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第637号 2012(H24) .03発行

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農業と科学 平成24年3月

本号の内容

 

 

コシヒ力リの全量基肥一括施肥栽培における
LPコートSS100の施用量と胴割粒の関係

福井県農業試験場 生産環境部
土壌・環境研究グループ
研究員 細川幸一

1.はじめに

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書では,地球の平均気温は過去100年間に約1度上昇したとされている。我が国においては環境省が1970年代から20年間で平均気温が0.8℃上昇したと報告しており,農業分野にも様々な影響が現れ始めている。福井県でも水稲の出穂期が早まる傾向にあり(図1), 品質面への影響として登熟期間の高温による乳白粒や未熟粒に加え,最近では胴割粒の発生が見られる(写真1)。

 胴割粒は搗精時に歩留まりが低下することや,炊飯時に食味が低下することから実需者,消費者からのクレームの要因となる。なお,胴割粒は刈遅れや高温での乾燥調製など人為的な原因でも発生するが,登熟初期の高温や登熟期間の葉色が淡い場合に発生しやすいことが知られている。
 近年,食味や環境に配慮した施肥への転換が図られており,農林水産省の統計では全国的に施肥窒素量が減少傾向にある。福井県は側条施肥田植機による基肥一括肥料の普及割合が80%以上と推測されるが,基肥一括肥料で施用量を減らすと,必要な穂肥量を確保できず登熟期間の窒素栄養不足による胴割粒の発生が懸念される。特にコシヒカリでは前年に倒伏した場合,施肥量を減らす農家が見られる。そこで,コシヒカリにおいて基肥一括肥料の穂肥にあたるLPコートSS100(以下LPSS100と略す)の施用量と収量や胴割粒などの品質との関係を検証した。

2.試験方法

 試験は2009年および2010年に福井県農業試験場内の圃場で行った。土壌は細粒強グライ土の地力が中庸な圃場で,試験区は1区あたり15㎡で2反復設置した。2009年は移植時期を4月30日とし,基肥として尿素を窒素成分で2kg/10a施用した。2010年は移植時期を4月28日および5月20日とし,基肥を4月30日移植は尿素を窒素成分で3kg/10a,5月20日移植は2kg/10a施用した。また,両年ともLPSS100を基肥施用時に窒素成分で3,4,5kg/10aと段階的に施用した。生育調査は出穂期前後の葉色を測定し,収量調査は60株刈で粒厚1.9mmの飾選別をして収量を算出後,穀粒判別機で外観品質を測定した。玄米タンパク質含有率は窒素濃度を測定後,タンパク質換算係数である5.95を乗じて算出した。

3.調査年次の気象条件

 調査年の登熟期間の平均気温と平均日射量を表1に示す。2009年は低温寡日照(以下,低温年),2010年は高温多日照年(以下,高温年)であり対照的であった。胴割粒は出穂後10日間の平均気温が28どを超えると発生しやすいことが報告されている。従って,2009年は胴割粒が発生しにくく,2010年は発生しやすい年であったと考えられた。

4.試験結果および考察

1)葉色および稲体窒素含量

 LPSS100は幼穂形成期から成熟期にかけて緩やかに溶出した。幼穂形成期の窒素溶出率は2009年(低温年)で7%,2010年(高温年)の4月28日移植が15.8%,5月20日移植が19.6%と気温の年次間差を反映したが,何れの年も施用量が多い程,登熟期間の葉色は濃く稲体窒素含有量が高く推移した(図2,表2)。

2)外観品質

 LPSS100を窒素成分で3kg/10aから5kg/10aに増施すると,高温年において胴割粒,乳白粒が減少した(表2)。このとき,胴割粒と出穂期の稲体窒素含有量には負の相関関係が認められた(図3)。

 また,LPSS100の増施で総籾数,千粒重,収量は高温年,低温年に関わらず増加した(表2)。一般に穂肥の増施で籾数が増加し千粒重が低下するが,LPSS100は頴果分化期頃の肥効が緩やかで,増施しても籾数の増加が限定的であると考えられた。さらに千粒重が増加したことから,LPSSの肥効は籾数増加より出穂期以降の同化能力に強く影響したと考えられる。

3)玄米タンパク質含有率とLPSS100の施用基準

 LPSS100の増施で収量,品質が向上する一方で玄米タンパク質含有率も増加した(図4)。良食味米生産のため福井県ではコシヒカリの玄米タンパク質含有率の基準値を6.5%以下としている。一般に,低温年は玄米タンパク質含有率が高くなるため,低温年の結果から施用基準を設定することが妥当である。従って,LPSS100の施用量は窒素成分で5kg/10aまでを基準とする。

5.まとめ

 以上の結果から,コシヒカリの全量基肥一括施肥栽培におけるLPSS100の施用量と胴割粒の関係は次のようにまとめられる。
1)LPSS100は幼穂形成期頃から主たる溶出を開始し,施用量は葉色と出穂期の稲体窒素含有量に反映される。
2)LPSS100を増施すると高温年において胴割粒,乳白粒が減少する。このとき,胴割率は出穂期の稲体窒素含有量と負の相関関係にある。
3)LPSS100の増施で玄米タンパク質含有率が高まるが,地力が中庸な圃場では施肥窒素量を5kg/10aまでとすることで,6.5%以下にすることができる。

 福井県のコシヒカリ用基肥一括肥料は様々な銘柄があり,速効性窒素と緩効性窒素の配合割合も多様であるが,現在,高温障害回避の観点から穂肥重点型の基肥一括肥料への切り替えを行っている(写真2)。その際,過剰施肥による食味の低下を防ぐため農家ごと集落ごとに食味値を調査し施肥指導に反映させている。
 また,施肥以外の高温障害対策として,移植時期の遅延,直播栽培の推進,エコファーマーへの誘導と土づくりの推奨も併せて実施している。

 

 

栽培現場で利用できる土壌中のホウ素の簡易分析法

鹿児島県農業開発総合センター 果樹部
環境研究室
室長 後藤 忍

1.はじめに

 植物が健全な生育を営むためには,酸素,水素,炭素,チッ素,リン酸,加里,石灰,苦土,硫黄および鉄の10元素は比較的多量に必要です。これ以外に微量ではありますが,必要で欠くことができない元素として,マンガン,亜鉛,銅,ホウ素,モリブデン,塩素などがあり,これらを微量要素と呼んでいます。
 微量要素の一つであるホウ素は,植物に欠乏すると様々な障害を引き起こし,たとえばダイコンの中心部が褐色になる「赤芯症」がよく知られています。
 近年,鹿児島県で栽培面積が増加しているマンゴーでも一部産地で果実の一部がへこみ,商品価値が無くなる欠乏症が発生(図1)し,花穂へのホウ砂溶液の散布が効果的1)なことが明らかになりました。

 しかし,施用量を誤り,過剰にホウ砂溶液の散布やホウ素資材の土壌施用を行うと,一転して過剰害の発生事例がみられました2)(図2)。このように,微量要素であるホウ素は土壌中の適正範囲がきわめて狭い(適正域:0.8~2.0ppm)3)ため,適正域の上限値を超えてホウ素適用を行うと,たちまちにして過剰害が発生しやすい危険な一面も併せ持っています。

 これらの対策のためには,定期的に土壌分析を行い,土壌中のホウ素含量を監視して適正域に維持することが重要です。しかし,これまで利用されている一般的な分析法であるクルクミン法4)は分析手順が煩雑なうえに,分光光度計や恒温水槽等の高額の分析機器が必要でした。このため,ホウ素の分析は,これらの分析機器を保有する限られた分析機関でしかできませんでした。
 そこで,栽培現場において手軽に利用できるように市販の水質分析キットと安価で自作できる簡易比色計を用いた簡易な分析法を開発しました。


2.分析手順

1)熱水抽出

 土壌中のホウ素は植物に吸収可能と思われる「可給態ホウ素」として,土の重量25gに2倍(50ml)の熱水で抽出します。通常のガラス器具にはホウ素が含まれており,熱水で抽出中にガラス器具からホウ素が溶け出すため,ガラス器具は使えません。そこで,アルミ缶5)をカッターで切り抽出器具とします。耐熱樹脂の時計皿をかぶせてホットプレート上で5分間沸騰させ,冷却後No.6のろ紙を使ってろ過します。この時,ろ液が黄色味を帯びている場合は分析値にプラスの誤差が生じるので,0.3gの活性炭を用いて再度ろ過し,無色のろ液にします。

2)発色操作

 ろ液をマイクロピペットで正確に2.0ml取り,水質分析キット(商品名:パックテスト ホウ素用 WAK-B,(株)共立理化学研究所)のチューブの角を2カ所切り,そこから注入し軽く5~6回振り混ぜて,30~40分程度待ちます(図3)。同様にして,ホウ素の標準溶液(0~5.0ppm)も発色させ検量線を作ります。この水質分析キットはアゾメチンH法4)に基づいていますが,抽出液の採取量を一定にできないことや,検量線があらかじめ組み込まれた分析器具で測定するため,分析値は正確とはいえませんでした。そこで,上述したように一部の操作を改善して定量分析ができるように工夫を加えました。従来法のクルクミン法では,発色操作に55℃を維持する恒温水槽が必要で,発色に1時間半程度かかるので,分析コストと時間が短縮されます。

3)測定操作

 測定は理科教育教材として開発された簡易比色計を応用して作成しました6)。図4に簡易比色計の構成を示しました。光源部,試料部,測光部および電気抵抗値測定部(市販のデジタルテスター)より成り,3千円程度で製作が可能で,その材料と価格は表1に示しました。

 光源部は単3乾電池1個と1KQ程度の電気抵抗で400nmの波長を持つ高出力紫発光ダイオードを点灯させます。試料部では,発色させた検液をセル(ポリスチレン製で容量が3.0ml)に入れ,暗黒条件下で400nmの透過光が通過します。測光部にはCdSセル(別名,光導電素子)という半導体を用いました。CdSセルは,測光面に光が当たると電機抵抗値が小さくなり,暗くなると電気抵抗値が大きくなる性質を持っており,街頭の自動点滅器などに用いられるものです。
 市販のデジタルテスターでホウ素の測定ができる仕組みは次の通りです。ホウ素濃度が少ないと抽出液は無色透明に近く,透過光が強くなり,CdSセルの電気抵抗値は小さくなります。逆に,ホウ素濃度が多いと抽出液は黄色味が強く,濃くなり透過光が弱くなるので電気抵抗値は大きくなります。従って,この電気抵抗値の大小をデジタルテスターで読みとることによって得られるホウ素の検量線は右肩上がりの直線になります。標準溶液で作成した検量線を参考に,抽出液のホウ素濃度を計算します。

3.分析精度

 簡易比色法の分析精度を調べるために,従来法であるクルクミン法を用いて,分光光度計で測定した赤黄色土13点,黒ボク土11点,計24点の分析データと比較しました(図5)。簡易比色法は従来法と1:1の正の有意な相関関係を示し,簡易法により精度良く測定できると判断しました。

 さらに,簡易比色法とクルクミン法で,赤黄色土と黒ボク土の同一抽出液をそれぞれ10回測定した平均値は測定法による有意差はみられず,実用的には十分な精度があると考えられました(表2)。

4.まとめ

 開発したホウ素の簡易比色法は,従来法より試薬調製の時間や発色操作にかかる時間が少なくて済みます。また,分光光度計等の高額な分析機器も必要ありません。分析器具を除いた試薬だけの経費をパックテストの価格から算出すると,土壌1点当たり約100~200円と安い費用で分析できることがわかりました。この方法は果樹に限らず野菜や花き等,他作物の土壌の可給態ホウ素の診断にも活用できます。

5.今後の課題

 近年のLEDの進歩により,様々な波長を選択することが可能となっています。今回用いた簡易比色計のLEDを他の波長のものに交換することにより,これまで,原子吸光光度計や分光光度計等で分析されている土壌中の石灰,苦土,加里およびリン酸濃度を測定できる可能性が考えられます。今後,簡易比色計を用いて測定操作をさらに省力,低コスト化し,土壌診断の現場での活用をさらに広げていきたいと思います。

参考文献

1)上之薗茂・西田学・橋元祥一・東明弘 2011.
  マンゴー果実の表面がくぼむ障害に対するカルシウム,ホウ素散布の効果.鹿児島農
総セ研報,5,17~22

2)鹿児島県農業開発総合センター編(2010)
  平成21年度「普及に移す研究成果」第3回審査分,p9~10

3)高橋英一・吉野実・前田正男(1980)
  原色作物の要素欠乏・過剰症,農山漁村文化協会,東京.p.133-149

4)(財)日本土壌協会編 2001.
  土壌機能モニタリング調査のための土壌,水質及び植物体分析法,東京,p123~128

5)Ando,K.(1986)
  Determination of available boron in soil wi th a beer can. Soil Sci. Plant Nutr.,32(2),333-336

6)伏島均(2000)
  自作簡易比色計を活用した教材の開発.群馬県総合教育センター研究報告書,186, 125~132