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第483号 1998(H10).04発行

PDF版はこちら 第483号 1998(H10).04発行

 

 

これが箱一発だ!
苗箱内全量施肥法による水稲栽培

山形県農業試験場 化学部
専門研究員 熊谷 勝巳

1.はじめに

 水稲栽培は,通常,育苗期と本田期に分けることができ,施肥も同様であった。しかし,肥効調節型肥料は根と肥料が接触しても肥料焼けを起こさないことから,同肥料の開発は新しい施肥法(接触施肥1))を可能にした。これを水稲に適用したのが育苗箱内全量施肥法2)であり,その後直播栽培を中心にさまざまな研究3)4)5)がおこなわれるようになった。

 しかし,移植栽培では慣行並の収量が得られる例が限定されること5)や,窒素以外の施肥をどうするか5)など解決されていない問題点も多い。ここでは,本県の育苗箱内全量施肥法を紹介すると共に,問題点を整理し,解決の方向を考える。

2.箱一発の基本

1)肥料の種類,量と施肥位置

 肥効調節型肥料の溶出は大きく2つのタイプがあるが,箱一発で用いるのはシグモイドタイプである。苗箱まかせN400-100(以下N400)は第1図のように育苗期間はほとんど溶出せず,6月10日から穂揃期にかけて約8割が熔出する。

 したがって,第1表に示すように育苗箱の土(以下箱土)をすべてN400に置き換えても肥料焼けの障害は出ない。そこで,①施肥量が多くなると保水力が低下し苗の生育に影響が出ること,②本県の主力品種はえぬきの10a当たりの総窒素施肥量が8kgであること,③肥料の利用率が70(平成6年),72(平成5年)%と高いことなどを考慮し,窒素成分で1gの速効性肥料に加えて,窒素成分で300gのN400を箱施用することを基本とした。

 箱一発肥料を施肥する場合,箱土と混合する方法と層状に施用する方法がある。後者の場合は播種プラントでの作業となるが,箱土,N400,種子,覆土の順に層状に施肥するのがもっとも安定している。(第2表)

2)本田での生育と収量性

 第3表にN400を用いた場合の生育,収量の特徴を示した。数値は平成4年から4カ年の平均値である。それによれば,箱一発区は慣行区に比べて6月15日の草丈が約2割,茎数が約3割少ない。その後徐々に慣行区との差は縮まるものの,稈長は若干短く,穂数は慣行区対比91%である。収量は慣行区の61.8kg/aに対して55.5kg/aであり,箱一発区は1割の減である。N400を用いて箱一発をおこなった場合は,明らかに初期生育が慣行より劣り,穂数不足を招き,収量は慣行より低下する。

 しかし,平成5年の大冷害も含む4年間の箱一発区の収量は55.1~58.3kg/aの水準であり,次に述べるような方法により慣行並の収量が十分得られると考える。

3.収量性の改善

 箱一発区の収量を慣行並まで押し上げるには,初期の茎数を増やし,穂数を確保することである。そのためには,①本田に施肥をする,②栽植密度を増やす,③箱一発肥料をもっと早く溶出させることのいずれかが必要である

 第4表に本田に成分で0.2kg/aの窒素を全層施肥,側条施肥した場合の生育を示した。平成6年の箱施肥+全層施肥区は地力的に低いほ場での試験だったので,初期生育,穂数が第3表に示す慣行区の値より低くなったが,収量は慣行並となった。平成9年の箱施肥+側条区は,第3表に示す慣行区並~やや上回る初期生育,穂数,収量であった。

 本田施肥は燐酸,カリも同時に施肥することができ,また側条施肥の場合は側条による施肥量を減らすのに有効である。ただし,この方法は箱一発ではなくなってしまうのが欠点である。

 次に箱施肥量と栽植密度の関係を第2図に示した。10a当たりの施肥窒素量を同じにした場合,適正範囲内で栽植密度を増やすことは,穂数の増加につながった。箱施肥量を減らさず栽植密度を増やした場合も穂数が増加するが,10a当たりの施肥量が増加し,品質や食味への影響が出る可能性があった。このように栽植密度の増加は効果が認められた。しかし,この方法では必要な育苗箱数が増加することになり,必ずしも十分な解決方法とは言えない。

 収量性の改善には,箱一発の肥料をもっと早く溶出させるのがもっともわかりやすいが,技術的に難しい。稲の生育に最適な溶出パターンを持つ単体の肥料はまだ開発されていないので,肥料の組合せによる肥効の最適化を図った。

 平成9年のほ場埋設試験によれば,N400に比べLPSAは溶出が早く,播種後24日後(5月16日)の稚苗育苗終了時までに5.5%,6月20日までに78%溶出する。第5表にN400にLPSAを混合した場合の生育,収量を示した。

 育苗時における5.5%の窒素溶出量は,十分に肥料焼けを発生させうる量である。LPSAを7割,5割混合した場合は,育苗期間の終盤から移植直後にかけて濃度障害と思われる葉焼けが発生し,移植後本田で枯死する株も見られた。しかし,3割のLPSAを混合した区は,苗の窒素濃度が慣行区よりやや高くなったものの,これらの症状は見られなかった。本田移植後も,LPSAを3割混合した区の生育はほぼ慣行区並に経過し,穂数,収量も慣行並であった。

 今後,高温下の育苗での安全性を確認する必要があるが,3割を上限としたLPSAの混合は初期生育の改善と収量性の向上に可能性を示すものである。

4.完全な箱一発を目指して

 ところで,前項で述べた初期生育と収量の改善のほかに,燐酸,カリの施用をどのようにするかという問題がある。本県の稲作指針は,成分で0.6~0.8kg/aの燐酸と0.6 g/aのカリの基肥施肥,幼穂形成期における0.2kg/aのカリの追肥を施肥基準としている。すなわち,N400の成分は窒素だけであることから,何らかの形で燐酸とカリを補う必要がある。既に述べたように箱施肥と全層基肥,側条施肥を組合せることにより,燐酸,カリを施用することができるが,箱一発は名ばかりとなってしまう。

1)NKタイプの箱一発肥料

 ごく最近になって,NKタイプの肥効調節型肥料(シグモイドタイプ)が開発されている。N400とほぼ同じような窒素の溶出パターンを示す,苗箱まかせNK301-100(以下NK301)である。NK301は窒素を30%,カリを10%含むことから,これを用いることによってカリの供給はある程度可能になった。

 しかし,窒素成分がN400より低下したことから,箱当たりの現物量が増加した。これは結果として箱土の量をN400を用いた場合よりさらに減らし,第3図に示すように保水力をより低下させた。したがって,保水材を用いて慣行並の含水比にする必要があり,第3図で用いたV床土の場合は箱当たり最低でも150gを混合する必要があった。

 NK301を用いた箱一発の生育,収量を第6表に示したが,その特徴はN400と同じである。

2)熔燐覆土

 熔燐はく溶性であることから覆土への利用が昭和50年代前半に試みられた6)が,育苗箱の重量が重くなること,一部でムレ苗の発生が認められたことから普及はしていない。しかし,箱一発と熔燐覆土を組み合わせることにより健苗の育成と本田での燐酸供給が可能であった。

 すなわち,箱当たり1.8kgの砂状の熔燐を覆土に施用するが,箱施肥と組み合わせるために育苗箱の重さは慣行より軽かった。10a当たり23箱使用すると熔燐の量は約40kgである。育苗期間中の障害は見られず,むしろ珪酸濃度が高い”硬い苗”ができた。本田での生育経過は第6表に示したが,NK301とほぼ同様であった。ただし,7月の葉色はやや濃くなる傾向にあった。

3)土づくりと土壌供給量

 ここまで燐酸とカリの施肥を前提に進めてきたが,必ずしもそれが必要でない場合もある。例えば土づくりを十分におこなったほ場など,土壌供給量が多い場合である。今後,金田ら3)5)も指摘するように,土壌からの供給量がどの程度あれば箱一発での燐酸,カリの施肥が必要でないのかを知る必要がある。

5.おわりに

 育苗箱に肥料を入れておけばそれですべての施肥が終わってしまう。まさに夢の施肥法である。高度な技術に裏付けられた単純な施肥であるだけに,使用に当たっては注文が多い。また,施肥量,箱数,栽植密度の関係など今までと異なった計算が要求される。とてもめんどうである。しかし,この施肥法にはそれを上回るおもしろさ,新しさ,夢がある。

 箱一発の入門編としては,本田施肥と箱施肥の組合せが最適だろう。特に側条施肥との組合せは効果的と思われる。めんどうな注文や計算はいずれ分かりやすく改善されるだろうから,興味のある方は一度試みてはいかがだろうか。

編築部注:文中のLPSAとは,25℃土壌中において溶出抑制期間約20日,溶出期間20日とする試作品。

文献

1)南条正巳・伊藤豊彰・菅野均志:新農法への挑戦3.4新しい施肥法-接触施肥法 庄子貞雄編集,博友社,193-200(1995)

2)佐藤徳雄・渋谷暁ー:全量床土施肥による水稲の省力施肥栽培について,日作東北支部報,34,623-626(1991)

3)金田吉弘・粟崎弘利・村井隆:肥効調節型肥料を用いた育苗箱全量施肥による水稲不耕起移植栽培,土肥誌,65,385-391(1994)

4)金田吉弘・土谷一成:育苗箱全量施肥による水稲不耕起移植栽培における窒素の利用率と気象変動の関係,土肥誌,68,112-115(1997)

5)金田吉弘・土谷一成:稲わらすき込み湿田における水稲の生育・窒素吸収に及ぼす育苗箱全量施肥の効果,土肥誌,68,185-188(1997)

6)熔成燐肥協会:水稲稚苗培地ようりん利用に関する研究(1979)

 

 

「土佐ブンタン」に対する緩効性肥料の利用

山口県萩柑きつ試験場
場長 中村 光夫

はじめに

 最近の環境問題は個々の生活圏のみならず,地球環境や生態系といった広範囲な対象をとらえて論じる場合が多い。しかし,狭い範囲の環境問題が全体を制することには異論がない。

 農業は新鮮で安全な食糧を確保することが第一条件であるが,農業そのものが環境に対する加害者であるという認識も一部にはある。従って,食糧生産の立場にある農業は,環境を保存する立場に立って,生産性を落とさないような農業技術対策を確立することが急務である。その一分野として,化学肥料の依存度を下げて土作りに基本をおいた上で,適期適量による肥料の利用率の向上を図ることは,我々の永遠のテーマである。

 一方,食糧生産の担い手は,中高年や女性の占める割合が高まっている。表1には,山口県における所帯主の作物別年齢別農家数を示した。これによると,60~70才までは作物別に違いが認められないが,70才以上では果樹農家において著しく突出している。果樹農家の種類や経営規模が明示ざれていないので,県内における最も多い柑橘農家について,その園地の立地条件を考えてみると瀬戸内島しょ部が大部分を占めている。これらの地域では,基盤整備や機械化が急務であるが,その具現化には諸般の都合でなかなか困難である。

 このような園地の立地条件で,年間,3~4回の肥料の運搬や施肥は,全管理作業時間に占める割合が10%以下で少ないとはいえ重労働である。重労働がしばらく避けられない環境であれば,緩効性肥料の利用によって,収量や果実品質を落とさないような施肥回数の削減が図られればその効果は大きい。

 このように柑橘の施肥に緩効性肥料を取り上げる背景には,以上の2点を考えている。しかし,現場では環境保全上の施肥技術についての関心は薄く,生産至上主義の下,軽作業化や省力化栽培についての関心が高い。

 このような立場から,当場における「土佐ブンタンに対する緩効性肥料の利用試験」について紹介する。しかし,本試験は,試験開始から2年経過した段階であることから,生産性に及ぼす影響についてまで結論を出せる状態ではないことを御了承下さい。

Ⅰ 土佐ブンタンについて

 「土佐ブンタン」の結果状態を写真1に示した。

 本種は昭和47年に山口県に導入され,県下に確認圃を設置し試作した結果,日本海沿岸のナツミカン栽培地帯において,結果性及び果実品質が優秀なことが認められた。その後,主要中晩柑につぐ特産果樹として,好評を得ている。これは瀬戸内島しょ部に比べ,日本海沿岸地帯は降雨量及び地力が有利に作用して樹勢を強め,さらに優秀な受粉樹であるナツミカンが隣接して栽培されていることから,「土佐ブンタン」の種子形成に役立ち,種子数が多いほど大果になりやすい特徴があって,販売上有利である。

 中晩柑には幹や枝の木質部表面に溝状の凹陥を生じるステムピッテング病が発生しやすい。特にブンタン類は本病に罹病性を持っている。罹病の程度によって,樹勢の低下や小玉果が多くなり生産を阻害する。既存の栽培樹は本病にほとんど感染しており,結果過多樹や施肥量の削減などによって樹勢が低下すれば,その病徴が激しく発生する場合が多い。また,大きい果実の市場評価が高いことから,多肥傾向となりやすい。このようなブンタン類の特性から肥料には,持続性のある緩効性肥料の利点が発揮されるものと考えられる。

Ⅱ 土佐ブンタンに対する緩効性肥料の利用試験

1 目的

 溶出速度を調節できる持続性のある肥料を柑橘の施肥体系に組み入れ,施肥回数と施肥量の削減に伴う園内への肥料搬入及び施肥労力の省力化及び軽作業化に役立てる。これには現在,年間4回施用している中晩柑の施肥基準による肥効が果実生産上,良いと容認して慣行施肥に近い肥効を示すように緩効性肥料を有効に利用しようとするものである。

2 材料及び方法

 供試圃場は,園全体が傾斜5度の当場7号園の上部切土部で,土層は比較的均質である。供試樹は,11年生の「土佐ブンタン」とした。試験区は,表2に示したとおりに,1区8~9本とし,生育中庸な5本を調査樹として,平成8年春肥から試験を開始した。

3 試験結果及び考察

 表3には,春肥施用後から6ヶ月後までの当場における旬別平均地温と溶出タイプの異なるLP肥料の単用及び混用による窒素の想定溶出率を示した。期間別窒素溶出率は,180混用区及び100混用区では1ヶ月後に40~50%の溶出が期待できることから春肥の代用は十分可能と考えられる。しかし,180単用では,春肥の肥効は期待出来ない。

 表4には,ビーカー培養法による緩効性肥料からの窒素の溶出率に及ぼす影響を示した。

 有機配合区の溶出パターンに最も近いものは,100混用区であった。しかし,想定溶出率と同じように3ヶ月後の溶出は期待できないので夏肥を省略しようと考えるなら,180混用が好ましい。

 以上の二つの成績から,LP肥料によって夏肥を省略しようとすれば90~150日間の溶出も欲しい。本調査は試験開始が6月1日であるから,実際の春肥からの溶出はもっと緩慢となることが考えられるので,9月初旬の初秋肥まで肥料切れの心配は少なく,追肥の必要はないと考えられる。

 表5に緩効性肥料の組み合わせが幹周及び樹容積に及ぼす影響を示した。樹容積の拡大率は,180単用区が小さかった。これは後述する収量が多かったことと一致している。

 表6には緩効性肥料の組み合わせが収量に及ぼす影響を示した。試験1年目において,180単用区の収量が最も多収であったけれども,当初から樹冠が他区に比べて大きかったので処理の影響ではないと考えられる。樹容積当たりの結果数は,有意差がないが100混用区がやや多い傾向であった。

 表7には,緩効性肥料の組み合わせが果実品質に及ぼす影響を示した。2年目試における果実品質において,ブリックス及びクエン酸は,180単用区が高く,180混用区が低く,100混用区と慣行施肥区はそれらの中間であった。

 表8には緩効性肥料の組み合わせが葉中窒素に及ぼす影響を示した。葉中窒素は,7月及び8月,11月に調査した結果,果実肥大盛期に緩効性肥料全区は,慣行施肥区に比べ全窒素及び水溶性窒素がやや高い傾向であった。

4 まとめ

 「土佐ブンタン」に対する緩効性肥料の利用試験おいて,肥料の溶出パターンの異なる緩効性肥料の組み合わせによる年2回の施肥は,年4回の慣行施肥法に比べて,生産性が劣らない可能性が示唆された。さらに試験を継続することによって,樹体栄養への影響をも明らかにして,施肥量の削減も図りたい。

参考文献

1)山口県企画部統計課,1995年農業センサス結果報告書,山口県の農業,138~139,1997

2)山口県萩柑きつ試験場,中晩柑の省力栽培技術の確立,農林水産省果樹試験場編 平成8年度常緑果樹試験研究成績概要集土壌肥料,179~182,1997