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第610号 2009(H21).07発行

PDF版はこちら 第610号 2009(H21).07発行

農業と科学 平成21年7月

本号の内容

 

 

猪苗代湖水環境保全への農業分野からの取組み
②農業生態系からの水環境負荷物質の流出実態

福島県農業総合センタ一 生産環境部
環境・作物栄養科
科長 三浦 吉則

1.はじめに

 湖沼の水質悪化を未然に防止するために,本県では2002年に「福島県猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群の水環境の保全に関する条例」を制定した。それに伴い農業分野においては,2002年から5年間「水環境にやさしい農業モデル実証事業」を実施し,水田からの水環境負荷物質の流出を軽減する農業技術の確立を行った。技術の現地適応性や現地への速やかな技術導入を図るため,湖岸地域内の現地ほ場で調査を行った。
 調査を始めるにあたって,湖岸や周辺地域の状況を見て歩いてみると,写真1のように基幹排水路から湖水へ流入する濁水の様子が観察された。春先で稲作の田植え作業を控えた時期でもあり,我々はすぐにその濁水の源は水田である可能性が高いことを認識した。

 この現状を目の当たりにし,水田からの水環境負荷の軽減技術の確立と併せ,水田地帯からの広域的な負荷物質の流出量の実態把握が必要と判断した。その結果,水田地域から流出する窒素,リンなどの負荷物質の時期的変動の実態と年間流出量の推定を行うため連続的な水質モニタリング調査を行った。以下にその結果を紹介する。

2.試験方法

(1)調査地域及び水質調査法

猪苗代湖北部に位置する水団地帯で,排水路には生活排水などの水田以外からの流入がみられない地域(約70ha)を調査地域として選定した。写真2は調査地域の航空写真を,図1は調査地域の模式図を示した。

 この地区の基盤整備は2000年に実施され,用排水分離により地域用水から取水された水は水田を通り,排水口からの水は基幹排水路に排水される。この基幹排水路の上流部と下流部を調査地点として設定した。この2地点での水質の変化は約70haの水田の環境に及ぼす影響と考えることができる。この上流部及び下流部2地点に自動採水器を設置し,2003年5月から12月まで3時間~16時間間隔で連続採水し,水質分析を行った。12月以降,翌3月までの冬季積雪期間は月2~3回の現地採水調査を行った。ちなみに,この地域の水田用水はたいへん清冽(ECは約100dSm-1,T-Nは約0.3mgL-1等)な水質であった。

(2)調査排水路の採水地点における流量の把握

 物質の流出量を試算するためには,水の流量を把握する必要がある。そこで基幹排水路(三面張りコンクリート水路)の流量を把握するために,自動水位計を設置し,30分間隔で2地点の水位を測定した。流速は,各地点ごとのHQ曲線と水位から推定した。水位から求められる断面積に流速を乗じ流量を算出した。

(3)降雨水,余剰用水の水質及び水量の把握

 測定ポイントである2地点間への流入水として降雨水や余剰用水の流入がみられるため,流出量試算の補正のための測定を行った。降雨水については2002年6月~11月に計5回,余剰用水については地域用水路の水質を月に1~2回の計15回調査した。流入降雨水量については,アメダスポイント「猪苗代」から推定し,流入余剰水量については,調査排水路の下流地点での流量と上流地点での流量の差から降雨水量を差し引いたものとした。

(4)対象水団地域からの物質流出量試算の計算方法

 上記での調査で得たデータを基に,以下の方法で算出した。
 「水田からの物質流出量=(A-B)-(C+D)」
 A:調査排水路下流での物質量
 B:調査排水路上流での物質量
 C:降雨水からの物質量
 D:流入余剰用水からの物質量

(5)水質分析項目

 水質の分析項目は,pH,電気伝導度,全窒素,全リン,懸濁物質,陽イオンとして石灰Ca,苦土Mg,カリK,鉄Feについて実施した。

3.試験結果及び考察

(1)全窒素,全リン流出量の推移

 基幹排水路における上流,下流地点での全窒素,全リン流出量の推移を図2に示した。両物質とも概ね,上流地点に比べ下流地点で多い傾向で推移した。特に測定開始直後の5月中旬頃には,上流地点では大きな変動はみられないものの下流地点では平常状態よりも多く推移し,高いピークも見られた。

 図としては明瞭に示していないが日変化をみると,この増加期間には各日概ね12時~15時頃にピークがみられている。また,この地域の代かき時期は5月15日から20日頃にかけて行われていたことから,下流地点における流出量の増加は代かき作業に伴う濁水流出により現れたものと考えられた。

(2)試算された各物質の流出量

 水田からの各物質の流出量を面積当たりに半月ごとに試算した結果を表1に示した。全窒素,全リン,懸濁物質,カリについて特に5月下半月に多い傾向がみられ,前述のように代かきの影響と判断された。

 年間の流出量(kg ha-1 year-1)は,全窒素:52.9,全リン:3.3 ,懸濁物質:783,カリ:72.9と試算された。水稲生育のための養分である窒素やカリについてかなりの量が流出していることや,土壌粒子が主体となる懸濁物質の流出量が多いことから,土壌流出が起こっている実態が明らかとなった。

(3)水稲作付けが各物質の流出量に及ぼす影響

 表2は水稲作付け期間と非作付け期間の各物質の流出量を比較したものである。月当たりの物質流出量で比較すると,全窒素や全リン,懸濁物質,カリについて,代かき時期を含めた作付け期間1で非作付け期間に比較し明らかに多かった。代かき時期(5月下半月)を除いた代かき期間2(6月上半月~9月下半月)でも全窒素や全リン,懸濁物質,カリについて非作付け期間に比べ,月当たり流出量の比でそれぞれ2.1,7.0,3.5,1.3倍と多い傾向がみられた。このことから,水稲作付けが水田からの全窒素や全リン,懸濁物質,カリの流出について正の働きがあることが明らかになった。

4.まとめ

 以上,水田から排水路を通じ系外へ流出する負荷物質の年間を通しての流出の傾向と流出量を推定するため調査を実施した。窒素については,水稲栽培時の施肥量と同程度の53kgha-1 year-1もの窒素が水田から流出すると試算された。また,窒素,リン,懸濁物質,カリウムの流出は代かき時期に集中しており,これらの物質の流出抑制のためには,移植前落水時の対策が極めて重要であることが明らかになった。
 この成果を基に水田からの物質流出軽減のための技術確立に取組んだ。
 次稿では水田からの水環境負荷物質の流出軽減技術について紹介する。

参考文献

●福島県農林水産部.2007
 猪苗代湖等湖沼水環境にやさしい農業推進事業成績書

●中山秀貴・横井直人.2006
 水田地域からの水質負荷物質の年間流出量の推定.東北農業研究.59.35-36

 

 

アスパラガスにおける被覆尿素を用いた減化学肥料栽培

福岡県農業総合試験場
筑後分場 野菜チーム
研究員 水上 宏二

1.はじめに

 福岡県におけるアスパラガスは,半促成長期どり栽培で,栽培面積は43ha(平成20年現在)である。主に,福岡,京浜,京阪市場を中心に『博多アスパラガス』ブランドで出荷されている。
 10a当たり窒素施用量は,福岡県の施肥基準で53kgとしており,施肥回数も1月の冬肥と4~10月上旬の月2回の追肥で合計14固と多い(図1)。

 また,毎年堆厩肥を5~10t/10a施用するため,土壌のリン酸や加里の集積が懸念されている(図2)。

 これらのことから,アスパラガスの半促成長期どり栽培では,施肥量,施肥回数の削減による環境負荷の少ない,省力的かつ効率的な施肥体系の確立が課題である。

 そこで,収量を低下させることなく,リン酸,加里の過剰施用を抑え,化学合成肥料由来の窒素を50%以下に削減した省力的な減化学肥料栽培技術を確立するため,被覆尿素と有機質肥料を組み合わせた施肥法を検討した。

2.材料および方法

1)試験区の構成

 試験は,2004~2006年に「ウエルカム」の4~6年生圃場である筑後分場(福岡県三潴郡大木町)内の雨よけハウス(間口6m,長さ20m)で行った。
 化学合成肥料由来の窒素を50%に削減した減化学肥料区は,冬肥にLPコートS160を窒素成分で26.5kg/10a施用した。LPコートS160の窒素溶出をシミュレーションすると,慣行施肥体系に比べて5~7月に窒素が不足するおそれがあった(図3)ため,5~7月の各上旬にペレット状のナタネ油粕を3~4kg/10a施用した。

 慣行施肥区は,冬肥にCDUS555を15kg/10a,4~10月に燐加安S550を15日おきにトータル38kg/10aを分施した(図1)。なお,両区とも冬肥施用後に籾殻牛糞堆肥を10t/10a施用した。

2)耕種概要

 2000年10月4日に,うね幅150cm,株間30cmの1条で定植した。整枝は,立茎開始後45日頃に主枝を130cmの高さで摘心し,高さ60cmまでの下枝は摘除した。親茎の刈り取りは,茎葉が8割程度黄化した12月24日に行い,ビニルの二重被覆による保温を2月4日から開始した。立茎は,4月10日前後から開始し,太さ12~13mmの親茎をうね長1m当たり10本立てた。

3)収量調査

 毎日1回,25cmより長い若茎を収穫し,25cmで切り揃えて調製した。調整後,2L(>33g),L(33g≧,>18g),M(18g≧,>12g),S(12g≧,≧7g),規格外(7g>,≧3g)に選別し,収穫本数と重量を調査した。

4)土壌溶液分析

 ミズトールを灌水資材(スミホース)から15cmの位置に深さ20cmで埋設し,15日おきに採水して土壌溶液中のpHおよび硝酸イオン濃度を測定した。pHは,採取した土壌溶液をそのままpHメーターで,硝酸イオン濃度は,土壌溶液を10~20倍に希釈してRQフレックスで測定した。

3.試験結果

1)土壌溶液のpHと硝酸イオン濃度の推移

 慣行施肥区の土壌溶液のpHは,立茎開始時には6.5あったが,夏場にかけて5.0前後まで低下した。一方,減化学肥料区のpHは,年間を通じて7.2前後で安定していた。
 土壌溶液の硝酸イオン濃度は,減化学肥料区は慣行施肥区に比べて6月までは低かったが,夏秋芽の収量が増加する7月以降は同等に推移した(図4)。

2)収量

 2004年夏秋芽から2006年春芽までの2年間,減化学肥料区の収量は,慣行施肥区に比べて施肥当年の夏秋芽および翌年の春芽ともに商品収量,L級以上収量に差がなかった(図5)。

3)減肥,省力効果

 減化学肥料区は,慣行施肥区に比べて化学合成肥料由来の窒素量を50 %(10a当たり53kg→26.5kg),総窒素施用量を30%(10a当たり53kg→36.5kg),施肥回数を70%(14回→4回),肥料代を50%(2008年7月)削減できた(図6)。また,年間のリン酸,加里の施用量は,それぞれ0.7kgおよび18.8kg/10a削減された。

4.まとめ

 アスパラガス半促成長期どり栽培では,冬肥にLPコートS160を10a当たり窒素成分で26.5kg,5~7月の各上旬にペレット状のナタネ油粕を3~4kg施用する施肥体系により,化学合成肥料由来の窒素を50%削減した減化学肥料栽培が可能であることが明らかとなった。この減化学肥料施肥体系は,慣行施肥体系に比べて非常に省力的で,肥料代も大幅に削減できる。但し,毎年完熟堆肥を10t/10a程度施用することが前提条件となる。また,被覆尿素を利用することで,リン酸,加里の過剰供給を抑えることができ,アスパラガスにおける環境に優しい施肥技術として普及が期待される。

 

 

露地早生ウンシュウミカンに適したワンタッチ肥料の開発

愛知県農業総合試験場 園芸研究部
常緑果樹グループ
主任 栗田 恭伸

1.はじめに

 愛知県における早生ウンシュウミカンの10a当たり年間窒素施用量は,主要産地である蒲郡地区で約25kg,知多地区で約22kgであり,これを春,夏,秋の年3回施用している。また,本県では,1997年に「愛知県環境保全型推進基本方針」を施行し,緩効性肥料等,環境への影響が比較的少ない肥料の普及を推進している。
 そこで,施肥省力化と窒素施用量の削減を目指し,JAあいち経済連と共同で,ウンシュウミカン専用の全量施肥用配合肥料「ワンタッチ肥料」(以降ワンタッチ肥料)を開発した。ワンタッチ肥料は,有機質肥料と被覆尿素肥料などの化学肥料を配合しており,窒素の供給が長期間にわたって緩やかに続くため,樹体へ効率よく吸収されるのが特徴である。
 本試験では,肥料による環境への影響を少なくするため年間窒素施用量を慣行の20%および40%削減し生育に与える影響を検討したのでここに紹介する。

2.試験方法

(1)ワンタッチ肥料の時期別窒素溶出量

 ワンタッチ肥料からの時期別窒素溶出量を明らかにするため,2004年11月中旬にワンタッチ肥料に配合される被覆尿素肥料(シグモイド型40タイプ(以降LPS40),同60(以降LPS60),同80(以降LPS80))を種類毎にナイロンメッシュ袋に入れ,地表面に設置後,袋が見えない程度に覆土し,約4週間間隔で取り出し残留窒素含有量を分析した。無機態,有機態肥料からの窒素溶出量は施肥時期の当場内地温にてシミュレーションし算出した。最後に配合肥料内での割合で溶出量を計算し,全量施肥用配合肥料からの時期別窒素溶出量とした。

(2)ワンタッチ肥料による栽培試験

 栽培試験は31年生興津早生を1区4樹用い,2004年から2006年の3カ年実施した。栽培方法は,清耕栽培で,土壌は褐色森林土である。
 試験区の構成および使用した肥料の概要は次のとおりである(表1)。

(ア)ワンタッチ肥料区

 ①ワンタッチ肥料N40%減区:窒素割合をLPS40:38%,LPS60:20%,LPS80:7%,無機態窒素11%,有機態窒素24%に調整配合した
ワンタッチ肥料(成分窒素11 %-りん酸8%-加里9%)を,年1回11月上旬に施肥した。窒素施用量は慣行区の40%削減とし, 15.4kg/10aとした。
 ②ワンタッチ肥料N20%減区:肥料および施肥時期はワンタッチ肥料N40%減区と同様。窒素施用量は慣行区の20%削減とし,20.5kg /10aとした。

(イ)慣行区

 有機配合肥料春肥(成分窒素8%-りん駿6%-加里6%)を3月上旬,同夏肥(成分窒素6%-りん酸8%-加里6%)を5月下旬,同秋肥(成分窒素8%-りん酸7%-加里7%)を11月中旬に施用した。窒素施用量は,25.6kg/10aとした。

(ウ)調査項目

 1樹当たり収量,樹冠容積当たり収量,果実品質(果実重,果皮色,Brix,クエン酸含量),葉内窒素含有率,土壌中硝酸態窒素含量

3.結果の概要

(1)ワンタッチ肥料から窒素溶出パターン

 ワンタッチ肥料からの窒素溶出は,11月中旬に無機質及び有機質肥料が始まり,3月からは,被覆尿素肥料が始まる。窒素溶出は,5月中旬にピークを迎え,9月下旬にほぼ終了した。被覆尿素肥料の種類別ではLPS40が3月上旬,LPS60が4月上旬,LPS80が5月下旬より溶出が始まった(図1)。

(2)ワンタッチ肥料による栽培試験

(ア)収量および樹冠容積当たり収量

 2004年から2006年までの3カ年の平均1樹当たり収量は,慣行区に対しワンタッチN20%減区は差がみられず,ワンタッチN40%減区は少なかった。樹冠容積当たり収量は,慣行区に対しワンタッチN20%減区は差がみられず,ワンタッチN40%減区は少なかった(表2)。

(イ)果実品質

 果実重は,区による差はみられなかった。果皮色(a値)は慣行区に対し,ワンタッチ肥料N20%減区では差がみられず,ワンタッチ肥料N40%減区では低くなった。Brix及びクエン酸含量は,区による差は見られなかった(表2)。

(ウ)葉内窒素含有率

 葉内窒素含有率は,2004年,2005年,2006年とも区による差はみられなかった。時期別にみると2006年8月上でやや数値が低かったが,他の時期では各区ともほぼ適正濃度範囲(2.5~3.0%)にあった(表3)。

(エ)土壌中硝酸態窒素含量の推移

 土壌中硝酸態窒素含量は,ワンタッチ肥料N20%減区及び40%減区では年間を通じて慣行区よりも低く推移し,時期による変動も小さかった。慣行区は,施肥後の4月,6月,12月に大きく上昇するなど時期ごとの変動が大きかった(図2)。

4.まとめ

 ワンタッチ肥料による施肥回数および窒素施用量を削減した施肥法について検討した。収量および果実品質に与える影響は,ワンタッチ肥料N20%減区で,慣行区に比べ収量,樹冠容積当たり収量,果実品質に差は認められず,慣行施肥と同等の肥効が得られていると考えられた。しかし,ワンタッチ肥料N40%減区では,慣行区よりも収量の減少や果皮色の低下がみられたことから,窒素施用量の大幅な削減には注意が必要と考えられた。土壌中硝酸態窒素含量の推移をみると,ワンタッチ肥料N20%減区およびワンタッチ肥料N40%減区は,慣行区に比べ低く推移したが,葉中窒素含有率では区による差がみられず,数値もほぼ適正範囲内にあったことから,ワンタッチ肥料からの窒素溶出は慣行肥料よりも安定し,ミカンに効率よく吸収されていると考えられた。よって,今回,開発したウンシュウミカン専用のワンタッチ肥料は,慣行肥料と同等の効果を持ち,施肥作業の省力化と,窒素施用量の20%程度削減による環境への負荷軽減に有効な肥料であると考えられる。

 最後に本県では2008年3月,新たに「環境と安全に配慮した農業推進計画」を策定し,果樹部門では肥効調節型肥料と樹体栄養診断による施肥合理化に取り組むこととしている。今回紹介した肥料の利用技術はその一助となるもので,普及に努めたい。

5.使用に当たっての留意点

 ワンタッチ肥料に配合される被覆尿素は窒素溶出に気温と水分の影響を受けるため,施肥時期は11月上旬とし,施肥後に降水量が少ないときはかん水をおこなう。また,地力低下を招かないよう土壌改良資材による土づくりも定期的に実施する必要がある。