農業と科学 平成26年5月
本号の内容
§アスパラガス半促成長期どり栽培の肥培管理と灌水管理
長崎県農業技術開発センター
井上 勝広
§硝酸塩は人体に毒ではなく有益
東京農業大学
客員教授 渡辺 和彦
長崎県農業技術開発センター
井上 勝広
アスパラガスは,養分の選択的吸収能力が高いことから耐塩性が高く,最適pHが6.0~6.5であり,酸性土壌に弱い。
また,アスパラガスの土づくりに有機物は欠かせない。一般的に出まわっている有機物は,牛ふん堆肥,豚ぷん堆肥,鶏ふん堆肥,そしてバーク堆肥である。家畜ふん尿由来堆肥の場合,その種類によって特性が大きく異なる。養分含有率は鶏ふんで最も高く,次いで豚ぷん,牛ふんとなるが,飼料,堆肥化処理法,季節などによっても変動する。窒素の無機化率は温度の影響を強く受け,高温で速く,低温で遅くなる。
鶏ふんは炭素率が5~9%と低いため,分解が速く,比較的速効性である。養分含有率が高いうえ,土壌中に有機物があまり残らないので,有機質肥料と考えるのが妥当である。
牛ふんは窒素含有率が低く,炭素率は20%以上と高いため分解はゆるやかで,肥効も緩効的であるが,養分含有率は低く,有機物は土壌中に残りやすい。
豚ぷんの成分は鶏ふんと牛ふんの中間で,炭素率は10~15%である。肥効や土壌への影響も同様に中間的な性質を示すが,養分含有率が比較的高いので,有機質肥料に近いものとして扱うべきである。
総合的に判断して,アスパラガス栽培の土づくり資材には,完熟した牛ふん堆肥が望ましいと考えられる。生産現場では定植前に10a当たり10~50t程度施用したあとに深耕されている。
一方,バーク堆肥は肥料成分が少なく,粗大有機物が多いので,土づくり資材として適している。比較的高価なため大量に施用することはむずかしいが,生産現場ではうね表面を軽く覆う堆肥マルチとして利用することが多い。堆肥マルチの効果は地温上昇と土壌の乾燥防止,そして雑草抑制である。灌水の跳ね上がりによる茎枯病の抑制も期待できる。茎葉刈取り後には,冬肥(基肥)とともに圃場にすき込み,土づくり資材として利用される。
アスパラガスは多肥型の作物である。アスパラガスの根域は広く深いため,施肥反応は鈍く,肥料が多いか少ないかは外観からは判断しにくい。そのため,多収をねらうあまり多肥栽培におちいりやすく,肥料焼けで、吸収根が弱って減収した事例も見受けられる。最近では,アスパラガスの養分吸収特性を考慮した施肥法が多くの地域で実施されている。
図1は,ハウス半促成長期どり栽培の定植後1年間の養分吸収量を示している。これを見てわかるように,アスパラガスは窒素とカリの吸収量がとくに多く,次いでリン酸とカルシウムであり,マグネシウムの吸収量はもっとも少ない。また,定植1年目の窒素吸収量は15kgから20kgである。また,茎葉の見た目の生育量は養分吸収量を表わし,生育に応じて吸収量も増える。

ここでモミガラ牛ふん堆肥10tを毎年施用し続けた場合,カリウムなどが蓄積し,塩基バランスも悪化するので,化学肥料を減肥するか,もしくは入れないといった対策も思い切って実施する必要がある。
土壌中の無機態窒素濃度およびアスパラガス地下部の乾物重,乾物率および窒素含有率は,表1に示すとおり,窒素施肥量が少ないほど低下する。しかし,リン酸,カリウム,カルシウムおよびマグネシウムの含有率は,窒素施用量による差が認められない。また若茎において,規格(太さ)による成分含有率の違いはあるものの,同じ規格ならば,窒素施用量による差は認められない。

したがって,アスパラガスの半促成長期どり栽培において,モミガラ牛ふん堆肥10a当たり10t(窒素120kg,リン酸130kg,カリウム150kgを含む)を施用した場合の適正な窒素施肥量は,10a当たり40kgとするのが,アスパラガスの収量,品質そして経済性の面から適当であろう。
このように施肥量は土壌や地力,有機物由来によるものや施肥法など,複雑な条件が関与しているため,現状は基準的な数字しか打ち出せないが,少なくともアスパラガスは豊富な有機物と多肥を好む野菜であることは間違いない。
実際の栽培現場では,家畜ふん尿由来の有機物の多投入,多肥集約栽培を行なっている農家が多い。化学肥料の年間窒素成分で70~80kg-N/10a以上施用している例もめずらしくない。
これらの有機物や肥料のいきすぎた投入を改善し,同時にアスパラガスの生理と肥料の効率的な利用を踏まえた施肥法が大切である。
アスパラガスハウス栽培の施肥量の目安を表2に示す。これは,牛ふん堆肥を毎年施用することを前提としたもので,定植前あるいは収穫終了後の土壌分析結果に基づいて施肥量を加減することが重要である。施肥法としては春期4分の1,夏秋期4分の3の分施が理想的である。またアスパラガスは好石灰植物であるため,土壌pHには留意し,施用する石灰資材の選択も重要なポイントとなる。pHが低い場合は炭カルや苦土石灰を,pHが適正値の場合はカキがら石灰などを使用する。

ECは水に溶けた肥料(主に硝酸態窒素)の総量を表わす。この値が高すぎる場合は,濃度障害やガス障害を生じる。家畜ふん尿由来の堆肥などを多量に施用すると,ECだけでなく,石灰やカリが集積し,土壌pHが上昇する。この場合,石灰やカリなどを多量に含む肥料や有機物の施用を中止する。ECは高すぎても低すぎても障害の出る可能性が高くなる。
ECが高く,pHが低い場合は,硝酸態窒素以外に硫化物や塩化物の集積が疑われる。過去に施用した肥料や有機物の種類や量を考えたうえで,硝酸態窒素の分析を行ない,基肥窒素の減肥などを行う必要がある。EC値による残存窒素量と10a当たり供給量の関係を表3に示す。

一般的に,追肥を行う場合は施肥量と時期,施肥位置,肥料の形態などを総合的に考慮する。
施肥量:1回当たりの追肥量は土性や保肥力により異なるが,追肥を行うたびに量を変更することは少なく,窒素成分量で10a当たり2~3kgを目安とする。
施肥時期:追肥の開始時期は基肥の施用量や肥料の形態などにより異なるが,定植後30~60日から始め,20~30日間隔で施用する。
施肥位置:施肥位置は定植後の根の広がりに応じて変える。1年生株の追肥は表層施肥や深層施肥が一般的である。
表層施肥は,肥料の流亡が多いものの生育に応じた施肥が可能であり,肥効も早く,施肥作業も容易なため,最も一般的である。定植初期は株の周辺に行ない,茎葉の繁茂にともなってうね面全体に施用する。
土壌深層への液肥灌注施肥は肥効が高く,肥効が持続し,生育量や収量を高める効果が高い(表4)。一般的に,土壌濯注機などを用いて茎葉が繁茂した頃から行う。
肥料の形態:肥効の発現の早い速効性肥料を施用する場合,施肥量を減らして根傷みを防ぐとともに,施肥の間隔にも注意する。緩効性肥料では,肥効の発現が遅延しないよう灌水に注意する。肥効の持続性は施肥の作業効率との関係が深く,肥効の持続が長いほど追肥間隔は広くなり,作業効率が高まる。また灌水チューブによる液肥の流し込み施肥は省力的で,肥効が早い。

アスパラガスの施肥では,速効性肥料を用いた施肥間隔の短い施肥体系がとられていたが,最近は夏場の連続施肥(追肥)作業の省力化を目的とし,かつ養分吸収パターンに対応した施肥法として,肥効調節型肥料の1回施肥が行なわれている。
肥効調節型肥料も用いた全量基肥施肥法は中間追肥を省略し,農家の手間を省く施肥法であり,これまでの施肥法を一新させた。また,作物根により近い場所に接触施肥を行うことで,肥料の利用率をより高めることができるようになった。
速効性肥料の追肥体系では肥料成分が急激に溶出し,作物の吸収が追いつかず,土壌中では無機養分が高濃度で推移する。しかし,徐々に溶出する肥効調節型肥料の場合,驚くほど低濃度で推移し,集積は認められない。このように,肥効調節型肥料の全量基肥施肥法は追肥作業の省力化だけでなく,窒素供給量を節減することができ,塩類集積が軽減される環境保全型の施肥法である。
1年生株の灌水は,地上部と地下部の生育に大きく影響する。表5に示すように,土壌水分が多いほどりん芽数が増加することから,地下茎の適度な土壌水分は萌芽だけで、なく発根も促進すると考えられる。

土壌水分が多い場合の地上部の生育は,側枝やぎ葉が長くなって茎葉が繁茂する。また,地下部の生育も促進され根重が増加する。
灌水を行う場合は,灌水の量や時期,灌水する位置,用水などを総合的に考慮することが必要である。
灌水量:灌水量は株の生育量や気象などを考慮して決める。生育量が多くなるほど,気温や日射量が増加するほど灌水量を増やす。1年生株の株養成期間中は灌水量が多い(=灌水できる=排水性が良い)ほど定植初年目の生育と翌年の春芽の収量が優れる。
灌水の間隔と時間帯:灌水の間隔は土性や排水性,うねの大きさや高さなどで異なる。pF値で1.5~1.8の土壌水分を維持することが望ましいが,全体的にうね表面が乾いたら灌水すればよい。ときどき表土を剥いで根域の土壌水分を確認し,水のやりすぎに注意する。安定した土壌水分を維持するためには,1回当たりの灌水量を大幅に増やすよりも灌水間隔で土壌水分を調節するほうが望ましい。
灌水する時間帯は,通常晴天日の午前中とするが,夏場は地温を下げるために夕方に行うとよい。
なお,茎葉の生育量が低下する秋期以降も,茎葉の黄化が進行するまで1~2週間に1回程度は灌水することで,翌年の春芽の収量が増加する(図2)。

灌水位置と方法:灌水方法には,灌水する位置により表面灌水やうね間灌水がある。地下茎が乾燥すると,若茎の萌芽数が低下するとともに地下茎の拡大を阻害し,新根の発生数を減少させる。そのため,定植後の生育初期には株元を中心に灌水を行う。
表面灌水は茎枯病を誘発する危険性があるが,アスパラガスの生育に応じて行うことができる。うね間灌水は多量の水を必要とするが,圃場全体の灌水ムラを防止して生育を均一化する効果がある。
用水の確保:灌水する用水は河川水か井戸水である。いずれの用水でもよいが,周年安定して供給できることが必要である。とくに高温多日照時の用水量の不足は,株の生育を抑制し減収をまねく。
東京農業大学
客員教授 渡辺 和彦
「硝酸塩が有害でないのはまだしも,亜硝酸も有害でないとは信じられない」私の親しい土壌肥料専門家の言葉である。「土と肥料の新知識」(2012年,農文協発行)を読んでいただきたいのだが,本冊子もぜひ読んでいただきたい。学問の世界は日進月歩である。一般の方にもだが,まず土壌肥料の仲間の人々に硝酸塩や,亜硝酸塩が世界的にも人間に対しては有益なものと見解が大きく変わっていることを知っていただきたい。(注:反芻動物である牛は異なる。第一胃である反芻胃へ大量の硝酸塩が入ると微生物の作用で亜硝酸塩も大量にできるため,牛はメトヘモグロビン血症を起こしやすい。しかし,人間の胃は牛とは異なり,亜硝酸は急速に一酸化窒素に変換される。)
ここでは,前記図書に記載していない知見を紹介する。硝酸塩に対する考え方が大きく変わったのは1994年からである。
イグナロらの1998年のノーベル賞研究,一酸化窒素(以下NOとする)の発見とその人体内での作用機作の発見に関連するのだが,当初はNOは図1に示すようにアミノ酸であるL-アルギニンから一酸化窒素合成酵素(NOS)の作用によって生成されると考えられていた。

ところが今では野菜等の食事から摂取する硝酸塩は,(注;本稿では硝酸塩は硝酸態窒素,硝酸イオンと同義として用いる)図2に示すようにNOはNOSが活性化できないところでは硝酸塩がNOの主たる供給源になっていることが明らかになっている。

まず最初の大発見はスウェーデンの研究者Lundbergら(1994)である。レタスを食べ 5分後の人間の胃の中には,呼気に含まれる100倍以上のNOが発生していた(図3)。胃酸過多の患者さんに良く用いられるプロトンポンプ阻害剤でもあるOPZを実験開始24時間前に投与していると,同様に実験しでもNOは少ししか検出されない。プロトンは水素イオンH⁺のことだが,OPZを飲んでいると胃酸の放出が抑制され,胃のpHが少し高くなる。

そこで,in vitro実験を実施したのが図4である。当初は唾液も入れていたが,図4の右に示すように亜硝酸塩だけをpH1.0の塩酸溶液中に入れでもNOが発生する。すなわち,胃の中のような低pH下では非酵素的に亜硝酸塩からNOが発生する事が明らかとなった。

ある種の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)は副作用として胃潰瘍になりやすい。ラットにNSAIDを投与1週間前から,図5に示すように通常の食餌以外に硝酸ナトリウムを体重1kgあたり1日摂取量0.1mmol,1mmolになるよう飲料水で与えた。コントロール区は塩化ナトリウムを1mmol与えている。そして,NSAID投与4時間後に胃潰瘍の程度を調査したのが図5である。硝酸塩の摂取は胃潰瘍の症状を軽いものにしている。

硝酸塩摂取が胃潰瘍症状を軽減するメカニズムも分かっている。図6に示すように高濃度の亜硝酸塩が胃内に入ると,胃粘膜の血流がよくなる。そして胃粘液の分泌も多くなる。血流が良くなる理由は図1を用いて「土と施肥の新知識」で詳しく説明している。NOが図に示すようにサイクリックGMP合成を活発にする。それが,血管内部の平滑筋を弛緩する作用があるため血管が広がり,血流が流れやすくなる。胃の中でも同様に,胃粘膜の平滑筋にNOが作用すると,胃粘膜の血管が広がり,血液が流れやすくなり,多くの酸素が与えられ胃の活動が活発化するのである。

人間での実験例をここでは2つ紹介する。一つは,健康なボランティア平均年齢24歳の男子15名女性2名での実験である。野菜摂取の多い食事に含まれる硝酸塩とほぼ同じ量を硝酸ナトリウムで、0.1mmol/kg/日,3日間摂取すると,図7に示すように健康人の最小血圧(拡張期血圧)が~3.5mmHg低下している。最高血圧(収縮期血圧)は変化なしとの結果を得ている)Larsen et al.2006)。
摂取した硝酸ナトリウムは,体重60kgとすると,Nで84mg/日,NaNO3で、0.5g/日となる。参考にしたい。

もう一つの例は,硝酸塩を約45mmol/L(N:630ppm,NO3:2790ppm)含むビートジュース500mlを健康な被験者が飲用した後の経過時間ごとの,血漿中の硝酸塩(a),亜硝酸塩(b)の濃度変化を調べたものである。図8に示すように飲用しない人の血漿中硝酸塩,亜硝酸塩の増加は認められない。
ビートジュースは日本ではなじみが少ないが,ビートは赤カブの1種でジュースの色は赤い。色は異なるが,ダイコンおろしの汁とイメージ下されば良い。ビート根はホウレンソウ並の硝酸塩含有率がある。ビート根には劣るが,ダイコンの硝酸塩含有率も意外と高い。
図8のcとdは同じく血漿中の硝酸塩と亜硝酸塩濃度であるが, ここでは唾液を吐き出したグループ(spit)と唾液を飲んだグループ(swallow)で比較している。唾液を飲み込んだグループは血漿中の硝酸塩濃度は変わらないが亜硝酸濃度は大きく異なっている。硝酸塩が唾液により亜硝酸塩に変化していることがこれでよく理解できる。

図9のa~bは,ビートジュースを飲んだ人と飲まない人の比較だが,飲用後3時間後でビートジュースを飲んだ人は最大血圧10.4±3,最小血圧8.1±2.1と低下している。ただここでビートジュースの血圧への持続効果は3時間後がピークで24時間も持続しないことも注意したい。
ここにはデータは示していないが,血小板凝集作用はビートジュース摂取2.5時間後の測定で,20%減少していた。すなわち,NOは血小板凝集防止作用もあることがこの実験でも確認されている。
図9の右下(d)は,唾液の吐出有無だが,亜硝酸塩を含む唾液を飲み込んだ人は明らかに最高血圧(収縮期血圧)も低下している。そして,図10はカフで腕を絞め虚血性内皮機能不全の改善度をみる検査結果であるが,対照群の被験者と比較して,急性虚血後の流量依存性拡張力は,約30%増加していた。すなわち,ビートジュースの飲用後は,血管拡張能力が明らかに高くなっていた。


野菜や果物摂取が健康に良いとの疫学調査は多い。特に西欧諸国における主な死因である心血管系のリスクを低下させることが示唆されている。ここではハーバード大学グループが行った疫学調査の結果を図11に示す。この場合は冠状動脈疾患の発生リスクが野菜・果物の摂取量が多くなるほど低下している。それを表1に示すように野菜と果物別,野菜も少し細かく分類し直し,1サービング(野菜の場合は約70g)と同じ量摂取したとすると,緑葉野菜が最も冠状動脈疾患の発生リスクの低下率が大きい。緑葉野菜は硝酸塩の含有率が高い。こうした疫学調査もビタミン類だけでなく,硝酸塩摂取量を考慮に入れて,考察する時代がいずれくると思う。


そこで,ここではこうした疫学調査結果と関連した実験結果を紹介する。Bryanら(2007)は,ラットで亜硝酸塩や硝酸塩含有量の少ない食餌(すなわちNOxの不足)を与えたマウスと,標準の食餌と,7日間硝酸ナトリウム(1g/L)の飲料水を与えたマウスでの血漿や心臓での亜硝酸塩,硝酸塩濃度を図12 に,大動脈壊死面積と各種一
酸化窒素合成酵素のタンパク量を比較したデータを図13に示す。NOxをほとんど含有しない食餌を摂取しているラットでは血漿中も心臓にも亜硝酸塩,硝酸塩とも少ない(図12) 。そして,大動脈壊死面積割合(lnf/AAR=壊死/危険心筋区域)は標準食餌,あるいは硝酸ナトリウム溶液を摂取していたラットより明らかに多い。NOx欠乏マウスは標準食餌のマウスに比較して,心筋損傷は59%増加している(図13左図の右中央)。データはここには示していないが,心筋梗塞後の死亡率も13%増加していた。すなわち,硝酸を含む食餌は心筋梗塞のリスク低下に効果があることを示している。


なお,一酸化窒素合成酵素(NOS)には,3種ある。内皮性のeNOSは原形質膜と結合している。神経細胞のnNOSおよび誘導性iNOSは主に細胞質基質に存在する。ここではeNOSだけが標準的食餌でも低NOx食餌でも恒常的に発現していた。特に際立った差異は食餌間に認められていない。したがって,図13左図の右端の壊死面積の縮小効果は図12に示すように亜硝酸塩あるいは硝酸塩から生じたNOによる効果であると考えられる。
野菜から摂取された硝酸塩は,唾液中バクテリアにより亜硝酸塩になり亜硝酸塩は胃の中のような低pH下では非酵素的にNOになる。他の体液中では図2に図示したように低酸素条件下でNOを放出していると考えられる。このpHが強酸性でない亜硝酸塩からNOへの還元は,還元型ヘモグロビンや,還元型ミオグロビン,キサンチン酸化還元酵素,水素イオン,ビタミンC,ポリフェノールが働いている考えられている(Machha et al,2012)。In vitro実験だが,一例を図14に示す。亜硝酸塩20μMとアスコルビン酸250μMをpH7.4条件下で混合し,低酸素下でpHを6.5まで徐々に低下すると100nMのNOが発生している。

野菜の硝酸塩とアスコルビン酸はこのように協力して人体に有用なNOを生成している可能性は高い。野菜の硝酸塩は人体に有益であった。生重100g当たり250mg以上含む野菜として,セロリ,クレソン,レタス,ダイコン,レッドビートの根,ルッコラ,ホウレンソウ,フダンソウなどが例示されている(Machha et al,2012)。これらのお野菜をNOの作用も考えながら,おいしくいただきましょう!
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