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第634号 2011(H23).11発行

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農業と科学 平成23年11月

本号の内容

 

 

施肥設計への現場からの提言

JA全農おおいた営農支援検査センター
小野 忠

1.はじめに

 土壌診断の目的は,土壌養分の適正状態を把握すること,土壌改良材の施用量の決定,施肥設計であり,その他,データの活用方法として,地域や作物の経年的な変化等の土壌の実態把握の基礎資料とするものであろう。土壌改良剤の施用については,今日では塩類集積による高pHや高い塩基飽和度への対策として微量要素剤の施用が処方される事例が多く,石灰,苦土やリン酸資材の施用が処方される事例は少ない。
 土壌診断が最も威力を発揮するのは施肥設計であろう。全農おおいた営農支援検査センター(以下当センター)では本年4月から全農広域土壌分析センター(福岡)で分析を行い,分析結果をもとに独自の診断システムで産地や作物に対応した肥料銘柄を組合わせた施肥設計をセットにし,説明会を開催して生産者に情報提供を行っている。説明会では,当年の土壌分析結果から見える課題や,必要に応じて土壌の経年的変化等の情報をもとに,きめ細やかな指導を行うとともに,生産者との意見交換を重視し,産地の抱える土つくりの課題を当作や次作の施肥設計に活かしている。このような,生産部会を対象とした集団での説明会が基本となっており,土壌診断結果の説明資料も集団用と個別用(個人処方箋)を併用しており,土壌診断ソフトもこれらに対応したものとなっている。

 土壌診断の抱える課題は全国的に共通することが多いと思われるが,各県や地域で独自の対応が行われている。本県の土壌診断は開始以来約25年を経過したが,その歴史を引き継いだひとりとして責任の重さを感じているところである。本稿では,土壌診断業務に従事して半年を経過した中で,直面している現場の”生々しい”課題を思いつくままにとりあげ,その対応策を紹介する。産地名等は記述していないが,ここに取りあげた品目や産地は,それぞれ環境に優しい持続的な生産安定に向け,土壌診断やそれに基づいた土づくりへの期待が大変大きいことを強く感じている。紹介した事例については,他県ではすでに解決されているものや,もっと有効な解決策があるものと思われる。御一読された皆様からこうした意見を寄せて頂き,本県の産地の振興に少しでも役立たせたいという思いから執筆を受けた次第である。

2.土壌診断の課題

1)リン酸,カリ集積の原因と対策

 施設土壌では土壌の有効態リン酸や交換性カリの集積が進んでいるが,原因は,リン酸やカリを多く含む家畜ふん堆肥の施用やリン酸施肥によるものである。
 かつては,家畜ふんとわらや草木類を混合して比較的養分の少ない堆肥(土つくり堆肥)を生産し,ある程度の量の施用を行いながら,養分の集積抑制と土壌の物理性改善を行う伝統的な土つくりにより産地の維持が図られてきた。しかし,昨今は,このような堆肥生産は減少し,家畜ふんを主原料とした購入堆肥や近隣の畜産農家が生産する堆肥が利用されている。

 本県では大分県有機資材生産者協議会(事務局全農おおいた)が,会員の堆肥分析や幼植物試験の結果を利用者に提供している。その中には,原料となる家畜ふんの種類や混合物の違いによる養分含量やバランスの異なる実に多様な堆肥があり,利用者は,これらのメニューの中から,自分の圃場に適したものを選ぶことができる。
 これまでも,土壌養分の状態を考慮してより望ましい堆肥の施用をすすめてきたが,残念ながら,多くの品目で土壌のリン酸やカリ集積を抑制するような十分な改善には至っていない。引き続き,リン酸やカリの少ない堆肥の利用をすすめざるを得ない状況にあるが,堆肥の施用を控える事例も増えている。作物の安定生産には堆肥施用が必要であり,土壌の養分集積の抑制に留意しながら堆肥施用を図っていかなければならない。

 以上は,これまで指摘されている施設土壌での養分集積の主なものであるが,これ以外の原因について本年想定された事例を紹介する。
 図1は冬ニラ産地(8月~翌年6月)の約70筆のほぼ同ーの生産者の表層土壌の分析値について平成22年度と23年度を比較したものである。採取時期は6~7月上中旬で7回目目の刈取後である。2年間の分析値は,pH,EC,CECの差は小さいが,平均値でみると,有効態リン酸が約30mg,交換性石灰,苦土,カリが5.8me(160mg),1.0me(20mg),1.8me(86mg),塩基飽和度50%と大幅な増加量となっている。有効態リン酸の増加は施肥との関係が伺われるが,交換性塩基(石灰,苦土,カリ)の増加は,これらの成分を多く含む堆肥の施用でも説明がつかないし,生産者からの個々の聞き取りでも,ここまで土壌養分を増加させるような堆肥を施用している実態は確認できなかった。また,同じ作型の隣接の産地や,これまで土壌診断を行った他の品目で,明らかにカリを多く含む堆肥施用との関係が見られる事例以外ではこのように1年間での顕著な塩基類の増加は見られていない。

 冬ニラでは,ビニルハウスの中で最後の収穫(7回目)を行った後の6~7月頃に採土し,その土壌分析結果に基づいて,8月上中旬に堆肥施用,元肥施用を行い苗を定植する。定植直後に被覆ビニルを取り除き露地状態で株養成を行い,株養成終了後の11月頃に再びビニル被覆を行う。
 平成22年度の収穫後の採土時以降の天候は,記録的な好天が続き,表1に示すように,収穫後から株養成期間の蒸散量は約600mm,降雨に当たった量は約170mmであった。この間のかん水量を考慮しても,蒸散量が降雨量を大きく上回っており,毛管水の上昇により下層土に集積していた養分が表層に移動し集積した可能性が伺える。

 また,塩基類よりも溶脱し易い硝酸態窒素は,栽培期間中のかん水により再び下層に溶脱したと推測される。ニラ圃場の養分集積の実態を示す平成16年の調査結果を表2に示すが,深さ60cmまで養分が集積しており,これを裏付けるものである。

 これらのことから,昨年からの土壌養分の急減な増加は,昨年の気象と冬ニラ独特の栽培によって,本年7月採取の土壌分析結果に表れたものと思われた。このことは,推測の域ではあるが,結果的には,昨年の土壌診断による施肥設計は実態とはかなりズレが生じた可能性がある。土壌や作物が一定期間露地状態に置かれた場合,多量の降雨があれば,カリの表層からの溶脱,乾燥状態が続けば集積することもあり,現実的な対応は難しいながら,天候によって窒素のみならずカリの施肥も修正しなければならない場合もあることを考えさせられるものである。なお,当センターでは,新たな施肥案やビニル被覆を除去しない栽培(張りっ放し)等に対応するため2~3案の施肥設計の提案を行っている。
 一般的に,施肥設計は慣行の施肥例をもとに肥料成分の増減を行い,必要に応じて新たな肥料を加え調整する程度で,産地の施肥体系を大きく変えることは容易ではない。しかし,当センターでは前述するような急激な土壌養分の増加に対応した新たな施肥法を提案せざるを得ない事態となった。

2)低温期のリン酸カリ対策と肥料の選定
  ニラの場合

 低温期の施設栽培では,加温により地温が確保されるが,凍害を防止するために設定最低温度が3~5℃と低い品目も多く,このように設定最低温度が低い場合や無加温栽培(締め切り,二重被覆等)では11月~3月にかけての平均地温は15度以下となる。
 ニラ栽培の場合は,8月に施肥を行い苗を定植し,翌年6月頃まで約7回の収穫が行われる。この間の養分の吸収量は1作の吸収量(N-P2O5-K2O-CaO-Mg;10-3-10-1-1)をもとに算出すると窒素,リン酸,カリで約70,20,70kg/10aとなり,施肥量もほぼこれに見合う量となっており,刈り取り毎に追肥を行う。栽培前の土壌のリン酸,カリが高い場合には,これらの成分を削減した施肥が行われ,株養成が終了する11月の初回刈り取り後にビニルマルチを行いビニルを被覆する。その後,翌春までの低温期の間3回刈り取り後にその都度マルチ下への施肥を行う。

 リン酸,カリが集積した土壌で,冬期に地温が15℃以下で推移し,ハウスの締め切り,しかも全面マルチ(株元に穴)の条件では,使用できる肥料の種類が限られたものとなり施肥設計上悩ましいところである。硫安の施用が手っ取り早いのであるが,過度に使い過ぎると酸性化,高EC化を招くことになり,積極的に勧めることができない。昨今,硫酸イオンが土壌に集積してECを高め,ECによる窒素の施肥設計ができない場合も多くなっている。尿素や油かすはハウスを締め切った条件ではアンモニアガス障害が懸念される。リン酸,カリ成分の少ない肥料は,硫安を配合しており,また,少量ではあるがリン酸,カリの持ち込みもあり,回数が多くなるとその量もかなりのものとなる。また,地温が低いため被覆尿素の利用は難しい。中には,低温期を経過する品目で肥効タイプが地温変化に適していない被覆肥料が導入されている事例もあり,検証が必要である。

 このような条件で使用可能な肥料のひとつとして,微生物分解型の緩効性肥料であるハイパーCDUあるいは加水分解型の緩効性肥料であるIBDUについて着目した。当事例ではハイパーCDU中期を株養成終了後(1回目収穫)時の11月頃に施用し,ハウスを締め切った状態で3月中まで窒素を効かせるものである。土壌のリン酸,カリの集積の実態を考慮すると他には選択枝が見つからない。1回目の刈り取り後に3回分の肥料を施用することで,慣行で行われているマルチ下への追肥の改良にもなる。気温が上昇する4月以降は,土壌分析の結果によってはカリの施用が必要となることもあり,低リン酸・カリ肥料,尿素の施用や,限定的ではあるが硫安施用も可能となる。
 ニラのような多肥作物では,養分の吸収量を念頭に入れた,元肥と複数回の追肥の設計を講じないとリン酸,カリの集積を抑制することができないと思われる。年間,複数回(最大8回)の連作と追肥が行われる品目は,アスパラガス,果樹,小ネギ,軟弱野菜等多品目にわたっており同様の対応が必要であろう。表3に小ネギの施肥設計の事例を紹介する。

3)土壌診断の施肥の処方基準と施肥設計

 リン酸やカリが集積した土壌での減肥方法については,リン酸は,有効態リン酸濃度をもとに,カリについては,交換性カリ濃度(mg/100g乾土)とカリ飽和度を考慮し,減肥率を,3~10割と,3~4区分で設定している事例が多いようである。中には,有効態リン酸濃度から減肥基準値(例えば100mg)を引いてリン酸施肥量を示している事例もみられるようである。
 当センターの減肥処方では,減肥の根拠には弱いところがあるが,0~100%の細かい減肥幅で基準を設定している。大幅な削減を処方するよりも生産者には受け入れ易い。肥料処方基準をもとに窒素,リン酸,カリの施肥量を組合わせた施肥量を算出し,これを元に複数の肥料銘柄を用いて施肥設計を行っている。品目,作型の違いや,産地の要望等も配慮することで使用する肥料銘柄も異なるため複雑ではあるが,エクセルを用いて,品目,作型,産地の作物別土壌改良目標シート,減肥処方シートを元に施肥量を算出し,これをもとに,1品目に複数の肥料を登録した肥料銘柄シートで肥料資材の量を調整し施肥量を決めている。

 なお,現状の減肥処方では,窒素はECで,カリはカリ飽和度を優先に施肥区分を設定している。本年4月から硝酸態窒素が測定項目に加わったことや,施設栽培圃場で,ECと硝酸態窒素濃度の関係が硫酸根の集積により乱れていることがわかり,硝酸態窒素濃度をECに読み変えて判定し,交換性カリ濃度の適正判定はカリ飽和度で行い,施肥設計はカリ飽和度と濃度(meq)を元に設計している。今年度中に,窒素は硝酸態窒素で,カリはカリ濃度をもとにした施肥設計に移行する予定である。

4)土壌消毒(陽熱,燻蒸)と被覆肥料を用いた施肥

 多くの品目で被覆肥料が用いられているが,被覆肥料を用いる場合は,栽培期間中の積算地温,施肥から定植・播種までの期間を考慮に入れて施肥を行わなければならない。現場では,平均地温が15℃を下回る低温期の被覆肥料の施用や,適期より1カ月前の施用,2週間~1ヶ月前施用と陽熱消毒やマルチ内燻蒸剤消毒等,適正な使用法が疑われる事例が多く見受けられる。このような,事例に対しては,適正な被覆肥料の選定と施肥時期について指導を行っていかなければならないが,施肥後のマルチ内消毒については,施肥と畦成型マルチによる省力のメリットが大きく,施肥の基本として消毒後の施肥に戻すことについての課題もある。

 被覆肥料施用後の太陽熱消毒,燻蒸剤による土壌消毒は,被覆肥料の膨圧を高め,被覆剤の劣化を促し,これにより肥料溶出のコントロールが効かずに,早期に溶出してしまう懸念がある。全量元肥施肥等で施肥量が多い場合には早期の肥料溶出によって追肥が必要となったり,作物によっては,成長のバランスが乱れ,収量や品質にも影響をもたらすであろう。
 このような使用例は,省力化を考えるとユニークな栽培管理であるが,試験研究成果(消毒後の施肥)が現場でアレンジされたものとなっている場合もあり,検証が必要である。さらに,太陽熱,燻蒸消毒条件下で,想定する肥効発現が可能な肥料の選定についても明らかにすべきである。しかし,現場で施肥設計を行うものにとって,懸案事項が改善されないまま施肥指導を行うことには不安があるが,緊急の施肥法を提案せざるを得ない。
 速効性肥料の肥料の分施,液肥施用に加えて,太陽熱,燻蒸剤消毒の影響が少ないとされるハイパーCDU(短期,長期,中期)に期待を寄せているところである。

5)水分管理と施肥

(1)かん水を想定した施肥のあり方

 土壌診断の時期や回数について質問を受けることがある。施設で年複数回連作する品目については,作物の養分吸収量や,栽培時期,堆肥施用,水管理等の情報と診断後の作付け回数等を想定できれば年1回の診断で年間の施肥設計が可能と考えている。
 その場合,各作の施肥設計に準じて施肥を行い,適正な水管理と,堆肥施用の種類や施用量がある程度守られる必要がある。また,現場では,生育が劣ると判断すると追肥で施肥量を増やすことが行われるが,このような肥料不足を生じない施肥設計を提案しなければならない。施肥設計では前作の硝酸態窒素の残存量を元に窒素施肥量を削減するが,土壌の硝酸態窒素濃度は,採取位置(畦立栽培の場合ではかん水の位置で濃度が大きく変わる)や,採取後から施肥までの降雨の影響,そして,施肥後のかん水の多少によって変動し易い。窒素の減肥方法については三要素の中では最も容易と考えられがちであるが,硝酸態窒素濃度の変動する要因が多く,作物の生育に悪い影響がないように対処しなければならない。

 多量のかん水は表層の硝酸態窒素を下層に溶脱させるため,水管理は施肥とともに肥効の持続に重要である。前作後に土壌に残存する硝酸態窒素が多い場合は窒素を減肥するが,播種・定植後のかん水量が多いと,残存する硝酸態窒素が表層から溶脱し,窒素不足により初期生育が劣ると減肥が裏目になることもある。
 元肥にリン安や硫安配合肥料や有機質肥料あるいは緩効性肥料(被覆資材,微生物分解資材)が施用されると,これらの窒素成分は施用直後に多量のかん水が行われても一時的には溶脱し難い。しかし,播種後発芽苗立ちまでの期間中に,高温期では約1週間で硝酸態窒素に変わり,その間に多量のかん水が行われると,残存していた硝酸態窒素と一緒に溶脱され易くなる。
 施設野菜(軟弱野菜等)では,発芽時に多量のかん水を行って圃場全体の土壌水分の均一化を図り,ある程度の深さまで湿潤にして,その後,適正なかん水を行い,次第にかん水量を少なくして(水切り)収穫を迎える品目がある。このようなかん水によって生育をコントロールする品目については,かん水を想定した施肥を行う必要がある。その他の品目でも,土壌診断で元肥の窒素成分を減肥する場合には,かん水量が多いと硝酸態窒素が溶脱するため生育初期のかん水には十分留意しなければならない。かん水により一旦表層から溶脱した硝酸態窒素は,その後のかん水量にもよるが,蒸発散による毛管水の移動に伴って再び表層に戻り,追肥のような効き方をすることも念頭に入れる必要がある。発芽苗立ち時の肥料切れを防ぐには元肥の施肥の改善を図る必要がある。

 施肥設計では,施肥・播種直後のある程度の多量かん水を想定した対策が求められるのではないかと考えている。例えば,標準窒素施肥量が15kg/10aの品目で,土壌診断による施肥設計で無肥料~5kg/10a程度の減肥処方となった場合等には,肥料の溶脱を想定し,施肥後発芽苗立ちの生育初期の概ね1~2週間の間はかん水で流亡し難い窒素単肥の施肥として,短期の緩効性肥料(ハイパーCDU細流2等)を窒素成分で5kg/10a程度を元肥としてあらかじめ追加する等の対策である。ナタネ油かすも同様な目的でハウスの開放条件で利用可能ではあるが散布量が多く分解が速い点等でやや適というところである。尿素は土壌に吸着されにくいためこのような場面での使用は不適と思われる。結果的には,5kgの施肥が10kgに増えることになるのであるが,時間をかけて土壌養分の改善を図っていくことをねらいとするものである。

 この他,マルチ内にかん水チューブを配置する作物(ピーマン,キュウリ等)でも,診断結果に基づいて元肥を減肥すると,定植後のかん水量が多いと硝酸態窒素が表層から溶脱して草勢の低下を招き易く,結果として追肥量が多くなり,養分集積を進めることもある。いずれにせよ,かん水は窒素の肥効持続と根張りを良好に保つために重要な管理である。畦成形前に土壌を湿潤にして施肥,畦立て,定植を行い,生育初期にはかん水を抑え気味としその後適正なかん水を行うことで,窒素肥料の肥効が持続し,表層と下層での根張りを良好にすることにつながる。

(2)根域の浅いれき質土でのかん水と施肥

 れき質土で,表層が20cm程度でその下層は締まったれきの層からなり,根の伸張が制限されている条件での花き類の土壌管理に関する事例である。
 前述したように,前作の残存する硝酸態窒素や,施肥後定植までの日数によっては施肥窒素がかん水で溶脱し易いことや,本事例のように,根域が下層に伸張できず下層に溶脱した硝酸態窒素を利用することができなくなる。下層へ溶脱した硝酸態窒素の毛管水の上昇による表層への戻りについても可能性が低いと思われる。
 施肥後に間を置かずに畦成形と定植を行うことや,土壌消毒前後に十分なかん水を行ってその後耕転に適する水分状態とし,施肥と作畦を行い定植を行うことで表層土壌の物理性を良好に保ち,さらに,定植後のかん水による窒素の溶脱を防止することになる。苗の活着に多量のかん水を要する場合は,当然ながら,元肥窒素には溶脱し難い種類の肥料を施用する必要がある。また,土壌水分が多い条件でも根の活力にプラスとなるような通気性や保水性等に有効な物理性改善策も必要であろう。

 現場の施肥とかん水の実態を十分に把握する必要があるが,一般的には,かん水量は,かん水資材の違い,かん水時間,かん水圧によってかなりの個人差が生じていると思われる。また,施肥についてもかん水量が多い生産者は,多肥気味であったり,鶏糞を使用している事例もある。かん水と施肥は切り離せない関係にあり,多肥と多量かん水でそれなりの高収量を確保することが可能であるが,土壌の養分集積を招き易く,除塩等による環境への負荷が高まることになる。
 当該産地は,県内有数の花きの産地となっており,さらなる向上を期待して産地の土壌管理について考察を行ったものであるが,土壌分析値から施肥設計を提案するにとどまらずに,土壌診断を核にしての一歩踏み込んだ取組みの必要性を感じるのである。収量,品質の個人差が大きい状況を考慮すると,このような根域が浅い条件で,リン酸,カリの養分集積の抑制,適正なかん水よる土壌水分と肥効の持続,そして環境に優しい持続的な生産を可能にする土壌管理を体系化する必要がある。

6)肥料の散布

 施肥設計で減肥が必要となった場合は,窒素,リン酸,カリの量を調整するため,標準施肥のシンプルな肥料に比べて肥料の種類が増える場合が多い。表4に品目に対応した登録肥料の種類と成分表(略)の一例を示しているが,実際は,この中の肥料を組合わせて施肥設計を行っている。

 現場では,施肥する肥料の種類が多い場合(数種類となる場合もある)でも,肥料を面積換算し1種類毎に手散布しているようである。規模の大きい生産者では,面積割して肥料を混合し機械で散布している場合もある。共通するのは,成分濃度の濃い肥料(LP等)では施肥量が10kg/10aとなることもあるが,このように施肥量が少ないと散布し難いとの声が聞かれる。これまで少量の方が散布労力がかからないだろうと思っていただけに,これには少々とまどいを感じさせられたものである。

 リン酸,カリの減肥に使用される資材としてナタネ油粕が重宝されてきた。窒素を5kg施用するのにナタネ油粕100kg/10aの施用ともなると,袋数も多くなり結構な肥料代となる。これを濃度の濃い窒素単肥(LP40等)に代えると,10kgと少量で済み,しかも肥料代が半額以下となるのであるが,散布量が少なくなるために散布し難い,他の肥料と混ぜる場合の容量が少ないので機械散布がし難いということである。
 微量要素剤の1~3kg/10aの施用について度々質問を受けることがあるが,病害の心配のない土を集めることができないような場合には,ナタネ油粕や米ぬか等を養分としてカウントしなくても良い程度の少量(20~30kg/10a)を混合して施用することを勧める。
 複数の肥料を施肥する場合に,全肥料を混合し(庭先BBとでも言おう)施肥することを提案してみるも,良く混ざらない,分離し易い等でこの提案の受けは全く良くない。間違わないように,丁寧に,1種類毎に散布するとする生産者がほとんどである。庭先BBの方法の最善策があれば良いのであるが。例えば,前述のように少量のナタネ油粕や米ぬか等を混合することで肥料が均一に混ざり,分離し難いものとなれば生産者に受け入れられるのではないかと期待を持っている。

 その他の肥料の散布の課題について,施肥設計では,肥料の種類を10a換算で表記しているが,注文となると面積割し袋換算で購入する。設計量よりも多い場合は,肥料を次作(年)用に残すことを前提としているのであるが,実際は,散布残が生じないように全量施肥するか,肥料が対象面積に行き渡らないことを想定し多めに購入していることもあるようである。設計通りに施肥することの難しさであるが,成分濃度の薄い肥料ではそれほど問題とならないが,濃い肥料ではせめて5kgの切り上げ程度で施肥すればそれほど施肥設計と差が生じないようであり,静観しているところである。

3.土壌診断と有機物の施用をどう進めるか

 今日のように,土壌のリン酸やカリの集積が問題となっている状況では,堆肥施用と施肥は別物とする考え方にはすでに限界が来ているし,堆肥からの養分を考慮して設計しないと施肥設計の存在意義が問われかねない。実態は不明であるが,全国的にも堆肥の肥料成分の肥効を施肥に反映するような処方箋作成が行われているようである。
 本県では前述するように,有機質生産協議会が組織化されており,堆肥の情報をホームページ等で提供している。現在40以上の資材情報がある。表5には,協議会の最近6年間の堆肥を牛ふん系,豚ふん系,鶏ふん系,パーク系に分類し,その平均値と標準偏差を示している。これによると,堆肥成分の年次間のバラツキがきわめて小さいことに注目したい。このことは,登録肥料と同様に堆肥の施用量を決めて施用すると,かなり高い精度で,その成分を反映し不足分の肥料を他の肥料で調整することができる。

 全国的に,堆肥を施肥設計に組込み低コスト施肥や養分集積を防止しようとする動きが進んでいるが,本県では,堆肥の製造・販売業者(有機物生産者協議会会員等)の中には農業へ参入者も多く, 自社の堆肥を土つくりや肥料として利用して施肥設計に組込む動きもある。露地栽培では堆肥の施用労力やコストに課題があるものの,規模が大きい場合には肥料コスト低減には有効であろう。一方,養分集積が進んでいる施設栽培では,堆肥の施用量をかなり抑えないと,リン酸やカリの持ち込み量が多いため,肥料成分の調整を他の肥料で行う際の施肥設計が難しい状況になる。
 堆肥を施肥設計に反映していくことは理想的な方向であり,産地や部会で堆肥の種類を決めれば施用量を100kg/10a刻みで処方実に組み込むことは可能であろう。ただ,一筆毎に土壌養分の状態が異なり使用する堆肥の種類の統一性がなければ個別の対応は難しいのではないかと思う。また,諸般の事情もあり,堆肥を施肥設計に反映することへの関係機関の調整が必要であろう。

4.施肥前後の栽培管理と肥効について

 作物の播種や定植の前後には,土壌消毒,堆肥施用,石灰資材施用,施肥,作畦,マルチ,定植等の作業があり,これらの一連の作業行程と窒素肥料の肥効には深い関係があるが,現場では作業の省力化を図るために様々な行程がある。
 堆肥施用による土壌微生物の改善を期待するサイドからの推奨すべき行程①は,土壌消毒,ガス抜き,石灰資材施用,堆肥施用,施肥,作畦,マルチ,播種・定植であろう。
 これに対して,堆肥からの病害虫の持ち込みを心配するサイドの推奨される行程②は,堆肥施用,土壌消毒,ガス抜き,石灰資材施用,施肥,作畦,マルチ,播種・定植である。
 また,省力化を最優先とするサイドでは行程③,堆肥施用,施肥,作畦,マルチ,土壌消毒(マルチ内処理)播種・定植も推奨されている。
 土壌消毒を行わない場合は,石灰資材施用,堆肥施用,施肥,播種・定植となるが,施肥後播種定植までの期間を考慮しなければならない。播種定植の直前の施肥を想定した施肥体系の品目(例えばイチゴ)の場合には,1ヶ月前,1~2週間前,直前施肥で,窒素の肥効に大きな影響がでる。土壌消毒との関係で大きな影響を受けるのが土壌の硝酸化成である。また被覆肥料が使用される場合にはその影響は大きい。
 以上述べたように,現場では,施肥から播種・定植に至るまでの行程は様々であり,実際は,これらの行程を考慮していない場合も多いものと思われる。土壌診断に基づく施肥設計を有名無実にしないように,作業行程をしっかりと指導するか,行程に見合ったあらたな施肥法を導入する必要があると考える。

5.最後に

 土壌診断は,土壌の養分状態の把握,土壌改良剤の施用および施肥設計を通して,農作物の生産安定に貢献し,その重要性については周知のものとなっている。しかし,診断で最も問題となるリン酸やカリの集積が作物生産に与える影響については判然としない部分が多く,生産者からは過剰の弊害と施肥改善の必要性の有無を問われることがしばしばである。不要な養分を持ち込まない,土壌養分の適正化を図る,栄養生理的な面での石灰吸収抑制を防止する,施肥のコスト低減,耐病性の低下等の点で答えている。
 土壌診断が生産性を支える基本技術として生産者のさらなる衆目を集めるには,化学性診断に加えて,現場の入手方法が鍵となるが,土壌物理性にかかる情報を統合し,施肥,有機物施用と水管理に至る総合的土壌管理を体系化する必要性を切実に思うものである。

 

 

福島より震災復興レポート

頑張る「(有)泉ニューワールド」

ジェイカムアグリ(株) 小名浜営業所
佐藤 康彰

 例年であれば,生産者誰でもが喜ぶ実りの秋ですが,今回紹介する「(有)泉ニューワールド」は福島県浜通りに位置する南相馬市原町区にあります。
 会社は海岸線から約500mの場所にある為に,3月11日の東日本大震災では津波によって事務所,自宅ともに大きな被害を受けてしまいました。震災後,家族は約1ヵ月半親戚の家に避難し,事務所の復旧作業に入りました。現在,会社の事務所は車庫の1階を改造した仮設事務所で,また生活は車庫の2階を中心にされており、まだまだ復旧作業は始まったばかりの状況です。
 農業機械は格納庫にありましたが水没してしまい,一部の機械は整備すれば使用は可能とのことですがほとんどの機械は再生不能で膨大な費用がかかってしまいます。敷地内にあった牛舎もやられましたが,軒先まで達した海水の中で,繁殖牛子牛も含め11頭は,体が浮いていたと思われますが奇跡的に助かりました。牛は友人の畜舎で6月中旬まで約3ヶ月面倒をみてもらい自宅敷地内の畜舎に戻ったということです。
「(有)泉ニューワールド」は平成16年2月に法人設立され,通常の年であれば,受託を含め約45ヘクタール作付けしています。その内訳はブロックローテーションを取り入れ水稲,大豆,小麦を概ね3分の1ずつの他,飼料作物として燕麦を1.6ha作付けしていました。
 今年の水稲については南相馬市が市内全域で作付けをしないことを決定したため,第一原発から20~30kmの緊急時避難準備区域にある「(有)泉ニューワールド」でも作付けはしませんでした。

 小麦の刈取りできたのは2ha,大豆の作付けできたのは14haと通常の年の極一部にすぎませんでした。
 大豆の肥料は「ジェイカムアグリ(株)」製造の「豆プロ一発(くみあいエムコートL40・S60H・S80H入り複合25)」を使っています。この肥料は平成21年に「(有)泉ニューワールド」佐藤幸信社長の協力を得て開発した経過があります。従来使用していた肥料は窒素成分が低かったため,散布必要量が施肥・播種機の能力を上回り高チッソ肥料が求められました。この要望に応え,試験施肥を経て目標散布量をクリアーし完成したのが「豆プロ一発」で,現在では2袋/10a使用しています。ローテーションでの大豆のあとの水稲作付けはチッソを控えるなど効率性,経済性も図っています。

 今後の作付けについては,可能な耕地は一部あるものの,多くの耕地が津波で浸水したことや瓦磯除去が,まだ済んでいないこと,水路も被害を受けていることからまだ見通しがたっていないとのことでした。福島第一原発の爆発による放射性物質の風評に伴う農作物の販売価格低迷も心配されていましたが,地域の農業と立ち上げた会社を守るため復興のために頑張っています。
「がんばろう 南相馬! がんばろう 福島!」