農業と科学 平成23年3-4月
本号の内容
§牛ふんたい肥と育苗箱施肥を利用した水稲の減化学肥料栽培
宮城県病害虫防除所
技術次長 高橋 浩明
(前 宮城県古川農業試験場 土壌肥料部 上席主任研究員)
§オホーツク管内の農業構造と青年農業者への支援方向
北海道オホーツク総合振興局網走農業改良普及センター
主査(人材育成) 馬渕 富美子
宮城県病害虫防除所
技術次長 高橋 浩明
(前 宮城県古川農業試験場 土壌肥料部 上席主任研究員)
宮城県では,たい肥等による土づくりと合わせて化学肥料を節減する,いわゆる環境保全米の作付けが伸びており,平成22年産米においては全作付面積の約4割を占めるまでになった。
環境保全米の肥培管理技術については,これまで,豚ぷんたい肥及び鶏ふんと肥料の併用によって,ひとめぼれの目標収量を550kg/10aとした場合の適正籾数26,000~30,000粒/㎡が確保できる「たい肥の施用基準」を策定した。しかし,県内で生産される家畜ふん尿のうち,約7割を占める牛ふんたい肥については,基肥本田施肥の場合,化学肥料代替による籾数の安定確保が難しかった。そこで,被覆肥料を用いた育苗箱全量施肥と牛ふんたい肥を組み合わせ,水稲栽培における家畜ふんたい肥の適正施用量と肥料の適正量について検討した。
2008年に地力が中程度である灰色低地土壌の古川農業試験場ほ場において,ひとめぼれの栽培試験を実施した。用いた肥料は「苗箱まかせN400-60(以下,苗箱まかせ)」で,総窒素量をひとめぼれの慣行栽培における窒素量7kg/10aに対して50%節減の3.5kg/10a区と約30%節減の5.0kg/10a区を設け,育苗用培土と肥料の箱詰めを行った。窒素以外のリン酸,カリについては,慣行区を除きリン酸・カリ化成で全層施肥した。慣行区は基肥には塩加燐安284号,幼穂形成期及び減数分裂期の追肥には窒素・カリ化成を用いた。
牛ふんたい肥(以下,たい肥)は,現物当たり窒素成分が約1%の牛ふん稲わらたい肥で,たい肥中の総窒素量が20kg/10a(たい肥現物で2t/10a),10kg/10a(同1t/10a),無しの3段階を設けた。たい肥は4月中旬にほ場に全面散布し,散布直後に耕起した。
茎数は,苗箱まかせ施用区のいずれもが慣行区より少なく推移した(図1)。同じ基肥窒素量(N5.0)で比較すると,たい肥の施用量が多い区ほど多く推移した。また,同じたい肥施用量の場合は,基肥窒素量が多いN5.0区が多く推移した。しかし,穂揃期(8月13日)に調査した穂数はいずれの区も㎡当たり460本前後で大きな差はなく,苗箱まかせ施用区は有効茎歩合が高い傾向にあった。

葉緑素計(SPAD502)による葉色値も,基肥窒素量及びたい肥施用量が多い区ほど高めに推移した。慣行区は7月中旬の幼穂形成期と下旬の減数分裂期に追肥を行ったため,中旬以降の葉色は35前後で推移したが,苗箱まかせ施用区は穂揃期にかけて漸減した(図2)。

一方,宮城県では,ひとめぼれの玄米タンパク含有率が乾物当たり8%を超えると食味が低下する1)としており,玄米タンパク含有率を高めずに食味が維持され,かつ品質が低下しないような「穂揃期の葉色」は,目標籾数を28,000~30,000粒/㎡とした場合,33~35程度である1)。これによれば,慣行区及びN5.0+たい肥1~2t区は穂揃期に33以上の葉色を維持しているが,たい肥なし及びN3.5+たい肥1t区は33の基準を下回った。
穂数は,N3.5区では慣行区よりやや少なく,N5.0区はほぼ慣行区並であった(表1)。㎡当たり籾数は,N3.5以外の区で26,000粒/㎡以上を確保した。登熟歩合は80~86%で概ね慣行区並,千粒重は22.9~23.4gで慣行区よりやや小さかった

収量は,N5.0施用ではたい肥2t区で慣行区並が得られた(図3)。N3.5施用はN5.0に比べて穂数が少なく,たい肥との組み合わせで収量はやや向上したが,収量は慣行区比93%にとどまった。

稲体を定期的に抜き取り,根を切除後に熱風乾燥・粉砕し,硫酸・過酸化水素分解~自動比色によって窒素濃度を測定し,㎡当たり乾物重を乗じて稲体窒素吸収量を求めた。
期間を通じて,N5.0+たい肥2t区は慣行区より多く推移した(図4)。その他の区は慣行区よりやや少なく推移した。

目標籾数を28,000~30,000粒/㎡とした場合,穂揃期における窒素吸収量の目安は7.0~7.5g/㎡程度である2)ことから,慣行区及びN5.0+たい肥1t区は概ね適正で,N5.0+たい肥2t区はやや生育過剰,他の2区はやや窒素不足であると考えられた。
サタケ穀粒計RGQI10Aを用いて調査した玄米整粒比は,苗箱まかせ施用区のいずれもが慣行区より高く,玄米品質は高いと考えられた(図5)。

玄米を稲体窒素吸収量と同様に処理して窒素濃度を求め,粗タンパク係数5.95を乗じて求めた玄米タンパク含有率は,苗箱まかせ施用区のいずれもが慣行区より低かったことから,食味への影響はないと考えられた。

苗箱まかせとたい肥の適正な施用量の組み合わせは,苗箱まかせN5.0+たい肥1tにおいでほぼ目標生育量が得られたことから,最適な組み合わせであると考えられた。また,苗箱まかせを用いた全量基肥栽培におけるたい肥の施用量と肥料による窒素の減肥割合を定めた3)(表2)。

なお,本技術の活用に際しての留意点は,
①牛ふんたい肥の多施用によって土壌中の交換性カリが蓄積する傾向がある4)ので,たい肥の施用量は窒素換算で10kg以内(たい肥現物で1t/10a)とする。
②窒素の減肥割合が50%の場合は,籾数が不足して収量低下が懸念されること
である。
窒素の減肥割合が慣行の20~30%程度なら実用上問題は無いと思われるが,50%減肥では収量が低下する傾向があることから,減肥率を高めるためには豚ぷんたい肥や鶏ふんなど,窒素肥効率の高いたい肥との組み合わせについて検討する必要がある。また,本試験では溶出期間が60日タイプの苗箱まかせを用いたが,穂揃期以降の葉色が低下し,千粒重が慣行区に比べて低い傾向が見られたことから,溶出期間のより長い被覆肥料との組み合わせについても検討する必要がある。
1)普及に移す技術 第82号 平成19年6月
宮城県(p5~8)
2)普及に移す技術 第75号 平成12年6月
宮城県(p1~2)
3)普及に移す技術 第84号 平成21年4月
宮城県(p58~59)
4)普及に移す技術 第82号 平成19年6月
宮城県(p14~20)
北海道オホーツク総合振興局網走農業改良普及センター
主査(人材育成) 馬渕 富美子
オホーツク地域は,北海道の北東部に位置しており,オホーツク海と約278kmの海岸線で接し,南北に約80km,東西に約200km広がる。総面積は10,691k㎡と新潟県に匹敵し東京都の約5倍である。北海道の面積の12.8%を占め,宗谷・上川・十勝・釧路・根室の各支庁と境界を接する。管内は,なだらかな起伏に富み,オホーツク海沿岸部から南西及び南東に向かって標高が段階的に上昇している。オホーツク海沿岸部には平地が多く,海岸から平行して低地・台地・丘陵地・山地という基本的な配列となっている(図1)。

気候は冬期間の寒さは厳しいものの,比較的穏やかで,年間降水量は800mm台と少なく,日照時間にも恵まれている。
また1月下旬から3月にかけて,オホーツク海特有の流氷により海面が覆われるという,他地域にはない特色が見られるほか,原始的な自然がそのまま残されている知床国立公園をはじめ,豊かな自然景観に恵まれている。
オホーツク地域の農業は,全国一のシェアを誇るたまねぎを始め麦類・てんさい・ばれいしょなどの畑作物や酪農を主体とする農業を展開している(写真1~6)。



耕地面積167,100ha,農業産出額1,700億円の規模を誇り,食料供給基地として重要な役割を担っている。
畑作は,恵まれた土地条件を活用し,土地利用型作物を主体に作付けされている。基幹作物は小麦28,430ha,てんさい26,500ha,ばれいしょ18,100haである。水稲は,昭和45年以降の転作強化等により漸減しているものの,1,330ha作付けされている。野菜類は,水田の転作作物及び高収益作物として各地で農業経営内に取り入れられている。特に,たまねぎは6,722haと全道作付面積の54%を占めている。畜産では乳用牛の飼養頭数113,700頭,肉用牛72,100頭のほか,豚・めん羊・採卵鶏なども数多く飼養されている。農業産出額1,700億円のうち約1,000億円が耕種,700億円が畜産である。耕種の内訳では,たまねぎを中心とした野菜16.2%,てん菜15.6%,小麦13.7%,馬鈴しょ11.1%となっている。
オホーツク地域は,気象条件や土地条件の違いにより,斜網(しゃもう),北見(きたみ),東紋(とうもん),西紋(せいもん)の4地域に大別され,それぞれの条件を活かして地域ごとに特色ある農業が営まれている(図2)。

「斜網」地域(斜里町,清里町,小清水町,美幌(びほろ)町,津別町,大空町,網走(あばしり)市)
1戸当たりの経営規模が大きい畑作地帯で,専業農家によるてん菜・馬鈴しょ・麦類を中心に機械化された生産性の高い農業を展開。
「北見」 地域(北見市,訓子府(くんねっぷ)町,置戸(おけと)町)
1戸当たりの経営規模には恵まれないものの,気象・土壌条件には恵まれ,畑作を基幹にたまねぎ等の野菜・豆類・水稲・酪農など生産性の高い農業を展開。
「東紋」地域(遠軽(えんがる)町,佐呂間町,湧別(ゆうべつ)町)
比較的経営規模は小さく,土地条件も恵まれないものの,酪農を基幹としてかぼちゃ・アスパラガス等の野菜や薬用作物などの特用作物に取り組み,工夫をこらした農業を展開。
「西紋」地域(紋別市,滝上(たきのうえ)町,西興部(にしおこっぺ)村,興部(おこっぺ)町,雄武(おうむ)町)
1戸当たりの経営規模は大きく,草地等の飼料基盤を活かした大規模酪農を展開。
網走農業改良普及センターは,本所と5支所で普及活動を展開しています。
農家戸数は5,960戸であり,近年緩やかに減少している。農家人口は25,999人で管内総人口に占める割合は平均8.0 %となっている。ここ数年ではUターンにより就農する人が増えており,新規就農者数は毎年100人以上を確保しているものの地域により差がみられる。
管内の農家戸数は昭和61年10,974戸,平成7年8,258戸,平成17年5,960戸と減少。昭和60年と比較すると平成17年には54%に減少したことになる。管内の農家人口も引き続き減少傾向にある(図3)。

2005年に324,849人だった管内人口は2035年には221,470人に減少すると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所日本の市町村別将来推計人口による)。北見市,網走市では指数が70.0以上だが,滝上町では43.9となっている。農家人口割合では訓子府町33%,小清水町32%と高いものの,紋別市2%,遠軽町3%と低くなっている。
2005年と比較した市町村別将来推計人口の推移から,2035年の農家戸数は3,886戸と予測される。さらに,2005年の耕地面積を予測戸数で除すると,平均耕地面積は2020年33.6ha,2035年43.0haと予測される。
市町村別にみると,2020年の1戸当たり耕地面積は酪農地帯で100haを超え,畑作地帯でも清里町,置戸町などでは40haを超えることになる。
新規就農者実態調査では,過去6ヵ年の新規就農者数は平均112名で推移している。この調査では新規就農者のパターンを①新規学卒者,②Uターン,③新規参入者の3つに区分している。従来は,新規学卒者が中心だったが,近年ではUターンが増加傾向にある。平成21年の調査では,新規就農者のうち学卒者とUターンの割合が約半数となり,地域によっては7割を超えている。(図4)。

平成21年調査の経営形態別就農状況をみると畑作が36%を占め,次いで畑作野菜が25%となっている。新規学卒者の経営形態では酪農が29%と高くなっている。これは,大規模酪農を展開する「西紋」地域でUターンよりも新規学卒者の割合が多いためと考えられる。新規参入では野菜が75%を占めている(表1)。畑作や酪農に比べ初期投資が少なく,農地面積が少なくても比較的参入し易い経営形態として選択されていると考えられる。

一戸当り生産農業所得と就農者充足率(30年を一世代としてみた農業後継者の補充率)の関係をみると正の相関が認められる。
一戸当たり生産農業所得は平均すると1,006万円であるが,D町1,564万円からP町575万円まで差がみられる。就農者充足率は平均すると約56%となっているが,D町93.9%からO町26.6%までばらつきが大きくなっている。
1戸当たり生産農業所得が増えるにつれ,就農者充足率が高くなる傾向にある(図5)。

オホーツク管内には17の青年農業者グループがあり,会員数は合計324人。プロジェクト活動や農業経営農業技術の向上など学習会等を通じた自己研鑽に励んでいる。北海道全体では,青年農業者クラブ組織数115あり,参加人数は1,943人である(2007年北海道農政部資料)。14振興局のなかでもオホーツク管内は組織数,参加者数ともにその占める割合は多い。プロジェクト活動に取り組み,青年農業者大会で発表した実績は過去4ヵ年で10グループある(表2)。

平成22年度オホーツク管内青年農業者大会は,12月16日に開催し,参集者150名のもと,アグリメッセージ2課題,プロジェクト7課題のが発表され,これまでの成果が披露された(写真7)。

網走農業改良普及センタ一本所・各支所は,新規就農者に対して多様な研修などを実施している。就農5年以内の時期にカリキュラムを組んで研修講座を開催した結果,早期に技術習得ができ経営意欲の向上につながっている。指導農業士が新規就農者に対してその地域の栽培技術などを支援することにより,成果が上がった事例がみられる(表3)。

以上のような農業情勢から,新規就農者への支援策は次のとおりと考えられる。
(1)耕地面積が拡大する中で,機械装備の大型化に伴うコントラクター化や農業経営の法人化も視野に入れた人材の育成を図る必要がある。
(2)新規就農者のうちUターンが増えている状況にあり,多様な支援策が必要になる。
(3)新規就農者の充足率に地域によって大きく差異があり,1戸当たり生産農業所得と正の相関にあることから,新規就農者の確保方策は,まず「所得の増加」であり,農業所得向上のための支援策が必要になる。
(4)新規就農者の支援体制については,普及センターと関係機関が連携して研修講座の開設等の取組が行われている。農業者の発展ステージを捉え,研修ニーズを踏まえた上で研修カリキュラムを編成する必要がある。
農業現場での人材育成の支援内容は,就農後の発展段階に応じて経営者能力をいかに成長させていくかにかかわる。経営内の位置づけとしては,
補助労働者→基幹的労働者→作業労働者→経営者というように変化する。農業に関する基礎知識,基本的な技術なしに経営者になることはできない。就農直後は,実習・観察・記録することから始まることとなるが,研修機関等での生産技術の習得を経て,経営分析・診断,経営計画といった経営者となるべき研修が必要である(図6)。

農業現場での人材育成は,農業経営の成長ステップに応じて取り組む必要がある。
Ⅰ段階は,農業入門段階の就農後1~3年程度で基礎知識技術習得が必要。
Ⅱ段階は,技術確立段階の1~5年目では基礎的・専門的知識技術習得が必要。
Ⅲ段階は,経営確立段階の5~10年程度の時期で経営管理・労務管理・財務管理等に関する基礎知識技術の習得が必要である。
Ⅰ~Ⅱ段階の時期は,新規学卒者・Uターン就農者,新規参入者,法人内の従業員等に対する支援である。これまでⅠ,Ⅱ段階までの取組は行われているが,今後はⅢ段階(経営確立段階)への支援が必要であり,経営移譲直前の青年農業者等に対する知識・技術の習得を強化し,農業経営者としての経営管理能力向上を図らなければならない。
Ⅳ~Ⅴ段階は,次の農業経営の成長ステップとして農業経営者に対する支援である。
Ⅳ段階は,経営者能力確立段階で経営目標,経営戦略の構築等の支援が必要である。
Ⅴ段階は,企業的経営者能力確立段階で社会貢献も念頭に入れた管理能力の向上を目標とする。農業生産法人の代表取締役等への支援が位置づけられる(図7)。

「啐啄同時(そつたくどうじ)」という言葉がある。ひな鳥が卵から孵る時に,気配を感じ取って親鳥が外側から殻を叩いてひな鳥が殻を割って生まれるのを助けることを表し,このタイミングが最も大事ということという意味である。いくら人材を育てたいと思っても,相手が自ら殻を破る準備ができていなければ,いくら熱心に人材育成を図ったとしても決して上手くいくことはない。農業現場における人材の育成は,農業者の成長過程に応じて段階的,体系的,継続的に支援していくことが必要である。
最も伝えたいことは,人づくりには時間がかかる。農業ブームの今こそ,そのチャンスかもしれない。農業分野における人材育成の総合的な取り組みを早急に行うことが必要となっている。
1)淡路和則著『経営者能力と担い手の育成』
農林統計協会 1996
2)木村伸男著『現代農業のマネジメント』
日本経済評論社 2008
3)酒井惇ー・柳村俊介・伊藤房雄・斎藤和佐著『農業の継承と参入』
農山漁村文化協会 1998
4)改良普及員資料第33巻
北海道農政部農業改良課 平成15年