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第576号 2006(H18).06発行

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農業と科学 平成18年6月

本号の内容

 

 

キュウリハウス抑制栽培の育苗ポット全量基肥栽培

長野県南信農業試験場 栽培部
研究員 木下 義明

Ⅰ はじめに

 果菜類は一般に栽培期間が長く,追肥回数を多く必要とし,施肥量は比較的多い。近年,農地に施用した肥料成分の地下浸透や流亡などによる,地下水や河川の汚染が懸念されている。また,施設栽培では連作が多く,吸収されなかった肥料は圃場内に残存して塩類が集積し,農作物の生育を阻害する事例も認められている。このため,キュウリなど施設果菜類の施肥量削減や施肥法の改善が求められている。

 そこで,環境への負荷軽減,施設土壌の塩類集積回避,追肥作業の省力化などを目的に,キュウリハウス抑制栽培においてスーパーシグモイド型の被覆肥料を用いた育苗ポット全量基肥栽培による減肥の可能性を検討した。

 キュウリの育苗ポット全量基肥栽培では,育苗中の肥料成分の溶出過多による生育障害の発生が心配であったため,育苗が最も高温期にあたっていて肥料が溶出しやすい抑制栽培について,平成13(2001)年~16(2004)年の4年間試験した。

 今回は,主として平成14(2002)年と16(2004)年の2ヶ年の試験結果を紹介し,4年間の結果を踏まえて考察をしてみたい。

Ⅱ 試験方法

【平成14年(2002年)】

 試験は,標高560m,淡色黒ボク土の場内パイプハウスで、行った。品種は穂木に’オナー’,台木に’ひかりパワー’を供試した。

 試験区は表1に示すとおり,
①スーパーシグモイド型の被覆燐硝安2401-100(24-1-0)で10gN/鉢をポット施肥し,リン酸とカリは本圃ヘ施肥した「Nポット10gN/鉢区」,
②被覆燐硝安2401-100で10gN/鉢と砂状ようりん(0-20-0)でリン酸をポット施肥し,カリは本圃ヘ施用した「N・Pポット10gN/鉢区」,
③スーパーロング424-S100(14-12-14)を用い10gN/鉢とした「N・P・Kポット10gN/鉢区」,
④基肥と追肥を配合肥料で15gN/株施用した「慣行施肥区」
を設けた。ポット施肥した試験区は,いずれも慣行施肥区に対して窒素成分で33%減肥した。区制は,1区3.64㎡の2反復とした。

 耕種概要は,穂木及び台木の播種は7月15日,ポット施肥及び接ぎ木(呼び接ぎ)・鉢上げは7月22日に行った。育苗ポットは,9.0cm黒ポリポットを用い,育苗土は場内慣行育苗土(畑土とピートモスを3:1で混合)を使用した。ポット施肥区の育苗土には,速効性の肥料は添加しなかった。定植は,8月2日にうね幅130cm×株間40cm(1,920株/10a)の栽植密度で、行った。土壌改良資材は7月17日に,稲わら堆肥2.5t/10a,炭酸苦土石灰100kg/10aを施用して耕起した。

【平成16年(2004年)】

 品種は,穂木に’エクセレント節成り’,台木に‘ゆうゆう一輝’を供試した

 試験区は表2に示すとおり,
①スーパーシグモイド型の被覆燐硝安加里2411-100(24-1-1)で10gN/鉢をポット施肥し,リン酸とカリは本圃ヘ施肥した「Nポット10gN/鉢区」,
②被覆燐硝安加里2411-100で10gN/鉢と砂状ようりん(0-20-0)でリン酸をポット施肥し,カリは本圃ヘ施用した「N・Pポット10gN/鉢区」,
③被覆燐硝安加里2411-100で10gN/鉢と砂状ようりん及びスーパーシグモイド型の被覆塩化加里-100(0-0-51)をポット施肥した「N・P・Kポット10gN/鉢区」,
④被覆燐硝安加里2411-100で7.5gN/鉢と砂状ようりん及び被覆塩化加里-100 をポット施肥した「N・P・Kポット7.5gN/鉢区」,
⑤基肥と追肥を配合肥料で15gN/株施用した「慣行施肥区」
を設けた。ポット施肥した試験区の窒素成分は,慣行施肥区に対しポット施肥10gN/鉢は33%減肥に,7.5gN/鉢は50%減肥に相当する。区制は,1区3.64㎡の2反復とした。

 耕種概要は,ポット施肥及び鉢上げは7月22日に行った。育苗ポットは,9.0cm黒ポリポットを用い,育苗土は場内慣行育苗土(畑土とピートモスを3:1で混合)を使用した。ポット施肥区の育苗土には,速効性の肥料は添加しなかった。鉢上げ苗は,購入した72穴セル成型接ぎ木苗を用いた。定植は8月3日に,うね幅130cm×株間40cm(1,920株/10a)の栽植密度で行った。土壌改良資材は7月27日に,牛糞堆肥2.5t/10a,炭酸苦土石灰100kg/10aを施用して耕起した。

【肥料の溶出調査】

 各試験年次において,供試した被覆肥料の溶出率を調査した。肥料の溶出調査サンプルは,1回当たり5g×3反復とし,育苗中は育苗ポット内ヘ,本圃定植後はマルチ下の土壌ヘ埋設して定期的に回収した。溶出の分析は,旭化成ケミカルズ(株)ヘ依頼し,クール宅急便にて送付した。

Ⅲ 試験結果の概要

【平成14年(2002年)】

 定植後の初期生育は,被覆燐硝安2401 と砂状ようりんをポット施肥したN・Pポット10gN/鉢区で,慣行施肥区に比べ展開葉数が多く,つる長が長く,生育が最も進んだが,葉の大きさはコンパクトであった。一方,スーパーロング424をポット施肥したN・P・Kポット施肥10gN/鉢区は,葉が大きく,葉色は濃くなり,育苗中の溶出がやや多く過剰生育気味の草姿を示した(表3)。

 上物の収穫本数は,慣行施肥区に比べポット施肥した試験区はいずれも多くなり,特にN・Pポット10gN/鉢区は,慣行施肥区より33%減肥したにもかかわらず,15%の収量増加が認められた(表4)。

 月別の上物収穫果数は,特に被覆燐硝安2401と砂状ようりんをポット施肥したN・Pポット10gN/鉢区で草勢が後半まで維持され,10月の後期の収穫果数が多くなり,肥料切れなどの症状は認められなかった(図1)。

【平成16年(2004年)】

 育苗完了時の生育は,慣行施肥区に比べ被覆燐硝安加里2411と砂状ようりんをポット施肥したN・Pポット10gN/鉢区および被覆燐硝安加里2411と砂状ようりんと被覆塩化加里をポット施肥して33%減肥したN・P・Kポット10gN/鉢区で,展開葉数が多く,つる長も長く,生育が促進した(表略)。

 定植後の初期生育は,育苗完了時の生育と同様,特にN・Pポット10gN/鉢区およびN・P・Kポット10gN/鉢区で生育が促進した。その他のポット施肥した試験区も,慣行施肥区に比べて全般に生育が促進した(表5)。

 上物収量は,慣行施肥区と比べポット施肥した試験区はいずれも同等以上を示し,特にN・P・Kポット10gN/鉢区は33%減肥しても15%増収した。N・P・Kポット7.5gN/株区は,慣行施肥区に対して50%減肥したのにかかわらず,同等の収量が得られた(表6)。

 月別の上物収穫果数は,慣行施肥区と比べいずれのポット施肥した試験区も,収穫期間を通じて安定した収穫ができ,収穫後半の肥料切れなどは認められなかった(図2)。

【肥料の溶出調査結果】

 平成13年及び14年の被覆燐硝安2401-100とスーパーロング424-100の窒素成分の溶出は,被覆燐硝安2401がスーパーロングに比べ初期の溶出が低く抑えられて30~40日以降に多くなり,施肥から100日後に約80%が溶出し,2ヶ年ともほぼ目標とする溶出パターンを示した(図3)。

 平成15年及び16年の被覆燐硝安2401-100,被覆燐硝安加里2411-100,被覆塩化加里-100の窒素及びカリ成分の溶出は,施肥して10~15日後まではかなり低く抑えられて30~40日以降に多くなり,施肥100日後には80%前後が溶出し,2ヶ年ともほぼ目標とする溶出パターンを示した(図4)。

Ⅳ 考察

 以上の結果から,キュウリハウス抑制栽培における育苗ポット全量基肥栽培は,慣行栽培と比べ33~50%減肥しても同等以上の上物収量が得られ,追肥作業の省力や滅化学肥料の観点から有効と判断した。

 4年間の試験結果からポット施肥の方法は,生育・収量や作業性などからN・P・Kの三要素全てをポット施肥するのが良いと考えられた。

 ポット施肥の肥料は,スーパーロング424は育苗中の溶出が多過ぎるため,窒素はスーパーシグモイド型の被覆燐硝安加里2411-100を,リン酸は国産の砂状ようりんを,カリはスーパーシグモイド型の被覆塩化加里-100を用いるのが良いと判断した。リン酸については,平成15年(2003年)に粒状ようりんの利用を試みたが,育苗中に落下傘葉が発生するなど生育障害の発生が認められたため,国産の砂状ようりんを使用するのが望ましいと考えられた。

Ⅴ おわりに

 本施肥法は,長野県のキュウリハウス抑制栽培地域を対象に,平成17年度提案の新しく普及に移す農業技術として公表した。本県では特にキュウリなど果菜類の育苗は分業化が進んでおり,農家では野菜種苗センター(JA全農長野)で生産した接ぎ木苗を購入するケースが増えている。本施肥法の普及に向けては,ポットへの施肥をどこの段階で行うかがポイントになる。野菜種苗センターで生産されたセル成型接ぎ木苗は,各]Aの育苗センターで鉢上げ・二次育苗され,農家に配布されるケースが多い。そこで,この鉢上げ段階においてポット施肥するシステムが確立できれば,普及に拍車が掛かると思われる。

 平成17年度からは,本県キュウリの主力作型である夏秋どり栽培への適用拡大を図るため,試験を開始した。夏秋どり栽培は,抑制栽培より低温期の育苗で,しかも溶出期間が長い肥料を用いる必要があり,初期の肥効が不足する傾向が認められた。そこで,平成18年以降は初期の肥効を高める方法について検討する予定である。栽培期間が長い夏秋どり栽培では,抑制栽培よりも必然的に追肥回数や全体の施肥量が多くなる。このため,追肥作業の省力化や環境負荷低減などの観点から,より高い注目を集めている。

 

 

北海道における施肥(3)
-昭和期-

(財)北農会
会長 関矢 信一郎

施肥栽培への移行

 昭和に入っても北海道の耕地は拡大を続けた。年当りの増加面積こそ大正期の5万haに比べ,3万haと少なくなったものの,昭和15年には98万haに達した。

 この増加分は,釧路,根室地域と既耕地の周辺部などで,火山灰地,泥炭地,重粘地など条件の悪い地帯が多かった。これらの土地では開墾の当初から地力が低く,土地改良も必要な所が多かった。一方で,化学肥料や資材も普及しつつあった。しかしながら,依然無肥料栽培が多かったと推定される(表1)。

 無肥料耕地は全道でみると,昭和元年から10年にかけ急減している。地力が低かった畑地での施肥増が読みとれる。支庁でみると新開地の多い釧路14%,根室53%,留萠27%などが,昭和10年には10%以下となっている。

 大正末期から畑地の地力対策の一つとして水田化が進められた。水田化により,養分供給増と地力維持が可能と認められたことによると思われる。表1からも,畑地の減少と水田の増加が認められる。

施肥実態

 農林省は,大正末から各県の農業試験場を通じて全国の施肥状況の調査を行なっている。昭和7~8年の調査結果の一部を表2に示した。

 窒素質肥料としては従来の魚粕・大豆粕に加えて化学肥料の硫安・石灰窒素・智利硝石などが追肥を中心に使われはじめている。燐酸は過石が明治末以来ほぼ同量施用され,加里には硫加,塩加が登場している。

 府県との比較を水稲について表3として掲げた。昭和8年分には施肥量の平均値がないので最小~最多で示した。

 北海道の特徴をまとめてみると
①窒素・加里は全国の最低値に近い
②燐酸は全国平均より多い
③追肥が無い

 他に①自給肥料の比率が高い②昭和4年に比べ全国では減少傾向にあるが北海道では増加しているなどが認められる。因みに当時の収量水準は200kg/10a程度である。

施肥標準

 昭和10年,北海道農事試験場は各作物の標準施肥量を土壌別(普通地・火山灰地,泥炭地)に示している。その一部を表4に掲げた。普通地(沖積地)に比べ火山灰地や泥炭地では,窒素(硫安)・燐酸(過石)で1貫目/反程度多く,加里は泥炭地では水稲にも硫加2貫目/反施用されている。成分に換算すると水稲では,N 6.5-P2O5 4.5-K2O 3.7kg/10a程度となる。

 これは前掲表2の農家慣行よりやや多めで,化学肥料も取り入れられている。化学肥料は大豆粕など有機質肥料との混用を奨めている。

肥料費の削減

 北海道は肥料の施用量は府県に比べ少ないとされているが,昭和に入ると購入肥料費が生産費の2~3割,時に5割にも及ぶようになった。

 農事試験では購入肥料費の低減を図るため,「肥料の肥効価とその算出法」を公表している。

 これは①標準肥料(硫安・過石・硫加)の成分当りの標準価格,②対照肥料の含有成分価格の標準肥料に対する増収率,③廉価率の算出,によって増収効果に対する価格の最も廉い肥料を選択しようとするものである。表5に窒素質肥料の例を掲げた。結局,硫安が最も廉いことになるが,これは燐酸の過石,加里の硫加についても同様である。

地力対策

 北海道の耕地,特に畑地では開墾後数年から地力の低下が著しくなり,過石や魚粕,大豆粕の施用により凌いで来た。農事試験場は明治末から堆肥など有機物の施用を奨励していたが,面積の割に資源が乏しく限界があった。

 昭和に入り,畜産の振興と甜菜など根菜類の作付拡大(表6)と家畜飼養頭数の増加により,堆厩肥の生産量は増大した(表7)。すなわち,甜菜などでは20cm以上の深耕が望ましく,このためには2頭曳きのブラウが必要で,各農家は3頭以上の馬を飼育する様になった。この増加分だけ厩肥の生産量が多くなった。

 表7に示す様に反当生産量は年々増加して,昭和15年には元年の2倍の100貫に達した。しかし,これでも目標としていた水田200貫,畑地300貫には足りず,生産地の偏在を考慮すれば,不足の状況は続いた。

 一方の有機物資源である緑肥については,明治期から導入が図られたが,普及しなかった。大正末期に試験場の試験結果がまとまり,積極的に導入された。主な作目は,コモンべッチ,赤クロバー,緑肥大豆で,麦類にはコモンベッチ,赤クロバー,亜麻には赤クロバーの間作や混播が広く普及した。利用面積は昭和10年以降1万5千町歩前後となった。

戦時下の施肥

 昭和に入り増え続けていた北海道の金肥消費量は,昭和14年の「肥料配給統制規則」による割当制が始まると急変する。北海道に対する割当は,統制直前の13年の20.3万tから15年19.7万t,17年13.1万t,19年4.1万tとなる。割当肥料のうち輸入原料によっていた燐酸・加里の減少が著しく,燐酸多肥によっていた北海道の畑作物は大きな影響を受けた。

 この時局にあたり,農事試験場では自給肥料の増産を呼びかけた。副産物の利用,堆厩肥の増産,緑肥の作付奨励などである。しかしながら,戦時下の労働不足から生産はそれ程伸びず,昭和13年の400万tから19年の465万tにとどまった。

 また,施肥の合理化・節約も図られ,自給肥料中心の施肥体系も策定された。例えば,水稲の場合,堆肥が200貫/反から300貫/反となり,大豆粕が硫安に替っている。

 更に,石灰施用,焼土,乾土など潜在地力の活用も奨励された。

 しかし,これらは実効は少なく,大戦末期-戦後はほとんど無肥料に近い状況になった。

 

 

のり面緑化工の変遷について[1]
-のり面緑化と肥料設計-

エコサイクル総合研究所
中野緑化工技術研究所
中野 裕司

1.はじめに

 「農業と科学」誌にのり面緑化についてなにか書くようにとの依頼を受けました。

 「のり面緑化」という特殊な世界に約30年間身を置き,自然斜面を切り開き,緑と土壌をはぎ取り造成した急勾配人工斜面であるのり(法)面を,再び緑で覆うということを仕事としてきました。その「のり面屋」が農業に関する月刊誌に記事を書こうとしているわけですから,とまどいを感じております。

 このため,まずは,同じ植物を扱うと言う点では共通点があるわけですから,この点を足かがりとして,共通点と異なる点について明確にするところから始め,のり面緑化の具体的な技術について歴史的な変遷,植物材料の変化などを通じて語ってゆこうと考えております。

2.我が国の自然条件

 農業に限らずのり面緑化も植物を取り扱う技術ですから,自然条件に順応した取扱いを行うことが基本となりますので,大雑把に我が国をとりまく自然条件について整理し,のり面緑化工について語るための伏線といたします。

 我が国の自然条件は,地球規模で見るならばかなり特殊といえます。

 気候的には,アジアモンスーン地帯の東端に位置し,高温多雨・四季折々の季節の移り変わりが特徴です。植物の生育に対し重要な降水は,菜種梅雨,梅雨,秋霖,及び台風などによりまとまった雨として供給されます。この雨により,我が国の植生は豊かな森林が形成されることとなりますが,一方では集中豪雨や台風などにより土砂災害が発生する原因となります。恵と災いは裏表と言うことでしょうか? のり面緑化工は,土砂災害の発生を抑止するために実施された山腹工・砂防にその淵源をたどることができます。

 地質的には,ユーラシアプレートと太平洋プレートの接点,いわゆる沈み込み帯と称される部分に位置するために,火山活動が活発で起伏が激しく,地盤はもみくちゃにされ,ひび割れだらけといえます。古事記・日本書紀では「おのころ島」と称されておりますが,日本列島が二つのプレートに挟まれ,その上を転がっているというイメージがよくあらわされているものと感心してしまいます*1。このような複雑な地賀状態のなかで両プレートに圧されたエネルギーの解放現象として中越地震などの大地震が発生する訳です。

 このような割れ目の多い地山状態となっておりますから,開発を行う上でも防災面に対する配慮が必要となります。のり面緑化工は,防災工事の一つとして開発・実施されてきました。

3.のり面・のり面緑化とは

 のり面とは,各種開発工事により,自然が培ってきた植生をはぎ取り造成した人工的な斜面を言います。

 我が国の地形は地質状態が反映され,急峻な脊梁山脈の周辺に丘陵がつらなり,国土面積の約70%が山地・丘陵です。このため,山地丘陵部に対する農地造成を始めとする新たな開発は,山地・丘陵部を切り開き平坦地を作り出すことから始まります。この平坦地を作り出すときにのり面が造成されるわけです。自然斜面を急勾配に切り取り,切り取った土砂で谷側斜面を埋め,切り盛りすることで平坦地を造成します。

 このとき生ずる山側の人口斜面と切土のり面,谷川を盛土のり面と称します。当然,切土のり面は山腹を切り開くため硬質となります。盛土のり面は,切土により発生した土砂・岩砕を締め固め作られることになります。いずれも,地山そのものですから,貧養なやせた土壌・岩と言うことになります。

 のり面の勾配は経験的に定めた「標準勾配」によっておりますが,切土の場合,高さがおおむね15~20m以上を長大切土のり面,盛土の場合おおむね15m以上を高盛土と称し,長大のり面・高盛土に対しては標準切土勾配を適用することを避け,安定計算によって求めます。なお,勾配は,縦(垂直)のラインを基準として表現し,縦の長さ1に対し,横(水平)の長さが1の場合を1:1と示し,一割と称します。角度で言うならば45度です。密実な土砂の場合は,一割り程度が切土勾配となります。岩盤となるとこれよりも急勾配とすることができ,1:0.8などと表記し,八分と称します。道路勾配などは横を基準とする%で表現しますが,のり面勾配は縦のラインを基準とする東洋的な表現を用いるという点で興味深いものを感じます。

 のり面緑化は,このようにして造成された急勾配で硬質,かつ,貧養な人工斜面の表面を緑で覆い,侵食の発生を防ぎ,地山の安定を保つという防災的な観点から実施されるものです。

 このような観点から行われる処理をのり面保護工と総称しますが,コンクリートなどを用い構造物によりのり面保護を行う方法と植物を用いた方法に分けられます。コンクリートを用いた方法は,強靭ですが比較的高価となるために,地山が不安定な箇所,防災面からみて重要な部位に対して実施されます。のり面緑化工は,地山そのものが自立安定している箇所に対し用いるもので,大面積を安価に侵食防止することを目的として用いることが一般的なものでしたが,現在では景観回復,生態系の修復までを視野に入れることが求められております。

 のり面緑化工は,傷つけた自然斜面に応急処置として緑の絆創膏を貼り付けるイメージ,というとわかりやすいかもしれません。森林などが成立する自然斜面を傷つけた場合,そのまま放置しておくならば傷口が広がってしまいますから,絆創膏を貼り付け,その後は,自然治癒力に任せようということがのり面緑化の基本的な考え方です。時間の経過と共に周辺植物社会から植生が侵入することにより植生遷移が始まり,生態系の回復が行われます。のり面をできる限り短期間に緑で覆い,その後は自然の流れにゆだねる気長な作業と言えます。

4.農業とのり面緑化の遣い

 農業は,食料生産を主目的とするものと理解しております。すなわち,植物の特定部分を食料・飼料,あるいは観賞用などの利用を目的として生産するもので,そのため,いかに効率的に生長させるかということを至上命題として実施するもので,その目的のため土づくりと共に化学肥料などを用いた肥培管理が行われるものと理解しています。生産という目的に対し,もてる技術を集約し対応しようとするスタンスといえます。

 これに対し,のり面緑化は,生産性の向上を目的とする農業的な観点はなく,周辺景観になじませ,とけ込ませるという景色づくりの観点,ひいては生態系の回復・保全という観点がから作業を行うことが重要となってまいります。

 同じ植物を取り扱うものですが,農業とのり面緑化と最も大きく異なる点は,生産という点の他にも植物そのものの取り扱いの期間などさまざまな遠いがあります。(表1)

 この中で生産に大きく係わる肥料設計・肥培管理の点から見てゆくことといたします。

5.のり面緑化工の肥料設計

 農業における生産性は肥料革命により格段に向上したことは,これまで高橋先生がこの誌上で詳述しております。

 のり面緑化工は,戦後の高度成長にともなう機械化施工による大規模造成の中で出現した技術ですから,技術体系の中に最初から化成肥料による施肥技術が組み込まれております。しかし,その考え方は農業とは大きな違いがあります。

 農業では,作物毎にその肥料要求度が異なるため,肥料設計と基肥,追肥のタイミングである肥培管理が重要な技術になっているものと考えております。また,作物に対し最適な施与を行なうために土壌分析,植物体養分分析などを行い,適正な肥料設計を行うことが基本だと考えます。

 のり面緑化では,地山を掘削した新鮮な土・地山に対して緑化するものですから,最初から土壌養分は存在しません。このため,土壌分析を行う目的は,植物の生育に対し障害となるものが無いかの確認を行うためのものとなります。

 たとえば,酸性硫酸塩土壌のような特殊な土壌の場合は,pH3.5以下,著しい場合はpH1という極々強酸性*2となります。また,浚渫盛土の場合,海水中の塩分,ナトリウムが大量に含まれたまま盛土されますから塩類土壌が出現することになります。

 このような特殊な土壌に対し,何の手だてもしないで緑化を行うと生育障害が発生することとなります。したがって土壌分析を行う目的は,土壌中の養分含有量の確認というよりも,生育障害物質の存在の有無を確認するという観点から実施することとなります。

 のり面緑化の肥料設計は非常に乱暴です。切土・盛土中に養分が存在しないこと,追肥を行わないことを前提として施肥設計を行います。のり面は急勾配であり,かつ比較的大面積に及ぶために,施工後,追肥を行うことが困難なためです。このため,植物が生育障害を発生しない最大量の窒素分を基肥として投与することを基本とします。この場合,最大量とは,導入植物の根系が耐えることのできる最大濃度ということで,窒素成分量でしめすと10g/㎡程度となります。

 最も単純なのり面緑化工である種子散布工を例にとると,基本的に高度化成肥料15:15:15を用いるために,その施肥量は10g÷0.15=67g/㎡となり,オール15の高度化成肥料を10aあたり67kg,播種とともに用いると言うことになります。通常は,これに急勾配や降雨によるロスを30%程度上乗せしますから,90kg/10a近い化成肥料を一度に散布することになります。

 水稲における慣行的な肥料設計は,元肥を窒素成分量3~5kg/10a,穂肥を1~2kg/10aを2回とし,都合3回に分けて行う施肥体系のようです。仮に,窒素成分量で10kg/10aとすると,年間の施肥量はロス分を除くならばのり面緑化と同等と考えられますが,のり面緑化を行う場合,水稲では三回に分けて散布する肥料を,一度に散布してしまうわけです。

 大規模造成が盛んに行われ,のり面緑化工が一般化しだした昭和30年代末には,こんなに化成肥料を使う業界があったのかと,ある肥料会社がのり面緑化業界に進出し,昭和40年代中頃には肥料の製造を止め,のり面専業者となったというエピソードがあるくらいです。

 これが昭和30年代に考案されたのり面緑化に対する肥料設計の基本的な考え方ですが,緩効性肥料や被覆肥料の開発などにより,速効性の化成肥料と緩効性肥料を併用するなどの工夫がなされ現在に至っております。

 水稲は,これとは逆に,高齢化による影響が大きいものと考えておりますが,省力化のために被覆肥料など窒素成分の溶出を調整できる緩効性肥料を用い,基肥(元肥)として一度に必要な窒素成分量を施用し,基肥以外に施肥を行わない全量基肥(元肥)施肥法などの技術が開発されています。環境保全型農業の一環として行われているようですが,省力化というキーワードのもとで,農業もまた土木的になってきたのかなと言う感を持っております。

以上

注)

*1 「おのころ島」は,言葉の綾から類推したイメージです。一般の解釈とは異なります。

*2 極々強酸性土壌という用語は,土壌学には無いものとおもわれますが,のり面ではかなり出現するために土壌学で言う極強酸性の領域では扱えないため,私が新たに作り出したものです。

参考文献

1)土木学会斜面工学小委員会編:知っておきたい斜面の話Q&A-斜面と暮らす-,2005

2)日本道路協会編:道路土工-のり面工・斜面安定工指針,1999

3)http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/070101/dojouhiryou/sakumotu8.htm

4)http://www.pref.nara.jp/nogyos/nousou/nohp-top/pdf/115/11504.pdf