§ロックウール栽培でのロング施肥法
大阪府立大学農学部
土井 元章
§十勝の野菜・その現状と将来展望
道立十勝農業試験場
北海道主任専門技術員
伊丹 清二
大阪府立大学農学部
土井 元章
ロックウール栽培は,水耕と土耕の中間的な性格を持つ栽培法であり,果菜類を中心に最近では花卉にまで栽培が普及している。しかし,ロックウール栽培が営利的に行われている作目は,トマト,キュウリ,メロン,カーネーション,バラといった生産物の商品的価値の高い作目に限られ,簡易施設下の栽培が一般化している葉菜類やイチゴ,球根花卉などの作目については導入が難しいのが現状である。
ロックウール栽培は,養液栽培の一タイプとして発達した経緯から,システムの開発当初より培養液(液肥)の循環方式が植物への養水分供給法として採用され,その結果栽培システムが必要以上に重装備化する結果となった。また,循環式の給液システムは,培養液の維持管理を難しくし,一方で一部に発生した病害が急速に全体に広がるという危険性をはらんでいる。
そこで,これらの点を改善し,ロックウール栽培における養水分の給液方法を簡易化することが必要となり,液肥のかけ流し式給液法が広く採用されるに至った。さらに栽培システムを簡易化する目的で,固形肥料を用い,施肥と灌水を分けて行う方法へと展開した。この固形肥料を用いるロックウール栽培においては,緩効性被覆肥料であるロングを用いることにより簡便で効率のよい肥培管理が達成される。
このような給液方法の変化を通じて,培地であるロックウールは,単に植物の支持材としての役割から,養水分の保持と供給の場としての土壌的な性格を強める結果となった。
ロックウール栽培で培地として用いられるロックウールスラブは,玄武岩,コークス,石灰岩を主原料として,それらを一度溶融して繊維状とし,成型したものであり,本来は建築用の断熱保温材として開発されたが,デンマークのグロダニア社が農業用として世界に先駆けて商品化し,現在わが国でも数社が農業用に生産,販売している。各社の製品間の特性にはあまり大差はないように思える。
まず,物理的特性をみると,密度が60~80kg/m3と土壌に比べてきわめて低く,スラブ内の大半は空げきであることが特徴である。最大含水率は容積比で90%をこえるが,その水の大部分がpF1.2までの低いpFで保持されていることから,植物はスラブ中の水を利用しやすい反面,含水率が低下すると植物にとっての乾燥が急激に訪れ,土壌のような微妙な水分管理が難しい。
また,湛水しない限り10%程度の気相が常に確保されていることも重要で,根の養水分吸収を良好にしている。
一方,化学的特性は,原材料の組成に大きく依存しているが,主成分としてSiO2を40%前後含み,次いでCaO,Al2O,MgOの含有率が高い。これらの成分は不溶性であるが,CaやMgは栽培期間中に相当量溶出すると考えられ,スラブ中の溶液はpH7をこえ,アルカリ性を示す。
したがって,作付前にりん酸を処理することが望ましいとされている。ロックウールの繊維は,土壌とは異なり,塩基置換容量(CEC)がほとんどなく,与えた養分を吸着しない。そのため緩衝能力がほとんどない。
ロングは,燐硝安加里あるいはそれに微量要素を加えて被膜によりコートし,成分の溶出速度を調節した肥料であり,溶出期間の異なるいくつかのタイプが市販されている。
この肥料をロックウール栽培に用いた栽培システムとしては,図-1に示したような構造のものが考えられる。成型されたロックウールを用いる場合は,基肥は図のように上面に置き肥するか,厚さ3~5cmの比較的薄いスラブを2枚重ねにして肥料をサンドイッチすることで施す。粒状のロックウールを用いる場合には,土耕の場合と同様に混和すればよい。

いずれの方法でも追肥は上面に置き肥するかたちとなる。置き肥する際,肥料の散乱と直射日光を避けるため,ロングを黒の布製バッグにつめ,灌水チューブの下に置くとよい。
灌水は,定植床ではチューブあるいはドリップ方式でスラブから水がしみでない程度に1日1~2回程度与える。ロックウールはpF値の低い水の含水率が高いため,乾燥にともなってEC値は上昇するが,pF値は上昇しない。
そこで,肥料成分の利用されやすさを一定に保つ方法としては,含水率を80%前後に維持し,その含水率における溶液の肥料濃度を最適に制御することが最も容易である。メロン栽培などで行われるいわゆる「水切り」は,含水率を下げるのではなく,EC値を高めることで行う。
次に,スラブ中の溶液の肥料濃度を最適に保つにはどの程度の施用を行えばよいかということが問題となる。最適養液濃度は,ロックウールの塩基置換容量がほとんどないことから,水耕と同様の養液管理を行い,多くの作物でEC1.0~1.5mS/cmの範囲内に管理すればよいことが推察される。
ところが,この肥培管理が意外と難しい。その原因として,ロングの肥料成分の溶出が温度に強く依存していることがあげられる。すなわち,高温期には過剰な成分溶出により肥料濃度が高まりすぎ,窒素成分で15kg/10a程度(180日夕イプのロングをベッド1㎡につき500g)の施肥量でもEC値が3mS/cmをこえ,耐塩性の弱い植物では塩類障害を起こす。一方低温期には,溶出量が極端に低下するためEC値を1.0mS/cm以上にまで高めることが難しい(図-2)。

しかし,低いEC値で管理しても,栄養素は常に供給され,しかも利用されやすい状態に置かれていることから,イチゴやカーネーションでは0.5mS/cm程度のEC値でも十分な肥効が得られる。一方,メロンやトマトではECが高くないと十分な肥坊が得られず,低温期のロング利用は液肥との混用が不可欠となる。
したがって,ロングの有効的な施肥法は,作物が何であるか,作期がいつであるかを十分に考慮する必要があり,高温期には溶出期間の長いタイプのものを小量,逆に低温期には溶出期間の短いタイプのものを多めに施用することが基本となろう。
イチゴの促成栽培は,花芽の形成と発達が培地の窒素レベルによって著しい影響を受け,収穫時期や収量に影響することが知られている。ここでは,“女峰”を用いて育苗から栽培までの施肥をロングのみにより行った栽培例を紹介する。
まず育苗は,発生したランナーより子株をロックウールのポットに受け,70日夕イプのロングを株あたり0.5g置き肥することで行った。花芽分化を促す目的でロングを8月中旬に除去すると,9月8日にはほとんどすべての苗で茎頂の肥大が観察され,花房の形成が始まった。
そこでこれらの苗を図-3に示したようにロックウールの栽培ベッド上に置き,同時に180日タイプのロングを用いて栽培を行った。施肥量については,翌年5月末までの収穫を想定して,その期間に10aあたり窒素成分にして20kgおよび15kg(30×90×7.5cmのロックウールベッドあたりそれぞれ180g,135g)を施用することとし,定植時に全量施用する区と,定植時に半量,定植90日後に半量を施用する区を設けた。

定植時に全施肥量のロングを施用すると,定植10日後の9月18日にはスラブ中のEC値が2.0mS/cmをこえ,塩類障害を回避するために週2回程度十分に水をかけ流す必要があった。定植時の施肥量を90g/ベッドとして施用すると,極端なEC値の上昇は回避できた。9月下旬以降,EC値は1.0mS/cm以下にまで低下し,冬期は最低気温3℃に加温したが,EC値は0.2~0.3mS/cmと低く推移した。しかし,この期間においても十分な肥効が得られていた。
いずれの区とも,1番花房からの収穫は11月下旬からとなり,年内収量は株あたり70~80gあった(図-4)。

しかし,定植時に施肥量を多くした区では,1番花房が発達してそこからの収穫果数が多くなる反面,2番花房の形成,発達が遅れ(図-5),2月中旬から下旬にかけてなり疲れを
起こす原因となった(図-6)。


また,小さな果実の割合が多くなった(表-1)。

さらに5月に入ると肥料切れを起こし,収量の低下がみられた。全施肥量を2回に分けて施用した区では,2番花房からの収穫が1番花房に引き続いて行われ,比較的大きな果実を連続して収穫することが可能であった。とりわけ90g+90g区では4月以降も肥料切れを起こすことなく順調に収穫が続き,5月末までの収量は,株当り516g(4.1t/10a)となった。
このように,ロングをロックウール栽培に用いることで,これまでの栽培では必要であった培養液のタンクや循環ポンプが不要となり,栽培システムの簡易化を図ることが出来る。
問題は,夏期の肥料成分の過剰な溶出をどのようにコントロールするかであり,緩効性の被覆肥料といえども,基肥としての全量施肥を避け,施肥回数を何回かに分けて,栽培期間と栽培時期に応じて肥料のタイプを使い分けることが肝要である。あわせて,肥料成分の溶出速度が温度に影響されにくい被覆材料や被覆方法の開発が待たれる。
道立十勝農業試験場
北海道主任専門技術員
伊丹 清二
北海道の東部に位置し,農業地帯は,中央部・中央周辺部が畑作を中心に,山麓部・沿海部が酪農を主体とした農業が展開されている。
気候は,年平均気温6.1℃,5~9月の農耕期間における積算気温2,416℃で夏季は比較的暖かく,昼夜の温度較差は大きい。また,冬季は晴天が多く,積雪が少ないため地下凍結が40cm以上におよぶ地帯が多い。
土壌は,耕地の約60%が灰山性土で,乾性型の褐色火山性土は腐埴含量が少なく地味はやせている。また湿性型の黒色火山性土は腐埴に富むが一般に排水不良地が多く分布する。
一戸当たり耕地面積は24.8ha。専業農家率72%で全道平均の約1.7倍。一戸当たり生産農業所得641万円(全道平均419万円・昭63)で全道でも有数の大規模な農業地帯である。
十勝の畑作は,小麦,馬鈴しょ,てん菜,豆類の4作物による輪作体系を基本に展開されてきたが,農産物輸入自由化を背景に,畑作物の作付指標による作付制限や価格の抑制など,かつて経験をしたことのない厳しい局面にたたされている。こうした状勢の中で,第5の作物として近年,野菜の導入が本格化してきたので,その動向と課題について述べてみる。
道内の野菜粗生産額は,1,320億円(昭63)で農業粗生産額の約12.3%(馬鈴しょを除く)を占めている。また,全道の野菜作付面積は58,661ha(主要27品目,昭63),品目により変動があるものの,総じて上昇傾向を続け,55年対比115%の伸び率である(表1)。

さらに,主要野菜の道外移出の推移をみると,8年前に比べ増加の著しい品目は,ねぎ(64倍),ながいも(12倍),ごぼう(11倍),露地メロン(7倍),だいこん(6倍)等の品目である(表2)。

一方,十勝の野菜粗生産額は,116億(全道の9%)で,農業粗生産額の約6%(馬鈴しょを除く)を占め,徐々に比率を高めている。また,支庁別の作付け仲び率をみると,未成熟とうもろこしの作付けが多いこともあって,野菜作付面積は9,682ha(主要27品目・昭63)で全道の17%を占め55年対比155%と全道一の伸び率である。
土地利用型の露地野菜が主体であり,その特徴は,輸入物との競合関係にある加工原料用スイートコーン(缶詰め・冷凍),かぼちゃ・ほうれんそう(冷凍)等と,道外移出向けのながいも,ごぼう,だいこん等,根菜類の増加が著るしい(表1)。
主要品目の年増加率を区分してみると,年率10%以上の品目は,ながいも,だいこん,ごぼう,ブロッコリー。5%以上は,にんじん,ほうれんそうである。これらの品目は,道外市場において道産物の占有率を着実に拡大し,作付を伸ばしている。その他の品目は,年次による作付変動が比較的大きく,横這から減少傾向にある(表3)。

また,冬季の日照量が多い条件を生かして,養液栽培(温泉熱利用)がミニトマト,花きなどで試みられている。
次に,野菜作の導入地域は,中央部から中央周辺部に特徴ある品目の産地形成が活発化しており畑作地帯にとどまらず,冷涼な沿海部の気象条件を生かした夏秋だいこんの新産地が酪農地帯でも育成されつつある。
ウスルス病の重症株は,30%程度の減収となるが,十勝地方の発病株率をみると0~80%と,地域や個人差が大きい。このことから,優良系統の無病種子の供給体制づくりが急がれる。
近年,多肥傾向や追肥時期の遅れから,平いもなど規格外の増加と,内部品質の低下を危ぐすべき事例もみられるので,栄養診断法を含め,土壌肥沃度に合わせた施肥法の確立が望まれる。
ごぼうの肌を黒変させる「ヤケ症」は,キタネグサレセンチュウが関与しており,十勝管内の実態調査の結果では,小麦,スイートコーン等,イネ科作物の後作で線虫密度が高まっている。このことから,未然に発生地を見分ける簡易検診法と的確な防除法の確立が急がれる。
火山性土では,沖積土に比べ目標根重に到達する生育日数が2週間くらい多く必要とする。これは,土壌のりん酸肥沃度が関係しており,まき溝のりん酸増肥で生育促進が図られてきた。一方,市場サイドから改善要望の強い,根先の肉付き不良(尻こけごぼう)の原因は,生産後半の養分不足も関係しており,根の活力分布に応じた施肥技術として緩効性肥料の効果が期待されている。
7~9月だしの作型なので,高温期に多発する軟腐病や「赤しん症」「空洞症」などの生理障害が問題となる。特に,軟腐病は窒素の減肥と生育後半の茎葉繁茂を抑えることも大切であり,硝酸態窒素を重視した施肥事例が増加している。
また,「赤しん症」「空洞症」の発生は,品種間差,マルチの有無,土壌の保水性の良否などで発症の様相が異なることから施肥対応面では,ほう素の吸収を促す適正pHの維持と土壌診断に基づくほう素入り資材の施用が課題である。
褐色火山性土は,潜在的に亜鉛含量が乏しく低温年には亜鉛欠乏症が多発する。このことから,亜鉛の適正施用が施肥上の課題となっている。また,輸入品との競走が激化しており,加工適正の優れた多収・早生種の育成が急がれる。
畑作と野菜が結合した複合的経営が増加しており,ながいも,ごぼう,だいこん等の導入は20~30ha規模の畑作経営に進展している。これは,地形が平坦で,土層の深い火山性土がトレンチャー農法を発展させ,は種~収穫までの機械化一貫作業体系が確立したため,労働時間当たり所得が総体的に高まったこと。また,野菜の収量,生産コスト,価格形成からみて,10a当たり所得は,多くの品目が畑作4品を上回ってきたこと等が挙げられる(図1)。

耕地面積が広いため,長期輪作が可能であり土壌病害による連作障害が回避できる側面をもつが一般畑作物にながいも,ごぼうなど深根性作物を組み入れた輪作体系は定まっていない(表4,5)。このことから,作物の栄養生理に合わせた適正な土壌管理法の確立が急がれる。

企業誘致や野菜作の進展に伴い,労働力の確保が困難な状勢にある。特に,7~10月だしのだいこん,ブロッコリー,ねぎなど共同選果場の労働力の確保が生産拡大の要件となってきた。
地域農業のシステム化を展開して,畑作4品にかける労働力を合理化し,そこで創出した良質の労働力をつぎ込む必要があろう。
道産野菜移出拡大推進協議会(道・ホクレン等で構成)では,道外消費地の道産野菜に対する出荷期待量を把握し,昭和65年(平成2年)の「道外移出野菜出荷指標」を策定して,それぞれ地域ごとの規律ある生産拡大を図ってきた。
帯広支所の推進品目区分は,特産:にんじん,スイートコーンなど,最重点:だいこんなど,拡大重点:ながいも,ごぼう,ブロッコリーなど,重点・推進:はくさい,レタスなどの品目である。さらに,品目別,地域別にリレー出荷モデル産地,集団育成産地を指定して,消費地から信頼される産地になるべく「北の大地の健康野菜づくり運動」を展開中である(表6)。

十勝野菜の販売戦略は,量販店・外食産業など大口実需者のシェア拡大に伴う,予約相対取引き(ルート販売)に対応するため,特定の先進産地の農協を核としたブランドの共有化と,共同選果・予冷・貯蔵施設の共同利用によって,市場評価を高め,流通コストの節減を狙ったものである。
その事例として,(ア)「川西長いも」:帯広川西農協を核に芽室,中札内,足寄,浦幌農協。(イ)「めむろごぼう」:芽室農協を核に帯広川西,中札内農協。(ウ)「十勝だいこん」:豊頃農協を核に浦幌農協。(エ)「木野ブロッコリー」:木野農協を核に音更農協等の事例がみられる。今後とも系統流通を柱とした,広域産地化の動きは活発化すると思われる。
外食産業向けの輸入野菜が急増する中で,これに対抗するため,加工用スイートコーン,かぼちゃ,ほうれんそうに続く品目の模索も続けられている。当面,用途分化の多様化に合わせ,収穫作業の機械化が可能な品目から生産拡大をめざす動きが活発化してきた。