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第626号 2011(H23).02発行

PDF版はこちら 第626号 2011(H23).02発行

農業と科学 平成23年2月

本号の内容

 

 

育苗箱全量施肥法(苗箱まかせ)の導入

千葉県農林振興センター
地域振興部改良普及課南部グループ
普及指導員 吉沢 雅弘

1.はじめに

 千葉県富津市は東京湾に面した温暖な気候に恵まれた地域である。耕地面積は2,380haで,うち水田が1,750ha(水田率73.5%)と,水田の占める割合の高い地域である。
 しかしながら一部地域においては,1筆あたりのほ場面積が10aと小さく,また地下水位の高い湿田であるなど,大型の農作業機械の走行が困難であり,規模拡大を妨げる要因となっているところもある。

2.富津市での取り組み

 該当地区は湿田で,田植機・コンバイン等の作業機械が水田で立ち往生する等作業面で大きな問題を抱えていた。
 湿田の粘土質土壌で機械走行困難なほ場を管理する農家が新聞で箱施肥技術を知り,農林振興センターとともに試験を開始(コシヒカリ,H17~)した。先進地(秋田県)視察や試行錯誤を繰り返しながら,地域にあった施肥方法や施用量等の技術確立を図った。

3.当該技術の内容と導入効果

 水稲育苗箱全量施肥法(箱施肥)は,その年本田に施用する肥料分をすべて育苗箱に施用し,田植え時に苗とともに本田へ持ち出す方法である。

ア.具体的な技術の内容

①箱施肥専用のコーティング肥料(苗箱まかせ)を使用する。
②10aに必要な窒素成分量を決め,箱当たり施用量を決める。(箱当たり必要量は栽培指導資料を参照)
③育苗箱に浅めに床土を詰め,その後肥料を施用し,肥料の上に播種,覆土の順に作業を行う。
④以後出芽までの作業は慣行と同じ。
⑤肥料は保水力が無いため乾きやすいので出芽後,プール育苗とする(ビニールで枠を作って水を溜め,底面潅水を行う)。
⑥育苗期間は20日~25日。この期間を過ぎると肥料の溶出が始まる。
⑦田植えは慣行と同様に行う。
⑧後から追肥は行わない。(倒伏が心配される)

イ.施肥改善技術の導入効果

 導入効果として,次の4点が挙げられる。
①本田への肥料散布の必要がなく省力化の効果が大きい。
②根元に肥料が位置するので,肥効が高まり,減肥料栽培が可能な技術である。
③施肥代が30~40%程度軽減される低コスト栽培技術である。
④代かき前に施肥をしないので,用水への肥料混濁水の流出がなく環境に優しい技術である。

4.普及のための残された課題

ア 移植同時の側条施肥機がない場合は,「苗箱まかせ」のみでの栽培も可能であるが,初期生育がやや劣る。
イ 「苗箱まかせ」にはPK成分が含まれないため,長期的に技術を継続していくためには,それら成分の補給が別途必要になる。
ウ ほ場ごとの微調整はできないため,あらかじめ植え付けするほ場・品種をふまえて,播種時に施肥設計を行う必要がある。(その点では,移植同時施肥が行える田植え機を既に所有している場合には,メリットが少ない。そのような大型の機械がもぐってしまう湿田で導入効果が大きいと思われる)

農林振興センターの栽培指導資料(抜粋)

「施肥は育苗箱のみ!」の水稲新技術
 ~「苗箱まかせ」の使い方と特徴~
「苗箱まかせ」(水稲育苗箱全量施肥法)とは?

 水稲育百箱全量施肥法(箱施肥)はその年本田に施用する肥料分をすべて育苗箱に施用し,田植え時に苗とともに本田へ持ち出す方法である。特徴は以下の2つ。
・本田への肥料散布の必要がなく省力化技術である。
・根元に肥料が位置するので,肥効が高まり,減肥料栽培技術である。
 箱施肥には「苗箱まかせ」という専用コーティング肥料を使用する。

★富津市での箱施肥の方法(コシヒカリ)

1.播種(施肥)

 育苗箱に床土を少なめに入れ,「苗箱まかせ100タイプ(N400-100)」を施肥する。その上から播種を行い,覆土する。

2.育苗

 育苗はプール育苗を勧めている(根元に肥料が位置するので,水持ちが悪くなる欠点を補うため)。

3.植え付け

 通常と同じように田植えを行う。初期生育が悪い欠点を補うために,田植え直前に「LPコート30」という肥料を育苗箱の上から散布する方法やペーストの側条施肥と組み合わせる方法もある。

4.その後の管理

 その後の施肥作業は一切行わない。自己流の窒素肥料の施用は倒伏を招く恐れがある。

★箱施肥の生育の特徴
 ~試験結果から~

1.初期生育が慣行栽培に比べて劣る。最高分げつ期(6月中旬)の茎数も慣行に比べて少なく,見た目はけっして良くない。
2.幼穂形成期(6月下旬)頃に生育が追いつき,穂数は慣行とほとんど変わらない。富津市の試験では慣行と同じ収量が得られた。
3.葉色は最高分げつ期以降,濃く推移する。
4.田植え直前にLPコート30を合わせて施用すると,初期生育が確保され,慣行と変わらない生育を示す。(ただし,LPコートの施肥が面倒という声が多数。)

→試験では初期生育を確保しつつ,省力化を図ることを狙いとして,通常の苗箱まかせ(100タイプ)より溶出期間の短い苗箱まかせ(60タイプ)を混ぜて試験を行い,良好な結果を得た。
 また,田植時にペースト肥料を側条施肥することでも初期生育を補うことができた。

★通常の一発肥料とどう違うの?
 ~対抗技術との比較~

 側条施肥田植機が入る田では,一発肥料を側条施肥した方が栽培しやすいと言える。
 箱施肥は「側条施肥田植機を入れると機械がもぐる」「側条施肥機に投資をしたくない」「減肥料栽培をしたい」等の場所(人)に有効であると考えられる。

★箱施肥成功のコツ
 ~これから栽培を始める方ヘ~

1.初期生育が悪いからといって,追肥(根付)を絶対にふらない。後で苗箱まかせの肥料が効
いてきて,倒伏を招く。肥料に「まかせる」ことが大事。
2.根元に肥料が位置し,肥効が高いので必ず減肥(窒素分で2~3割)を行うこと。慣行と同じ窒素量を施用すると倒伏する恐れがある。
3.慣行と比べて違った生育をするので,初年度は必ず少ない面積で試験を行い「目を慣らす」ことが必要。
4.昨年開封した肥料や,床に落とした肥料を使うと,コーティングされた膜が破け,育苗時に肥料やけを起こして失敗する。肥料の取り扱いは慎重に行う。

★箱施肥専用施肥機の紹介

 試験の結果に満足し,本格的に箱施肥を始めるのであれば,専用施肥機の導入を考えることになる。苗箱まかせ専用施肥機は播種機につけるオプションとして市販されている(オプションで8~10万円程度)。

★その他Q&A

Q1.施肥量の目安を教えてください。
A1.以下の式に数値を当てはめて計算します。

 (例)基肥3kg,追肥2kg,全層施肥,10a当たり18箱使用の場合
  1箱当たり施肥量=(3+2)×0.7÷0.4(N成分含量)÷18
  =0.48kg=480g

Q2.早生品種でも苗箱まかせは使えますか?
A2.肥料は100タイプではなく,「60タイプの苗箱まかせ」を使います。H18年に富津であきたこまち,ひとめぼれの試験を行い,慣行並みの収量を得ました。草丈が伸びやすい傾向(特にひとめぼれ)があるので,多収を求めると倒伏の危険性が高まります。

Q3.早く実用化したいので一気に1haくらい使いたいのですが。
A3.お勧めできません!慣行と生育が大きく異なるので,小面積の試験を行い,まず目を慣らしてください。

★播種作業の一連の流れと機械の紹介

 

 

ワサビ田における被覆肥料の水口施用が
生育・品質に及ぼす影響

ジェイカムアグリ株式会社 富士営業所
技術嘱託 岩橋 光育

1.はじめに

 静岡県の渓流ワサビの栽培面積は約140haあり,2009年の生産状況は生産量(根茎)313kg,粗生産額24億円(生ワサビ)で,全国一の面積および生産額を誇っている。県内では伊豆天城山系,安倍川上流が主産地であり,特に伊豆天城山系は最大産地で伊豆市天城湯ヶ島,中伊豆地域にそれぞれ約40haの面積を有している。近年県内ワサビ生産の問題点として,栽培面積は維持しているものの生産量が減少したまま伸び悩んでおり,その対策が求められている。
 元来ワサビは清澄な流水中で栽培されるものであるが,ワサビの生産量を左右する要因の一つとして用水中の肥料成分の多少に影響をうけることが指摘されている。

 宮崎1)は伊豆地方の優良田と劣等田の用水の無機成分含有量を比較し優良田は劣等田にくらべて肥料三要素の含有量が多いことを,また築地ら2)も肥料三要素含有量の多い用水ほどワサビの生育が良好であることを報告している。さらに河森ら3)は肥料成分を用水中に安定して供給を試みたが現地での実用性に問題があるため容易な施用法が求められるようになった。小林4)は奥多摩地区で被覆肥料をワサビ田の作土層にすき込む施用試験を行った結果,親株の本数,根重などについて施用効果を報告している。奥多摩のワサビ田は水量が少ない地沢式であるが,静岡県内で多く採用されている畳石式ワサビ田は多量の用水を必要とするのが特徴である。このため県内での被覆肥料の施用にあたって作土層への施用は大雨による被覆肥料の流失が懸念されてきた。
 そこで,ワサビ田における被覆肥料の水口施用が生育・品質に及ぼす影響について若干の検討を行ったのでその結果を報告する。

2.試験方法

1)試験ほ場及び土壌条件

 試験は天城山系より那賀川本流にそそぐ湯沢水系の上流標高250mの慣行管理が行われている加茂郡松崎町池代湯沢の農家ほ場で実施した。(写真1)
 試験地域の地質は新第三期火山性の凝灰岩質岩石で,流域の土壌は褐色森林土である。

2)試験区

 試験区の構成は表1に示した。被覆肥料はエコロングトータル313(以下,ロングとする)を用い,翌年1月の収穫までの溶出を期待して180タイプを選択した。処理区の規模は1区18㎡(田頭水路幅3m×水止めまでの長さ6m)である。

3)試験概要

 試験地域は標高が低く水温が高く生育が良好なため春期に植え付けし収穫は冬に行うのが一般的である。栽培方式は渓流を利用した畳石式ワサビ田で,’下田2号’を60本/3.3㎡,一石1本植えで行った(図1)。

 ロングは定植(2008年4月7日)後の5月28日に現物4.2kgを施用した。施用方法は0.7kgづつをナイロン製の網袋につめ,田頭水路(幅3.0m)内に6袋を埋没させ,定期的に回収して分析に供した。収穫は定植8.5ヶ月後の2009年1月28日に行った。

4)調査項目

①予備調査として,県内主要ワサビ産地(松崎町池代,伊豆市湯ヶ島,静岡市有東木,川根本町元藤川)用水と試験中のワサビ田用水の水質調査を行った。
②収穫したワサビについて生育調査,および成分分析を行った。
③施用したロングからの窒素の溶出調査を行った。溶出率は回収したロングの残存窒素量と初期窒素量から算出した。

3.結果および考察

1)県内ワサビ田用水および試験ワサビ用用水の化学性

 表2に県内ワサビ田用水の化学性を示した。pHは平均7.3で変動は少なく,EC(dS/m)は最大値0.103,最小値0.045,平均0.073であった。地域的には静岡市有東木の値が高く,川根本町元藤川地区の値が低かった。このように各成分濃度は地域により少なからぬ違いが認められた。

 用水の水質は地質地勢,気候,森林の状況によりほぼ決定され,ワサビの栄養となる無機成分は用水と作土から供給される肥料成分の供給量は用水からのほうが多いとされている。山本5)は県内数ケ所で優良田,劣等田の用水について分析し,ワサビの生育状況は概ね用水中の窒素濃度と正比例することを,また硫酸根の多少が生育に大きく影響しているという報告をしている。県内産地においても用水中の無機成分濃度に差が認められることから,一部地域で用水中の成分不足の条件下での栽培がなされているのではないかと考えられる。
 表3に試験区におけるワサビ田用水の化学性を示した。ロング施用区のEC,窒素,リン濃度について慣行(無施用)区にくらべ幾分高い傾向が認められたが,その他の成分については明らかでなかった。

2)生育調査

 表4に収穫時の生育状況を示した。3.3㎡当たりの親株の全重は慣行(無施用)区指数100に対してロング施用区109であったが本数および根重では慣行区に比べロング施用区が110以上と高く,本数の増加と根茎部での生育の良好さが見られた。

品位別に分類した上物,中物,下物の本数割合をみると上物および下物ではロング施用区は慣行区に比べほとんど差はないが,中物では指数151と大幅な増加が認められた。一方,根重割合でみると大物は両区でほとんど差はないが,中物ではロング区143と大幅増加の傾向を示し,下物でも109と重量の増加が見られた。このようにロング施用により親株の全重,本数,根重が増加し,品位別でも中物の本数根重の増加が認められた。2010年のワサビの出荷価格は2kgあたり概ね上物,中物,下物は7,000円,8,000円,6,500円程度(耕作者談)であり,ロング施用により中物の収量が増加することによる生産額の増加が期待される。また両区の上位20本平均の根重ではロング施用区は慣行区100に対して92と少し小さいが,根径は110と大きくなる傾向がみられた。慣行区の根重が大きくなる理由として単位面積あたりの本数減少に伴う肥料成分吸収量増加なども考えられるが,本数減少の解析も含め今後の検討が必要と考えられる。
 ワサビは育苗時の施肥量から見て生育時の肥料成分の要求量はかなり高いと考えられる。飯島6)は湧水沢ワサビ田での窒素,リン酸,カリ単体施用が無施用区にくらべいずれも生育が良好であることを,河森ら3)は被覆した固形肥料を県内15箇所で毎月施用した結果,平均収量が21%増加したと報告している。今回の試験でも栽培期間中での三要素施用による効果が認められることから県内においてもロングの施用効果が期待されるワサビ田が少なからず存在しているのではないかと考えられた。

3)根茎部の成分分析

 表5にワサビ(根茎部)の成分分析結果を示した。慣行(無施用)区にくらべロング施用区での窒素,リン,カリウム,イオウ濃度の増加傾向が認められた。施用したロングは,硫酸カリウム等に由来するイオウを含有していることから,これらの成分濃度の増加は肥料の施用によるものと考えられる。

 河森ら3)は施肥によって各部位の三要素含有率が増加する,特にリン酸の含有率の増加が著しく増加することを報告しており,今回の試験においても同様な結果が得られた。ワサビの品質を構成する要素として辛味成分含有量があり,石上7)は辛味成分とイオウおよび窒素含有率に高い相関関係があることを報告している。また飯島6)は湧水沢田試験で三要素施用によりワサビ中の地下茎の総辛味成分含有率の増加を報告しているが,今回の成分分析でも施用に伴う窒素,イオウ成分含有率の増加が見られることからロング施用に伴う品質の向上も期待される。このことから品質向上のためにワサビ田での積極的な肥料成分の施用を考えても良いのではないだろうか。

4)ロングからの窒素溶出状況

 図2に田頭水路中に設置したロングからの窒素の溶出状況を示した。窒素溶出率は施用後180タイプを供試したのは定植時から収穫期である1月下旬までの溶出完了を期待した為であり,窒素成分の溶出状況から考えて当初の目的を達成したと思われる。

 なお本報告は多量の用水を利用する畳石式ワサビ田の水口でのロング施用試験であるが,県内には水流がすくない渓流式ワサビ田や地沢式ワサビ田などの存在も少なくない。石上ら8)は多量の用水を利用するワサビ田での肥料の施用は水口施用よりも,作土への混合施用が有効ではないかと指摘している。この点に関して用水,土壌および気象条件などの環境が異なるワサビ田への施肥にあたっては肥料の種類,量,施用法なども含めた施肥法の検討が今後の課題であろう。

4.まとめ

 ワサビ田における被覆肥料の水口施用が生育・品質に及ぼす影響について若干の検討を行った。

1)県内ワサビ田用水の各成分濃度は地域により少なからぬ違いが認められ,一部地域で、用水中の肥料成分不足下での栽培がなされているのではないかと考えられた。
2)生育調査ではロング施用により親株の全重,本数,根重が増加し,品位別でも最高価格部類である中物の本数根重の増加が認められた。
3)根茎部成分分析ではロング施用により窒素,リン,カリウム,イオウ含有率の増加が認められた。
4)用水中でのロングからの窒素溶出率は施用後240日で84%であった。

5.引用文献

1)宮崎林造
  静岡県山葵協会報,10,(1934)

2)築地緑太郎 他
  日林試,38,442~444(1956)

3)河森武 他
  静岡農試研報,11,141~150(1966)

4)小林五郎
  農業と科学,6,5~6(1981)

5)山本狷吉
  静岡農試臨時報告,5,1~8(1929)

6)飯島隆志
  農業及園芸,38,85~87(1879)

7)石上清 他
  静岡農試研報,23,57~65(1978)

8)石上清 他
  静岡農試研報,26,67~75(1981)