するために,北海道農業研究センター(札幌)の圃場を使ってLP40の配合割合と窒素施肥量を組み合わせた試験を行った。そして,この試験結果をもとに,収量を施肥窒素量とLP40の配合割合で説明する重回帰分析を行った。この結果,表1に示すように高い重相関係数を示す回帰式が得られた。回帰式における施肥窒素量と配合割合の係数比は大体30:1となり,配合割合30%が窒素19に相当するという関係を示した。したがって,窒素施肥量が5gm-2でLP40の配合割合が30%の場合,配合割合分の窒素の上乗せ量は1gとなり,施肥量は合計で6gということになる。この上乗せ量はLP40の施肥量の約67%に相当していた。

 以上の結果から,収量とLP40の上乗せ分を加えた施肥窒素量との関係を図1に示した。収量と施肥窒素量とは直線関係で示され,施肥窒素量が多いほど収量も高くなった。

 LP40を使った場合の施肥量への上乗せ方法が明らかになったことから,次に施肥窒素量に土壌培養窒素量を換算して(0-20cm深さ,mgkg-1をgm-2に換算)加え,合計の窒素量とし,同様に収量との関係を比較した。この結果を図2に示したが,窒素量が多いほど収量も増大する関係を示し,品種による違いが多少認められるが,600gm-2の収量を得るには20gm-2以上の窒素量が必要になるという関係を示していた。

 さらに,このような関係が,年度が違っても認められるのかどうか,2002年から2004年までの3ヵ年について調べ,この結果を図3に示した。この3ヵ年においては,肥効調節型肥料を使っておらず,品種も「はなえまき」を主体にしたものであったが,「大地の星」の場合(図2)と同じような関係が認められた。この関係では収量600gm-2に必要な窒素量は約30gm-2であった。「大地の星」を使った試験年は,気象条件が良好であったことや加工用途米の場合,タンパク質含量をそれほど気にしなくてよいといったことなどから,平年に収量600gm-2を得るための窒素量は30gm-2とするのが妥当ではないかと考えられた。

 収量600gm-2を生産するための具体的な施肥量の設定方法を表2に示した。土壌窒素量が20mgkg-1でLP40を30%配合するとした場合,速効性の窒素施肥量は10gm-2となり,LP40を入れた場合には8.3gm-2に減肥することになり,減肥割合は17%ということになる。LP40の配合割合が100%の場合には窒素施肥量は6gm-2となり,減肥割合は40%となる。LP40の窒素施肥量は,30%配合の場合2.5gm-2である。

 収量と同じように,精米タンパク質含量についても窒素量と比較した結果を図4に示した。窒素量が増えるほどタンパク質含量が高くなるという関係が認められ,タンパク質含量8%以下を満たすためには窒素量25gm-2以下が必要であると,数値を一応出すことはできる。

 しかし,この関係は収量の場合よりも明確ではないため,数値の信頼性は低い。さらに的確な関係について検討する必要があると思われる。また,LP40の配合割合とタンパク質含量とを比較すると,100%では他の配合割合と比べて幾分タンパク質含量が高くなる傾向が認められた。したがって,品質面からは配合割合を70%までに留めるのが良いと思われる。

 播種時期までに施肥量や肥効調節型肥料の配合割合を決めるには,土壌窒素量を迅速に測定する必要があるが,土壌を湛水培養して出てくる無機態窒素を測定する方法は時間がかかるため,これに代わる簡易な方法についても検討を行った。その結果,精度はあまり高くないが界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いる方法をここでは提案する。これは土壌中の窒素化合物をSDS溶液で抽出し,抽出液を比色することにより土壌窒素量を推定するものである。図5に示す通り,比色値を土壌の乾土率で割ったものと土壌培養窒素量との関係は年度による変動が少なく,比色値/乾土率から土壌(培養)窒素量を求めることができる。測定自体は短時間でできるので,施肥設計を播種時期前に立てることが可能である。

4.おわりに

 乾田播種早期湛水直播栽培において,肥効調節型肥料の施肥窒素への換算方法を明らかにし,土壌窒素量と施肥窒素量を用いて安定生産につなげる施肥管理のやり方について考えてきた。しかし,さらなる安定生産やタンパク質含量の調整を目指すには,苗立ちの安定化が不可欠である。苗立ちの安定化によって肥効調節型肥料の効率的利用がより一層進展し,結果的に施肥窒素量の削減にもつなげることができると考えられる。

参考文献

1)北の国の直播(北海道農業試験場編)1999

2)SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)による田畑輪換土壌の可給態窒素量の評価法, 2007,平成18年度研究成果情報

 

 

暖地中生水稲に対するLPコートを用いた
全量基肥施肥の新基準

熊本県農業研究センタ一 生産環境研究所
研究参事 松森 信

1.はじめに

 熊本県において「売れるコメ」「おいしいコメ」は普通期栽培の中生水稲品種である「ヒノヒカリ」「森のくまさん」が主力であり,両品種で2万6千ha作付されている。これらに対する施肥法は全量基肥施肥(いわゆる一発肥料)の普及が進み,とりわけ速効性窒素とシグモイド100日タイプの被覆尿素肥料(LPコートSS100)が窒素成分で同量配合された「ひとふりV50」や「ひとふりパートⅡ」などの商品名で製品化されている。これらの銘柄は中生水稲栽培面積全体の3割以上に普及しているとみられ,施肥作業の省力化と高品質米の安定生産に貢献している。

 この肥料は元々中生水稲の窒素分施体系である基肥5+穂肥3+晩期穂肥2(kgN /10a)が基本になって開発されている。ところが,近年,玄米中タンパク質含有率の低減を目的とした晩期穂肥の省略が進んだ結果,これに対応した窒素成分の配合割合について改善が求められている。

 そこで,熊本県農業研究センターでは,全量基肥施肥におけるLPコートの配合割合が中生水稲の収量性,玄米中タンパク質含有率ならびに近年問題となっている玄米の外観品質に及ぼす影響について検討を行った。

2.試験方法および栽培概要

 試験は2003~2006年,当研究センター(合志市)の多湿黒ボク土水田において行った。品種「森のくまさん」を用い,地域の標準である6月20日頃に移植した。試験区は,現行の速効性窒素とLPコート由来の窒素をそれぞれ4kg/10a同量配分の全量基肥区(従来配合),新しく開発した被覆尿素を3kg/10aとして生育後半の窒素肥効を減じた区(新配合(を設けた。2003年~2005年は,窒素減肥にけい酸加里やけい酸苦土石灰のケイ酸施用を組み合わせた区(Si付加新配合)を設けた。さらに,高温登熟障害を助長する要因の1つに生育後期の窒素不足1)が指摘されているため,2006年は速効性3+Pコート5kg/10aの区(後期重点配合)を設けて比較検討した(表1)。

3.試験結果

1)LP コートの窒素溶出パターンの予測

 LPコートのような肥効調節型肥料の窒素溶出パターンを把握することは施肥設計において重要であるが,現在は地温の実測値を用いて比較的正確にシミュレーションすることが可能である。その結果,LPコートSS100の窒素溶出は,7月後半から溶出が多くなり,減数分裂期を迎えた8月第2~第3半旬に最大となり,収穫時までに95%が溶出する。この溶出パターンは,2004年と2005年で年次間の差は認められなかった(図1)。

 よって,LPコートSS100は中生水稲に対して,茎数(穂数)の確保,幼穂形成期や登熟期間の窒素供給が優れており,中生品種に適した被覆尿素であると考えられた。

2)水稲の生育,収量ならびに玄米中タンパク質

 新配合肥料を施肥した場合の穂数は年次を問わず従来配合よりも少なく,㎡当たり籾数も少ない傾向であった。しかし,玄米収量は従来配合に比較しいずれの年も±3%の範囲でほぼ同等となっこの収量の安定性は収量構成要素から見ると,籾数の減少を登熟歩合や千粒重の増加が補完したためであると解釈される(表2)。

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 また,試験年次を問わず新配合の玄米中タンパク質含有率は従来配合よりも低く,その差は0.13~1.0%(平均0.4%)であった(図2)。これは生育後半のLPコートSS100からの窒素溶出量が減少しているためと思われる。

 新配合にケイ酸加里や粒状ケイカル等のケイ酸質資材を組み合わせたSi付加新配合の生育や収量品質に対する施用の効果は判然としなかった(表2)。これは土壌条件が可給態ケイ酸で40mg/100g乾土(20mM中性リン酸緩衝液抽出法)以上という高いケイ酸供給力を持ったほ場であるためと考えられる。したがって,ケイ酸質資材との組み合わせ効果については,今後可給態ケイ酸含量の低いほ場での検討が必要であると考えられる。

 また,従来配合と施肥窒素量を同量としてLPコートの配合率を高めた後期重点配合区は,穂数や㎡当たり籾数は多くなったものの,収量増加には結びつか
ず(表2),玄米中タンパク質含有率が高まる結果であった(図2)。

3)水稲の窒素吸収

 新配合の生育中の茎葉窒素濃度の推移は,従来配合に比較してやや低くなる場合があるものの,成熟期ではほぼ同等であった(図3)。窒素吸収量も若干低くなるが同様の吸収パターンとなり,大きく低下することはなかった。

 ケイ酸付加新配合や後期重点配合についてもほぼ同様であった(図4)。なお,この試験ほ場の可給態窒素のレベルは7~8mg/100g乾土程度であり,県下における水田地力のレベルとしては中庸~やや低いと考えられる。

4)玄米外観品質とNSC

 全国的に登熟期間の高温が関与するとされる玄米外観品質の低下が問題となっており,熊本県においても2004年から2006年にかけて白未熟粒や充実不足粒の発生の多い年であった。2003年から2005年までの新配合およびケイ酸付加新配合における玄米の外観品質は,年次によっては従来配合よりも若干低下することがあっても僅差であり,検査等級はいずれも同等であった。2006年は従来配合ならびに後期重点配合が乳白米や充実不足の発生により2等中程度であったのに対し,新配合のみが1等であった(表2)。

 この理由を明らかにするために,2006年の減数分裂期頃の作物体中の非構造性炭水化物(以下,NSC)を重量法2)を参考に定量した。その結果,1籾当たりに換算したNSC含有量は,新配合が従来配合よりも高く,後期重点配合は無窒素栽培よりも低かった(図5)。

 NSCは光合成産物が植物体内に一時貯留されたものであり,器官が生長する際の原資として用いられる。松島ら3)は出穂後の条件が悪いときには子実の炭水化物は出穂前に蓄積したものに依存する割合が特に高くなるとしている。小葉田ら4)は,乳白米の発生要因は,高温による同化産物蓄積阻害よりも,むしろ高温によって高まった子実乾物同化速度に対する同化産物の供給不足が主であると推定しており,乳白米抑制の一つの方法として穎花数を減じることを挙げている。

 これらを勘案すれば,2006年本県産普通期水稲の生育は,7月までの寡照による生育不足後に8月以降の好天で栄養生長が急激に回復したため,同化炭水化物も茎葉の構成成分として消費されNSCの体内蓄積は少なくなり,登熟前半の寡日照条件下において穎花間での炭水化物の競合が起こったと推察された。これに対して,新配合区では中後期の窒素肥効を抑えているため,栄養成長への過剰なNSCの消費を抑えながら稲体内に蓄積し,その量に応じて籾数が制御されたと考えられた。後期重点配合では中後期の窒素肥効を高めたとは思われるが,茎葉の過繁茂でNSCを浪費し,籾数過剰で炭水化物競合を助長したのであろう。

4.本技術のまとめと留意点

 新しく開発されたこの配合を基肥施肥専用として商品化した場合,LPコートの配合割合が低くなることから,肥料価格の低減が期待される。
 このように,中生水稲に対する速効性窒素4kgN/10aとLPコートSS100を3kgN/10aを施用する新配合の全量基肥施肥は,従来の配合と比較して,玄米のタンパク質含有率を低減させ,同等の収量ならびに同等以上の外観品質を得ることができ,さらには環境保全につながる窒素投入量削減,作業省力性,低コスト性を兼ね備えた技術である。この肥料のもたらす効果は図6のようにまとめられる。

 本技術は地力の中庸程度の水田には普及できると考えられ,普通期栽培における中生水稲の新しい施肥基準として提案したい。現在は地力や土壌タイプの異なるほ場において現地実証を重ねており,良好な結果も得ている。
 この技術導入の際の留意点としては,水稲収量を維持するためには窒素吸収量は現行基肥施肥と同等でなければならないので,被覆肥料の安定した肥効を得るためには,稲わら等有機物還元等による土づくりによって地力を維持することが重要であろう。

引用文献

1)農林水産省大臣官房企画評価課技術調整班:
  高温による水稲作への影響と今後の技術対策に関する資料集(2001)
  http://www.kanbou.maff.go.jp/www/gichou

2)大西政夫・堀江武:重量法による水稲各器官中の非構造性炭水化物の簡易定量法,
  日作紀,68,126-136(1999)

3)松島省三ら:水稲収量の成立原理とその応用に関する作物学的研究,
  日作紀,27,201(1958)

4)小葉田亨ら:子実への同化産物供給不足による高温下の乳白米発生,
  日作紀,73,315-322(2004)