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第668号 2015(H27) .02発行

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農業と科学 平成27年2月

本号の内容

 

 

ソラマメしみ症の発生に影響を及ぼす土壌要因について

鹿児島大学農学部
准教授 樗木 直也

1.はじめに

 鹿児島県のソラマメ生産は,作付面積387ha,収穫量4990t(平成24 年度野菜生産出荷統計,農林水産省)で,減少傾向にあるとはいえ日本ーである。出荷量でも全国の35%ほどのシェアがあり,特に早出しの11月下旬から3月下旬までは市場をほぼ独占している。作型としては,僅かに発芽させた種子に対して花芽を分化させるため低温処理を行い,9月上旬に定植し11 月下旬から収穫する抑制栽培と,11 月に定植し翌年の春から収穫する普通栽培がある。作付けは種子島・屋久島から出水地域まで、全県的に行われているが,主な生産地は指宿市を中心とした南薩地域である。
 ところで,このソラマメ栽培において1980年代半ば頃から,子実中の種子の皮(種皮)がしみ状に褐変する種皮褐変障害通称「しみ症」が発生し問題となってきた(写真1)。本障害がカルシウム欠乏症であることは池田ら1)や著者ら2)がほ場調査や水耕栽培による再現試験などにより,明らかにしている。
 ここでは,現地の農家ほ場でなぜソラマメがカルシウム欠乏となるかを明らかにするために行ったほ場調査の結果から得られたいくつかの知見と本生理障害に対するカルシウム資材の葉面散布の効果について紹介したい。

2.指宿市ほ場においてソラマメのカルシウム吸収に影響を及ぼす土壌要因

 ほ場調査は1998年から2000年にかけて,指宿市内の15か所のほ場(年度により異なるほ場を含む)を対象に実施した。年度ごとに少し内容は異なるが,基本的には定植1カ月後くらいの開花開始期から収穫盛期まで数回,各ほ場から土壌試料と植物体試料を採取した。ほ場を単位として,障害発生率や植物体カルシウム含有率と各土壌化学性との相関関係を検討し,本障害発生に影響を及ぼしている土壌要因を明らかにしようという戦略である。
 まず図1は,1998年の定植1カ月後の土壌化学性と開花開始期のソラマメ葉のカルシウム含有率との関係を示した散布図である。有意ではないが(有意確率は硝酸態窒素:0.072,交換性カリウム:0.065),土壌の硝酸態窒素含量,交換性カリウム含量とソラマメ葉のカルシウム含量との間には負の相関がみられた。同様の関係は縦軸に障害発生率をとってもみられた。即ち土壌中の硝酸態窒素や交換性カリウム含量が多いほ場ほど,ソラマメ葉のカルシウム含有率は低く,障害発生率は高いという関係が認められた。このことから,土壌中に硝酸態窒素や交換性カリウムが多いとソラマメのカルシウム吸収が抑制され,本障害の発生に結びついていることが示唆された。

 それでは硝酸態窒素と交換性カリウムではどちらの影響の方が大きいのだろうか。このことを検討するために,交換性カルシウムと硝酸態窒素,または交換性カルシウムと交換性カリウムを説明変数とし,障害発生率を目的変数とする重回帰分析を行い,その結果を表1に示した。そのモデルがほ場ごとの障害発生率の違いをどの程度説明できるかを示す決定係数は硝酸態窒素を組み合わせた方がやや大きく,モデル内での説明変数の影響の大きさを示す標準偏回帰係数も硝酸態窒素の方が大きかった。このことから,交換性カリウムよりも硝酸態窒素の方が障害発生率への影響が大きいのではないかと考えられた。

 次に,図2に1998年の定植1カ月後の土壌化学性と収穫盛期のソラマメ葉のカルシウム含有率との関係を示した。開花開始期でソラマメ葉のカルシウム含有率と相関のあった硝酸態窒素含量や交換性カリウム含量は相関がみられなくなり,交換性カルシウム含量との間に有意な正の相関がみられた。このことは生育前半ではみられた土壌中の硝酸態窒素や交換性カリウムのソラマメのカルシウム吸収への影響がみられなくなり,生育後半では交換性カルシウムが影響を及ぼしていると考えられる。

 これは土壌肥料関係者にとっては常識的なことかもしれないが,図3に示したように,基肥を施用するので土壌の硝酸態窒素含量や交換性カリウム含量は定植時には比較的高い。しかし生育が進むにつれて土壌中の硝酸態窒素含量や交換性カリウム含量はソラマメによる吸収にともなって低下していく。これに対して,交換性カルシウムはソラマメの吸収量に対して土壌中に存在している量が多いので,栽培期間を通じてその含量があまり変化しないと考えられる。

 この栽培期間中の土壌化学性の推移を踏まえると,生育前半では土壌中の含量の高い硝酸態窒素や交換性カリウムがソラマメのカルシウム吸収に対して抑制的な影響を強く及ぼしているが,それらの含量が低下する生育後半には,交換性カルシウム含量のカルシウム吸収に対する促進的な影響がみられるようになったものと考察される。

 ところで,図4は2000年の定植1カ月後の土壌の全炭素含量,陽イオン交換容量(CEC)と開花開始期のソラマメ葉のカルシウム含有率との関係を示した散布図である。土壌の全炭素含量およびCECとソラマメ葉のカルシウム含量との間には有意な負の相関がみられた。即ち土壌の全炭素含量が高くCECが大きいほ場ほど,ソラマメ葉のカルシウム含有率が低いという関係があった。この年の調査ほ場では,土壌の全炭素含量とCECとの間には有意な正の相関がみられ,有機物含量が高いことがCECの増大に結びついていると考えられた。有機物の施用や不耕起栽培により有機物含量が増加しCECが大きくなった土壌では,カリウムイオンに比べてカルシウムイオンが強く吸着され,作物のカルシウム吸収が低下するという報告がある3,4)。これらのことを総合して考えると,有機物施用による土壌のCECの増大は,ソラマメのカルシウム吸収に抑制的な影響を及ぼしている可能性がある。

 今回の調査ほ場のCECは,最大25.7cmolckg-1,最小10.6cmolckg-1であり,全炭素含量も最大34.8gkg-1,最小10.9gkg-1でほ場によりかなり差があった。また調査の時に実施した農家の聞き取りによると,1作当たりの堆肥施用量は10a当たり最大2670kg,最小1040kgであった。このように,ほ場により堆肥の施用量にかなりの差があり,多くのほ場ではソラマメを連作し,農家が慣行的に毎年同量程度の堆肥を施用し続けるとすれば,ほ場の土壌有機物含量やCECに堆肥施用の影響はあるものと考えられる。

3.カルシウム欠乏症対策としての葉面散布の効果

 作物の栄養元素欠乏症に対して葉面散布はよく実施される対策である。しかし,このソラマメしみ症に対するカルシウム資材の葉面散布の効果は余り顕著ではない。表2は,鹿児島県農業試験場(現農業開発総合センター)が1991~1992年に指宿市内の農家ほ場で実施した現地試験の結果をまとめたものである。両年とも10月中・下旬から12月上・中旬にかけて毎週1回塩化カルシウム溶液を散布し,障害の発生率を調査している。葉面散布をしていない対照区と比べれば,葉面散布区では障害発生率が低くなる傾向はあるが,それでも10~30%のレベルで発生しており,対策としてはとても十分とは言えない。

 この原因を解明するために,植物体表面に添加したカルシウムの吸収と移動について,カルシウムの放射性同位体(45Ca)を用いた試験を実施した(表3)。すでに下から10節前後まで着莢しているソラマメのある節(10節くらい)の葉の表,葉の裏,葉柄の付根の茎,莢のそれぞれに45Caを含んだ塩化カルシウム溶液を添加し,10日後植物体を収穫し部位ごとに分けて放射能を測定し,添加したカルシウムの分布を調べた。葉に添加した場合,部位が表裏に関わらず添加したカルシウムの99.9%は添加した葉に留まっており,ほとんど他の部位には移動しなかった。これはカルシウムは篩管移動性が低く,もっぱら導管内を蒸散流に従って移動するため,蒸散流の終点である葉から他の部位へは移動し難いためである。茎に添加した場合は,添加したカルシウムの3割程度はその節に着いている子実に移動しているが,4割はより上位の節の茎葉ヘ移動しており,蒸散の活発な部位へ移動していた。莢に添加した場合は,添加したカルシウムの1割足らずが内部の種子へ移動していた。

 以上の試験結果から,ソラマメの子実に発生するカルシウム欠乏症であるしみ症に対してカルシウム資材の葉面散布の効果が低い理由は,散布する資材中のカルシウムの大部分が葉に付着しそこから他の部位へ移動しにくいために,障害発生部位である子実へ移動する量が少ないためであると思われる。従って,葉面散布の方法にも注意が必要で,葉より莢に直接散布すべきであり,莢が着いている茎の付近に重点的に散布した方が効果は高まると考えられる。生産現場では従来1つの株から4本の分枝を伸ばし,それを株の両側に誘引して1畝に2列仕立てる方法が一般的であった。しかし作業性を良くする観点から,1つの株からの分枝を片側だけに誘引し1畝1列に仕立てるL字型仕立てが推奨されている。この仕立て法は1列の植物体の両側から茎のそばに着いている莢に直接散布をすることができるので,カルシウム資材の葉面散布の効果を高める上でも好ましいものと考えられる。

4.終わりに

 トマト尻腐れ症に代表されるカルシウム欠乏症は,原因がわかっていてもなかなか防げない生理障害である。石灰を慣行的に施用しているようなほ場では土壌中のカルシウムが不足することは稀であり,多くの場合カルシウムが吸収されにくいような土壌条件が原因となっている。指宿市で発生しているソラマメのしみ症の場合も,土壌中の硝酸態窒素や交換性カリウムの過剰によるカルシウムの吸収抑制が主な原因と考えられた。また堆肥の多量施用によるCECの増大も,ソラマメのカルシウム吸収を阻害する可能性が示唆された。
 このように,しみ症の発生には土壌管理や施肥管理が重要な要因となっていることを紹介した。ソラマメのしみ症の発生が問題となってから30年近くが経過しようとしているが,いまだに現地のほ場では障害の発生が散見されるような状況である。合理的な土壌管理や施肥葉面散布などの総合的な対策が徹底され,本障害の発生が皆無になることを期待している。

引用文献

1)池田健一郎ら(1999)
 ソラマメのしみ症発生に及ぼすカルシウム等の影響,土肥誌, 70,283-290

2)樗木直也・堀口毅(2000)
 農家ほ場調査により推測されるソラマメ種皮褐変障害の原因,土肥誌,71,372-377

3)Evangelou,V.P. and Blevins,R.L.(1985)
 Soil-solution phase interactions of basic cations in long-term tillage systems. Soil Sci. Soc. Am. J.49,357-362

4)木下忠孝ら(1980)
 野菜に対するおがくず混合家畜ふん堆肥の利用に関する研究(第1報)
 牧之原台地黄色土における石灰・カリ飽和度の影響,愛知農総試研報,12, 171-176

 

 

(トピックス)

Nutricote 宇宙に行く!

ジェイカムアグリ(株)  海外部

 国際宇宙ステーション(ISS)で,栽培システムを用いたレタスの栽培試験が長年に渡り行われ,たくさんある緩効性肥料のなかで,Nutricote18-6-8 T180が非常に良好であったとのレターが,NASAより弊社代理店宛に届きました。

 ISSに新鮮な野菜をスペースシャトルで運ぶとコストが高いため,栽培システムと肥料および野菜の種をISSに持ち込んで,宇宙空間で栽培すれば,野菜を運ぶよりも口ーコストで宇宙飛行士達が食べる新鮮な野菜を確保することが出来るというものです。
 栽培システムにはLED照明を備えており,暗い宇宙空間でも栽培が可能なもので,肥料としてNutricoteを使用するものです。
 ところで,Nutricoteとは輸出用の海外ブランド名であり国内ではロングやエコロングもしくはハイコントロールというおなじみのブランド名で販売しております(ちなみにNutricote18-6-8は海外専用銘柄です)。
 さて,宇宙で誕生したレタスはどうなったか気になるところですが,栄養価などの分析を行なっているところであり,まだ誰も食していないとのことでした。
 一般人の宇宙への旅が始まるころには,宇宙空間で食べられる日も,そう遠くはないかもしれません。
 いつかNutricoteを使用し,ISSで栽培した野菜を巷で目にするときが来る事を期待して・・・・。

 

 

寒冷地における水稲育苗管理の
勘どころと苗箱施肥のすすめ

ジェイ力ムアグリ株式会社 東北支店
技術顧問 上野 正夫

1.はじめに

 水稲の育苗は,水苗代,折衷苗代,畑苗代の時代を経て,昭和45,46年ごろ,米の生産調整が始まった頃とほぼ同時に,現在の箱育苗技術が一気に定着しました。その当時,育苗管理技術は,試験研究機関と農家が同時進行で先を争う形で切瑳琢磨したこともあり,最も活気に満ちた時代であったと記憶しております。あれから40年以上が経過してしまいました。
 今回は「苗半作」と言われている中で,改めて育苗管理技術の「勘どころ」について考え直すとともに,安心して取組める「苗箱まかせ」による苗箱施肥について述べることにします。ここでは,東北地方など寒冷地における水稲栽培を中心に,「口うるさい大黒柱の父ちゃん」「お父さんに従順な母ちゃん」
「米づくりのインストラクターであるドクター米太郎」の3人の登場人物による対話形式で話を進めていくことにします。

2.種籾の準備

 母:父ちゃん,今年の種籾の準備終わったんだが?

 父:大丈夫だ。それより母ちゃんや,種籾を塩水選(比重1.13)し,浸漬(積算水温120℃),消毒(苗立枯病防除)しておいてくれ。それから播種前までにハトムネ催芽機(32℃,20時間)にかけて「鳩胸状態」にしておいてくれや。
 播種前までちゃんと水切りしておいてな。

<種子予措>

ドクター米太郎のミニ講座(1) 
 県は独自に奨励品種を選定し,種籾は農業研究機関で厳正に管理しとるんじゃ。そして,種子生産を産米改良協会等が種子生産組合に委託してるんじゃよ。採種圃は立毛調査を行い,「馬鹿苗」や「雑穂」の抜き取り等の管理を徹底し,優良種子を提供しておるんじゃ。
 播種までに行う塩水選,浸漬,種子消毒,催芽の各作業を種子予措というんじゃが,いくつか留意事項があるんじゃ。
 浸漬は発芽に十分な水分を吸収させ,発芽を斉一にさせるために重要なんじゃ。また浸漬はたっぷりゆとりをもたせた網袋に入れ15℃未満の水温で行うんじゃ。2~3日毎に網袋をゆすって水の吸収ムラが出ないようにな。種子消毒は防除基準をちゃんと遵守せんとな。

3.床土の準備

<水稲培土の性質>

ドクター米太郎のミニ講座(2)
 育苗床土は,団粒が崩れにくく保水性と排水性に優れた培土がよいんじゃ。特に,保水性が重要で,箱当たり1000g(=1000cc)以上が一つの目安となるんじゃよ。なお,培土の最大容水量は80g/乾土100g 以上が望ましいんじゃよ。
 箱育苗が普及した当時の床土は,山土や水田土壌等自家生産がほとんどじゃった。そのため,pHの高い床土や篩う段階で粉状になったりして水の縦方向の浸透が悪く出芽が揃わなかったり,ムレ苗等の発生で障害が多かったんじゃ。
 その後,粒状培土が開発され,pHの調整や保水性に注意が払われるようになり問題の発生が少なくなったようじゃ。育苗用肥料も箱当たりN成分で1~2g程度入っているものが一般的なんじゃよ。

4.播種,出芽,緑化

 父:母ちゃん,今日,播種するぞ。播種機も調整したし,気合入れてがんばっぺ。乾籾100gは催芽籾125gに相当するんじゃ。わが家では,催芽籾160g/箱とするか。

 母:去年は,薄播き過ぎて欠株が多く,補植がたいへんだったんだよ。父ちゃん,今年はもっと厚播きしてよ。

<温度管理その1>

ドクター米太郎のミニ講座(3)
 近年,薄播きが大分増えてきておるが,稚苗では,催芽籾で120~180g位かなあ。育苗日数は20~25日程度,葉令は2.5葉程度,10a当たり箱数は20~23枚程度が一般的なんじゃよ。
 稚苗と中苗の温度管理の目安は下記のとおりだよ。

<温度管理その2>

ドクター米太郎のミニ講座(4)
 育苗様式は,東北地方のような寒冷地では,加温出芽後にハウスを利用する方式やハウス内で無加温出芽方式が多いんじゃよ。寒冷地の一部や西南暖地では,折衷方式で露地育苗もあるんじゃ。
 出芽器を利用する時間は,30~32℃で2昼夜といったところかな。
 その時間の目安は,出芽長を1cm程度に揃えることが大切なんじゃ。それに続く緑化は,不完全葉を正常に抽出させ葉緑素を形成させるために行うんじゃが,日中は遮光材,夜間は保温資材を重ねて覆ってやるんじゃが,出芽が揃っていれば1~2日で完了じゃよ。
 徒長苗や老化苗は活着力が劣るので水管理や温度管理をうまくやって回避することが肝心じゃ。温度管理は苗の生育が進むに従い徐々に低温に慣らすことを念頭に,育苗ハウスのすそ開けによる換気できめ細かく行うんじゃ。特に,移植一週間前頃からは夜間も積極的に外気にあてて「硬化」を促すことが重要なんじゃよ。

 父:母ちゃん,出芽器からハウスに出したならたっぷり水かけて種籾が露出していたら覆土してな。そして,遮光シートかぶせてな。出芽後,直射日光に当てては駄目だからな。

 母:父ちゃん,わかってるって。今後もずっと水はたっぷりかけておくから心配しないで。

<水管理>

ドクター米太郎のミニ講座(5)
 ちょっと待った。
 出芽揃いから緑化中期の水管理はかけ過ぎは禁物じゃ。水をかけ過ぎると根の伸長が抑制されるんじゃ。必要最小限の水を与えることが重要なんじゃよ。同時に,地温をできるだけ上げることも重要なんじゃよ。潅水は曇りや雨天の日を除き,育苗箱全体にちゃんと行き渡るように午前中に潅水を行うことが基本じゃな。
 じゃが,緑化中期から硬化期が5月のゴールデンウィークにかかる場合には気温も高く乾きやすくなり箱周囲の葉が巻いてくることがあるので,多数回の潅水が必要になってくることは当然じゃ。

◎キーワード:自活根

 出芽揃いから緑化初期にかけては,水稲苗の生長は種籾の胚乳養分に依存しておるんじゃ。そのため,極端な低温とか過度の乾燥とかよっぽどの問題がないかぎり失敗はないんじゃよ。
 問題は胚乳養分がなくなり,自ら根を出して床土養分を吸い始める時期なんじゃ。それが《自活根》じゃ。自活根が順調に伸びれば,育苗は80%成功したといっても過言ではないんじゃよ。
 苗の生育には自活根が大切なんじゃよ。

 母:父ちゃん,出芽も揃い,苗揃いもいいしうまくいったね。

 父:母ちゃんや,見た目が良くても,この時期に苗を引き抜いてスポスポ抜けてくるようなら大問題なんじゃよ。ドクター米太郎が言っている自活根に注目じゃ。自活根が伸びないとその後は弱り目にたたり目で,自活根の伸びが悪い箇所は養分吸収が悪くなり育苗後半にマダラ現象を呈するんだよ。ひどい場合には枯死することもあるんじゃよ。だから,母ちゃんに言ったように,この時期の潅水は必要最小限にし,地温をできるだけ上昇させる必要があるんじゃ。

 父:この時期,温度管理にも十分な注意が必要じゃ。
 隣のAさんは,露地無加温出芽で折衷平置きベ夕張り方式なんじゃが,有孔ポリをベ夕張りし,ビニールと保温マットの2重被覆をして外気の寒さから守っているんじゃ。出芽に若干時間がかかるんじゃが,出芽が見られたら即座にベ夕張りのポリを除去することが大事なんじゃよ。
 その後は,ビニールのすそ開け等で適正な温度管理に注意だな。

5.健苗の条件

 健苗とは,①外観上は伸びすぎず葉数が揃って進み下葉まで葉色が濃く太く,②病気に侵されず,③環境の変化に対しでも抵抗力が強く,④活着が良い苗といえる。

<健苗の条件>

ドクター米太郎のミニ講座(6)
 健苗としての条件は,まず「マット形成」じゃよ。田植機で植えられなければ健苗とは言えないんじゃよ。また,高過ぎず低過ぎず適度な苗丈も必要じゃ。最近は圃場区画も大きくなったため,苗丈12~16cm位,苗のN濃度は3.5~4.5%程度,それにロールマットの完成が求められているんじゃ。

<徒長の問題>

 苗の徒長はやはり問題じゃの。苗が伸びすぎると根の活力も低下するんじゃよ。
 苗丈と根量の関係は, 一般的に苗の葉令が進めばそれと伴に根量も増えるんじゃ。すなわち,地上部の生育量と地下部根量は正の関係にあるんじゃ。ところがじゃ,箱育苗のように極端に密植した場合,育苗後半にある程度の葉面積指数に達すれば,地上部と地下部のバランスが崩れ,地下部としての根量も少なくなるようなんじゃよ。
 苗丈の伸びすぎは老化苗にも直結するし,徒長は何かと問題が多いんじゃよ。

<ズングリ苗を作ろう>

 それからもう一つ。
 苗はなるべく育苗後半にかけて伸ばすことで「ズングリ苗」ができるんじゃが,生育後半より生育前半のほうが苗は伸びやすい性質があるんじゃよ。つまり,出芽長は簡単に伸びるし,第一葉鞘高や第二葉鞘高を伸ばしすぎればすぐにヒョロ苗になるんじゃよ。そのため,出芽長の一応の目安は1cm以内,第一葉鞘高や第二葉鞘高も極力押さえるよう,水管理や温度管理に十分注意して移植に最適なズングリ苗に仕上げることが理想なんじゃよ。

6.苗箱施肥技術における箱底施肥の利点

 「苗箱まかせ」による育苗箱全量基肥栽培とは,育苗箱播種時に,予め苗箱まかせをいれて育苗し,その苗を直接本田に移植することで,施肥が完了する超省力的施肥法といえます。現在,施肥播種機の開発がめざましく,一連の施肥播種システムが可能になりました。
 苗箱まかせの施肥方式は,右図に示したように,「層状施肥」と「箱底施肥」が一般化し普及が進んでいます。

 父:母ちゃんや。今年も「苗箱まかせ」の育苗箱全量基肥施肥栽培をやるけど,新しく箱底施肥に挑戦すっからな。

 母:父ちゃん,隣町のBさんは「苗箱まかせの層状施肥」で成功してると聞いたよ。
  なんで施肥位置を箱底施肥にするんだ。

<苗箱施肥のやり方,施肥位置の選び方>

ドクター米太郎のミニ講座(7)
 層状施肥は秋田県八郎潟で播種機に肥料ホッパーを取りつけて施肥したのが始まりなんじゃよ。例えば,1箱当たり,粒状培土2000g(速効性肥料0.5g入り)+苗箱まかせN400を現物で800g(N成分で320g)+種籾(催芽籾150g)+覆土(1000g) を層状に施用して育苗し,それを23箱使えば,10a当たり7.4kgのN量が本田に施肥されることになるんじゃよ。
 当然,本田での施肥は一切無用じゃ。
 層状施肥は,1箱当たり,苗箱まかせN400を現物で、800g程度ならば育苗にまったく問題ないんじゃ。ところが,飼料稲など多肥を好む品種や疎植栽培に対応するため薄播きをしようとすれば,1箱当たりの苗箱まかせを1000g以上施肥する必要があるんじゃよ。したがって,現在は,苗箱まかせの施用量が1箱当たり800g程度までは層状施肥,それ以上の場合は,箱底施肥で対応しとるんじゃよ。

◎キーワード:箱底施肥

 わしは,層状施肥でうまくやっている農家はそのまま続けてほしいんじゃが,新らしく苗箱施肥をやりたいと思っている農家には是非,箱底施肥を奨励したいんじゃ。
 わしが箱底施肥を奨励する理由は,前に話したように,育苗成功のカギを握っているのは、苗の出芽揃いから緑化初期にかけて伸長する「自活根」と言ったことを覚えているよね。この自活根が伸びる時期の種籾の周辺環境を少し考えてみるとわかるんじゃよ。
 層状施肥では,種籾の下は床土ではなく肥料である苗箱まかせがあり,箱底施肥では,種籾の下は直接床土ということなんじゃよ。つまり,自活根が伸長する時期に種籾の周辺が土であることが箱底施肥を勧める理由なんじゃよ。特に,この時期,わしの地域じゃ, 低温に見舞われることがよくあるんで,箱底施肥の方が安全なんじゃよ。
 実際,わしも層状施肥と箱底施肥の試験をしてみたんじゃよ。そしたら,層状施肥では,箱当たり苗箱まかせが800g程度までは何ら支障はなかったんじゃが, 1000gを超えると播種層の水分保持力に若干問題があったんじゃよ。だども,箱底施肥では箱当たり苗箱まかせ1500gに増量しでも全く心配なく健苗を生産ができたんじゃよ。
 わしは,箱底施肥を勧めたいんじゃよ!

<苗箱施肥の機械化システム>

ドクター米太郎のミニ講座(8)
 あとは,箱底施肥と播種機との播種システムの問題ということになるんじゃ。
 施肥播種機を層状施肥で利用している場合は,施肥ホッパーの位置を変えることで対応できるんじゃ。
 あとは,2度手間にはなるが,播種前の1週間以内に,普通の播種機で育苗箱の底に苗箱まかせ,その上に床土を入れて予め準備しておくんじゃ。でも,1週間以上前に準備すると苗箱まかせからチッソが溶出することがあるので,絶対しないことが肝心じゃ。
 それから播種作業に入るんじゃよ。最近は,1時間に1000枚以上も施肥できる高速施肥播種機の開発も進んでいるので,育苗センターなどで大規模に苗箱まかせを利用する場合は是非検討してもらいたいんじゃ。
 要はじゃ,農家にある従来の播種機と新たな肥料ホッパーをどのように組み合わせて播種できるかは作業する環境によって違うので,弊社営業マンとよく相談して箱底施肥を導入してほしいんじゃよ。