§水稲育苗に対する工コロング機械施肥の効果
(中苗箱マットについて)
北海道渡島支庁
渡島中部地区農業改良普及センター
専門普及員 田川 洋一
§水生作物:(3)
塊茎を利用する作物
ジザニア・水生植物研究会
会長 三枝 正彦
§肥料の常識・非常識(3)
越野 正義
北海道渡島支庁
渡島中部地区農業改良普及センター
専門普及員 田川 洋一
水稲育苗に対するエコロングの施用効果は,これまでにも様々な実証がなされ,各地で成果を挙げている。この度,エコロングの効率的な施用を目的とした専用施肥ホッパーが開発され,より省力性が期待できる技術へと昇華したので,その施用効果と地域への普及性を検討した。
道南の渡島中部地区は,積雪量が少なく,融雪期は,道央部の主要稲作地帯である空知管内に比べて1ヶ月程早く,農耕期間が長い。普及センター管内の農家11当たり平均耕地面積は,4.4haで,道内平均16.4haに比べて規模が小さい。
このため,水稲単作経営は極めて少なく,野菜,花きを主に,酪農,畜産を含めた他作物との複合経営を主体としている。水田転作作物にも早くから園芸作物を導入し,ハウス施設を利用した園芸作物の周年栽培も行われ,2月下旬には,トンネル作型の野菜は種も始まるなど,一般的にイメージされる北海道農業とは異なる農業が営まれている。
特に,野菜,花き等園芸作物の生産ウエイトが高く,地区内農家の10a当たり生産農業所得は,5万5千円で,道内平均の3万5千円より多く,集約的な農業が展開されている。
耕地面積が狭く,地区内に函館市があるため,兼業農家率が65%と高く,第2種兼業農家の割合は,45%と道内平均の22%を大きく上回っている。また,道内で最も農業者の高齢化,担い手不足が進行している地域でもある。
育苗様式は,中苗マットが90%以上で,残りは成苗ポットである。移植期は平年5月25日である。
当地域では,中苗マット育苗農家のほとんどが,野菜など園芸作物のビニールハウスで水稲育苗を行っている。耕地面積が限られているため,ビニールハウスで,野菜等を1作収穫した後に,水稲を育苗し,田植え後に再び野菜等を作付けしている。当然ビニールハウス内の土壌は,pHが高く,園芸作物用に改良されているため,水稲育苗時は,育苗箱内に根止めシートを入れたり,有孔ポリフィルムを敷設した上に育苗箱を並べている。側条施肥の普及率は低く,移植後に冷たい偏東風が吹くこともあり,健苗育成による初期生育促進は,良質良食味米安定生産の大きな課題である。
試験は,平成14,15年の2カ年,地区内の大野町字東前Y氏で実施した。商品名は,平成14年がロング424M100,平成15年がエコロング424M100である。育苗様式は,中苗マット。は種量は,催芽籾を育苗箱当たり200mlである。


施用方法は,は種機を用い,育苗箱に基準量の基肥を施用した床土を充填後,施肥ホッパーで,エコロング424M100を育苗箱当たり50g施用し,は種,覆土した。その後,ビニールハウスに敷設した有孔ポリフィルムの上に並べて,シルバーポリ等で被覆加温し,置き床出芽させ,育苗した。エコロング無施用の対照区は基準量の基肥を施用し,無追肥で設定した。

平成14年は,育苗,移植時苗質調査のみ。平成15年は,それに加えて,生育,収量,品質を調査した。
本ホッパーは,独立した電動で駆動し,は種機にホッパーの厚み20cmの設置場所があれば,簡単にセットできる。電気抵抗つまみで施肥量を可変し,施肥精度が高く,均一に施用できる。このロング専用施肥ホッパーが開発される前は,床土にロングを混和する作業がたいへんで,育苗ロング施肥は敬遠されていた。施肥ホッパーにより,は種機の作業能率をまったく低下させることなく,同時施肥できるので,いっそう省力的である。

平成14年は,ロング424M100区は,苗100本当たり乾物重が基準の2gを超えて,2.20gで,無施用の対照区の2.08gより重く,草丈が短く苗質は良好だった。平成15年もエコロング424M100区の乾物重は,3.34gと対照区の2.96gより明らかに重く,苗質は優った。エコロング424M100区は,葉が長く,草丈が長かったが,苗の第二鞘高は短く,節間の徒長は対照区より少なかった。


初期生育は,エコロング424M100区の方が優っていた。6月23日に調査した㎡当たり茎数は,対照区が175本,エコロング424M100区は204本と茎数が多く,7月8日の葉色値も対照区34.0に対して,エコロング424M100区は37.1と濃かった。対照区は,移植後から葉色が薄く,6月23日の調査では,植え傷みにより,枯死した苗が確認された。これは,育苗追肥を行わなかったため,栄養濃度不足による発根力低下が要因であったと思われる。対照区は,全般に生育が停滞し,出穂期,成熟期とも2日,エコロング424M100区より遅れた。


対照区は,エコロング424M100区に比べて,㎡当たり茎数はやや少なく推移したが,最終的な㎡当たり穂数は同じになった。7月中旬から増加した対照区の茎数は,登熟が悪い弱勢穂であり,屑米が多く,エコロング424M100区より減収する要因となった。移植後の活着が良く,生育初期から茎数を確保したエコロング424M100区は,1.95mm選別の精玄米重収量比が,対照区対比で161%と多収だった。

平成15年は,平成5年に次ぐ大冷害で出穂が大幅に遅れ,開花がばらつき,開花受精期間が長期化した。このため,外観上は,籾の黄化が進み,成熟期には達したが,青未熟粒,着色粒(茶米,背黒米)が多く,試験区,対照区ともに検査等級は規格外だった。また,食味化学分析の結果も精米蛋白含有率が総体的に高かったが,エコロング424M100区は,対照区より蛋白値が低く,食味特性が向上した。

エコロング424M100を水稲育苗に使用することにより,育苗時の追肥が省略でき,安定して初期生育の良い苗が得られ,生育,収量,低蛋白による食味特性ともに無施用の対照区より優った。また,専用ホッパーで施用することにより,いっそう省力的であった。




前述のとおり,当地域の稲作農家の大半は,水稲育苗時に根止めを行っている。苗は,育苗箱内の土だけに根を張り生育しているため,適時追肥を行わないと,栄養濃度不足で老化しやすく,活着不良によって,課題となっている初期生育が低下し,収量,品質を低下させてしまう。農協関係機関,普及センターでは,1~1.5葉期,2~2.5葉期の2回,窒素追肥を行うことを指導しているが,基幹である園芸作物の栽培管理や収穫に忙しく,追肥を省略したり,苗の仕上がりが早まり田植えが遅れた場合,2回の追肥では足りなかったり,追肥時期を逃している事例が多かった。また,忙しい春先,水稲育苗の追肥時期を考えるのは,貴重な労働力を管理する生産者にとって少なからずストレスになると考えられる。

エコロング施用による苗素質,本田初期生育の向上,特に,育苗追肥作業の省略効果は,当地域の野菜,花き,水稲複合経営でメリットが大きく,普及性は高いと考えられる。また,当地域の作業形態からすると,施肥ホッパー無しには,その普及も進まないと思われる。
追記:当地域では成苗ポットにおける施用効果は検討していないが,筆者が以前に在勤した普及センターで実施した成苗ポットに対する試験でもロング424M100(当時)の施用により,苗の栄養濃度が高まり,初期生育向上効果が得られていることを付け加えたい。
ジザニア・水生植物研究会
会長 三枝 正彦
水生植物の中には塊茎を形成し,炭水化物を蓄え再生を容易にすることによって,旺盛な生育をする永年生植物が多数見られる。人々は古くからこの塊茎の炭水化物(主として澱粉)に目をつけ,野生植物の時代から利用してきた。これら水生植物のうち,現在作物として利用されているクワイ,オオクログワイ,タイモ(サトイモ)について紹介する。
クワイ(慈姑),Sagittaria trifolia(学名),Arrowhead(英),慈姑 Cigu(中国),和名のクワイは”鍬(くわ)芋”の略で葉が鍬の形に類似している芋に由来,学名のSagittaは矢,trifoliaは3葉を意味する。また英名のArrow headは矢じり(葉形),漢名の慈姑は親芋からでた多数の地下茎の先についた小芋の形状が,慈しみ深い姑が子に授乳する姿に似るからと言われる(田村1988)。
クワイはオモダカから育成された作物でアオクワイ(S. trifolia var. edulis(Sieb)Ohwi)とシロクワイ(S. trifolia var. sinensis(Sims)Makino)がある。また野生のオモダカの1系統と言われるスイタクワイ(S. trifolia var suitaensis Makino)も大阪府吹田市付近で栽培されている。アオクワイは日本で栽培される大部分の品種で,草丈は約1m前後,葉は中葉で緑色,塊茎は60g前後の扁球形で外皮は青色である。このうち,塊茎の底が平らな系統を新田クワイ,やや腰高で円球形の系統を京クワイと呼ぶ。シロクワイは中国で多く栽培される大型のクワイで葉は淡緑色,塊茎は白色,円球で肉質が硬いと言われる。またスイタクワイは小球(4~8g)だが苦みが無く,肉質が緻密で美味とされている(福井1988)。
クワイの栽培面積は昭和45年の稲作転換対策により,転作作物の1つとして増大したがその後徐々に減少した。昭和59年におけるクワイの全国生産量は1606tであり,県別生産量では埼玉県が最も多く全体の54%を占めた。またこの他には愛知,大阪,京都,新潟など2府20県で栽培された(福井1988)。埼玉県では越谷から草加にかけた綾瀬川流域で生産されているが,江戸時代中期より菜種と共に2毛作として栽培が奨励され,天明6年の関東大洪水で稲作が全滅したときには救荒作物となった。しかしながら近年の都市化で栽培地が減少し,平成7年には広島県福山市が日本一の生産地となった(臼井2001)。またクワイの生育適温は25℃前後で暖地の水田転作物として有望である。
クワイの塊茎の頂点には,湾曲した鳥のくちばし状の頂芽があり”芽がでる””めでたい”ということで頂芽をつけたまま縁起物として正月のおせち料理や祝儀料理に使われる(図1,2)。


また,この他の料理としては花クワイ,きんとん,てんぷら,煮豆などに使われる。さらに最近越谷では郷土料理研究家泉水スエさんによってクワイののり巻,クワイのツクネ,みたらしクワイ団子などが紹介されている。また加工品としては越谷の地ビール,草加の焼酎,クワイチップス,和菓子なども作られている。図3の越谷の発泡酒「慈姑楽我」ビール(越谷くわい研究会:代表金子繁雄氏)は”慈姑を我,楽しむ”の願いのもとに命名された,独特の香りとこくのある逸品であり,平成11年度優良ふるさと食品中央コンクール新技術開発部門で受賞している。一方,草加の「くわい焼酎」はメーカに依頼した本格焼酎で,口当たりは”奥州・日光街道草加宿,素朴にして純”を売り物にしている優れものである(図4)。また中国ではでん粉を分離精製している。


JA越谷の「くわい栽培ごよみ」によれば,植付け1ヶ月前の6月上旬に土作りと雑草防除,前年のこぼれグワイの除去を目的に石灰窒素を50~70kg/10a全面散布する。その後,基肥,代かきを行い,クワイの発芽適温(13~15℃以上)になる6月下旬に植え付けを行う。植付け5日後頃から発芽が始まり,8月中旬まで草丈は直線的に増加する(栄養成長期)。この後9月中旬までほふく茎の発生,伸長が起こり,9月下旬から11月中旬まで塊茎の着生と肥大が起こる。ほふく茎の発生,伸長期と塊茎の着生,肥大期を合わせて生殖成長期という。
栄養成長期の後半に数回の追肥や下葉かきを行い,また9月の上旬にはしり切り(根回し)を行うと大きな塊茎が着生する。また収穫2~3週間前の11月上旬にから刈りを行い,地上部を鋤きこみ還元状態にして塊茎に付着した酸化鉄を溶解させる(シブ抜き)。また生育期間中,数回の病害虫防除を行うと共に,湛水状態を常に維持する水管理を行う。水管理は植付け後2週間と9月以降は5cm程度の浅水管理とし,それ以外は6~9cmのやや浅水管理とする。それゆえ,中干しを必要とし,収穫時期が早い水稲栽培田とは別に,クワイ栽培団地を作り,水管理をすることが望ましい。収穫は鍬などで掘り取るが重労働である。そこで昭和55年頃からはレンコンと同様に高圧水をホースで噴射させ,浮いた塊茎を網で掬い取る方法が行われている。しかし,越谷の金子繁雄氏の話によると上質のクワイは比重が重く,充分浮き上がらないので依然として手掘りを行うとのことである。
収穫したばかりのクワイは青藍色に輝く美しさであり,JA福山のキャッチフレーズは「土の中のサファイア」とのことである(白井2001) 。収穫したクワイはサイズ分けして出荷するが,関西市場ではS級(20~24mm)が,京浜市場ではL級(30~40mm)が好まれる。したがって関西市場向けにはSS級種芋,密植(7~9種球/㎡),根回し無しの栽培を,京浜向けにはS級を種芋,粗植(4~5種球/㎡),根回し栽培を行う(福井1988)。
クワイの養分要求量は大きく,施肥量や施肥法が収量,品質を大きく左右すると言われる。これまでその窒素要求量は10アール当たり40kgとも60kgとも言われてきた。内山ら(1994)はアオクワイに対する窒素施用時期,施用量と塊茎収量の検討をした。基肥窒素量20kg,追肥10kgで目標秀品収量が得られた。そして追肥としては図5に見られるように8月上,中旬に行うことが重要でこれより遅いとむしろ減収する事を明らかにした。

一方,クワイ栽培における追肥作業は,クワイの強靭な葉柄が水平方向に伸長していること,足場の悪い水田で栽培されること,腰をかがめて田面に施用しないと肥料焼けの恐れがあることなどから極めて重労働である。そこで内山(1996)はクワイ栽培における追肥の省略による省力化と利用率の向上による環境汚染の軽減と収量向上を目指して肥効調節型肥料を用いた全量基肥施用法でアオクワイを用いて5年間検討した。慣行追肥区は燐硝安加里化成を用いて窒素として20kg/10aを基肥に,またNK化成で窒素として5kg/10aづつ8月1日と20日に施用した。一方,全量基肥施用区は肥効調節型肥料ロング100を定植時に窒素として30kg/10aを作土全層に混和した。
図6には収穫時における5年間の等級別塊茎収量を示した。これによるといずれの年も全量基肥施用区は慣行追肥区より大球が多く,かつ総収量も向上することが明らかになった。この5年間には1993,1994年のように不良気象の年があったがこの時でも肥効調節型肥料による全量基肥施用区が安定した収量を示した。

以上のことからクワイ栽培における肥効調節型肥料を用いた追肥省略,全量基肥施用栽培は可能であり,省力化と収量向上,環境汚染軽減が期待される。また,本試験の供給窒素には硝酸態窒素が含まれており,アンモニア態あるいは尿素態肥効調節型肥料で局所施用栽培すれば,収量を向上させ,かつ更なる減肥と環境負荷軽減が可能と判断される。肥効調節型肥料を用いて品種内および品種間交雑によって得られたクワイ系統の生産性が検討され,品種間雑種系統の普及により,より集約的クワイ栽培の可能性が示唆された(谷本・内山1993)。
1)福井澄夫:クワイ,農業技術大系,野菜編11 特産野菜・地方品種,農文協,pp特産野菜 135-143(1988)
2)臼井英治,大地の恵み,四季の味 22慈姑,園芸通信,サカタのタネ,pp30-31(2001)
3)田村輝夫:7.クワイ,野菜園芸大事典,養賢堂,pp1072-1074(1988)
4)谷本忠芳・内山知二:品種内および品種間交雑によって得られたクワイ系統の生産性,農業および園芸,68,77-80(1993)
5)内山知二:肥効調節型肥料を用いたクワイの全量基肥施用法,大阪農技セ研報,32,9-12(1996)
6)内山知二・高浦浩司・上田知弘・日野和裕・清水武:クワイに対する窒素施用時期及び施用量と塊茎収量,大阪農技セ研報,30,7-11(1994)
オオクログアイ(大黒慈姑),シナクログワイ(支那黒慈姑),Eleocharis tuberosa ROEM. et SCHULTES(学名),Chinese Water-Chestnut(英),馬蹄(中国)などと呼ばれる植物で針金状の3mm程度の茎を叢生するイグサに似た草丈1m程になる永年生で,葉は退化して鞘状に茎の基部にある。ラテン名のEleocharisはギリシャ語でelos(沼地)とcharis(飾る)を意味し,tuberosaは塊茎状を意味する。またオオクログアイの原種であるシログアイ(E. dulcis)のラテン名dulcisは甘みを有するとの意味と言われる(農林水産省熱帯農業研究センター1980)。
このオオクログワイの名称は前述のオモダカ科のクワイ(慈姑)や同じ仲間の野生種のクログワイ(E. kuroguwai),さらには同じ英名(Water Chestnut)では菱と混同されることがある。現在,中国料理で使われるクログアイは日本で古くから救荒作物として利用されてきたクログワイではなく,中国揚子江沿岸でシログワイ(E. dulcis Trinius var. dulcis)あるいはイヌシログワイ(烏芋)と呼ばれる野生種から育種されたものの塊茎である。この塊茎の外皮は名前から想像されるように黒褐色ないし紫褐色であり,形は図7に見られるようにグラジオラスの球根に似た直径2~5cm,高さ1.5~2cm,重さ10~30gの扁球形である。

皮を剥くと内部は白色でレンコンやタケノコ,ヤーコンに似たさくさくとした歯触りであり,また特有の香りと甘みがある。それゆえ皮を剥いて生のまま子供のおやつに,また煮物,油炒めなど各種の料理に使われる。また図7の缶詰めはタイのスーパーマーケットで見つけたシロップ漬けである。最初見つけた時は英名のWater-Chestnutから菱の実を連想したが大きさ,形状,さくさく感からオオクログワイ(Chinese Water-Chestnut)であることが判った。さらにこれからとった澱粉は馬蹄粉と呼ばれ,お菓子の材料や消化剤,解熱剤にも利用されている(青葉1988)。
原種とされるシログワイはアジアの熱帯,亜熱帯からオーストラリア,アフリカに自生するが,栽培種のオオクログワイは中国揚子江沿岸で育種された。この品種は15℃以上で発芽し,生育適温は25~30℃といわれるので,現在我が国では新潟県豊栄市と中蒲原郡横越村で栽培されていると言われるが暖地水田の転換作物として有効である。5月頃に育苗した苗を6~7月に定植する。その後追肥と除草を行い,また9月下旬頃落水し,地上部生育を抑制して再び潅水する。収穫は11月頃から行うが収量は10a当たり1.5~2tといわれる(青葉1988)。植付け密度は60×25~30cm,植付け深は6~9cm,栽培期の水深は7~10cmとする。
水生作物なので肥効調節型肥料の施用が省力と利用率向上の面から特に有効と思われる。なお古くから我が国で利用されてきたクログワイは2cm前後と球形も小さく,加賀では3~4月に植え,9~10月に収穫されること,また青森県の亀ヶ岡遺跡からも出土していることからオオクログワイより,早生でまた耐寒性も優れていることが推定される。
1)青葉高:オオクログワイ,農業技術大系,野菜編 11 特産野菜・地方品種,農文協,特産野菜 pp61-63,1988
2)小山鉄夫:ハリイ属,世界有用植物事典,平凡社,pp410-411,1989
3)農林水産省熱帯農業センター:61オオクログワイ,熱帯の農業,熱帯農業技術叢書第17号,282-285,1980
4)矢野勇:66オオクログワ野菜の花,朝日ソノラマ,pp135-136(1975)
サトイモ(里芋),イモ(芋),タイモ(田芋),水芋,学名はColocasia esculenta SCHOTTとColocasia antiquorum SCHOTTを対比して2大別する場合やColocasia esculenta SCHOTTに統一し,変種としてvar. esculentaとvar.antiquorumを設ける場合やColocasia antiquorum SCHOTTとして多くの変種を設ける場合がある(農林水産省熱帯農業センター1980)。分類は混乱しており,完全な統一は無いが,学名のColocasiaはcolon(食物)とcasein(飾る)を,また,esculentaは食用となる,antiquarumは老人のを意味する。英語では総称してTaroと言うが親芋が大きく小芋の着生の少ない品種をDasheen,親芋は小さく小芋を多くつける品種Eddoeとも言う。星川(1992)はDasheenを狭義のタロ,Eddoeを日本のサトイモと呼んでいる。原産地はインド周辺と言われる。
我が国では古くはイモと言えばサトイモを指していたが,ヤマノイモ(山芋)に対して,サトイモ(里芋)と呼び多くは畑地に栽培されるが,湿地や水田に栽培されるものもあり,タイモ(田芋),ミズイモ(水芋)と呼ぶ。ここでは水生作物を解説するのでタイモ,ミズイモに対して述べることにする。
2003年12月17日のNHK総合テレビ(9:15~10:00)世界謎解きヒストリーの番組では,「ハワイ,オワフ島のリゾート,ワイキキ海岸は100年前まではタロイモ畑」という興味深い話を紹介していた。ワイキキのワイは水を,キキは溢れるを意味し,湿地地帯であり,昔はタロイモ栽培適地だったと言う。この地域は天気が良く降雨が少ない上に,清水が豊富に湧き出,素朴な農業風景に惹かれ,リゾートホテルが建てられた。しかし,湿地であるため蚊が大発生し,客からのクレームで埋め立て,砂浜を作ったと言う。このワイキキビーチは崩れやすく,現在でも毎年カリフォルニアやオーストラリアから砂を補強し維持していると言う話であった。このタロイモはタイモ,ミズイモと呼ばれるもので主として親芋を食用とするDasheenタイプのサトイモと思われる(図8はタイ国クラビ地域で栽培されている水生のタロイモである)。

我が国のサトイモは主として水はけが良く水持ちの良い畑地に栽培されるが,沖縄や山形県庄内地方ではこのDasheenタイプのタイモ,ミズイモが今でも栽培されている。小生がこのタイモに初めて出会ったのは20年ほど前に,山形県田麦畑の多層民家を見学したときである。この民家の前の田んぼには,水稲とサトイモが同時に湛水栽培されており,サトイモの栽培は水はけの良い壌土で行われると考えていた小生には衝撃的な出来事であった。またその後,熱帯や亜熱帯のタロイモが湿地や清水で栽培される事実を知り,水田転作としてのサトイモをいつか栽培したいと考えた。
熱帯,亜熱帯地方では親イモを焼き,あるいは蒸して主食とするが,我が国では茹でたり,炒めたり,あるいは煮ておでん,田楽,肉料理などの副食とする。また茎は皮を剥き,乾燥させてズイキとして食用にする。サトイモでん粉粒は細かいので粉にして食すると消化が良く,また太平洋諸島では醗酵させ,ポイというのり状の食物を作ると言われる(農林水産省熱帯農業研究センター,1980)。葉や茎は民間薬として肩こり,やけど,蛇の噛み傷,虫の刺し傷などにすりつぶして外用とする。子供の頃,野原で頭を足長蜂に刺されて,泣いている子に茎汁を塗りつけ,腫れと痛みを和らげた事を今でも鮮明に記憶している。
また欧米では殆ど食糧とせず,葉が斑入りのものが観賞されたりするが,我が国では小芋の多い八つ頭が水盤で栽培し,鬱陶しい梅雨の最中に,清清しさを演出する。サトイモは微量の蓚酸石灰を含み,えぐみや痔みを引き起こすがあくだしすることによって回避できる。主成分はでん粉で固形物の7割を占め,ほかにたんぱく質,脂肪,繊維,ガラクタン,ぺントザン,フィチンが含まれる。灰分としてはカリが多い。
山形県飽海郡遊佐町の土門米雄さんの場合(伊藤1986),3月に20℃前後で品種山形田芋を催芽させ,5月中旬本葉3~3.5枚になったら,代かき後の水田に畦間150cm,株間45~50cm,深さ3~5cmで植え付ける。その後,除草を兼ねた土寄せ2回,追肥を行い,10月下旬頃より,降霜前に順次収穫する。土門さんの場合,有機栽培なので堆肥を10アール当たり植付け前に1トン,追肥として6月上旬に1トン,また米糠を植付け前に150kg,追肥時に株間に150kg施用している。
草丈は1.5~2.0mまで伸び,子いもの着生は比較的少なく,親イモは良く肥大し,直径6~10cm,重さ300~700g程度となり,収量は10アール当たり800~1000kg程度と言われる。食味はやや粘質で良質美味である。また葉柄はそのまま煮る,あるいは乾燥させてから味噌汁などの「実」とすれば珍味といわれる。
東北大学附属複合生態フィールド教育研究センターの黒ボク水田で化学肥料とケイ酸カルシウムの施用試験を行った(図9)。品種は山形田芋を用い,化学肥料で省力栽培を行った。植付けは2001年6月1日に畦間100cm,株間50cmで行い,収穫は10月25日に行った。処理区は緩効区では肥効調節型肥料LP100,CK100,溶りんを用い,窒素,リン酸,カリを各15kg/10aを全量基肥施用した。速効性区は窒素,リン酸,カリを基肥として各10kg/10a,追肥として7月15日と8月13日に各2.5kg/10aを施用した。またケイ酸Ca区は多孔質ケイ酸カルシウムを植付け前に150kg/10a全面全層施用した。

図10にはその親イモ収量と全イモ収量を示した。親イモ収量,全イモ収量とも速効性肥料区より肥効調節型肥料を用いた緩効区で明らかに増収し,また多孔質ケイ酸カルシウムの施用効果も明らかに認められた。肥効調節型肥料の効果は肥料利用率の向上,ケイ酸カルシウムの効果は土壌窒素の無機化促進が上げられる。山形県庄内の土門さんの栽培に較べると,親イモ収量は半分程度であったのは太平洋側でヤマセの影響で十分な気温が得られなかったためと思われる。しかしながら肥効調節型肥料による追肥省略による省力化と肥料利用率の向上による増収効果が確認された。サトイモの生育適温は25~30℃であり,肥効調節型肥料による田芋栽培は暖地水田の転作栽培として特産化が期待される。

1)飛高義雄,2.サトイモ,野菜園芸大事典,養賢堂,pp1032-1044(1988)
2)星川清親,タロイモ,栽培植物の起源と伝播,二宮書店,pp118,119(1992)
3)星川清親ほか,サトイモ属,世界有用植物事典,平凡社,pp302-304(1989)
4)伊藤忠次郎,苗代跡-有機質主体で良品つくり,山形田芋・湛水栽培,農業技術大系,野菜編 10,マメ類・イモ類,レンコン,pp応3-応9(1986)
5)農林水産省熱帯農業研究センター,サトイモ属,ブラジルの野菜,熱帯農業技術叢書18号,pp344-348(1983)
6)農林水産省熱帯農業研究センター,44.サトイモ,熱帯の野菜,熱帯農業技術叢書17号,pp185-190(1980)
越野 正義
尿素の普及が盛んだったころ,当時の硫安協会で英語の資料を作っていた。TVAのR. D. Hauck博士が来日したときにその本を差し上げたのであるが,彼はパラパラ見て,この本には今見ただけで,間違いが2か所あるという。一つは,尿素は硫アンなどと肥効が同じと書いてあるが,欧米では尿素の効果が若干低いのが常識である。もう一つ,尿素は土壌のpHを下げて酸性にすることはないとあるが,それは間違いで尿素も酸性化になるというのである。
尿素の肥効については次回に書くとして,今回は酸性化について述べる。Hauckが言っていることは,アンモニウムイオンは硝酸化成の際に水素イオンを2個放出するからアンモニア系肥料はすべて酸性化をするというのである。確かにアメリカの教科書には,窒素100部は炭酸カルシウム180部に相当する生理的酸性度をもっていると書いてある。これが今問題の酸性雨中のアンモニアが潜在的酸性化物質となる理由である。
日本で生理的酸性肥料とは,硫アンのように,窒素吸収後に硫酸イオンが残るために酸性化する肥料をいっている。尿素は酸根がないから酸性化の影響は小さいとみていた。
塩化カリは日本の多くの教科書で生理的酸性肥料となっているが,アメリカでは土壌pHにはほとんど影響がないとみている。
被覆尿素では酸性化の程度は小さいはずである。溶出してすぐ吸収されれば土壌中で硝酸化成を受ける時間もなく,pHに影響もしないからである。
(財 日本肥糧検定協会 参与)