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第564号 2005(H17).06発行

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ニホンナシ「豊水」における肥効調節型肥料による施肥量削減

熊本県農業研究センター果樹研究所
病虫化学研究室
主任技師 上村 浩憲

はじめに

 熊本県内のナシ栽培面積は631haあり,うち約30%の195haを「豊水」が占め,県内の主要品種の一つになっている。本県のナシ園への施肥量は,近年の環境意識の高まりに伴い,減少傾向にあると言われている。県内ナシ主産地の農家アンケートの結果では,「豊水」の平均施肥量は21kg-N/10aと県施肥基準量とほぼ同量であった。しかし,一部農家では30kg-N/10a以上の過剰な施肥が行われていた。

 現在では23kg-N/10a,4回分施の施肥体系の普及が図られているが,一部農家では11月~12月に年間施肥量の80%以上を施用する基肥1回または基肥重点施肥が行われている。これは国内・県内の主要産地を含めて基本的な施肥方法として過去に指導されており,この方法でうまく栽培が成り立ってきた経緯がある。

 また,ナシの窒素吸収パターンをみると品種により若干異なるが,いずれの品種も地上部新生器官への窒素吸収は果実肥大期間を通じて行われている。しかし,これまでの基肥中心の施肥体系では肥料の利用率が低くなりやすく,結果として溶脱する窒素が増加する。このことがナシ園における過剰施肥の要因となっており,環境負荷を増大させていると考えられる。また,農業者の高齢化,人手不足も問題となっている。

 これらのことから,肥効調節型肥料の収量,果実品質に及ぼす効果を明らかにし,年間窒素投入量を県基準の7割量にして環境負荷軽減を図った「豊水」における年1回施肥法の確立を目指した。

材料および方法

 ニホンナシ’豊水’8年生(1999年)を供試樹とし,試験区は表1のとおりに設定して,1999~2002年まで調査した。

1)対照区(有機配合肥料):年4回施肥(3月上旬30%,5月上旬10%,9月上旬25%,11月下旬35%),年間窒素投入量23kg(県基準量),有機率70%(N-7% P2O5-8% K2O-5%:3,5月施用)と有機率53%(N-10% P2O5-7% K2O-6%:9,11月施用)。

2)県基準7割施肥量区(有機配合肥料):年4回施肥(3月上旬30%,5月上旬10%,9月上旬25%,11月下旬35%),年間窒素投入量16.1kg,有機率70%(N-7% P2O5-8% K2O-5%:3,5月施用)と有機率53%(N-10% P2O5-7% K2O-6%:9,11月施用)。

3)肥効調節型肥料区:年1回施肥(11月下旬),年間窒素標準施肥7割量16.1kg(N-16% P2O5-12% K2O-12%)。LP40を70%,LPS60を30%,苦土重焼燐と被覆カリを配合した。

 試験は果樹研究所ほ場(細粒黄色土),10a当たり26樹植栽,施肥は土壌表面施用し,耕起等は行わなかった。

結果および考察

 図1に今回使用した肥料の窒素溶出パターンを示した。

 11月下旬に年1回施用すると,樹勢回復及び翌春の生育促進のための施肥直後と,新葉・新梢伸長期で窒素吸収が高まる4~6月頃に溶出のピークを描いて,7月下旬~8月上旬には溶出が終了した。

 2000年から2002年までの3ヶ年において,累計収量,1果平均重,1樹当たり着果数で肥効調節型肥料区が優れていた。累計収量で対照区を100とすると,肥効調節型肥料区は115となり,一果平均重も重くなった。一果重は1平方メートル当たりの着果数により影響を受けやすいことから,着果数はほぼ揃えるように摘果した(図2,3)。

 果実品質においては,肥効調節型肥料区が糖度(屈折計示度)が高く,2002年においては対照区と1.0度の差があり,また果実の軟らかさを示す果肉硬度(収穫の判断材料の一つ)も肥効調節型肥料区が低く,他区と比べ果実の熟期が進んでいた。(図4,5)。

 肥効調節型肥料区は年間窒素投入量が県基準の7割量にもかかわらず,収量・果実品質において県基準と同等もしくはそれ以上であることが確認された。また,有機配合肥料での年間窒素投入量7割量区は,収量・果実品質とも他区に劣っていた。

 また,2002年産果実の食味アンケートを行った結果,肥効調節型肥料で栽培した果実が他区より甘く,歯触りが良く,おいしいと回答したパネラーが多く,果実分析結果と同じ傾向が得られた(データ略)。

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肥効調節型肥料の導入によるみつ症の発生抑制

 みつ症は,重症のものを除いて,外観上からはほとんど見分けがつかず,果実を割って初めて確認される障害である。みつ症の発生は6~7月の低温や夏季の過乾燥などが原因と推測され,軽減する技術はいくつか現在のところあるが,確実な防止対策は確立されていない(写真1)。

 そこで,2002年度に果実のみつ症の発生程度を調査した(表2)。まず着果位置ごとの発生状況であるが,先端部や中央部が多く,樹冠内部ではみつ症の発生・被害は低くなった。みつ症の発生は以前からいわれているように,果実の熟度との関係が深いことが推測される。

 次に,施肥方法によるみつ症の発生状況では,肥効調節型肥料によりみつ症の発生は抑えられた。晩生の「新高」で肥料を分施するとみつ症を抑制するといわれているが,豊水においても肥効調節型肥料が生育時期に少しずつ養分を溶出・供給することによりみつ症の発生が抑えられたと推測される。

労力・資材費から見た特徴

 労力・資材費の比較を表3に示す。県基準の有機配合肥料の年4回施肥に比べ,肥効調節型肥料は11月下旬の年1回施肥で済ませることができる。また,今回使用した肥料の窒素分は有機配合肥料より高めの16%含まれているため,有機配合肥料に比べ10aあたり袋数(施肥重量)を減らすことができ,年間窒素投入量を基準の7割にすることで,全体の施肥重量をさらに抑えることが可能となった。また,肥効調節型肥料の1袋の単価が高いため,資材費の試算では有機配合肥料とほぼ同等となる。

今後の方向性

 以上のことから,肥効調節型肥料を導入することで施肥作業の省力化,施肥量の低減,環境負荷軽減等を推進できる可能性が示唆された。特に春から収穫期にかけて摘蕾,摘果,受粉,摘果,枝梢管理そして施肥と管理作業が多いナシ栽培において,年1回施肥が可能であることは労力面でのメリットが大きい。今回の試験によってナシ栽培における肥効調節型肥料の有効性が示されたが,「幸水」と「新高」など生育期間,収穫時期など異なる場合には,品種間において肥効調節型肥料のブレンド量(どんな銘柄をどれくらい)を検討しなければならない。また,果樹は永年作物であるため,施肥の影響がでるまでに数年かかることも留意しなければならない。

参考文献

1)宮下純ら:落葉果樹試験研究成績概要集(平成13年度p13,p293)

2)梅宮善章ら:平成13年度果樹研究成果情報

3)小豆沢斉・伊藤武義:島根農試研報18:31-47(1983)

4)折本善之ら:土肥誌74:203-206(2003)

5)佐久間文雄ら:茨城県園芸研究所報告4:10-15(1996)

6)上村浩憲ら:九州農業研究65:70(2003)

7)熊本県農業研究センター:環境に優しい施肥技術(2004)

8)上村浩憲:熊本県農業の新しい技術16:25-26(2003)

 

 

養液栽培トマトの湿気中根および水中根の
養水分吸収に及ぼす根域温度の影響

(独)農業・生物系特定産業技術研究機構
野菜茶業研究所 果菜研究部
栽培システム研究室
中野 有加

1.はじめに

 養液栽培は,根に好適な環境を人為的に作り出せる栽培法で,作柄の安定,作業の省力化などの利点がある。「養液栽培」といっても多くの種類があり,そこで栽培した作物の根の量や形,機能などもさまざまである。そこで著者らは,養液栽培におけるトマトの根の環境に対する反応について明らかにすることを目的とし,根域の環境が大きく異なる「水中根」と「湿気中根」の比較を行った。

 「水中根」とは培養液中に浸漬して発達した根であり,「湿気中根」とは,水蒸気で飽和状態の空気中に露出して発達した根である(山崎,1986)。たとえば,養液栽培システムの一つであるNFTでは,水面上に出ている根は「湿気中根」であり,水面下の根は「水中根」である。

 周年栽培を前提とするトマトの養液栽培では,栽培に適さない温度条件下でも収量や品質を確保する必要がある。トマトの生育に対する根の適温は約25℃であり,10℃以下あるいは30℃以上の根域温度は,生長を阻害し,収量が少なくなる。「湿気中根」は「水中根」に比べて,温度やpHなどの環境変化に適応できるといわれる。ここでは,根に対する温度の影響について,水中根と湿気中根を比較した結果について紹介する。

2.短期的な根域温度の影響

 まず,湿気中根と水中根において,短期間,根域温度を変えて栽培し,養水分吸収への影響を調査した。トマトを,気温35.0℃(昼)/22.5℃(夜)に設定した人工気象室において,アクリル製栽培ポットの中で水中根または湿気中根を伸長させた(図1)。

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 定植後10日目に,17℃,27℃,33℃,45℃の根域温度処理を12時間行い,養水分吸収の経時的な変化を調査した。根の吸水については,培養液タンクの重量を電子天秤により測り,減少量を吸水量とみなした。根の窒素吸収速度は培養液を流路の途中で採り,窒素濃度と液の重量から算出した。根の呼吸速度は,栽培ポット内に蛍光式酸素計(オートマチックシステムリサーチ製)を挿入して液中の酸素濃度と温度を計測し,酸素濃度の変化と液量から算出した。

 地上部の生長は湿気中根区と水中根区でほとんど変わらなかったが,根の生長は湿気中根区が水中根区よりも旺盛であった。根系当たりの吸水速度は,湿気中根区と水中根区に有意な差はなかった(図2)。

 単位根乾物重当たりの吸水速度は,いずれの温度処理においても水中根区で湿気中根区よりも大きかった。すなわち,水中根は湿気中根よりも吸水能が大きく,小さな根系で十分な吸水が可能である。一方,根系当たりの窒素吸収速度は,17℃から33℃までの処理では水中根区と湿気中根区の間に差はなかったが,45℃処理では湿気中根区で水中根区よりも大きかった。また,水中根区の呼吸速度は33℃までは根域温度が高いほど大きく, 45℃処理では27℃処理と同程度に小さかった。

 以上の結果より,17~33℃の範囲における根域温度の遠いは,少なくとも半日程度の比較的短期間の処理では,湿気中根および水中根の養水分吸収速度には有意な差異を及ぼさないことが明らかとなった。しかし,45℃の高根域温度では,水中根は湿気中根よりも養水分吸収速度の低下が大きかった。このように,水中根は湿気中根よりも短期間の高温遭遇のダメージを受けやすいことが明らかになった。

3.長期的な生育温度の影響

 次に,長期間にわたる生育温度の違いが,湿気中根と水中根の活性および形態に及ぼす影響について比較した。トマト苗を,低温(15℃),適温(25℃),高温(35℃)に設定した人工気象室内で,水中根あるいは湿気中根を形成させた。

 いずれの温度条件下においても,トマト植物体,とくに根の生長は湿気中根区で水中根区より旺盛であった。根の形態は画像解析により計測した。根をFAA溶液で固定し,染色した後,パソコンにデジタル画像を取り込み,画像解析ソフト(NIH image 1.6)を用いて計測した(図3)(巽,1995)。低温および高温において湿気中根区の方が水中根区よりも根長が大きかった(図4)。

 根系発達の指標としてフラクタル次元を計測した。フラクタル次元は,一般に,分岐が多く複雑に混み合って発達している根系で大きな値となる。低温および適温においては,湿気中根区が水中根区よりもフラクタル次元は大きかった(表1)。しかし,高温では水中根区の方が根長は小さいにも関わらず,フラクタル次元が大きかった。これは,高温により根の伸長が抑制され,短く太い側根が密に発生したためと考えられた。

 根の活性の指標として,出液速度と呼吸速度を測定した。出液現象は,蒸散があまり盛んではない夜や曇天日に根が地上部へと水を押し上げる力と考えられている。地際から約3cmの高さで茎を切断し,脱脂綿で採取した出液の重量から求めた(森田ら,2000)。出液速度は,低温および高温で湿気中根区が水中根区より大きかった(図5)。一方呼吸速度は,切断した根をO2アップテスター(TAITEC製)で測定した。呼吸速度は,25℃では水中根区で湿気中根区より大きな値を示したが,15℃および35℃では両者に有意な差は見られなかった。このように,呼吸速度は生育や出液速度と異なる傾向であり,呼吸速度が大きい根が活性の高い根とはいえない。

 以上の結果から,適温である25℃では,根系全体の呼吸速度および出液速度,根の長さや投影面積,フラクタル次元など,測定した全ての項目において,湿気中根と水中根の差はみられなかった。一方,生育に適さない温度である15℃と35℃では,湿気中根は,出液速度の大きさで示されるような高い生理活性を維持し,根長,高次の側根の発生など,根系の発達において水中根よりも優れていた。

4.おわりに

 このように養液栽培においても,根は環境変化に対して適応していることが分かった。しかし,一般にある環境下で形成された根は,その後の環境変化に対して形態や機能を容易に順応させえない。例えば,湿気中根を水中に入れるとまもなく枯死し,水中根を湿気中に露出させると,湿度が保たれる限り伸長するが,再び水中に戻すと枯死することが観察されている。

 一方,根に対する同化産物の分配量とストレスに対する適応性は,密接なかかわりがあると考えられた。湿気中根は,穏やかな水ストレスがかかり,根系はより多くの水を得るために大きく発達し,内部の組織も厚くなる(中野ら,2003)。この大きな根系は,温度ストレスに対しても有利にはたらき,根の機能が維持されたと考えられる。このように,根のストレスに対する適応の過程にはまだ不明な部分が多く,植物ホルモンの関与も含めた解析が必要である。

引用文献

●森田茂紀・岡本美輪・阿部淳・山岸順子.2000
 圃場で栽培したトウモロコシの出液速度と根量との関係.日作紀.69,80-85

●中野有加・中野明正・渡邉慎一・岡野邦夫・巽二郎.2003
 トマトの湿気中根と水中根の外部および内部形態の比較.園学雑.72,156-161

●巽二郎.1995
 フラクタル解析による根系分布パターンの定量的評価.日作紀.64,50-57

●山崎肯哉.1986
 養液栽培技術の発展経過と今後の方向.農及び園.61,107-114