元 富山県農業技術センター
松 本 美 枝 子
近年,畜産廃棄物処理の観点から,有機物の利用が推奨されている。しかし,有機物の肥料成分を十分に評価しないで作付け毎に施用した場合,土壌の理化学性に問題が起きる場合がある。
そこで,ここでは有機物を連用した県内施設軟弱野菜圃場の土壌理化学性の実態を調査し,問題点を明らかにしようとした。
有機物連用試験は,平成5〜7年にかけて発酵鶏糞500kg/10a(産地A) ,牛糞堆肥2t/10a(産地B)を年間3回施用し,ホウレンソウを栽培したもので,冬期間はハウスの天幕を除去し,所謂除塩を行った。この土壌物理性については平成8年4月(作土12cm)に,化学性は平成8年12月に(作土20cm)作土について調査した。また現地の実態は,平成10年7〜8月に県内軟弱野菜栽培施設60カ所について土壌及び作物体を採取し,土壌理化学性と作物体の各種養分濃度の関係を調査した。
牛糞堆肥の連用により固相率,仮比重の低下,液相率の増加等土壌物理性の改善効果が認められたが,発酵鶏糞の連用による土壌物理性の改善は認められなかった(表1−1) 。
土壌化学性については,牛糞堆肥の連用により全炭素,全窒素含量が増加し,CECが増加し,有効態リン酸や交換性塩基が多くなり,特に交換性カリの集積が顕著であった。一方,発酵鶏糞の連用区では,有効態リン酸及び交換性石灰の集積が顕著であった(表1−2) 。
以上,牛糞堆肥の連用によりホウレンソウの無肥料栽培は可能であり,土壌物理性も改善されたが,施用量が多すぎた場合,各種肥料成分が蓄積し,中でも交換性カリの蓄積が顕著になった。一方,発酵鶏糞の連用により,土壌物理性の改善効果は少なかったが,土壌中の塩類濃度が上昇し,塩基バランスが乱れることが明らかとなった。
本県の施設ホウレンソウ産地において,ほとんどの生産者が有機物を施用し,内80%の生産者が牛糞堆肥を平均5t/10a/年程度施用していた。また,土壌改良資材として石灰及び熔リンを,さらに作付け毎に三要素を含む化成もしくは有機質肥料を施用していた。そのため,腐植含量が高く土壌の物理性は改善されていたが,有効態リン酸及び交換性塩基が蓄積しており,その値は,農水省農産園芸局農産課が基準としている値よりも著しく高かった(表1−3) 。
こうした蓄積は,土壌への肥料持ち出し量(栽培作物の養分吸収量)に比べ,持ち込み量(施用有機物,土壌改良資材及び化成肥料)が著しく多いためと考えられた。なお,冬期間のハウスビニル除去による自然降雨(600mm)によって,土壌中の窒素以外の肥料成分はほとんど流亡しないことが明らかとなった(図1−1)
土壌中の交換性塩基が多すぎることによる害は,現在のところ認められない。土壌中の交換性カリが70mg/100g程度までは,ホウレンソウのカリウム濃度が上昇するが,それ以上では上昇は認められなかった。交換性苦土は60mg/100g以上で,交換性石灰は500mg/100g,有効態リン酸について50mg/100g以上で同様の傾向が認められた。交換性苦土は100mg/100g以上ではマグネシウム吸収濃度が低下し,高濃度による害が生じている可能性が高かった。
また,カリウム吸収濃度の上昇に伴いカルシウム+マグネシウム吸収濃度が低下することから,作物
が吸収するからと行って経済効果があるとは言えない。従って,交換性カリの適正濃度は,70mg/100gよりもさらに低いと言える(図1−2,図1−3)。
なお,窒素も含め,全ての肥料成分が基準値を上回る産地において,有機物,土壌改良資材及び化成肥料のいずれも施用せずに栽培した場合のホウレンソウに異常は認められず,土壌成分含量の低下も緩慢である(図1−4) 。
得られた結果をもとに,持続的安定生産を図るため,今年度から土壌診断を実施している。長年牛糞堆肥を施用したため肥料成分が蓄積した土壌において窒素以外は無施用で8作栽培した結果,改善区では,作物体の収量及び養分吸収量バランスが改善され,土壌中の肥料成分含量が若干減少した(表1−4,1−5) 。
なお,肥料が過剰蓄積した圃場では,その肥料を施用する必要はないが,流亡しやすいチッソを効
率よく,しかも簡易な方法で施用する必要がある。
有機物が多量に施用された施設内では,600mm程度の降雨によっても肥料成分は流亡しないので,肥料を施用する必要がない。
しかし,窒素は吸収量が多いことや降雨によって流亡しやすいことから一作毎に肥料を必要とすることが多いが,過剰に施用して濃度障害や環境負荷を起こしていることがある。そこで,ホウレンソウの窒素吸収パターンに近い溶出を示す窒素源を選択し,施用量の削減を図ることを目的とした。
無窒素及び慣行施肥体系でホウレンソウを栽培し,時期別窒素吸収量(ケルダール窒素+硝酸態窒素)を測定した。また,各種窒素資材を圃場に埋め込み,時期別溶出量の推移から,ホウレンソウに適した肥料を選定した。専用肥料を全層及び局所施用し,施肥窒素利用率を無窒素との差し引き法により算出した。
ホウレンソウの窒素吸収量は,播種後2週間程度は少なく,施肥による影響もほとんど認められなかったが,その後急激に増加する(図2−1) 。したがって,ホウレンソウの肥料としては,窒素溶出量は前半よりもむしろ後半で多く,生育期間(ほぼ30日)中に窒素溶出がほぼ完了する肥効が適当と言える。供試した各種窒素資材のうち,本条件に最も近い溶出を示したのは30日タイプの被覆尿素(LP30)であった(図2−2) 。
このLP30を封入したテープの直上では,硝酸イオン濃度450〜900ppmと極めて高い値を示し根の伸長は抑制される(図2−3) 。しかし,テープから2cm離れた場所では,濃度は1/3程度に低下し,5cm離れるとさらに濃度が低下した(図2−4) 。
溶出した尿素はほとんど拡散せずに,しかも速やかに硝酸態窒素に変化することから,LP30と種子を2cm程度離せば濃度障害は回避されると考えられた。LP30と種子を2cm以上離す具体的方法として,種子と肥料の2本のテープを2cm離して埋設する方法と,種子とLP30を1本のテープに封入する方法があるが,いずれの場合も発芽障害軽減効果が認められた。しかし,種子封入間隔を5cmとした場合,種子間に封入できるLP30は3粒が上限であった(表2−1) 。
慣行栽培において,LP30を用いた全量施肥での窒素施用適量は12kg/10aであったのに対し,テープ封入肥料を用いた局所施肥では,春及び秋作で4.5kg/10aに,夏作で2.7kg/10aに削減でき,利用率も著しく向上し,生育も良好であった(図2−5) 。
以上,窒素以外の肥料成分が土壌中に蓄積している場合は,窒素源としてLP30を併用するのが合理的であり,その場合の窒素の利用率が高いことから,土壌の高EC対策として,さらに地下水汚染対策としても有効である。
ホウレンソウの生育期間はほぼ35日程度で,被覆尿素肥料としてはLP30が適しており,株間は5cmに1粒を封入するのがよい。この場合の施肥量は,表2−1に示した通り,種子と肥料を同じテープに封入するのがよく,施用量が多い場合は個々のテープに封入することになる。
農研機構 東北農業研究センター
上級研究員 久 保 堅 司
オタネニンジンは,ウコギ科の多年性作物である(図1) 。本作物の根は,生薬として健康増進の効果があり,多くの漢方製剤(一般用漢方製剤294種類のうち,73処方)に配合される(柴田ら2018) 。また,果実,根,根茎,葉は,「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)」に区分されるため,健康食品,ドリンク剤,天麩羅や茶などの食材や人参酒(焼酎漬け)などのほか,化粧品材料にも使用される(柴田 2021) 。国内で使用されるオタネニンジンの大部分は中国から輸入されており(令和2年の総輸入量は719トン) ,国産の自給率はわずか0.4%(3トン)程度である(日本特産農産物協会 2022) 。健康や漢方医学への関心の高まりから,近年の輸入量は増加しており(日本特産農産物協会 2022) ,価格は高騰傾向である(日本漢方生薬製剤協会 2015) 。
国内では長野県,島根県,福島県が伝統的産地として知られているが,①原料生薬としての根を収穫するまでに4〜6年という長い年月がかかること,②長年の経験を頼りに篤農家により栽培されている場面が多いこと,などが新規参入のハードルとなり,並行して篤農家の高齢化も進んでいることから,昭和55年以降の栽培農家数と面積は3,290戸(昭和55年) ,636ha(昭和61年)をピークに減少が続き,令和2年には121戸,15haとなっている(日本特産農産物協会 2022) 。
このような背景から,オタネニンジンの国内生産の安定化と拡大は重要な課題の一つであると考えられる。図2には,慣行のオタネニンジンの栽培歴を示した。本稿では,図内に点線枠で示した箇所の栽培管理について,著者らのグループによる研究・技術開発で得られた知見を,以下に紹介する。
オタネニンジンの種子には形態的休眠と生理的休眠という2段階の休眠があり,この二つの休眠を打破しないと発芽しない。形態的休眠の打破のためには夏季の一定期間の高温遭遇が必要であり,生理的休眠の打破には冬季の一定期間の低温遭遇が必要である。そのため,生育環境の影響を受けやすく,採種から発芽までに8カ月近くを要する。これらのことから,種子の休眠打破と育苗は,栽培期間を通じて最も難易度の高い工程のひとつとされている。そこで,ここでは種子の発芽を早め,苗の生育を早めるための生育条件を検討した。
その結果,吸水させた種子を100ppmのジベレリンに24時間浸漬し,15℃で10週間処理することにより,芽切り(種子の胚が膨らみ,種皮が割れること)を促せることが明らかになった(図3) 。その後,5℃・12週間の処理により,効率的に発芽させられることが示された。発芽後は,光強度を320μmolm−2
s−1,二酸化炭素濃度を1500ppmまで高めることにより,苗の生長を早められることが明らかになった
(Kuronuma et al. 2020) 。
これらの結果から,環境制御施設等を用いて種子の休眠打破と育苗を行うことにより,従来の屋外での種子の休眠打破と露地圃場での育苗と比較して,発芽率を向上・安定させ,生育期間を短縮できることが示唆された。
点を調査したところ,高い土壌硬度がオタネニンジンの生育を阻害する要因のひとつであることが示唆された(久保ら 2017) 。その後,調査の対象地域を拡大し,他の産地(長野県,島根県)においてもオタネニンジンの生育と土壌硬度を調査したところ,オタネニンジンの主根長や根重は長野県産が大きく,次いで島根県産,福島県産の順であった(久保ら 2019) 。長野県と島根県の圃場における表層20cmの土壌硬度の平均値は,締め固めが進んだ収穫時においても,それぞれ130kPa,200kPa程度であり,福島県の圃場の栽培開始後1年目の硬度(約900kPa)よりも低かった(図4) 。
福島県の圃場は灰色低地土であるのに対し,長野県と島根県の圃場は黒ボク土であったことから,土壌タイプが土壌硬度と密接に関係することが示唆された。土壌の物理性に劣る福島県の圃場に土壌改良資材であるポリビニルアルコール(PVA,デンカポバール B−20)を施用し(100kg/10a) ,耕耘・畝立てしたところ,土壌深度0〜20cm付近の硬さが軽減され,根の伸長の改善が認められた(久保ら 2019) 。PVAの施用による土壌硬度の軽減は,オタネニンジンの生育期間中を通じて認められた。
これらのことから,オタネニンジンの栽培には,黒ボク土等の土壌が硬くなりにくい圃場が適すると考えられた。一方で,水田転換畑等での作付けを検討する場合は,有機物やPVA等の土壌改良資材による物理性の改善を図った上で実施することが重要と考えられた。
収穫されたオタネニンジンの根は,形状や褐変等の変色により,商品としての価値が低下する場面がある。オタネニンジンの生産では化学肥料の利用が敬遠され,1年以上にわたる有機物や緑肥を利用した土作りが推奨されてきたが,そのような土作りとオタネニンジンの生産性・品質との関係を調査した事例は認められない。ここでは,オタネニンジン生産における窒素の挙動に着目し,生産性・品質との関連性を解析・考察した。
根部に含まれる糖,有機酸,アミノ酸,アミンなどの水溶性代謝産物を解析し,地域別に生育量との相関解析を行ったところ,複数の地域の圃場において,アミノ酸類(グルタミン酸,グルタミン等)が高濃度の個体で低い根重となった。土壌中の余剰な窒素成分(化成肥料での供給で発生しやすい)はアミノ酸などに変わる。根重の少ない個体では,窒素を効率的に利用できていない可能性が示唆された。また,アミノ酸の蓄積は,根の表面の褐変の要因となっている可能性が考えられた(図5) 。
これらのことから,オタネニンジンでは生育に見合った緩慢な速度で窒素を供給することにより,根の生育と品質の向上が期待できると考えられた。
本稿の「1.種子の発芽と生育の加速化」で紹介したオタネニンジンの苗は,慣行栽培では一端育苗圃から掘り上げられ,間隔を拡げて本圃に移植される。この工程は手作業で行われるため,時間と労力を要する。ここでは,移植作業を省力化することを目指し,チェーンポットと専用移植機(チェーンポット移植)を用いることを検討した。
チェーンポット移植と慣行の移植作業との労働時間を比較したところ,播種にかかる時間は慣行(12時間/10a×人数)と比較してチェーンポット移植(28時間/10a×人数)の方が必要となるが,移植にかかる時間は慣行が86時間/10a×人数だったのに対して,チェーンポット移植が23時間/10a×人数と短縮された(図6) 。播種と移植にかかる時間を合計した場合,チェーンポット移植は,播種と移植の作業時間を慣行栽培の半分程度に抑えることが可能であると推察された。
オタネニンジンは生育が緩慢なため,播種から収穫まで4〜6年の栽培年数が必要とされている(柴田ら 2018) 。ここでは,根の肥大と薬用有用成分の蓄積が経年的にどのように推移しているかを明らかにすることにより,最適な収穫時期を明らかにしようとした。播種後3年目の根(3年根) ,4年根および5年根を一年おきに福島県会津地域の同一圃場から採取し,生根重を比較したところ,4年根は3年根
の約3倍に肥大しており,4年根と5年根の間には大きな差異は認められなかった(図7) 。
薬用有用成分(ギンセノシド)含量は,3〜5年根の間に明確な違いは認められず,いずれも日本薬局方に規定される含量規格を満たしていた(データ省略) 。これらのことから,福島県会津地域におけるオタネニンジンの最適な収穫時期は播種後4年目であることが示唆された。
「4.根の生育・品質の向上(土壌の化学性の影響)」の通り,収穫されたオタネニンジンの根は形状や褐変等の変色により,商品としての価値が低下する場面がある。ここでは,商品としての価値を低く評価されていた根を医薬品等に利用するという観点で,形状不良根(主根部の生長不良,表面の褐変等)のギンセノシド含量を調査することにより,形状の善し悪しが本成分に及ぼす影響を調査した。
健全とされる根と形状不良根のギンセノシド含量を比較したところ,明確な差は認められず,いずれも医薬品の成分規格に適合していた(図8) 。このことから,従来低評価とされていた形状不良根も生薬原料として活用できることが示された。また,従来商品としては低評価だった根を医薬品として活用することにより,その価値を向上させられる可能性が示唆された。
本稿で紹介した内容は,農研機構のホームページで「省力化・生産安定化に向けた薬用作物オタネニンジンの栽培手引き」として公開されている(農研機構ら 2021a) 。これらの研究開発は主に福島県,長野県および島根県における試験・調査で得られており,地域や気候条件等により変動する可能性があることに留意していただきたい。また,上記の手引きは栽培工程における個別の管理技術について,改良・省力化の手法を示したものである。オタネニンジンの栽培に関する総合的な情報は,「薬用作物栽培の手引き〜薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発〜」として取りまとめられている(農研機構ら 2021b) 。
一方で,オタネニンジンの国内生産の拡大および安定供給に向けては,伝統的な栽培技術を継承しつつ,本作物の生理・生態の理解をさらに深め,生産を効率化させる必要がある。近年,オタネニ
ンジンが罹病する糸状菌やウイルスについて,同定と対策に関する研究が進展している(UeharaIchiki et al. 2019;佐藤・廣岡 2020) 。また,優良株の維持のための組織培養技術の開発も進められている(関根・鈴木 2020) 。
別の視点では,本作物の知名度の向上や魅力のPRに関する活動も,消費の拡大に向けて重要な取り組みとなる。近年,生薬原料としての用途に加え,料理や加工品などの健康食材,地域おこしの素材や観光資源としての利用など,様々な可能性が認識されつつある(福島県 2021) 。今後,本作物の安定生産,生産者の収益性の向上に向けて,継続的な研究と生産振興の取り組みが必要とされている。
現地生産圃場の調査に快くご協力をいただきました菊地要一氏(福島県会津若松市) ,清水琢氏(清水薬草有限会社,福島県喜多方市) ,横谷俊彦氏(横谷農園,長野県東御市) ,渡部卓也氏(由志園アグリファーム株式会社,島根県松江市)に厚くお礼申し上げます。また,本稿の校閲にご協力いただきました岡崎圭毅氏(農研機構) ,渡辺均氏(千葉大学) ,秋葉秀一郎氏(福島県立医科大学) ,江川孝二氏(福島県農業総合センター)は,データ取得・解析に関して著者と同等に貢献しました。
本稿で紹介した研究・技術開発は,農林水産省委託プロジェクト研究「薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発(代表:川嶋浩樹)」(2016〜2020)の一部として,オタネニンジンチーム(農研機構,千葉大学,福島県立医科大学,福島県農業総合センター)により実施されました。
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ジェイカムアグリ株式会社 北海道支店
技 術 顧 問 松 中 照 夫
連載第11回(5月号)から第13回(7月号)までは堆肥について,第14回(8・9月合併号)と第15回(10月号)では化学肥料について,話題提供してきた。堆肥や化学肥料がどのような状況で世の中に登場してきたのか,また,作物生産に対してどのような効果があるのかを述べている。今月はこれまでを総括し,堆肥や化学肥料の効果を改めて比較し,共通点とちがいを整理する。なお,以下で単に堆肥という語は,完熟堆肥から未熟な堆肥を含めた有機物資材を意味する。
すでに第12回で詳しく述べたように,堆肥を農地に与えた場合,大きく分けて3つの効果がある。
すなわち,①養分としての効果,②比較的分解されにくい安定した有機物としての効果,③生物の供給源としての効果である。ただし,これらの効果は,あくまでもこうした効果が期待されるということであって,堆肥を土に与えれば必ず自動的に発現するということではない。また,③生物の供給源としての効果は,新規に造成された農地のような栽培履歴がないところで発現する効果であり,栽培歴のある農地ではその効果に大きな期待はできない。
さらに①と②の効果についても,土の条件(有機物含量の多少)によって,その効果が期待できる場合と期待できない場合がある。しかも堆肥といっても多種多様である。その多様な堆肥に期待できる効果は,その堆肥に含まれる炭素(C)と窒素(N)の比率であるC/N比によって異なる。
そこで,栽培歴のある農地を対象に,どのような堆肥をどのような土に利用すれば,その効果が期待できるかを図1にまとめた。
一方,化学肥料の効果は,堆肥のように多様ではない。つまり,堆肥の持つ効果のうち,①の養分としての効果しか化学肥料には期待できない。土の物理的性質,例えば土のすき間の大きさやその割合(孔隙分布) ,排水のしやすさ(排水性) ,水持ちのよさ(保水性) ,空気の通りやすさ(通気性) ,耕しやすさ(易耕性)というようなことへの改良効果や,その他,第12回(6月号)で指摘した安定した有機物としての様々な効果は,堆肥だけにしか期待できない。
養分としての効果でも,堆肥と化学肥料ではその効果の発現のしかたがちがう。化学肥料の養分の形態は,原則として作物が吸収しやすい無機態である。しかも,土に与えられると土の水分に溶け込んで作物に吸収されるように製造されている。それゆえ,化学肥料の養分効果は速効性の特徴を持つ。作物が育っている途中で,養分不足の症状が現れた場合,化学肥料の追肥で生育の遅れを回復させることができる。これは,化学肥料が速効性だからできることである。
一方,堆肥に含まれる養分には,作物がすぐ吸収できる無機態の形態はわずかで,大部分は有機態として含まれている。この有機態の養分は土の微生物などによって分解された後に,作物が吸収できるようになる。したがって,堆肥は養分として効果が発現するのに時間がかかる緩効性である。それゆえ,追肥として使うには適していない。
堆肥に含まれている養分のうち,土に与えられた当年に養分としての肥料的効果が期待できるのは,速効的な無機態の部分と比較的容易に分解される(易分解性)有機態の部分の合計量である。それ以外のさらに時間をかけて分解される有機態の部分(難分解性)は土に残り,安定した有機物として次年度以降に繰り越されていく。
C/N比が20未満と小さい堆肥は,分解されやすい。そのため養分効果が強く表れる。逆にC/N比
が30以上と大きな堆肥は,分解されにくく安定した有機物として土に残る。それが土の物理性改良の効果をもたらす。
化学肥料と堆肥の養分について,もう一つ重要なちがいがある。それは一定の重さに対して含まれている養分量のちがいである。化学肥料は堆肥より養分含量が桁ちがいに多い。そのため,化学肥料のほうが労働時間当たりに与えられる養分量が多く,単位養分量当たりの運搬コストが安い。例えば,平均的な堆肥(牛ふん麦稈堆肥)とトウモロコシ用の化学肥料銘柄「S380」号を比較すると,それぞれ同じ1kgを土に与えたとしても,化学肥料は窒素(N)で堆肥の130倍,リンなら(P2O5として)60倍,カリウムでは(K2Oとして)25倍も多く与えられる(表1) 。
堆肥は養分含有率が低いため,作物の増産に必要な多量の養分を与えるには,施与量を多量にする必要がある。しかし,その量は多くなりすぎて労力がかかる。ところが化学肥料はその労力の軽減を可能にした。化学肥料は少量であっても多量の養分を与えられるからである。このため,化学肥料の使用で土地面積当たりの作物収穫量を大きく増加させることに成功した。しかも,それは労働時間当たりの生産量も増やすことを意味している。こうして食料の増産が可能となり,多くの人口を支えることが可能となった。
以上で述べてきた堆肥と化学肥料の共通点とちがいは,表2のようにまとめることができる。