§モモにおける被覆尿素肥料利用による効率的施肥
山梨県果樹試験場 環境部 生理加工科
研究員 古屋 栄
§水田における各種成分濃度の変動
-水稲育苗箱内三要素全量施肥・農薬施用技術と慣行栽培の比較-
農林水産省 北陸農業試験場
水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
§「苗箱施肥法」についての諸感
JA上北町指導課
課長 田嶋 恒
山梨県果樹試験場 環境部 生理加工科
研究員 古屋 栄
多くの畑作地帯と同様にモモ産地においても施肥窒素の流亡による地下水の汚染が懸念されている。現在のところその影響は明らかではないが,将来に向けて環境への負荷を最小限に抑える対応が検討されている。被覆尿素肥料は窒素成分が緩やかに溶出するため,施肥窒素の流亡を抑制する資材として注目されている。
一方,窒素肥効はモモの樹体生育や果実品質への影響が大きい。被覆尿素肥料の適性な利用により環境面,生産面への効果が期待される。今回はモモにおける現在までの試験結果を紹介しながら実用化に向けての課題を示す。
新資材の導入に際しては,従来資材にくらべて生産性の維持が最低条件である。一口に被覆窒素肥料と言っても,窒素供給の時期や期間の異なる資材が市販されている。被覆尿素肥料のモモ栽培への実用性を検討するにあたり,まず最初に溶解性の異なる数種の被覆尿素肥料について施肥試験を実施した。
土壌容積200リットルのボックスに1年生モモ樹(白鳳)を裁植し根域制限栽培した。施肥資材は被覆尿素肥料としてLPコート70号,LPコートS100号,LPコート140号(以下LP70,LPS100等と略記する),また速効性肥料として化成肥料の燐加苦土安を用いた。試験は1990~94年の5年間実施した。
各種被覆尿素肥料の窒素溶出を検討した。施肥時期にナイロン袋中に各肥料を入れ,土壌に埋設後,定期的に堀上げ残量から窒素溶出量を算出した。
1992年12月2日に施用したLPコート70号,LPコートS100号,LPコート140号(以下LP70,LPS100等と略記する)に含まれる窒素の80%が溶出するのは,LP70で7月上旬,LPS100で8月上旬,LP140で10月中旬であった。地温はほとんどの期間で25℃以下であったので,実際の溶出に要した期間は製品名中の数字の2倍以上であった。
リニア型の溶出曲線を示すLP70,LP140は施肥直後から窒素の溶出は始まり,その後は各資材の溶出特性に応じて進行した。シグモイド型のLPS100は施肥直後はほとんど溶出せず,5月以降溶出が急激に進む。このためLPS100は6月中に年間の40%の窒素を溶出し,初夏~盛夏期に集中して窒素を供給した(図1)。

被覆尿素肥料からの窒素成分の溶出は温度に大きく影響されるので周辺温度が高い程窒素の溶出は進んだ。同じ地域でも施設土壌や乾燥土壌は地温が高く,窒素溶出はより早く進むのでこの点も考慮して被覆肥料のタイプを選定しなければならない。
何れの処理区でも7月上旬で新梢伸長は停止した(図2)。化成肥料区>LP70区>LP140区>LPS100区の順序であった。6月以降窒素溶出が盛んになっても新梢伸長には影響がなかった。3~5月の土壌中の無機態窒素含量が多い程,新梢伸長は良好であった。

葉色値は化成肥料区とLP70区では生育初期に高く,9月以降低下した。特に化成肥料区ではその傾向が明らかであった(図3)。LP140区,LPS100区では初期は低いが徐々に上昇した。LPS100区では初期成育を助けるために全窒素量の20%を化成肥料に換えたが初期の葉色は低く,7月以降上昇した。これらの傾向は各資材の窒素の溶出特性を反映していた。

結果樹齢後の1992~94年の果実品質調査結果を表1,表2に示した。果実重はLP70区,化成肥料区で高かった。これは全般に葉面積が大きいことが原因として考えられた。糖度は全処理区で12度以上と一般の露地栽培より高く,特にLP70区で高かった。反対に化成肥料区では低かった。葉面積が低いLP140区,LPS100区では果実に直射日光が当たり着色は良好であった。LP70区,化成肥料区では枝葉が繁茂し受光量が低いため着色はやや不良であった。しかし,摘葉等により受光条件を改良することで対応が可能と考えられた。


糖度が高く,果実が大きいLP70区において果実品質が最も良好であった。これはLP70の窒素溶出が早いため,新梢の初期伸長を良好にし,葉面積が確保され果実肥大や糖度上昇に効果的に作用したためと考えられる。窒素溶出がさらに早い化成肥料区では新梢が徒長的に伸び糖度上昇は妨げられたことと,雨の多い年には生理落果が極めて多く生産は不安定であった。
LP140区,LPS100区では糖度は上昇したが,葉面積が限られたため果実重は低かった。また,樹勢が弱く,樹の拡大が妨げられたため収量も低かった。
以上の試験結果より,根域制限栽培モモの樹体生育,果実品質は各被覆肥料の窒素溶出特性に大きく影響を受けた。総合的に判断すると,5月までの生育初期に窒素肥効がある程度集中し,その後もゆるやかな肥効が持続するLP70を中心とする施肥が適していた。
根域制限栽培のモモ樹に窒素10gに相当する数種の肥料を施用して半年栽培後,全窒素吸収量を測定し,施肥窒素利用率を算出した(表3)。LP70を用いた被覆肥料区で利用率は最も高く,配合肥料等の他資材に比べて2割以上高い値を示した。

被覆尿素肥料を用いることにより,窒素施肥量を標準量の1~2割程度削減しても慣行施肥と同程度の窒素が吸収される。同時に窒素流亡は抑制され,地下水等の汚染防止が期待される。
常緑果樹の温州ミカン,ビワでは配合肥料または化成肥料を年間に3~4回に分けて施肥する。落葉果樹でもナシやイチジクでは慣行施肥として年間に3~6回の分施が行われている。これらの樹種においては適切な被覆尿素肥料を選択すれば,収量と果実品質には大きな影響を与えないで年1~2回の施肥に切り替え可能である。施肥労働を大幅に削減できる。
しかしモモでは慣行施肥でも基本的に秋季の基肥1固にすぎない。被覆尿素肥料を用いても施肥回数は変わらない。
また被覆尿素肥料は窒素含量が高いため,施肥する資材量が通常の1/4以下と極端に少ない。このため施肥作業は軽減されると解釈できるが,実際には圃場内での均一施肥を困難にする。
現状のモモ園土壌は窒素以外の養分が過剰に蓄積した状態にある。特に石灰の過剰蓄積により土壌pH(正常値5.5~6.0)は上昇し(図4),それに伴いマンガン欠乏症が発生し安定果樹生産を脅かしている。

土壌診断結果から高い診断値が得られても今までどおりの資材を使用するのでは蓄積を進めることに変わりはない。しかし,過剰成分を除いて窒素だけを施用したくても尿素や硫安等の速効性資材では果実品質の低下につながる。そこで窒素肥効は緩効的で他成分を含まない被覆尿素肥料の活用が考えられる。
被覆尿素肥料の製品重量あたりの単価はやや高くても成分含有率が高いので窒素成分あたりの価格は従来施肥資材の半分以下である。被覆尿素肥料を中心とした施肥は養分蓄積を抑制するだけでなく,経営コストを削減できる。
根域制限栽培では土壌部分の外部との接触面積が広いため,降雨やかん水による施肥成分の溶脱は露地栽培以上に大きい。施肥量,施肥回数を多くすることによる解決も可能であるが,環境汚染防止と労働量削減,生育の安定化等の観点から被覆尿素肥料の利用が適している。
根域制限栽培に被覆尿素肥料を利用する際には,
1)土壌量が限られているので,土壌から無機化する窒素の影響が少なく肥効が鋭敏に現れやすい点,
2)ボックス等の容器を用いる際には露地土壌より1~2℃地温が高く経過するので早めの溶出が想定される点
に留意しなければならない。
被覆尿素肥料を施肥しても明瞭な効果を発揮するとは限らない。施肥効果の発現が困難な状況としては次の2つの場合が考えられる。
1)土壌中に窒素分が多量に存在するため窒素の溶出傾向が生育や果実品質に反映されない場合。これには施肥窒素量自体が多い場合や,有機物を大量に連用したり水田転換園で窒素肥沃度が十分に高い場合がある。
2)草生栽培を行なっている場合。草生栽培園では速効性の窒素であっても一旦は草に吸収され,刈取りによって再び土壌に放出されるため結果的に緩効的に作用する。このため,窒素の溶出特性の違う資材間の処理差は小さくなる。
草生栽培園では表面施肥が慣行となっている。被覆肥料は施肥後,土壌との混和を必要とする。したがって余分の労力を必要とするため,労働力の削減につながらない。
被覆尿素肥料は尿素を溶出し,窒素を肥料養分として供給するだけなので有機物資材のような土壌物理性,生物性の改善効果は期待出来ない。したがって,有機物主体の施肥から被覆肥料ヘ代替した場合の土壌硬度や土壌病害等への影響も今後の検討課題である。
配合肥料は施肥作業や流通が容易なためにモモ園の施肥資材として圧倒的に用いられている。そのため新資材が普及するためには配合肥料に原料資材として取り込む必要がある。現在使用されている配合肥料に添加するのは,流通管理や包装表示等の理由から困難である。肥料の見直し時期に新規導入を検討することになる。
しかし,新規に製造される配合肥料は各原料を単純に配合するのではなく,ほとんどがペレット化されている。したがってぺレット化しやすいかどうかが普及の難易に直接影響する。現状の被覆尿素はペレット化の工程で被覆樹脂が破損し,尿素の溶解性が変化する。ペレット化に対応した製品開発や製造工程の開発が望まれる。
モモ園における被覆尿素の利用について検討を開始してから十年近く経過する。試験のうえでは被覆肥料の有利性が認められても現状では現地での利用事例はほとんどない。しかし最近の環境保全重視の流れから考えるとこのまま終息しそうにない。それらの状況に対応出来るようにまだしばらくの期間は試験を継続する予定である。
農林水産省 北陸農業試験場
水田利用部 土壌管理研究室
主任研究官 中島 秀治
「環境保全型農業」1)について論じる時,欧米では生産性犠牲型農業が取り上げられているが,日本国内においては,生産性を下げることや品質を劣化させることは論外になっている。慣行農法を乗り越えて,生産性や品質を向上させ,省力化をはかり,且つ環境にやさしくというのが日本の環境保全型農業としての位置付けである。
今回検討し確立した手法(本手法)2)は,慣行栽培で本田に施用する肥料三要素の全量を水稲育苗箱に施用することにより,本田での基肥及び追肥を省略している。また,田植え時に長期持続型の殺虫殺菌混合剤も育苗箱に施用しているので,中間管理作業は超省力的となっている。
本手法では,田植え機によって苗の根と抱き合わせて株元に施肥及び農薬散布を行うことで利用効率の向上を計っている。これは,減肥と減農薬を同時に行うことが可能であるので,日本の環境保全型農業の考え方に基づく技術になりうると考えられる。
ところで,水稲栽培に於いて,田面水や農業用水の成分濃度の変動は,本田ヘ施用された肥料に大きく依存すると推察3)される。自然環境に於ける水質保全の観点から環境保全型農業として本手法を位置付けるには,本手法及び慣行栽培に於ける田面水や農業用水中の成分濃度の比較が重要であると考えられる。
上越にある山間地の桑取地区では,農村活性化と共に「食」を通じて村氏の健康作りを目指した「上越リフレッシュビレッジ事業」が展開されている。その一環として上越市からの委託研究で農家圃場(上越市西谷内)に於いて本手法の実証試験を行い,水稲栽培期間中の農業用水及び田面水を採取し,水質の理化学定量分析を行ったので紹介する。
図1に示したように,本手法では,層状に下から培土(床土),肥料(苗箱まかせ®NK301-100,チッソ旭肥料(株)製),発芽籾,培土(覆土),及び砂状熔成燐肥を水稲育苗箱に施用した(窒素6kg,リン酸4kg,加里2kg/10a)。電熱育苗器(芽出し作業場が30℃以下であった為)を用い,棚積みして芽出し作業をした後に水槽育苗を行った(約30日間,中苗)。また,慣行区の施肥は市販の化成肥料を用いた(窒素6kg,リン酸10kg,加里12kg/10a)。

実証試験は,上越市の桑取川上流に位置(上杉謙信の居城である春日山の近隣地帯)した西谷内集落の農家圃場で行った。尚,土壌種は褐色森林低地土である。図2に示したように採水場所としては,農業用水は試験区と慣行区に利用されている水口付近,田面水は試験区,慣行区各圃場の排水口付近とした。


また,図3に耕種概要を示した。試験年度(平成10年度),この地域は4月中旬から5月中旬迄は平年より晴天の日が続き気温が高かったが,8月下旬より収穫期までは雨天の日が続いていた。

サンプル水は,100mlのプラスチック容器に採取し,栽培期間中は冷蔵庫(5℃)に順次に保存し,収穫後に一括して定量分析を行った。
保存したサンプル(100mlプラスチック容器)を冷蔵庫から取り出し,上下によく撹拌し,更に1日冷蔵庫内で静置した後に,上澄み液を定量分析に用いた。
水素イオン濃度,各種形態窒素,リン酸は土壌環境基礎調査における土壌,水質および作物体分析法4),肥料分析法5),及び水質分析法6)に従った。
カリウム,カルシウム,マグネシウム,マンガン,鉄,アルミニウム,ホウ素,銅,亜鉛,珪酸,塩酸,及びバリウムは,表1の測定条件によって各元素の発光強度を測定した。

試験区は農業用水と比較して,濃度差異は小さいが,施肥時期に若干低下し,落水時期に若干上昇した。慣行区は施肥の影響を受け,栽培期間中低下したままであった。

試験区は農業用水と比較して,田植え時期は低いが,図面水温の上昇と共に上昇した。慣行区は基肥施肥直後は農業用水の約2.5倍であったが,1週間後には農業用水よりも低い値となった。

試験区と農業用水は濃度差異は小さく,N10~1,000ng/mlの範囲で変動した。慣行区は基肥施肥後に約10,000ng/ml弱で,その後は常時1,000ng/ml程度で変動した。また,農薬の散布によって濃度が上昇する傾向が見られた。

試験区と農業用水はN1~10ng/mlの範囲で変動したが,慣行区は施肥の影響を強く受け田植え前から上昇が見られた。アンモニア態窒素と同様に農薬の施用や落水により濃度は上昇した。また,現地圃場を観察すると水田内に生活している小動物の死骸が多数あり,これらの腐敗により,亜硝酸態窒素が田面水中に溶出してきたことが推察された。

農業用水はN100~1,000ng/mlの範囲内であった。試験区は田面水の上昇と共に上昇したが,落水と共に低下した。しかし,慣行区は落水直後に上昇した。

水溶性窒素全量は,アンモニア態窒素,亜硝酸態窒素,及び硝酸態室素の合計量を求めた。試験区は硝酸態に大きく依存し,慣行区はアンモニア態に依存する結果となった。施肥により田面水の濃度は農業用水より上昇するが,慣行区より試験区が常に低濃度で変動した。

慣行区は農業用水と比較して,施肥直後は約100倍の濃度にまで上昇した。また,除草剤散布の時期も上昇した。施肥の影響は特に著しく,農業用水中の濃度上昇に対しても影響を与えていることが推察された。また,試験区は慣行区よりも基肥施肥期で濃度が1/200となり,その後も低い濃度で変動した。これは,慣行区では営農指針により土壌改良効果(リン酸吸収係数P2O5 1,000mg/100g)を考え,水溶性リン酸を含む化成肥料を本手法の2.5倍も基肥に施用していることが影響していると考えられる。

試験区及び慣行区は,農業用水より高濃度で変動した。特に慣行区の施肥直後の濃度上昇は著しかった。

試験区は施肥直後は農業用水より低濃度であった。しかし,肥料の溶解と共に上昇し,農業用水と同程度の濃度で変動した。慣行区は施肥直後以外は低濃度で変動した。

試験区は施肥直後は農業用水より低濃度であったが,肥料の溶解と共に上昇した。慣行区は施肥直後以外は低濃度で変動した。

試験区及び慣行区は,農業用水より低濃度で変動した。

試験区及び慣行区は,農業用水と比較して高濃度で変動した。耕起及び除草剤散布により上昇する傾向が見られた。

濃度変動の傾向はマンガンと類似していた。慣行区は試験区より高濃度であった。

試験区及び慣行区は,農業用水と比較して高濃度であったが,落水後は低下し,その後再び上昇した。

試験区は農業用水と比較して高濃度であったが,落水後は同程度で変動した。

試験区及び慣行区は農業用水と比較して高濃度で変動した。濃度の上昇は施肥及び除草剤散布作業との関係が推察される。

慣行区は農業用水と比較して施肥直後に上昇したが,その後は試験区,慣行区共に農業用水と同程度の濃度で変動した。

試験区及び慣行区は農業用水と比較して,常に低濃度で変動した。

慣行区は施肥直後は高濃度であったが,5月下旬から8月下旬までは試験区及び慣行区は農業用水と比較して低濃度で変動した。慣行区の基肥に硫酸塩肥料が使用されているのが原因と考えられる。

慣行区は農業用水と比較して,基肥施肥直後は高濃度であったが,その後は低下し,追肥により再び上昇した。試験区は5月下旬から6月中旬までは農業用水と比較して高濃度であったが,落水と共に低下した。施肥に塩酸塩肥料が使用されているのが原因と考えられる。

試験区及び慣行区は農業用水と比較して,若干低濃度で変動したが,収穫期になって水量が少なくなると上昇した。

試験区の穂数273本/㎡は,慣行区385本/㎡と比較して少なくなったが,精玄米重は慣行区410g/㎡に対して試験区450g/㎡と増収した。これは本手法で用いた育苗箱内施肥専用肥料(苗箱まかせNK301-100)が,初期の溶出は抑制されており,ある時期から本溶出を始めるシグモイド型の溶出パターンとなっている為であると考えられる。

すなわち,育苗から田植え初期にはほとんど肥料成分が溶出しない為,穂数が慣行区より確保できなかったのであるが,その後時限的に溶出したことで,1穂籾数が多くなり,結果的には増収となった。また,食味試験に於いても本手法の米は粘り,堅さでは優れていた。
1)慣行栽培では,施肥時に多くの肥料成分が田面水に溶出していた。これらは,排水や漏水等と共に農業用水中へと混入し,農業用水中の各種成分濃度の上昇に影響を与えていると推察された。
2)化成肥料の基肥及び追肥による慣行栽培では,施肥に由来する各種成分濃度の上昇が著しいのに対し,被覆NK化成肥料及び砂状熔成燐肥による育苗箱内全量基肥による本手法では,各種成分濃度は慣行栽培と比較して大幅に抑制された。
3)山間部の保水性の良くない漏水の激しい水田に於いては,慣行栽培での施肥効率は極めて悪く,施肥された肥料成分の大部分は水稲に利用されることなく,水田外へ流亡していると考えられた。
4)本手法は,水稲の株元に局所的に施肥,及び殺虫殺菌混合剤を施用するので,慣行栽培と比較して施肥効率を高め,さらに農薬の防除効果も良好であった。山間部の漏水の激しい水田に於いても本手法は,精玄米を増収させ,食味も向上させた。
5)水稲収穫期に倒伏するような水田を調査すると,土壌中の可給態窒素が多く,加里成分が低い事例が多い。このような水田に本手法を活用しようとすると,現在市販されている育苗箱内施肥専用型の被覆NK化成肥料は,本試験に用いたもの(30-0-10)の1銘柄しかないので,成分調整が必要となる。したがって,様々な土壌診断に対応した本手法に用いることのできる多くの銘柄が市販されることが望まれる。


1)三輪睿太郎:生産性を高めながら環境へも配慮したい 肥料農薬レポート JA全農肥料農薬部 No146,P.7-10(1996.5)
2)中島秀治:山間水田の肥培管理は楽になる 北陸農業試験場ニュース No.63 P.5(1998.12)
3)中島秀治:高齢営農者でも可能な省力的稲作の確立をめざして 農業および園芸 第74巻12号(1999)
4)農林水産省農蚕園芸局農産課編:土壌環境基礎調査における土壌,水質および作物体分析法 土壌保全調査事業全国協議会(1979)
5)農林水産省農業技術研究所:肥料分析法(1982年版)(1982)
6)日本分析科学会北海道支部編:水の分析 化学同人社(1981)
7)久保田正明:測定条件の最適化と分析値の評価「基礎から学ぶプラズマ分光分析法の新展開」 プラズマ分光分析研究会 ’95筑波セミナー テキストP.21-29(1995.7)
JA上北町指導課
課長 田嶋 恒
新しい時代の施肥技術として注目されている「苗箱施肥法」であるが,これまでの当管内での取り組みの経過とその結果についての諸々の感想を述べてみたい。
まず管内の立地概要であるが,上北町は青森県の東部,ほぼ中央に位置し総面積119.5km2,うち62.3km2とその52.2%が小川原湖で占められている。陸地には田畑等約2500haが開ける純農村地帯で,一般に夏は冷涼で冬の晴天の日が多い。
春から初夏にかけて,海霧をともなった偏東風(ヤマセ)が太平洋から吹きつけ,曇天低温の続く日が多く,年によっては稲作に冷害をもたらす事もある。近年では,昭和55年,56年,63年,平成3年,5年に大きな被害を受けている。年平均気温12.9℃,年降水量は1060mm,冬期の最深積は69cm。初霜日は10月22日,晩霜日4月9日。
管内の地形は第4紀洪積世の丘陵台地で,海抜20~40mの七鞍平段丘が大半を占める。丘陵台地には広い平坦があり,開田,畑地が開け,小川原湖に注ぐ,七戸川,砂土路川の河川地には水田が開けている。
地質は下部が第3紀鮮新世の沖積砂岩からなる野辺地層で上部は八甲田山系の火山噴出物で覆われ耕地の土壌は丘陵台地は酸性の強い黒色火山灰土壌であり,河川流域の水田は沖積層土壌で構成される。
管内には,1800ha余りの水田があり稲作農家はおよそ1300戸である。一戸当り平均所有水田面積は,140aであるが,加工米をのぞいた実質転作面積でも40%を越している。10a当り平均収量は540kg,作付品種のほとんどが主に業務用に使われる「むつほまれ」で占められるが,12年度から”良食味”と評価の高い「ゆめあかり」ヘ全面的に切り変えられる事になっている。
転作の強化と生産者米価の低下により,稲作所得は激減。稲作からナガイモ,ニンニク,葉タバコ等立地条件に適した作目の栽培,あるいは兼業化へと経営の比重移行は近年著じるしいものが見られる。
また老齢化や後継者不足は当管内でも例外ではなく労力不足,技術不足から稲の作柄は年々収量品質とも個人差が拡大,稲作部門の不採算から全面転作をする農家も増えてきた。
この様な条件下で,管内における稲作の推進方向を展望する時省力化によるコスト低減が最大の課題と位置づけ,その対策の一環として「苗箱施肥法」の導入ヘ取り組んできた。平成6年に試作を始め,11年にはおよそ60haで実施,本年は100haを越すのびが見込まれている。
この事は現状の稲作栽培がかかえている諸々の課題に対し苗箱施肥法がかなり効果的な特性を有している評価の表われであると受けとめている。
これまで当管内で取り組んできた結果からの苗箱施肥法における肥効の特徴とその効果についてであるが,まず均一な品質の米が安定的に確保しやすいと言う点である。この事は,米流通に市場原理が導入され米もひとつの”商品”となった今日,品質の均一化,供給の安定化がより一層厳しく求められてくる中で,極めて大きな効果と言える。
当管内のような条件下で産地として残り続けるには何にも増して重要な課題であり,苗箱施肥法の導入により労力や技術,環境条件などの違いにあまり影響されず,作柄や品質の個人差,地域差,年次差を極力少なくおさえた生産体勢の確立が比較的容易にできるのではないかと考えている。
また,施肥ムラの生じない肥効の特徴も大きな効果があると受け止めている。労力不足,技術不足等,施肥ムラによる倒状や生育差から減収,品質低下の被害が増えてきている中で,一定水準の収量品質を安定的に確保しやすい事は,増収技術ではないと言え,当管内のような場合,結果的に増収に結びついている。
次に,登熟期における葉茎の枯れ上がりをおさえられる特徴の効果も大きいものがある。
秋の短い当管内では,収穫の遅れによる品質低下の被害も多く課題のひとつとなっているが,枯れ上がりの早さはそれに拍車をかける傾向にある。慣行施肥法に比べ,あきらかに枯れ上がりの遅くなる苗箱施肥法は収穫適期幅の拡大につながるものと期待でき,今後作業受委託や規模の拡大が一層進む事が必然的であるだけに,かなり効果的な対応策になりうるのではないかと考えている。
加えて,今年度から全面的に切り変えされる「ゆめあかり」はその品種特性上茎葉の枯れ上がりの早さが指摘されているだけに期待がもたれる。
おわりにあたり,これまで当管内で取り組んできた結果から苗箱施肥法についての課題について2~3のべてみたい。
苗箱施肥法の場合,茎数をある程度抑制し登熟歩合の向上で,安定収量を確保すると言う肥効の特徴を示すが,田植時期の平均気温が12~13℃,その後一ヶ月でも15~16℃と言う当管内では初期生育の抑制から一穂粒数の増加や登熟歩合の向上では補いきれない絶対的茎数不足となるきらいがある。
この事は多数の農家への普及した場合適正施肥量の徹底が難かしくなるのでは,と言う危惧を感じさせる。またヤマセの強い年などには,後期に残りすぎたN成分が登熟や食味に影響を与えないものかとの不安もある。
そこで,3年程前から溶出期間の短かい「60日タイプ」を比較試作をしているが,初期生育も順調で,当管内の様な寒冷地においては必要茎数も確保しやすく安心感がもてる結果となっている。今後是非とも各地域の気象条件に合せた溶出タイプのものを選択できる様な供給体勢になる事を望みたい。
育苗期間においては苗質に大差は見られないもののやはり乾燥による被害が発生しやすい事から播種時点からの灌水など徹底する必要を感じている。また当管内では床土混和による方法が主であるが,低温ぎみに管理した場合,慣行に比べ根張りの劣る傾向が見られる事も若干気にかかるが,いずれにせよ,これらの事は特徴に合せた管理で十分対応できる事ではある。
年々倍々の伸びを見せる当管内の苗箱施肥法であるが留意すべき事は,その特性を十分理解してもらった上での普及を心がけるべきものと考えている。苗箱施肥法は現状の稲作栽培がかかえる諸々の課題に対し,十分な効果特性を有していると言え,急速にその普及拡大は進むものと推測される。
管内の稲作栽培において苗箱施肥法が50%を越えた時,内部的にも対外的にも上北の米に対する評価は変わり,新たな展望が開けるものと期待している。