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第631号 2011(H23).08発行

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農業と科学 平成23年8月

本号の内容

 

 

ワサビ育苗における肥効調節型肥料を用いた施肥法

静岡県農林技術研究所 土壌環境科
専門員 河村 精

1.はじめに

 ワサビはわが国原産の作物であり,北は北海道から南は九州にいたる全国各地で栽培され,寿司や刺身に添える等して,香辛料として食用に供されて,消費者の皆さんに親しまれている。
 静岡県におけるワサビ生産は栽培面積が142㌶あり,年間305tの生産量(根茎),粗生産額25億円(生ワサビ)で,全国一の面積及び生産額となっている。平成20年度の全国主要市場における静岡県産わさびのシェアは取扱数量が70.5%,販売金額84.3%であり,全国でも指折りの産地として優位な地位を占めている。
 静岡県内における産地としては,伊豆市と静岡市に主な産地があり,特に伊豆市には,天城湯ヶ島地域,中伊立地域にそれぞれ約40㌶の面積を有している。また,南伊豆地域も約20㌶の面積があることから,伊豆半島は県内屈指のわさび産地となっている。

2.研究の背景

 ワサビ生産上の課題の中でワサビの苗生産が必ずしも安定していないことが課題の一つとして挙げられている。
 ワサビ苗には,分根苗,実生苗,組織培養苗があるが,実生苗はビニールハウス等で栽培が行われており,この栽培が連年連作となっており,連作による生育障害が懸念されている。この連作障害の中でも,毎作施肥される肥料の塩類が集積することによる塩類高濃度障害もその一因とされている。
 そこで,連作されたワサビ苗栽培において,肥効調節型肥料を利用した施肥法についての検討を行った。

3.試験方法

(1)試験構成

 試験区の肥料はエコロング424(ジェイカムアグリ(株))の40タイプと140タイプを用い全量基肥施肥とした。対照区には化成肥料(10-10-10)を用いた。
 エコロングは10.7kg/10a,対照区は化成肥料を15kg/10a施用した。なお,エコロング424,40 ・140 区は40タイプと140タイプを半量づつ施用した(表1)。

(2)耕種概要

 試験は平成20年に静岡県伊豆農業研究センターわさび研究拠点内のビニールハウスで行った。
 10月28日に’静系17号’を用いて播種し,12月16日に施肥して,12月24日に植付け,ワサビ苗の調査は平成21年3月23日に実施した。

(3)土壌等の分析

 土壌分析は,全農型土壌分析器ZA-Ⅱ型により分析し,ワサビ苗中全窒素濃度はケルダール法により分析した(JA静岡県経済連土壌肥料分析センター)。ワサビ葉緑色度は,ミノルタクロロフィルメーターSPAD-502で測定し,エコロングからの溶出窒素は全農型土壌分析器ZA-Ⅱ型により分析した(ジェイカムアグリ(株))。

4.結果の概要

(1)苗の生育調査では(平成21年3月23日調査),対照区に比較してエコロング区が優れていた(表2)。

   また,対照区はエコロング区よりも葉色は濃緑である(表3)とともに,葉面積も小さい傾向であった。

(2)育苗期間中のエコロングからの窒素溶出率は,エコロング140区の窒素溶出率が23.8%であるのに対して,エコロング40・140区は61.7%と高い値を示した。(表3)

(3)栽培跡地土壌の分析結果については,対照区のECが1.26mS/cmで、あるのに対して,エコロング140区は0.94mS/cmと低い値であった。(表4)

 以上の結果から,連年連作による高塩類のワサビ苗畑土壌における施肥では,肥効調節型肥料を用いた施肥が有効であることが示唆された。

5.まとめ

 ビニールハウスにおいて行われているワサビの実生苗栽培は,連年連作となっており,連作によって肥料塩が集積し,その結果塩類高濃度による生育障害の懸念が指摘されている。
 そこで,この栽培における肥効調節型肥料を利用した施肥について,その効果を検討した。
 その結果,肥効調節型肥料の効果が明らかとなった。また,肥効調節型の140タイプに対して40タイプ,140タイプを半量づつ混合した肥料について比較したところ,140タイプのみの方が,苗の生育が良好であった。
 これらのことから,連作による塩類高濃度土壌において,速効性の化学肥料を基肥に施肥した場合,苗の初期生育が阻害されたと考えられたが,これに対しては緩やかに溶出される窒素を含む肥効調節型肥料が効果的であることが示された。また,肥効調節型肥料の中でも,窒素の溶出タイプについては,速やかに溶出するタイプよりも徐々に溶出するタイプの方が苗の生育が良好となることが示された。これは,苗の生育初期に塩類濃度が低く抑えられたことによって生育が良好となったものと考えられた。このことは,跡地土壌の分析結果や窒素溶出率からも推測することができる。
 なお,今回の試験結果では,エコロング140区が最も良好な生育結果であったが,その一方で,窒素溶出率が23.8%であり窒素が残存していることから,後作についてはこの残存窒素を考慮した上で,作付けすることが望ましいと考えられた。

6.今後の課題及びその対応について

 現地においてはワサビ苗の後作としてスイートコーン等が作付けされること等を考慮すると,ワサビ苗栽培は,年間の作付け体系を念頭に置いて,土壌診断を実施した上で,窒素溶出のシュミレーションによる推計が可能な肥効調節型肥料を組み込んだ施肥設計を作成し,これによる一年間の作付け計画を立てていくことで無駄のない適正な施肥が可能となると考えられた。

 

 

ハイパーCDUの全量基肥施肥による
キャベツ畑からの亜酸化窒素の発生削減

ジェイカムアグリ株式会社 九州南部支店
顧問 郡司掛 則昭

Ⅰ はじめに

 温室効果ガスの発生は地球温暖化の進行とそれに伴う異常気象の発生と深く関係することから,多くの方が関心をもっている問題です。温室効果ガスとしては二酸化炭素が最もよく知られていますが,農業分野においては水田ではメタンガス,畑では亜酸化窒素の発生が問題です。どちらも二酸化炭素と同じ温室効果ガスですが,亜酸化窒素は二酸化炭素の310倍,メタンガスの15倍くらい地球温暖化を進める力が強いことから亜酸化窒素の発生を防止する技術の開発が急がれています。
 この亜酸化窒素の発生状況や発生メカニズムについては,今までに多くの知見が得られていますが,残念ながら畑から発生する亜酸化窒素を効果的に削減できる技術は確立されていません。
 ここでは,キャベツ栽培において緩効性窒素肥料であるハイパーCDUの施肥が亜酸化窒素の発生を削減する効果があることがわかりましたので,その内容について紹介します。

Ⅱ 試験方法

1)キャベツに対する施肥試験

 黒ボク畑(厚層多腐植質黒ボク土,熊本県合志市)において,試験規模1区40.8㎡(6.0m×6.8m)として春と秋の年2回キャベツの施肥試験を行いました。品種は麗峰1号を用い,栽培は熊本県の耕種基準に基づいて実施しました。
 施肥法はキャベツの施肥基準(窒素:リン酸:加里=24:20:20kg/10a)に基づいて窒素肥料として尿素を用いた慣行施肥区とハイパーCDUを用いた試験区を設けました(表1)。慣行施肥は基肥と追肥の分施体系で行いました。一方,ハイパーCDU区は窒素施肥量を慣行施肥と同量,20%および40%減肥した区を設け,いずれも全量基肥施肥で行いました。ハイパーCDUは従来のCDUに肥効調節の機能を付与した緩効性窒素肥料です。窒素の肥効によって短期,中期,長期の3つのタイプがありますが,この試験では長期タイプを用いました。リン酸および加里は各区共通で苦土重焼リンおよび硫酸加里を用いて施肥しました。

2)亜酸化窒素の測定

 亜酸化窒素発生量の測定はクローズドチャンバ一法で行いました。写真1に示すように,特製容器(塩化ビニル製チャンバー)を施肥,畦立て後に畑の地表面にかぶせて一定時開放置し,容器内の空気をガス採取用注射器で採取し分析を行いました。亜酸化窒素ガスはガスクロマトグラフを用いて同じサンプルを3回繰り返して分析し,亜酸化窒素発生量を平均値として求めました。

 測定期間は2006年春作開始から2007年春作終了までの1年以上で,栽培期間中は1週間,栽培終了後は2~3週間に1回の頻度で測定しました。

Ⅲ 結果

1)畑からの亜酸化窒素発生パターン

 図1は亜酸化窒素の濃度変化を1時間,1㎡当たりのμg(百万分の1グラム)で表しています。図1において,9月定植のキャベツ秋作では施肥直後に亜酸化窒素が高い濃度であることを示す大きなピークが見られますが,3月下旬に定植する春作では施肥直後よりも収穫後に大きなピークが認められます。

 このように畑における亜酸化窒素の発生はキャベツの作型によって大きく異なるパターンであることが明らかです。では,なぜ作型によって発生パターンは異なるのでしょうか。これには亜酸化窒素の発生メカニズムが関係しています。

2)亜酸化窒素の発生メカニズム

 亜酸化窒素の発生メカニズムについては,肥料や有機物の窒素の一部が土壌中で’硝化’と’脱窒’の過程で亜酸化窒素に変化することが明らかにされています。ここで’硝化’はアンモニア態窒素が硝酸態窒素に変わる過程,脱窒は硝酸態窒素が窒素ガスに変わる過程を意味しています。亜酸化窒素の発生が多いかどうかは肥料や有機物など施肥窒素量が多いこと,温度や土壌水分が高いことによって左右されます。

 このことから,秋作において施肥直後に亜酸化窒素が増加する理由は,9月の温度が高い時期に肥料窒素が一度に施肥されたため’硝化’により亜酸化窒素が多く発生したと考えられます。一方,春作収穫後における亜酸化窒素の急激な増加は,キャベツ残渣(有機物)が多量に土壌に施用されたため土壌中の施肥窒素量が増加したことに加え,収穫期が高温で多雨の気象条件であるため’硝化’と’脱窒’が盛んに起こり発生量が増えたと考えられます。

3)ハイパーCDUは亜酸化窒素の発生削減に有効

 施肥法の違いは亜酸化窒素の発生に大きく影響します。すなわち図1においてハイパーCDUと慣行施肥の窒素施肥量が同じ場合,慣行施肥区よりもハイパーCDU施肥区の方がいずれの時期でも亜酸化窒素の発生は少ないことが分かります。これはハイパーCDUを20%あるいは40%の減肥によってさらに少なくなる傾向が認められます。
 施肥法による亜酸化窒素発生量の違いを比較するために,図2に作型別および年間の亜酸化窒素発生量を示しました。ここで,春作および秋作は施肥日から次作開始前までの亜酸化窒素発生量,年間は両者の合計を表しています。

 亜酸化窒素の発生量は,施肥法に関わらず春作の方が秋作よりも高いのですが,いずれの作型においてもハイパーCDUを施肥することによって低くなることが分かります。特にハイパーCDUを慣行施肥よりも40%減肥した場合発生量の低下は顕著です。
 このことから,ハイパーCDU施肥は畑からの亜酸化窒素発生量を慣行施肥に比べて1年間の平均で約36%,減肥した場合は50%以上削減できることが分かりました。

4)なぜハイパーCDUは亜酸化窒素発生を抑えられるのか

 ハイパーCDU施肥によって亜酸化窒素の発生が抑えられる理由はハイパーCDUのもつ肥効調節の機能によるものです。この肥料は土壌に施肥されると生育期間を通してゆっくりと分解しながら窒素を供給するので,土壌中の無機態窒素が常に低い状態であるため’硝化’や’脱窒’が進みにくく亜酸化窒素が発生しにくいと考えられます。

5)ハイパーCDU施肥とキャベツ収量

 畑から発生する亜酸化窒素を減らすことはできるのですが,肝心のキャベツ収量はどうでしょうか。図3に示すように,春作および秋作キャベツの平均収量はハイパーCDUを施肥基準に従って施肥した場合は勿論ですが,20%あるいは40%を減肥した場合でも慣行施肥と同じ4t/10a程度の収量が得られており,収量性の面からも優れた施肥法であると言えます。

Ⅳ まとめ

 黒ボク畑のキャベツ栽培においてハイパーCDU施肥が亜酸化窒素発生に及ぼす影響について調べました。その結果,ハイパーCDUを慣行施肥量から20~40%減肥する施肥法は,強い温室効果をもつ亜酸化窒素の発生量を30%以上削減できる上に,慣行施肥と同等のキャベツ収量が得られることが明らかになりました。
 今後,ハイパーCDUと同じ肥効調節機能をもつLPコート,エムコートやロングなどの被覆肥料について亜酸化窒素の発生削減効果を明らかにし,これらを利用した効果的な亜酸化窒素削減技術を開発していく必要があります。