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第641号 2012(H24) .07発行

PDF版はこちら 第641号 2012(H24) .07発行

農業と科学 平成24年7月

本号の内容

 

 

ニガウリにおける
被覆燐硝安加里(エコロング424)の植穴施肥栽培

宮崎県総合農業試験場 土壌環境部
甲斐 憲郎

1.はじめに

 宮崎県では宮崎型改良陽熱消毒法(以下,「陽熱消毒」という)を薦めている。この消毒法は,施肥,畦立て後に陽熱消毒を行うため,消毒後の土壌の攪拌が少なくて済み,消毒効果が高いとされている。
 しかし,陽熱消毒前に緩効性肥料である被覆燐硝安加里肥料を全面全層に施用し作畦すると,陽熱消毒時の高温により,肥料のコーティングが影響を受け,成分の溶出が起こるため使用できない問題がある。一方,陽熱消毒後に施肥すると,土壌攪拌によって消毒の効果や持続性が損なわれてしまう。このため,陽熱消毒を普及するうえで,陽熱消毒と施肥をどのように体系化するのかが重要な課題となっている。
 植穴施肥は局所施肥法の一つである。従来の全面全層施肥では,肥料が植物の根の届かない場所に施用されるのに対して,植穴施肥は株元に肥料があり作物が効率よく肥料を吸収できる特徴がある(図1)。このため,土壌中に余分な養分を残さない,流さない環境保全的な施肥が可能である。さらに,施肥位置は植穴のごく限られた場所であり土壌攪拌を最小限にできるので,土壌消毒の効果や持続性の面からも有効と考えられる。

 これまで宮崎県では抑制キュウリ栽培における植穴施肥を検討してきた。今回は,ニガウリに対する陽熱処理に植穴施肥を組み合わせた栽培法について検討した。ニガウリを選定した理由は,本県において生産量が年々増加している,また単位面積当たりの作付本数が少なく,局所施肥の効果が期待できる品目であることからである。本試験では,3割減肥した植穴施肥栽培の効果を2006年~2007年の2年間検討した。

2.試験方法

1)栽培概要

 試験場所は宮崎県総合農業試験場内のハウス(細粒灰色低地土(造成),CL)ニガウリの品種は’佐土原3号’,試験規模は1区10.1㎡(畦幅140cm,株間80cm)の2反復とした。なお,試験圃場の土壌化学性には極端に養分の蓄積は認められなかったため(表1),宮崎県の施肥基準に基づいて共通土壌改良資材として堆肥4t/10a,苦土石灰120kg/10aを施用した。

 ニガウリの播種は9月下旬,定植を10月上旬に行った。収穫期間は11月下旬から2006年は3月上旬まで,2007年は3月下旬までとした。仕立て法は摘心栽培とし,子づる,孫づるを3節で止め,ひ孫づるは放任とした。

2)試験区の構成

 慣行区は基肥と追肥の施肥体系で,基肥を施用した後に畦立て・陽熱消毒(1ヶ月間程度)を行った。基肥は苦土有機入り化成A801と硝安を用いた。追肥は硝安と塩化加里を用いて2006年は8回,2007年は6回実施した。
 植穴施肥区は土壌改良資材のみを施用した後,慣行区と同様に畦立て・陽熱消毒を行った。植穴施肥区は,定植時に深さ15cm~20cm程度の植穴を掘り,そこに被覆燐硝安加里(エコロング424)を追肥の分も含めた全量を施用した。窒素換算で3割減肥としたため,施用量は224gとなり,紙コップ1杯程度であった。土壌との接地面積を増やすために被覆肥料を土壌と軽く混和した後,ニガウリ苗を定植した。

3.結果及び考察

1)生育及び収量

 栽培終了時の植物体の生重は慣行栽培よりも植穴施肥栽培の方が重く,生育が良かった(図3)。

 総収量は植穴施肥栽培で全量を基肥として施用した場合には3割減肥しても,慣行栽培よりも増収した。特に70 タイプと40 ・100混合タイプで効果が高く,慣行栽培よりも2割以上増収した(図4) 。この傾向は上物収量でも同様であった。

2)植物体中の無機成分

 栽培後期,終了時に主枝,側枝,葉身,葉柄中の植物体中の無機成分を測定したところ,特に窒素で,植穴施肥の方が慣行栽培よりも高い傾向があった。これらの吸収量が収量の差につながったと思われる。

3)被覆肥料の窒素溶出

 被覆肥料は25℃の条件下において予定日数で80%溶出するように作られている。例えば100タイプの場合には25℃の条件下では約100日で80%の窒素が溶出する。
 今回,地下15cmでの平均地温を測定したところ,10月は24℃,11月~3 月は20℃前後であり,25℃より低かったため窒素溶出が遅くなった。
 被覆燐硝安加里の窒素溶出率が80%に達するのに要した日数は,40,70, 100タイプそれぞれ約70日,約80日,約120日であった。栽培日数は約160日であったため,40タイプ,70タイプは栽培の前半でほとんどの成分が溶出したことになる(図5)。

4)肥料の種類の検討

 以上のように,被覆燐硝安加里を3割減肥で植穴施肥した場合,いずれのも慣行栽培よりも増収した。また,溶出のタイプとしては,70タイプや,40と100タイプを混合したものが適すると考えられた。

5)低コスト化と省力化

 肥料費について試算したところ,2008年の価格では10a当たりの慣行栽培(基肥:A801,硝安,追肥:硝安,塩化加里)の肥料費は43,000円であった。植穴施肥で3割減肥すると10a当たり32,000円であった。肥料費の変動を考慮にいれても,植穴施肥栽培は慣行栽培と同等かそれ以下の肥料費で栽培可能である。また,定植時の施肥という手間は掛かるものの,ハウス内での基肥散布や追肥作業から解放されるなど省力的な面も期待できる。
 現在さらなる省力化の為に,植穴施肥を容易にする機械の開発もメーカーにおいて検討されている。

4.おわりに

 本試験は,ハウスにて3月まで収穫という作型であったが,3月にはほとんどの被覆燐硝安加里から窒素が溶出しているため,さらに栽培期間を延ばす場合には,窒素溶出タイプの変更や追肥を行うなど,現場にあった対応や検討が必要となる。
 また,根傷みが発生しにくいとされる被覆肥料ではあるが,今回使用したよりも多くの量を施肥する場合には注意する必要がある。
 今後,他の作型や品目についても検討していきたい。

 

 

北海道旭川市永山地区の黒大豆「黒い恋人®」の生産

北海道農政部食の安全推進局 技術普及課
主査(普及指導) 山本 正浩
(前 北海道上川総合振興局上川農業改良普及センター)

はじめに

 「旭山動物園」で有名な北海道旭川市。旭川市は盆地のため夏は暑く,冬は寒い典型的な内陸性気候です。旭川市は米どころとしても知られ北海道屈指の産地ですが,転作率は30%を超え,所得確保のため水田転作の本作化を進めています。旭川市では約500haで大豆の作付があり,そのうち約25%にあたる120haが黒大豆です。その黒大豆を栽培している主な地域は旭川市永山地区で,品種「いわいくろ」は約100ha栽培されています。

旭川市永山地区の概要

 旭川市中心部の北東に位置する永山地区は,南西部が住宅・商業地域となっている都市近郊の農業地帯です。
 土壌条件は石狩川と牛朱別川(うしゅべつがわ)に挟まれた透排水性が良い低地土で平坦な地形です。
 永山地区の農地約1,140haのうち,780haで水稲が栽培され,転作作物の約30%で大豆(全量黒大豆)が栽培されています。
 都市近郊の農業地帯であるため,小~中規模経営が多くを占めています。経営形態は,水稲を中心に転作作物の春まき小麦と黒大豆を栽培する土地利用型と,施設園芸(そ菜類)を中心とした集約型の二極化が進んでいます。

地域で協力し,黒大豆の特産化を推進

 水回転作面積の拡大と米価の下落や,転作助成金などの減額により転作作物の収量・品質向上と,高付加価値化による所得確保が急務となっていました。しかし,機械や設備を戸別に用意するには金額的にも負担が大きく,消極的な生産者が多かったように聞いています。また,個々がそれぞれの機械を用い,栽培技術も統一されておらず,生産される品質も一様ではなかったようです。
 このように収量や品質も低迷し,独自性が発揮できない状態が長く続いていました。そこで有志数名が機械の共同所有と共同作業を模索するとともに,もともと栽培されていた黒大豆栽培を推進し,産地化していくことにしました。

組織の力で転作作物栽培をサポート

 黒大豆栽培を推進するに当たり,その「エンジン役」を担ったのが「永山ビーンズ組合」(組合員13名)です。「永山ビーンズ組合」は平成11年に生産者自らが組織し,春まき小麦・黒大豆のは種・管理・収穫・乾燥調製作業を受託しています。JAや農業改良普及センターと連携し,適期に効率的な作業を行うとともに栽培技術の統一を進め,自らの手で転作作物の生産性向上を図りました。

 また,平成15年には「四恩機械利用組合」(春まき小麦・大小豆のは種・管理・収穫作業の受託,組合員12名)が設立され,この2つの組織で効率的な転作作物の生産が行われています。
 この2つの組織は,従来から行われてきた農家間の作業受委託を調整する「永山町農業生産受委託組合(昭和52年設立)」の構成員となっています。大豆をはじめ,この受委託組合を通して永山地区全域での作業受託が行われ,栽培技術の統一や労力不足にも対応し,黒大豆生産の下支えとなっています。
 また,病害虫防除の受託組織「永山蜻蛉(せいれい)組合(平成3年設立,19名)」は無人ヘリコプターによる水稲防除を行っている組織ですが,状況によって補完的に黒大豆の防除も行っています。

 これら各組織体制によって,栽培面積は約100haを維持しており,収量は平均で250kg/10a以上を確保しています。生産者間のバラツキも最小限にとどまっており,品質・収量は高位に安定しています。
 生産された黒大豆は「永山ビーンズ組合」の調製施設に集荷されます。乾燥は屑小麦と混合し行われますが,その際,黒大豆に磨きがかかり光沢が生まれます。品位により一部は色彩選別機を使用することもありますが,その後はすべて手選別し金属探知機を通して出荷しています。ここまでのプロセスを経たものが「黒い恋人」という商品名で「JAあさひかわ」より販売されています。
 平成23年からはJAあさひかわ地域で生産される黒大豆(永山地区以外は約20ha)すべてが永山ビーンズ組合の施設に搬入され,乾燥調製が行われています。JAあさひかわ産の黒大豆「黒い恋人」の生産性はますます増加しています。

ブランド化された黒大豆「黒い恋人」

 永山の黒大豆生産はしっかり先を見据えて,揺るぎない目標の下に歩んでいます。平成18年にはー俵4,000円の低価格時代を味わっていますが,「長期的にしっかり取り組まないと特産品は生まれない」と生産者は言います。
 このようにブランド化を目指して精選出荷することにより大きな経済効果をもたらし,ブランドが確立されています。

 製品はJAあさひかわよりホクレンを経由し,主に九州・大阪方面に販売され,小袋詰や煮豆に加工されています。
 また,「ビーンズ組合」でも消費拡大に向け積極的な販路開拓を進めています。その結果,旭川市内でも利用する業者が増えつつあり,加工された商品には「JAあさひかわ産黒大豆『黒い恋人』使用」と商品に記されています。特に,今まで使用されてこなかった商品にも利用場面が拡大し,焼酎(旭川市:合同酒精), どら焼き(旭川市:梅屋)やソーセージ(新十津川町:ヴルストよしだ)も開発され,新たな商品が創出されてきています。
 生産組織・JA・農業改良普及センターが協力し,作業日程や薬剤の選定はもとより,寝食を共にしながら先進地の視察に行ったり,新商品開発の支援をしたりと活動は枚挙にいとまがありません。このようなチームプレーも産地を支える一因となっています。

黒大豆生産の今後

 農産物のブランド化が地域農業の発展のためになると信じ,生産組織・JA・農業改良普及センターと密に連携をとり,それぞれの役割分担を明確にしながら協力してきました。
 これらの取り組みが大きな成果をもたらし,現状では担い手も確保されています。しかし,高齢化と将来的な担い手不足は,どの地域でも共通の課題であると考えます。

 受託作業によって高い収量・品質レベルを維持している永山地区でも,受託組織の技術力向上と労働力確保が重要です。組織の受託能力も限界に近づきつつあり,これらのシステムが継続的に機能するよう,組織のあり方について検討が必要です。「永山ビーンズ組合」ではこれらのシステムが継続的に機能するよう,組織のあり方について熱い議論が始まりました。困難を乗り越えようとする強い意志が地域の原動力となって,今後も永山地区を支えていくでしょう。