農業と科学 平成23年6月
本号の内容
§被覆燐硝安加里を基本としたイチゴ高設栽培の施肥管理
三重県伊賀地域農業改良普及センター
普及1課長 山田 信二
(前 三重県中央農業改良普及センター)
§切り花用オオムギ栽培における肥効調節型肥料の利用
静岡県農林技術研究所 果樹研究センター
主任研究員 石井 香奈子
§農家レストランからの提案
網走農業改良普及センタ一 清里支所
調整係長 岩井 紀子
(前 上川農業改良普及センター 富良野支所)
三重県伊賀地域農業改良普及センター
普及1課長 山田 信二
(前 三重県中央農業改良普及センター)
三重のイチゴは県下野菜粗生産額の第2位品目であり,栽培の歴史も約40年を数える特産野菜であるが,栽培面積が昭和57年150haをピークに平成20年55.7ha(系統出荷分50.6ha)まで減少している。面積減少は昭和63年~平成5年の7年間で35%減少(-46ha/7年)したのに対し,平成10年~17年の7年間では25%の減少(-17ha/7年)にとどまっていることから,減少カーブは緩やかになりつつある。これは,他作物同様栽培者の自然減があるものの,新規栽培者が出現する率が高いこと(近年年間約5人程度),高設栽培普及率が高いことで離農率に歯止めがかかっていることが一因である。平成20年県内高設栽培普及率は約56%(31ha,233戸),既導入のシステムは約25種類と多岐に及んでいるが,近年はコスト,生産安定性を考慮し県内企業製の簡易な方式が増加している。
この方式は栽培槽が発泡スチロールやグランドシートであり,培地は土壌主体で,肥培管理は元肥を置き肥とし,適宜液肥で追肥する方式である。置き肥は,肥効調節の緩効性肥料を施用する場合が多い。その肥培制御は土耕栽培に準ずるもので,実際の肥効等確認されていない技術課題があった。そこで県内で主に使用されている緩効性肥料の肥効を確認し液肥施用のタイミングを調査し,更に収量性の高い緩効性肥料の種類を選定する調査を3カ年にかけて行った。
当県での高設栽培で最も使用されているのは被覆燐硝安加里:エコロング(ジェイカムアグリ株式会社)であるが,産地毎で溶出タイプの異なる銘柄が使用されてきた。

そこで平成18年に,当時県内で使われていた溶出日の異なる2銘柄の高設ベッド内での溶出を比較し,選定を行った。供試したのはエコロングトータル313の140タイプと180タイプで,試験品種は「章姫」,高設ベッドは培土量株当たり約2.5㍑で,発泡スチロール製槽で,排液非回収方式である。Nを14.3で揃え,土壌改良資材として苦土石灰55kg,ようりん32kg,ケイサンカリ32kg(全て10a当たり)を施用して,肥料中の窒素(硝酸態,アンモニア態)の残存率を肥料埋め込み試験(写真2)により調査した。(残存窒素測定は三重県農業研究所循環機能開発課)
参考として生育調査を随時行った。

供試肥料の元々の硝酸態窒素:アンモニア態窒素は7:6であり,その溶出は地温25℃で140日と180日に溶出する期間が制御されるのがカタログ値である。
今回の調査では硝酸態窒素において特に4週~12週目にかけての溶出で140タイプが180タイプより明らかに早い溶出を示していた。しかし14週日以降では140タイプと
180タイプで残存窒素に差が無くなってきている。アンモニアでも同様な傾向であったが14週目以降の残存率低下は硝酸態窒素ほど差が無い。また,硝酸態窒素の溶出は16週目以降殆ど無くなってきており,アンモニア態が僅かずつ緩やかに溶出する程度になってきている(図1)。このことは1月以降の追肥の必要性を示しており,実際2月からOK-F12000倍1回/週,3月以降は2回/週に増やして管理した。3月までの追肥は約0.8kgと少なく3/25の廃液がEC:0.2mS/cm,NO3-N:0.8ppmであった。

生育調査は観察で随時行ったが,12/5で草丈が140タイプの方が約4cm大きく,1番収穫の進み具合が1果弱,腋花房の出蕾が同時期で2花程度早かった。花数,果数は摘花・摘果するため差が不明瞭であった。従って果実の大きさの差も不明瞭であった。
この試験において章姫の高設栽培では,初期生育を促進することで年内等前半収量が増加する傾向があることから,140タイプが生育で180タイプより若干優れ,後半の窒素残存から考慮して180タイプを選定するメリットは無いと判断し,140タイプを選定した。
平成19年には,前年に選定したエコロングトータル313(140タイプ)の硝酸態窒素とアンモニア態窒素の比率に着目し,イチゴの生育に適した窒素態比率を選定する試験を行った。
供試した肥料は慣行としてエコロングトータル313(140タイプ)と,エコロングトータル313(140タイプ)にロングショウカル(140タイプ)を85:15で配合し,アンモニア態窒素:硝酸態窒素の比率を5.5:7.3に自家バルクブレンドしたBB肥料で行った(表1)。

この比率は慣行のエコロングトータルがアンモニア態窒素:硝酸態窒素の比率が5:5であることから硝酸態窒素比を上げることの影響を確認することが目的であった。(肥料溶出は埋め込み方式で調査,廃液は灌水時に回収し調査した。分析は三重県農業研究所循環機能開発研究課)
エコロングトータルの方が11/中旬まで明らかに樹ができており,草丈,葉長とも大きかった。花に関しては,頂花房の出蕾は新BB肥料の方がやや早いように見られたが,11/下では差が分からなくなった。花数に関しても頂花房,腋花房とも差は認められなかった(図2)。

エコロングトータル,新BB肥料とも,元肥施用から6週固までで第1のピークがあり,その後110日までで徐々に溶出し,110~140日で残りが溶出していた。(図3)H18の結果同様140日-150日で約80%が溶出し,ここまでがエコロングの肥効の確認できる限界と思われる。ロングショウカルは30日までに第1ピークはあったが,140日まで徐々に溶出していた。(図3)

pH:経時的に上昇しているが,肥料の吸収(硝酸)からみて正常と考えられた。
EC:6週目からの結果では比較的低い値で徐々に低下していたが,6週目,置き肥のロングの肥効からみてかなり高かったかもしれない。140~150日でEC=0.2(mS/cm)まで低下していることから,ロングの肥効とほぼリンクしているようであった。
NO3-N:140~150日まで徐々に下がっているが,6週目までにどれだけ溶出していたかが調査出来ず,かなり多かったと推測された。
NH4-N:70日で廃液に排出されなくなるが,肥効上は溶出しているので優先して吸収されているようであった。エコロングの方が明らかにNH4-N態の溶出が多かった。
P2O5 :6週目以降では明確な動きは確認できなかった。
K2O:100日でほぼ廃液中には検出されなくなった。
CaO:NO3-Nとほぼ同様の動きをしており,130~140日まで徐々に溶出していた。
MgO:NO3-Nとほぼ同様の動きをしており,130~140日まで徐々に溶出していた。

以上のことから,エコロングトータルの窒素は,施用40日で40%,60日で50%溶出し,特にエコロングはアンモニア態窒素の初期肥効が新BBより高いため,栄養生長を促進するようであった。しかしこれは,肥料に鈍感な章姫では,問題とはならないようであった。窒素の肥効は140~150日まであるがそれ以降は期待できないのは,昨年と同様の結果であった。このため150日以降,具体的には2月に入ると追肥を施用する必要があると考えられた。
BB肥料ではエコロングに比べ,初期のアンモニア態窒素の肥効が下がる傾向が認められた。これにより樹勢はやや大人しくなるようであり,果形の乱れを減少させることができる可能性が示唆された。
そこで平成20 年は,硝酸態窒素の比率を上げた元の影響を確認するため,慣行区でエコロングトータル313を,新BB区として,エコロングトータル313(140)とロングショウカル(140)を硝酸態:アンモニア態=約3:1に配合した区を設置した。さらに近年当県で普及しつつある被覆尿素を主体とした肥効調節型肥料(A社,N:12%)と,硝酸態:アンモニア態=6:4(B社,N:10%)の被覆肥料も同様に供試した。なお,対象品種は「紅ほっぺ」に変更したためN成分を20kg/10aとした。
最も窒素肥料の溶出が早いのが慣行のロングトータル313区であった。6週目で50%,140日で80%の窒素が溶出していた。新BB区もこれに次いで窒素の溶出は早いが,アンモニアの溶出が早く,硝酸態窒素は慣行ロング区よりも溶出は遅かった。
A社肥料区は20週目で硝酸態窒素は45%しか溶出していなかった。B社肥料区は20週で50%の窒素溶出であった。
A社肥料区,B社肥料区は窒素が尿素態のものもあり,本試験での溶出確認では判断しづらかった。

最も生育が旺盛であったのはA社肥料で,次ぎにエコロングトータル区,B社肥料区,新BB区の順であった。出蕾はこの逆で新BB区が最も早く,次ぎにエコロングトータル区,B社肥料区で,A社肥料区が最も遅かった。
11月以降は電照の効果があり,生育の差は判然としなくなった。1月以降A社肥料区では下葉の葉脈間が脱色し(写真3),生育が劣る傾向が顕著になった。

収穫開始は12/7からで,2月末までで収量が最も多かったのはエコロング区で5,458g/10株,次ぎにB社区で4,685g/10株,次ぎに新BB区で,239g/10株,A社区は3,972g/10株であった。大玉比率(2L以上)はA社区以外は約70%で,A社区は66%であった。更に3/12まででは,エコロング区6,551g/10株,新BB区5,790g,B社区5,686g,A社区4,739gとなった。2L以上の大玉比率は,新BB区が75%で次ぎにB社区71%,エコロング区69%,A社区67%であった。最終5/10まででは,収量が最も多くなったのは新BB区で10,363g/10株で次いでエコロング区10,203g/10株,A社区9,240g/10株, B社区8,604g/10株の順となった。(図6)

大玉比率(2L以上)は,エコロング区,新BB区で約70%,A社区,B社区では63%であった。(図7)

以上のことから収量は,初期収量はエコロングトータルが優れるが,最終収量ではロングショウカルを組み合わせた新BB区が優れていたことになる。
過去3カ年の試験から,当県の現在の主力品種「章姫」において,被覆燐硝安カリ肥料を使用する場合は,初期収量を確保すること,つまり単価の高い年内~1月までに所得確保することを目的に,エコロング313の140タイプを使用することが,好ましいと考えられた。しかし,その窒素肥効は1月下旬までしか期待できないため,2月上旬から液肥による追肥を行うことが望ましい。
ロングショウカルを組み合わせる場合は,窒素量を慣行並にあわせる場合で,硝酸態:アンモニア態=3:1では,初期生育がやや大人しくなり,前半収量が慣行より少なくなる可能性があるが総収量では慣行並みとなることがわかった。そこで,生育が旺盛な当県育成「かおり野」で使用し,初期生育を落ち着かせることを目的に使用することを推奨している。(表2)

静岡県農林技術研究所 果樹研究センター
主任研究員 石井 香奈子
静岡県の西伊豆地域では,六条オオムギが切り花用として栽培されており「伊豆太陽のハナムギ」として出荷が行われている。西伊豆地域では畑作に不向きな土地を中心に,古くから食用にオオムギが栽培されていたが,戦後まもなくから,切り花用としても栽培されるようになった。切り花用オオムギの出荷時期は10月から翌年4月までと長期にわたる。需要期は1月から3月で,稽古花やフラワーアレンジメントの素材として取り扱われている。
現在は極早生の在来品種が用いられており,栽培期間が短く,また自家採種のため種苗費がかからないことなどから,冬期の作目として普及している。当初の栽培品種は不明であるが,1960年代に静岡県農業試験場(現静岡県農林技術研究所)が放射線照射を利用して育成した早生品種’早神力’が導入されており,これが現在の在来品種の中心と考えられている。
10年ほど前まで,やや粗放的な栽培がされていたが,平成11年より農協共販が始まり,出荷量の確保と品質の向上,また,省力的な作目としての栽培方法の確立が課題となった。そこで,平成20年から22年にかけて,肥効調節型肥料を利用した栽培について検討した。
調査区の肥料にはエコロング424(ジェイカムアグリ株式会社,以下ロング)の70タイプと140タイプを用い,全量基肥施肥で播種と同時に施用した。対照区には有機配合肥料(カーネーション用配合6-5-8)を用いた。加えて,基肥を入れない無肥料区を設けた。追肥は対照区のみに行った。

試験は平成20年度と21年度に実施した。20年度は,静岡県農林技術研究所伊豆農業研究センター南伊豆圃場(南伊豆町上賀茂)内の露地圃場で行った。種子は,2℃の冷蔵庫内で7日間吸水処理をした切り花用オオムギ在来品種(以下在来品種)を用い,9月29日に播種した。畝は2m/区,2反復とし,株間5cmになるよう播種した。ロングは80kg/10a,対照区は有機配合肥料を慣行と同等の窒素量になるよう施用した。対照区の追肥は1月14日に化成肥料(16-16-10)を71.4kg/10a施用した。草丈の調査は10月31日から1月27日までに4回行った。切り花調査は1月7日から4月16日まで隔週で行った。21年度は,伊豆農業研究センター(東伊豆町稲取)内露地圃場で行い,前年と同様の吸水処理をした在来品種種子を用いて9月29日に播種した。畝は2m/区,2反復とし,株間5cmとした。施肥は前年と同様に行い,対照区の追肥は10月9日および11月12日に,それぞれ有機配合肥料(6-5-8)を51.8kg/10a施用した。草丈の調査は10月27日から1月20日までほぼ2週間おきに行った。切り花調査は,1月28日より3月23日まで隔週で行った。
関花までの草丈平均の推移をみると,ロングの70タイプ区でやや高く推移する傾向があったが,切り花開始時にはどちらのロング施用区でもほぼ同程度となった(図1)。

東伊豆の研究センター内圃場で実施した21年度の試験では,ロング施用区に比べて対照区の草丈が低く推移した(図2)。この圃場は前年まで栽培履歴がなく,土作りがされていなかったためと考えられた。

切り花調査では,収穫前半に70タイプ区の切り花本数が高く推移する傾向がみられた(図3,4)。

20年度の試験では,収穫初期に70タイプ区の切り花本数が高く推移し,切り花のピークは他より早い1月末となることが予想されたが,1月下旬の急な冷え込みにより出穂が遅れ,結局ロング70タイプの切り花ピークは140タイプ区,対照区と同様に2月下旬となった。21年度の切り花本数では,70タイプ区のピークが140タイプ区より1週間程度早くなった(図4)。

調査期間内の切り花本数の合計は,両年度とも140タイプで多くなった。切り花品質では,ロング施用区と対照区で大きな差は見られず,処理区ごとで,切り花の外観に見分けられるほどの違いはなかった。

ロングの施用量に関して,さらに削減が可能かどうか,施用量と切り花本数,品質について調査した。
溶出日数70タイプと140タイプについて,それぞれ施用量を10aあたり40kg,60kg,80kgに設定して試験を行った。対照区と無肥料区は試験1と同様に設定した。

試験は伊豆農業研究センター内露地圃場(東伊豆町稲取)で行った。試験1と同様の吸水処理をした種子を用い,平成21年9月29日に播種した。畝は2m/区,2反復とし,株間5cmとした。ロングの施用は播種と同時に行った。対照区の追肥は,基肥と同じ有機質肥料(6-5-8)を,10月9日および11月12日に51.8kg/10a施用した。草丈の調査,切り花本数の調査は試験1の21年度の調査と同時に行った。10月7日,11月9日,1月5日,2月19日に各処理区の土壌を採取し,無機体窒素量を計測した。
1月下旬までの草丈の推移を見ると,ロングを施用した区はいずれも対照区より高く推移した(図5)。

切り花本数の推移では,施用量に関わらず,ロング70タイプのピークは2月25日となり(図6),140タイプでは3月3日となった。草丈の伸長が遅れていた対照区の切り花は3月11日からとなった。

切り花の開始時期と施用量との関係はみられなかったが,調査期間内の切り花本数の合計は,70タイプ,140タイプとも施用量が多いほど多くなった(表4)。

10月から2月下旬までの土壌中の無機体窒素量は,1月上旬に最も高くなり,その後やや減少した(図7)。

肥効調節型肥料エコロング424(70タイプ,140タイプ)を用いた切り花用オオムギ栽培について検討した。結果,70タイプの利用で慣行施肥よりも切り花開始が一週間程度早まることが示唆された。また,140タイプの利用では,収穫期間における切り花本数の合計が慣行施肥より多くなった。切り花品質については,ロング使用と慣行施肥とで著しい差は見られなかった。施肥量と収量の関係について,40~80kg/10aの間では,施肥量が多いほど切り花本数も多くなることが示された。
切り花用オオムギ栽培において,肥効調節型肥料を利用することで,慣行施肥と同等以上に生育することが確認された。このことから,追肥の不要な肥効調節型肥料の利用は,切り花用オオムギ栽培の省力化に寄与できると考えられた。今後は栽培コストを検討して,現地での普及性を検討していきたい。

網走農業改良普及センタ一 清里支所
調整係長 岩井 紀子
(前 上川農業改良普及センター 富良野支所)
北海道は,九州本土の約2倍に相当する広大な面積を有し,富良野地域(上富良野町,中富良野町,富良野市,南富良野町,占冠村)の総面積は,神奈川県や山梨県とほぼ同程度で約25,000haとなっています。
中富良野町は,北海道のほぼ中央部,富良野盆地に位置し,テレビドラマの「北の国から」や「優しい時間」「風のガーデン」で有名なへその町,富良野市から北に10km,「旭山動物園」で知られる旭川市から,南に約50kmのところにあります。
ラベンダーやポピー,ベゴニア,マリーゴールドなどが咲き始める初夏には,道内外や近隣諸国から多くの観光客が訪れる豊かな自然に恵まれた純農村地帯です。肥沃な大地で,クリーンな農産物を消費者に提供するため,冬は−25℃,夏は猛暑で+30℃という環境の中で50種類近い農作物を栽培しています。

農地面積は4,315haを有していますが,長引く水回転作により,平成13年から50%を超える転作率となり,水稲をはじめ畑作物や露地野菜など多種多様の作物が生産されています。多い順に水稲1,225ha,玉ねぎ687ha,麦類(春小麦,秋小麦)659ha,スィートコーン173ha,甜菜172ha,かぼちゃ155haなどがあげられます。
早くから行われていた「環境に優しい米づくり」への取り組みがきっかけとなり,「クリーン農業推進の町」を宣言し,その後,北海道独自の「Yes!Clean 北のクリーン農産物表示制度」で米や馬鈴しょ,玉ねぎ,にんじん,かぼちゃの5品目が認証されるなど安心,安全な農産物の栽培が進められています。
中富良野町のシンボルである「北星山」から望むパノラマは,噴煙たなびく十勝岳連邦,富良野盆地を一望でき,北海道の雄大さを十分に堪能することができるところです。また町営ラベンダー園として町民や観光客の憩いの場ともなっています。
春から夏は「緑」と「彩り」,秋は「黄金」,冬は「白銀」と四季折々に色彩の変貌を見せる風景,稔りあふれる田畑,肌に感じる優しい風など美しい自然や素朴さが魅力の中富良野町ですが,近年,心のゆとりや安らぎを求める場として,年々「農村」への関心は高まり,訪れる人たちも増加しています。
また, ここ数年,農村における起業活動が活発化し,女性農業者が主体となり,農産物直売所や宅配,修学旅行生の農作業体験や収穫体験,地元食材にこだわった地産地消活動など,様々な形で農業・農村の生活文化を発信しています。なかでも農家レストランは,農産物に農村ならではの価値(もの・人・環境)を活かしたサービスを加えて提供しています。そこには,農業を単なる食料生産,原料生産だけで捉えるのではなく,生産者として消費者の手に届くまで係わることで,消費者の期待に応えていきたいという農業者のメッセージが詰まっています。
そして,様々な活動を通して農村の魅力や良さを理解してもらい,農業の応援団になってほしいという想いが込められています。
ラベンダーやポピーが咲く初夏の時期には,多くの観光客が訪れる「町営ラベンダー園」。色とりどりの花びらが花畑を埋め尽くし,「彩りの畑」の風景は周辺の景観に映えて,北海道の夏の風物詩となって,訪れる人たちの心を癒してくれます。
「四季それぞれが一枚の写真になる」中富良野町ですが,そんな魅力ある景観や広大な大地,雄大な自然を味方にして農家レストラン「北のカレー工房・きらら(空知郡中富良野町宮町2-1)」は,10年前から町営ラベンダー園の真ん中に件んでおり,その存在感は年々大きなものとなってきています。

オーナーの九栗貞子氏は,中富良野町で水稲,畑作経営をしている女性農業者で,北海道指導農業土でもあります。農家レストラン「北のカレー工房・きらら」を開店したきっかけを聞いてみました。
「輸入自由化により農作物の価格低迷や米政策の見直しで,農作物を生産してるだけでは農業を維持することが難しくなりつつあると感じていました。また私たち農業者は,安全で安心できる農産物を消費者に提供する重要な指命があることを常々考えていました。」
自分たちで丹精込めて栽培した農産物に付加価値をつけてお客様に食べていただきながら,生産現場から農業の魅力や情報発信の場をつくりたいと,町内の女性農業者2名で,「旬の野菜こだわりカレー」をメインに2002年,農家レストランをオープンしました。
米,たまねぎ,にんじん,ジャガイモなど材料は全て自分たちの農場で調達できることが,カレーをメニューに選んだ理由です。新鮮な野菜を旬の時期に味わっていただきたいと,夏の3ヶ月のみのオープンと決めました(2011年は6月20日~8月31日の予定)。そこには,農産物を生産している農業のプロとしてのこだわりとプライドがありました。

今年で「北のカレー工房・きらら」は,オープン10年目を迎えますが,道内外の観光客や起業家をめざす女性農業者たちが毎年6,000人近く訪れています。また,店のネーミングは,中富良野町がクリーン米を推進した時期で”きらら397”が一斉を風靡していたことがきっかけとなりました。
「美味しい農産物に関心を持ってもらうには,旬が大切なんです。でも今では一年中スーパーで野菜を入手することができますが,どれだけの人たちが旬の味を理解しているのでしょうか。」と素朴な疑問を投げかける九栗氏。
「野菜は採れる旬の時期が一番美味しいし,栄養があるんです。」「旬の野菜を提供できる時期だけ開店するからこそ意味があるんです。」
そんな食材を豊富に利用してお客様に提供できる農家直営のレストランには,都会では味わえない魅力的な価値やお客様に支持されている価値が数多くあります。(上川管内経営労働部会資料より引用)
(1)食品としての価値…「食べごろという“句”の価値」です。
→新鮮,美味しい,安全で安心できる,品質が良い,手作り感があることです。
(2)安心・安全としての価値…「正直者“信”の価値」です。
→作物の栽培状況や生産履歴,認証制度の活用など直接お客様へ説明をしたり目に見える形で作物を含めた農業情報を提供しているところです。
(3)視覚・空間的な価値…「疲れがほぐれる“癒し”の価値」です。
→空気が美味しい,農村景観が素晴らしい,四季感(旬)がはっきりしてる,ゆったりとした時間が流れる,故郷感(田舎)を味わうことができることです。
(4)人を通じた価値…「おもてなし“和”の価値」です。
→懐かしい味,作り手の顔が見える安心感,作物の品種特性や食べ頃を知っている,農作業体験や収穫体験につなげることができます。
(5)知識,技術的な価値…「明日からでも使える“得”の価値です。
→農産物を利用した料理方法や栄養,機能性などの知識を教えてもらえることです。
(6)顔の見える価値…「手から手へ“絆”の価値」です。
→農産物の宅配や地方発送,庭先販売や地産地消につなげることができます。このように,新鮮な食材を利用した豊富な料理の他に,農村に伝わる文化やそこで働く人たちが持っている癒しや人のぬくもりを感じる空気など都会にはない農村ならではの価値を農家レストランから多くの人たちに提案しているのです。その価値をどう提案するかは,物(農産物)・人(レストランに関わる人)・環境(周りの景観)をどう活かすか,どう感じ取るかは個々で様々です。
農業と「北のカレー工房・きらら」との両立は難しいのではないでしょうか?「提供する農産物の一番美味しい時期だけにこだわった農家レストランだからこそ意味があります。」と農作物の管理作業で多忙な6月~8月までの3ヶ月間を農業とカレー工房の切り盛りに追われる九栗氏ですが,「忙しい!」の言葉は殆ど聞いたことがありません。
何がそこまで九栗氏を突き動かすのか訪ねてみました。
「農家は作物を作ることに関してはプロです。しかし今は,作る農業から売る農業,さらに付加価値をつけてお客様に食べていただくまで責任を持つことが農業に課せられていると考えています。お客様の声をもとにスタッフで毎日話し合い,より満足度の高い商品を提供しようと考えることが,営農の原動力にもなります。」と言い切る九栗氏。「いくら忙しくても自分の理念や目標があれば頑張れるのです。」「私は農業のプロです。だからこそ本当の味をお客様に伝えたい,それが自分の描いた農業の形,そして夢なのです。」

「北のカレー工房・きらら」のいちおしメニューは”旬の野菜カレー”です。レストランで利用する食材すべてが地元産の新鮮な農産物です。朝,野菜を収穫し,それをレストランに持ち込み,下準備して料理に使うという農家では極自然なことが,毎回カレー工房では行われています。また,カレーやサラダに使う野菜のトッピングが時期で変化することで「旬」を楽しんでいただいています。
さらにお客様の要望で,自らの農場で農作業体験や庭先販売,米の宅配や野菜の地方発送をして,多くの消費者に喜ばれています。このように農家レストランは,農業者の想いひとつで限りなく無限にお客様に農村の魅力を発信することができるのです。
その集大成として平成22年,北海道開発局主催の「わが村は美しく-北海道」運動第5回コンクール2010に応募した結果,人の交流部門(138件の応募数)で「北のカレー工房・きらら」の活動が銅賞を受賞しました。地元女性農業者がカレーの庖の経営を通じて消費者と顔の見える関係を築いていることやリピーターが多く,米や野菜の宅配,農場での収穫体験や地域全体で農業体験の受入れに発展したこと等が高い評価につながりました。
大自然に囲まれた農村地帯。田んぼや畑,赤,黄,紫に咲く花々。心地よくさえずる小鳥や虫の声。そんな風景のなかでゆっくりとした時間が流れ,心身ともにリフレッシュしながら美味しい料理をいただく。農家レストランは,前に述べた6つの価値を,その土地の伝わる風土や人々の暮らし,文化と交わって消費者の方々にその素晴らしさを提案しているのです。
そして,そこには懸命に農作業をしながら直向きに生きる農業者の“まごころ”や潜在的に持っている“人情”が都会では真似のできない癒しと安らぎを農家レストランの商品を通して発信しているのです。
九栗さんが考えている農業者としての理念とは何か訪ねてみました。
「一生懸命,正直に生きること,そして人・環境・作物に優しい農業に取り組むことです。」住んで楽しく,訪れて癒される,そんな農村の魅力をこれからも新鮮な食材と人を通して提案していくことを大いに期待しています。