農業と科学 平成22年10月
本号の内容
§肥効調節型肥料の連用がアスパラガス露地長期どり栽培の収量に及ぼす影響
山形県最上総合支庁産業経済部
農業技術普及課産地研究室
岡部 和広
§肥効調節型肥料とハンモック式栽培槽を組み合わせたイチゴ低温力ッ卜栽培
岩手県農業研究センター
技術部 南部園芸研究室
主任専門研究員 藤尾 拓也
山形県最上総合支庁産業経済部
農業技術普及課産地研究室
岡部 和広
山形県では,水田畑地化による園芸の新産地形成を推進してきた。試験研究機関の農業研究研修センター中山間地農業研究部(現 最上総合支庁産業経済部農業技術普及課産地研究室,以下,産地研究室とする)では,土地利用型園芸作物のアスパラガスに着目し,定植2年目から1t/10a以上収穫可能な「アーチパイプを利用したアスパラガスの全期立茎栽培」技術を2002年に開発した(図1)。

2004年からは本県北東部に位置する最上町において導入が進み,新産地が形成されている(図2)。

アスパラガスは窒素成分を多く必要とする作物で,露地長期どり栽培では4月から8月にかけて約5回(多い人では10回)に分け,計50kg/10a程度の施肥をしている事例が多い。しかし新産地形成にあたっては,省力化による規模拡大や,環境に配慮した栽培法による付加価値化を推進してきた。今回は基肥で肥効調節型肥料を施用後に堆肥でマルチングする施肥法を,定植2年目から4年目に継続したときの収量性について紹介する。
品種’グリーンタワー’を2004年3月15日に播種し,同年6月2日に産地研究室露地圃場に定植した。栽植距離は畝幅3.6m,株間25cm,条間2.0m,2条抱き畝とした。定植2年目以降は毎年5月より収穫を開始し,春芽の一部は養成茎として残して生育全期間を立茎し(10本/m),9月までの長期どりを行った。主茎はアーチパイプに縦に設置したフラワーネットへ誘引し,適宜テープで固定した。側枝は地際から50cmまでを除去し,摘心は倒伏の恐れが無いことから実施しなかった。
定植1年目は土作りを目的に堆肥を30t/10a施用後,化成肥料で10a当たり窒素成分10kgを施用し(以後,堆肥,化成肥料は10a当たりの窒素成分量とする),定植2年目以降は化成肥料と堆肥を合わせた施肥量を50kgとし,比率を変えて検討した。
定植2年目の肥効調節区は,肥効調節型肥料2種類(スーパーNKエコロング203:20-0-3 100タイプ,NKエコロング203:20-0-3 70タイプ)とCDUS682を合わせて畝上に25kg基肥施用し,堆肥25kgでマルチングした(表1)。慣行区は基肥としてCDUS682を畝上に16kg施用後,堆肥25kgでマルチングし,7月から8月にかけて速効性のNK化成で3kgずつ,計9kgを表層に追肥した。

定植3年目以降は肥効調節区の肥料をスーパーNKエコロング100とCDUS682に集約し,肥効調節1区は25kg,2区は32kgを基肥施用した(表2)。慣行区はCDUS682を20kg施用し,いずれも堆肥でマルチングした。慣行区は6月から1ヶ月ごとに速効性肥料を4kgずつ3回,計12kgを表層に追肥した。
調査は26株で反復なしとした。

A品収量は両区とも0.9t/10a,商品収量は約1.4tとなった(表3)。

肥効調節区は7月の収穫ピーク時の収量がやや劣り(図3),生育前半の施肥法の再検討が必要と考えられた。

越冬前の貯蔵根の糖度は肥効調節区が慣行区と同程度~やや高い傾向がみられた(図4)。

A品収量はいずれの区も1.1t/10a,商品収量は1.2t以上となった(表4)。特に肥効調節1区,2区のA品収量は前年の貯蔵養分が影響する5月,6月の収量が慣行よりも高く(図3),さらに当年の施肥が影響する7月以降の収量も慣行区より高く推移した。また,施肥窒素が25kgの肥効調節1区が最も高かったが,商品収量では肥効調節2区とほぼ同等となった(表4)。

越冬前の貯蔵根の糖度は,肥効調節1区,2区とも慣行区と同程度~やや高い傾向がみられた(図4)。
A品収量はいずれの区も2.0t/10a,商品収量は2.2t以上となった(表5)。特に肥効調節1区,2区のA品収量は貯蔵養分と立茎からの転流が切り替わって収量が低下しやすい6月の減収幅が慣行区よりも少なく(図3), 当年の施肥が影響する7月以降の収量も慣行区より高く推移した。また,6月までは肥効調節1区が高く推移したが,7月以降は施肥窒素が32kgの肥効調節2区が高く経過し,商品収量も2.7t/10aと高収量だった(表5)。

越冬前の貯蔵根の糖度は,肥効調節1区,2区ともに慣行区と同程度~やや高い傾向がみられ(図4),定植5年目の春以降も慣行と同等かそれ以上の収量が期待できると見込まれた。
施肥法による収量差は定植3年目の春から見られ(図3),定植4年目までの商品収量は肥効調節区が高く推移した(図5)。この理由として,5月から6月の春芽収量は越冬前の貯蔵根のBrix糖度が高かっため,7月以降の夏秋芽収量は土壌と堆肥の間に施用した肥料が効率的に吸収,利用されたためと推察された。

アスパラガス露地長期どり栽培における定植4年目までの収量は,定植2年目以降に肥効調節型肥料とCDU化成を基肥として施用後に,堆肥でマルチングする施肥体系が,慣行の追肥体系よりも優れていた。10a当たりの全窒素量を50kgとした本研究では,4年目の収量は施肥窒素割合が高い肥効調節2区(堆肥窒素18kg,施肥窒素32kg)が高い傾向が見られたものの,肥効調節1区(堆肥窒素25kg,施肥窒素25kg)も十分な収量を得られ,環境負荷が少ない省力的な施肥技術として有効であると考えられた。
アスパラガスの新産地である最上町では生産者全員がエコファーマーを取得し,面積と生産量の拡大を進めている。また,近隣の市町村でもアス
パラガス栽培の動きが見られることから,環境負荷が少ない省力的な施肥技術として普及することを期待したい。
岩手県農業研究センター
技術部 南部園芸研究室
主任専門研究員 藤尾 拓也
イチゴの一季成り性品種では,低温に遭遇すると休眠が導入され,その後充分に低温遭遇することで休眠打破するが,休眠打破後は一定期間花芽分化しなくなる。しかし,低温遭遇量をコントロールし休眠が打破される途中の状態である半休眠状態を維持すると,連続的に花芽分化するため収穫期間が延長し増収する。
この特性を利用した栽培法として,冬期間に加温する促成栽培が全国的に普及しているが,東北地域の寒冷地では晩生品種を用いた無加温半促成(低温カット)栽培が普及している。低温カット栽培では休眠の深い晩生品種「北の輝」を用いることで,露地栽培よりも収穫期間が長くなり,寒冷地でも無加温栽培で4月から7月まで連続収穫が可能となる。この作型は,促成作型の収穫が終期をむかえる6月以降から収穫量が多くなるため国産イチゴの端境期に出荷可能で,単価が比較的高く東北地域の寒冷地では比較的早い時期から所得を得られる栽培方法であることから水稲生産者を中心に普及している。
また,イチゴの高設栽培は作業性改善や土壌病害回避等の目的から,本県でも促成栽培を中心に導入が進んでいるが,低温カット栽培では促成栽培よりも収穫期間が短く収量性が劣るため,多額の投資が必要となる高設栽培の導入は難しかった。そこで低温カット作型において,高設栽培の導入経費を低減するため低コストなハンモック式栽培槽による,肥効調節型肥料の全量基肥施肥栽培法について検討した。
高設栽培に用いる栽培槽は,一般的に保温性の高い発泡スチロールや樹脂による成形品が使用されているが,安価なシートを使用してハンモック状の栽培槽とする方式も開発されている(図1)。また,本県の高設栽培ではダブルベッド型の高設架台が普及している。この方式では内成り部が混み合うために作業性がやや劣ること,病害が発生しやすいことがデメリットであるが,シングルベッド型と比較して通路の数が少なくなり,面積当たりのベッド数が多くなるため,栽植密度が高まり単位面積当たりの収量が向上することが大きなメリットである。
そこで,本試験ではダブルベッド型のハンモック式高設栽培について,低温カット栽培における適応性を検討した。

「北の輝」を用いた低温カット栽培では,越年前は5℃以下の低温に200~300時間程度遭遇させ,その後は低温が蓄積しすぎないよう不織布などのべたがけ被覆により保温し,2月末日までの低温遭遇量を1,400時間程度に管理した。生育を進めるために2月中旬より積極的な保温を開始し,べたがけと内部カーテンによる3重被覆を行った。4月以降は内部被覆を除去し,15℃以上25℃以下を目標に温度管理を行った。
品種は「北の輝」を用い,7月上旬に採苗した子苗を9月下旬に定植した。栽植密度は高設栽培で870株/a,地床栽培では571株/aとした。高設栽培の培地は畑土と籾殻を4:1で混合したものを用い,肥効調節型肥料は表層混和により全量基肥施用とした。また,点滴かん水施肥栽培では,定植~開花期までOKF-1の3,000倍液,開花期以降はOKF-3の2,000倍液を給液した。
リニア型の溶出特性をもつエコロング-424Mを用い,140,180の溶出タイプについて検討したところ,どちらも同等の収量であった。しかし,140タイプでは奇形果の発生が増加したことから,180タイプが適した(表1)。

低温カット栽培における窒素の発現量をシミュレーションしたところ,140タイプでは初期の溶出量が多くなることから,生育初期の窒素過多により奇形果の発生が助長されたものと推察された(図2)。

これに対し180タイプでは,初期の溶出が緩やかで栽培期間を通じて安定した肥効を示し,イチゴの養分吸収パターンに適合した溶出をしているものと推察された。また,140,180タイプとも栽培終了時には窒素成分のほぼ全量が溶出することから,培地を連用する場合でも残肥による影響は小さいと考えられる。
リニア型の溶出特性を有した180タイプの肥効調節型肥料について,数種類の銘柄を検討したところ,エコロングトータルを用いた区で収量が高かった(表2)。

その他の区の収量は同等からやや劣る傾向があり,栽培後半になると葉に要素欠乏の症状が認められた。これは,他の肥料では微量要素を含まないことや,エコロングタイプの肥料では窒素・リン酸・加里の3要素の溶出がコントロールされているのに対し,粒状化成Ⅰ(化成肥料とLPを配合した肥料)では窒素成分のみ溶出がコントロールされているために他の成分が早めに流亡してしまい,栽培後半に欠乏症状を呈したものと考えられた。
このため,低温カット栽培の高設栽培へ用いる肥料は,微量要素を含み3要素の肥効がコントロールされたエコロングトータル-313の180タイプが適すると考えられた。
適正施肥量を把握するため,エコロングトータル313-180タイプを用いて,株当たり窒素成分量で2~4gの範囲で施用したところ,施肥量の増加による増収効果は認められなかった(表3)。これらのことから,「北の輝」の低温カット栽培では,エコロングトータル-313の180タイプを株当たり窒素成分量2gで充分とJ思われる。

肥効調節型肥料による全量基肥施用とした場合,ハンモック式と発泡スチロール式栽培層とも収量は同等となり,栽培層の違いによる影響は認められなかった(表4)。

ハンモック式高設栽培では,栽培槽が外部に露出しているため潜熱効果により培地温が低下しやすく,発泡スチロールよりも保温性が劣るため,通常の促成栽培では培地温が2~3℃低く推移する。しかし,今回の低温カット栽培の試験ではどちらの栽培槽も平均培地温は10℃となり同等であった(データ略)。これは,加温する促成栽培と異なり低温カット栽培では暖房や培地加温を行わないため,培地温は季節変動により変化するためと考えられた。このことから,低温カット栽培では冬期間の保温性を考慮する必要が無いため,低コストなハンモック式栽培槽の利用が可能であった。また,ダブルベッド型の高設栽培では土耕栽培に比べ栽植密度を高めることができるため,株当たり収量は土耕栽培と同等であっても,単位面積当たりの収量は向上する(表4)。
一般的な高設栽培では,養液濃度の調整を行うため液肥混入機が必要となるが,全量基肥施用とすることで高価な液肥混入機が不要となる。このため,全量基肥施用によるハンモック式高設栽培では,従来の液肥混入機による発泡スチロール式高設栽培に比べ,1,300千円/10aのコスト削減が可能となる(表5)。なお,この方式では液肥混入機で行っていたかん水制御を,安価に市販されているタイマー付き電磁弁とディスクフィルターの組み合わせで行うことで試算した。

また,ダブルベッド型の高設栽培とすることで単収が向上し,高設栽培の導入経費を考慮してもこれまでの土耕栽培よりも収益性が向上する(表6)。

イチゴの高設栽培は,作業性の改善に加え連作障害や土壌病害を回避することができ,安定生産につながる技術である。また,栽植密度を高めることが可能で,土地生産性が向上する。
高設栽培において肥効調節型肥料の全量基肥施用法を組み合わせることで,肥培管理の省力化につながり,新規栽培の場合でも肥培管理が容易であり,初年度から安定した収量を確保できる。また,液肥混入機などの高額な投資が不要となり,低コスト化が図られる。
低温カット栽培の収穫時期は気温が高い6月以降も続くため,連作圃場の土耕栽培では,萎黄病が発生し減収する事例もみられる。このため,安定した生産を維持し生産性を高めるためにも高設栽培の導入が望まれる。また,これまで敷居が高いと感じていた生産者へも,低コストで省力的な全量基肥施用による高設栽培の普及が期待される。