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第439号 1994(H6).05発行

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野菜のセル成型苗育苗における
マイクロロングの利用

奈良県農業試験場 栽培課
総括研究員 泰松 恒男

1.はじめに

 近年,野菜生産の省力化を達成する手段としてセル成型苗を利用した機械化システムが注目されている。これは,直径数cmの四角錐形または円錐形のプラスチック製容器(セル)の連結したトレイを用いて小型の規格苗を量産し,根鉢の付いた苗を移植するシステムで,土詰め・播種・覆土・灌水などの各育苗工程が機械化・自動化されているうえ,高性能な全自動苗移植機も実現しているので,育苗から定植まで,大幅な効率化が可能となっている。

 今後,このシステムを基軸にして本圃での栽培管理から収穫・調整に至るまでの各作業工程の機械化・自動化が進展するとともに,適用作物もキャベツ,ハクサイなど土地利用型葉菜類中心から軟弱野菜・果菜類へと範囲が広がるものと予想される。

 このように,野菜生産の省力化を達成するうえで,今後,セル成型苗システムの導入は不可欠であると考えられるが,現状の作業工程をみると,さらに改善・工夫すべき点が多く残されている。

 例えば,市販のセル成型苗用培養土を用いて育苗すると,播種後10日目頃から苗の肥切れ症状が現れる。肥効の低下した苗では育苗日数が長くなったり,移植後の初期生育が遅れるので,根鉢が完成するまでの2~3週間は灌水施肥を定期的に行
う必要がある。このため,追肥作業の自動化された大型育苗施設以外では追肥作業に多くの労力がかかる。

 また,苗の徒長・老化の防止や現状の苗移植機に適合した苗の育成のためにはセル数128~200のトレイ(セル容量20ml前後)を使用する必要があるため,栽植本数の多い品目では市販用土を使用すると育苗経費が高くなる。従って,育苗の労力や経費の節減のためには,肥効期間の長い緩効性肥料や培養土混合機による自作培養土の利用についても検討する必要がある。

 本誌では,育苗コストの低減化を目的として,コーティング肥料のマイクロロングと育苗用資材とを組み合わせた自作培養土の利用について検討した結果について述べる。

2.セル成型苗の生育促進に対するマイクロロングの効果

 作物としてチンゲンサイ,キャベツおよびレタスの3種類を供試した。トレイとして,チンゲンサイ,レタス,キャベツそれぞれセル数288トレイ(セル容量:9ml),セル数200トレイ(セル容量:14ml),セル数128トレイ(セル容量:25ml)を使用した。培養土はピートモスとバーミキュライトを1:1の体積比で混合し,苦土石灰を添加してpH6.5 に調整して作成した。

 試験区としては,マイクロロング(商品名:マイクロロングトータル40日タイプ,成分量:N,P2O5,K2O=12,10,11)を培養土に一定量混合し,育苗中は無追肥とした区,細かく砕いた速効性化成肥料を培養士に一定量混合し,育苗中に水耕栽培用液肥を定期的に追肥した区,育苗中に水耕栽培用液肥のみを定期的に追肥した区を設けた。

(1)茎葉部と根部の生育

 施肥方法を変えて20日間育苗した各作物の生育状況を第1表に示した。

 初めにチンゲンサイの生育をみると,マイクロロング区では,本葉数は施肥量の増加とともに増加した。茎葉重は施肥量の増加とともに著しく増大した。根重は,施肥量の増加とともに増大する傾向がみられたが,窒素成分量1.8~3.6mg/セルの範囲ではほとんど差がなかった。その結果,T/R比は施肥量の増加とともに高くなった。根鉢の形成は,窒素成分量0.9mg/セルではやや劣ったが,窒素成分量1.8~3.6mg/セルの範囲では良好であった。

 一方,速効性化成肥料+液肥区では,マイクロロング窒素成分量1.8mg/セル区と比べて本葉数が少なく,茎葉重と根重が小さく,根鉢の形成もやや劣った。液肥区では,速効性化成肥料+液肥区より生育が劣った。

 次に,レタスの生育をみると,マイクロロング区では,本葉数は施肥量の増加とともに増加した。茎葉重は施肥量の増加とともに著しく増大した。根重は,窒素成分量1.4~4.2mg/セルの範囲では増大する傾向がみられたが, 窒素成分量5.6mg/セルではかえって小さくなった。その結果,T/R比は施肥量の増加とともに高くなった。根鉢の形成は,窒素成分量1.4mg/セルと5.6mg/セルではやや劣ったが,窒素成分量2.8~4.2mg/セルの範囲では良好であった。

 一方,速効性化成肥料+液肥区では,マイクロロング窒素成分量2.8mg/セル区と比べて本葉数が少なく,茎葉重と根重が小さく,根鉢の形成も劣った。液肥区では,速効性化成肥料+液肥区より生育が劣った。

 次に,キャベツの生育をみると,マイクロロング区では,本葉数は施肥量の増加とともに増加した。茎葉重は施肥量の増加とともに著しく増大した。根重は,窒素成分量2.5~7.5mg/セルの範囲では施肥量の増加とともに増大したが,窒素成分量10.0mg/セルではかえって小さくなった。その結果,T/R比は施肥量の増加とともに高くなった。根鉢の形成は,窒素成分量2.5mg/セルではやや劣ったが,窒素成分量5.0~10.0mg/セルの範囲では良好であった。

 一方,速効性化成肥料+液肥区では,マイクロロング窒素成分量5.0mg/セル区と比べて本葉数が少なく,茎葉重と根重が小さく,根鉢の形成も劣った。液肥区では,速効性化成肥料+液肥区より生育が劣った。

 以上の結果から,マイクロロングでは,基肥として培養土に混合して用いると,育苗中に追肥しないで十分な生育量が確保できると言える。従って,マイクロロングは育苗中に灌水施肥の必要な市販培養土より育苗管理の省力化に役立つと考えられる。

(2)生育の不揃い程度

 茎葉重の変動係数は,マイクロロング区の中では,チンゲンサイの場合, 窒素成分量0.9mg/セルでは窒素成分量1.8~3.6mg/セルの範囲より大きかった。レタスの場合,窒素成分量1.4mg/セルでは窒素成分量2.8~5.6mg/セルの範囲より大きかった。キャベツの場合,窒素成分量2.5mg/セルでは窒素成分量5.0~10.0mg/セルの範囲より大きかった。マイクロロング区では各作物とも速効性化成肥料+液肥区,液肥区より大きかった。

 以上の結果から,粒状肥料であるマイクロロングをセル成型苗の育苗に使用すると,基肥を混合した市販培養土や液肥の追肥で育苗する場合より生育が不揃いになりやすいと考えられる。マイクロロングの施用量が少ないと変動係数が大きくなったのは,各セルに入る平均粒数が少ないため,セルに粒が全く入らないか,極少量しか入らない確率が高まるためである。

 例えば,マイクロロング1g当たりの粒数を350粒とすると,セル容量9mlの288セルトレイにマイクロロングを窒素成分量0.9mg/セル混合した場合には平均粒数は約2.6粒に過ぎない。同様に,セル容量14mlの200セルトレイに窒素成分量1.4mg/セル混合した場合には約4.1粒,セル容量25mlの128セルトレイに窒素成分量2.5mg/セル混合した場合には約7.3粒と少ない。

 従って,セル数の非常に多いトレイを用いたり,施肥量の少ない場合にはマイクロロングは問題が多い。しかし,野菜の場合には通常,セル容量の多いセル数128~288のトレイが用いられるうえ,育苗中の肥料要求量も多いので,実用的に問題はないと考えられる。

3.マイクロロングで育成したセル成型苗の移植後の生育

 作物としてチンゲンサイを供試し,トレイとしてセル数200トレイ(セル容量:14ml)を用いた。培養土の作成および育苗中の施肥は先述の試験に準じて行い,育成した苗を鉢と本田に移植した。

(1)鉢植栽培での生育

 鉢植したセル成型苗の15日目の生育状況を第2表に示した。

 株重は,マイクロロング区では施肥量の増加とともに大きくなり,窒素成分量2.8~4.2mg/セルの範囲で生育が良好であった。速効性化成肥料+液肥区ではマイクロロング窒素成分量1.4mg/セル区と同程度で,液肥区では小さかった。根重は,マイクロロング区では株重と同様に施肥量の増加とともに大きくなった。速効性化成肥料+液肥区ではマイクロロング窒素成分量2.8mg/セル区と同程度で,液肥区では小さかった。

(2)土耕栽培での生育

 本田に移植したセル成型苗の22日目の生育状況を第3表に示した。

 草丈は施肥区間でほとんど差がなかったが,茎葉重は,マイクロロング区では窒素成分量2.8~4.2mg/セルの範囲で大きかった。速効性化成肥料+液肥区ではマイクロロング窒素成分量2.8mg,4.2mg/セル区と同程度で,液肥区では小さかった。

 以上の結果から,マイクロロングで育成したセル成型苗は移植後の生育も良好で,栽培期間の短縮に有効であると考えられる。

4.マイクロロングの各作物に対する施用基準

 以上,マイクロロングによるセル成型苗育苗の生育について慣行の育苗と比較した結果を述べた。通常の育苗と違い,培養土量の必要量の少ないセル成型苗育苗では,施肥量が同じでも灌水量,培養土組成,育苗時期などによって苗の仕上がり程度がかなり変動するため,育苗の標準化は厳密には容易でない。

 しかし,栽培の省力化・機械化が目的であるセル成型苗育苗では,根鉢の形成された苗が短期間に育成できるとともに,移植後の生育が良好であれば目的に合致すると言える。マイクロロングを基肥として用いると,育苗中に灌水施肥を行わなくても茎葉部,根部とも生育スピードが速く,移植後の生育も良好であるので,これらの点から,マイクロロングはセル成型苗育苗に十分に応用可能であると判断される。

 上記の試験結果を基にして各作物に対するマイクロロングの施用基準を推定すると,使用したトレイのセル当たりに換算した場合,チンゲンサイ(セル数288トレイを使用)では窒素成分量で1.8~2.7mg,レタス(セル数200トレイ使用)では窒素成分量で2.8~4.2mg,キャベツ(セル数128トレイ使用)では窒素成分量で5.0~7.5mgが適当である。

 培養士1ℓ当たりに換算すると,いずれの場合も窒素成分量で200~300mg,原体で1.7~2. 5gに相当し,作物に係わらず同一である。従って,所定量のマイクロロングを均一に混合した培養土をあらかじめ作成しておけば,トレイや作物の種類に係わらず利用できるものと考えられる。

 

 

クリーン農業と緩効性肥料

北海道立中央農業試験場 企画情報室
室長 相馬 暁

1.はじめに,クリーン農業とは,その目的と手段

 3つの優しさを求めたクリーン農業を支える調査・研究がスタートして,早くも3年を過ぎようとしている。「地球に,人に,作物と家畜に優しい北海道農業」を標榜するクリーン農業は,技術者・研究員にとって新たな技術論であるとともに,人と地球の関係を見直す文明論でもある。

 実は,欧米における低投入持続的農業(リサ)や環境保全型農業,有機農業自体も,単なる技術論ではなく,人の生き方を問う文明論であり,政治理念であった。そして,運動の担い手も農民,農業関係者以上に,政治家であり,知識人であり,多くの一般市民であった。

 クリーン農業も,北海道での農業と自然環境,人と自然環境,豊かな生と豊かな食,それを支える豊かな農との関係を,見つめ直す理念としての一面を有する。

 さて,北海道の目指すクリーン農業は,一切の化学肥料・農薬を否定した有機農業ではない。

 ①国際化時代に生き残れる持続可能な農業を確立すること,②地球規模での環境破壊が人類の存在をすら脅かす状況になってきた今,環境に与える負荷を低下させ,環境容量内での生産技術を再構築することが目的である。

 この目的を達成するために,自然生態系との調和を前提として,①北海道のクリーンな生産環境を保全し,それを基に,②クリーンな北海道農業の存在をアピールし,消費者の理解と支援を得る。そして,③北海道農産物の競争力強化を図ることを目標にしている(図1)。換言するならば,望ましい,求められる農産物を作る技術の総合化に他ならない。

 この目標を実現する手段として設定した研究の柱は,①環境保全機能の把握と活用,②滅農薬・減除草剤技術の開発,③減化学肥料技術の開発と品質評価技術の確立,④畜産廃棄物処理とリサイクル技術の確立,そして⑤クリーン農業の総合評価の5本からなる。

2.環境保全機能の把握と環境容量内での施肥技術

①環境容量とは

 自然生態系に不可逆的な変化を与えない範囲と言う意味での「環境容量」は,新しいコンセプトとして注目されている。しかし,その内容,構成要因や機能・機作については,まだ定かでない部分が多い。

 施肥との絡みに限定すると,環境容量とは,耕地生態系が受容し得る物質総量と言う意味で,土壌の保肥力(交換容量)をベースに,土層の厚みと連続性,微地形,地下水の高低,微気象を含めた地域の気象,そして作付られる作物とその栽培法・作型などによって,その器(環境容量)の大小・強弱,すなわち,トータルな保肥力と,その強弱,溶脱の難易が決められる。

 今後,農業生産活動自体が,環境容量という概念で表現される土壌生態系,耕地生態系との調和を図ると言った観点から見直され,環境容量内での生産技術の再構築を検討すべき時が来ていると思われる。

②環境容量内での施肥技術とは

 農耕地に持ち込まれる物質の収支と環境に与える影響評価をベースに,環境に優しい資材とその施用法の検討や農耕地由来の地球温暖化ガス発生量の把握等を行っている。

 ところで,環境容量内の生産技術とは,具体的に如何なる技術か,なかなか一口では説明できないが,施肥を例に少し話を進めてみる。(図2)

 肥料は,世界的に見ると足りないことは厳然たる事実で,多くの発展途上国においては,肥料投入量が持ち出し量より少なく,生産力(地力)が年々低下し,農業の持続を困難にしている。それどころか多くの場合,投入量がゼロである。すなわち,無肥料・無農薬で,まさに有機農業そのもので,地力の急激な低下をもたらし,農地し荒廃化を通じ,生態系の破壊につながっている。このような略奪農法がサハラ砂漠の拡大をもたらし,最近50年間に6,500万haの耕地・放牧地が失われた。

 単に,化学肥料・農薬の一切の使用を否定するだけならば,耕地生態系から一方的に地力を略奪することになり,農業の持続は不可能になる。堆肥や緑肥など有機物資材による土づくり,地力の培養を行うこと,粕・糠類や魚粕・鶏糞等有機質肥料による施肥が,有機農法には必要不可欠である。

 一方,アメリカやEC諸国など,先進国では,環境容量以上の施肥によって,環境汚染,取分け地下汚染を引き起こし,人々の健康をむしばむまでに至っている。生産活動と環境との調和をいかに図るかが,ここでも求められる。

 なお,北海道においても地下水の汚染は徐々に進行している。野菜畑に対する過剰な施肥,酪農地帯の糞尿の垂れ流しが,問題化しており,土壌診断による施肥の合理化は既に全道的に実践され,糞尿主体施肥と畜産糞尿のリサイクルシステムの確立はクリーン酪農研究として取り組んでいる。

3.減化学肥料・有機栽培の確立

①有機物利用法の見直し,過剰施用の問題点

 土壌の肥沃度が低く,肥料が不足していた30~40年前は,窒素,燐酸,加里など肥料成分の含有割合が高い完熟堆肥が,肥料の代替として評価されていた。しかし,現在の畑は片寄った養分の過剰蓄積が目立つ状況にあり,馬鈴薯などの品質を高めるために,完熟堆肥が邪魔になる場合すらある。堆肥を含めた有機物の利用法の見直しを,クリーン農業研究の一環として行っている。

 有機物の施用は土づくりの基本であるが,有機物の施用によって地力を高めながら化学肥料を減らし,地力重視型土壌管理ヘ安定的に移行するためには,地力窒素のコントロール技術の確立が必要である。過剰の窒素供給は農産物の品質を低下させ,時には減収にすらなる。地力窒素の全体的制御は大きな課題である。

 例えば,堆肥連用に伴う室素の有効化について,ハウス土壌で検討した結果を示した(図3)。

 1トンの堆肥を施用すると,5キロの窒素が持ち込まれる。初めて堆肥を施用した土壌では,その7~8%しか有効化しないが,2~3年経つと2割ほど,さらに連用して10~12年も経てば8割が有効化する。すなわち,4kgの窒素が供給されることになり,2トンで8kg,4トンで16kgの供給量となる。有機物であろうと,無機物であろうと,持ち込まれる成分量には違いがない。

 すると,一部の有機農法で実践されている様に,造成時に30トンの堆肥を施用し,毎年10トンの堆肥を連用するとどうなるか,初年度の総持込み窒素量は150トンで,有効化する窒素量はその2割として30キロ,8割で120キロとなり,毎年10トンの堆肥連用で土壌中の窒素は完全にコントロール不可能となり,窒素過剰害,例えば,石灰の吸収を阻害し,生理障害発生の引金にもなる。

 現地におけるこれらの混乱を是正するためにも,早急に有機物多量施用に伴う,窒素を中心とした土壌中成分のコントロール技術を確立すべく,検討中である。

②有機物主体施肥の難しさ

 有機物主体施肥のもう一つの問題は,地力窒素の放出が後期にズレることで,馬鈴薯,てん菜,水稲などにとっては品質にダメージを与える事である。また,有機物の養分は化学肥料と同じ無機成分に分解されて作物に利用される。そのため有機農業においても,堆肥等の多量施用は地下汚染など環境汚染の問題をはらんでいる。オランダでは,10a当り窒素成分施用量は50キロを超えるが,その6割が堆肥由来であり,堆肥の利用が地下水汚染につながると,法的に規制され始めた。

 化学肥料は作物に吸収されやすく,人為的にコントロールし易いが,堆肥等の有機物はそれよりもはるかに複雑で,コントロールしにくい。このような堆肥連用に伴う土壌窒素の放出量は土壌タイプ,透水性の難易,気象状況などによって異なるので,これらの要因を考慮に入れた,わかり易い診断法が必要になって来る。

 そのため,有機物連用に伴い,経年的に変化する土壌からの窒素供給量を予測し,その供給量に見合う分物の化学肥料を減肥して行くことによって,安全的に有機物主体施肥に移行する技術を実証中である。その意味で,北海道型クリーン農業は有機物と化学肥料の共存の道を探っていると言える。そして当面の目標は化学肥料の3割削減である。

 なお,北海道内には100カ所を超える土壌診断施設があり,年間2万圃場に達する土壌診断がなされ,施肥量が決定されており,減肥料に取り組み,年間数十億円に上る生産コスト節減に貢献している。

③シグモイドタイプの新たな緩効性肥料の可能性

 速効性の化学肥料の多量施肥は,環境に与える負荷量を増し,時には,濃度障害や多肥障害を作物にもたらし,時には環境汚染につながる。一方,緩効的な地力窒素・有機物由来窒素はコントロールが困難で,バレイショや水稲などにおいては,時には品質低下,食味の低下につながる。特に,美味しさが求められる時代になった今,品質制御を困難にする有機物・地力は敬遠され,化学肥料一辺倒の農家を生み出しもした。

 作物と養分吸収量の関係を見ると,水稲などは移植後,茎葉の生育,すなわち,栄養成長の進展につれ,一日当り養分吸収量は増加し,止め葉で栄養成長は終わり,子実の充実に入ると共に,養分吸収量は減少し,収穫時点で圃場に肥料分,特に窒素は残存している必要はない。

 むしろ,生育後期の残存窒素は品質低下をもたらしかねない。後期追肥は倒伏を引き起こしたり,米粒中の蛋白含有量を高め,味を損なう。バレイショやビートもこの仲間で,生育後期の窒素追肥は百害があって一利無しである。

 一方,生育の最盛期に収穫するホウレンソウは,収穫時点においても根より旺盛な養分吸収を行っている。この時点で窒素について言うならば,10a当り5キロ以上の窒素が残存していなければ,上物収量が低下する(図4)。

 真空予冷処理を行い,その後,蘇生させると下葉が黄化し,摘葉,俗に言う「袴どり」を2~4枚せざるを得ない。それで,上物収量は17~40%は低下する。そのため,在圃期間は短いホウレンソウに対して,従来から有機物施用による土作りを行い,養分吸収量より多い,施肥を行ってきた。

 また,連続的に果実を収穫するトマトやキュウリは,養分を連続的に吸収する。土壌中に随時,可吸態の窒素・カリが10~15キロ程度存在する事が求められる。キュウリなどでは,10a当り残存窒素量が10キロを切る様になると,収量が低下し(図5),着花・果が悪く,尻細り果となり易くなる。

 この様な養分の連続供給を求める野菜に対して,従来から,コーティング肥料の効果が認められているが,近年は,環境に優しい肥料としての効能も注目されている。と言うのは,土壌中の肥料濃度を過剰に高めないので,降雨による溶脱が少なく,地下水等の汚染を引き起こさないためである。

 また,最近開発されたシグモイド型溶出コーティング肥料は,所定期日まで,肥料成分を保護し,土壌中に溶出させないため,大豆等根粒活性を活用する豆類に対する後期窒素の追肥に利用される。基肥に大量の窒素を与えると根粒の着生が悪く,生育中期の望ましい生育量が確保されない。

 そのため,基肥は慣行通りとし,中期は根粒窒素に頼り,後期の窒素供給をシグモイド型溶出コーティング肥料に依存したところ,着きょう数が増加し,増収につながった。また,密植と組み合わせることによって一層の多収を可能にし得た(表1)。

 環境に対する負荷量を低減しながら,増収をもたらし,しかも,追肥作業を省けるコーティング肥料は,新たな情勢を迎えた農業において,興味尽きない資材であり,今後,品質コントロール技術に取り込まれる事を期待したいし,また,シグモイド型溶出コーティングの技術は,バークの様な未熟有機物,炭素をコーティングすることにより,生育後期の土壌中の不必要な窒素を,固定し,一時的に除く事をも可能にする。この事は従来,何人も制御し得なかった地力窒素や有機物由来の生育後期の窒素制御の道を切り開く事になる。

 施肥が化学肥料一辺倒から,有機質肥料,有機物併用の施肥に変わるであろう。今後,コーティング技術には新たな役割が求められている。

 

 

夏ネギにおけるホワイトエースによる一発施肥について

茨城県病害虫防除所 県南支所
技師 木村 宏明
(前 茨城県農業総合センター 石下地区農業改良普及所)

はじめに

 ネギは野菜年間生産量としては第10位に位置し(平成4年青果物流通年報より),最近は品種改良の進歩に伴い作型が分化し,周年栽培されている。夏はそばやうどんの薬味として,また冬は鍋物の名脇役として大変なじみの深い野菜である。

 ネギ栽培は生産資材などの投資が少なく,作りやすいことや出荷期間が長いことなどから高齢者にも栽培・出荷が可能である。また,輪作作物としても農閑期に合わせた作付け体系を組むことができる。このため,当地区管内でも価格の比較的安定している夏ネギを中心に,栽培者数・面積共に増加傾向にある。

 また,近年は移植機(半自動・全自動)の開発・普及やポット育苗の導入,皮むき機の普及など飛躍的に省力化が進んでいる。そのような背景の中,施肥の省力化と安定した肥効,高品質生産をねらいとして夏ネギにおいてホワイトエースによる一発施肥について若干の試験・検討を行ったのでここに紹介する。

1.ネギの生理特性について

 野菜の上手な肥料の効かせ方は,当然のことかもしれないが野菜が食いたい時に適量を食わせることである。人間で言えば食べ盛りに栄養失調にならないように,また,太り過ぎないように体質にあわせて栄養のバランスを考えるのと一緒である。ただ違うのは野菜の場合,農家が食べさせてあげなければならないという点と野菜の種類によって食べさせ方を考えなければならない点だけである。

 野菜の生育過程に合わせた肥料の効かせ方のタイプは①尻上がり型(前半の生育を抑えないと収量低下〔ツルボケ,葉ボケ〕するもの)②コンスタント型(茎葉の生長に支えられながら収穫部の肥大が進行するもの)③先行逃げ切り型(茎葉がまずしっかりし,その後収穫部が肥大していくもの)及び各々の中間型と大きく5つのタイプに分けられる(表1参照)。

 その場合,ネギはコンスタント型に分類される。したがって,追肥する場合土入れ・土寄せにあわせて5回程度に分けて施し(ネギの根は肥やけしやすい),終始安定した肥料の効かせ方をなせるのがポイントと言われている。

 「野菜が食いたい時に十分な肥効を」というのが野菜一般に言えることだが,ネギのようにコンスタントに何回にも分けてとなるとタイミングや量について考えねばならない。また,夏ネギは梅雨期を経るため,雨が続いて追肥できなかったり,肥料が流亡したりすることもある。また,肥料切れすると赤サビ病や黒斑病が出やすくなることも知られている。

 そこで,一発施用による施肥の省力化と安定した肥効による高品質生産をねらいとして,ホワイトエース(速効性のDAP=20%,長効きするCDU複合燐加安30%,さらに長効きするNKロングS140=50%)による実証ほを平成4年度より設置し,検討を重ねることとなった。

2.試験概要(平成4年度試験成績より抜粋)

(1)試験ほ設置概要及び調査方法

 試験区については表2のとおりである。①区は慣行区のチッソ成分に合わせた量であり,②区は①区の8割とした。施用方法は慣行区の第1回目の追肥時に①,②区とも作条に全量施用した。生育調査については20日毎に草丈(地上部),茎径(分岐部の直下),葉色(新葉から数えて2~3枚目,葉色カラースケール)について,1.5m間(75cm×2カ所)計測した。

 収量調査は生育調査と同じ箇所について掘り取り,調整前には草丈,重量,茎径を,調整後には葉鞘長,重量,茎径,等級について調査した。
 また,追肥前及び追肥後1カ月毎に,ほぼ同じ箇所から土壌を採取し,土壌診断を行った。

(2)結果及び考察

ア)生育調査(表3)

 ①区では全体を通して草丈が他区よりやや低い傾向にあった。これは①区の部分の苗質がやや悪かったことも原因と思われる。8月10日の調査時点で①区と慣行区を比べると7cmほどの差があったが,この時期になると各区とも葉先の枯れあがりがひどく,計測に誤差が生じやすいので,有意差と見るか否か難しい。ただ,ネギの場合葉は調整の段階で途中で切断するので,特にこの差を考慮する必要はないと思われた。

 茎径は生育中期で②区の太りがよく,収穫時には慣行区と同等であった。①区は草丈同様,他区より太りが悪かった。葉色は①,②区では施肥1カ月後には慣行区に比べ,やや濃くなる傾向にあった。これはホワイトエース中のDAPの肥効によるものと思われる。慣行区では表で見る限り葉色の変動はあまり無いように見て取れるが,実際は梅雨期の追肥時直前になると葉色が遠方から見ても①,②区より明らかに淡いのが観察された。

 葉色は硝酸態チッソと密接な関係があることを考え合わせると,ホワイトエース区(①,②区)の方が終始安定した肥効があると言えるのではないだろうか。また,慣行区で梅雨期に石灰チッソを施用したところ,その数日後に降雨があり,畑の低い部分(水たまり状態)に生理障害が見られた。これに関して,試験に協力していただいた沼尻隆志さんは「ホワイトエースならこのようなことはないので安心」と述べていた。

イ)収量・品質調査(表4,表5)

 調整前全長は生育調査結果と一致し,①区がやや短いが,葉鞘長はほとんど同じとなっており,何ら問題はない。茎径についても①区はやや細かったが,②区は同等であった。また,全重は②区,慣行区はほぼ同程度だったが,①区は調査株数が多いにもかかわらず,軽かった。これらの結果は①区では苗質が他よりやや悪かったのと,栽植密度が密だったことも影響している。

 調整後も同様の傾向にあり,②区は慣行区と同程度であった。また,反当ケース数を算出してみると,慣行区より上回った。ただし,①区が多いのは調査区間の株数が多かったためである。

 等級別本数を見てみると,①区はL,Mは慣行区とさほど変わらず,太が少なかった。太が少ないため平均茎径が他区より細かったものと思われる。また,A品率,LM率は何れも慣行区よりやや優れた。②区は2/3がLであり,揃いが良かった。A品率,LM率とも85%で,単価の高いLM中心であることも考え合わせ,慣行区よりかなり優れた。

ウ)土壌診断結果より(表6)

 pHについて慣行区で全期間を見てみると,1以上の変動があり,7月15日,8月10日に急激に上昇した。石灰の増加量と一致したことも考えあわせて,追肥に用いた石灰チッソによるものと考えられる。

 ECを見てみると,①,②区では施用1カ月後にECが高くなる傾向にある。これはDAPが溶出したためと考えられる。ネギは定植後約1カ月は肥料をあまり吸収しないが,その後吸収量が急激に増加する。こうしたことに鑑み,理想的な効かせ方と言えよう。

 また,①,②区では8月10日に最低となるが,また上昇する。これは後半ロングが溶出するためであると考えられる。他の分析結果から見ても①,②区とも終盤まで肥効は十分にあったものと思われ,肥料の残効を抑えるという点からも②区の施用量で十分である。

 (土壌を採取する際,全期間を通してできるだけ同じ場所を取るようにしたが,誤差は多少あるものと思われる)

エ)経営試算より(表7)

 ②区ではケース数は慣行区並みであるが,LM率が優れるため売上が7万円以上も上回った。したがって,肥料代は若干高くかかるものの,それを十分にカバーし,純収益も6万円余り上回り,品質・収益性の面からも優れた。

 以上の結果をまとめると,生育面では②区と慣行区は同等,肥効の面では①,②区は慣行区より優れ,特に②区では品質,収益性の面からも優れた。したがって,ホワイトエースを夏ネギに施用する場合,反当180~200kgが適当であり,一発施肥で省力化,品質向上が図れることが実証された。

3.施用方法について

 今回紹介した試験では慣行区第1回目の追肥時にあわせて全量作条に全面的に撤いたが,元肥に全量全面施用しても何ら問題ないことが平成5年度の試験で実証された。また,どちらの方法でも肥やけの心配は全くない。ただし,植溝に全量投入した場合,肥やけはしないが茎の太りがやや抑制されることも平成4年度の別の実証ほで確認されている。

4.農家の声

 今回紹介した試験に協力していただいた沼尻隆志さん(石下町東野原,沖積土)は「省力的であることと,慣行区でみられた肥やけによる生理障害などの心配もないことから安心」と語っていた。また,平成5年度にポットネギで試験を行った倉持清さん(千代川村大園木,沖積土)は「収穫時に枯れあがりが少なく,葉が立っており,色鮮やかな素直なネギができた」とのこと。平成5年度に元肥全量施用試験を行った長塚宏行さん(石下町国生,褐色火山灰土)は「慣行区よりサビ病の発生が少なく,品質も良かった。全量を一度に施用するので省力的だが,撤く勘をつかむ必要がある」と語っていた。

おわりに

 追肥時間の計測は行わなかったが,仮に1回あたりの追肥時間を20~30分/10aとすると,単純に計算して1.5~2.0時間の省力となる。全体の作業時間からすれば僅かなものかもしれないが,ネギが肥料を食いたいときに効かせることができること,良品質を期待できること,梅雨時や暑い最中に重い肥料桶を抱えて狭い畝間を歩く必要がないこと等様々なメリットがあり,作業はかなり楽になろう。また,機械移植やポット育苗などとあわせれば大幅な省力が期待できる。