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第613号 2009(H21).11発行

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農業と科学 平成21年11月

本号の内容

 

 

「幸水」の被覆尿素を用いた局所施肥

長野県南信農業試験場 栽培部
主任研究員 塩原 孝

1.はじめに

 日本ナシ「幸水」は,全国のナシ生産量の約3割を占める主要品種だが,各産地とも高樹齢化にともなって生産量が低下してきており,その生産力回復が急務となっている。平成10~14年に長野県,茨城県および埼玉県の3県共同で,土壌・施肥管理やせん定の改善による増収対策に関する試験に取り組み,窒素施肥配分の解明,根量増加技術などの成果を得た。
 しかし,生産現場で増収や大玉化を目的として慣行的に行われていた窒素多施用を改善するまでには至らなかった。当時の実態調査によると,長野県の窒素施肥量は10a当たり約29kgと県施肥基準の約1.6倍も多かった。慣行的な施肥方法である全面表面施肥では,草生による吸収が多いなど施肥効率が低く,必ずしも増収は見込めず,むしろ余剰窒素による地下水の硝酸性窒素汚染など環境への悪影響が懸念された。

 そこで,環境への負荷を軽減しながら,慣行と同等の果実収量,品質および樹体生育を維持できる窒素施肥法の開発が求められた。長野県では,平成16~18年にかけてナシ「幸水」成木樹に対し,窒素施肥量を慣行施肥の50%に削減することを目標として,肥効調節型肥料を用いた局所施肥法について検討した。

2.試験方法

 県の施肥基準あるいは農家慣行施肥を対照(全面施肥区)とし,2つの局所施肥法について,試験場の場内圃場(A及びB圃場:淡色黒ボク土・草生管理)で平成16年から3カ年,現地圃場(H圃場:褐色森林土・草生管理,K圃場:淡色黒ボク土・清耕管理)で平成17年から2カ年試験を行った。

(1)局所施肥法①:部分深耕施肥

 試験開始時に主幹から2~2.5m離れた4方向に1.2~1.5m間隔でホールディガーにより直径30cm,深さ50cmの穴を開けた後,堆肥を混和して埋め戻した(写真1,表1)。

 基肥は,各穴の表層10cmにリニア型50日タイプの被覆尿素LPコート50(LP50)を施用し,混和後埋め戻した。試験2年目以降も同部位にLP50を施肥した。9月肥は,硝安を主幹周辺の幅1.5~2mの環状に部分深耕部が入るように表面施用した。

(2)局所施肥法②:表面局所施肥

 基肥および9月肥に,場内B圃場と現地K圃場では,主幹から1m離れた位置から幅2mのドーナツ状に,現地H圃場では,主幹から0.5m離れたい位置から幅1.5mのドーナツ状に表面局所施肥した(写真2)。基肥にはLP50 を,9月肥には硝安を用いた。

(3)試験区の構成

 両局所施肥とも基肥時のLP50の窒素量は,全面施肥の基肥と9月肥以外の追肥の合量の50%とした。また,9月肥の硝安の窒素量も全面施肥の50%とした(表2,3)。

3.局所施肥に用いた被覆尿素の溶出パターンの検討

(1)部分深耕施肥

 試験期間中,毎年12月中旬に場内圃場清耕部の深さ5cmにLP50の2.5gをネットに包み埋設し,翌年9月まで1ヶ月毎に回収,残存窒素量を測定して溶出経過を調べた。

 平成16年度に,溶出タイプの異なる被覆尿素4種類の溶出経過を比較したところ,LP50が3~6月の溶出率が高く,先に明らかになった「幸水」の窒素吸収特性に適すると考えられた(図1の左上,LP50溶出)。

 平成17年度のLP50の溶出経過は,3月に約5%と前年の25%に比べ低かったものの4~7月は毎月12%前後と安定した溶出が見込まれた(図2)。平成18年度もLP50で4~7月に毎月10~20%程度の溶出が認められた(図2)。

 以上の結果から,3ヶ年を通じてLP50は部分深耕施肥の基肥施用に適する溶出パターンを有すると判断された。

(2)表面局所施肥

 平成16年度及び17年度に,12月中旬に場内圃場の清耕部及び草生部の表面にLP50をネットで包み設置し,部分深耕施肥と同様に翌年9月まで1ヶ月毎に回収,残存窒素量を測定して溶出経過を調べた。
 その結果,表面施用されたLP50の溶出は,両年度とも清耕部,草生部ともに55~6月を中心に多くなり,追肥を行うのと同等の効果が得られ,「幸水」の窒素吸収特性に適すると判断された(図3)。

4.局所施肥がナシの収量,樹体生育等に及ぼす影響

(1)樹冠1㎡当たりの収量および着果数

 部分深耕施肥では,A圃場において1年目に樹のばらつきが大きかったが,3圃場とも試験期間を通して全面施肥区と有意差はなかった(図4-1,3,4)。表面局所施肥では,平成18年の現地K圃場で全面施肥区より果実収量が有意に低くなったが,他の試験圃場では差はなかった(図4-2,3,4)。

(2)果実品質

 部分深耕施肥,表面局所施肥とも,全圃場,全試験期間を通じて対照の全面施肥と差は認められなかった(図表省略)。

(3)えき花芽着生率

 平成18年の現地K圃場を除き,部分深耕施肥と表面局所施肥のえき花芽着生率は全面施肥と有意差はなかった(表4)。

(4)側枝先端の新梢長

 場内圃場において側枝先端(長果枝,短果枝含む)新梢長を調査したところ,部分深耕施肥,表面局所施肥とも全面施肥と差はなかった(図表省略)。

(5)満開40日後の葉中窒素含有率

 一部の年次で差がみられたものの部分深耕施肥,表面局所施肥ともに全面施肥とほぼ同等であり,窒素を50%削減したことによる影響はないと考えられた(表5)。

(6)根量

 場内圃場では試験2年経過後,現地圃場では試験1年経過後に局所施肥部位の根重量を測定した。
 その結果,部分深耕施肥の深耕部では,いずれの圃場においても直径1mm未満の根量が全面施肥より多かった。逆に,直径1mm以上の根が少なかったが,これは深耕の際に太根を切断するためと考えられた(表6)。

 表面局所施肥では全面施肥と有意差はなかったが,直径1mm未満の細根がやや多い傾向があり,処理の継続により表面局所施肥部位直下に根が多くなる可能性があった(表7)。

(7)

 以上のことから,局所施肥法により年間の施肥窒素量を50%削減しても,「幸水」の果実収量・品質及び樹体生育は,3年程度は慣行施肥とほぼ同等に維持できると判断された。
 また,部分深耕施肥では深耕部に明らかに直径1mm未満の細根が多くなり,表面局所施肥でも施肥直下に細根が多くなる可能性があった。

5.3年経過後の土壌可給態窒素量

 部分深耕施肥では,深耕部穴内は明らかに可給態窒素が多かった。窒素無施肥部の穴外では全面施肥よりやや少なかったが,圃場内のばらつきの範囲内と判断された。表面局所施肥では窒素施肥部と無施肥部の間に差はなかった(表8)。3年程度では窒素無施肥部における可給態窒素量の低下はないと考えられた。

6.深さ1mの土壌(10cm厚)中に存在する土壌溶液中硝酸態窒素量の試算

 同一圃場の試験区間の土壌溶液量を同量と仮定して,局所施肥部および無施肥部の深さ1mにおける土壌溶液中硝酸態窒素濃度と施肥部位の面積から厚さ10cmの土層の土壌溶液中に存在する硝酸態窒素量を試算すると,部分深耕施肥では,現地2圃場とも6月までは全面施肥より少なく,6月以降は同等の傾向であった(図5)。

 表面局所施肥においても同様の傾向が認められ,3圃場とも冬季から初夏にかけて全面施肥より少ない傾向であった(図6)。このことから,両局所施肥により,深さ1mより下層ヘ移行する硝酸態窒素量は全面施肥より少なくできる可能性が示唆された。

7.肥料代の試算

 場内B圃場の試験設計に基づいて表面局所施肥における肥料代を試算した。表面局所施肥区のリン酸およびカリの量は,対照の全面施肥区の有機入り化成に揃え,それぞれ10a当たり8.4kg,11.2kgとし,粒状過りん酸石灰および塩化加里で施用した。
 結果,表面局所施肥区の肥料代は単価の高い被覆尿素を使っても,10a当たり8,883円となり,全面施肥区(13,580円)の65%に抑えられ,肥料代節減にも効果が認められた(表9)。

8.まとめ

 ナシ「幸水」成木樹に対し,2つの局所施肥法(部分深耕施肥,表面局所施肥)を検討したところ,窒素施肥量を慣行施肥の50%に削減しても,果実収量・品質,樹体生育等を慣行施肥と同等に維持しつつ,環境への負荷を軽減できると考えられた。
 また,場内圃場の施肥設計で試算した表面局所施肥区の肥料代は,全面施肥区の65%に抑えられた。
 ただし,両局所施肥法とも試験期間が2~3年と短いため,長期間の施用効果についてはさらに検討が必要である。

参考資料

●長野県南信農業試験場他:
 早生ナシ「幸水」の施肥効率向上とせん定改善のよる多収生産技術の開発,
 先端技術等地域実用化研究促進事業(農林水産新技術実用型)研究成果報告書,2003

 

 

肥効調節型肥料を利用した
リンドウ株養成期間の低コスト施肥法

宮古農業改良普及センター
岩泉普及サブセンター
農業普及員 葉上 恒寿
(前 岩手県農業研究センタ一 環境部 生産環境研究室)

1.はじめに

 岩手県は全国のリンドウ出荷量の6割以上を生産する産地である。リンドウの露地栽培では,通常定植後2年間の株養成期間を経て3年目から本格的な採花を開始するが,これまでの試験から,定植1年目の窒素吸収量が施肥量をかなり下回ることが示唆されており,株養成期間における減肥の可能性が期待されていた。
 また,定植2年目以降の追肥作業では,マルチを部分的に除去するなど施肥作業に手間が掛かり,更にマルチの破損による耐用年数の低下や,マルチを除去した部分からの雑草発生が問題となっていた。
 これらのことから,マルチを除去せずに,肥効調節型肥料を用いて定植時に株養成期間2年分の肥料を投入する省力的な施肥法を検討した。

2.肥効調節型肥料の選定

(1)試験方法

 定植1年目のリンドウ地上部の窒素吸収量を把握するため,リンドウ生産の盛んな県北部のH市農家圃場(黒ボク土)および、県中南部のO市農家圃場(グライ低地土)で調査を行った。供試品種はともに早生品種である「安代の夏」および「キュースト」を用いた。施肥は一般的に用いられるりんどう一本勝負[(15-10-12),現物量80kg/10a,H市],りんどう専用肥料[(15-16-12),現物量67kg/10a,O市]を施用した。さらに,株養成期間の窒素吸収量に見合う最適な肥効調節型肥料を選定するため,LPコート180(LP180),LPコート270(LP270),LPコートS200(LPS200)およびロング424-270(ロング270),ロング424-360(ロング360)を用いて,地温データから窒素溶出量を試算した。

(2)結果

 定植1年目(地上部生育期間終了後)の窒素吸収量は1kg/10aにも満たず,現行の窒素施肥量である10kg/10aは過剰であることが示唆された(図1)。

 各肥効調節型肥料の窒素溶出量の試算では,施肥1年目は,LP180>ロング270>LP270>ロング360>LPS200の順に高い溶出ピークとなり,施肥2年目は,LPS200以外は定植1年目より更に低い溶出ピークとなった(図2)。

 リンドウは,定植1年目の生育量は小さく,定植2年目以降に生育は旺盛となる。LPS200の場合は,施肥1年目の溶出ピークに比べ,施肥2年目の溶出ピークが高かったことから,生育量に応じた施肥にはLPS200が適当であると考えられた。

3.現地試験

(1)試験方法

 LPS200を用いた現地圃場試験を2006~2008年の3年間実施した。試験地供試品種は2と同様である。なお,LPS200単体では,定植1年目の窒素吸収量に対し,窒素溶出量が不足することが考えられたため,窒素比率を,LPS200 85.6%,ポリ燐安12.4%,硫酸カルシウム2.0%とし,窒素15%,リン酸10%,カリ10%のLPS200配合肥料を作成,供試した。対照区にはそれぞれの地域で一般的に使われるりんどう一本勝負(15-10-12),りんどう専用肥料(15-16-12)を用いた。試験区はLPS200配合肥料を定植時のみに施肥し,窒素成分で①慣行と同量(LPS),②慣行25%減肥(25%減肥),③慣行50%減肥(50%減肥)の3処理区を設けた(表1)。

 更に,埋設試験により,両試験圃場における供試肥料の実際の窒素溶出率の推移を調査した。
 また,定植3年目は,各区とも共通の追肥を実施し,採花初年目の品質への影響を調査した。

(2)結果

 株養成期間における定植1年目の地上部新鮮重は,H市農家圃場では25%減肥区が慣行に比べやや劣るものの,LPS区では慣行と同等,50%減肥区はむしろ慣行よりも優る結果となった。O市農家圃場においては,全ての試験区において慣行区に優り,施肥窒素量に応じた重量となった(図3)。

 定植2年目の草丈は,H市農家圃場ではLPS区,25%減肥区が同等で,ともに慣行区に優り,50%減肥区は慣行区と同等だった。O市農家圃場でもLPS区,25%減肥区が同等で,ともに慣行区に優ったが,50%減肥区は慣行区より劣った(図4)。

 両試験圃場ともに新鮮重も同様の結果となり(データ省略),2年間の窒素吸収量もLPS区,25%減肥区において慣行区と同等かそれ以上の結果となった(図5)。

 供試肥料の窒素溶出率は,施肥翌年の春(施肥300日後)までにおよそ15%が溶出し,生育が旺盛となる施肥翌年の秋(施肥480日後)までにはおよそ90%が溶出した。これは地温データからの推定結果に近いパターンとなった(図6)。

 次に,定植3年目の生育は,H市農家圃場ではいずれの試験区も慣行区を上回り,O市農家圃場ではLPS区および25%減肥区が慣行区と同等だった(表2)。

 また,品質面では,花段数はいずれの試験地,試験区とも慣行区と同等以上(図7),出荷規格に占める高規格品の割合は特にLPS区,25%減肥区が高く,慣行区以上であった(図8)。

 以上のことから,LPS200を用いる配合肥料により,リンドウの株養成期間の窒素施肥量は,慣行の25%減肥して定植時1回の施肥が可能であり,その場合肥料費は最大で29%削減できることが示唆された(表3)。

 なお,LPS200配合肥料を慣行の50%減肥した場合については,定植2年目の生育量の確保や窒素収支面(データ省略)に課題が残ることなどから,さらに検討が必要である。

4.まとめ

 この肥料は「りんどう定植2年肥料」(窒素15%・リン酸10%・カリ10%)として岩手県内で市販されており,平成20年度の定植面積の約85%で導入されている。今後は,導入された圃場での生育経過等を観察しながら効果の検証を行うとともに,定植3年目以降の施肥法について検討を進めることによって,株養成から採花を通じた省力的な施肥体系の確立が期待される。