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第632号 2011(H23).09発行

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農業と科学 平成23年9月

本号の内容

 

 

ネギの全量基肥栽培における
初期生育向上のための育苗箱追肥技術

富山県農林水産部
農業技術課広域普及指導センター
西畑 秀次
(前 富山県農業技術センタ一野菜花き試験場)

1.はじめに

 富山県における根深ネギの栽培は,春まき夏秋どり(2~3月は種,8~9月収穫),春まき秋冬どり(3~4月は種,10~12月収穫)が主要な作型となっている。これら2作型の栽培では,各々の生育特性に合わせて窒素が供給できる被覆尿素を含んだBB肥料による施肥体系が普及している。これらの肥料を用いることで,施肥量は窒素成分で慣行の10a当たり20kgから,全層施用で約20%,溝施用で約50%の削減が可能となる(西畑ら,2000)。また,ハイクリアランス型トラクタを用いた畝立て同時条施肥により,施肥に係わる労働時間は約50%削減できる(西畑ら,2003)。しかし,この全量基肥栽培では定植後,施肥位置まで根が伸長する間,ネギの葉色が低下する等,初期生育が若干劣ることから,活着肥として定植直前もしくは定植直後に定植溝へ窒素成分で10a当たり1~2kg程度の追肥が必要となっている。全量基肥栽培は,圃場に基肥1回の施肥を意味し,定植直前もしくは定植直後に10a当たり2時間をかける初期の追肥作業は繁雑であるが,初期生育を確保するためには必要な作業となっている。そこで,この初期追肥作業の省力化を図るため,定植前に育苗箱に追肥する方法を検討した。

2.育苗期追肥へのハイパーCDUの活用

 育苗箱施肥では,定植後圃場10a当たり1~2kgの窒素成分量を施用するのが適当である。この場合,窒素含量が高い肥料を用いれば施用量が少なくて済むが,均一に散布しにくい。逆に,窒素含量が低い肥料を用いれば,均一に散布しやすいが施用量が多くなり,定植作業時に肥料が落ちやすい。また,散布量が同じ場合は,均一に散布するには粒径が小さい方が良い。
 これらのことから,窒素含量が低い細粒肥料として,被覆化成肥料(細粒品,窒素含量12%)を,窒素含量が高い細粒肥料として,新しく開発されたハイパーCDU(細粒品,窒素含量30%)を用いて育苗箱施肥法を検討した。

 慣行の定植直後追肥及び定植前育苗箱施用の区は,何れも定植50日後の生育が無施肥の区より優ることから,活着肥としての効果が確認できた。また,初期生育はハイパーCDU施用区が被覆化成施用区に比べて良好であった。これは,ハイパーCDUが被覆化成に比べての吸着性が高く,定植時に落ちる量が少ないこと,5月上旬は平均気温が15℃前後と低温で,ハイパーCDUの溶出には温度の影響が少ないことが影響している可能性が高い(坂本ら,2005)。ハイパーCDU施用区では,1箱当たり50g(本圃施用に換算すると1kg/10a)施用区と1箱当たり100g施用区の生育差が無いことから,1箱当たり50gの施用量で良いと判断できる。育苗箱施肥は本圃9月の調査では,初期追肥の種類や量に明確な差が認められないが,何れも慣行並以上の生育が得られた(表1)。

3.省力施肥体系

 従来の根深ネギ栽培では,10a当たり基肥と追肥4回の作業時間が合計8.5時間であった。今回の育苗籍施肥には,散粒器を用いれば約30分で10a分の施肥が可能となり,これまでに開発したハイクリアラン型トラクタによる畝立て同時施肥と組み合わせた省力施肥体系では2.5時間まで削減された(表2)。

4.おわりに

 ネギの全量基肥栽培では,これまで初期の葉色低下や圃場内の葉色ムラの発生を回避するために,定植前後に追肥を行っていたが,定植前に箱施用することで本圃での追肥作業が省略でき,省力化が図られることが明らかになった。
 今回報告の全量基肥は,本圃への施用であるが,育苗養土に全量施用する方法を用いることにより,ネギの根に一番近い場所に肥料があることから,施肥窒素は慣行の1/3程度まで削減でき,さらに活着肥は不要となる(西畑ら,2001) 。しかし,この育苗箱全量施肥では,育苗養土に混和する作業が繁雑であること,被覆尿素を混和した土は早めに使用する必要があることから,セルトレイに養士を詰める施肥機が不可欠となる。今後,セルトレイへの土詰め機や播種機に施肥機能を付与できれば,他の品目にも応用でき,より一層施肥窒素削減に寄与できるものと考えられる。

1)坂本淳ら(2005)
  新肥効調節型肥料「ハイパーCDU」の開発(第2報)細粒品の特性とそれを用いた育苗時同時施肥法,日本土壌肥料学会発表要旨

2)西畑秀次,松本美枝子(2000)
  ネギの生育に合わせた肥効調節型肥料による窒素供給,園学雑69(別2),398

3)西畑秀次,松本美枝子(2001)
  ネギの生育に合わせた肥効調節型肥料による窒素供給(第2報)育苗箱施用の検討,園学雑70(別2),286

4)西畑秀次ら(2003)
  主穀作大規模経営体へのネギ栽培導入は経営の安定化に有効である,園学雑72(別2),178

 

 

小麦に対する「グッドIB・エムコート入り複合407」
を用いた省力追肥法

熊本県農業研究センタ一生産環境研究所
研究参事 松森 信

1.はじめに

 熊本県内において小麦は約4,500ha栽培され,主に水稲の裏作物として水田の高度利用や機械施設の有効活用のための重要な役割を担っている。
 小麦の主な加工用途は日本めん用であり,またパン用の需要も伸びている。これら用途の子実品質は「たんぱく」「灰分」「容積重」「フォーリングナンバー」の4つの評価項目について基準値,許容値およびこれに伴うランク区分基準が定められており,特に「たんぱく」は製麺性あるいは製パン性に大きく影響を及ぼすとされる。しかしながら,一般的に西南暖地の小麦の子実タンパク質含有率は低い,あるいは産地間でバラつきが大きいといった問題を抱えている。例えば,2007年熊本県産日本めん用小麦の品質評価結果は,全33ロットのうち16ロットがBまたはCランクであった(全国米麦改良協会HP)ものの,個々の内容を確認すると,いずれも「たんぱく」の項目が改善されればAランク入りが可能であった。子実タンパク質の低下原因は品種や土壌条件によるもの,温暖多雨による湿害および窒素の流亡などが考えられている。また,実際の農家では水田において小麦の後作に水稲の作付けがあるために成熟期が遅れるのを嫌い,減肥や追肥回数の省略が行われる事例も見られる。

 一方で,一般に子実タンパク質は施肥管理によってコントロールしやすいとされ,生育後半の窒素供給を高めると子実タンパク質が上昇することはよく知られている。このため,小麦に穂ばらみ期追肥や実肥を施すのは有効な方法であることが様々な試験研究機関より報告されている。ただし,追肥作業ならびにその肥効を安定させるための土入れ作業は,草丈が伸長している穂ばらみ期以降は行いづらく,農家も敬遠しがちである。さらに,小麦は低コストでスケールメリットを活かして栽培する作物であり新たな労力やコスト負担をかけることはできる限り抑えたいところである。

 肥効を低下させずに追肥回数を省力化する手段として有効なのは緩効性肥料の使用であるが,これには子実収量ならびに先に述べた品質確保が伴わねばならない。しかしながら,麦類の追肥時期は低温期であるためその効果は明確でなく,施肥体系も確立されていなかった。ジェイカムアグリ株式会社(当時:三菱化学アグリ株式会社)では麦追肥専用肥料として「グッドIB・エムコート入り複合407」が開発されている。そこで,小麦において追肥回数を削減し,子実タンパク質を増加させる施肥法としてこの肥料の施肥技術について検討した。
 なお,試験は平成19年から21年の3年間にかけて,熊本県農業研究センターの多湿黒ボク土水田において,水稲の後作として品種‘シロガネコムギ’を栽培した。

2.低温期におけるエムコートの窒素溶出パターン

 グッドIB・エムコート入り複合407は,速効性窒素成分の他に,緩効性窒素成分として被覆尿素であるエムコートS30HとIBDUが主成分であるグッドIBを含んでいる。施肥された肥料の窒素溶パターンを求めるためメッシュバッグ内にエムコートS30日を2.5g入れたサンプルを必要個数作成し,1月下旬に小麦栽培中の黒ボク土水田に浅く埋設し,これを定期的に回収して残存する尿素を定量した。
 この埋設後から収穫までの気温は,試験年次により異なった。すなわち平成19年3月上旬までの気温が高めであり,その後4月上中旬までは低温であった。平成20年は2月に低温となった。平成21年は1月下旬から2月下旬までの平均気温が高かった(図1)。

 しかしながら,埋設されたエムコートS30Hの窒素溶出は試験年次にかかわらずおおむね同様であり,3月上旬までの溶出抑制期間を経た後に窒素溶出が始まると,その後は収穫時の5月下旬あるいは6月上旬までおおむね直線的に溶出が続くことが確認された(図2)。これはシグモイド型の溶出パターンであり,小麦の生育ステージとしては主に出穂前から登熟終期まで溶出が続くため,生育後半に窒素吸収を高め,子実のタンパク質を増加させる効果があることが推定される。なお,溶出は6月上旬にはほぼ完了するため,後作の6月下旬に移植される水稲には影響を及ぼさないと考えられる。

 一方,グッドIBの窒素溶出についても検討するため,不織布バッグ内で土壌と混和してほ場に埋設し,差し引き法によって窒素溶出を追跡したものの,黒ボク土における分析法は確立されていないために,抽出の際の回収率に問題が残った。しかしながら,施肥直後から緩効的に溶出が開始することは確認された(データ不記載)ため,栄養成長を促す生育中期の標準追肥に替わる役割を果たすと予想された。
 熊本県の標準施肥体系では基肥後,1月と2月にそれぞれ0.2kg/a程度の窒素追肥を行い,出穂後の追肥は行わない。現地では1回しか追肥を行わない農家もあるが,窒素が速効性のみの追肥では明らかに子実中タンパク質の低下が予想される。溶出パターンの異なる2種類の緩効性窒素肥料,エムコートS30HとグッドIBを全窒素量の30%ずつ含むグッドIB・エムコート入り複合407は,窒素溶出が栽培期間全般にわたって持続する一方,出穂後の窒素溶出も多くなるため,標準施肥体系をさらに改良する窒素供給が行われると推定される。

3.グッドIB・エムコート入り複合407の1回追肥による小麦の栽培

 グッドIB・エムコート入り複合407の省力的な追肥体系が小麦の収量および品質に及ぼす影響を検討するため,栽培試験を行った。いずれの試験区も基肥窒素量は0.5kg/aとし,標準区では追肥として1月と2月にそれぞれ速効性の窒素0.2kgを施用し,合計施肥窒素量を0.9kg/aとした。GIBエム407標肥区では追肥としてグッドIB・エムコート入り複合407を窒素成分で0.4kg,GIBエム407多肥区では同0.6kgをいずれも1月に1回のみ施用し,それぞれ基肥と追肥の合計窒素施肥量を0.9kg,1.1kg/aとした(表1)。その他の耕種概要は表2のとおりとした。

 試験を行った3年間の小麦栽培期間の気象条件は各年次ごとに異なった。平成19年産ではいわゆる暖冬であり,20年産では1月までの高温に2月の低温,21年産では気温が高かったものの降水量が多かった。このため子実収量レベルも年次によって異なり,平成19年産が平年より多く,20年産は平年並み,21年産は平年よりも低かった。

 この結果,まず生育では,いずれの試験年も標準区に対してGIBエム407標準区ならびに多肥区の生育ステージの遅れは見られず,出穂期,成熟期は標準区と同等であった。稈長ならびに穂長は標準区と同等であり,倒伏は見られなかった。GIBエム407標肥区の穂数は平成19年は標準区よりも多く,平成20年および21年は少なかった。GIBエム407多肥区の穂数は同標肥区よりも多かった(表3)。

 GIBエム407標肥区の子実収量は,いずれの年も標肥区よりも-1~4%の範囲であり,有意な差は認められなかった。子実の容積重ならびに検査等級はほぼ同等であった。千粒重ならびに㎡当たり粒数に一定の傾向は認められなかった(表4)。

 GIBエム407標肥区の窒素吸収量は標準区と同等か若干少なく,GIBエム407多肥区の窒素吸収量は同標肥区よりも多かった。子実のタンパク質含有率は,各年の平均値では標準区とGIBエム407標肥区に一定の傾向は見られず,有意な差は認められないと判断された。GIBエム407多肥区の子実タンパク質含有率は同標肥区よりも向上した(表5)。

 一般的に緩効性肥料を用いた場合には窒素施肥量を標準の1~2割減肥するが,ここでは子実中タンパク質の確保が重要であるため,窒素施肥量を標準栽培と同量にしている。この窒素施肥量と生育ステージに合った緩効性窒素(エムコート,グッドIB)を用いることが小麦の安定的な窒素吸収をもたらすものと推察される。

4.まとめならびに留意点

 以上の結果から,小麦に対してグッドIB・エムコート入り複合407を用いて,標準栽培における追肥2回分の窒素量を1月に1回追肥することにより,標準栽培並の子実収量と子実タンパク質含有率を確保し,追肥作業を1回省略することが可能であることが明らかとなった。
 この銘柄を用いた施肥体系のコストは,施肥窒素量が同量でも緩効性窒素を含む分標準体系より肥料費は高くなるが,追肥作業の労働費を含めると大きな差は無いと考えられる(製品価格の変動は留意すること)。
 なお,ダイズ後の小麦作では一般的に減肥されることが多いが,このダイズ一小麦作付体系における施肥については別途検討を要する。